ボノボと無神論者 霊長類における人間性の追及

ボノボと無神論者
霊長類における人間性の追及
無神論について書かれている。何十年にもわたる彼のボノボとチ
フランス ドゥ・ヴァール
に深く根ざしていると言うのである。ドゥ・ヴァールはこう書い
フランス・ドゥ・ヴァール著の『ボノボと無神論者』は宗教と
ンパンジーの研究から、彼は霊長類が道徳的ルールを持っている
ことを発見した。彼によると、人間の道徳心は我々の類人猿時代
!
ブランカ・ヴァン・ハッセルト
オランダに帰省していた時、フランス・ドゥ・ヴァールの最新
ている:
“サルの行動と人間の宗教心及び人間性は一つの線上にある
ようだ。私のこれらのことに関する興味は、サル達の協力
の著書が紹介されている記事を目にした。彼はオランダ生まれの
行動と争いの解決行動の研究に始まり、サル同士の連帯感
アメリカ人で、オランダのユトレヒト大学で名誉博士号を授与さ
が最終的には人間の道徳心にまで進化したのではないかと
れた霊長類学者である。その2,3日後、本屋で友人にプレゼント
思うようになった。私は何年間にもわたってたくさんの哲
する本を探していた時、偶然にこの本に出会った。先の記事を読
学者と話し合ったが、彼らの道徳心についての解釈が私の
んでいなかったら、その本を素通りしてしまったかもしれない。
自説の精度を高めたと思う。哲学者は何千年も道徳心につ
ともかく私はその本を買い、興味深く読んだ。
!
私はクリスチャンの家庭に育ち、私自身はカソリックで、母
方の祖母はプロテスタントである。オランダ南部に住みベルギー
の学校に通った。ベルギーの国教はキリスト教である。フランス
に留学してソルボンヌ大学のパリ国際キャンパスでヒンドゥ教
徒、イスラム教徒を含む世界中の人たちに出会った。後に仕事で
神道や仏教の国々に住んだ。色々な出会いを通して、私は宗教や
信仰心について疑問を持つようになったが、余り思索的ではない
私は自答できずにいた。リチャード・ドーキンスの『利己的な遺
伝子』や『神は妄想である』を読むように勧められて読んでみた
いて考えてきたが、生物学者はその点まだ緒に就いたばか
りである。”
更に、ドゥ・ヴァールは、彼の本の中で、類人猿やサルの行動
の観察と研究のみならず、ダーウィン以前と以後のスピノザ、エ
ラスムス、カント、フロイト、現代のキッチャーなど多くの学者
の見解を分析している。また、ドゥ・ヴァールは色々なフォーラ
ムや公開討論に参加しているが、その中の一つにダライ・ラマと
の「思いやり」についての意見交換も含まれている。彼は「宗
教」対「科学」の論争について以下のように書いている:
が、彼の無神論が攻撃的すぎるように感じられて、私にはしっく
“科学はたった2,3千年の歴史しかない、人類の歴史の中で
り来なかった。宗教は有史以前からあらゆる人間集団の中で発達
非常に最近現れたものである。科学は人類の真の達成でる、
してきた。世界中の至る所で、非常に隔絶した所でさえ、何かし
きわめて重要な達成である。しかし宗教と同じレベルで論る
ら宗教が存在する。それは人間性が宗教を必要としているからで
には余りにも単純であろう。宗教は常に人間と共にあった、そ
はないだろうか。表現や儀式のスタイルが違っていても、宗教は
して今後も絶対に無くならないだろう。つまり宗教は私たちの
すべて人間共通の基本的な価値観に根ざしているように思える。
社会的な皮膚なのだ。科学は我々人間がつい最近購入したコー
かつて私は宗教を言語のように見ていた。言語は日常的な意思
トのようなものだ。我々は常にそれを無くすか捨ててしまう危
疎通の手段である。一方宗教は、組織社会の中でお互いを尊重す
るための規範に従う必要性を説き、生前と死後の世界についての
我々の疑問に答えるために存在する。死ぬ運命の人間は頼るべき
組織や規範を欲し、それらを権威と呼ぶ必要があるのだろう。
色々な文化に共通して、そのような権威とは唯一神もしくは複数
神、あるいは原始宗教の場合自然物だったりする。言語がそれぞ
れの文法や意味を持ち、その言語を話す人たちの文化的認識を反
映しているように、宗教にも同じことが言えるだろう。つまり宗
教においては、崇拝の対象(唯一神もしくは複数神)、儀式、そ
して尊敬されるべき聖職者の序列や役割の度合いが文化により
様々で、そういった違いは、信仰心や価値観とは関係なく、文化
的表現なのだと私は思う。とにかく、ドゥ・ヴァールの本を読む
までは、私の宗教観はこれ以上の域を出なかった。
険にさらされている。このように宗教に比べると科学が非常に
!
脆弱なものであったとしても、社会のアンチ科学側は常時自衛
する必要がある。”
本の表紙にはこうある:
“ドゥ・ヴァールは野生の王国を科学哲学的に分析した。彼は
宗教を本質的に否定しない。その代わり、画家のボッシュを例
にとって、人間性(ヒューマニズム)に関する長い歴史を追求
し、思慮深い読者に前向きにこれらの問題について考えるよう
に求めている:宗教に何かの社会的役割があるとしたら、今
日、宗教は社会が上手く機能するためにどんな役割を果たして
いるのだろうか?そして信者だろうと無神論者だろうと、良い
人生を生きるために、どこでそのインスピレーションを得てい
るのだろうか?――ドゥ・ヴァールは、初めて、人間の本質的
性質について、また人生の目的を見出すための我々のあがきに
ついて、力強いそして包括的な展望を示した。”
訳:神村伸子(Nobuko Kamimura)
I-News 96 February/march 2014 The Winter Issue 18