卒業式 校長式辞 - 島根県立松江東高校

平成27年度
島根県立松江東高等学校
第31回卒業証書授与式
式辞
冬来たりなば春遠からじ。厳しい冬を越え、そこかしこに早春の気配が漂う今日の佳
き日、島根県立松江東高等学校第31回卒業証書授与式を盛大に挙行できますことに、
心より感謝申し上げます。
松江東高校第31期卒業生となる214名の皆さん、ご卒業おめでとう。
教職員を代表し、皆さんに心よりお祝いを申し上げます。
ご家族の皆さまにも、この晴れの日を共にと、多数ご出席いただきましたこと、本当
に嬉しく思っています。お子様のご卒業、誠におめでとうございます。そして3年間、
本校での教育にお力添えをいただきましたこと、本当にありがとうございました。
また、PTA会長山田晋様をはじめ、多数のご来賓の皆さまにご臨席賜り、卒業生の
前途を祝福していただけることに、厚くお礼を申し上げます。
さて、卒業生の皆さん、皆さんは1年生の秋、本校創立30周年の記念式典に立ち会
いました。本校が30年かけて築いてきた歴史の上に、新たな一歩を踏み出す学年でし
た。大塚学年主任の下、31期にちなみ「みんなで一歩」を合い言葉に、この3年間、
着実に歩みを進めてくれました。
3年次には、県総体、東雲祭、そして受験という、東高3年生として越えるべき三つ
のハードルを、懸命に跳び越えようとし続け、今こうして逞しく成長した姿を見せてく
れることを、とても嬉しく頼もしく思っています。
君たちは、記念式典講師の池上彰さんの講演の演題を覚えていますか。池上さん自身
が、NHK就職後もずっと勉強し続けてきたこと、88歳のお父さんが寝たきりになっ
ても向学心を持ち続けたこと、そしてパキスタンで、タリバン勢力に迫害され自由に学
べない女性や子供の現実と戦い続けるマララ・ユスフザイさんの話を通じて、池上さん
が伝えたかったこと。演題は、「学び続けること」でした。「知識基盤社会」と言われ、
日進月歩の技術革新による高度情報化やグローバル化が進展する現在、君たちにとって
「学び続けること」こそ、本当の意味での学力と言えます。東高は、学びの園たる普通
科高校として、君たちに学び方や学ぶ力を身につけてもらおうとしてきました。東高で
の学びをもとに、これからも「学び続けていく人」であって欲しいと思います。
ところで、何のために学ぶのか。そのことを改めて教えられたのが、昨年「ノーベル
生理学・医学賞」を受賞された、北里大学特別栄誉教授の大村 智先生です。大村先生
は、祖母から「人のためになることをしなさい」と言われて育ち、北里柴三郎先生の「科
学者というのは人のためにならなきゃ駄目だ。人のためにやるということが非常に大事
なことなんだ」という言葉を胸にひたむきに研究を続け、年間3億人という人の命を救
う薬の開発に貢献されました。
大村先生の姿は、君たちに何度か話してきた、本校がキャリア教育の柱として伸ばそ
うとしている「三つの力」とも関係します。君たちを送るにあたり、改めて君たちに意
識して欲しい力として、話します。
一つは、「人とつながって生きる力」。人は、自分のためだけでは、頑張れません。そ
れが誰かと何かとつながって役立つと感じる時、頑張ることができます。自分一人の力
ではできないことも、人と協働することで可能性が広がってきます。自分が人の役に立
つことも大事ですが、人に援助を求めることも大切です。人とつながっていくことの楽
しさを大切にして欲しいと思います。
次に、「自己の未来を切り拓いていく力」。自分の可能性を自分で引き出し、自分のや
りたいことに挑戦していく力です。他人任せではなく、主体的に自分の未来を切り拓い
ていこうとうする気概と努力を大切にしなければいけません。
そして、「地域社会の未来と関わる力」。誰かと何かとつながって役に立ちたいという
思いと、自分ができることやりたいことを広げていく力。この二つが交わるところ、つ
まり、自分のできることやりたいことを、どの分野で、誰かの何かの役に立てるように
生かしていくか。それが、自分らしく地域社会の未来と関わっていくことになります。
-1-
生きていくことは、自分の身の回りの世界とどう関係性を築いていくかということと
も言えます。世の中に生起する様々な課題に、他人事として知らんふりをするのではな
く、自分ごととして応答していく姿勢、レスポンシブルな人間であることが、よりよい
市民としてのあり方なのです。今年の夏に予定される選挙から、君たちには選挙権が与
えられます。18歳選挙権の1期生となります。社会や地域の実情に関心を持ち、地域
社会の未来と関わろうとしてくれること、そのための学びを続けてくれることを願って
います。
先日公表された2015年国勢調査結果では、日本の総人口は1億2711万人。初
めて前回調査より総人口が減少し、2060年には今より4000万人減り、総人口が
8674万とも推計され、拡大を続けてきた日本社会が人口減少時代に突入しました。
人口問題はじめ、これから君たちが生きていく時代は、急激な流動化の時代です。君た
ちが一年次の総合的な学習の時間で取り組んだ「宇宙に理想の社会を創るプロジェクト」
が現実味を帯びてくるような社会です。これまでどおりが通用しない、自分たちで最適
な解を創り出していく厳しい時代と言えます。厳しいからこそ、協力し合うことが必要
です。何よりも一人一人が、自分だけでなく社会全体の理想の未来を思い描き、それに
向かって自分の関わりを考えていくことが大切になります。
君たちの進む道は決して平坦な道とは限りません。時に壁が立ちはだかることもある
でしょう。壁の前でくじけそうになったら、いつか話したアメリカの思想家エマーソン
の言葉を思い出してみて下さい。
「Every wall is a door.」
壁を越えれば、新しい世界が待っている。壁は新しい世界につながるドアなんだと思い、
松江出身の東大教授玄田有史氏の言葉を借りれば、壁の前でちゃんとウロウロする努力
を続けることが大切です。そうすれば、壁が少しずつなだらかな階段に変わったり、壁
に鍵穴が見つかり、その魔法の鍵を手に入れられるかもしれない。誰か助けてくれる人
も出てきます。スマートにはいかないが、壁の向こうに新しい世界が待っていることを
楽しみに、ウロウロと努力を続けてくれることを願っています。
君たちは、二年生の時に一緒に過ごした、ハンガリーからの留学生バル君を覚えてい
るでしょう。彼は、11歳の時に日本のことを知り、日本に行きたいと夢を抱き、日本
語の勉強もして、留学生を支援する団体にボランティアで参加し、とうとう18歳で日
本に留学する夢を実現しました。縁があって本校で1年過ごし、勉強と部活動を両立さ
せました。彼の存在は、私たちに勇気や希望を与えてくれるものでした。
そんな彼が、自分の座右の銘として教えてくれた言葉に、ウオルト・ディズニーの言
葉があります。
If you can dream it,you can do it.
(夢見ることができれば、それは実現できる)
夢を見ることが、バル君の原動力でした。彼はいつか日本に帰ってきて国際親善の仕
事をしたいと夢を語って、本校を去りました。
私は、「希望」という言葉が好きです。玄田先生は、「希望学」という本の中で、「希
望は、叶う叶わないは問題じゃない。大事なのは、持ち続けることだ。必ず叶うから人
間は生きるのじゃない。希望がないと生きていけないから、持ち続けるのだ」と述べて
います。
「夢」「希望」。君たちが人生を歩む上で推進力となるのは、夢や希望の存在だと私は
思います。そして人とつながって生きること。夢や希望を追い求めるのは人生のロマン
です。君たちの人生がロマンあふるる人生であることを願っています。
松江東高校第31期卒業生の皆さん、卒業おめでとう。
「いざや進まん輩(ともがら)よ」。校歌の文言どおり、皆さんが、元気で逞しく自己
の未来を切り拓いていかれることを願い、式辞と致します。
平成二十八年三月三日
島根県立松江東高等学校長
-2-
飯塚
勝