「辛い」を「幸せ」に! ~自分の未来は自分の心の中にある~

平成27年度
卒業式式辞
「辛い」を「幸せ」に! ~自分の未来は自分の心の中にある~
2016.3.25
校長
西谷
秀幸
本日は、第75回卒業式を挙行いたしましたところ、板橋区より、政策経営部 IT推
進課長 山田 節美(やまだ せつみ)様、本校、昭和27年度卒業生の区議会議員 菊
田 順一(きくた じゅんいち)様をはじめ、多数のご来賓の皆様にご臨席を賜り、ありが
とうございました。
高いところから誠に失礼ですが、心より御礼を申し上げます。
[一礼]
卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。今、皆さんに渡した卒業証書には、
「小
学校の全課程を修了したことを証する」と書いてあります。これは、小学校のすべての学
習を修了した証(あかし)です。胸を張って、中学校に羽ばたいてください。
さて、この字は何歳ぐらいの人が書いた字だと思いますか。
実は、当時25歳の男の人が書いたものです。
今日は、小学校最後の授業として、この字を書いた星野富弘
さんの話をします。
星野さんは、器械体操を高校・大学と続け、中学校の体育の
先生になりました。しかし、先生になってわずか2か月後、宙
返りをした時に頭から落ちて大けがをしてしまいました。なんとか命は助かりましたが、
首から下が全く動かなくなり、病院で寝たきりの生活となってしまったのです。
自分でトイレに行くことも、ご飯を食べることもできず、病院の天井だけを見つめる辛
い日が続きました。
そんな生活が2年ほど続いた頃、同じ病室にいた人が、別の病院に移ることになり、寄
せ書きを頼まれました。しかし、星野さんは手を動かすことができません。
「あぁ、書け
る手がほしい、どこか動かせるところがほしい…。
」そう思った星野さんは、知らないう
ちに、サインペンを口にくわえていたのです。
星野さんは、全身の力をふり絞って頭を持ち上げました。すると、ペンの先がわずかに
触れ、ゴマ粒くらいの黒い点がつきました。しかし、できたのはそこまででした。首を持
ち上げるだけで、星野さんは力を出し尽くしてしまったのです。
それから半年が過ぎました。星野さんは「口で字を書きたい」という気持ちがますます
強くなりました。しかし、どんなにがんばっても1本の線すら書けません。
それでも、星野さんは諦めたくありませんでした。口で字を書くことを諦めることは、
たった1つの望みを捨てることであり、生きることを諦めることでもあるような気がした
のです。
そんなある日、看護師さんが「横向きの姿勢で、字を書いてみたら…。
」と言ってくれ
ました。横向きだと、頭を持ち上げなくていいからです。くわえていたガーゼは、よだれ
でぐっしょり濡れ、歯ぐきから血が出てしみついていました。
そして、ついに書けたのです。初めて書いた字は、カタカナの「ア」でした。星野さん
は嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした。
星野さんは、次の日もその次の日も、毎日ベットの上で練習を続けました。まだミミズ
が這いつくばったような字でしたが、何もできないと思っていた星野さんには、スポーツ
で新記録を出したように嬉しかったのです。
どんなことでも、いきなりできる人はいません。器械体操も基礎を毎日毎日練習し、積
み重ねていくことで初めて難しい技ができるようになります。星野さんは、口で字を書く
ことも、それと同じではないかと思いました。
何年かかってもいいから、時間をかけて、1つの点・1本の線をしっかり書けるように
練習していけば、いつかきっと美しい字が書けるようになると思いました。
そうして、9年間の病院生活の中で、星野さんは、
字だけでなく絵も描けるようになり、なんと、退院す
る時には、作品展を開くようになったのです。
これが星野さんの作品です。今では、群馬県に星野
富弘美術館ができ、そこに星野さんの作品がたくさん
展示されています。
星野さんの作品には、詩が書かれています。その1つに「辛いという字がある
しで 幸せに なれそうな気がする」という言葉があります。
「辛い」
という字は、たった1本の線を付けるだけで「幸せ」になります。
もう少
実は、幸せの神様というのは、
「辛い…」
「もう、ダメだ…」と思ったとき、すぐ手の届
くところにいるといいます。しかし、多くの人はここで諦めてしまいます。
でも、星野さんは違いました。先日、教室で授業をした原田雅彦さんもそうでした。
「辛
い」とき、
「もう、ダメだ…。
」と思ったときに、あと少し、どれだけがんばれるか…。
「辛
い」に1本の線を加えて幸せ」にできるかどうか、それを決めるのは他の誰でもありませ
ん。皆さん自身の心です。
「自分の未来は、自分の心の中にある!」これが、皆さんに贈る私の最後の言葉であり、
授業です。
終わりになりましたが、保護者の皆様、本日は誠におめでとうございます。お子様のご
卒業を心からお祝い申し上げます。
[一礼]
また、保護者の皆様には、長い間、本校の教育にご協力をいただき、ありがとうござい
ました。ここにいる皆様お一人お一人が、12年間、大事に育てられてきた「大切な大切
なお子さんを、本日、確かにお返しいたします」
。今後とも卒業生の母校として支えてく
ださいますよう、お願い申し上げます。
卒業生の皆さん。今日から、新たな第一歩が始まります。この伝統ある板橋第八小学校
の、そして、私が大好きな22名の卒業生、一人一人の輝かしい未来をこれからもずっと、
心から応援しています。
以上で、私の式辞といたします。
平成28年3月25日
東京都板橋区立板橋第八小学校長
西谷
秀幸