大阪成蹊女子高等学校 第 68 回卒業証書授与式 校長式辞 建学の精神

大阪成蹊女子高等学校 第 68 回卒業証書授与式 校長式辞
建学の精神「桃李もの言わざれども下おのずからこみちを成す」に出てくる「桃」は
モモ、「李」はスモモを意味しており、モモやスモモの木の下にはおのずと小道ができ
るという史記の一説を本校の教育目標にしています。これに由来して植えられている
校庭のスモモの木も、つぼみが膨らみ始めました。季節を告げる花々は、確実に春
の訪れを身近に伝えてくれています。
このような佳き日、大阪成蹊女子高等学校第 68 回卒業式を挙行いたしましたとこ
ろ、日頃よりご支援を賜ります後援会会長の寺家(ジケ)様、蹊友会会長の中川様、そ
してPTA会長の宮園様はじめとして PTA 役員の皆様方にご臨席を賜り、巣立ちゆく
本校生の門出を祝福していただきましたこと、心よりお礼を申し上げます。
卒業生は、ただ今卒業証書を授与しましたとおり、キャリア進学コース 182 名、幼児
教育コース 116 名、美術・イラスト・アニメーションコース 76 名、スポーツコース 22 名、
キャリア特進コース 15 名、計 411 名でございます。
本校のこれまでの卒業生の総数は 33959 名、本校の前身である成蹊女学校の時
代を合わせると、およそ 4 万名、更に本学園全体では 10 万を超える卒業生を世に送
り出したことになります。卒業された多くの諸先輩は、社会で活躍されており、本校で
学び、身に付けられた力を世界を舞台にして存分に発揮される方もおられます。卒業
にあたって、改めて本校の 8 2 年の伝統と歴史を感じるとともに、卒業される皆さんの
これからのご活躍を祈念する次第です。
ご多忙の中、ご参列いただきました保護者の皆さまは、さぞかしお喜びのことと拝
察し、心からお祝い申し上げます。
本校は、大阪府内の人気のある私立女子校として、6 年連続入学者数第一位を誇
っています。今年の入学者数は 700 名近い生徒の入学が予想されています。
それは、キャリア教育、とりわけ女子に特化したキャリア教育を特色の一つとしてお
り、大規模の学校であっても一人ひとりの生徒を大切に、将来の夢を実現できる力を
育む本校の教育方針が、本学園の建学の精神に加わって、多くの人たちに理解され、
ご支持を受けた結果であると思っています。
私たち教職員一同は常に生徒に寄り添い、生徒たちの成長を見守りながら、高校
生活が充実したものになるよう精一杯努めてきたつもりです。時には厳しい指導もあ
りましたが、生徒への愛情を忘れず、全力を挙げて生徒たちを導いてまいりました。
そして今、生徒たちが、大阪成蹊女子高校の卒業生の名に恥じないまでに成長を遂
げ、自信を持って世に送り出すことができますことは、私たち教職員の大きな喜びで
ございます。その間、本校の学校運営に対して、PTA の皆様をはじめとして、関係諸
団体の方々の温かいご理解とご支援をいただきましたことに厚くお礼申し上げる次第
です。ありがとうございました。
さて、卒業生の皆さん、ご卒業おめでとう。
皆さんは、この 3 年間の本校の学び、とりわけキャリア教育の中で成長し、主体的
に生きるための力を身につけてこられました。自己の在り様を見つめ、これからの社
会で生きる力を養ってきたのではないでしょうか。
社会を見ると、個人の価値観の変化や、価値観の多様化が指摘されています。確
かに、かつての若者には、個人に与えられた人生の選択肢は、決して多くありません
でした。男性は仕事一筋、女性は良妻賢母、それなりの年齢になれば結婚して子ども
をもうけるというような、伝統的に受け継がれてきた男女の役割を受入れることが当
然のこととされ、また多くの人がそれを実践してきました。選択肢が少ないことは、窮
屈であると同時に、迷いもないシンプルな時代だったと言えます。
しかし、現在では、個人の選択肢の幅は拡大し、多様な生き方が可能になりました。
もはや仕事も家庭も、さらには結婚も、どのようにするかは個人の意思と度量に任さ
れています。こうした状況は豊かさがもたらした価値観の変化と思います。その一方
で、「自分の人生を、自分自身で選択しなければならない。」という新たな課題を、個
人に突きつけています。先日、本校で行われた、びわこ成蹊スポーツ大学学長の嘉
田由紀子先生の話を思い出してください。先生は、仕事と家庭・子育ての両立を目指
し、人生を自らの力で切り拓いてこられました。価値観が変化する中で、自分の将来
は、自分で決めるというお手本を示されました。
ところで、現在の社会は、価値観が多様化していると言われていますが、ほんとう
にそうでしょうか。今の日本では、諸外国に見られない我が国独自の現象が見られま
す。若者たちには、他の人と違うことを極端におそれる傾向があるのではないでしょう
か。皆が良いと言えば、最新のスマホやIT端末を持ち、みんながおもしろいというテレ
ビドラマがあれば、共通の話のネタとして同じドラマを観る。みんながステキだという
音楽は、ネットのダウンロードで端末に取り込み同じ曲を聴く。これらのどこに多様な
価値観があるのでしょうか。グローバル時代と言われる今日(こんにち)、日本の若者
たちのこのような画一的なスタイルは世界から奇異に感じられるものになっていま
す。
あえて他の人とは違うことを言い、違うものに価値を見いだし、違う行動をとれとは
言いません。それは、わがままと言われる可能性がありますし、単なる独りよがりでし
かないからです。そこから新しいものは生まれません。しかし、他の人と同じことをす
る場合でも、違うことをする場合でも、自分でしっかり考えた上の行動であれば、それ
は今求められている生き方になるでしょう。単なる付和雷同の生き方では、自分の人
生を切り拓くことはできません。グローバル時代の今こそ、世界の多くの若者と同様
に、自分の責任において自分の判断で、ライフスタイルを選択することが、今まさに求
められている力なのです。
有名な作家の五木寛之(いつき ひろゆき)さんは、次の言葉を伝えています。
「自分にとって何が大切なのか、自分の価値を、常識や一般論に惑わされないで
考えてみよう。何よりも、自分が価値を感じることを高めていかなくては、満足度も充
実度も高まらない。他人と同じ基準や価値観で考えても、同じように感じられるとは限
らないから。」
この言葉にある「価値を感じる」とは、他の人の価値観、常識に惑わされず、素直に
自分が大切だと思うこと、感覚として感じるものが自分の価値観であることを示してい
ます。更に、「それを高める」とは、個人の価値観は普遍的、固定的に捕らえるのでは
なく、自分の経験や学び、成長を通して、変化または発展しうるものだと述べていま
す。
皆さんは、本校を卒業した後も、途絶えることなく学び、成長し、生きる力を積み上
げてください。そうすることで、皆さん自身の価値観を高め、素晴らしい未来を切り開く
ことができるでしょう。
いよいよ、お別れの時がきました。
本学園を卒業される皆さんは、本校 82 年の歴史のうち僅か 3 年を過ごしたにすぎ
ません。しかし、その期間は短くても、明らかに一人ひとりがこの大阪成蹊女子高校
の歴史の中で学び、成長しました。本分である学業はもとより、他者を敬うと共に、自
分自身にプライドを持つこと、そして他者と自分との関係性を高めることの大切さなど、
人間として必要な力を十分に育んでこられました。母校である大阪成蹊学園で学び、
成長したことを、それぞれの歴史に刻み、自己の宝として、末永く大切に、そして本校
で学んだことにプライドをもってください。皆さんが卒業された後も、大阪成蹊女子高
等学校の伝統の灯(ともしび)は絶えることなく、更に輝き続けることでしょう。本学園が
未来にわたって輝き続けるということは、卒業される皆さんが、高尚な価値観をもち、
すばらしい人として光り輝くことなのです。
そして、卒業生の皆さん、皆さんの一人ひとりが、この社会になくてはならない大切
な人であることを決して忘れないでください。
改めて、ご卒業おめでとう。そして、皆さんさようなら。
旅立たれる皆さんのご多幸を心からお祈りして、お別れの式辞とします。
平成 28 年 2 月 27 日 大阪成蹊女子高等学校長 紺野 昇