Ⅰ.大統領選挙後のトルコ情勢

中東研究センター 情勢分析報告会(要旨) 2014 年 9 月 9 日
Ⅰ.大統領選挙後のトルコ情勢
柿 﨑 正 樹 (テンプル大 学 ジャパンキャンパス 非 常 勤 講 師 )
8 月 10 日 の 大 統 領 選 挙 で は エ ル ド ア ン 首 相 ( 当 時 ) が 第 一 回 投 票 で 当 選 し た 。 こ
の大統領選挙はトルコで初となる国民の直接投票であり、トルコ政治における大きな
転換期といえる。また、エルドアンの大統領就任にともないダウトオール前外相が与
党公正発展党党首に選出され、その後エルドアン大統領から首相指名を受け、 9 月 6
日にダウトオール新内閣が発足した。本報告では、大統領選挙の結果と意味を考察し、
ダウトオール内閣の顔ぶれと政策課題、およびトルコが中東域内政 治で直面する問題
について検討した。
まず、大統領選挙については、従来からの投票パターンと同様に、野党が伝統的に
強いトルコ西部やエーゲ海・地中海沿岸地域、およびクルド人の多い南東部を除く全
国 各 地 で エ ル ド ア ン 首 相 が 支 持 を 固 め 当 選 ( 得 票 率 51.8%) し た 。 野 党 共 和 人 民 党 と
民族主義者行動党が擁立したイフサンオール前イスラーム協力機構事務局長は
( 38.4%) に 終 わ り 敗 北 し た 。 さ ら に イ ス ラ ー ム 寄 り の イ フ サ ン オ ー ル の 擁 立 を め ぐ
り共和人民党内部では強硬な世俗派党員から党首の責任を問う声も上がっている。ク
ル ド 系 の デ ミ ル タ シ ュ 人 民 民 主 党 党 首 は 9.8%を 獲 得 、 事 前 予 想 を 上 回 る と と も に 、
支持をクルド人以外にも広げたと考えられる。
選 挙 後 に 成 立 し た ダ ウ ト オ ー ル 新 政 権 に つ い て は 、 ( 1) 経 済 担 当 閣 僚 は 留 任 、
( 2) エ ル ド ア ン の 腹 心 が 入 閣 、 副 首 相 就 任 、 ( 3) ク ル ド 和 平 、 ギ ュ レ ン 運 動 の 取 り
締 ま り 、 EU 加 盟 交 渉 、 経 済 成 長 の 重 視 と い う 三 点 が 重 要 で あ る 。
次に本報告ではエルドアン大統領および公正発展党が主張している大統領制への移
行問題について、現行の議院内閣制度との比較を通じてどのような政治制度が構想さ
れているのかについて検討し、トルコの大統領制では三権分立原則が緩められており
大統領優位な制度であることを説明した。また、エルドアン大統領とダウトオール政
権との今後の力関係に関しては不透明性があると指摘した。エルドアン大統領は現行
憲法下で認められている大統領の権限を最大限に活用すると明言している。
最後に、トルコの中東域内外交に関して、特に対イラク政策、イスラム国への対応、
そしてシリア難民問題の社会的影響について検討した。イラク政策に対しては、トル
コはイスラム国の台頭を防ぐためにも挙国一致内閣の成立を求めてきた。一方、トル
コは欧米政府からイスラム国に対するより厳しい対応を求められているものの、駐モ
ス ル ・ ト ル コ 総 領 事 ら 外 交 関 係 者 48 人 が イ ス ラ ム 国 に 拉 致 さ れ て お り 、 難 し い 立 場
に 立 た さ れ て い る 。 ト ル コ 国 内 で は シ リ ア 難 民 が 120 万 人 を 超 え 、 既 に 地 元 住 民 と の
衝突などが発生し社会問題化している。周辺国の情勢不安がトルコの人々の生活に波
及しつつある。
エルドアン体制からダウトオール体制への移行は非常にスムーズに進み、当面トル
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中東研究センター 情勢分析報告会(要旨) 2014 年 9 月 9 日
コ政治は安定性を維持するであろう。一方で中東域内政治においてはイスラム国への
対応も含み課題は山積している。
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