「FX特別レポート」(3/11) 「グリーンスパン発言」を検証する ㈱マネー&マネー編集長・吉田 恒 グリーンスパンFRB議長といえば、現在の国際金融市場で最も発言が注目される人物 だろう。そのわりには、グリーンスパン発言が原文と報道されている内容でずいぶん違い を感じることがある。 最近、日本の介入を批判したとされている 3 月 2 日の発言についてもまさにそう。今回 は、「3・2 グリーンスパン発言」について改めて検証してみる。 ◆サステナビリティーについて 巨額の米経常赤字のサステナビリティー(持続可能性)問題があるが、これに対してグ リーンスパンFRB議長は明らかに楽観派だ。 それが、最初に注目されたのは今年 1 月だった。 「米経常収支問題が、国際金融システム を危機に陥れることはないと思う」といった見解が伝わり、ドル買い戻しの材料になった。 ところで、外為市場でも注目を集めた 3 月 2 日の発言の中では、これについてより詳細 に触れている。 「最近のFRBの研究によると、80 年代以降で先進国で見られた経常赤字はGDP比 10%以上になるまで調整が起きないケースがあった」。 「この研究によると、英国などの例外はあるものの、ほとんどの国は危機なしで経常収 支の調整プロセスがおこなわれた」 。 その上で最後にリスク要因にも触れている。経常収支の調整プロセスを困難にするのは、 財政規律の欠如と、そして保護主義の台頭であるといった具合に。ただし、基本的には、 グリーンスパンはサステナビリティー問題に楽観的と考えられるわけだ。 これについて、グリーンスパンは「ドルの番人」だから、立場論としてあえて楽観論を 主張しているのだといった見方はもちろんあるだろう。 しかしグリーンスパンの前任者であるP.ボルカーは、同じくFRB議長として現役の「ド ルの番人」だった時でも、「双子赤字」への警戒派で代表格だった。今回の前に、「双子赤 字」とサステナビリティー問題が注目された 1980 年代の時のことだ。 ◆「ホーム・バイアス」について ところで、この「3・2 グリーンスパン発言」の中の一つのキーワードは、 「ホーム・バイ アス」という言葉だと私は思う。 これをどう訳すか。知り合いは、「偏執的自己愛」と訳した。直訳するなら、「本国偏在」 ということだろうが、言っていることは、要するに「日本人はよくもそれだけ自国通貨で ある円買いが好きなものか」といった意味のようだ。 なぜなら、この「ホーム・バイアス」の前後にこんな話が続いた。 「そんな国はどこにもない」、 「たった 1%の利回りの国債を投資家が自発的に購入するよ うな」。 「それは決して驚くことではない」 、「日本の国債を 99%日本人が保有しているというこ とは」。 これを冷静に聞いたら、しかもその発言主がグリーンスパンだということを考えたら、 日本国債が「暴落」しないのが不思議なくらいだ。5 日の米雇用統計失望で、世界的に長期 金利急低下となったが、本当に救われたのは日本国債かもしれない。 さてこんなふうに見てきたら、一般報道がグリーンスパン発言を「円売り介入批判」と解 説しているのは、むしろ逆の可能性すらあることがわかるだろう。グリーンスパンは、む しろ日本人の円買いを「ホーム・バイアス」として揶揄しており、その言葉を何と今回の 発言の中で 5 回も使っていたというのである。(Y)
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