Vol. 21 (2009年)

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CSA Vol. 21
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コンピュータ将棋協会誌
第 21 巻(2009 年号)
Journal of Computer Shogi Association
Vol. 21 (2009)
目次
・巻頭言
············· 瀧澤 武信········1
・FPGA将棋開発の軌跡
············· 伊藤 英紀········3
・A look back at 11 years of Shotest at CSA
············· Jeff Rollason ····· 7
世界コンピュータ将棋選手権
・第 19 回世界コンピュータ将棋選手権の結果 -GPS 将棋が 8 度目の参加で初優勝-
············· 香山 健太郎·····11
・第 19 回世界コンピュータ将棋選手権 準優勝記
············· 大槻 知史·······20
・第 19 回世界コンピュータ将棋選手権 3 位入賞記
············· 小幡 拓弥·······25
・Bonanza のソースコード公開と
CSA 世界コンピュータ将棋選手権ライブラリについて········· 保木 邦仁·······31
人間との対局
・人間対コンピュータの対戦結果
(第 15 回世界コンピュータ将棋選手権以降) ············· 香山 健太郎·····33
・情報処理学会の特別対局イベント自戦記(2009.3.10.) ········ 稲葉 聡·········35
・
「四強合体!アマチュア強豪は最強ソフト軍団に勝てるか!?」
イベント報告
·············· 伊藤 毅志·······37
・対合議(激指、ボナンザ、AI将棋、新東大将棋)戦(2009,3/22)
自戦記
·············· 谷崎 生磨·······43
・
『コンピュータ将棋の最前線』
~コンピュータ将棋はアマチュアトップを超えたか?~
イベント報告と「文殊」VS 谷崎生磨氏
・対文殊 with Bonanza 戦(2009,11/7)自戦記
·············· 伊藤 毅志·······44
·············· 谷崎 生磨·······48
・『コンピュータ将棋の最前線』GPS 将棋の思考記録 ··· GPS 将棋開発チーム,金子知適 ·· 50
・対「GPS将棋」戦(2009.11.7)自戦記
············· 稲葉 聡········· 54
・激指 VS 古作登氏(奈良県アマ三冠)
大阪商業大学アミューズメント産業研究所シンポジウム
「頭脳スポーツと教育 -ブレインスポーツ冬の陣-」
「人工知能はここまで進化した」における公開対局 ·········· 鶴岡 慶雅······· 56
・対「激指」戦をめぐる人間の思考と行動
·············· 古作 登········· 58
・GPW 杯コンピュータ将棋大会 2009 参戦記
·············· 篠田 正人······· 65
例会記録,blog
・コンピュータ将棋協会 例会記録(2009 年 5 月~2010 年 3 月) ··················· 71
・コンピュータ将棋協会 blog の 2009 年の活動
·············· 山田 剛········· 75
イベント報告
・第 5 回コンピュータ将棋 世界最強決定戦
·············· 橋本 剛········· 79
・第 11 回~第 13 回コンピュータ将棋オープン戦の結果 ·········· 香山 健太郎····· 82
事務局から
・事務局たより
·············· 小谷 善行······· 85
・コンピュータ将棋協会・会誌執筆要領 兼 テンプレート ························· 86
・コンピュータ将棋協会賞
·············· 瀧澤 武信······· 87
・コンピュータ将棋協会 会則
······························· 88
・コンピュータ将棋協会決算報告書,監査報告書,予算書 ························· 91
・編集後記
·············· 瀧澤 武信······· 93
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巻頭言
瀧
澤
2009 年 4 月から 2010 年 3 月までは 2009 年 5 月の選手権
武
信
*
予選では復活参加の「KCC 将棋」,初参加の「文殊」
「Blunder」
が象徴的であるが,大爆発の 1 年であった. 5 月 3 日~5
が大活躍で,特に,
「KCC 将棋」は 1 次予選を 7 戦全勝,2
日に開催した選手権では,ご協力いただいている日本将棋
次予選を 9 戦全勝で通過した.
「文殊」は初の「合議ソフト」
連盟から理事の中川大輔七段の他,佐藤天彦五段(新人王),
である.これは,評価関数のパラメータの値を正規乱数で
勝又清和六段,飯田弘之六段(北陸先端科学技術大学院大
変更した「Bonanza」6 台のそれぞれが出力した次の 1 手の
学教授,コンピュータ将棋協会理事)
,本田小百合女流二段,
中から合議により「文殊」自身の次の 1 手を出力するよう
井道千尋女流初段が解説におみえになった.さらに,日本将
な仕組みになっている.
「文殊」は 1 次予選を 6 勝 1 敗,2
棋連盟会長の米長邦雄永世棋聖,堀口弘治七段,会場とな
次予選を 7 勝 2 敗のいずれも 2 位で通過した.
「Blunder」
った早稲田大学の現役学生でもある広瀬章人五段,熊倉紫
は 1 次予選を 5 勝 2 敗で通過し,2 次予選は 5 勝 4 敗で決勝
野女流初段がいらした.飯田六段によれば,将棋倶楽部 24
進出はならなかったが,もし最終戦に勝っていれば,決勝
の点数で 2 次予選通過のレベルは 2650 点以上,優勝レベル
進出という活躍であった.優勝の「GPS 将棋」は 2 次予選を
は 2850 点以上あり,また,2008 年の選手権の決勝リーグの
3 位で,準優勝の「大槻将棋」は 5 位での決勝進出である.
平均レベルより 2009 年の 2 次予選通過レベルの方が高いと
このように,2 次予選の上位ソフトのレベルも非常に高くな
のことである.勝又六段によれば 2008 年の上位ソフトは,
っている.
アマチュア全国大会ベスト 4 と認められるとのことであっ
なお,2008 年秋の GPW(ゲーム・プログラミングワーク
た(アマチュア全国大会ベスト 4 はプロの棋戦に参加でき
ショップ)の特別セッション出トップアマ 2 名との比較的
る場合があり,勝つことがあるというレベル)ので,いよい
長い持時間の試合を行い 1 勝 1 敗という結果だったため,
よ平均的なプロ棋士に並べかけてきたと言ってよい状況と
2009 年からは選手権の場でのエキシビションは行わないこ
なった.なお,会場はこれまで長年お世話になってきた千
とになった.
葉県木更津市の「かずさアカデミアパーク」から東京都新
選手権以外では,2009 年 3 月 10 日に立命館大学びわこ・
宿区の「早稲田大学 国際会議場」に変更した.2010 年の選
くさつキャンパスで行われた情報処理学会第 71 回全国大会
手権は,東京都調布市の「電気通信大学」で行うことにな
の特別セッション「コンピュータ将棋は止まらない
っている.
間トップに勝つコンピュータ将棋-」
(司会:伊藤毅志 CSA
―人
日本将棋連盟,共催の早稲田大学ゲームの科学研究所,
理事)のイベントで「激指」対 稲葉聡アマ準名人の対局が
電気通信大学エンターテイメントと認知科学研究ステーシ
あり,稲葉氏が勝った.この対局は持時間 1 時間,切れた
ョン,ご協賛いただいた株式会社イーフロンティア,株式
ら 1 手 60 秒の秒読みである.この特別セッションでは上記
会社毎日コミュニケーションズ,富士通株式会社,株式会
の対局のほか松原仁 CSA 理事による「コンピュータ将棋の
社インターエコー,ご後援いただいた文部科学省,経済産
X デーに向けて」と題する講演と「コンピュータ将棋の現
業省,社団法人情報処理学会,早稲田大学,電気通信大学
状と課題」と題するパネル討論(司会:松原仁氏,特別ゲ
に深く感謝申し上げる.web による参加申し込み,サーバを
スト:中川大輔将棋連盟理事,パネリスト:伊藤毅志氏,
用いた LAN 対戦,CSA によるライブネット中継を行い,松本
鶴岡慶雅氏,横山大作氏,筆者)が行われた.
博文氏によるブログを立ち上げた.合計 42 チーム(内,初
2009 年 3 月 22 日に電気通信大学で行われた第 3 回 E&C シ
参加 5,復活参加 5)で争われ,
「GPS 将棋」が 8 回目の参加
ンポジウムの特別セッション「四強合体!アマチュア強豪
で初優勝を果たした.準優勝は 8 回目参加の「大槻将棋」,
は最強ソフト軍団に勝てるか!?」というイベントで「激
3 位は初参加の「文殊」
,4 位は復活参加の「KCC 将棋」であ
指」
、
「Bonanza」、
「AI 将棋」、
「新東大将棋」の多数決による
った.一方,シードの 3 ソフトが揃って次回のシード権を
合議システム 対 谷崎生磨学生準名人の公開対局があり,
失ったが,これは,大会史上初の出来事であった.また,
谷崎氏が勝った.持時間 40 分,切れたら 1 手 60 秒の秒読
*
みである.
コンピュータ将棋協会会長
早稲田大学政治経済学術院
[email protected]
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2009 年 11 月 7 日に電気通信大学で行われた電気通信大学
2010 年 2 月 6 日に大阪商業大学で行われた大阪商業大学ア
エンターテイメントと認知科学研究ステーション 主催の「コ
ミューズメント産業研究所主催のシンポジウム「頭脳スポー
ンピュータ将棋の最前線―コンピュータ将棋はアマチュアト
ツと教育―ブレインスポーツ冬の陣」のイベントで「激指」
ップを超えたか?―」というイベントで「文殊 with Bonanza」
対 古作登アマ奈良県三冠の公開対局があり,「激指」が勝っ
対 谷崎生磨前学生準名人と「GPS 将棋」対 稲葉聡前アマ準
た.持時間 20 分,切れ負けである.
名人の対戦があり,谷崎氏と「GPS 将棋」が勝った.持時間 1
研究会関係では,前記情報処理学会の直前の 2009 年 3 月 9
時間,切れたら 1 手 30 秒の秒読みである.なお,「文殊」は
日に大阪商業大学で 6 月 26 日に岩手県立大学滝沢キャンパス
最終盤で詰みを読みきっていたが,バグが出て時間切れ負け
で 2010 年 3 月 8 日に東京大学駒場キャンパスで情報処理学会
となった.
ゲーム情報学研究会が開かれた.2009 年 11 月 13 日~15 日に
2010 年 1 月 14,15 日に北陸先端科学技術大学院大学で行
箱根セミナーハウスで GPW が開かれた.
われた「第 5 回コンピュータ将棋世界最強決定戦」(主催:
例会では,選手権上位入賞者等によるアルゴリズムや棋譜
北陸先端科学技術大学院大学ゲーム情報学ユニット,審判
の解説と討論などが行われる.これは,山田理事による CSA
長:大内延介九段)では,「GPS 将棋」が優勝した.この大
ブログでも一部が予告されたり紹介されたりしているが,出
会は,持時間 60 分,切れたら 1 手 60 秒の秒読みである.
来れば実際に参加してほしい.
合議システムによる参加(「文殊」のハードウエア,第 19 回世界コンピュータ将棋選手権)
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FPGA将棋開発の軌跡
伊 藤 英 紀
1.
まえがき
のだが、実は役に立つ情報はほとんど見つからなかった。
将棋ではもちろん前例そのものがない。チェスでは Deep
筆者は 2008 年からFPGA将棋システム「A級リーグ
Blue や Belle などいくつかのハードウェアエンジンが存
指し手1号」で世界コンピュータ将棋選手権に出場して
在し、多少文献もあるのだが、ハードウェアの構成全般
いる。成績は二次予選中堅でトップクラスとはまだかな
がわかるようなものは見つからなかった。
り差があるが、FPGAベースのシステムは世界初かつ
手生成に関しては2,3論文があった。しかしそれら
唯一のため、かなり注目を集めてきた。本稿ではその開
は 80 年代以前に書かれたもので、おそらく当時の(今と
発経緯についていくつか書いてみたい。
比較すると)貧弱なハードウェアリソースをやりくりし
なお筆者は、開発のかなり初期から開発ブログ(*1)を書
て少ないゲート数で実現するために考えられたものと思
いていて、その時々の開発状況を記している。ブログの
われ、手生成だけでシリアルに何サイクルもループする
バックナンバーを時系列に読むと開発過程がかなりリア
ようなものであった。今のテクノロジならば1サイクル
ルに感じられると思うので、興味ある方はぜひご参照い
で遥かに高速に実現できると思われたため、参考には使
ただきたい。
えなかった。
そんなわけで結局文献はほとんど参考にせず、ゼロか
2.立ち上げ期
ら新しいアーキテクチャを考えることになった。
モジュールとしては
2.1 事の起こり
開発の直接のきっかけになったのは、07 年の 5 月連休
1) 盤更新
2) 盤解析
にボナンザ―竜王戦を扱った番組を見たことであった。
3) 評価
この一戦のことは当時既に知識としてはかなり知ってい
4) 手生成・選択
たし、新書の本も読んでいたため、特に目新しい知識を
5) 探索
ここで得たわけではない。しかしやはり映像で見ること
に分かれる。このうち、最初の4つの設計は比較的スム
で、脳のそれまでと異なる部分でイマジネーションが刺
ーズに進んだ。1マシンサイクルで1手進める/戻す、と
激されたのだろうか。その後しばらく全幅探索のことを
いう方針にしたため、2), 3), 4)は組合せ回路となり、そう
あれこれ考えているうちに、ふと「全幅ならハードウェ
複雑ではない。1)は盤面と手が与えられればやるべきこと
アで実現できるのではないだろうか」というアイデアが
はおのずと決まってくるため、考えやすかった。
浮かんだ。
いちばん苦労したのは 5) 探索である。αβ探索をどう
筆者は元々昼間の仕事はLSI設計者で、それより以
やってハードウェアで実現するのか?参考文献もなく、
前にもハードウェア将棋の可能性について考えてみたこ
最初は全くアイデアが思いつかず、途方にくれた状態で
とがないではなかった。だがボナンザ以前の「古典的」
あった。しかし根気よく考え続けていくうちに段々糸口
将棋ソフトでは、手生成ルーチンは複雑を極める。ハー
が見えてきて、アーキテクチャが決まって仕様書の全体
ドでの実現は無理だろう、と諦めていた。しかしボナン
像ができあがったのがたしか9月頃だったかと思う。
ザが全幅探索の有効性を示してくれたおかげで、手生成
仕様書を元に verilog コーディングするのは、時間はか
を簡素化するメドがつき、ハード探索エンジンの可能性
かるもののそう難しくはない。コーディングと初期デバ
も見えてきたのである。
ッグに3か月ほどかけ、簡単な問題をシミュレーション
で解けるようになったのが 12 月初め。一応完成のメドが
2.2 アーキテクチャ検討
6 月から本格的に検討を開始した。まずは文献を探した
「YSS と彩の掲示板」で公表し、また開発ブ
見えたため、
ログも書きはじめた。どんな反応が来るかと多少心配し
たが、おおむね新規性を評価していただき、各所で取り
1
http://aleag.cocolog-nifty.com
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上げられたため、大変励みになった。
このとき初めて真の意味で「FPGA将棋が動いた」こ
とになるので、この時が一番うれしかったかもしれない。
2.3 実ボードと格闘
まだ難関は終わりではない。選手権に参加するには対
シミュレーションが動きはじめた段階で八割方完成し
局サーバとの通信機能が必要になる。PC 向けのサンプル
たような気になっていたのだが、全く甘かった。Verilog
コードは役に立たないので、これも一から、仕組みから
がほぼできたので次は実際に FPGA を入手して動かすわ
考えて作らなくてはならない。
けだが、ここで思わぬ苦労をする羽目になる。
筆者は仕事で ASIC は設計していたが、FPGA について
通信の方法としては USB、イーサ、パイプ等いくつか
考えられたのだが、当初考えたやり方は試すそばからす
は、どんなものか知識としては知っていたが実際に入手
べて失敗した。一時期は選手権出場は諦めかけたのだが、
したり使ったりしたことはなかった。事前に web 等で調
最後に苦しまぎれに思いついた「JTAG 経由で PC のファ
べ、2、3万円程度で評価ボードが入手できるはずと踏
イルに読み書きし、通信ソフトがそのファイルをモニタ
んでいたのだが、これが全く見込み違いだった。2、3
ーする」という苦肉の策で遅いながらも最低限の通信は
万のボードは入門用でゲート規模が小さく、将棋の回路
実現でき、ぎりぎりで参加のめどがついた。これが2月
規模は入らないことが判明。
末。大会2か月前まで、将棋以前の問題で苦しみ続けて
あわてて更に調べたが、入門レベルを超えると途端に
いたわけである。
情報量が web でも少なくなる。いろいろ探しまわって代
理店のサイトを見つけても、
「企業のお客様が対象です」
3.多様な展開
などと書いてあり、個人に売ってもらえるかわからない、
という状況。ボードの「入手」だけで苦労するとはよも
や思ってもいなかった。
いったん実ボードでひととおりの機能が動いた後は、
将棋として強くする方向に注力した。手のオーダリング
たまたま学生時代の友人で某大学で FPGA 関連の講座
や評価チューンといった作業は、ソフトでもハードでも
を持ってる先生がいたのでコンタクトを取り、新幹線で
そう違いはない。勝手知ったる作業である。08 年大会は、
会いに行って話を聞いていろいろ教えてもらい、実際の
無事二次シードをとることができた。
ボード入手方法や選択上のアドバイスなどをもらった。
それから 09 年大会までの1年は、いろんな巡り合わせ
全く持つべきものは友人である。結局、電子部品の某大
で新しい機会に恵まれ、多様な展開を経験できた期間で
手通販サイトでほぼスペックを満たすボードが入手でき
あった。それらのいくつかを次に書いてみる。
ることがわかり、そこから購入したのが新年早々だった。
入手できてひと安心したのだが、トラブルはまだまだ
3.1 スポンサー
序の口だった。ボードが家に届いて、マニュアルを参照
しながら verilog を合成してバイナリをアップロードして
起動するのだが、これがまた動かない。
次の年はハードをアップグレードしようと思い、いくつ
PC のソフト開発ならば、バグの調査ではデバッガを使
かボードを扱う代理店にコンタクトしていた。その中の
うなり printf で出すなりして、動作の「中身」が好きなだ
一つ、立野電脳(株)さんというところから、
「Stratix III
け見られる。しかし目の前で実ボードが動いているがど
のボードを無償で提供しますから使ってみませんか」と
うも何かおかしい、という場合、
「中身」を見ることがで
うい申し出を受けた。思いがけない提案でびっくりした
きないのである。もちろんそれなりの機材があればピン
のだが、話を聞いてみると、FPGA 利用の裾野は現在それ
の情報くらいは見えるが、個人でそんな機材もないし、
ほど広くはないため、将棋のような新しい分野への利用
仮にあったところで機材で見える情報はかなり限られた
は積極的にサポートして開拓に協力したい、とのことだ
ものしかない。実ボードでのトラブルシューティングは、
った。Stratix III というのは当時最高級・最先端の FPGA
中身がほとんど見えない状況でひたすら考えて原因を
チップである。それを使えるのももちろんありがたかっ
「推測」するしかない、という状況がかなり多いのであ
たが、自分のしてきたことが「新分野の開拓」と認めら
る。
れたのは何よりうれしかった。もちろん申し出は二つ返
まあそれでも、シミュレーション等も併用し、収集で
08 年大会は普及品の FPGA のボードを使用したので、
事で受け、09 年大会は立野さん提供のボードで参加した。
きるかぎりの情報を集め、的外れかもしれない試行錯誤
またこれをきっかけに社長さんとは個人的に親交ができ、
を何度も繰り返したあげく、ようやくボードが動作した。
本業が同じ業界ということもあってその後も時折飲みな
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
がら情報交換、といったおつきあいもさせていただいて
しに着手し、1 月から学習をはじめた。手法の理解から始
いる。
めたため立ち上がりにかなり時間がかかり、5 月までに十
分学習によるチューンができたとは言い難いというのが
3.2 ASIC 化検討
正直なところだが、それでも floodgate のレーティングで
「情報処理」誌の 08 年 8 月号でコンピュータ将棋の特集
300 以上の向上が得られ、08 年版よりは明らかに強くな
があり、その中の激指の鶴岡さんの記事で「FPGA であれ
った。
だけの成績が出せるなら、ASIC にするともっと強くなる
学習に関してはまだ伸びしろがかなりあると思われる
のでは」という趣旨の文を書かれていた。まあ鶴岡さん
ので、時間ができたらもう一度集中的に学習をやってみ
としては軽い気持ちで思いつきを書いただけなのだろう
たいと思っている。
と思うが、それを読んだ筆者は、
(多少大げさな表現にな
るが)まさに天啓を得た思いであった。
4.現状と今後
ASIC に関わる仕事をしていながら、将棋を FPGA から
ASIC に展開する発想はそれまで全く思い浮かばなかっ
現在注力しているのは、クラスタ並列アルゴリズムの
た。しかし言われてみると、verilog+FPGA で既に動作し
開発である。現在コンピュータ将棋界で主流の並列化の
ている現在、ASIC 化することは技術的には何ら難しいこ
手法は、チェスの Crafty で採用されているスレッドを使
とではない。チェスでは人間のチャンピオンを破った
う手法なのだが、これだと使用するシステムが共有メモ
Deep Blue は ASIC で作られた。将棋で ASIC を使うとど
リに限定されるため、大規模並列処理には適用できない。
うなるのか?これは非常に魅力的な問いかけだったため、
そこで、メッセージパッシングをベースにした新たな並
ひと月ほどかけて情報を収集し、多少の仮説も交えなが
列アルゴリズムを開発している。10 年の大会にはこの新
ら検討してみた。
アルゴリズムで挑戦する予定である。10 年はこの新ソフ
その結果は…ここでは書かないが、筆者のブログ記事
トに手いっぱいでハードの改良まで手がまわらなかった
2
ため FPGA は見送りになったが、近々またハードに戻り
3
(* )に書いたり、08 年の GPW(* )でも発表し、その時の講
4
演がニコニコ動画でも視聴できる(* )のでぜひご参照い
ただきたい。まあ本当に名人に勝てるかはおくとしても、
たいと思っている。
今後の展開…などという大それたことは考えてない、
将棋の ASIC 化による大規模並列処理(「将棋版 Deep
というか目先の大会への対応で考えてる暇もないという
Blue」
)には非常に大きなポテンシャルがある、という点
のが現状(10 年 2 月現在)だが、方向として大規模並列ハ
は疑いようがないと考えている。
ードというのは一つはっきり見えているので、何らかの
09 年大会後の 6 月には VDEC デザイナーズフォーラム
形でその実現に近づくことができれば、と考えている。
5
(* )でも発表の機会を得た。VDEC というのは大学向けに
LSI 試作をする組織なのだが、そこで将棋専用 ASIC プロ
5.おわりに
ジェクトのプレゼン&ポスターセッションをしてきたの
である。聴衆は LSI の専門家が主で、将棋とは関係ない
不景気な話で恐縮だが、コンピュータ将棋開発者の間で
人がほとんどだったのだが、むしろそれが幸いしたのか
声高にではないがささやかれている話に「5年限界説」
もしれない。かなりインパクトを与えたようで、結果的
というのがある。コンピュータ将棋の開発を始めて最初
にベストポスターアワードをいただいた。
のうちはやるべきことが沢山あり、またそれらを実装す
ると自分のソフトが目に見えて強くなるため、励みにな
3.3 ボナンザメソッドの導入
り喜んで開発する。しかし3、4年たつと既存の技術は
08 年大会バージョンから 09 年に向けての改良点の最
主なものはおおむねやり尽くしてしまい、残ったものは
大のポイントは、学習(いわゆるボナンザメソッド)の
細かいものばかりですぐ目に見えて強くはならなくなっ
導入であった。GPW 後の 11 月から評価関数の作りなお
てくる。そうして改良のネタが見つからず、強くならな
いためだんだんモチベーションが下がってきて、5年く
2
3
4
5
http://aleag.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/asic-5f9a.html
らいしたところで開発から撤退してしまう、という説で
http://sig-gi.c.u-tokyo.ac.jp/gpw/2008/schedule.html
ある。
http://d.hatena.ne.jp/streakeagle/20081117
http://www.vdec.u-tokyo.ac.jp/DesignersForum/Forum09.html
筆者は 1998 年から将棋ソフトの開発を始め、かれこれ
11 年以上になる。その間、モチベーションを失って開発
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
が数か月止まっていた時も実際あり、
「5年限界説」は全
最初に書いたとおり、筆者が FPGA 将棋のアイデアを
思いついたのは「たまたま」番組を見たからである。次
く他人事ではない。
しかしながら、今現在はどうかというと、やるべきこ
に ASIC 化から大規模並列化を思いついたのも、
「たまた
とが山積みで、見つからないどころか手に負えない程あ
ま」記事を読んだからにすぎない。この2つの偶然から
るというのが現状である。やることが多すぎて参ってい
筆者は、ハード化と並列化が近い将来のコンピュータ将
るという別種のリスクはあるが、少なくとも目先、改良
棋の進化を支える2大要素、と捉えるに至ったのだが、
ネタがなくてモチベーションが下がるということはちょ
どうも他の開発者の方々はまったくそうは思っていない
っと無さそうである。
ようで、筆者一人が独自の道を進んでいるようだ。その
これはなぜかというと、ハード化及びクラスタ並列化
ためこの2つの分野の新しい課題は全て筆者に降りかか
という2つの全く新しい分野で、
(今わかっている範囲で
ってくるので、幸か不幸か(?)ネタ切れにはまったく
は)たった1人で挑戦しているからである。
苦しまなくて済んでいるようである。
ハード化については以前から誰か他の人が参入してく
元々あまのじゃくな性格らしく、大多数の人が向く方
れないかと思っており、RTL ソースまで公開したのだが、
向とは逆を進むことが今までも多かった。今のところは、
今までのところ誰一人参入せず、筆者一人で無人の野を
他人がやってないがために一人で気楽にできている部分
進んでいる状況である。
もあるのだが、課題のあまりの多さに若干辟易している
クラスタ並列の方は、他にも参入しそうな将棋開発者
がいないことはない気もするのだが、なぜかこれまた今
ことも事実であり、誰か他の人にも参入してもらって情
報交換しながら進めたいなぁと感じている次第である。
のところ実際に手をそめているのは筆者一人らしい。
(2010 年 2 月 22 日)
A 級リーグ指し手1号(第 19 号世界コンピュータ将棋選手権)
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
A look back at 11 years of Shotest at CSA
Jeff Rollason*
I first entered the CSA s World Computer
Championship with Shotest back in 1997 and
since then I have been part of this
championship for most years. My presence has
always generally seemed a little more visible
than many as I have usually been the only
western competitor to enter the event from
outside Japan. However Shotest s most
interesting contribution long-term has been the
introduction of other new ways to analyse this
game. Overall it has been a long and
stimulating adventure!
My Shogi program Shotest first came into
being at the end of 1996, when the computer
games publisher Oxford Softworks needed a
Shogi program to add to their line-up of
products. I had never heard of Shogi. Finding
any kind of book on Shogi was hard but I
picked up GNU-Shogi, which gave me an idea.
My entry into this was through my ancient
chess program Merlin, which used an unusual
type of static tactical analysis, which did not
work that well for chess but looked like it
might be good for Shogi . This tactical analysis
was called SUPER SOMA. The reason that
this might work in Shogi is that tactical threats
do not easily simplify, so having a static
evaluation that could look at a position with
many threats and evaluate these without
searching could be a big advantage.
I also had an interesting search method I
created, which allowed the search to only
examine probable lines. Most chess programs
spend most of their time looking at nonsense
variations, which clearly seemed a waste of
time, so my own Interest search tried to
ensure that most variations were meaningful.
*
Jeff Rollason - CEO and founder
AI Factory Ltd - www.aifactory.co.uk
[email protected]
Shogi seemed a natural choice for this method
as Shogi has so many legal moves that a higher
proportion of possible variations are likely to
be nonsense.
Finally a key component created for this
Shogi program was its ability to try and
analyse king safety from first principles. It
carefully measured the protection and threats
to the king and how these inter-related, rather
than depend on identifying and reaching
particular known good formations. In
consequence it saw king safety as a continuous
seamless state, rather than a series of known
good formations that the program needed to
achieve. This understanding of King Safety
was integrated with SUPER SOMA above, so
that Shotest could statically assess trades of
material for king safety.
Taking these ideas I struggled a bit with the
game logic, but found I could analyse this well
enough with my background in chess. When I
entered in my first CSA Championship in 1997
my program was only 3 months old. Expecting
that I might well be destroyed against the more
mature Japanese Shogi programs, I decided to
give my program a name that suggested it was
an early prototype, hence Shotest , meaning
Shogi-test . However, to my surprise, my
progress was quite good, winning 4, losing 2
and drawing 1 game. By the last round it was
even possible I might qualify to the final
round.
After this event it became clear that Shotest
probably had a promising future and in the
next 2 years Shotest came 3rd overall in both
the 1998 and 1999 Championships. I might
have even won in 1998, but I would have been
very lucky as the eventual winner was stronger,
even though Shotest had already beaten it in an
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
earlier round.
Given my gross lack of real Shogi
knowledge, which even included some
difficulty identifying the pieces in 1998(!), my
success was a surprise. I would like to attribute
this to some exceptional skill but actually I
think my methods mainly exposed some of the
limitations of existing programs. I have many
wins between 1997 and 1999 where my
position was not that strong, but my program
was always comfortable in complex positions
as the static analysis could make sense of these.
Also the seamless assessment of king safety
meant that Shotest was able to meaningfully
assess king safety, even when the king no
longer had any clear castle structure. Shotest s
king was therefore hard to attack as it was able
to find meaningful defences in almost all types
of positions. My program was good at always
making reasonable moves and defending well.
In consequence where other programs were
inclined to try and simplify complex positions
my program would be happy to allow these to
become more complex. When Shotest s
opponents were struggling with these positions,
or unable to gain access to the king, it gained
advantage as they started to run out of time. I
particularly remember winning against M
Brain in the 1998 final round, where M Brain
completely outplayed Shotest in the opening,
but Shotest hung on and while gradually M
Brain ran out of time it was unable to make
good moves in the complex positions that
arose. Shotest then found a decisive sacrifice
and M Brain lost.
That year (1998) I also benefited from
another development method that greatly
helped my progress. After the 1997 tournament
I needed a program to practice against and I
chose Hiroshi Yamashita s YSS, the current
world champion, which looked to be the
program to beat. The key to this is automation.
My program watched the graphic screen to
spot when YSS s pieces moved. My program
played some 50,000 games against YSS using
this and through that found out how to beat
YSS. Shotest was naturally able to find a way
to play that exploited YSS s weaknesses. I did
not understand YSS, but Shotest did. Note also
that I was unable to beat my own program, so
my own knowledge was weak. The
consequence of this learning process was that
Shotest beat YSS in its first encounter and then
again in its next two meetings. It is curious that
Shotest managed to make YSS look weak
whereas actually it was stronger than Shotest.
During this period of several years I
developed Shotest on my own, but I must also
acknowledge the great support and help
provided by Reijer Grimbergen, whose help
and encouragement was very important to me.
We helped each other but I think I gained the
most.
After 1999 Shotest has gradually faded in
the rankings as I have been increasingly unable
to devote much time to develop it. A big part of
this now is my full time running of the
computer games company AI Factory, which I
not only run but am also the chief AI
programmer for.
However until as late as 2002, Shotest could
still cause minor upsets, the most satisfying
being the only program to beat Gekisashi in the
final round that year. That again was a curious
result as Gekisashi at that point had won 14
and lost just 1 game, so looked invincible. The
game was not close though, as Shotest won
easily.
The arrival of Bonanza has now turned the
Computer Shogi world upside down. At about
the same time the Computer Go world has also
radically changed. For Shogi Bonanza has
been a revelation and has established a
methodology that seems much closer to human
games analysis that conventional methods. It
seems a very natural idea that Shogi might be
solved by some distributed diffuse knowledge
rather than by direct explicit coding of Shogi
knowledge. At the same time the introduction
of UCT to Computer Go has been an even
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
bigger upheaval, again taking a more diffuse
approach to game analysis.
With this big step up in Computer Shogi,
Shotest has fallen even further behind and, for
the first time in 2009, failed to gain automatic
qualification. However this should not be the
end of the Shotest story.
I have over the last 10 years since 1999
tinkered with Shotest to try and make the
existing old program a little stronger, but
clearly this program needs it first re-write in 12
years. The original program was not well
structured to allow it to evolve, so it is almost
impossible to work on as it is. I have for a few
years been claiming I was just about to
re-write Shotest but the chance has not come
yet. However a new Shotest 2 will happen at
some point.
The temptation now might be to inherit the
Bonanza architecture and produce another way
of exploiting this methodology. However I
have other ideas. I think I could be of more use
to Computer Shogi if I found some new ideas
to contribute. During these last 10 years I have
accumulated a stock of new knowledge that I
think can be used for Shogi, when I get the
opportunity. The most important new
knowledge has come from this year. Some of
this experience comes from my Poker engine
developed for Microsoft, but also from an
unexpected new source of inspiration in puzzle
solving, as follows:
In the year 2000 at the CG 2000 Computer
Games conference, where I was presenting a
paper, I had the honour of meeting Nobuyuki
Yoshigahara the great puzzle creator. In the
west he would be most well known for his
game Rush Hour which is very widely
played. During this year I created 2 puzzle
types that belong to this type of puzzle genre.
My puzzles are clearly new with different rules.
The curious thing is that although Rush Hour is
so widely copied and very popular, it seems
that there are no new similar such deep puzzles
being created. The reason for this, as far as I
can see, is that these are much harder to solve
than conventional 2-player games. In
consequence many game developers have
probably tried and given up.
I started analysing these puzzles a year ago
and was shocked that these were indeed very
difficult. Despite my experience I was unable
to easily solve these very deep puzzles.
However after persevering I found that a
mixture of my interest search with some new
ideas that seem related to UCT, created a
solver that could solve puzzles as deep as 140
moves. At first glance this might not look
impressive, as the puzzles typically have only
about 5 legal moves, so it is easy to imagine
that to search deeply would not be so hard.
However one-side searching cannot use
alpha-beta, which means that a 10 ply search
seems a bit like a 20 ply alpha beta search.
These limitations are severe, such that it is
easy to find your program has almost ground to
a halt after only looking at 20 to 30 plies.
This progress has given me a puzzle solver
technology that can be used for a wide variety
of puzzles and already is being used to create a
series of original puzzles for an adventure
game. However I am interested in Shogi and I
can see that a Shogi program based on this
could work very well, so I am eager to do this.
It is not clear that I will have time for this in
time for CSA 2010, but work will happen soon.
My insight here is that my existing program
has allowed me to see very deeply and clearly
into the process for choosing a move. From
this I have seen how strange and artificial
minimax search is and how it imposes serious
constraints on the way positions are analysed.
From my results with puzzles I can see a way
to allow a program to search very deeply and
safely, so that horizon effects are less likely to
be an issue. Probability has been a significant
driving force for my existing program and also
plays a significant role here. This has been
influenced by UCT, but is not UCT. So the
plan is for a new Shogi program built around
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
this new technology.
At odd times in the last 10 years I have been
unable to attend the CSA Championship, but I
am still here, so expect to continue to see me
again!
In all this process and involvement with the
CSA, I would like to also pay tribute to the
organisers of these great events and to the
many competitors. They have at many stages
helped me a great deal and it has always been a
pleasure to work with them.
Shotest (The 19th WCSC)
Jeff Rollason - 2010
with ladies professional players
with Yonenaga, Kunio
(from left to right, Ido, Chihiro 1-dan, Jeff, Honda, Sayuri 2-dan) (the President of the Nihon Shogi Association)
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
第 19 回世界コンピュータ将棋選手権の結果
GPS 将棋が 8 度目の参加で初優勝
香山
健太郎
1. 選手権概要
日時
2009 年 5 月 3 日(日)~5 日(火)
場所
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田 1-20-14
早稲田大学 国際会議場
http://www.waseda.jp/jp/campus/waseda.html
主催
コンピュータ将棋協会(略称:CSA)
http://www.computer-shogi.org/
共催
早稲田大学ゲームの科学研究所
http://www.kikou.waseda.ac.jp/WSD322_open.php?KikoId=01&KenkyujoId=1P&kbn=0
電気通信大学エンターテイメントと認知科学研究ステーション
http://minerva.cs.uec.ac.jp/~ito/entcog/
協力
社団法人日本将棋連盟
http://www.shogi.or.jp/
協賛
株式会社毎日コミュニケーションズ
http://www.mycom.co.jp/
株式会社インターエコー
http://www.inter-echo.jp/
富士通株式会社
http://jp.fujitsu.com/
文部科学省
http://www.mext.go.jp/
経済産業省
http://www.meti.go.jp/
社団法人情報処理学会
http://www.ipsj.or.jp/
早稲田大学
http://www.waseda.jp/
電気通信大学
http://www.uec.ac.jp/
後援
賞品
優勝:ノートパソコン
3 位まで:楯
8 位まで:賞状
試合方法 1 日目(1 次予選)
:決勝シード・2 次予選シード計 18 チーム以外による変形スイス式トーナメント 7 回戦
2 日目(2 次予選)
:シード 15 チームと 1 次予選通過 9 チームの計 24 チームによる変形スイス式トーナメント 9 回戦
(2 次予選シード決定後に 1 チームキャンセルが出たため、1 次予選通過を 1 チーム追加)
3 日目(決勝)
:シード 3 チームと 2 次予選通過 5 チームの計 8 チームによる総当たり戦
持ち時間 すべて 25 分切れ負け
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
2. 参加者
開発者
プログラム名
CPU/クロック 総ソケット数/コア数 メモリ
OS
言語・CSA ライブラリ
1.
激指チーム
激指
Xeon/X5482
2/8
12GB
Linux
C++
3.
保木 邦仁
Bonanza
Xeon/W3570
2/8
8GB
WinXP x64
C
4.
山下 宏
YSS
Xeon/X5355
2/8
2GB
WinVista
C++
bonanza
(以上、決勝シード)
5.
恩本 明典
備後将棋
Core2Extreme/QX6850
1/4
2GB
WinVista
C++
6.
大槻知史
大槻将棋
Xeon/5365
2/8
16GB
Linux
C,Python
8.
柿木 義一
柿木将棋
Core2Extreme/QX9770
1/4
2GB
WinXP
C++
習甦
Corei7/965
1/4
3GB
WinXP
C++
しゅうそ
10.
竹内 章
11.
中谷 裕一
竜の卵
Core2Quad/Q9450
1/4
2GB
WinXP
C++
12.
Team GPS
GPS 将棋
Xeon/X5570
2/8
16GB
Linux
C++ osl-for-csa
13.
北陸先端大 TACOS チーム
TACOS
Xeon/X5492
2/8
8GB
14.
本田 啓太郎
K-Shogi
Core2Extreme/QX6700
1/4
2GB
WinXP
C++
SPEAR
Core2Extreme/QX9650
1/4
4GB
WinXP
C++
15.
ライエル グリムベルゲン
(オランダ・日本在住)
WinServer 2008
C++
16.
安武 和宏
みさき
Core2Extreme/QX6850
1/4
4GB
WinVista
C++
17.
西村 則久
マイムーブ
Corei7/920
1/4
3GB
WinVista
C++
128KB
なし
18.
伊藤 英紀
A 級リーグ指し手1号
A 級リーグ指し手1号/ 1/1
ver.小舟に揺れる 50 円玉 めの六番
19.
きのあ
20.
21.
きのあ将棋
verilog れさぴょん
Corei7/3.2GHz
1/4
6GB
WinVista
C++/C
Jeff Rollason(イギリス) Shotest
Celeron/2.16GHz
1/1
1GB
WinXP
C++
うさぴょんの育ての親
うさぴょん Ver.-2
Phenom II X4/940BE
1/4
2GB
WinVista x64 C++ れさぴょん(v3)
(以上、2次予選シード)
23.
花井 祐
WILDCAT
Core2Duo/T8100
1/2
2GB
WinXP
C++
24.
氏家 一朗
あうあう将棋
PentiumM/1.7GHz
1/1
512MB
WinXP
C++
25.
東京農工大学小谷研究室
まったりゆうちゃん
Xeon/X5450
2/8
8GB
WinXP
C
26.
山田 泰広
山田将棋
Corei7/920
1/4
3GB
FreeBSD
C
28.
村山 正樹
なり金将棋
PentiumM/1.7GHz
1/1
1.5G
WinXP
C++
29.
tomonobu masumoto
隠岐
Pentium4/3.2GHz
1/1
1GB
WinXP
Delphi
30.
電気通信大学 伊藤研究室1
HIT 将棋 開発チーム
HIT 将棋 Ver.0.44
31.
三谷 浩司
ゆめき
Core2Duo/E8600
1/2
2GB
WinVista
C++
32.
高田 淳一
臥龍
Core2Duo/T7700
1/2
2GB
Mac OS X
Java
34.
山田 雅之
ym 将棋
Core2Duo/T8100
1/2
4GB
WinVista
35.
永吉 宏之
隼
Turion64/2.2GHz
1/1
1GB
WinXP
C
36.
白砂 青松
白砂将棋
Core2Duo/P8600
1/2
4GB
WinXP x64
C++
39.
川端 一之
なのは
Phenom II X4/940BE
1/4
4GB
WinXP x64
C++
40.
佐々木 貴広
Tohu
CeleronM/353
1/1
2GB
WinXP
C++
Java れさぴょん
for Java (v1)
(第 17 回参加)
37.
時田 正彦
デーモン将棋
PentiumM/1.3GHz
1/1
1GB
Linux
C++
39.
森岡 祐一
GA 将!!!
Efficeon/TM8800
1/1
1GB
WinXP
C++
れさぴょん
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
開発者
プログラム名
CPU/クロック 総ソケット数/コア数 メモリ
OS
KCC 将棋
Corei7/965
2/4
12GB
WinVista
VC++
鈴木将棋
Core2Duo/T8300
1/2
4GB
WinVista
C++
井上将棋
Core2Duo/T9300
1/2
4GB
WinXP Pro
VB,C++
言語・CSA ライブラリ
(第 16 回参加)
3.
KCC 将棋チーム
(北朝鮮・代理操作)
(第 13 回参加)
40.
鈴木 康夫
(第 9 回参加)
39.
井上 浩一
(以下、初参加、抽選順)
―.
下山 晃
Blunder
Phenom X4/9550
1/4
2GB
WinXP x64
C#
―.
山本一成、小貫啓史
ponanza
Core2Duo/T7300
1/2
2GB
WinXP
C#
Xeon/E5430 x 1 +
2/8
4GB
Xeon/X5472 x 2
2/8x2
8GBx2
WinXP x64
C
―.
伊藤研究室 2
文殊
文殊開発チーム
―.
稲垣 耕作
漫遇将棋
Core2Duo/T7250
1/2
4GB
WinXP
C++
―.
草野 一彦
Tohske
Core2Duo/T7200
1/2
2GB
WinXP
C++
Bonanza
合計 42 チーム
※メンバー詳細
チーム名
メンバー(○は代表者)
1.
激指チーム
鶴岡慶雅、○横山大作、丸山孝志、高瀬亮、大内拓実
6.
大槻知史
○大槻知史、朽名夏麿、荒木淳
12.
Team GPS
田中哲朗、金子知適、森脇大悟、副田俊介、林芳樹、○竹内聖悟
13.
北陸先端大 TACOS チーム
○橋本剛、竹歳正史、長嶋淳、松原圭吾、佐野晶彦、村田朋紀、濱田剛旭、橋本隼一、松井利樹
19.
きのあ
○山田元気
21.
うさぴょんの育ての親
○池泰弘
25.
東京農工大学小谷研究室
○佐藤直人、築地毅、柴原一友、小谷善行
30.
電気通信大学 伊藤研究室1
HIT 将棋 開発チーム
清家章平、大口良輔、○伊藤毅志
(第 16 回参加)
3.
KCC 将棋チーム
○An KyongNam
(初参加)
―.
伊藤研究室 2 文殊開発チーム
○小幡拓弥、塙雅織
(注)
・
シード順,初参加は抽選順
・
左端の数字は,前回(または,最終参加時)順位
最近の申込数と最終参加(参考)
申込
最終自主参加
第 15 回
52
39
75%
第 16 回
52
42
81%
第 17 回
47
40
85%
第 18 回
52
39
75%
第 19 回
52
42
81%
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
※使用手法
全幅探索か選択探索か、
プログラム名
読みの速度
並
bo
実
P
fp
np
○
○
○
○
df
bb
lr
手法の特徴
および読みの深さ
選択探索
激指
○
○
実現確率探索
最深部 20 手前後
Bonanza
全幅 10~15
YSS
選択探索
備後将棋
選択、9~14
大槻将棋
選択と全幅の組み合わせ
110 万手/秒
○
○
○
○
○
100~180 万手/秒
○
30x8 万手/秒
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
0.5 手延長
○
進行度を考慮した学習
選択 12 万手/秒
柿木将棋
選択 12 手 全幅 10 手
○
選択探索と全幅探索を組み合わせた
ハイブリッド方式
全幅 30 万手/秒
習甦
全幅
○
○
○
○
○
竜の卵
選択探索
○
○
○
○
GPS 将棋
選択的、PV で 16 程度
120 万手/秒
○
△
△
○
○
○
TACOS
選択
100 万手/秒
○
○
○
○
○
○
K-Shogi
選択探索
20 万手/秒
○
SPEAR
全幅、12 手
100 万手/秒
○
○
○
○
○
○
みさき
全幅 8~11 手+Qsearch
50 万手/秒
○
○
○
○
○
○
○
マイムーブ
全幅、序盤 17 手 終盤 12 手
120 万手/秒
○
○
○
○
○
○
全幅 11~13 手程度
1000 万手/秒
○
○
○
選択 20~30
40~50 万手/秒
△
オープンソース
○
A 級リーグ
○
○
FPGA
○?
評価値の評価システム
指し手1号
きのあ将棋
○
No Selective Search
Shotest
9 ply main
1.4 万手/秒
Interest Search, Super-SOMA
17 ply some lines
(未だに、証明数だけを使用して、
反証数を使用していません。)
深さ2まで全幅、選択探索。
Bonanza method を使って、いい感じの
うさぴょん
静止探索を含めて、
Ver. -2
序盤で 14 手、
0.5~30 万手/秒
○
○
○
値に収束したと思ったのですが、
自己対戦で手打ちのパラメータの
終盤で 6 手程度。
方が強かったので、手打ち
パラメータで参加しています。
WILDCAT
選択探索、深さ 8
あうあう
全幅 14 分以内までは 9 手、
将棋
それ以降は 7 手
15 万手/秒
○
○
○
○
まったり
全幅
50 万手/秒
山田将棋
選択、10+延長 5 手くらい
300kLPS 500kNPS
なり金将棋
全幅 約 5 手
約 10 万手/秒
○
○
○
ゆうちゃん
隠岐
HIT 将棋
選択探索 7 手程度
Ver.0.44
○
○
○
○
○
○
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
全幅探索か選択探索か、
読みの速度
プログラム名
並
bo
実
P
fp
np
df
bb
lr
手法の特徴
および読みの深さ
Perticle Swarm Optimization で
ゆめき
150 万手/秒
○
○
パラメータを自動調整、
部分局面で指し手を記憶
臥龍
選択探索、5~7 手
3 万手/秒
○
モンテカルロ木探索を併用(UCT)、
ym 将棋
全幅探索 深さ 4~5
1.5~2 万手/秒
○
○
○
○
評価関数のパラメータ調整を
自己対戦で行った。
隼
選択 9 手
白砂将棋
選択 7 手
10 万手/秒
○
全幅 基本 6~9 手
なのは
6~20 万手/秒
○
延長部 12~17 手
Tohu
選択探索 深さ 4
デーモン
選択探索
将棋
GA 将!!!
全幅 だいたい 3~4 手
KCC 将棋
選択探索 深さ 15
鈴木将棋
全幅 7~8 手
井上将棋
全幅探索 4 手
Blunder
全幅、6~12
1 万手/秒
強化学習によるパラメータ調整
○
○
○
○
○
○
○
○
フル定跡のみ
オーダリング、時間制御、
4 万手/秒
○
○
○
○
○
○
○
枝刈りの学習
全幅です。Depth は
ponanza
10 手いけたら
0.9 万手/秒
○
○
○
○
○
○
○
いい方です。
同じプログラムを複数起動し、
文殊
全幅探索
30~50 万手/秒
○
○
○
多数決で指し手を決定。
複雑系進化法
漫遇将棋
選択探索、5 手読み
1 万手/秒
(カオスの縁(ふち))
Tohske
全幅 5~9 手程度
2 万手/秒
○
○
○
○
○
並:並列化
bo:bonanza 学習
実:実現確率探索
P:PVS
fp:futility pruning
np:null move pruning
df:df-pn
bb:bitboard
lr:late move reduction
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
3. 結果
3.1 決勝
対局者名
1.
激指
2.
Bonanza
3.
YSS
4.
KCC 将棋
5.
文殊
6.
GPS 将棋
7.
習甦
8.
大槻将棋
勝敗
SB
順
勝点
MD
位
Bona
2-5-0
2.0
●
●
2.0
0.0
文殊
YSS
激指
3-4-0
8.0
先●
○
●
先○
3.0
2.0
大槻
GPS
激指
Bona
KCC
1-6-0
3.0
先●
●
●
●
先○
●
1.0
0.0
GPS
大槻
文殊
Bona
習甦
激指
YSS
4-3-0
7.0
先●
先●
●
○
○
先○
先○
4.0
3.0
激指
YSS
KCC
習甦
Bona
大槻
GPS
5-2-0
14.0
○
○
先○
先○
先●
●
○
5.0
7.0
KCC
激指
Bona
YSS
大槻
習甦
文殊
6-1-0
17.0
○
先○
○
先○
先○
○
先●
6.0
10.0
YSS
Bona
激指
文殊
KCC
GPS
大槻
1-6-0
1.0
○
先●
●
●
先●
先●
●
1.0
0.0
Bona
KCC
YSS
激指
GPS
文殊
習甦
6-1-0
16.0
○
○
先○
先○
●
先○
先○
6.0
10.0
1 回戦
2 回戦
3 回戦
4 回戦
5 回戦
6 回戦
7 回戦
8 回戦
9 回戦
ym 将
A級
GPS
Blun
うさ
大槻
柿木
みさき
きのあ
5-4-0
○
先○
●
●
先○
●
先●
○
先○
5.0
あう
マイ
Blun
KCC
文殊
備後
TACOS
GPS
竜の卵
6-3-0
○
○
先○
先●
●
先○
○
●
先○
6.0
臥龍
みさき
文殊
竜の卵
TACOS
WILD
備後
習甦
KCC
5-4-0
先○
○
●
●
先●
先○
○
先○
先●
5.0
山田
SPEAR
竜の卵
文殊
Blun
KCC
GPS
柿木
A級
6-3-0
○
先○
先○
先○
○
●
●
●
先○
6.0
WILD
K-Sho
習甦
柿木
きのあ
文殊
Blun
A級
大槻
5-4-0
○
先○
●
先○
先○
先●
●
○
●
5.0
ゆめき
TACOS
備後
きのあ
KCC
マイ
習甦
大槻
文殊
7-2-0
○
先○
先○
○
●
○
先○
先○
先●
7.0
Blun
GPS
あう
山田
柿木
きのあ
大槻
文殊
うさ
4-5-0
先●
●
先○
○
○
先○
先●
●
●
4.0
文殊
竜の卵
臥龍
A級
ゆめき
山田
SPEAR
きのあ
Blun
6-3-0
●
●
先○
●
先○
先○
先○
○
先○
6.0
KCC
習甦
うさ
Shot
A級
Blun
K-Sho
ゆめき
山田
5-4-0
先●
●
○
先○
先○
●
●
先○
○
5.0
1 回戦
2 回戦
3 回戦
4 回戦
5 回戦
6 回戦
7 回戦
文殊
GPS
習甦
大槻
YSS
KCC
先●
●
先○
●
先○
大槻
習甦
GPS
KCC
先●
○
先●
習甦
文殊
先●
6
5
7
4
3
1
8
2
3.2 2 次予選
対局者名
1.
備後将棋
2.
大槻将棋
3.
柿木将棋
4.
習甦
5.
竜の卵
6.
GPS 将棋
7.
TACOS
8.
K-Shogi
9.
SPEAR
勝敗
ソル
SB
順
勝点
コフ
MD
位
42.0
47.0
43.0
51.0
46.0
48.0
43.0
37.0
45.0
19.0
12.0
24.0
18.0
18.0
12.0
30.0
19.0
22.0
13.0
32.0
23.0
14.0
8.0
21.0
16.0
19.0
12.0
11
*5
10
*4
8
*3
14
6
9
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
対局者名
勝点
コフ
MD
位
5 回戦
6 回戦
7 回戦
8 回戦
9 回戦
うさ
柿木
KCC
ym 将
マイ
A級
臥龍
備後
ゆめき
4-5-0
先○
先●
●
先○
●
●
○
先●
先○
4.0
Shot
大槻
きのあ
うさ
みさき
GPS
A級
山田
あう
4-5-0
○
先●
●
○
先○
先●
●
●
○
4.0
A 級リーグ
きのあ
備後
Shot
K-Sho
SPEAR
みさき
マイ
竜の卵
習甦
4-5-0
指し手 1 号
先●
●
○
先○
●
先○
先○
先●
●
4.0
A級
ym 将
マイ
GPS
竜の卵
TACOS
Shot
K-Sho
備後
4-5-0
○
先○
先○
先●
●
●
○
先●
●
4.0
マイ
あう
A級
SPEAR
山田
臥龍
きのあ
WILD
ym 将
4-5-0
先●
○
先●
●
先●
○
先●
○
先○
4.0
みさき
臥龍
SPEAR
マイ
備後
ゆめき
WILD
あう
TACOS
4-5-0
●
○
先●
先●
●
●
先○
先○
先○
4.0
SPEAR
山田
みさき
大槻
GPS
習甦
文殊
Blun
柿木
9-0-0
○
先○
先○
○
先○
先○
○
先○
○
9.0
K-Sho
WILD
柿木
習甦
大槻
竜の卵
KCC
TACOS
GPS
7-2-0
先○
○
先○
●
先○
○
先●
先○
○
7.0
TACOS
ゆめき
大槻
備後
習甦
SPEAR
竜の卵
KCC
K-Sho
5-4-0
○
先○
●
先○
先●
先○
先○
●
●
5.0
GPS
Blun
ym 将
臥龍
K-Sho
うさ
あう
SPEAR
みさき
3-6-0
先●
●
●
先○
●
先○
先○
●
●
3.0
竜の卵
文殊
山田
あう
ym 将
柿木
うさ
Shot
臥龍
3-6-0
先●
先●
●
先○
○
●
●
先●
○
3.0
習甦
KCC
WILD
TACOS
Shot
K-Sho
ym 将
マイ
SPEAR
4-5-0
先●
●
先○
先●
○
●
○
先○
先●
4.0
柿木
うさ
K-Sho
ゆめき
あう
Shot
みさき
ym 将
WILD
0-9-0
●
先●
●
●
先●
先●
先●
●
先●
0.0
あうあう
大槻
Shot
TACOS
WILD
臥龍
ym 将
ゆめき
うさ
マイ
1-8-0
将棋
先●
先●
●
●
○
先●
●
●
先●
1.0
備後
きのあ
ゆめき
みさき
WILD
あう
山田
臥龍
Shot
3-6-0
先●
●
先○
●
先●
○
先●
先○
●
3.0
マイムーブ
13.
きのあ将棋
14.
Shotest
うさぴょん
Ver. -2
16.
KCC 将棋
17.
文殊
18.
Blunder
19.
ゆめき
20.
WILDCAT
21.
山田将棋
22.
臥龍
24.
順
4 回戦
11.
23.
SB
3 回戦
みさき
15.
ソル
2 回戦
10.
12.
勝敗
1 回戦
ym 将棋
37.0
38.0
43.0
42.0
28.0
29.0
49.0
51.0
49.0
35.0
33.0
44.0
33.0
31.0
28.0
10.0
6.0
13.0
8.0
18.0
8.0
15.0
8.0
7.0
4.0
8.0
4.0
49.0
38.0
36.0
26.0
22.0
14.0
5.0
1.0
4.0
1.0
14.0
7.0
0.0
0.0
0.0
0.0
4.0
1.0
17
16
13
15
19
18
*1
*2
7
20
21
12
24
23
22
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
3.3 1 次予選
対局者名
1.
2.
3.
SB
順
勝点
コフ
MD
位
3 回戦
4 回戦
5 回戦
6 回戦
7 回戦
Tohs
白砂
Blun
臥龍
文殊
pona
山田
5-2-0
○
先○
先●
○
●
先○
○
5.0
漫遇
隼
文殊
ym 将
Blun
まっ
KCC
4-3-0
○
○
先●
先○
●
先○
●
4.0
まったり
文殊
ym 将
漫遇
鈴木
ゆめき
あう
なのは
4-3-0
ゆうちゃん
先●
○
先○
○
先●
●
先○
4.0
pona
臥龍
鈴木
隠岐
KCC
Blun
WILD
4-3-0
○
先○
○
先○
●
先●
先●
4.0
Blun
ゆめき
Tohs
なのは
Tohu
臥龍
デー
4-3-0
●
先●
○
先○
○
●
先○
4.0
井上
HIT
KCC
山田
pona
白砂
隼
3-4-0
○
先○
先●
●
●
●
先○
3.0
HIT 将棋
鈴木
隠岐
pona
白砂
漫遇
井上
Tohu
2-4-1
Ver. 0. 44
先●
●
●
●
先○
先△
○
2.5
KCC
なり金
井上
pona
まっ
文殊
臥龍
5-2-0
●
○
先○
先○
○
先●
○
5.0
GA 将
山田
なのは
WILD
Tohs
なり金
ゆめき
4-3-0
先○
●
○
先●
○
先○
先●
4.0
デー
まっ
隼
あう
鈴木
KCC
白砂
4-3-0
先○
先●
○
●
先○
●
○
4.0
Tohu
あう
ym 将
デー
井上
Tohs
隠岐
2-5-0
○
先●
先●
●
先○
●
●
2.0
なのは
WILD
GA 将
HIT
デー
隠岐
ym 将
3-4-0
先●
●
●
先○
○
先○
先●
3.0
白砂
Tohs
臥龍
なり金
GA 将
鈴木
まっ
3-4-0
○
先●
先●
●
先○
○
●
3.0
隼
漫遇
デー
Blun
なり金
GA 将
HIT
1-5-1
先●
○
△
先●
先●
●
先●
1.5
ym 将
文殊
Tohu
隼
白砂
漫遇
なり金
2-4-1
●
●
先△
先○
先●
○
●
2.5
臥龍
pona
白砂
Tohs
なのは
Tohu
井上
3-4-0
●
先●
先○
先●
●
先○
○
3.0
ゆめき
Blun
隠岐
文殊
山田
ym 将
あう
7-0-0
先○
○
○
○
先○
先○
先○
7.0
HIT
井上
山田
まっ
ym 将
なのは
漫遇
3-4-0
○
先○
先●
先●
●
先●
○
3.0
隠岐
鈴木
ゆめき
漫遇
隼
HIT
GA 将
1-5-1
先●
●
●
先○
●
△
先●
1.5
WILDCAT
あうあう
将棋
山田将棋
5.
なり金将棋
6.
隠岐
8.
ゆめき
9.
臥龍
10.
ym 将棋
11.
隼
12.
白砂将棋
13.
なのは
14.
Tohu
15.
ソル
2 回戦
4.
7.
勝敗
1 回戦
デーモン
将棋
16.
GA 将!!!
17.
KCC 将棋
18.
鈴木将棋
19.
井上将棋
29.0
28.0
25.0
30.0
25.0
23.0
15.0
29.5
28.0
25.5
20.5
23.0
25.0
19.0
20.5
20.0
31.0
19.0
18.5
18.0
11.0
10.0
6.0
10.0
6.0
13.0
6.0
11.0
5.5
6.0
2.0
1.5
0.0
16.5
11.0
14.0
7.0
10.5
5.5
3.0
0.0
8.0
2.5
9.0
3.0
0.0
0.0
2.0
0.0
6.0
1.5
31.0
22.0
4.0
1.5
0.0
0.0
*5
*8
11
*6
10
16
20
*4
*7
*9
21
15
14
22
19
17
*1
18
23
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
対局者名
20.
Blunder
21.
ponanza
22.
文殊
23.
漫遇将棋
24.
Tohske
勝敗
ソル
SB
順
勝点
コフ
MD
位
1 回戦
2 回戦
3 回戦
4 回戦
5 回戦
6 回戦
7 回戦
なり金
KCC
WILD
Tohu
あう
山田
文殊
5-2-0
先○
先●
○
○
先○
○
先●
5.0
山田
GA 将
HIT
ゆめき
隠岐
WILD
Tohs
3-4-0
先●
○
先○
●
先○
●
先●
3.0
まっ
デー
あう
KCC
WILD
ゆめき
Blun
6-1-0
○
先○
○
先●
先○
○
○
6.0
あう
Tohu
まっ
井上
HIT
デー
鈴木
0-7-0
先●
先●
●
●
●
先●
先●
0.0
WILD
なのは
なり金
GA 将
臥龍
隼
pona
4-3-0
先●
○
先●
○
先●
先○
○
4.0
○:勝ち ●:負け △:引き分け
31.5
26.5
32.5
19.0
24.0
18.5
12.0
8.5
3.0
25.5
18.0
0.0
0.0
11.0
6.0
*3
13
*2
24
12
先:先手(後手は空白)
順位欄の*は予選通過
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
第 19 回世界コンピュータ将棋選手権 準優勝記
大 槻 知 史
1.はじめに
今年も、コンピュータ将棋選手権に参加しました。大
無理目で、▽45 歩からうまく飛角を交換し、24 手目の▽
74 角から▽38 角成が決め手となった。
幸先良いスタート。
槻将棋は、二次予選がぎりぎり通過だったにも関わらず、
決勝で 6 勝 1 敗で準優勝という信じられない結果となり、
二回戦は読みが深く安定感抜群のマイムーブ。一触即
光栄にも本誌に執筆の機会を与えて頂きました。皆様の
発の相中飛車の将棋は、たまにあっという間に敗勢にな
努力と活躍により今年も本当に素晴らしい大会であった
ることがあり少し怖い、と思って見ていた。マイムーブ
と思います。特に瀧澤先生を筆頭とし、運営に当たられ
は壁金を前進させ、9 筋を狙うとみせたがフェイントだっ
た方々には感謝です。数年ぶりの会場変更ということで、
た。▽24 角は少し変わった手に見えたが、▲97 角と受け
大変だったのではないでしょうか? 関係者の皆様本当に
るしかないようでは少し得したかもしれない。以下、角
お疲れ様でした。
を追うと形が乱れると思っている大槻将棋と、角を追い
たいマイムーブの微妙な攻防の結果、うまく大槻将棋が
2.大会前の話
大会前は、正則化の論文を読んだり、ムーブオーダリ
優勢となり、再び角交換になったところで勝負あった。
以下は的確に寄せきり 2 勝 0 敗となった。
ングのための学習を検討したりしましたが、結局どれも
うまくいきませんでした。そこで 2 月くらいからは、去
三回戦の相手は、何と初出場で決勝次点となった
年バージョンの改善に方針転換しました。去年からの技
Blunder。二次予選の台風の目の一つとなったソフト。オ
術的な差分は、実はあまり大きくなく、やったこととし
ーソドックスな相矢倉の形から 26 手目ちょっと早い▽
ては、
85 桂。これに▲88 銀と催促したため、ここからは死ぬ気
・ ボナメソ(Bonanza メソッドのこと、以下同じ)ベース
で受けに回る展開に。
・・・なるはずが、先手も攻め合い
の評価関数学習手法、feature の洗練
に出て大乱戦に。46 手目▽76 銀と行ったのは少し勿体無
・ 去年まで時間を使わずに負けていたのを反省し、序盤
かったか。以下は切れ気味になった。ところが 67 手目▲
からじっくり考えるようにした
64 香打から▲63 香成の構想はさすがに無茶で、香を渡し
たために逆に▽62 香が成立し、猛攻を浴びた。以下は難
くらいでした。去年バージョンと比較しても勝率 6 割程
しい攻防だったが、どこかで逆転したようだ。冷や汗も
度でしかなく、あまり強くなっていませんでした。
のの一局だったが、3 勝 0 敗となった。まだまだいくらで
今年は Bonanza のソース公開により、ともかく Bonanza
も伸び代はあると思われるので、今後が楽しみなソフト。
4.0 には勝てるソフトを作らねば決勝進出はないだろう
と思っていましたが、どうしても追いつけない状況でし
四回戦の相手は 3 年ぶり出場の KCC 将棋。対抗形の将
た。また、大槻将棋を密かに floodgate に投入したとこ
棋でひとまず囲ってと思っていたら、32 手目▽14 歩(図
ろ、文殊や GPS 将棋相手ではかなり苦戦という予想でし
1)。何と突き越された方からの端の逆襲。今大会最も衝
た。その上、未知数の KCC 将棋、去年 1 年目で大健闘し
撃を受けた手であった。強い人が見ると「ある手」らし
た習甦など強豪だらけという印象で、例年どおり決勝進
いが、実戦の 44 手目▽25 桂位まで読み切る必要があり、
出には厳しい戦いが予想されました。
難しいと思うのだが・・・。桂跳ねの時点では、もう受
けがなく駒損になった。以下は無理攻めを的確にとがめ
3.二次予選(5/4)
られ完敗。思考時間 4 分で吹っ飛ばされた。二次予選は
3.1 一回戦から五回戦
やっぱり厳しいなあと感じ始めたのはこの頃。この二次
一回戦の相手のあうあう将棋さんは一次予選からの勝
ち上がり組。オーソドックスな立ち上がりから、あうあ
う将棋が 11 手目▲36 飛と歩を取る。これは多分ちょっと
予選の KCC は文句なく最強だったのではないか? 決勝は
何か設定ミスがあったらしく、残念なことになった。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
47 手目▲24 歩と打たれては、抑え込まれてどうしようも
ない形勢。どこかで踏み込まれたらかなり厳しい将棋に
なったと思うが、TACOS に誤算があったか。96 手目▽77
桂成となっては形勢が混沌としてきた。ただしこの時点
で既に思考時間に 10 分程度の差がついており、大槻将棋
には厳しい展開となった。以下は本当に難解な訳の分か
らない二転三転の終盤戦だったが、最後は偶然ちょっと
難しい詰みを発見できたようで、時間切迫の中何とか勝
ちを発見した(図 2)。相当危なかったが辛勝。今大会最も
図 1 KCC 将棋の驚愕の一手
大きな 1 勝であった。これで 5 勝 2 敗。何とか決勝まで
後 1 勝か(?)という所までこぎつけた。
五回戦の相手は、floodgate でとてつもない rating を
叩き出していた文殊。Bonanza 6 台の合議制(多数決)とい
う新たな試みをした今大会注目のソフト。読みが不安定
な場合に思考時間を延長するなどの工夫もあり、今後の
可能性を感じた。まともにやっても勝つ気がしなかった
ので、右四間に誘導。30 手目▽46 角と歩を取り駒得した
ところは、ちょっと有利になったかと思ったが、最近は
駒損に対し手得を主張できるようになってきたのかもし
れない。対して大槻将棋は、▽42 銀▽33 角という愚形を
図 2 TACOS との大熱戦
作り、逆に劣勢になった。53 手目▲75 歩がうまい手で、
74 に誘導された銀は最後まで働くことはなかった。最後
は 109 手目▲77 歩と馬筋を止めたのが当然ながら好手で、
この時点で 7 連勝の KCC と、6 勝 1 敗の GPS はほぼ確定。
以下はいくばくもなく敗北した。3 勝 2 敗。後 1 個しか負
以下例年通り 2 敗 3 敗チーム
けられない状況となった。
だらけの大混戦となった。
3.2 六回戦から九回戦
―死のロード―
六回戦の相手は備後将棋。完全スイス式なので、ここ
からの相手は全て強豪。備後将棋はここ数年の決勝の常
八回戦は GPS 将棋。最近、評価関数の学習手法に新し
いブレークスルーを起こし、ボナメソの新境地を切り開
いた。
連ソフトだが、何とここでは共に 2 敗の生き残り決定戦
オーソドックスな対抗形から 40 手目▽88 歩と打ち、駒
となった。この備後将棋が今大会は 14 位。何と二次予選
得が確定したが、単純ではなかった。48 手目▽35 歩も急
のレベルの上がったことか。
所かと思ったが、51 手目▲55 角から▲34 香と上手く逆用
オーソドックスな出だしから、47 手目先手から▲45 歩
されてしまった。37 の角よりも 31 の金の価値が高いとい
の仕掛け。51 手目▲45 桂は薄くなるので気持ち悪く思え
う判断には恐れ入った。ここではまだ難しかったが 58 手
たが、結果を見ると一応無理とも言えないのだろうか。
目の▽92 角で決定的に悪くした。この角は利きの数が多
57 手目に角も桂も成らずに ▲64 歩がプロ好みの一手と
く一見働いていそうに見えるが、美濃囲いに対しては一
いう感じで、ここからは徐々に良くなった気がする。う
路違うだけで全くの無駄駒になるらしい。最後も難しい
まく相手の攻めをかわしながら両桂を跳ねたところは多
かと思ったが、95 手目の▲33 香が気付きにくい好手で、
分優勢。その後ちょっともたついた感もあったが、きっ
一気に寄ってしまった。5 勝 3 敗。今年も後がなくなった。
ちり一手差を保って制勝し、4 勝 2 敗となった。
運命の九回戦の相手は竜の卵。3 敗チームが多く、勝っ
七回戦の相手は TACOS。去年と同じく 7 回戦の勝負所で
ても決勝進出は他力の微妙な展開だったが、まずは勝つ
当たった。急戦の立ち上がりから TACOS が▲34 歩の拠点
しかない。竜の卵は、選手権では 7 年連続 8 回目の対戦。
を上手く利用し、少しずつ優位を拡大する展開となった。
しかも毎回ラス付近の勝負将棋で当たり、大抵勝った方
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
が決勝に行っている。今年も大一番での勝負。本当に信
はあまり思っていなかったが、運良くコンピュータが必
じられない巡り合わせである。こちらだけ穴熊に組みあ
ずしも得意ではない横歩取りになったのが勝因かもしれ
がった段階で戦いが始まり少し良いかと思ったが、強引
ない。
に飛車を成られた。ただちょっと駒不足気味で切れ模様。
切らしにいくかと思ったが、果敢に寄せに出て快勝した。
これで 6 勝 3 敗。後は他の展開次第。
3.3 九回戦の後で
6 勝 3 敗となったものの、まだ他力の状態。文殊・習甦
は共に勝って 3 敗を守りほぼ決勝進出確定。残る椅子1
つをかけて 3 敗の 3 チームが争う構図となりました。
K-Shogi 対 Blunder の 3 敗対決 が命運を握る状況と分か
っていたので、K-Shogi の応援に回りました。最後の最後
まで残った対局の結果は K-Shogi の勝ち。この瞬間最後
図3
Bonanza 戦の好手▽63 角
の決勝進出チームが決定しました。運命の針は大槻将棋
に振れ、5 位で決勝進出!!
これで全敗はなくなったと喜んでいたら、何と横では
結果的にもし勝敗が逆になっていた場合、ソルコフ同
GPS 将棋が KCC 将棋に勝利、よく見たら文殊も勝ってい
点 SB1 点差という歴史的僅差で Blunder の決勝進出が決
て、最後に残った YSS-習甦も YSS 敗勢とのこと。こうい
まっていたようです。
う偶然もあるのだなあと思っていたが・・・。
今年も長い一日になりましたが、熾烈さを増す二次予
選を抜け、何とか今年もファイナリストに名を連ねるこ
とができました。
二回戦は、初戦 GPS に負けるまで予選 16 連勝、しかも
昨日圧倒された KCC 将棋戦。昨日圧敗したので、困った
時の右四間。と言っても別に作戦勝ちになるわけでもな
4.決勝(5/5)
いのだが・・・。本局は運よく右四間最高形に組み上げ
さて決勝。前日天国と地獄の間を彷徨ったこともあり、
ることができた。これでもう満足と思っていたら、どう
この日はある意味得した気分で、緊張感はまったくあり
も KCC が変なのだ。29 手目▲78 飛と回ってすぐ▲75 歩と
ませんでした。全敗しても仕方がない位にしか思ってい
来るのかと思ったら▲48 金と自重し、35 手目▲65 歩とむ
ませんでした。もちろん前日からバージョンはそのまま
しろ後手から仕掛けたいような所から開戦。さらにちょ
でした。
っと勿体無い▲77 銀打など少しずつ失点を重ねた感じ。
4.1 一回戦から四回戦
―革命!?―
さらに 51 手目▲38 金が悪手で、直後に▽66 歩とされて
初戦は Bonanza。今年は最後にボナメソ学習の探索深さ
は、かなり不利になったようだ。後で KCC が前日バージ
を 1 増やしたらかなり強くなったとのこと。そういう発
ョンから実は弱くしてしまった、という風説が流布され
想はないこともなかったが、過去の実験ではあまり上手
ていたが、棋譜を見返すと、信憑性が高い気もしてくる。
くいかないと切り捨てていた。
この後は、駒を取ったり桂馬をダブル二段活用したりと
選手権では珍しい横歩取り。そういえば去年も初戦激
気持ち良い手が続き勝勢に。ただここからの KCC の粘り
指に横歩取りであっという間に吹っ飛ばされた記憶が。
はさすが。これに対し辛い手を続け、解説では「友達い
今年は反省して序盤でもじっくり考えるようにしたが、
らないの?」を連発されていたようだ。優勝候補筆頭の KCC
果たして効果があったか? 32 手目▽33 飛は、駄目そうな
は圏外に去った。
手だなと思っていたが、後で調べると定跡の一つではあ
この将棋はかなり長かったのだが、この間、再び下位
るらしい。その後取った飛車を打ち込まれて怖い形にな
チームの朗報が次々と入った。何と 2 回戦までで、下位 4
ったが、ぎりぎり耐えていたようだ。74 手目▽63 角(図
チームの 7 勝 1 敗。これは偶然ではないのか? 会場の雰
3)が解説で取り上げられた好手で、この後この角がよく
囲気も騒然としてきた。
働いた。中央で小競り合いが続いたが、先手の飛車を追
える展開となりよくなった。102 手目▽56 桂は格好良い
三回戦の相手はここまで何と 2 連敗の YSS。簡単に勝て
決め手。今大会一番の好局だった。Bonanza に勝てると
る相手ではないが、今日は何とかなりそうな雰囲気もあ
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
った。後手の囲いが完成する前に銀交換となったため有
連勝で、優勝はこの 3 チームに絞られた。また決勝シー
利かと思ったが、 46 手目▽86 飛と飛車先交換されて少
ド 3 チームはシード陥落が確定した。ついに完全なる革
し悪いか? さらに 55 手目▲82 銀は負ければ敗因となる
命が現実となり、最早誰もが下位チームの実力を疑い得
微妙な手。ただ意外に後手に手がなかったようで、飛車
ない展開となった。ただ私はこの時点でも全くドキドキ
交換となっては囲いの差が生きてくる展開。75 手目▲76
はなかった。統計的事実として、少なくとも文殊には勝
歩が、角を見捨てて竜を引き付ける狙いの手。真実は微
てない確信があったので。
妙だが、大槻将棋はこの局面をかなり高く評価していた。
この後飛車を閉じ込めながら有利にしていくさまは、ボ
4.2 五回戦から七回戦
―王者決定―
ナメソの威力が遺憾なく発揮された感じ。以下、と金が
五回戦は、GPS 戦。戦前は、GPS 将棋さんには失礼なが
できて支え切れなくなった。YSS 相手にこんな良い将棋が
ら、おそらく全敗対決で、初勝利を巡る戦いになると考
指せるようになるとは、数年前の力の差からは信じられ
えていた。いやはや全勝対決とは誰が予想しただろうか。
ない思いであった。
今大会の優勝を占う大一番で注目を浴びたので、良い将
ここまで文殊、GPS、大槻将棋が 3 連勝、通常右上が白
くなり左下が黒くなるはずのリーグ戦の表が、今日は白
と黒が反転し、何だか見慣れない不自然な表となった。
棋になって欲しいと思っていた。
相穴熊からいきなり角交換する決戦。この瞬間は後手
の方が堅く有利かと思ったが、▽88 角成から▽21 金は少
し強引だったか。穴熊を薄くする旨みを感じて行ってし
四回戦の相手は、今まで簡単に吹っ飛ばされ続け、ほ
まったと思うが、11 の金も相当のマイナス。結局この金
とんど将棋になったことがない激指。今日の勢いをもっ
が最後まで「泣いた」
。ここは先手玉が薄くまだまだやれ
てしても流石に勝つのは難しいだろうと思っていた。早
るかと思ったが、GPS の飛車を抑え込む感覚、玉に銀を引
い▲36 歩に 22 手目▽55 角と後手の角が誘い出され、手
き付ける感覚、が実に優れていた。二枚目のと金を作っ
得に成功。52 手目▽46 歩は少し嫌な手だったが、構わず
たのも幸便で、敗勢。84 手目▽75 歩からは悪いなりに
飛角交換を許したのが意外に良かったか?
ここで端か
上手く手を作ったと思うが、受けも絶品でどんどん形勢
ら行くか左から攻めるか最善手が揺れる。端に行けば何
に差を付けられた。最後まで▽11 金を取らないのもさす
となく勝ちそうな気がした。
「端に行け」と念じていたら、
が。昔のソフトならとっくに取っていただろう。今年の
61 手目制限時間ぎりぎりで▲15 歩(図 4)に変わった。運
GPS は、こういう真綿で首を絞めるような攻めが実に上手
が良かった。ここからはもう少し直接的な手を選ぶかと
かったように感じた。4 勝 1 敗。
思ったら、馬と竜を自陣に引き付ける曲線的な展開にな
直接対決に負けたため、選手権のルールではこれでほ
り少し微妙に。難しくなったが、97 手目▲32 馬でうまい
とんど優勝の目がなくなった。文殊も何と弟分
寄せが見えたか。最後は後手が王手ラッシュをかけてき
(?)Bonanza に敗れたため GPS 将棋が優勝に王手をかけた。
て勝ちになった。激指に勝ったのは本当に嬉しかった。
激指は最初に選手権に参加した年の優勝チームで、長年
の目標だったので。
六回戦は文殊。前日は変な作戦で負けたので、今日は
正攻法で行くことに。将棋は穴熊の、いわゆる「パンツ
脱ぎ」の好ましくない展開に。さらに玉頭に歩を垂らさ
れて、負けパターンに嵌ったと思っていた。先手の角筋
は大きいのだが、67 手目▲75 銀と使うようでは、またこ
の銀が最後に「泣く」展開になるかと思っていた。角が
ぼろっと取れて喜んだのもつかの間、76 手目▽47 香が見
た目以上に厳しい。みるみる評価関数が下がっていく。
ただ 90 手目▽18 飛とか 92 手目▽43 金とかの組合せがち
ぐはぐで、この後も文殊に少しずつ感触の悪い手が出て、
逆転したようだ。最後は▲75 銀もしっかり働き、勝ち将
棋鬼の如しの展開。絶対勝てないと思っていた文殊にま
図4
激指戦初勝利を呼んだ▲15 歩
これで 4 勝 0 敗。ここまで大槻将棋、文殊、GPS が 4
で快勝し 5 勝 1 敗。
文殊が負け GPS 将棋が勝利したため GPS 将棋の優勝決
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
定!! 大槻将棋も何と 2 位確定。横にいた GPS チームは
に克服されつつあるように見えます。ただこの課題も 1、
優勝インタビューを受けていた。あの将棋を勝っていた
2 年の内にほぼ解決されていくのではないか、と思います。
ら自分がインタビューを受けていたかも、とはあまり思
抱負としては、来年こそは独自の手法で勝負をかけた
わず、どちらかというと、よくも 2 位になったものだと
いう感慨の方が大きかった。
いと思います。
あくまで直感ですが、来年の選手権では、とてつもな
いものを見られそうな気がします。そして、おそらく優
七回戦は習甦。習甦は冒頭でも紹介した通り 2 年目の
参加で早くも決勝進出。去年も今年もお互いよく勝って
と予想しておきます。
いたにも関わらず二次予選では奇跡的に当たらなかった
大槻将棋としては、今年は有難くも決勝シード権を頂
ため、これが初対戦。将棋は相穴熊になったが、後手の
いたので、来年の選手権で、決勝より二次予選の方がレ
薄い 3 筋に飛車を振り戻してよい感じの展開。善悪は不
ベルが高かったとか言われないように精進したいと思い
明だが、金がぐるぐる回る感じが駒落ちの上手みたいな
ます。そう言えば全く忘れており、実現不可能と思って
指し回しで強そうな感じがした。たまりかねた後手が 60
いましたが、去年の自戦記に目標は決勝シード権と書き
手目▽33 桂と跳ねたがこれが後に悲劇をもたらした。73
実現したので、縁起をかついで来年の目標は「優勝」と
手目▲75 銀が「次の一手」みたいな格好良い手で、前の
しておきます。
桂跳ねのために、以下 81 手目の▲61 飛成で王手飛車が
決まった。その後は習甦の攻めを切らして快勝となった。
最終成績は 6 勝 1 敗の 2 位。GPS 将棋はジンクス通り最
終戦に負けたため、勝敗だけ見ると、大槻将棋は同率首
位に並ぶことになった。
5.おわりに
―今大会を振り返って―
今大会は、これまで最高の準優勝となり、ついに決勝
シード権を手にしました。ただし、実力は 4-5 位かなと
言う感じでした。決勝の結果は、サイコロを振って 1 の
目が何回も連続で出たような感覚です。2 位は惜しいとも
言えますが、予選に落ちかかった身では、あまり大きな
ことは言えないでしょうか。とは言え、
「実はあんまり差
がないのか」と勘違いできたことが今回の成果でしょう
か。
今大会全般の印象としては、かなり序盤力が上がって
きたと感じました。ちょっとした悪形をとがめたり、と
がめられたりすることが多くなった気がします。
またコンピュータも段々「手得」を主張できるように
なってきたのではないでしょうか? 手損した方が不利に
なる展開が多く見られた気がします。また、ハードウエ
ア記述言語で開発している A 級リーグさんの活躍が目を
惹きました。現状でも毎秒 1000 万手以上探索できるとの
ことで、まともに組めばまともな強さになるという当た
り前のことが証明されつつあるように感じました。今後
の活躍に期待したいです。
大槻将棋の現状の課題は、やはり評価関数だと思いま
す。どうしても私でも分かるような酷い手が出てしまい、
なかなか制御が難しい。ボナメソを使っているソフト共
通の課題かと思いますが、棚瀬将棋や GPS 将棋では次第
勝ソフトの実力は、遂に完全なるプロレベルに到達する、
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
第 19 回世界コンピュータ将棋選手権 3 位入賞記
小 幡 拓 弥
*
第 19 回コンピュータ将棋選手権において、
「文殊」は
ことである。主な理由は二つで、手法が単純すぎること
幸運にも第 3 位の成績を残すことができた。今回、光栄
と、思考の一貫性が保てないだろうということだった。
にもこうして機会を頂けたので、文殊と文殊の思考の特
後者は例えば、A 地点に行きたい者と B 地点に行きたい
徴である合議アルゴリズムの、誕生から現在までの歩み
者が一緒にいたとして、その時その時で A 地点に向かっ
を紹介したい。筆者は文殊の開発において、合議アルゴ
たり B 地点に向かったりすれば却って遠回りになるだろ
リズムの実装と実験を担当した。5五将棋と市販の将棋
うということである。将棋プログラムはそれぞれ思考に
ソフトの実験で合議の可能性を示した塙雅織君、指導教
個性があるため、この意見は尤もだった。
員の伊藤毅志先生、Bonanza の開発者として技術的なサポ
しかし、単純であることは上手くいかないことの十分
ートをして下さった保木邦仁さんと共に、文殊を作り上
条件ではないし、技術の価値を下げる訳でもないはずだ。
げた。
合議の効果がわかった今だから言えることでもあるが、
単純であることはむしろ善であると思う。汎用性や実装
容易性、発展性などを考えれば、少なくとも学術的観点
合議とは
文殊のアイデンティティは、合議アルゴリズムにある。
からは単純であるに越したことはないはずである。
オッカムの剃刀という原理がある。ある事象を同程度
というより、ほとんどそこにしかないと言ってもよい。
説明できる 2 つの理論があるとき、より単純な方を採る
従ってまずは、合議アルゴリズムの生い立ちから説明し
べきだとする考え方である。筆者はこの考え方を気に入
たい。
っていて、少々拡大解釈かも知れないが「簡単にできる
選手権から 3 つほどの季節を遡って、2008 年の夏のこ
ことを難しくやってはいけない」という形にして心に留
とである。コンピュータ将棋開発者が集まり、打倒人間
めている。「合議をするにしても多数決ではなくもっと
トップを目標としたプロジェクトの会議が行われた。当
色々考えられるのでは?」と思う方もいるかも知れない
時筆者は将棋プログラムの開発者ではなかったし(5五将
が、まずは単純なものから試すべきだというのが筆者の
棋プログラムの開発者ではあったが)、単なる一学生でし
方針である。
かなかった(もちろん現在もである)ので、この会議には参
とは言っても、我々文殊開発チームの中でも、当時こ
加していない。以下の話は出席された伊藤先生から伝え
の手法が上手くいくと確信していた者はいなかった。し
聞いたものである。
かし、上手くいくにしろ上手くいかないにしろ、それを
この会議では、プロ棋士に勝つための方向性として、
明らかにすることには意味がある。その考えから、我々
何らかの形で強いソフトを開発しているプログラマが協
はこの多数決のアイディアを検証することにした。当時
力し、一つの強い将棋システムを構築していくことは出
筆者は別のテーマの研究を進めていた(余談だが、他大で
来ないか模索していた。しかし、コンピュータ将棋プロ
同学年であった Blunder 作者の下山氏と偶然にもほぼ同
グラマの多くは、個々に独自のプログラムを改良し競い
じテーマであった)ので、合議の研究は塙君が卒研のテー
合うことで強いプログラムを実現してきたので、相互に
マとする形で担当した。
協力し合う素地がなく、議論は行き詰まっていた。最終
的には、個々のプログラムがそれぞれ独自に強さを競う
方が、協力するよりもより強いシステムが構築できるの
ではないかという方向に議論は進んでいった。そんな中、
5五将棋での検証
塙君はまず、合議のために各プログラム間の情報をや
「それじゃあ、別々に開発したプログラムの多数決を取
りとりする通信プロトコルを提案し、開発者達に実験へ
ってみたらどうだろう?」という意見が提案された。こ
の協力を仰いだ。しかし、先述の通り合議に興味を示し
れが、合議アルゴリズムの基礎となったアイディアであ
たプログラマはほとんどおらず、複数の将棋プログラム
る。ちなみに当時このアイディアは、
「合議」ではなく「談
を合議させる実験は実現できそうになかった。そこでま
合」と呼ばれていた。罪名にもなっている「談合」のイ
ずは、本将棋より狭い5五将棋というゲームで実験をし
メージの悪さから、後に「合議」と改めたそうだ。
て、合議の有効性を検証しようということになった。筆
しかし、このアイディアは当初大変に不評だったとの
者は5五将棋のプログラムを作成しており、それを実験
に自由に使うことができたからである。5五将棋は、図 1
*
電気通信大学 電気通信学研究科 情報工学専攻
のような盤と初期配置で始まる将棋で、オセロと同程度
の広さの探索空間を持つと言われているゲームである。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
いずれのプレイヤをリーダーにしても、リーダー単体
の場合よりも勝率が上がっている。特に単体で最も強い
プレイヤ A よりも勝率が高く、かつプレイヤ A に勝ち越
していることから、「合議で強くなった」といえる。100
局という少ない対戦数ではあるが、多数決合議が棋力を
向上させる可能性がこの実験から示唆された。
5五将棋から本将棋へ
5五将棋での実験結果を受けて、本将棋でも合議の効
図1
果を検証したいと考えた。しかし、先述の通り合議用の
5五将棋の初期盤面
通信への対応はなかなか協力を得ることができず、実験
実験に用いたのは千分ノ壱里眼というプログラムで、
を自動化することが不可能だった。一見、従来の CSA プ
5五将棋プログラムとしてはそこそこ強いという評価を
ロトコルを使えば合議ができそうだが、各プレイヤが選
受けていたものだ(今思えば、随分とお粗末な作りのプロ
んだ手が採用されるかどうかは不明なので一手毎に局面
グラムであったが)。実験に使えるプログラムはこれ一つ
を与える必要があるし、何より探索量を制御する術がな
だったので、これを変形してなんとか 4 つのプレイヤを
い。グループである以上、全員の思考時間がばらばらで
用意した。評価関数が 2 通り、静止探索の有無で 2 通り
は困るのである。全員が自由に思考時間を決められない
の計 4 通りである。まずはこれら同士を 100 局ずつ対戦
ことは当初欠点だと考えていたのだが、他プレイヤの手
させたところ、表 1 のような結果になった。
の情報を思考時間の制御に使うことで、むしろ合議の長
所にもなりえると後に考えを改めた。この点については
表1
4 プログラムの相互対戦結果
後で述べる。とにかく、当時実験の自動化は困難だった。
A: 評価関数 1+静止探索有
B: 評価関数 2+静止探索有
しかし、どうしても本将棋の強豪プログラムで実験をし
C: 評価関数 1+静止探索無
D: 評価関数 2+静止探索無
たかった。そこで、市販の将棋ソフトの「ヒントモード」
A
B
C
D
勝率
(局面を与えると、候補手を返す機能)を使うことで強引に
A
50-50
71-29
59-41
75-25
63.8%
合議の実験を行うことにした。当然大変な作業量になる
B
29-71
50-50
29-71
65-35
43.3%
ので、学生のアルバイトを使った人海戦術をとることに
C
41-59
71-29
50-50
65-35
57.0%
なった。この方法では十分な量のデータをとることはで
D
25-75
35-65
35-65
50-50
36.3%
きないが、なんらかの傾向が観察できることを期待して
Wins-Losses
自己対戦は理論値
いた。
実験に使った市販ソフトは、
「新・東大将棋
無双」
「激
指8」
「AI将棋 ver15」
「Bonanza3.0」の 4 つで、CPU 性
プレイヤ同士の力関係は、A>C>B>D とわかった。次に、
能を揃えて 1 手 10 秒で思考させた。表 3 は、実験条件下
これら 4 つが多数決を行う「合議プレイヤ」と、4 つそれ
での各ソフトの強さを比較する目的で、ソフト単体同士
ぞれ単体を 100 局ずつ対戦させた。ただし、4 プレイヤの
を対戦させたものである。
単純な多数決では、
意見が 1:1:1:1 か 2:2 に分かれたとき、
表 3 市販ソフトの相互対戦結果
グループの意見を決定できない。そこで、4 つの中からリ
ーダーを決めておき、意見が分かれたときはリーダーの
AI
Bonanza
激指
東大
勝率
手を採用することとした。つまり、合議プレイヤもリー
AI 将棋
5-5
2-8
7-3
3-7
42.5%
ダーの違いで 4 種類あることになる。4 つの合議プレイヤ
Bonanza
8-2
5-5
1-9
2-8
40.0%
と 4 つの単体プレイヤの 100 局ずつの対戦結果は、表 2
激指
3-7
9-1
5-5
5-5
55.0%
東大将棋
7-3
8-2
5-5
5-5
のようになった。
62.5%
Win-Loss
表 2 合議 vs 単体プレイヤの対戦結果
対戦相手→
↓合議
A
B
C
D
自己対戦は理論値
勝率
対戦数は 10 局と極めて少なく、この結果で東大将棋が
リーダーA
61-39
71-29
58-42
79-21
67.3%
強かったと判断するものではないが、この実験結果を参
リーダーB
45-55
70-30
60-40
61-39
59.0%
考にして、東大将棋をリーダーにする場合と、リーダー
リーダーC
58-42
78-22
52-48
69-31
64.3%
を決めず意見が分かれたときはランダムに選択する場合
リーダーD
46-54
68-32
49-51
63-37
56.5%
とで、合議実験を行うことにした。リーダーの扱いは5
五将棋の実験と同じである。この合議実験の結果は表 4
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
のようになった。
ッシュに応じて与えられるもので、同じプレイヤは同じ
局面には同じ評価値をつけるようになっている。σは選
表 4 市販ソフト合議 vs 東大将棋の対戦結果
合議:
東大将棋リーダー
合議:
リーダー無し
東大将棋
勝率(除く引分)
23 勝 14 敗 3 分
62.1%
14 勝 6 敗 0 分
70.0%
手権では歩の交換値の 1/8 としたが、後の実験で 1/4 付近
が Bonanza(ver 4.0.4, 4.1.2)にとってベストであることがわ
かってきた(1/8 との差は僅かだが)。当然、合議に参加す
るプレイヤ数や合議方法にもよるだろうが、少なくとも
多数決と後に述べる楽観的合議では 1/4 付近が有力だ。
文殊作成に本格的に動き出したのは 3 月の中頃で、こ
データ数が少なく有意性に疑問はあるものの、どちら
こからは忙しかった。まずは合議用の通信機能の実装と
も合議側が勝ち越した。5五将棋の実験と合わせてこれ
合議を統括するプログラムの作成、次に乱数 Bonanza の
まで合議の効果に肯定的な結果ばかりであり、我々の合
多数決実験、そして時間制御や予測読みの調整等々だ。
議への期待は高まっていった。
時間制御や予測読みで全プレイヤの足並みを揃える必要
があるということには、作り始めてから気づいた。この
辺りは重要な上にいくつもの方法が考えられるため、慎
文殊の誕生
重な検討を要した。合議で強くなったとしても他の要素
2009 年の 2 月下旬、Bonanza の保木さんが講演のため
で弱くなっては元も子もない。ただ指し手を集めるだけ
電気通信大学を訪れた。この講演の後、保木さんと伊藤
とはいえ、多数のプログラムを協調させるには色々と準
先生と筆者の 3 人の酒の席で合議のことが話題に上り、
備が必要なのであった。
これまでの実験などについて話していた。そこで保木さ
文殊を作ることはひとつの賭けだった。乱数を入れて
んはこう言ったのである。
多数決などという手法で強くなるかどうかはわからなか
「Bonanza を 128 個とか 256 個とか繋げて選手権に出たら
ったし、そもそも間に合うのかどうかも怪しかった。実
面白いんじゃない?」
験で効果無しという結果が出れば文殊の出場は取り消す
文殊のアイディアが誕生した瞬間だった。
つもりであった。しかし、幸いにも実験の結果、8 プレイ
ご存知の通りこの 1 ヶ月前、保木さんは自身のプログ
ヤの合議は単体プレイヤに対し 58%程度の勝率をあげた。
ラムを CSA ライブラリに登録し、ソースコードを公開し
保木さんのアドバイスもあり、プログラムも一通り完成
ていた。つまり選手権で誰でも自由に Bonanza を使うこ
した。今思えば危うい賭けだったが、なんとか出場に漕
とができたのである。よってこのアイディアは実現可能
ぎ着けることができた。
だった。Bonanza256 個分の計算機を用意できるかどうか
は別としてだが…。
実験では一手毎の探索量を固定し、時間制御や予測読
みの要素を除いていた。先にも述べたが、プレイヤが複
確かに面白いしインパクトもある。しかし、Bonanza
数いることを時間制御にも生かせないかと考えていたの
で合議の効果があるかはまだわからなかったし、オリジ
で、一つ簡単な工夫を盛り込んだ。それは、意見の不一
ナリティに対する疑問もあった。それに、当時既に選手
致度合いに応じた探索延長である。意見が分かれる局面
権への申し込みは締め切られていて、もし出場するなら
ほど難解であるという見方から、最多数意見の得票に応
筆者が自分のプログラムのために申し込んでいた枠を使
じて段階的に思考時間を延長するようにした。これは合
うしかなかった。初めは正直に言って反対だった。しか
議だからこそできる手法だ。これが有効なのかどうかま
し結局、新しくもなく強くもないであろう自分のプログ
では選手権前には検証できなかったが、後の実験では、
ラムで出場するよりも、新しい試みを世に出すことの方
環境は違うものの効果有りとの結果を得ている。予測読
が意味があると思い直し、Bonanza 合議での出場を決意し
みに関しても、上手くすれば合議を生かすことができる
た。Bonanza のライブラリを使うことも重要で、意義があ
かも知れない。文殊は PV の 2 手目でさらに多数決を採る
ると考えていた。つまり、Bonanza という誰もがよく知っ
という方法で予測手を決めていた。
ている強さのプログラムで合議の有効性をアピールする
ことが大事なのだ。初出場の無名ソフトの合議がたとえ
こうして文殊はいよいよ選手権を迎えた。用意できる
どれだけ健闘したとしても、周囲に合議への興味を持っ
計算機と実験の結果から、3 台の 8 コアマシンを 4 コアず
て貰うのは難しかっただろう。
つ 6 個の Bonanza に充てることにした。1 コアずつ 24 プ
たくさんの Bonanza の思考にどうバリエーションを持
レイヤにしようという案もあったが、個々の強さの低下
たせるか、という点には、評価関数に乱数を加えるとい
を考慮して結局 6 プレイヤにした。大会直前に Bonanza
う方法をとった。これもまた単純な方法だが、結果とし
ライブラリが更新されたので、これはすぐに差し替えた
て上手くいってしまった。もう少し具体的に述べると、
(もちろん、合議用に色々と書き換える必要はあったが)。
Bonanza の評価関数の最後で、評価値に正規分布(0, σ2)
こういったフットワークの軽さも合議の利点だ。
に従う乱数値を加えるのである。この乱数値は局面のハ
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
選手権本番
選手権では、8 コアマシンを 3 台連ねた文殊は一次予選
から注目を集めた。Bonanza のライブラリを使ったプログ
ラムはこれが初参加だったということもあり、多くのプ
ログラマは興味津々だった。
ただ、評価関数に乱数を加えて多数決をしているとい
う原理を聞いたプログラマは、文殊のオリジナリティに
疑問を抱いているようだった。いくらライブラリの使用
が認められているとは言え、Bonanza の強さを丸ごと利用
したプログラムのオリジナリティをどう考えるかは、確
かに微妙なところかも知れない。これは、文殊が出場を
決めたときから覚悟していたが、やや重苦しい空気は感
じた。しかし、同時に面白い手法だと応援してくれる方々
もいた。この応援は、後の研究の励みになった。
図 2 対 Bonanza 戦
42 手目後手2二玉まで
我々は、合議アルゴリズムの新規性は十分にオリジナ
リティのあるものだと思っている。おそらく選手権は、
コンピュータ将棋の発展という学術的側面と、競技性の 2
迎えた 5 回戦は念願の Bonanza 戦で、何とかここだけ
つの面を期待して運営されているはず。前者に対して、
は良い勝負をして勝ちたかった。図 2 は、対 Bonanza 戦
文殊は多少なりとも貢献していると信じている。しかし
42 手目、後手が玉を2三から2二に移動したところ。こ
後者を考えれば、文殊の立場はいささか不公平であると
こで、文殊は痛恨の疑問手「6六銀」を選んでしまう。
も感じていた。選手権後、筆者が独断でシード権を返上
以降、8六歩から飛車先を突破される展開になり、
したのはこれらを考えた結果だ。一度合議が周知されれ
Bonanza に形勢が大きく傾いた。文殊の合議システムでは、
ば、次回の出場による貢献は薄れる。そもそも合議を周
この局面、
「6六銀が2票、2七銀が2票、5八飛、7九
知させることが文殊の役目だったのだから、それが達成
角がそれぞれ1票」と 4 つに意見が割れていた。6六銀
されればお役御免という訳である。従って、文殊の出場
以外の手を選んでいれば、まだ難解な局面が続いたとこ
はこの一度きりとした。
ろであったらしい。やはり、意見が分かれる局面は難解
であるのかも知れない。
文殊は初出場ということで一次予選からの戦いになっ
Bonanza には勝利して合議の価値を示したかっただけ
たが、Bonanza がベースなだけあって順調に勝ち進み、ハ
に、この敗戦は残念であった。しかし、勝率 58%では 1
イレベルの二次予選も通過して決勝に進出した。決勝で
回勝負で負けるのも自然なことであるし、逆に最終順位
の文殊の成績は、表 5 のようになった。
で Bonanza に勝てたことも偶々かも知れない。
ともあれ、
4 回戦を終わった時点で、シード組が総崩れ、下位の「文
Bonanza よりも上位に入賞できたことで、文殊としては、
殊」
「GPS将棋」
「大槻将棋」の 3 プログラムが全勝と
十二分に出場の意義を果たせたと考えている。偶々だと
いう大波乱で、決勝でも文殊は良い勝負をするとは思っ
しても、合議システムをアピールすることができてほっ
ていたものの、ややできすぎの結果であった。
とした。
表 5 第 19 回世界コンピュータ将棋選手権決勝リーグ表
1
2
3
4
5
6
7
8
プログラム名
激指
Bonanza
YSS
KCC 将棋
文殊
GPS 将棋
習甦
大槻将棋
1
5×
8×
7×
6×
1○
4○
3○
2○
2
6×
7○
5×
8×
3○
1○
2
4○
3
7○
6×
8×
5×
4○
2○
1×
3○
4
8×
4×
6×
2○
7○
3○
5×
1○
5
3○
5○
1×
7○
2×
8○
4×
6×
6
4×
3×
2○
1○
8×
7○
6×
5○
7 勝 負 SB MD 順位
2× 2 5
2
0
6
1○ 3 4
8
2
5
4× 1 6
3
0
7
3○ 4 3
7
3
4
6○ 5 2 14
7
3
5× 6 1 17 10
1
8× 1 6
1
0
8
7○ 6 1 16 10
2
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
選手権後の文殊
してついに当初の目的であった、強豪プログラム同士の
選手権後、保木さんと共同で本格的に合議の研究を進
合議実験が実現したのである。すなわち、Bonanza, YSS,
めている。保木さんの快い承諾もあり、チームとしても、
GPS 将棋の 3 プログラムによる多数決合議だ。まさにド
本家 Bonanza に合流する形で、次回選手権に向けて合議
リームチームである。
や学習の実験を行っている。塙君は大学を卒業したが、
実験では、各プレイヤの一手毎の探索量をそれぞれ固
入れ替わるように新たに共同研究者の杉山卓弥さん(慶
定し、定跡の使用は各プログラムに任せることとした。
應大学大学院生)を迎え、保木さん、伊藤先生、杉山さ
探索ノード数は、Bonanza 10 万、YSS 40 万、GPS 将棋 15
ん、筆者の 4 人のチームとなった。このチームで、次回
万とした。根拠のある数字ではないのだが、思考時間が 1
選手権には新しい合議方法を採用した Bonanza Feliz を出
~2 秒程度になるように決めた。まず、この条件下で 3
場させる予定だ。
プログラムを 1000 局ずつ対戦させると、表 7 のようにな
った。ただし、これは公平性のない実験条件下での対戦
実験の方は、現在までに数多くのデータを得ている。
対局数では累計で数十万になる。一例として、Bonanza
であり、この結果が各プログラムの優劣を表すものでな
いことは、念を押しておく。
4.0.4 での実験データを表 6 に示す。σは正規乱数の標準
偏差である。探索量は各プレイヤ一手 40 万ノードで、合
表 7 実験条件下での 3 プログラムの相互対戦結果
議プレイヤ対通常の Bonanza を各条件で 1000 局ずつ対戦
対戦相手→
Bonanza
YSS
GPS 将棋
させたものだ。なお、序盤は定跡データベースを使用し、
Bonanza
50.0
70.3
59.1
YSS
29.7
50.0
63.5
GPS 将棋
40.9
36.5
50.0
この間合議は行われない。
表6
σ→
Bonanza による多数決合議実験
単位は%
自己対戦は理論値
1/8
1/4
1/2
1/1
1
47.8
48.9
43.7
33.0
この 3 プレイヤを用いて、合議プレイヤを構成した。
4
55.6
53.2
54.4
42.1
意見が 1:1:1 に分かれたときは、Bonanza の手を採用する
8
55.2
57.4
53.4
46.0
こととした。対戦相手は単体の各プレイヤで、これも 1000
16
53.1
56.0
52.5
50.7
局ずつの対戦である。結果、表 8 のように合議側が高い
↓プレイヤ数
単位は%
勝率を示した。Bonanza だけの実験と比べてプレイヤ数が
少ないにも関わらず、パフォーマンスはむしろ高くなっ
プレイヤ数 1 のときは単に乱数が入っただけの
ている。各プレイヤは個性がある方が良いのかも知れな
Bonanza で、このときは元の Bonanza よりも弱くなってい
い。初期の頃の「思考の一貫性が保てないのではないか」
る。しかし、この弱くなったプレイヤを多数決させると、
という懸念は杞憂だったようだ。
元の Bonanza に対し表のように有意な水準で勝ち越した。
やはり合議は棋力を向上させるようだ。
このような実験を、YSS 開発者の山下宏氏、GPS 将棋
開発チームの金子知適氏の協力のもと、両プログラムで
も行った。すると、Bonanza の場合と同じような結果が得
表8
3 種のプログラムの合議対単体プレイヤ
対戦相手→
Bonanza
YSS
GPS 将棋
合議
64.3
73.7
72.2
単位は%
られた。さらに、自己対戦でなく、他のプログラムを相
手にした場合でも同様であった。原理が単純なこともあ
り、多くのプログラムで効果が期待できそうである。
多数決以外の合議方法も検証中だ。現在までに、評価
値を考慮した合議方法の「楽観的合議」と「悲観的合議」
さらに興味深いのは、囲碁プログラムでも効果が見ら
の実験を杉山さんを中心に行ってきた。これらは、各プ
れるという点である。多くの方がご存知の通り、山下氏
レイヤに指し手の他に評価値も送るようにさせ、全プレ
は囲碁プログラマとしても有名で、AYA というモンテカ
イヤのうち最も高い/低い評価値をつけた手を採用する手
ルロアプローチを用いたプログラムの開発者である。山
法である。それぞれ、楽観的な見方(=評価値が高い)、ま
下氏は、YSS だけでなく、AYA でも合議の実験を行って
たは悲観的な見方(=評価値が低い)をしている者の意見を
いる。モンテカルロ法は元々多数決のような概念が入っ
採用することから、こう命名した。実験で楽観的合議は
ているので、それを合議するというのは少し奇異なイメ
多数決合議より高いパフォーマンスをあげており、
ージがあるが、AYA でも効果が認められているのは興味
Bonanza Feliz で採用したのもこの合議方法である。逆に
深い。
悲観的合議は単体のときよりも弱くなる結果となった。
さて、提案当初は不評であった合議アルゴリズムも、
これらは杉山さんが加わったときに「練習問題」という
5五将棋や市販ソフトでの実験や選手権でのアピールの
位置付けで実験したものだが、予想以上の成果が出たた
甲斐あって、多くの方々からの協力を得るに至った。そ
め本格的に検証することになった。楽観的合議の実験の
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
一例を表 9 に示す。
な合議方法が登場することも大歓迎だ。そして疎結合性
という点では、コンピュータ将棋界でこれまであまり研
表9
Bonanza による楽観的合議実験
σ→
究されていなかった疎結合並列アルゴリズムとして、従
1/8
1/4
1/2
1/1
1
49.4
50.7
40.9
34.4
2
49.7
53.1
51.4
42.6
性能が伸び悩み始めて久しく、時代は多コア化、クラス
4
54.6
56.4
55.7
46.9
タ化へとシフトしている。そんな時代の中、コンピュー
8
55.3
58.7
58.9
47.2
タ将棋の思考の並列化は困難であり、並列化は重要な課
16
58.4
60.2
56.4
52.5
題となっている。
32
58.0
61.7
57.1
51.9
合議という並列化手法に興味を持ち、共に開拓して頂
64
60.3
61.4
60.2
49.2
ける方が現れれば幸いであるし、
「いやいや、そんなのよ
↓プレイヤ数
来よりも多くの計算資源を利用することを可能にすると
いう利点がある。ご存知の通り、プロセッサのクロック
りもっと良い方法があるはず。
」と別の並列化を模索して
同じプレイヤ数での多数決に比べ、多くの場合良いパ
フォーマンスを示している。また、プレイヤ数を増やす
頂くのもまた大歓迎だ。合議が疎結合並列化の開拓のき
っかけとなってくれれば本懐である。
ことで勝率 60%をも越えており、なおかつまだ伸びる可
能性がある。多数決では 16 プレイヤからはあまり伸びそ
うになかった。一番自信のあるプレイヤ以外の意見を全
謝辞
て捨てるという大胆な合議方法だが、単一プログラムを
文殊の実現にあたっては、保木邦仁さんの助言や技術
使った合議方法としては現在のところ一番有望だ。ただ
的サポート、伊藤毅志先生のご指導ご協力、塙雅織君に
し、異なるプログラム同士の合議の場合は評価値の正規
よる初期の合議研究が不可欠でした。
化の問題がある。
また、これまでの合議研究の発展には、山下宏氏と金
子知適氏によるプログラム提供、杉山卓弥さんによる楽
観的・悲観的合議の研究が大きな助けとなりました。
最後に
なぜ合議で強くなるのかについて、いくつかの推測は
あるが理論的な裏付けはまだない。直観的には、
「単独で
は偶々選んでしまう悪手を、多数決によって打ち消せる
から」という解釈もできるが、楽観的合議ではむしろ逆
に「偶々の悪手」を積極的に選びそうにも思える。もし
かすると、多数決合議と楽観的合議は全く違った原理で
効果を発揮しているのかも知れない。
今後これらの原理の解明を進めていくが、現在のとこ
ろでは、探索の深さと合議の効果が相関している可能性
があるという実験結果を得ている。合議の各プレイヤの
探索を深くしていくにつれ、同じく深くなっていく相手
プレイヤに対し勝率があがっていく。これまで行ってき
た実験はいずれも一手 1~2 秒程度の対局だったが、実戦
ではより高いパフォーマンスを示しているのかも知れな
い。今後は探索との関係に着目し、合議の原理を解明し
ていくつもりだ。
合議アルゴリズムの利点はシンプルさと疎結合性にあ
る。シンプルさという点では、誰でも気軽に導入できる
簡単さで、かつ多くのプログラムで効果がありそうであ
るという利点がある。もちろん今後、複雑でより効果的
合議研究は、情報処理学会の共同研究支援を受けてい
ます。
みなさまのご協力に、この場を借りて深く御礼申し上
げます。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
Bonanza のソースコード公開と
CSA 世界コンピュータ将棋選手権ライブラリについて
保 木 邦 仁
*
私が将棋プログラムを作成し始めたのは 2005 年、今から
こりつつあります。CSA コンピュータ将棋選手権の初代優
5 年程度前のことになります。この頃私はトロント大学化学
勝プログラムである永世名人から脈々と続く、洞察力やプ
科で研究員生活を送っておりました。偶然コンピュータチ
ログラミングに秀でた人による「技の勝利」という時代は
ェスに興味を持ち、コンピュータ将棋においても強いプロ
幕を閉じつつあるように思えます。これからは、公開され
グラムは案外簡単に作れてしまうのではないかと希望に胸
ている情報を上手に利用し、信じられないほどのスピード
を膨らませ、一心不乱に Bonanza を作った日々を懐かしく
で優勝プログラムを作成する新人が出現するかもしれませ
感じます。諸先輩方と比較するとまだまだ若輩であります
ん。
が、私はもう「新人」と言われるような立場ではなくなっ
てきたと感じております。
私がコンピュータ将棋に関わった日々の長さを実感する
要因の一つに、このコンピュータ将棋に対する人々の認識
このような変遷の時期において、この歴史ある将棋選手
参加プログラムのオリジナリティーやライブラリ制度に対
する考え方にも大きな変革が迫られています。以下、この
場をお借りして私の考えていることを書こうと思います。
の変遷が挙げられます。2005 年から、コンピュータ将棋躍
一つの独立した将棋プログラムを書き上げるのには相当
進の時代が幕開けしました。この年には YSS が将棋倶楽部
な労力が必要です。私自身も Bonanza の作成には半年程度
24でレート 2400 を超え、激指がアマ竜王戦でベスト 16
の期間にわたり集中的に時間を割きました。しかし、今後
入りし、また TACOS が橋本崇載五段(段位は当時)に対し
も「強い将棋プログラムの作成」への挑戦が、このような
て惜しくも敗れはしたが善戦という結果を残しました。
労力に見合うほど魅力的な目標となるかは疑問だと思いま
2010 年の今では、コンピュータが将棋において名人に勝つ
す。今や将棋プログラムが「強い」というだけで商品にな
日は目前に迫ってきていると言われています。
った時代は終わり、コンピュータが名人に勝つような時代
また、インターネットを通して取得可能なコンピュータ
です。将棋プログラムが強いのは当然なことなのです。
将棋技術に関する情報量も増加しました。2005 年当初は、
私は、ソースコード流用の禁止等、選手権として必要以
有用な情報源としては山下氏の YSS に関するホームページ
上に本格的なルールを採用し、コンピュータチェスと同じ
以外は殆ど存在しませんでした。現在では 2009 年選手権優
ような道を歩むのは避けるべきだと考えます。チェスでさ
勝プログラムである GPS 将棋や Bonanza のソースコードが
え現状のような規模に縮小していることを考えると、現状
公開されており、誰でも簡単に最強コンピュータ将棋プロ
のままではコンピュータ将棋選手権が将来どうなるかは容
グラム作成に必要な技術の入手・利用が可能になってきて
易に想像できます。情報工学の研究者やプロとして生計を
います。
立てているプログラマーが凌ぎを削りあうような時代は終
「高速道路がいっきに敷かれ、走り切ったところで大渋
滞」という現象は、まさにコンピュータ将棋においても起
わり、趣味として将棋プログラムのメンテナンスを細々と
続ける人々の集会に選手権がなると残念です。
私は、将来においてもコンピュータ将棋選手権が活発な
*
東北大学大学院理学研究科化学専攻
〒980-8578 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉 6-3
E-mail [email protected]
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
ものになるために必要な条件は、
手権は、コンピュータ将棋分野の発展において重要な役割
を果たして来ました。これからも、この選手権が輝きを失
1.大学生・大学生等への教育という位置付を獲得。
わずに新規参入者を獲得し続け、そしてコンピュータ将棋
2.エントリーするプログラムを十分手軽に作成できる。
発展の基点となることを願います。
3.前年よりも更に強いプログラムが出現する。
の3つだと考えます。情報工学をリードする学生・院生を
ターゲットとし、プログラミングのアイディアと技術を披
露する場として名人を遥かに越えたプログラムが争う大会
になると、この選手権は活性化されます。ここで、現在に
おいては大学生や大学院生も大変忙しい日々を送っている
という事に注視すべきです。従って、選手権参加のために
は、基本技術は先輩等から効率的に習い、
「3カ月程度の期
間集中的に取り組み完成」程度の手軽さが必要です。
今までのコンピュータ将棋選手権を振り返ると、少数の
上位グループに属するプログラムの棋力が、他と比較して
かけ離れていると感じます。上位入賞者から新規参入組へ
の知識の伝達が上手くいっていたとはとても考えられませ
ん。これは、私自身としても反省すべき点です。これから
は、プログラムの組み方を直接示し、より具体的な形で知
識を伝えていこうと考えます。
新規参入者には、他人により既にやられたことと同じこ
とを繰り返すために半年等という貴重な月日を消費せずに、
「新しい」ことを「手軽」に挑戦してもらいたいと考えて
おります。また、強いプログラムを作ろうとしている方に
は、最低でも Bonanza 程度の水準には達して貰いたいと思
います。
情報共有が加速すると、参加プログラムのオリジナリテ
ィーに多様性がなくなり、かつ競技性が損なわれるという
懸念も生じるかと思います。しかし、今後の選手権の競技
規則改正においては、このような問題への対策よりも、参
加者に対して既存情報および技術の効果的活用を促す方針
を優先して頂きたいと思います。
最後に、CSA 世界コンピュータ将棋選手権の運営に心血
を注いでこられた早稲田大学の滝沢武信先生をはじめとす
る方々に深くお礼を申し上げます。これまで CSA 主催の選
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
人間対コンピュータの対戦結果
(第15回世界コンピュータ将棋選手権以降)
香山 健太郎
プロ
年
月
日
イベント
勝敗
対戦者
手合
持時間
秒読み
角落
25 分
切負
30 分
40 秒
40 分
40 秒
40 分
40 秒
備考
グラム
第15回 世界コンピュータ
5
エキシ
激指
○-●
勝又清和五段(プロ)
予選 1 回戦
激指
○-●
岡本敏弘氏(北海道代表)
予選 2 回戦
激指
○-●
小川英二氏(大阪府代表)
本戦 1 回戦
激指
○-●
小川英二氏(大阪府代表)
本戦 2 回戦
激指
●-○
田中幸道氏(福井県代表)
エキシ
激指
○-●
篠田正人氏(元アマ竜王)
ビション
激指
●-○
加藤幸男氏(前アマ竜王)
将棋世界誌
激指
●-○
渡辺明竜王(プロ)
「話題の将棋、本音で語ろう!」*1
激指
○-●
木村一基七段(プロ)
5
将棋選手権
25
ビション
第18回 アマチュア竜王戦
6
(読売新聞社主催)
2005
26
7
平手
全国大会
角落
24
9
19
第 29 回北國王将杯争奪将棋大会*2
TACOS
●-○
橋本崇戴五段(プロ)
平手
10
23
国際将棋フォーラム*3
YSS
●-○
森内俊之名人(プロ)
角落
なし
30 秒
「コンピュータと手合わせ」*4
激指
○-●
岩根忍女流初段
平手
30 分
60 秒
Bonanza
○-●
加部康晴アマ
YSS
●-○
細川大市郎アマ
IS 将棋
○-●
美馬和夫アマ
60 分
60 秒
KCC 将棋
●-○
横山公望アマ
激指
○-●
小林庸俊アマ
Bonanza
○-●
細川大市郎アマ
YSS
○-●
美馬和夫アマ
IS 将棋
○-●
横山公望アマ
20 分
30 秒
KCC 将棋
●-○
小林庸俊アマ
激指
○-●
加部康晴アマ
予選 1 回戦
KCC 将棋
●-○
神蔵正行アマ
予選 2 回戦
KCC 将棋
○-●
予選 3 回戦
KCC 将棋
○-●
本戦 1 回戦
KCC 将棋
○-●
湯峯一之アマ
準々決勝
KCC 将棋
○-●
村田雄人アマ
準決勝
KCC 将棋
●-○
早川俊アマ
激指
●-○
清水上徹アマ竜王
平手
40 分
40 秒
Bonanza
●-○
平手
15 分
30 秒
平手
20 分
30 秒
1 回戦
第 1 回 週将アマ COM 平手戦
5
※1
※2
平手
(週刊将棋主催)
2 回戦
2
2006
新潟県新春将棋大会
12
平手
(日本将棋連盟
新潟県支部連合主催)
3
8
5
5
第68回 情報処理学会全国大会*5
第16回 世界コンピュータ
将棋選手権
11
エキシ
加藤幸男氏(前アマ竜王・
ビション
朝日アマ名人)
Bonanza 対トップアマ
Bonanza
●-○
清水上徹前アマ竜王
(Bonanza 発売記念イベント)
Bonanza
●-○
加藤幸男朝日アマ名人
18
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
プロ
年
月
日
イベント
勝敗
対戦者
手合
持時間
秒読み
平手
2 時間
60 秒
平手
15 分
30 秒
平手
15 分
30 秒
平手
15 分
30 秒
平手
60 分
60 秒
備考
グラム
3
21
第1回大和証券杯
特別対局
第17回 世界コンピュータ
エキシ
5
2007
将棋選手権
Bonanza
●-○
YSS
●-○
渡辺明竜王(プロ)
加藤幸男氏(元アマ竜王・
ビション
朝日アマ名人)
5
北陸先端科学技術大学院大学
鈴木英春氏
26
TACOS
●-○
オープンキャンパス公開対局
第18回 世界コンピュータ
5
(元アマ王将)
エキシ
激指
○-●
清水上徹アマ名人
ビション
棚瀬将棋
○-●
加藤幸男朝日アマ名人
激指
○-●
清水上徹前アマ名人
棚瀬将棋
●-○
加藤幸男前朝日アマ名人
激指
●-○
稲葉聡アマ準名人
平手
60 分
60 秒
●-○
谷崎生磨学生準名人
平手
40 分
60 秒
●-○
谷崎生磨前学生準名人
平手
60 分
30 秒
平手
20 分
切負
5
将棋選手権
2008
第13回 ゲームプログラミング
11
8
ワークショップ
10
第71回 情報処理学会全国大会*6
22
第3回 E&C シンポジウム*7
3
合議*8
システム
2009
11
7
「コンピュータ将棋の最前線」*9
文殊 with
~コンピュータ将棋はアマチュア
Bonanza
トップを超えたか?~
GPS 将棋
○-●
稲葉聡前アマ準名人
激指
○-●
古作登アマ奈良県三冠
※3
頭脳スポーツと教育 *10
2010
2
公開対局
6
-ブレインスポーツ冬の陣-
※1 途中、TACOS 優勢の場面もあり、話題となった
この後、2005 年 10 月 14 日、日本将棋連盟が無断でプロがコンピュータとの対局をすることを禁止
※2 2006 年 1 月 3 日付朝刊に掲載、対局は 2005 年中
※3 最終盤で文殊が勝ちを読み切るもバグにより時間切れ負け
*1 第 2 回「渡辺竜王と木村七段、激指と戦う!」内
*2 大会内イベント(北國新聞社主催)
*3 「第 3 回コンピュータ将棋王者戦」の優勝者とのエキシビション(日本将棋連盟主催)
*4 共同通信社主催
*5 特別セッション「ここまで来たコンピュータ将棋」でのイベント(情報処理学会主催)
*6 特別セッション「コンピュータ将棋は止まらない ―人間トップに勝つコンピュータ将棋―」でのイベント(情処理学会主催)
*7 特別セッション「四強合体!アマチュア強豪は最強ソフト軍団に勝てるか!?」公開対局
*8 激指、Bonanza、AI 将棋、新東大将棋の多数決
*9 電気通信大学 エンターテイメントと認知科学研究ステーション 主催
*10 大阪商業大学 アミューズメント産業研究所 主催のシンポジウム
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
情報処理学会の特別対局イベント自戦記(2009.3.10.)
稲 葉
聡
*
激指と対局させていただける機会はなかな
来る展開になった。優勢を意識してからなかな
か出来ない経験だと思い、依頼を二つ返事で受
か決め手を与えてもらえず、意外と攻めにくか
けた。
ったため、手応えを感じた。
アマトップである清水上徹さんや加藤幸男
しかし 111 手目 43 歩成と指されて青ざめた。
さんの二人がすでにコンピュータ将棋に負け
優勢どころかいつの間にか逆転していてもお
ていた為、勝ち負けを気にせず、全力を出し切
かしくない局面になっていた。119 手目 48 桂ま
るだけだと思っていた。市販の激指と対局して
で進んで負けを意識して対局中は固まってし
みたが弱点が多く、アマトップが負けるほどの
まった(図2)
。
強さを感じなかった。あまり参考にならないと
判断し、それから対局まで 3 ヶ月ほどあり、普
段と変わらない調整の仕方で臨んだ。
全く根拠も無いのに相居飛車になると予想
していたため、対局が始まって激指が四間飛車
に振り少し拍子抜けした。駒組みが続くと思っ
ていると、33 手目 45 歩と急に仕掛けてきた。
四間飛車側から仕掛けてもあまり良くなるイ
メージがなかった。35 手目 48 金上は今まで見
たことのない手だった。終盤に飛車を打ち込ま
図2 119 手目 4八桂まで
れた時に玉が薄くなることが分かる為、人間に
はまず指せない(図1)
。
なにか指さないといけないので、気を取り直
して読んでみると数手後に 36 の馬を捨て、36
に空間を作る筋を偶然発見し、希望を取り戻し
た。
124 手目 58 馬を指した時は半信半疑で何か
読み抜けがあるかもしれないがこの手が成立
するしか勝ち目がないと思っていた。激指が次
の手を指すまで祈るような気持ちだった。125
手目の 39 竜を見て、この手ではっきり勝ちに
なったと思ったが、これまで読み筋が合わず、
何度ハッとさせられる受けをされていたので、
図 1 35 手目 4八金上まで
その後は気を引き締めて、きっちりと寄せ切る
ことができた。
玉の堅さ、遠さがかなり違うと思ったため、
対局中は粘り強い受けや読みに無い手を何
自玉を見ずに少々乱暴に攻めあってもよくな
度も指されて、動揺して迷いが生じ、弱気にな
った。以下次から次に駒をぶつけていき、56
っていた。改めて棋譜を見てみると、穴熊らし
手目の 55 銀の局面では激指側は駒が上ずって
い食いつき方が出来ていて、負けかと思った局
いて、纏めにくく優勢を意識していた。
面も穴熊の遠さが活き、終始リードを保ってい
少し進んで 92 手目 58 とから 96 手目 56 香を
た。35 手目 48 金直と激指が自玉を薄くした分
思いついてから、ほぼ一方的に攻めることが出
が大きく、インパクトのある手であった為、コ
ンピュータ将棋は感覚的な部分がまだまだ甘
*
立命館大学将棋部
いという印象が残った。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
2009 年 3 月 10 日
情報処理学会
コンピュータ将棋イベント
主催:情報処理学会,協力:コンピュータ将棋協会
場所:立命館大学びわこ草津キャンパス・プリズムホール
持時間:
1時間(切れたら1分)
チェスクロック使用
(注)コンピュータ側は,内部時計で50分(切れたら50秒)
.
指し間違い,入力間違いの場合は,やり直しあり.駒の操作ミスで時間切れとはしない.
先手:激指(Xeon 3.2G Quad*2 Memory:8GB)
後手:稲葉聡(アマ準名人)
▲7六歩
△3四歩
▲6六歩
△8四歩
▲7八銀
△6二銀
▲6八飛
▲4八玉
△3二玉
▲3八銀
△3三角
▲3九玉
△5四歩
▲5八金左 △2二玉
▲7七角
△5三銀
▲4六歩
△8五歩
▲3六歩
△4四歩
▲3七桂
△1二香
▲6七銀
△1一玉
▲2八玉
△2二銀
▲4七金
△7四歩
▲5六銀
△5二金右
▲4五歩
▲同
▲4八金上(図1) △3二金
▲4四歩
△同
銀
▲6五歩
△8六歩
角
△5五歩
▲6七銀
△3五歩
▲4五歩
△5三銀
▲3五歩
△5六歩
▲6四歩
△4六歩
▲同
金
△6四銀
▲6六歩
△5七歩成
▲同
金
△5五銀
▲5八飛
△4六銀
▲同
金
△3六歩
▲同
△8六飛
▲同
歩
△6九角
▲8二飛
△5八角成
▲同
銀
△3一歩
▲8一飛成 △8八飛
▲4九銀打 △8九飛成
▲9一龍
△6六角
▲5七歩
△5六歩
▲5一龍
△5七歩成
▲同
銀
△8四角
▲5六龍
△5八歩
▲6七角
△9九龍
▲4四香
△同
▲同
歩
△5九歩成
▲4八銀上 △6四桂
▲5三龍
△5八と
▲同
角
△5七角成
▲同
龍
△5六香
△6九角
▲5九龍
△3六角成
▲9九龍
△4六香
△4八桂成
▲同
△5七銀
▲4三歩成 △同
▲4七龍
△5八香成 ▲同
▲4九香
△5六桂
▲4七歩
▲同
金
△5八金
龍
▲3九金
▲5二飛
香
▲5七飛成 △4七金
金
▲4八桂(図2)
△同
金
金
龍
△5八馬
▲3九龍引 △3六桂
▲1八玉
△4八銀
▲2八銀
△3九銀不成▲同
銀
△4七歩
▲4九香
△4八金
▲2九金
△3九金
▲同
金
△4八銀
▲2八銀
△同桂成
▲同
△3九銀打 ▲2九金打
△2八銀成
▲同
金
△3六香
▲2六銀
△3九金
▲8八角
△3八金
▲同
△4九銀不成
▲3九金打 △3八銀成
▲同
△4八歩成
▲3四桂
△同
▲4九銀
▲同
△4六桂
▲3九龍
△4八金
▲3四歩
△3九金
△同
▲1四桂
△同
銀
△同香成
△4八金
金
▲同
▲3三銀
△4三金
△4二玉
桂
金
歩
金
金
まで 172 手で後手の勝
金
△3八と
▲2二角成 △同
玉
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
「四強合体!アマチュア強豪は最強ソフト軍団に勝てるか!?」
イベント報告
伊 藤 毅 志
1.イベント開催の経緯
*
を与え、それぞれが出した候補手を多数決して手を選択
する」という手法である。このアイディアは、当初、多
エンターテイメントと認知科学研究ステーションは、
くのプログラマーからひどく不評であった。
「そんな単純
毎年 3 月下旬にシンポジウムを開催している。2009 年に
な方法で、強くなるはずがない。
」という意見が大勢を占
も、3 月 21,22 日の二日間に渡って、電気通信大学総合
めた。将棋では、
「三人寄れば文殊の知恵」よりも「船頭
研究棟 3 階 301 において第 3 回シンポジウムが開催され
多くして船山に上る」となるのではないかという見方が
た。本イベントは、22 日の午後に、特別セッションとい
主流だった。確かに、人間同士の相談将棋やリレー将棋
う形で開催された。
このシンポジウムでこのようなイベントを行ったのは、
コンピュータ将棋のレベルのベンチマークの一つとして、
人間との対戦を定期的に企画したいという意図と、当研
では、プレイヤの意見がまとまらないと、なかなかうま
く指し手がかみ合わないことが多い。
しかし、私は、どうにもこのアイディアを捨てきれな
かった。確信は無かったものの、相応に強いプログラム
究室で、2008 年から当研究室で研究を進めていた「合議
同士であれば、複数のプログラムが支持する手は、少数
アルゴリズム」が一定の効果がありそうだという手応え
のプログラムが支持する手よりも良い手を選ぶ可能性が
を得ており、複数のプログラム(プログラマー)が参加
あるのではないかという漠然とした予想もあった。とも
すれば盛り上がるイベントになるのではないかという思
あれ、相応な実験を行って、実証する必要がある。そこ
惑からであった。
小幡君の「文殊」に関する報告でも触れているように、
で、当時の卒研生の塙雅織君の卒研テーマとして、この
研究を実証してみようと考えた[2]。
合議アルゴリズムのアイディアの誕生は、2008 年の夏に
研究の当初は、上述のようにコンピュータ将棋プログ
遡る。情報処理学会の依頼を受けて、コンピュータ将棋
ラマーの協力は得られなかった。また、伊藤研究室には
を人間のトッププレイヤーレベルに引き上げるためのプ
HIT将棋という知識主導型の弱いプログラムはあるが、
ログラマーによる会議が開かれ、その席上で、
「複数のプ
ゲーム木探索型の相応に強い将棋プログラムが存在しな
ログラムを繋いでより良いパフォーマンスを得るに
かったこともあり、本将棋での実験は諦めて、5五将棋
は?」という話し合いがなされた。そこで出たアイディ
を題材に実験を行うことにした。5五将棋では、同じ卒
アがこの「合議アルゴリズム」である[1]。
研生の小幡君が、当時「千分ノ壱里眼」というプログラ
ムを作っていて、2008年のUEC杯5五将棋大会に
おいて、3位の好成績を収めていたので、相応に強いプ
ログラムであると考え、これを用いて合議実験を行うこ
とにした。合議を行うためには、複数のソフトが必要で
あったので、
「千分ノ壱里眼」の思考アルゴリズムに手を
加え、複数のプログラムを作ることにした。
後に Bonanza を用いた実験では、評価関数に乱数を加
える手法を用いることになったが、当時はこのアイディ
アが無かったので、探索方法と評価関数に変更を加えて、
4種類のプログラムを作ることにした。
具体的には、探索では、末端で駒の取り合いなどの静
止探索を行うかどうかで2種類に分け、評価関数では、
図1 多数決による合議の概念図
「千分ノ壱里眼」オリジナルの評価関数(割と単純で駒
の損得中心に駒の価値を適当に割り当てたもの)と 2008
既に色々なところで発表しているので、かなり周知の
年優勝プログラムの「K55」の駒の価値だけを模倣し
アルゴリズムになっているが、合議のアイディアは非常
た評価関数の 2 種類を用意した。この探索 2 種類と評価
に単純である。図1のように「複数のプログラムに局面
関数 2 種類で合計 4 種類のプログラムを作成し、合議実
*
電気通信大学電気通信学部 情報工学科
験を行った。
最初の実験条件は、それぞれ読みの深さを 9 手(静止
探索有りの場合は部分的にそれ以上深く読む)にして、
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
先後 50 局ずつ、持ち時間に特に制限を与えずに実験を行
本将棋でも実験を行ってみたくなった。しかし、まだこ
った。その 4 プログラム同士の対戦結果が表 1 である。
れらの結果は、世に知られておらず、相応に強いプログ
ラムの協力が得られる態勢は整っていなかった。そこで、
表 1 千分ノ壱里眼を元にした 4 プログラム間の勝敗
学生バイトを雇って、強い市販プログラムを使って手作
業で合議を行う実験を実施した。
具体的には、
「AI 将棋 ver15」
「Bonanza3.0」
「激指 8」
「新・東大将棋
無双」をマシンのレベルを整えて、4
つのほぼ等価なパソコン上で動かし、それぞれ 1 手 10 秒
に条件を整えて思考させ、4 つの候補手を手作業で合議さ
せるというアコースティックな方法である。当然このよ
うな手作業では膨大な数の対戦を行うことは出来ず、4
その結果、静止探索有りで、オリジナルの評価関数を
ソフト同士の対戦もそれぞれ 10 局ずつという少ない対局
用いたプログラムが最も強いことが判明した。自分自身
数での実験となった。この予備実験では、東大将棋が他
との対戦結果を 50 勝 50 敗であったと仮定すると、他の
プログラムに対して平均 66.7%の勝率を収めたので、こ
組み合わせに対する勝率平均は、63.8%となった。
れをリーダーにして、単体の東大将棋に対する勝率を調
この実験結果を基準に、同様の条件で、それぞれをリ
べたところ、
「40 局中 23 勝 14 敗 3 分」
(57.5%)の勝率
ーダーとした合議プログラムの 4 プログラム単体に対す
をあげた。また、リーダーをランダムに選んで合議させ
る勝率を調べた。その結果が、表 2 である。
たところ単体の東大将棋に対して、
「20 局中 14 勝 6 敗」
(70.0%)の勝率をあげた。十分な数の実験は行えなかっ
表 2 合議アルゴリズムの 4 プログラムに対する勝敗
たものの、条件を変えて他の合議実験も行ったが、いず
れも少なくとも元の単体プログラムに対して、5 割以上の
勝率をあげることがわかってきた。
これらの実験結果をもとに、イベントの時点では、
「四
強(AI 将棋、Bonanza、激指、新・東大将棋)のプログ
ラムを用いて多数決合議させれば、少なくとも単体以上
の強さが得られるはず」という目算を得るに至った。
表 1 と表 2 を比べると、一部で単体の時に勝率が高い
場合があるが、殆どの場合、合議することで勝率が高く
なっている傾向が見られた。特に、表の左上から右下に
かけて対角線上のデータ(単体をリーダとした合議 VS
単体)では、いずれも合議側が勝ち越しており、合議の
効果を強く示す結果が得られた。
対戦数が少ないという統計的な問題を解消するために、
持ち時間を一手 1 秒に固定し、対戦数を 1000 局にして、
同様の実験を行った。表 3 は、単体同士の事前対局の結
果である。この場合は、静止探索無しでオリジナル(独
自)の評価関数を使った場合の勝率が最も高かった。
表 3 持ち時間を短くした場合の 4 プログラム間の勝敗
この結果をもとに静止探索無しでオリジナルの評価関
数を使った単体とこれをリーダーとした合議と 1000 局対
戦して、勝敗を調べたところ、
「563 勝 437 敗」と統計的
にも有意に合議が強くなったことを示す結果が得られた。
5五将棋では、相応な結果が得られたので、いよいよ
2.四強合議の準備とトップアマチュア
2009 年 3 月の時点では、まだこの合議システムが強く
なるという明確な確信は得られていなかったものの、上
述のような有望そうな結果を背景にイベントを実現する
ことにした。ともあれ、四強を合体させて多数決で手を
選び、それと人間トップが対戦するという企画自体は十
分に面白いので、このイベントとしては成立していると
判断した。
使用したソフトは、いずれも国内で強豪と言われてい
る以下の4つの市販ソフトである。
・AI 将棋 Version 15 for Windows
・将棋ワールドチャンピオン 激指 8
・新・東大将棋 無双
・Bonanza 3.0 Commercial Edition
また、使用したマシンのスペックは以下の通りである。
・Bonanza と AI 将棋は、CPU Xeon X5472 (2x6MB L2 キ
ャッシュ, 3.0GHz, 1600MHz FSB ) x2 (4 コア x2)を、4
コ ア ず つ 割 り 当 て た 。メ モリ は 、 DDR2-SDRAM
(800MHz) 2GBx4 = 8GB。
・激指は、CPU Xeon X5472 (2x6MB L2 キャッシュ,
3.0GHz, 1600MHz FSB ) x2 (4 コア x2)の 4 コア分のみ
使用。メモリは、DDR2-SDRAM (800MHz) 2GBx4 =
8GB。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
・東大将棋は、CPU Xeon X5430 (2x6MB L2 キャッシュ,
2.66GHz, 1333MHz FSB ) x2 (4x2 コア)で、スペックが
落ちる分、
8 コアを使用した。
メモリは、
DDR2-SDRAM
(667MHz) 2GBx2 = 4GB。
は付録の通りである。
棋譜では、先手の合議システムがどのような手の中か
ら、どうやって手を選んだかがわかるように、それぞれ
のプログラムの候補手も併せて載せているので参照して
ほしい。
市販ソフトを繋いで、それぞれのソフトが出した候補
谷崎氏の意欲的な力戦形への誘導で、13 手目には、早
手を自動的に多数決してくれる合議サーバは存在しない
くも定跡データベースを外れた形となった。合議のログ
ので、上述のマシンをそれぞれ手作業で候補手を生成さ
を見ていただければわかるように、難解な局面が多かっ
せ、それを人手で集計して合議するという方法で手を決
たのか、プログラム間で候補手の意見が合わない手が多
めることにした。合議の手法としては、4 つのソフトが出
くみられた。
した手の中で最も多くの意見を集めた手を選択する「単
図2 33 手目5六歩の局面
純多数決」を用いた。但し、1:1:1:1 や 2:2 に候補手が分
かれた場合は、特にリーダーを定めずに、「Bonanza→激
指→新・東大将棋→AI 将棋」の順で手を決めることにし
た。また、序盤の定跡部分では、合議は行わず、
「新・東
大将棋」の定跡データベースを用いることにした。
持ち時間は、
人間側もコンピュータ側も双方 40 分とし、
それが切れたら一手 1 分以内の秒読みという条件で対戦
した。しかし、実際にはコンピュータ側は、持ち時間制
御方法については何のアイディアもなかったので、初手
から一手 45 秒以内に手を決め、合議する時間を見込んで
もおよそ一手 1 分以内に指せるようにした。このような
イレギュラーな形で対戦するのは初めての試みだったの
で、人間側には、コンピュータ側が手作業で合議してい
るので、多少の遅延の可能性があることについては、事
前に了承してもらっておいた[3]。
なお、この対戦を引き受けていただいた人間側のアマ
チュアトッププレイヤは、東大将棋部の若きエースで学
谷崎氏の指摘した 33 手目の5六歩は、4 つのプログラ
生準名人の谷崎生磨氏(3 年生/対戦当時)であった。こ
ムの意見が分かれた局面で、ここではたまたま新・東大
のようなイベントに理解を持って、公開の場で対戦して
将棋の選択した手が選ばれた。谷崎氏の言うように、馬
いただいけるアマチュア強豪の方々には、いつも頭が下
を作らせる指し方は、人間の感覚とは違うかも知れない
がる。コンピュータ将棋がコンピュータ将棋同士の対戦
が、この手の善悪は難しいところだろう。
だけで閉じていては、人間レベルとの比較としての棋力
の判定は難しいし、強い人間プレイヤとの対戦でコンピ
図3 39 手目8六歩の局面
ュータの改良すべき点が明らかになることも多い。コン
ピュータ将棋の進歩にとっては重要な意味がある。
さらに、それぞれのソフトの作者である「AI 将棋」の
山下宏氏、「激指」の鶴岡慶雅氏、「新・東大将棋」の棚
瀬寧氏、「Bonanza」の保木邦仁氏にも連絡を取り、この
イベントの趣旨を説明したところ、興味を持っていただ
いたばかりか、会場にゲストとして来場していただける
こととなった。結果として、当初予定したよりも豪華な
ゲストを迎えることができた。とは言うものの、この時
点ではソフトの開発者は、合議アルゴリズムには懐疑的
で、イベントとしての面白さに惹かれての参加だったと
思われた。私としては、
「ここで合議側が人間に勝利して、
この合議アルゴリズムの有効性を世間に知らしめること
ができたら、
、、
」という下心もあった。
3.対戦と合議の様子
対戦は、コンピュータ側の先手ではじめられた。棋譜
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
また、谷崎氏も指摘している本局の疑問手となった 39
この対戦から、意見が割れたときは難しい局面である
手目の8六歩は、Bonanza と AI 将棋の合議による手であ
ことが多いことなどのデータを得ることができ、後の「文
った。この一手に限って言えば、合議が疑問手を選んだ
殊」の時間延長制御のヒントにつながっている。
局面であったと言えるかもしれないが、この局面自体も
このようなイベントが実現できたのも、対戦を快く受
非常に難解な局面であり、そもそも現在のコンピュータ
諾してくださった谷崎氏と、対戦のためにソフトを提供
将棋では、正確な指し手を選ぶことが困難な局面だった
してくれたばかりか、会場に足を運んでイベントを盛り
のかも知れない。
上げてくれた開発者の山下氏、鶴岡氏、棚瀬氏、保木氏
以降は、谷崎氏の正確な指し回しにコンピュータ側が
翻弄され、終わってみれば合議側が惨敗する結果となっ
の協力のおかげであった。この場を借りて御礼申し上げ
たい。
た。
参考文献
[1] 伊藤毅志:合議アルゴリズム「文殊」~単純多数決で
4.おわりに
「合議システム」は、当初、
「談合システム」と呼ばれ
勝率を上げる新技術(コンピュータ将棋の新しい波)
、情
ていたが、イメージが悪かったので、
「合議」と改名した。
報処理学会誌、Vol.50, No.9, pp.887-894(2009).
塙君、小幡君らの地道な研究の積み重ねで、ようやく、
[2] 塙雅織、伊藤毅志:思考アルゴリズムにおける最適合
実用に足るシステムであることが知られるようになり、
議システム、第 3 回エンターテイメントと認知科学シン
その後は、保木氏の協力も得られ、今日では、
「合議シス
ポジウム、pp.72-75 (2009).
テム」についての認知度も高まってきたように感じてい
[3] 「四強合体!アマチュア強豪は最強ソフト軍団に勝て
る。
るか!?」公開対局実況中継ページ:
ここでの対戦では、合議側が谷崎氏の正確な指し回し
http://minerva.cs.uec.ac.jp/~ito/entcog/E&C2009/jikkyou.html
に翻弄され、敗北することとなった。
「合議」の有効性を
示そうとする私の下心は脆くも崩れたが、合議システム
が初めて人間と公の場で対戦したことは、意義あること
だったと思っている。
先手:四強合議システム
後手:谷崎生磨氏
1 7六歩(77)
( 0:18/00:00:18)
*東大将棋
77 銀
46 歩
*AI 将棋
58 金右
*激指
27 銀
24 同
銀(33)
( 0:26/00:09:48)
*東大将棋
77 銀
25 7七銀(88)
( 1:07/00:06:54)
58 金右
*BONANZA
37 銀
2 9四歩(93)
( 0:35/00:00:35)
16 6三銀(72)
( 1:03/00:05:39)
*激指
36 歩打
3 2六歩(27)
( 0:11/00:00:29)
17 2六銀(27)
*定跡
*AI 将棋
*定跡
( 0:33/00:03:08)
*東大将棋
77 銀
*BONANZA
26 銀
*AI 将棋
77 銀
4 3四歩(33)
( 0:23/00:00:58)
*激指
26 銀
26 6五歩(64)
( 1:26/00:11:14)
5 2五歩(26)
( 0:06/00:00:35)
*東大将棋
77 銀
27 8八玉(78)
( 1:08/00:08:02)
36 銀
*BONANZA
37 銀
6 8八角成(22) ( 0:29/00:01:27)
18 1四歩(13)
*AI 将棋
( 1:08/00:06:47)
*激指
88 玉
7 同
19 3六歩(37)
*定跡
銀(79)
( 0:04/00:00:39)
*定跡
( 0:31/00:03:39)
*東大将棋
88 玉
*BONANZA
36 歩
*AI 将棋
58 金右
8 2二銀(31)
( 0:21/00:01:48)
*激指
36 歩
28 5四銀(63)
( 1:44/00:12:58)
9 3八銀(39)
( 0:05/00:00:44)
*東大将棋
77 銀
29 3七銀(26)
( 1:03/00:09:05)
58 金右
*BONANZA
37 銀
10 3三銀(22)
( 0:30/00:02:18)
20 3二金(41)
*AI 将棋
( 1:15/00:08:02)
*激指
78 金
11 6八玉(59)
( 0:04/00:00:48)
21 3五歩(36)
( 0:59/00:04:38)
*東大将棋
37 銀
35 歩
*AI 将棋
58 金右
*定跡
*BONANZA
*定跡
12 7二銀(71)
( 1:00/00:03:18)
*激指
35 歩
30 3三金(32)
( 2:02/00:15:00)
13 7八玉(68)
( 1:19/00:02:07)
*東大将棋
35 歩
31 5八金(49)
( 1:10/00:10:15)
*BONANZA
78 玉
35 歩
*BONANZA
98 香
*激指
58 金右
22 4四歩(43)
( 1:20/00:09:22)
*激指
58 金右
*東大将棋
77 銀
23 3四歩(35)
( 1:09/00:05:47)
*東大将棋
78 金
*AI 将棋
78 金
*BONANZA
34 歩
*AI 将棋
58 金右
( 1:18/00:04:36)
*激指
34 歩
32 4五歩(44)
14 6四歩(63)
( 0:28/00:02:35)
*BONANZA
15 2七銀(38)
<付録>
*AI 将棋
( 2:22/00:17:22)
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
33 5六歩(57)
*BONANZA
( 1:12/00:11:27)
*東大将棋
34 銀
46 歩
*AI 将棋
34 銀
*BONANZA
67 同
馬(55)
( 0:51/00:28:14)
同馬
*激指
78 金
50 同
銀(43)
( 8:22/00:42:22)
*激指
同馬
*東大将棋
56 歩
51 同
歩(35)
( 1:01/00:20:03)
*東大将棋
同馬
*AI 将棋
48 銀
*BONANZA
同歩
*AI 将棋
( 6:47/00:24:09)
*激指
同歩
68 8五桂(93)
( 1:28/01:01:17)
( 1:08/00:12:35)
*東大将棋
同歩
69 1一馬(77)
( 0:57/00:29:11)
27 飛
*AI 将棋
同歩
*BONANZA
34 3九角打
35 3八飛(28)
*BONANZA
同馬
11 馬
*激指
38 飛
52 8四歩(83)
( 0:58/00:43:20)
*激指
11 馬
*東大将棋
38 飛
53 2四歩(25)
( 1:24/00:21:27)
*東大将棋
11 馬
*AI 将棋
38 飛
*AI 将棋
11 馬
*BONANZA
24 歩
36 8四角成(39) ( 2:02/00:26:11)
*激指
24 歩
70 7七銀打
37 3六銀(37)
71 8八銀打
( 1:38/01:02:55)
( 1:03/00:13:38)
*東大将棋
24 歩
*BONANZA
26 銀
*AI 将棋
24 歩
*BONANZA
88 銀打
*激指
36 銀
54 8五歩(84)
( 5:38/00:48:58)
*激指
88 銀打
*東大将棋
24 歩
55 2三歩成(24) ( 1:23/00:22:50)
*東大将棋
同桂
36 銀
*BONANZA
23 歩成
*AI 将棋
38 9三桂(81)
*AI 将棋
( 2:11/00:28:22)
*激指
78 銀打
72 6六歩(65)
39 8六歩(87)
73 8七香打
( 0:53/00:30:04)
78 金打
( 1:26/01:04:21)
( 1:01/00:14:39)
*東大将棋
23 歩成
*BONANZA
86 歩
*AI 将棋
52 歩
*BONANZA
*激指
78 金
56 2七歩打
( 1:08/00:50:06)
*激指
78 金打
*東大将棋
24 歩
57 3二と(23)
*東大将棋
87 香
*AI 将棋
87 歩
*AI 将棋
40 7四馬(84)
41 3五歩打
( 0:56/00:23:46)
( 1:06/00:31:10)
83 歩
86 歩
*BONANZA
32 と
( 2:05/00:30:27)
*激指
38 飛
74 8八銀成(77) ( 1:55/01:06:16)
75 同
( 0:08/00:14:47)
*東大将棋
38 飛
*BONANZA
35 歩
*AI 将棋
32 と
*激指
35 歩
58 2八歩成(27) ( 0:51/00:50:57)
*激指
同玉
*東大将棋
78 金
59 2一と(32)
*東大将棋
同玉
*AI 将棋
同玉
*AI 将棋
( 0:55/00:24:41)
玉(79)
*BONANZA
( 0:59/00:32:09)
同玉
35 歩
*BONANZA
21 と
42 4三銀(34)
( 0:39/00:31:06)
*激指
22 角打
76 7七銀打
43 5五歩(56)
( 1:07/00:15:54)
*東大将棋
22 角打
77 同
55 歩
*AI 将棋
21 と
*BONANZA
*激指
55 歩
60 8六歩(85)
( 1:14/00:52:11)
*激指
同桂
*東大将棋
55 歩
61 3三角打
*東大将棋
同桂
*AI 将棋
同桂
*BONANZA
*AI 将棋
( 0:57/00:25:38)
桂(89)
( 1:27/01:07:43)
( 0:51/00:33:00)
同桂
55 歩
*BONANZA
33 角打
銀(54)
( 0:39/00:31:45)
*激指
33 角打
78 同
桂成(85) ( 1:34/01:09:17)
45 4五銀(36)
( 1:06/00:17:00)
*東大将棋
86 銀
79 同
玉(88)
45 銀
*AI 将棋
33 角打
*BONANZA
( 4:45/00:56:56)
*激指
同玉
*東大将棋
同玉
*AI 将棋
同玉
44 同
*BONANZA
*激指
45 銀
62 4二歩打
*東大将棋
45 銀
63 5五角成(33) ( 0:56/00:26:34)
45 銀
*BONANZA
79 金
46 3二金(33)
*AI 将棋
( 0:08/00:31:53)
*激指
55 角成
80 6五桂打
47 2八飛(38)
( 1:00/00:18:00)
*東大将棋
86 銀
81 6六玉(77)
24 歩
*AI 将棋
84 歩
*BONANZA
*BONANZA
( 0:51/00:33:51)
同玉
( 0:39/01:09:56)
( 0:54/00:34:45)
66 玉
*激指
28 飛
64 8七歩成(86) ( 1:28/00:58:24)
*激指
66 玉
*東大将棋
28 飛
65 7九玉(88)
*東大将棋
66 玉
*AI 将棋
66 玉
*AI 将棋
( 0:49/00:27:23)
28 飛
*BONANZA
79 玉
48 6三馬(74)
( 2:07/00:34:00)
*激指
79 玉
82 8七飛成(82) ( 0:40/01:10:36)
49 3四銀(45)
83 3七桂(29)
( 1:02/00:19:02)
*東大将棋
79 玉
*BONANZA
56 歩
*AI 将棋
79 玉
*BONANZA
37 桂
*激指
34 銀
66 7七と(87)
( 1:25/00:59:49)
*激指
37 桂
( 0:55/00:35:40)
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
( 0:55/00:43:59)
37 桂
46 銀
*BONANZA
42 銀
( 1:43/01:12:19)
*激指
33 馬
*東大将棋
42 銀
*AI 将棋
33 馬
84 4五銀打
85 同
桂(37)
( 0:49/00:36:29)
*BONANZA
同桂
*激指
同桂
102 4二銀打
*東大将棋
同桂
103 同
*AI 将棋
同桂
*BONANZA
( 0:58/01:13:17)
*激指
同馬
*東大将棋
46 歩
86 同
馬(63)
87 6三桂打
( 0:58/00:37:27)
*BONANZA
63 桂
*激指
63 桂
*東大将棋
43 桂
*AI 将棋
63 桂
88 同
馬(45)
89 7五銀打
( 0:41/01:13:58)
( 0:59/00:38:26)
*BONANZA
78 銀
*激指
55 銀
*東大将棋
75 銀
*AI 将棋
75 銀
90 6四桂打
91 同
銀(75)
( 1:25/01:15:23)
( 0:54/00:39:20)
*BONANZA
同銀
*激指
同銀
*東大将棋
同銀
*AI 将棋
43 桂
92 同
馬(63)
( 0:42/01:16:05)
93 5六玉(66)
( 0:57/00:40:17)
*BONANZA
56 玉
*激指
56 玉
*東大将棋
43 桂
*AI 将棋
52 歩
94 4三香打
( 1:19/01:17:24)
95 4一金打
( 0:55/00:41:12)
*BONANZA
41 金
*激指
52 歩
*東大将棋
41 金
*AI 将棋
41 金
96 同
玉(51)
97 3二銀打
( 1:01/01:18:25)
( 0:54/00:42:06)
*BONANZA
32 銀
*激指
32 銀
*東大将棋
32 銀
*AI 将棋
32 銀
98 5一玉(41)
( 0:32/01:18:57)
99 4三銀(32)
( 0:58/00:43:04)
*BONANZA
43 銀不成
*激指
43 銀不成
*東大将棋
43 銀不成
*AI 将棋
43 銀不成
100 同
101 3三馬(11)
*東大将棋
*AI 将棋
歩(42)
( 0:38/01:19:35)
馬(33)
*AI 将棋
104 同
玉(51)
( 0:54/01:20:29)
( 0:50/00:44:49)
同馬
同馬
( 0:37/01:21:06)
まで、後手:谷崎生磨氏の勝ち
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
対合議(激指、ボナンザ、AI将棋、新東大将棋)戦(2009,3/22)自戦記
谷 崎 生 磨
2009 年 3 月 22 日に電気通信大学で4種の
図の▲8六歩です。この手は直前に僕が
コンピュータ将棋の合議と対局させてい
指した△9三桂に対する受けだと思うの
ただきました東京大学将棋部の谷崎生磨
ですが、こう突いた形は本譜で実現した
です。その対局の感想を簡単に振り返っ
ように△7四馬~△8四歩~△8五歩と
てみたいと思います。
いう手順で「時間が経てば確実につぶれ
まず、オープニングは保木さんのご要
る形」なので、こちらとしては、明確な
望で「普通じゃないことをやる」という
攻め筋が生まれて精神的に楽になりまし
話になり、こちらが先手ならば初手▲4
た。形勢もこのあたりから後手優勢に移
八玉の予定でした。振り駒の結果、こち
行していったように思います。このあと
らが後手となり、2 手目△9四歩と指して
は僕が少し危険な指し方をしてしまった
みることにしました。僕は公開対局とい
ので追い込まれましたが、なんとか逃げ
うことでかなり緊張していたので、しょ
切ったという感じでした。全体的な感想
うもないことを言って笑わせてくださっ
としては、4種合議はかなりしっかりし
た保木さんにお礼申し上げます(笑)。
た将棋で、今回は運よくこちらが勝った
将棋は僕の一手損角換わりとなり、自
もののもう一回指せばわからないと思い
分の棋風通り大模様を張ってプレッシャ
ました。観ていた方の中にはこちらの楽
ーをかけるような形に進みました。最初
勝という印象を持たれた方もおられるか
のポイントは合議が指した第1図の▲5
もしれませんが、対局者の僕としては最
六歩でしょうか。この手に対しては本譜
終盤こちらの勝ちがはっきりするまでず
のように△3九角から馬を作る手がある
っとドキドキで、こわかったです。
ため、かなり大胆な手だと思いました。
最後になりましたが、このような素晴
ただ後手も、馬を作ること自体はかなり
らしい舞台での対局を設定していただい
ぼんやりとした手なので、これで良くな
た電気通信大学の伊藤先生をはじめ関係
ったという確信はなかったですし、実際
者の方々にお礼申し上げます。ありがと
まだまだ難しいと思います。むしろはっ
うございました。
きり「ありがたい」と感じたのは、第2
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
『コンピュータ将棋の最前線』~コンピュータ将棋はアマチュアトップを超えたか?~
イベント報告と「文殊」VS 谷崎生磨氏
伊 藤 毅 志
1.イベント概要
*
ムと準優勝プログラムにお出ましいただくのが筋ではあ
当研究ステーションでは、毎年、数回イベントや招待
ったが、今回は、開催者特権を使わせていただいて、優
講演などを開催しているが、2009 年は、その一環として、
勝プログラム「GPS 将棋」と第三位「文殊」を使わせて
11 月 7 日にコンピュータと人間の対戦を企画実践するこ
いただくことにした。というのも、このイベントを実現
とにした。世界コンピュータ将棋選手権の最終日に恒例
するために、
「情報処理学会」から援助をいただいていた
となっていたコンピュータと人間との「エキシビション
のだが、それは「情報処理学会」と伊藤研究室の共同研
マッチ」は、2009 年には開催されなかった。2008 年にト
究で開発していた新しい合議アルゴリズムの成果を試す
ップアマチュア二人がエキシビションで敗れるという衝
という目的もあったからである。
撃的事件があり、アマチュアに最終日の短い持ち時間で
当研究室では、
「情報処理学会」との共同研究で、新し
対戦を依頼することが困難になってきているというのも
い合議アルゴリズムの研究を行ってきた。その結果、新
開催を難しくしている理由の一つである。このような経
しい合議手法としての「楽観的合議」が、従来の「多数
緯を踏まえ、私は十分な持ち時間のある環境で日を改め
決合議」よりも良いパフォーマンスをあげるようになっ
てコンピュータと人間の対戦を実現したいと考えていた。
ていた。
コンピュータと人間の対戦は、コンピュータ将棋の実
力を測るうえで、重要な尺度になるばかりか、コンピュ
これらの経緯から、
「文殊 VS 谷崎生磨氏」と「GPS 将
棋 VS 稲葉聡氏」の2つのカードが実現することとなった。
ータ将棋と人間の思考の違いを明らかにする上で、認知
また、解説には、おなじみの日本将棋連盟プロ棋士の勝
科学的に見ても興味深い意義を持つ。定期的に、何らか
又清和六段をお招きすることができて、イベントとして
の形で対戦を継続し、ベンチマークとしての記録を残す
も注目を集めるものとなった。
ことは、コンピュータ将棋の発展のために、意義あるこ
とであると考えている。
このエキシビション対戦の計画は、選手権終了後には、
2.本対戦における「文殊」の技術的解説
「文殊」は、2009 年 5 月の世界コンピュータ将棋選手
初優勝「GPS 将棋」の金子さんに暗に打診していた。適
権において、合議アルゴリズムを用いた初のコンピュー
当な対戦相手と場所が見つかれば、対戦をお引き受けい
タプログラムで、その技術的解説については、小幡君の
ただけるというご回答はいただいていた。
記事を読んでいただきたい。
一方、対戦相手となる人間側の候補者を探す必要があ
ここでは、そこから約半年後の本イベントで「文殊」
った。私は、トップアマチュアでコンピュータとの対戦
の新しく取り入れた技術について違いを中心的に簡単に
経験も豊富な清水上徹さんと加藤幸男さんに対戦相手に
説明する。詳しくは、ゲームプログラミングワークショ
ついての相談を持ちかけた。彼らは、若くて実績のある
ップで発表した論文などもご参照いただきたい[1][2]。
アマチュア棋士として、稲葉聡さんと谷崎生磨さんのお
一番の違いは、合議手法の違いである。5 月の選手権の
二人の名前を挙げられた。そこで、早速お二人に打診す
ときには、評価関数に乱数を加えて6つに分けた Bonanza
ることとなった。
を「単純多数決」によって合議させていたが、ここでは、
稲葉聡さんは、2 度の学生名人、アマチュア準名人など
評価値を用いた新しい合議手法を用いた。
の輝かしい棋歴の持ち主で、2009 年 3 月には、情報処理
学会の全国大会の特別セッションでは「激指」を破った
若きトップアマチュアプレイヤである。また、谷崎生磨
さんは、学生準名人、学生王将第 3 位など、東大将棋部
の若きエースであり、2009 年 3 月には、四強合議との対
戦で、コンピュータに勝利を収めている強豪である。有
り難いことに、お二人からは、快諾の返答を得ることが
できた。コンピュータ側にとっても、相手にとって不足
はない人選となった。
本来コンピュータ側としては、選手権の優勝プログラ
図1
「楽観的合議」の概念図
*
電気通信大学電気通信学部 情報工学科
具体的には、合議サーバは乱数を加えた6つの Bonanza
に現在の局面を渡し、それぞれの次の一手とその評価値
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
表1
評価値に与える乱数σの値とプレイヤ数 M を変化させたときの楽観的合議の単体 Bonanza に対する勝率
表2
評価値に与える乱数σの値とプレイヤ数 M を変化させたときの悲観的合議の単体 Bonanza に対する勝率
を付けた候補手を次の一手として決定する。非常にシン
にして、楽観的合議で選ばれた候補手に付いている次の
プルな手法である。
「楽観的合議」の概念図は、図1の通
手を予測手として、相手の思考時間にも予測読みを実現
りである。
することにした。なお、予測手と相手の指した手が一致
この合議手法は、当研究室で共同研究をしていた慶應
していた場合には、思考時間をその分だけ短縮すること
大学の杉山卓弥君に試しにやらせた実験の一つであった。
が出来た。このような実践的工夫も織り交ぜつつ、対戦
評価関数を使った合議手法については、色々なアイディ
に臨んだ。
アがあったが、まずは、最も評価値の高い手を選ばせる
手法(
「楽観的合議」と呼ぶ)と最も評価値の低い手を選
3.楽観的合議の局面
ばせる手法(「悲観的合議」と呼ぶ)を実験させてみるこ
実際の対戦棋譜は、付録を参照いただきたい[3]。結果
とにした。すると、表1、表2のように、楽観的合議で
は、コンピュータ側のバグ落ちで立会人の判定で、谷崎
は、適当な乱数を加えプレイヤ数を増やすことによって、
さんの勝ちとなったが、内容的にはコンピュータ側の勝
合議の効果が認められ、逆に悲観的合議では、合議する
ちであった。
ことによる悪影響が出ることがわかった。特に、楽観的
バグの原因は、
「文殊」では、上述のような予測読みを
合議の結果は、多数決合議の結果を上回る勝率をあげた
実装していたのだが、Bonanza が2手先を「投了」と先読
ため、楽観的合議を用いた新手法による「文殊」をこの
みし、「TORYO」という指し手を送って先読みをさせよ
イベントで試してみることにした。
うとしたため、エラーとなってしまったためである。前
さらに、実践的には、次の二つの工夫を施すことにし
日までに、十分にテスト対局をしており、このようなバ
た。一つは、思考時間制御に合議の結果を用いた点であ
グは観察されていなかったのだが、当日に Bonanza のバ
る。6つの Bonanza の返してきた候補手が異なっている
ージョンを入れ替えたことによる不具合だったようだ。
場合は、全部同じだった場合に比べて難しい局面である
内容的には勝ちだっただけに、谷崎さんにも後味の悪い
という仮説に基づいて、以下のような4段階の思考時間
勝負になってしまった点は深く反省している。
制御を行った。
1)
30秒経過→6台の意見が一致なら終了
この対局に関して言えば、全般的にコンピュータ側の
内容が良く、ポイントの局面で楽観的合議が良い方向に
2)
100秒経過→3台以上一致なら終了
働いたと思われた。ここでは、特に楽観的合議によって
3)
240秒経過→2台以上一致なら終了
手が決められた局面について考察してみる。
4)
560秒経過→終了
この思考時間の延長制御が、妥当なものかどうかは、
思考ログから、楽観的合議で手の選択が行われた箇所
は、以下の4カ所存在した。それぞれについて考察する。
十分な検討をすることは出来なかったが、ともあれ、導
A)33 手目
7七銀
(図2参照)
入してみることにした。
B)45 手目
6八角
(図3参照)
もう一つは、予測読みを組み込んだ点である。合議サ
C)63 手目
4六銀
(図4参照)
ーバに候補手を返すときに、2手先までの手を返す仕様
D)81 手目
4四歩
(図5参照)
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
A)33 手目は図2のような局面で、囲いの駒組みの手
D)81 手目4四歩の局面は、終盤の寄せ局面であった。
順前後に関する局面である。ここでは、7七銀(楽観的
この4四歩の突き捨ては、将来の7一角打を見せた用意
合議)でも6九玉(多数決合議)でもどちらでも大差は
周到な手であった。実際、91 手目に7一角打が実現して
なかったようである。
おり、非常に効果的であったことがわかる。また、突き
捨てのタイミングも絶好で、この後だと4二金と引く手
も生じ、難解な展開も予想された。
図2 33 手目7七銀を選択した局面と6プレイヤの候補手
B)45 手目6八角の局面は、中盤の難所であった。以
図5 81 手目4四歩を選択した局面と6プレイヤの候補手
降、4三金、5八金、3三桂、5六銀と進んだ局面では、
後手から意外と有力な攻めが無く、結果的に 45 手目6八
このように、この対局では「楽観的合議」によって良
角は妙手であったようだ。局後に解説の勝又六段からも
い手が選択されている様子が観察され、この手法の有効
高い評価をいただいた。
性を支持する結果となった。
4.おわりに
今回のイベントでは、
「GPS将棋」は素晴らしい内容
で勝利を収め、
「文殊 with Bonanza」も最終盤でバグ落ち
したものの内容的にはほぼ勝利と言っても良いものであ
った。正確な強さを計るには、もっと多くの対戦を必要
とするが、アマチュアトップに内容的に勝ったという結
果は、プロ棋士レベルに迫っていることを示していると
考えられる。
図3 45 手目6八角を選択した局面と6プレイヤの候補手
C)63 手目4六銀打の局面は、4四銀打と過激に迫る
か、本譜のようにじっくりと戦うかという岐路であった。
この後、2七馬、4八飛、2二玉、3五歩、2八歩、
2六馬、4七飛、5八金と進んでみると、4六銀がしっ
かりした手であったことが徐々に判明してきた。ここで
も有力な手を選択していたようだ。
図6
当日解説会場の様子
このイベントの実現には、快くコンピュータとの対戦
を了承してくれた稲葉聡さんと谷崎生磨さんのご協力が
不可欠であった。この場を借りて、御礼したい。また、
GPS将棋チームと文殊チームも、この対戦のためにプ
図4 63 手目6八角を選択した局面と6プレイヤの候補手
ログラムをチューンナップしてくれた。協力に感謝した
い。さらに、この対局のためにお忙しい中駆けつけてい
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
ただいて、的確な解説をしていただいた勝又清和六段に
もこの場を借りて御礼申し上げたい。
[2] 杉山卓弥、小幡拓弥、斎藤博昭、保木邦仁、伊藤毅
志:将棋における合議アルゴリズム-評価値を用いる効
果について-、ゲームプログラミングワークショップ2
参考文献
009,pp.59-65 (2009).
[1] 小幡拓弥、杉山卓弥、保木邦仁、伊藤 毅志:将棋に
[3] 『コンピュータ将棋の最前線』~コンピュータ将棋
おける合議アルゴリズム-既存プログラムを組み合わせ
はアマチュアトップを超えたか?~ Web 中継ページ:
て強いプレイヤを作れるか?、ゲームプログラミングワ
http://minerva.cs.uec.ac.jp/~event/shogi/20091107/
ークショップ2009,pp.51-58 (2009).
<付録>
36 4五歩(44)
( 2:14/00:16:16)
74 3七歩成(36) ( 0:52/01:07:55)
先手:文殊 with Bonanza
37 5五銀(46)
( 0:01/00:03:52)
75 同 銀(46)
( 0:31/00:17:10)
38 同 銀(54)
( 1:22/00:17:38)
76 6八金(58)
( 0:40/01:08:35)
後手:谷崎生磨氏
1 7六歩(77)
( 0:01/00:00:01)
39 同 歩(56)
( 0:18/00:04:10)
77 2六歩(27)
( 0:01/00:17:11)
2 3四歩(33)
( 1:31/00:01:31)
40 4六歩(45)
( 0:27/00:18:05)
78 7八金(68)
( 0:40/01:09:15)
3 2六歩(27)
( 0:01/00:00:02)
41 同 歩(47)
( 1:40/00:05:50)
79 同 玉(88)
( 0:01/00:17:12)
4 3二金(41)
( 0:26/00:01:57)
42 4七角打
5 7八金(69)
( 0:01/00:00:03)
43 7九玉(69)
( 0:22/00:18:27)
80 3八角打
( 0:38/01:09:53)
( 1:19/00:07:09)
81 4四歩(45)
( 1:41/00:18:53)
6 8八角成(22) ( 0:27/00:02:24)
44 3六角成(47) ( 1:18/00:19:45)
82 同 金(43)
( 0:38/01:10:31)
7 同
83 2五歩(26)
( 0:01/00:18:54)
銀(79)
( 0:01/00:00:04)
45 6八角打
( 2:06/00:09:15)
8 4二銀(31)
( 0:19/00:02:43)
46 4三金(52)
( 3:18/00:23:03)
84 4七角成(38) ( 0:48/01:11:19)
9 3八銀(39)
( 0:01/00:00:05)
47 5八金(49)
( 1:41/00:10:56)
85 同 銀(56)
10 6二銀(71)
( 0:22/00:03:05)
48 3三桂(21)
( 2:59/00:26:02)
11 1六歩(17)
( 0:01/00:00:06)
49 5六銀打
12 1四歩(13)
( 0:16/00:03:21)
50 6三馬(36)
( 7:21/00:33:23)
88 7九金打
13 3六歩(37)
( 0:01/00:00:07)
51 4七金(58)
( 0:01/00:11:27)
89 6七玉(78)
14 6四歩(63)
( 0:20/00:03:41)
52 3六銀打
15 2五歩(26)
( 0:01/00:00:08)
53 同 金(47)
( 0:30/00:11:26)
( 3:33/00:36:56)
86 4九飛打
87 5八銀(47)
( 0:31/00:19:25)
( 0:40/01:11:59)
( 0:01/00:19:26)
( 0:42/01:12:41)
( 0:30/00:19:56)
90 2九飛成(49) ( 0:40/01:13:21)
( 0:30/00:11:57)
91 7一角打
92 4二飛(82)
( 0:01/00:19:57)
( 0:39/01:14:00)
16 3三銀(42)
( 0:28/00:04:09)
54 同 馬(63)
( 0:19/00:37:15)
17 3七銀(38)
( 0:01/00:00:09)
55 8八玉(79)
( 0:10/00:12:07)
93 5六角打
18 6三銀(62)
( 0:24/00:04:33)
56 3五馬(36)
(16:24/00:53:39)
94 2七龍(29)
19 4六銀(37)
( 0:01/00:00:10)
57 6六歩(67)
( 1:41/00:13:48)
95 5三角成(71) ( 0:31/00:21:28)
20 5四銀(63)
( 1:38/00:06:11)
58 3二玉(42)
( 1:55/00:55:34)
96 4三金(44)
21 3五歩(36)
( 0:01/00:00:11)
59 3八飛(28)
( 0:30/00:14:18)
97 3一銀打
22 4四歩(43)
( 0:43/00:06:54)
60 2六馬(35)
( 4:13/00:59:47)
98 1三玉(22)
( 0:38/01:16:06)
23 3四歩(35)
( 0:01/00:00:12)
61 4五歩(46)
( 0:01/00:14:19)
99 4二馬(53)
( 0:01/00:22:00)
24 同
銀(33)
( 0:19/00:07:13)
62 3六歩打
( 1:30/01:01:17)
100 4五桂打
( 0:41/01:16:47)
25 2四歩(25)
( 0:01/00:00:13)
63 4六銀打
( 1:41/00:16:00)
101 2二金打
( 0:30/00:22:30)
26 同
歩(23)
( 0:17/00:07:30)
64 2七馬(26)
( 1:10/01:02:27)
102 3七龍(27)
27 同
飛(28)
( 0:01/00:00:14)
65 4八飛(38)
( 0:30/00:16:30)
103 4七歩打
28 2三金(32)
( 0:20/00:07:50)
66 2二玉(32)
( 1:18/01:03:45)
104 3五龍(37)
( 0:42/01:18:08)
29 2八飛(24)
( 0:01/00:00:15)
67 3五歩打
105 2三金(22)
( 0:01/00:22:32)
106 同 玉(13)
( 0:03/01:18:11)
30 2四歩打
( 0:16/00:08:06)
68 2五銀(34)
( 0:01/00:16:31)
( 0:37/01:04:22)
31 5六歩(57)
( 1:26/00:01:41)
69 2八歩打
32 4二玉(51)
( 3:36/00:11:42)
70 2六馬(27)
( 0:23/01:04:45)
33 7七銀(88)
( 1:40/00:03:21)
71 4七飛(48)
( 0:06/00:16:38)
34 5二金(61)
( 2:20/00:14:02)
72 5八金打
35 6九玉(59)
( 0:30/00:03:51)
73 2七歩(28)
( 0:01/00:16:32)
( 2:18/01:07:03)
( 0:01/00:16:39)
( 1:00/00:20:57)
( 0:42/01:14:42)
( 0:46/01:15:28)
( 0:31/00:21:59)
( 0:39/01:17:26)
( 0:01/00:22:31)
107 投了
※コンピュータ側が手を返さなくな
ったため、立会人の判定で谷崎生磨
氏の勝ち
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
対文殊 with Bonanza 戦(2009,11/7)自戦記
谷 崎 生 磨
*
2009 年 11 月 7 日に電気通信大学でボナンザの
だと感じ、持ち時間を大量に投入して熟考しまし
合議制を採用している文殊と対局させていただ
た。けれども具体的な順が全くわからずに、だん
きました東京大学将棋部の谷崎生磨です。その対
だん後手大変なのでは?という感覚にとらわれ
局の感想を簡単に振り返ってみたいと思います。
ていったのでした・・・。
振り駒で後手を引いたので、文殊はどのように
この将棋は文殊にとてもうまく指されてしま
応対してくるのかという実験的な意味も込めて、
ったので、僕の中で最後のポイントと思われるの
3 月に 4 種合議と対局したときと同じ一手損角換
が、第2図の局面です。
わりを選択しました。受けて立つ、という感じで、
僕の大好きな王者風のかっこつけた戦型選択で
す(笑)
。
まず、最初のポイントは第1図の局面でしょう
か。
ここでは、局後に勝又先生からご指摘を受けた
ように、図の前の△4三金のところで△7四歩~
△7三桂を急ぐべきだったのかもしれません。た
だ僕が思ったのは、第2図で指した△3三桂がか
えって先手の攻めに対して当たりを強くしてし
図は 5 筋で銀交換が行われたところで、本譜は
まってあまり良くなかったかなということです。
ここから△4六歩▲同歩△4七角▲7九玉△3
それに代えて△3一玉や△5一玉というような
六角成▲6八角(!)と進行しました。▲6八角
手を指しておいて、全く働いていない8二の飛車
には本当にびっくりでしたが、一見先手にとって
を後手の左辺に転回する筋を見せて指せばまだ
ものすごく辛い手のように見える▲6八角を打
まだだったのではと今では思っています。いずれ
たれた局面が後手芳しくないというのであれば、
にせよ、後手は遊んでいる右辺の駒を使うように
第1図ではぼんやりと△5七角と打ってみる手
しないとなかなか勝てないようです。本譜は△3
もありましたし、△3六角成のところでは△5六
三桂に▲5六銀~▲4七金が手厚い指し方で参
角成という手もあったのでそれらの手をもっと
りました。以下は完敗コースでしたが、最後文殊
深く読むべきでした。ただ、▲6八角でまずいと
のバグにより勝負はこちらの勝ちという判定が
は全く考えずに△3六角成で良しと思って指し
下されました。ただ将棋としては完全に負け将棋
たことなので、ここは僕の修行不足でした。
だったので、未練たらたら指さずにさっさと投了
しかし実際の対局中は、▲6八角にはびっくり
したけれどこれなら何か良くする順があるはず
すべきでした。投げっぷりが悪くて申し訳ありま
せんでした(笑)
。
全体的な感想としては、対局していて文殊はめ
*
東大将棋部
ちゃくちゃ強いと感じました。加えて、文殊が非
常に早指しで全然時間を使ってくれず、中盤の途
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
中でこちらだけ一方的に 30 秒将棋になってしま
図の局面自体は自分の感覚では後手もまずまず
ったことがとても印象に残っています。
という気がするので、もしそうであるならば先手
このことについて局後に聞いてみたところ、僕
はこの局面を避けるべきだったのではと思いま
の指し手と文殊の予測読みがかなりマッチング
す。しかしそのような細かい注文を出さなければ
していたので僕の考慮中に大体読んであった、と
いけないようなレベルにまでコンピュータ将棋
のことでした。つまり僕の読みは Bonanza と似て
が達したのかと思うと、素人の僕には開発者の方
いるということになりますが、こんなに強いコン
の苦労の全てを知ることは到底できないのです
ピュータ将棋と似ているということは素直に喜
が、本当にすごいなぁと感じています。
びたいと思います(笑)
。
最後になりましたが、このような素晴らしい舞
最後に、この将棋に関して文殊にケチをつける
台での対局を設定していただいた電気通信大学
ところがあるとするならば、第1図の少し前ぐら
の伊藤先生をはじめ関係者の方々にお礼申し上
いのところでしょうか。今冷静な目で見ても第1
げます。ありがとうございました。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
GPS
GPS
11
7
GPS
GPS
1
1:
GPS
: 2009
Bonanza,
) GPS
26
2009
Xeon X5570 (2.93GHz)
1 2009
Bonanza
GPS
GPS
(
Mac Pro
9
OS
r2169
GPSSHOGI
Linux (debian lenny, 64bit)
OSL r3949,
GPS
GPS
140
(
)
2
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*
*
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*
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*
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*
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*
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*
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79
80
101
-1080
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
対「GPS将棋」戦(2009.11.7)自戦記
稲 葉
聡
*
GPSとの公開対局が 2009 年 11 月 7 日
と 5 筋で戦おうとした。指し手に一貫性が
に電気通信大学で行われた。前回の激指戦
なく、40 手目から 44 手目の局面にたった
と同様、特に変わった調整はせず、アマ大
四手進んだだけで、かなり損をしてしまっ
会に臨む時と同じ調整をして対局を迎えた。
た。
勝負は如何に序盤でリードを奪い、そのリ
気を取り直し、指し手を進めて、57 手目
ードを保てるかにかかっていると思ってい
16 歩の局面に進んでみると、意外と戦える
た。
形になったと思った(図2)
。
激指同様にGPSは四間飛車に振ってき
た。迷わずに穴熊を選択した。お互いに駒
組みが完成し、40 手目 63 金を見て、方針
やその後の展開を考えた(図1)
。
図2 57 手目 1六歩まで
しかし、55 歩、同歩、同飛と進み、事の
重大さに気がついた。捌けそうに見えた 37
図 1 40 手目 6三金まで
桂が次に 35 歩と突かれると助からない。仕
方なく 24 歩から動くことにしたが、形勢は
16 歩や 68 銀と指せば良くある将棋にな
少しずつ悪くなっていく。65 手目 56 歩と
り一局だった。実戦は 79 金として 78 飛か
打つか 26 飛と指すかで迷ったが、26 飛を
ら 7 筋交換を目指した。対して、GPSは
選び、結果敗着となる一手になった。
83 銀とノータイムで上がってきた。上部を
手厚くすると同時に、次に 72 金と上がれば
陣形が引き締まる。ただこの瞬間、61 金に
紐がついてなく、少し怖い形になる。チャ
ンスと見て、55 歩から仕掛ける手がすぐに
思い浮かんだが、読んでみるとうまくいか
なかった。
予定通り 78 飛と回る手を考えるが、83
銀と 7 筋に駒を足していた為、7 筋を破る
図3 65 手目 2六飛
ことが難しく、22 飛で指す手に困ってしま
う。妥協して 68 銀と引いて、58 飛、55 歩
NDS ソリューション
*
その後は、勝又プロが絶賛していた端攻
めから 35 香や最短で確実な終盤を見せ付
けられ、コンピュータ将棋の進歩が目立つ
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
内容になった。やりにくいだろうと深く読
さを計れないほど強かった。
まなかった手をノータイムで指されたり、
もう一度でいいから公式の場で挑み、良
無駄な手や一貫性のない手を繰り返しして
い将棋を指してみたいという思いもあるが、
しまったり、精神的な弱さが出てしまい、
それ以上にプロ棋士との対戦が実現し、ど
不甲斐ない内容になって関係者に申し訳な
のような将棋が指されるのかを早く見てみ
い対局になってしまった。
たい。
いつの間にこんなに強くなってしまった
そして、プロがコンピュータと指すこと
のか、コンピュータ将棋の現在の実力等、
によって、コンピュータ独特の新しい手を
疑問ばかりが頭に浮かんできた。その後ネ
学び、相乗効果で将棋のもっと深い部分を
ットで非公式に対局させてもらい、強さを
見ることが出来る日が来るのではないかと
体感するものの、負けてばかりで私では強
期待している。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
激指 VS 古作登氏(奈良県アマ三冠)
大阪商業大学アミューズメント産業研究所シンポジウム
「頭脳スポーツと教育 -ブレインスポーツ冬の陣-」
「人工知能はここまで進化した」における公開対局
鶴岡 慶雅*
2010 年 2 月 6 日土曜日、大阪商業大学で
アを搭載しており、激指は秒間約 180 万局
開催されたシンポジウム「頭脳スポーツと
面を探索することができる。1 コアの場合
教育」のイベントのひとつとして、アマチ
が秒間約 35 万局面なので、探索局面数とし
ュア強豪の古作登氏(奈良県アマ三冠、大
ては、8 コアを利用することで約 5 倍にな
阪産業大学 アミューズメント産業研究所
っている。ただし、同一局面を同一深さで
研究員)と激指との公開対局が行われた。
探索した場合の速度向上は 4 倍弱なので、
シンポジウムの会場は 200 人を超える観客
並列化により無駄な探索も増えている。
で埋まっており盛況だ。最初に、理化学研
ちなみに、floodgate で(完全に同一の
究所の方による、プロ棋士の脳の活動に関
CPU ではないが)1 コアと 8 コアの激指を
する研究成果の講演ののち、公開対局とな
走らせたところ、レーティングが約 200 点
った。
差となっており、並列化がかなり強さに貢
激指としては、昨年秋にボナンザ式の評
献していることがわかる。今回の対局では、
価関数の学習を導入してからは初の人間強
古作氏はノートパソコンを利用して事前に
豪との対局である。コンピュータ将棋プロ
激指との練習対局を何度か行っているとの
グラムの公開対局場である floodgate では、
ことだが、1 コアと 8 コアとでここまで強
レーティングにして 200 点以上の向上と、
さに差があるとなると、普通のノートパソ
2009 年選手権バージョンと比較してかな
コンで練習対局を行うことは、コンピュー
りの棋力の向上が見られるものの、果たし
タの棋力を大きく見誤る危険性があり、対
て対人戦でどれくらい強くなっているのか、
局にマイナスの影響があるかもしれない。
期待と不安の入り混じる対局となった。
対局に使用したマシンは、最近購入した、
持ち時間は 20 分の切れ負けという、人間
にはかなりきつい持ち時間設定で行われた。
Xeon W5590 (3.3GHz) を 2 つ搭載した
序盤は 19 手目の▲6九玉までが定跡デー
Dell Precision T5500 というマシン。対局
タベースによる指し手で、▲6二角からは
時点で、100 万円以内で購入できるコンピ
自力の思考となっている。35 手目の▲3六
ュータ将棋用マシンとしては最高性能のマ
銀がやや不自然な感じの一手で(第1図)、
シンのひとつだろう。合計 8 つの CPU コ
歩越し銀の悪形なうえ、2九の桂の活用を
難しくしているように見える。この銀が遊
*北陸先端科学技術大学院大学 情報科学研究科
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
ぶようだと先手の典型的な負けパターンな
両公開対局の結果としては、コンピュータ
ので、もしかすると序盤で大差がついて何
の強さだけが目立つ、なんとも微妙な結末
もできないひどい将棋になるかも、と少し
となった。
不安になる。
ところがその後の展開は、この見慣れな
い▲3六銀が逆に後手の疑問手を誘う呼び
水になったようで、少しずつではあるが激
指がリードを広げていき、最後にははっき
り先手勝ちの将棋になってしまった。短い
時間の対局では、人間側としては指しなれ
ない展開になると、序盤で神経と時間を使
わされてしまい、相当に不利になるように
思う。今回の対局では、偶然にこのような
展開になったが、コンピュータ側の対人戦
術というものをもし考えるとすると、この
対局の展開のような、人間にとって指しな
れない局面に誘導するという戦術が有効で
あるのかもしれない。
この対局の後、囲碁でも公開対局が行わ
れ、韓国の女流プロ棋士と、囲碁プログラ
ム Zen との 9 路盤による対局が行われた。
こちらもコンピュータ側の勝利におわり、
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
対「激指」戦をめぐる人間の思考と行動
古作
<エキシビション対局に至る背景>
2010年2月6日に開催が決まっていた「頭
脳スポーツと教育」と題した私の所属する研究所
登*
の力には及ばないが「被験者」としてはまずまず
の力をキープしていると思い、今回の対局者とし
て自分自身を選んだ。
主催のシンポジウムにおけるエキシビション対局
では、来場者にコンピュータ将棋の進化を見てい
ただくことはもちろんだが、持ち時間20分の切
<対局前>
1週間ほど前から「激指9」との練習対局を開
レッツノート Core 2
れ負けルールという条件下で人間にどのような対
始(製品版をパナソニック
コンピュータ戦略が遂行できるかを試行する目的
Duo プロセッサ搭載モデルにインストール)
。トー
も含まれていた。
タル約30局(持ち時間5~20分の切れ負け)
約3年前、2007年3月に行われた渡辺明竜
で初めは勝ったり負けたりだったが、途中からい
王と将棋ソフト「ボナンザ」の対局ルールはコン
くつかの人間が勝ちやすいパターン、戦形を把握
ピュータ先手の持ち時間各2時間で使い切ると1
することができ、徐々に人間が勝つことが多くな
手1分。人間が秒読みに追われる可能性の少ない
った。
持ち時間設定とはいえコンピュータは一時有望な
局面を築くなど善戦した。この時は「人類代表」
の渡辺竜王が接戦を制し面目を保った。その後、
ある程度しっかり守備を固めて千日手模様に持
私は渡辺竜王とボナンザ開発者の保木邦仁氏の共
ち込む、あるいは定跡形でも人間側の玉だけが圧
著『ボナンザVS勝負脳』
(角川oneテーマ21
倒的に堅くできる(穴熊など)戦形に持ち込む。
新書)の編集協力を務め、両者の取材を通じてソ
作戦勝ちを収めた後は、あわてて攻めずに少し
フトの進化の過程や人間の能力とコンピュータの
ずつポイントを加算していくほうが、最短距離の
違いについてある程度の知識を得ていた。
勝ちを目指し踏み込んだために意表の受けや反撃
一方、プレイヤーとしては約1年のブランクを
経てアマ将棋トーナメントに2008年春復帰し、
を喫し逆転負けを喫することが少ない。
具体的な戦形の例としては
20年以上前のピーク時の棋力には及ばないもの
1.相矢倉後手番で5筋交換から▲2五歩に△3
の2009年は支部名人戦西日本大会ベスト4、
三銀と上がり角を7三か8二に引き、△5二飛で
アマ竜王戦全国大会、アマ名人戦全国大会でそれ
中央を厚くしてから穴熊に潜る定跡(「阿久津流」
ぞれベスト16とまずまずの成績を挙げることが
の最新形)
。
できた。近年コンピュータ将棋とイベントで対局
2.角換わり右玉で、千日手模様で待機し、相手
している清水上徹氏、稲葉聡氏ら若手アマトップ
が動いてきた瞬間に持ち角を使って反撃し馬を作
*大阪商業大学アミューズメント産業研究所研究
員
◎人間の勝ちパターン
って相手の攻撃陣の勢力を少しずつ削っていくよ
うな展開。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
いずれもかなり勝率が高かった。試行を重ねれ
それ以外の場合は極力時間切れ負け(人間)を避
ば、このほかにも人間の勝ちやすいパターンを見
ける。もし時間が切れそうな展開でも、はっきり
つけることは可能であると推測できる。
勝敗が分かるところまでは指し手を進める。
序盤からの乱戦を避け、できるだけじっくり構
対局前2日間も本番の20分切れ負けに備えコ
えてコンピュータの力も人間の力も十分出せるよ
ンピュータ10分人間5分(切れ負け)の条件で
うな展開にする。相居飛車なら相矢倉系、コンピ
一日2局ずつ練習し、偶然ではあったが人間が4
ュータが振り飛車なら居飛車穴熊をメーンとした
連勝(人間が自信をつけるためにコンピュータが
持久戦を予定。
ハマりやすい定跡、主に右玉を採用した)
。トータ
持ち時間に関しては20分(1200秒)切れ
ル約30局の内容から短時間勝負における製品版
負けなので、まず1局の終局手数を160手(完
の将棋倶楽部24(以下24と表記)R(レーテ
全詰め上がりまで)と仮定した。そのうち人間側
ィング)は2500点前後と推定。当日対局の人
の指し手は80手だから1手平均15秒(マウス
間(筆者)は持ち時間1分、秒読み30秒の早指
操作含む)と認識。平均ペースで指し続けるとポ
し対局メーンで2600~2700点台の実力
カが出る可能性が多いので、通常10秒以内で指
(通常「レクリエーション」として指しているた
して余剰の400秒を4回程度に分け(1回10
め極めて大きな点数の振幅あり)
。
0秒)要所で投入する戦略を採用することに決定
画面認識とマウス操作を伴うネット対局は、早
した。可能性は低いが、1局160手以上の長手
指し条件の対局がほとんどのこともあって、駒の
数になりそうな展開になったら、途中で戦略を変
ただ取られ(利きの認知漏れ)やクリックミスと
更する(1手5秒以内で指す)ことを予定。
いった致命的なミスが多く、苦手なことを自覚し
各種情報から製品版とネット経由でサーバに接
ている(テレビゲーム慣れした若い人ほど有利だ
続した最新版との実力差は24のレーティングで
ろう)
。
プラス約400点(R2900)と推定。仮にR
2900なら当日対局する人間とは約200点差
◎事前の作戦準備、戦術と戦略
で人間の期待勝率は約24%。もし推定以上のR
後手番を指定。囲碁のイベント対局に合わせ「人
3000だとしたら人間の期待勝率は約15%と
間にコンピュータが挑む」というスタイルをとる
なる。いずれにしても厳しい数字ではあるが、チ
ため(囲碁の対局者は韓国棋院所属のプロ棋士)。
ャンスは十分あると思って当日に臨んだ。
人間が後手番ではあるが、基本的に千日手狙い
の作戦はできるだけ避ける(引き分けはイベント
<対局当日>
としての意味を著しく損なうため)
。したがって角
当日は朝から通信状態のチェックを中心に前日
換わり後手番の右玉待機策のように玉や飛を移動
から行った設営の最終確認。イベントとして行う
し手待ちするだけの作戦は使わない。
ため対局中の回線切断に対する準備が最重要課題
クリックミスは取り返しがつかないので(前項
同様イベントとしての意味がなくなる)
、慎重にマ
ウス操作を行う。
入玉模様の将棋になった場合はやむを得ないが、
であった。
約1時間の基調講演終了後、司会席から対局席
に移動。コンピュータの先手で対局開始。
持ち時間は各20分切れ負け、先手激指
後手
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
古作登
解説浦野真彦七段(公開対局)
以下対局時の思考と行動
(*)内は対局後数
日、指し手を検証した上での感想と見解。
激指に▲6八角とされたのは意外だった。当然
「三手角+腰掛け銀」の構えは定跡として入って
いると予想していた。少しありがたい感じがした。
以下は一目散に玉を2二まで入城させる。そこで
▲7六歩△8四歩▲2六歩
▲3六銀と出てきたのが異筋の手。定跡書などで
は▲3六歩~▲3七桂という形が常識とされる。
初手▲7六歩は予想通り。△8四歩も予定。3
解説の浦野真彦七段が「これはまず人間では見な
手目の▲2六歩では▲6八銀を期待していた。こ
い形ですね」といったニュアンスで説明している
れで重点的に準備していた相矢倉後手5筋交換の
声が左の方から聞こえた(それまでは盤面に集中
戦形に進む可能性はなくなり、少しがっかりする。
していて、ほとんど解説の声は意識に上らなかっ
た)
。
△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀△4四歩▲
しかし、ここに銀を2七経由で出る形(後手番
2五歩△3三角▲7八金△2二銀▲4八銀△5二
なので△8三銀~△7四銀)を対局者は先後どち
金右▲4六歩△4三金▲4七銀△5四歩▲6九玉
らを持っても指した経験がある。▲島―△田中寅
△6二銀
戦の形がパッと記憶によぎった。
(*1997年5
月29日の王座戦、
『週刊将棋』の編集長時代に取
やむなく事前の方針通り▲8八銀に△4四歩か
材、あるいは記事にした記憶あり。また後手番対
ら第二の策「後手無理矢理矢倉」を目指した。コ
策として田中寅彦九段の実戦を参考に類型を研究
ンピュータ相手でも、人間相手でも短時間勝負で
し、かなり有力と思っている。対局者自身もアマ
はあまり後手の勝率がよくない作戦(*あくまで
強豪やプロ棋士を相手に10数局の実戦経験あ
対局者の感覚的なものでデータ分析はしていない。
り)
プロ公式戦でも類型の出だしは先手勝率が高かっ
4筋交換から▲1六歩を突いて、相手の動き次
たように記憶)なので、少しいやな感じがした。
第では▲1七桂~▲2四歩の筋で後手の玉頭、2
先手が4筋を突いて▲4七銀と構えるのは予想通
筋を狙うのが基本的な攻め筋でかなり強力だ。
り。角を将来5九~2六と転回し、銀を5六に上
ここまで順調な駒組みではあるが、全く楽観で
がってくるのが代表的な「三手角+腰掛け銀」の
きないと思い、方針を決める次の一手に時間を割
攻撃形で、当然そう構えてくることを予想し△6
くことにした(*実際には40秒を消費、序盤の
二銀までは一気に進めた。視線をわずかに右にそ
分岐点ではあるが、切れ負けのリスクに備えもう
らし(残り時間は右側の窓に表示)消費時間を見
少し早く15秒程度で決断するべきだったかもし
て約1分だったので、予定通りであることを確認
れない)
。
した。
△7三銀▲8八玉△7五歩▲同歩△同角▲4五
▲6八角△3二金▲5六歩△4二角▲7七銀△
歩△同歩▲同銀△4四歩▲3六銀△6四角
4一玉▲5八金△7四歩▲6七金右△3三銀▲6
七金右△3一玉▲7九玉△2二玉▲3六銀
7筋交換を目指すため△7三銀を選択。これが
一番自然な手に思えた。予定通り7筋を交換し、
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
矢倉の後手番としてはまずまずの序盤となったこ
を選んだ。
とを自覚した。△6四角と引くところでは△4二
(*この一手に36秒消費、いま思えば先手から
角と深く引く順も一瞬頭をよぎったが、▲6五歩
の攻めを必要以上に恐れていた。ここではやはり
を誘ってそれを目標にするほうが、より得ではな
△9四歩と突くのが正着のように思える。▲1七
いかと考えた。
桂なら△7五角と出て先手陣のバランスを崩す狙
いもあり、おそらく後手の模様がいいだろう。△
▲6五歩△4二角▲4六角△7四歩▲1六歩
(A図)△6四歩▲同歩△同銀
9四歩を突いてあれば角を9三に引くこともでき
る。読み切ることができなかったとはいえ、直感
を変更するリスクの大きさを再確認した。激指開
予想通りコンピュータは▲6五歩と角を追って
発者の鶴岡慶雅氏に数日後うかがったところコン
きた。▲4六角に△7四歩と受け、残り時間を確
ピュータは▲1七桂からの攻め筋を選ぶ可能性は
認。5分未満の消費なので予定通りのペース、順
ほぼなかったようで、人間が持っていた認知心理
調を意識する。続いて▲1六歩(A図)と突かれ
学でいうところの「スキーマ」が最善手発見の上
たところで、▲3六銀と出られたときから意識し
でマイナスに影響した。一種のスキーマ依存的エ
ていた▲1七桂~▲2四歩の筋で攻められるのが
ラーと考えることもできる)
気になる。すぐそれでつぶれるということはない
▲6四同歩に△同銀のところでは△同角もある
が、駒組み負けしないためにもここで数手先まで
手だが、双方に角の打ち込みが残る形はうっかり
見通す必要性を感じた。
の出やすい人間にとってリスクが高いと判断し、
迷うことなく本譜の順を選んだ。
▲7五歩△5五歩▲7四歩△7二飛▲5五歩△
6五歩
▲7五歩は全く見たことのない歩打ち。次の手
が瞬時には浮かばなかった。△7五同歩▲6五歩
はひどいので、それだけはないことは瞬時に察知。
△8四飛や△6五歩なども候補に浮かんだが、い
ずれも先手の角筋が通っていてうるさいので悩ん
だ末に△5五歩と角筋を遮断する手を選択した。
(*この1手で44秒消費、残り時間が15分を
切った)
▲7四歩と取り込まれたところで今後の方針を
第一感は△9四歩で、マウスのポインタも9筋
決めるため、いくつかの筋を読んだ。最初は△5
に移動し、ほとんど指しかけたがもう一度読み直
四金とし中央に勢力を加える手。▲5五歩と歩を
すことにした。迷った末、相手に攻めの態勢を築
ただ取られる手を防いでいるので有力だが、守り
かれる前に動くことに決め、第二候補の△6四歩
の金が一枚離れるので先手からうまい攻めがあっ
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
て決戦になった場合、いっぺんに負けになるリス
クがある。第二候補は△7二飛。角のラインから
飛を移動し、機を見て△7四飛と歩を取り返す狙
い。ただしこの歩を取った瞬間▲6三歩と垂らし
てくる筋がうるさいので、いずれにしてもしばら
くは辛抱が必要という結論に達した。少し苦しそ
うな局面でも、辛抱するとコンピュータは人間に
とってはありがたいと思える緩手(のように見え
る手)を指してくることがあるのは、練習対局で
も多かった。
迷った末、リスクの少ないと思った△7二飛を
選択した。
(*この一手に105秒を投入、ここま
で40秒近い考慮を2回行っているので、時間の
使い過ぎかもしれないが対局者の読みの能力では
これが限界と思われる)続く▲5五歩に対しても
△6五歩は予定だったが、▲1七桂とされても△
△7四飛▲5四歩△5五歩▲2四歩△同銀▲6
二歩成
7四飛▲6三歩△7二飛で大丈夫と読み、他にも
先手から後続の早い攻めがないことを再確認する
ここで第一感の△8四角と反撃に出る手の後を
ため時間を使った。
(*読み以外に自分の気持ちを
読んだ。コンピュータは「利かされ」を気にせず、
落ち着かせるために使った時間でもあった。この
形にこだわらないので▲3八飛、もしかしたら▲
時点で残り12分を切っては戦略的に無駄な時間
4八歩と受けてくるかもしれない。次に▲8五銀
の使い方だったかもしれない)
とされると好位置の角を追われるので、攻めを急
ぐならそこで△5二飛だが▲5六金とこれも形に
▲6三歩△5一角▲7六銀(B図)
こだわらず受けられると次の手が分からない。
(*
▲8五銀なら△5五銀とし、攻め駒がさばけるの
7四の歩を取られる前に▲6三歩と打ってこら
れたのは、予想していたとはいえ嫌味な一着。
(*
で多少の駒損になっても十分勝負になる)
自陣は7四と6三に相手の歩を垂らされていて、
コンピュータは戦形にかかわらずこうした相手陣
経験のほとんどない形である。はっきりした反撃
に歩を垂らす手を好む傾向がある)一瞬だけ△5
策の見通しがつかない以上、読みにさらなる時間
三金とし、金で6三の歩を取り除く手も考えたが
の投入はできないと判断し、とりあえず△7四飛
▲1七桂△6三金▲2四歩と金が離れたスキを突
と歩を払って、決戦を先延ばしにつもりだった。
いて攻められる手を警戒し、方針堅持で△5一角
(*△7四飛が敗着。第一感に従い△8四角とし
と辛抱。次に△8四角と出ることができればいっ
相手の応手を見た上で、△5三金から6三の歩を
ぺんに視界が開ける。しかし、そこで▲7六銀と
取り除くようといった辛抱する指し方を貫けば、
囲いを崩して銀を出られたのはまったく予想外だ
まだ先は長かっただろう。人間にとっての攻撃サ
った。パッと見た印象は「ありがたい」と思った。
イドに相手の歩がいくつも垂れている実戦の形は、
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
脳の中でコード化されていなかった。その処理に
(*この間1分9秒を消費。コンピュータ相手に
は時間がかかり過ぎるので、問題を先送りにした
このくらいのリードを許してしまうと経験上は逆
と考えることができる)
転が極めて困難であることは事前の練習で学習済
この一手に費やした29秒の間、視線は8筋か
み。人間がコンピュータに勝つ典型的なパターン
ら5筋(人間から見て右半分)を中心に、相手陣
は、人間が序盤の作戦勝ちからコンピュータが放
の4八、3九、3八のあたりまでを行き来し、自
つ意表を突く指し手に冷静に対応し、終盤の入り
陣の6筋から左はほとんど視界から消えていた。
口までリードを保ってコンピュータの追撃をかわ
(*この視線の使い方も敗着を指した原因の一つ
す流れと思う)
と言えるだろう。盤面全体に対する注意力が及ば
コンピュータが▲2四角と角を切って▲2三歩
なかった。脳の「ワーキングメモリ」の容量を見
を利かし▲6三銀と飛角両取りをかけたところま
慣れぬ右辺の駒の配置と読みに使い切ってしまっ
ではこちらも想定手順。人間の負けはほぼ確定し
たとも考えられる)
ているので、あとは「どう最善を尽くして形を作
▲5四歩に対し△5五歩は辛抱の方針を貫いた
るか」に方針を切り替えた。
手。5筋にも歩が垂れるのは嫌な形だが△5四同
金は金が離れて守備力が落ちるので、少し比較し
たのち実戦の順を選んだ。
△6六歩▲7四銀成△6七歩成▲同銀△6六歩
▲同銀△3九角▲6八飛△9五角▲7七歩
続いて▲2四歩と突かれ(*この一手が、△7
四飛を指した時点で読みからも視界からもすっぽ
△6六歩~△3九角までは「一目で浮かぶ」攻
り抜け落ちていた)直感的に「まずい」と感じた。
め。もちろん差が縮まるとは思っていないが、こ
実戦の△2四同銀で△2四同歩は▲2五歩と継ぎ
う指すのが筋である。△9五角と角を使うところ
歩をされて、矢倉戦における「必敗パターン」に
では△6七歩▲同金△5六金とひたすら先手玉に
なるが、実戦の△2四同銀でも次の▲6二歩成か
迫る方が相手玉の周りの守備駒をはがして、観客
ら数手先の▲6三銀までが見えたので負けを覚悟
から見て「形になる」と一瞬思ったが(*△9五
した。
角に57秒も消費しているのは心の迷いを示して
いる)
、明白な負け筋を選ぶよりは少しでも盤上の
△6二同角▲2四角△同歩▲2三歩△3三玉▲
6三銀
駒を働かせ、チャンスが1%以下であっても逆転
を狙うのが「正しい指し方」
(*わかりやすい一手
負けよりは途中に複雑な変化をともない、正確に
必然の一手ともいえる△6二同角を指すまで、
応じられ結果として大差負けになる手順の方が、
自分自身に負けを納得させ気持ちを落ち着かせる
通常人間相手の場合であっても勝つ確率が増大す
ために時間を使った。
「同じ負けるにしても、観客
る)と、迷いを振り切った。しかし▲7七歩と冷
のためにももう少し先まで山場を持って行きたか
静に受けられて後続の攻めが難しい。
った、一度ははっきり人間有利の局面を見せたか
った、悪い目が出てしまった」
(確率的にはこちら
△5四金▲6四成銀△同金▲2二銀△4三玉▲
の方が多いと予想していたにせよ)といった後悔
6五銀△6三金▲6四歩△6二金▲2一銀不成△
の気持ちも生じていた。
3一金▲6三歩成△2一金▲6二と△6七歩▲4
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
一飛△4二銀▲5四金
まで103手で激指の勝
ち
今回の対局を経て、人間のトップクラスとコン
ピュータが互角に近い勝負ができるとすれば、持
ち時間2~3時間(秒読み1分)ではないかと思
△5四金と指す前に、一度読んだ△6七歩▲同
った。それより短ければコンピュータが有利、こ
金△5六金の筋がはっきり手負けであることを再
れはテレビ棋戦などで秒読みに追われたトップ棋
確認する。他に△7六歩や△7六金といった手も
士が比較的簡単な即詰みを逃したり、駒のただ取
やはり届かないことを読んで確かめた。
(*ここで
られに近いようなミスを出したりすることからも
137秒も考えているのは、読みの確認だけでな
自明である。長くなって4時間~5時間となると
く呼吸を整えるために使ったため)
感覚的には人間の方が有利と思うが、これに関し
人間相手ならば、△5四金のような手渡しはか
ては前例がないので断言はできない。また、対局
なり有力だが、相手玉に詰めろが続くような「間
数は統計学的に有意なデータとするためにも同じ
合いの短い」状況でコンピュータはほとんどミス
カードで最低10局程度、複数の人間と行うのが
をしない。以下は正確に寄せられた。▲4一飛と
望ましいのではないか。
打たれた時点で自玉の詰みに気づき、持ち時間が
いずれにせよ1時間未満の持ち時間や秒読み3
残り約1分になったことも確認。観客に分かりや
0秒、さらに切れ負けと条件が厳しくなっていけ
すいよう▲5四金と打たれるところまで指してか
ばいくほど、明らかにコンピュータが有利となり、
ら投了した。
トッププロといえども苦杯を喫すケースがしばし
終局直後は、途中から負けを覚悟していたので
ば起こるのではないだろうか。
「がっくり」という気落ちはなかったが、もう少
2010年2月17日の読売新聞によれば、チ
し「スリリングな将棋」にしたかったという残念
ェスの世界ランキング1位(2010年1月1日
な気持ちはあった。終局後はすぐ対局席から司会
付)に最年少の19歳でなったノルウェーのマグ
席に戻って解説の浦野七段と来場者向けに簡単な
ナス・カールセン氏は「対局に重要なのは感情の
感想戦を行い、その後はシンポジウムのプログラ
コントロールとひらめき」
「コンピュータの最強ソ
ム、タイムスケジュール通りの進行を行うべく司
フトと対局すれば負ける。人間は重圧がかかると
会の仕事に気持ちを切り替えた。
戦術が破綻する。コンピュータの強みは感情がな
いこと」
「対局では普通は15手から20手読める
<まとめ>
けれども、2手先しか読めないときもある。その
結果は展開も含めてほぼ予想していたとおり、
場合はひらめきに従うのがよい」と話している。
人間がさまざまな要因から複数回の判断ミスを犯
人間側の力ははるかに落ちるけれども、私が今回
し敗れた。十分な駒組みと思われる序盤から中盤
のコンピュータ対局で得た感覚も、極めてこれに
の入り口で相手からの攻めを恐れ過ぎてミスを犯
近いものであった。
し混戦に(A図の次52手目)
、混戦と思われた局
コンピュータ将棋の進化が人工知能の開発など
面で読み切れず時間の使い過ぎを気にして、うっ
科学の発展に寄与することを期待すると同時に、
かりミスに近い敗着(B図の次64手目)を指し
これまで長い間ソフトの開発に携わってこられた
た。いずれも心理的要因が影響した、極めて人間
多くの開発者、研究者の方々に敬意を表し、本稿
らしいミスの出方と言える。
の結びとする。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
GPW 杯コンピュータ将棋大会 2009 参戦記
篠 田 正 人
*
1.まえがき
コンピュータ将棋の棋力が年々向上し、近い将来人間の
トップを越えようとしている。本稿では、2009 年 11 月 13
日-14 日に行われた GPW 杯コンピュータ将棋大会に筆者が
人間として参加した内容を報告し、人間がコンピュータ将
棋に勝つにはどうすればよいかについて考察する。なお、
筆者の棋力は将棋倶楽部 24 のレーティングで 2550~2650
点程度である。
2.大会前の準備
2.1 コンピュータ将棋との対戦経験
筆者は前年に行われた GPW 杯コンピュータ将棋大会
◎
端歩の交換を早めにしておく。
棒銀に出た後で▲1六歩を突くと、後手が狙いを察知し
△1四歩と受けてくれない。
◎
▲3六歩を突いていない。
後手の△6四角の反撃を消している。そのため棒銀は3
2008 に部分参加し、大槻将棋に敗れて 3 勝 1 敗の成績で
八~2七のルートで進出しなければならない。そのため、
あった。その大会に前後し 2008-2009 年にかけて、いくつ
かの市販ソフト(新東大将棋無双、激指 8、AI 将棋 16)
お よ び フ リ ー ソ フ ト ( Bonanza3.0 、 Bonanza4.1.2 、
gpsshogi-r1916)と家庭用パソコンを用いてそれぞれ 30
局程度対戦した。
2.2 準備したコンピュータ将棋対策
人間がコンピュータ将棋と対戦する場合に勝率を上げる
ためには、人間どうしで対戦するときとは違った作戦を取
るべきである。簡単に言えば、人間側が序中盤で優位に立
ちそのリードを生かして逃げ切る、というのが一般的な策
である。これは、コンピュータが人間の強豪と比較して
◎
序盤の駒組みおよび中盤の構想に難がある
◎
終盤は正確である
という推論に基づいている。ただし、昨今のコンピュータ
将棋は多くの実戦例や定跡データを取り込んでいるため、
人間が定跡の知識で上回ることは難しくなっている。そこ
で、前記したコンピュータ将棋との対戦実験により「人間
が勝ちやすい戦法」を模索することにした。以下にその具
体例を挙げる。なお、大会の切れ負けルールを活用する作
戦は事前には考えていなかった。
2.2.1 矢倉棒銀
人間が先手番とする。初手から▲7六歩△3四歩▲1六
歩△1四歩▲6六歩△8四歩▲7八銀△6二銀▲2六歩と
し、1筋の端歩の突き合いを入れてから相矢倉を目指す。
右上図がその進行例である。この図から▲3八銀△4四歩
▲2七銀△4三金右▲2六銀△5三銀▲8八玉△6四銀▲
1五歩と進むのが最もうまくいった展開である。
通常の相矢倉と比較して先手が工夫している点は以下の
通りである。
▲4八銀とは上がらず銀の動きを保留しておく。
◎
▲8八玉まで入城する。
終盤での逆転負けを防ぐため先手玉を堅陣に入れておく
とともに、端攻めの当たりを強くするため後手が△2二
玉とするのを待ってから棒銀にする意味がある。
こうした狙いに対し後手がある程度強い人間であれば、
端歩の交換と3九銀保留の組み合わせから先手が棒銀で来
ることは容易に推測できるため、△2二玉とは入らず中央
から動く急戦矢倉にスイッチするといった対策を取ると思
われる。一部のコンピュータソフトも矢倉中飛車に転戦す
ることができたが、囲いに入城する手に高い評価値を付け
るソフトはどうしても△2二玉と入ってしまう傾向がある。
さらに、後の▲1五歩△同歩▲同銀の仕掛けに対し、強豪
ソフトでも△1三歩と辛抱せず△1五同香としてしまい▲
同香△1三歩▲1七香から端が壊滅することもあった。こ
の作戦は GPW 杯でも採用したので注意点などについて後で
詳しく説明する。
2.2.2 角交換型向かい飛車
前項の序盤で、▲7六歩△3四歩▲1六歩に後手が△1
四歩と受けないことも多い。そのときに(i)▲7七角、あ
るいは(ii)▲1五歩として向かい飛車を目指す。このよう
に、後手が1筋の端歩を受けるか受けないかで先手が補完
的に作戦を決定する。ただし、後手が振り飛車を指向した
場合先手は相振り飛車か居飛車のいずれかを選択すること
になるが、このときは▲1六歩の一手が損になる可能性が
あることに注意しておく。
先手が向かい飛車に組み、作戦勝ちした例を掲げる。
いずれの図も、先手が角交換型の向かい飛車に組み後手が
玉を堅くしている展開である。上図からは▲7一角△7二
*
奈良女子大学 理学部
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
飛▲5三角成△同金▲8五歩、下図からは▲8五桂△同飛
この図では振り飛車側が低い構えに組み、▲8五桂から
▲8六歩△8二飛▲8五歩から飛先を突破して先手が優勢
飛先突破を狙っているがそれ以外の狙いには乏しい。本譜
になった。この作戦で先手が工夫している点は以下の通り
もここから▲8五桂△同飛▲8六歩△8二飛▲8五歩とし
である。
たが△7二桂が好手で受け止められてしまった。前項の成
功例と異なるのは、▲7一角から馬を作る余地がない点で
ある。ここで▲8四歩から捌けないとおかしいが、後手の
7二の桂が7六まで跳んだときに6八銀取りに当たるのが
大きい。してみると駒組からうまくいっていないものと思
われるので、先手としてはさらに工夫が必要である。この
対局は完敗であった。
なお、この対局では直前にテスト対戦があり、下図のよ
うな将棋になっていた。
このときは△2五桂▲同飛△2四歩▲2八飛△2五歩
▲1七角と進み、この▲1七角の感触はあまり良くない
◎
角交換をしておく。
(ただし形勢は微妙であろう)ので本戦が始まるとき「自
分が先手番になるならもっと得ができるのではないか」と
打ちの隙が生じやすい。
思い同じような局面に誘導した意味もあったのだが、似た
◎
後手がすべての金銀を玉側に寄せることが多いため、角
先手は美濃囲いに組み、早く▲2八玉型にする。
形でも同様に指すとは限らないという当たり前の教訓も得
後手に隙があればいつでも仕掛けられる態勢にしておく
た。
ために、穴熊には組まない。ただし飛車交換になる場合
3.2 対 GPS 将棋
に備えて玉は2八まで入っておくのが得策と思われる。
○
GPS 将棋は Windows 版をダウンロードして何局か指し、
その環境では矢倉棒銀にまでは組めるということを確認し
3. 大会の様子
ていた。後手番だが基本方針はほぼ変わらない。
大会は8ソフト+筆者を含む人間2名の9回戦総当たり、
各局 25 分切れ負けのルールで行われた。そのうちの6局
について筆者の指し手の意図と感想を述べる。
3.1 対大槻将棋
●
大槻将棋には前年の大会で相振り飛車で敗れている。そ
の後 floodgate の棋譜を何局か見たが取り立てて特徴を掴
んでおらず、事前対策案通り向かい飛車に組んだ。
本局でさらに工夫している点として、5筋を歩を突くタ
イミングを遅らせていることが挙げられる。△5四歩を早
めに突くと5筋交換型の急戦矢倉に変化される恐れがある。
先手に▲5五歩位取り作戦を取られる可能性もあるが、
GPS 将棋は穏便に玉を囲うと踏んでいた。実戦は作戦通り
進み、次の図では後手の作戦が成功していると言ってよい。
消費時間も▲7分△4分とリードしている。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
考えていた。筆者が▲6五角が成立しないと考えていた理
由は、先手が▲4八銀と上がっていないため▲6五角△7
四角▲4三角成△5二金右としたとき▲5二同馬△同金▲
7五金と角を取り返す順がない(△4七角成とされる)か
らである。しかし実戦は△5二金右に▲3三馬△同桂から
角と銀歩の二枚換えのまま駒組が進み、後手が7四の角を
使いにくいこともあってまとめきれず以下完敗となった。
下図で△9三歩と粘れば長くはなったが筆者に勝機がない
と判断し、実戦は△9五同香から攻め合いの順を選んだも
のの寄せ切られた。
複数のプロ棋士にも聞いたところ、微差ながら後手が指し
やすく、ここでは△6四角が自然という見解であった。し
かし実戦では次の手順が最善と判断し、実行に移した。
(
)内は各手の消費時間である。
△8六歩(9 秒) ▲同
△同
歩(34 秒)
飛(2 秒) ▲8七歩(35 秒)
△8二飛(1 秒) ▲4八金(46 秒)
△8六歩(3 秒) ▲同
△同
歩(30 秒)
角(3 秒) ▲8七歩(42 秒)
△4二角(3 秒) ▲5八金(42 秒)
△8六歩(5 秒) ▲同
△同
歩(32 秒)
角(4 秒) ▲8七歩(42 秒)
△4二角(3 秒) ▲4八金(48 秒)
同一手順を千日手にならない範囲内で繰り返す戦略を
採った。結果、持ち時間の消費で大きく差をつけることに
なった。その場で思いついた策であり、いつでも有効と言
うわけでもないが、わざと千日手模様を繰り返してコン
ピュータの持ち時間を減らすという作戦は特に切れ負け
ルールにおいて有効と思われる。人間がなりふり構わず勝
ちにいくアンチコンピュータ戦略の一つとして考えられる
かもしれない。
なお、上記手順中で先手から千日手模様を打開するため
に▲2六銀と打って▲1五歩とする手があり、先手として
は本譜よりそちらを選択すべきではなかったかと思われる。
実戦は優勢から勝ちにいく手順で後手が悪手を指し逆転さ
コンピュータ側が多少不利と言われている順でも人間
に受け切る能力がないと通されてしまうことはこれまでの
対戦でも十分経験済みであったが、この場でもう一度痛感
することとなった。勝ちやすい戦略を選択するという意味
では、ダイレクトに△2二飛とせず△4二飛といったん角
打ちを消す穏便策(無理に手得を目指さない)を採るべき
であったかもしれない。
3.4 対 YSS ○
ここでも矢倉棒銀の予定であったが、YSS の3手目▲6
六歩から想定外の振り飛車模様となり、筆者は非定跡形に
なりやすいという理由で相振り飛車を選択した。後手番
だったので 2.2 に述べた場合と違い1筋の歩を突いていな
いことも(相手からの端攻めを誘発しないという意味で)
相振り飛車にしやすい要因となっている。
れたが、GPS 将棋の持ち時間切迫もあってか筆者が再逆転
勝ちを収めた。
3.3 対 Bonanza 楽観的合議
●
後手番で、2.2.2 に述べた角換わり向かい飛車を選択し
た。下図のようにダイレクトに△2二飛と回る形はプロの
棋譜でも類似形は多く、▲6五角は成立せず駒組が続くと
思惑通り、上図では後手が手得してやや作戦勝ちと考え
られる。しかしここから勝勢まで持っていくのは簡単でな
い。実戦は後手の攻めが薄すぎて不利となった。
その終盤戦について述べる。次の図、▲6七香が後手の
歩切れをついて厳しく後手敗勢と考えていた。△6三香に
は▲同香成△同金に再度の▲6七香が厳しいが、他に指す
手もあまりない。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
本譜は以下の通り進んだ。
将棋戦を見るとわかるように狙いが単純なため仕掛けられ
△6三香
▲同香成
△同
金
▲2六角
ない時の対応が課題となっている。
△1七角
▲3七角
△4六歩
▲6八香
3.6 対 SPEAR ○
△4七歩成▲同
銀
△4六香
▲4八歩
SPEAR とは対戦経験がなく、特別な対策がないまま臨
△4七香成▲同
歩
△4六歩
(下図)
んだ。初手▲1六歩に△1四歩だったので矢倉棒銀模様に
△4六歩
組んだが、途中から後手に左美濃+腰掛け銀に変化された。
▲4八香
△4七歩成▲同
香
▲6三香成
角道を止めてからの矢倉に対しては腰掛け銀や右四間飛車
先手としては▲1七歩成が気になるため一旦▲2六角
に組むようになっているそうで、この後手の作戦選択は確
と緩める手もわからなくはないが、△4六歩の順が回った
かにコンピュータ向きであり、矢倉棒銀派にとっては難敵
ところではもう相当な勝負形になっている。その後の、下
に遭遇したと言える。
図からの手順に触れておきたい。
左美濃の薄みを突くために単騎の棒銀を繰り出したが、
上記棋譜の通り、ここで▲4八香と受け△4七歩成▲
上図から
同香△4六歩とした局面は4七歩と4七香が入れ替わった
だけであり、ここで単に▲6三香成とするより明らかに先
手が損をしたと思われるが、避けることはできないのであ
ろうか。対局中に不思議に感じたのでここで指摘しておく。
実戦はこの後残り1分少々まで追いつめられたがぎりぎり
一手勝ちを収めた。現時点ではまだ、コンピュータ相手に
終盤で不利になっても諦めないで頑張ると報われることも
△4四角
▲2三歩
△3三銀
△同
▲5六歩
△3二金
角
▲同銀成
と進んでみると後手の飛車の横利きが強く、また先手が角
の使えない悪形であるため不利になっている。ただし2三
歩の拠点もそれなりに大きいようで、下図は難しい局面と
思っていた。
ここから王手飛車を怖がらず以下のように進めた。
ある。
3.5 対柿木将棋
○
本局は後手番での角交換向かい飛車がうまくいった例で
ある。右上図では低い美濃囲いに組み、シンプルに飛車交
換だけを狙う構えになっている。実戦は図から
▲2五同飛△同
桂
▲4四角
△4九飛
▲2六飛
△3八角
▲2八飛
△2四歩
▲1一角成△3九飛成
と進み後手優勢となり以下勝ち切った。先に香損しても後
の△3八角から桂香を取り返せるので十分である。このよ
うに向かい飛車がうまく狙いにハマれば美濃囲いが手つか
▲5一飛
△4一金
ずのまま勝ち切れることがあり良い戦法に思えるが、大槻
▲7八玉
△2八角成▲4三桂
▲5四飛成△4六角
△同
金
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
▲同
竜
△5八飛
▲6八銀
△3二銀
べた以外の2つの作戦について紹介する。なお、下記の実
▲2二銀
△同
角
▲同歩成
△同
戦例でコンピュータが指した手は高スペックのマシンの場
▲2三歩
△同
銀
▲4一竜
玉
合とは異なると思われるが、考え方の例として挙げること
と詰めろが続き、自陣が詰まないので勝ちになった。いさ
をご了解頂きたい。
さか精神論になるが、終盤でも自分の読みに疑心暗鬼にな
5.1.1 角換わり腰掛け銀
らないことも大切である。
コンピュータ対策として角交換型が優秀である、とい
う意見が以前からある。理由の一つに、コンピュータには
4.
大会総括
持ち角の使い方は難しいという点が挙げられている。しか
しお互いに角を持ち合った戦形は中盤からすぐに詰む詰ま
4.1 大会結果
ないという終盤戦になりやすく、逆にコンピュータが得意
筆者は上記6局以外に「まったりゆうちゃん」「がっ
な局面になりやすい場合もある。もう一つ、コンピュータ
かりゆうちゃん」、および人間(九州大学)に勝ち7勝2
将棋には「すぐには損にならないが将来損になる手」の評
敗となり、全勝優勝の Bonanza 楽観的合議に次いで同率2
価が甘い点が見られる。下図は筆者と Bonanza との対局の
位に入賞したのは望外の成績と言える。2日間で 25 分切
一場面であるが、角換わりの中盤で△6五桂と跳ねたとこ
れ負けを9局指すスケジュールに関しては、筆者としては
ろである。
特に大変さを感じなかった。GPW および GPW 杯運営の皆様
にこの場を借りて感謝したい。
4.2 今大会の反省と感想
負けた2局はいずれも競り合いにならず完敗であったの
は残念であったが、逆に言えば終盤で競り合った3局(対
GPS 将棋、YSS、SPEAR)を勝ち切れたことは収穫であった。
人間側に最低限詰む詰まないを読み切れる程度の終盤力が
あれば、現時点では互角の終盤戦になってもまだチャンス
が残っていると言えよう。作戦面において、矢倉棒銀+向
かい飛車という簡単なセットがある程度機能した。シンプ
ルな作戦選択方法にしたことで考慮時間を節約でき、終盤
人間の感覚でいえばこのタイミングでの単騎の桂跳ねは
に時間を残せたことも好結果の大きな要因である。今回の
時期尚早であり、後手が将来桂損する可能性が高いと感じ
課題としては、序盤作戦がうまくいかなかったときに慌て
る。ただし数手ですぐこの桂を取られるわけではない。角
て自分から無理に動いてしまった(対大槻将棋、SPEAR)
換わり腰掛け銀での対戦において、このような桂跳ねはし
ことが挙げられる。
ばしば現れる。この桂得(実際は桂と歩の交換)を生かし
4.3 来年以降の展望
勝ち切るのは簡単ではないが、人間側が予めこの攻めを予
今回、筆者が大きく負け越しても全く不思議でない内容
であった。来年以降はもっと厳しい戦いになることが予想
される。また筆者の棋力面での向上はほぼ望めないため、
作戦選択がより重要になると考えられる。
測して駒組みを行い、無理攻めを誘う指し方が考えられる。
5.1.2 居飛車穴熊
穴熊の戦いも独特の感覚が必要なためコンピュータ将棋
は不得意と言われていたが、現在のソフトでは既にそれほ
どの弱点とはなっていない。ここでは本来の穴熊の戦い方
5.
今後の人間側のコンピュータ将棋対策
ではなく、誘いの隙を見せる作戦を紹介する。次図は筆者
と激指との対局の一場面である。
5.1 戦形の選択
前記した通り、今後人間がコンピュータ将棋と対戦する
際、人間側が勝率をあげるための作戦選択は重要である。
そのとき、
◎
どうしても負けると困るので、人間がより確実に勝て
る戦形を選択する
◎
人間が負けて当然と考え、運よく勝つチャンスが多い
戦形を選択する
という状況によっても考え方は異なる。現在のプロ棋士の
状況は前者であろうが、多くの人間にとってはすでにコン
ピュータと互角以上に戦うことは困難になっているため、
ここでは勝率 30%を 50%以上に引き上げる策について検
討する。以下、筆者の対戦経験と主観に基づき、2 章で述
今後手が△3五歩と突いたが、この歩は▲5七金から▲
4六金で取られてしまう。ただし歩得よりも金が囲いから
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
離れる損のほうが大きいと考えられる。この実戦では以下
▲3四銀△2二角▲5七金△5二金▲4六金△7四歩▲3
五金△7二飛と進み後手がペースを掴んだ。コンピュータ
側にとって、歩を取りにいったことによる形の乱れと左辺
の手の遅れというマイナス面をどう評価するかの問題であ
る。他のソフトでも実験したが、居飛車穴熊側が△3四歩
をただ取りさせる代償に攻撃態勢を整える策は何度か奏功
した。経験上では、後手の角は△4二角や△5一角でなく
△2二角に構えると振り飛車の▲6五歩の捌きの牽制にな
り勝ちやすいようである。
5.2 考慮時間の使わせ方
コンピュータと対戦する場合、人間側は事前に作戦を決
めておいて序盤ではなるべく早く指し終盤に時間を残して
おくのが常識的な策である。
時間の使い方としてはもう一つ、コンピュータにいかに時
間を使わせるか、という観点も重要である。GPW 杯での
GPS 将棋戦のように序中盤で手待ちを繰り返して時間を消
費させる戦略が考えられるが、実際に序盤から意図的に千
日手模様に持っていくことは簡単ではない。相居飛車での
右玉、あるいは対振り飛車で仕掛けないで待機し無理攻め
あるいは時間消費を狙う作戦は筆者も実験したが、なかな
かうまくいかなかった。これらの策については他の方々の
実験報告を待ちたい。
5.3 人間側の協力
こうしたコンピュータ対策はいくつか報告されているよ
うであるが、まだ個人レベルの対応であり複数の人間が協
力して作戦を検討する段階には達していない。筆者自身の
棋力や作戦選択の限界もあり、さらに優秀な対策を発見す
るには多くの人の対戦実験が必要であると考える。例えば
矢倉模様の序盤で自玉頭から盛り上がり入玉を狙っていく
作戦はコンピュータ対策として有力と思われるが、筆者は
あまり指した経験がなくうまくいかない。またコンピュー
タの無理攻めを誘って受け潰す策も筆者にとっては得意で
なく、これらの作戦については熟練者に試してもらいたい
と考えている。GPW 杯その他の大会において、多くの人間
がコンピュータ将棋と対戦し、経験を積んで多様な対抗策
が生まれることを希望する。それが今後のコンピュータ将
棋開発にも役立つものと信じている。
6.
まとめ
人間がコンピュータ将棋との対戦において勝つ確率を高
めるためには、作戦の選択が重要である。本稿では矢倉棒
銀と向かい飛車という2つの作戦を述べ、GPW 杯において
実行しある程度有効であることを示した。今後多くの人間
が加わって対戦実験を行えば、様々な対抗策が生まれる可
能性があると考える。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
コンピュータ将棋協会 例会記録
(2009 年 5 月~2010 年 3 月)
コ ン ピ ュ ー タ 将 棋 協 会
2009 年 5 月例会
日時:2009 年 7 月 11 日(土)15:10~18:00
日時:2009 年 5 月 9 日(土)15:00~18:00
場所:電気通信大学
場所:早稲田大学 本部(早稲田)キャンパス
出席者(五十音順,敬称略)
:伊藤毅志,岡崎正博,
小澤正夫,柿木義一,香山健太郎,
1 号館 3 階 310 室
小谷善行,高田淳一,瀧澤武信,山田剛
出席者(五十音順,敬称略)
:池泰弘,伊藤英紀,
伊藤毅志,岡崎正博,柿木義一,加藤俊博,
西 9 号館 302 室
記録:伊藤毅志
金子知適,香山健太郎,Reijer Grimbergen,
高田淳一,瀧澤武信,田中哲朗,棚瀬寧,
話題
林芳樹,安武和宏,山下宏,山田剛
(1)合議実験結果について
(話題提供:小幡拓弥(電気通信大学)
)
記録:瀧澤武信
・5五将棋の合議実験結果
話題
・Bonanza 合議実験結果
(1)どうぶつ将棋(10 分)柿木,資料あり
・YSS 合議実験結果
どうぶつ将棋を解く話題提供
(田中哲朗氏から,既に始めている,との説明あ
り.意外と探索空間は広いが,解けそう)
.
(2)GPS 将棋について(150 分)金子,林
(1)GPS 将棋の概略
(2)選手権使用可能ライブラリ
・反対意見が多いので,議論すべきでは?
<選手権アンケートより>
-このままでよい
16.5
(うちシード 5
(2)選手権決勝の棋譜の検討
-撤廃すべき
3
棚瀬氏,山下氏,伊藤英紀氏,柿木氏,
-改善すべき
11.5
安武氏,山田氏などから,質問,コメント
-どちらでもない
(3)ソースコードの説明
ノーシード 12)
6
あり
Grimbergen 氏からコード内の英語について
質問とコメントあり
・ブレーンストーミング
-オリジナリティーとは何か?
-技術の進歩のためには良い
時間切れのため,全部の説明は出来なかったが,かなり
-競技としての選手権
の部分の説明が行われた.
-データの扱いは?
・学習と実験を同時に(並行して)行って,
「うまくいっ
-チェス等のルールを調べてみては?
た」場合は,
-1年ごとのルール変更?
評価関数の要素として採用する,という
戦略を取っている.
・floodgate での評価は 2900 以上である(80 勝 2 敗)勝
-2種類(ライブラリ有無)の選手権を行ってみて
は?
つと 2-3 点上がり負けると 100 点くらい下がる)
.bonanza,
-技術の多様性は?
備後将棋,blunder などの点数の推移を見ると bonanza
-公平性については?
を基準にした場合に同時に下がるところがあり,bonanza
-参加者のモティベーションをどう考えるか?
が強くなった(新しいものを投入した)ことを示してい
-ライブラリより弱くなる改良もありか?
るようだ.
-ライブラリに一部規制をしては?
・bonanza のコードより読み難い部分があるとの評がある.
-規制をしたらライブラリの意味がないのでは?
2009 年 7 月例会
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
参考に9月の理事会(運営者側)で議論し来年の扱
・ライブラリに反対するのは何故?
いを決める
-Bonanza クローンプログラムばかりでは選手権の
→決まらなかったら,10月中にさらに議論をして
権威が下がるのでは?
決定する
-努力しないでクローンが作れていることに何とな
→決定後アンケート結果や理事会議論の結果を明ら
く不満を感じる
かにして,ライブラリの扱いを参加者に伝える
-2次予選をシビアに戦っている人にとっては納得
できない
・ML等のネットでの議論は,感情的になって反対
-例会のような場で,顔を合わせてコンセンサスを
取ることが理想
-今日の例会には,もっと参加してほしかった
2009 年 9 月例会
日時:2009 年 9 月 12 日(土) 15:00~15:30
場所:東京農工大学 10 号館 3 階 316 号室
出席者(五十音順,敬称略)
:岡崎正博,柿木義一,
香山健太郎,小谷善行,高田淳一,瀧澤武信,
・ライブラリを使う場合は,オリジナリティについて
事前に明記させた上で参加させてはどうか?
山田剛
記録:瀧澤武信
-オリジナリティをどう評価すべきか?
→どれだけ元と違っていれば,オリジナリティが
あると言えるのか?
→運用上は難しいが,オリジナリティに乏しいプ
ログラムの参加の抑止力にはなるのでは?
・そもそも,性善説に立てば,心配しすぎでは?
話題
(1)選手権ポリシー
CSA 理事会より,選手権ポリシーを作成するとの説明があ
った.出来上がったポリシーは,以下の通りである.
==================================================
-コンピュータ将棋という狭い世界で,このルール
を悪用する人間が出るとは思えない
2009.9.12
世界コンピュータ将棋選手権ポリシー
-賞金も出ない大会でルールを悪用してまで決勝に
コンピュータ将棋協会
進んで恥ずかしいと思うのでは?
・Bonanza クローンが増えることは,一時的ではないの
会長
瀧澤武信
(0)これは,コンピュータ将棋協会(CSA)が主催
か?
する「世界コンピュータ将棋選手権(WCSC)」
-技術の進歩の中では,Bonanza の技術などは,一時
のポリシーである
的なことではないのか?
-Bonanza よりも優れた評価関数は容易に作れず,そ
の結果も使って良いというのはどうなのか?
(1)WCSCは,公平な運営のもとで,最強のコン
ピュータ将棋を決めるためのものである
(2)WCSCでは,参加者のハードウエアの制限をし
ない.また,参加者の制限をしない
・伊藤から文殊についての言及
-「文殊は非常に微妙なケースであると承知で敢え
(3)WCSCの場では,開発者の交流をはかる
==================================================
て参加させた」
-「Bonanza を合議させたことで合議の有効性を示せ
た→技術の進歩につながると考えた」
(2) 研究会の件
GPW :2009 年 11 月 13 日(金)~11 月 15 日(日)
箱根
・
(議事録では書ききれないほど)多数の意見が出て盛
り上がった
ゲーム情報が研究会:2010 年 3 月 8 日(月)
東京大学 駒場キャンパス
(申し込み数によっては,7 日も行われる)
(今後の予定)
・参加者に改めてメール等でアンケートして,それを
2009 年 11 月例会
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
日時:2009 年 11 月 14 日午後
・http://minerva.cs.uec.ac.jp/~ito/entcog/
contents/symposium/index.html
場所:駿台箱根セミナーハウス
GPWの 2 日目午後のセッションを例会とした
・発表の募集を開始した.
詳細は,GPW2009 の予稿集を参照.
・9/25(土)~10/2(土): 第 15 回コンピュータオリンピ
2010 年 1 月例会
アード@金沢市
日時: 2010 年 1 月 9 日(土)15:00~15:30
・ICGA と JAIST の共同イベント
場所:東京女子医科大学 物理学教室
・http://www.jaist.ac.jp/ICGA-events-2010/
olympiad/
出席者(五十音順,敬称略)
:伊藤毅志,岡崎正博,
柿木義一,木下順二,香山健太郎,小谷善行,
高田淳一,瀧澤武信,山田剛
記録:山田剛
2010 年 3 月例会
日時:2010 年 3 月 13 日(土) 15:00~18:00
話題
場所:電気通信大学
(1)2010 年度例会会場
出席者(五十音順,敬称略)
:伊藤毅志,岡崎正博,
西 9 号館 302 室
1月9日
東京女子大学
小幡拓弥,柿木義一,加藤徹,高田淳一,
3 月 13 日
電気通信大学
瀧澤武信,生井智司,山田剛
5月8日
早稲田大学
7 月 10 日
電気通信大学
9 月 11 日
東京農工大学
11 月 13 日 箱根セミナーハウス(GPW)
記録:高田淳一
(1)第 20 回世界コンピュータ将棋選手権
5/2-4 @電気通信大学
申し込み 58 チーム
(2)2009 年度会誌(Vol.21)
オープン戦 4/4(日)開催予定
3 月発行の予定
なお,2007&2008 年度会誌(合併号,Vol.20)を昨年 12
(2)研究会(予定)
月に発行したばかりであることと,これまで発行が遅れ
3/22,23
E&C @電通大
ていたことから,この号の発行に際しては新たに会費を
6/25
GI 研 @奈良女子大
請求しないこととする.
9/24-10/2 Computer Olympiad
次の新たな会費の請求は 2010 年度発行の際に行う.
(3)イベント情報
・1/14(木), 15(金): コンピュータ将棋最強戦@JAIST
・http://www.jaist.ac.jp/rccg/saikyo/
11/12-14
GPW @箱根
(3)総会
・2009 年度事業計画
・2009 年度決算報告
・監査報告
・2/6(土): 激指 vs 古作さん@大商大
・http://ouc.daishodai.ac.jp/facilities/ams_labo/
symposium.html
・シンポジウム主催: アミューズメント産業研究所
・3/8(月): GI 研究会@東京大学
・2010 年度役員選任
・2010 年度事業計画
・2010 年度予算
以上が議決された
2010 年度総会議事録(書記:高田淳一)
・http://sig-gi.tanaka.ecc.u-tokyo.ac.jp/sig/23/
日時:2010 年 3 月 13 日(土) 16:00~16:30
・発表多数の場合,3/7(日)の予備日にも行われる.
場所:電気通信大学
西 9 号館 302 室
出席者(五十音順,敬称略)
:伊藤毅志,岡崎正博,
・3/22(月), 23(火): E&C シンポジウム@電通大
小幡拓弥,柿木義一,加藤徹,高田淳一,
瀧澤武信,生井智司,山田剛
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
議題:
1月9日
東京女子大学
(1)2009 年度事業報告
3 月 13 日
電気通信大学
5月8日
早稲田大学
1 月 10 日 早稲田大学にて開催
7 月 10 日
電気通信大学
3 月 14 日 東京女子医科大学にて開催
9 月 11 日
東京農工大学
(A)例会の開催(6 回)
第 5 条 1 関係
5月9日
早稲田大学にて開催
7 月 11 日
電気通信大学にて開催
9 月 12 日 東京農工大学にて開催
11 月 14 日
11 月 13 日
箱根セミナーハウス(GPW)
(B)会誌の発行 第 5 条 1 関係
Vol.21 (2009 年度版)を発行する
(GPW をもって例会とする)
この号では,新たな会費を請求しない
(B)会誌の発行
箱根セミナーハウスにて開催
第 5 条 1 関係
(C)コンピュータ将棋選手権の開催 第 5 条 2 関係
12 月 25 日 Vol.20 (2007&2008 年度版,合併号)
5 月 2 日~4 日 電気通信大学西 9 号館にて開催
を発行
参加申込 58 チーム
(C)コンピュ-タ将棋選手権の開催 第 5 条 2 関係
(D)GPW への協力(主催:情報処理学会ゲーム情報学研
5 月 3 日~5 月 5 日,東京都新宿区 早稲田大学
究会) 第 5 条 3 関係
国際会議場にて開催
11 月 12 日~14 日 駿台箱根セミナーハウス
参加 42 チーム,優勝:GPS 将棋
(E)Computer Olympiad (北陸先端科学大学院大学と
(D)GPW への協力(主催:情報処理学会ゲーム情報学研
ICGA(International Computer Games Association)
究会)第 5 条 3 関係
との共同イベント)の後援
11 月 13 日~11 月 15 日,駿台箱根セミナーハウス
9 月 24 日~10 月 2 日 石川県金沢市
第 5 条 5 関係
(2)2009 年度 決算報告
(6)2010 年度予算
(3)監査報告
(2)
,
(3)
,
(6)については,
「事務局から」の「2009
年度決算報告書,監査報告書,2010 年度予算書」参照
(4)2010 年度役員選任
全員再任
CSA 理事会 ([email protected])
会長 瀧澤武信 (早稲田大学)
副会長 小谷善行 (東京農工大学)
理事 飯田弘之 (北陸先端科学技術大学院大学)
理事 伊藤毅志 (電気通信大学)
理事 岡崎正博
理事 柿木義一
理事 香山健太郎
理事 高田淳一
理事 松原仁 (はこだて未来大学)
理事 山田剛
監査 木下順二 (東京女子医科大学)
(5)2010 年度事業計画
(A)例会の開催(予定)
(6 回) 第 5 条 1 関係
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
コンピュータ将棋協会 blog の 2009 年の活動
山 田
1.まえがき
剛
*
大きな話題になったのは、CSA ブログからの話題提供が
大きく貢献したと考えられる。また、どうぶつしょうぎを
コンピュータ将棋協会が 2007 年 6 月に開設した「コン
コンピュータが完全解析したことをブログで紹介した記事
blog 」 (http://www.computer-
は、著名な技術系サイトでも採り上げられた
ピ ュ ー タ 将 棋 協 会
shogi.org/blog/)は、2009 年も引き続きコンテンツの更新を
(http://slashdot.jp/science/article.pl?sid=09/06/18/007259)。
行ってきた。本稿では、2009 年分の活動について報告す
る。ブログ開設、および開設以降 2008 年までの活動につ
3. ブログの今後の課題
いては、コンピュータ将棋協会誌 Vol.20 での報告を参照
のこと。
前回報告にて述べた課題は現在も残っている。できれば
既存の開発者向け情報に偏った内容だけでなく、より多く
2. 最近のブログの内容
の人々がコンピュータ将棋に関心を持ってもらえるようコ
ンテンツの範囲を拡充したいところだが、それを効果的に
主に、CSA が関与する諸活動の案内や報告を行ってい
行うには、より一層の創意工夫が必要と思われる。
るほか、コンピュータ将棋の話題のうちブログ担当者であ
る筆者が知り得た話題について、適宜記事としている。具
4. ブログ記事の紹介
体的には、第 19 回世界コンピュータ将棋選手権、第 14 回
ゲーム・プログラミング・ワークショップ、隔月開催のコ
4.1 コンピュータ将棋協会 3 月例会でコードレビュー会
ンピュータ将棋協会例会、インターネットを介して行われ
(http://www.computer-
るコンピュータ将棋オープン戦について、案内および報告
shogi.org/blog/csa_mtg_mar_2009/, 2009/3/6)
を行った。イベントについては、このほか、北陸先端技術
3 月のコンピュータ将棋協会例会(隔月)は、第 2 土曜
大学院大学で行われた第 4 回コンピュータ将棋世界最強決
日に行われる予定です。今回は年 1 回の総会が行われます。
定戦や、電気通信大学にて行われた人間のエキスパートと
トップクラスのコンピュータ将棋とのエキシビション対局
* 日時: 3 月 14 日(土) 15:00~
などを紹介した。これらのほか、世界コンピュータ将棋選
* 場所: 東京女子医科大学 本部棟 1 階物理学教室
手権使用可能ライブラリ規程についての話題、インターネ
* 議題
ットで公開されているコンピュータ将棋開発者の記事や一
般向けの話題の紹介、書籍に掲載された記事の紹介などを
行った。
ブログ開設当初からの目標である、月 1 回以上の記事の
o osl ソースコードレビュー会
o コンピュータ将棋合議アルゴリズムの研究
o コンピュータ将棋協会年次総会: 16:00~
更新を継続し、ブログのアクティブ性・適時性を維持して
(中略)
いる。CSA が関与する諸活動については、コンピュータ
今回は、第 19 回コンピュータ将棋選手権使用可能ライ
将棋開発者へのリマインダの役割も果たしている。2009
年は、CSA 例会における実力トップクラスのコンピュー
ブラリの草分け的存在である osl(OpenShogiLib) のコード
タ将棋のソースコードのレビュー会開催と、世界コンピュ
レビュー会を、開発者の金子知適さんに主催していただけ
ータ将棋選手権使用可能ライブラリ規程の改正に対する意
ることになりました。その難解さで知られる osl をマスタ
見募集を行ったが、両者ともコンピュータ将棋開発者間で
ーしたいという方、ぜひお越しください。年次総会など他
*
E-mail: [email protected]
の予定もありますので、1 時間~1 時間 30 分程度を予定し
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
ています。ですので質問がおあり方、議論したいポイント
* 決勝終了(ym 将棋)
が絞れている方は、ノート PC ご持参のうえ臨まれること
* 選手権の結果(「臥龍」開発メモ)
を推奨いたします。(後略)
* GPS 将棋優勝!!(かずの心の贅肉)
* 観戦(「棋理(遠見)」開発日記)
4.2 第 19 回世界コンピュータ将棋選手権者は GPS 将棋
以下はニュースへのリンクです。
(http://www.computer-
shogi.org/blog/gps_shogi_wins_wcsc19/,
* 最強将棋ソフトは「GPS将棋」
ナーが開発
2009/5/6)
第 19 回世界コンピュータ将棋選手権は、ライブ中継の
東大のセミ
* 第 19 回世界コンピュータ将棋選手権で GPS 将
棋が優勝
ページ、コンピュータ将棋選手権ネット中継ブログにて報
じられたとおり、GPS 将棋が初優勝。3 日間の詳細は上記
4.3
ページをご覧ください。
(http://www.computer-shogi.org/blog/animal-
前回は優勝した激指、準優勝の棚瀬将棋がともにエキ
シビション対局で勝利して話題になりましたが、今回はそ
の激指を含む決勝シード 3 チームがすべて負け越すという、
shogi_solution/,
2009/6/13. スラッシュドット・ジャパ
ンにて採り上げられた)
当ブログでもお知らせしたコンピュータ将棋協会 5 月例
かつてない下克上の様相となりました。今回の上位 3 強の
会にて話題になり、コメント欄でも多くの結果が公表され
これまでの最高成績は 6 位。もはや人間のエキスパートが
たどうぶつしょうぎ。現在の結論は、後手(そらチー
びっくりするような将棋を指せるコンピュータ将棋は 1 つ
ム?)の勝ちらしい、とのことです。
や 2 つではないのです。選手権は今や 2 次予選の時点で信
当ブログの 5 月例会の記事のコメント欄の内容をおさら
じられないほど過酷な争いになっています。また、3 位の
いすると、当協会 5 月例会の時点ですでに GPS 将棋の田
文殊が Bonanza ライブラリによる合議システムで成果を挙
中さんとうさぴょんの池さんによって解析が進められてお
げ、技術を共有することの威力を示しました。コンピュー
り、千日手らしい、との結論が出されていました。その後
タ将棋の技術はもはや広く普及しています。
バグが発見されたことで千日手の結論が撤回され、後手勝
優勝した GPS 将棋の詳細がレポートされました(適宜、
追記しています)。
* コンピュータ将棋選手権、GPS 将棋全体について、
ほか(駒得少年の冒険)
以下、決勝リーグの現地観戦記です。皆さんお疲れさ
までした。
ちに変わりました。田中先生はコンピュータの後退解析
(retrograde analysis)により 78 手で後手勝ちの結論。 鈴木
将棋の鈴木さんもコンピュータの df- pn(depth-first proofnumber search)による探索で後手勝ちと結論づけました。
後退解析とは、ゲームが終わった局面、すなわちライオ
ンが詰んだ、もしくは相手の一段目に入った状態の局面を
* [将棋] 決勝見に行ってきました(aki.の日記)
作り、その 1 手前、2 手前
* 来タ、見タ、勝ッタリ負ケタリ(A級リーグ指し手
この場合、1 手前の局面は手番を持っている側の勝ち、2
1号)
の局面を調べていく方法です。
手前の局面はその元になった局面になる手を指してしまう
* 第 19 回コンピュータ将棋選手権備忘録(小宮日記)
と負けることがわかっているので結論は他の手次第
* 家に帰ってきました(ゆめき開発日記)
次解析を広げてゆき、初期局面に到達するまで繰り返しま
* 決勝戦を観戦(WILDCAT(コンピュータ将棋ソフ
す。これは主にチェスの解析で多く用いられてきた方法で、
ト))
ど う ぶ つ し ょ う ぎ 読 み 切 り ?
と順
チェッカーを完全解析したプロジェクトにもこの方法が組
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
み合わされていました。また、詰将棋を作る方法としても、
詰みの局面から手数を伸ばしていく方法(いわゆる逆算
法)はおなじみですね。(後略)
1 敗でした。
第 1 局、一手損角換わりとなった谷崎生磨さん vs 文殊
は、文殊が難解な終盤戦をきわどく制した
と思われたと
ころでトラブルに見舞われて敗れました。第 2 局、稲葉聡
4.4 選手権ライブラリ規程は議論沸騰中
さん vsGPS 将棋は、四間飛車に振った GPS 将棋がうまく
(http://www.computer-shogi.org/blog/2009/08/,
捌いて優位に立った後、一気に稲葉さんの居飛車穴熊を攻
2009/8/22)
略してみごと勝利。2 局とも、解説の勝又清和六段からも
先週お知らせした、世界コンピュータ将棋選手権使用可
ほとんど非の打ちどころのないハイレベルな内容で、コン
能ライブラリ規程に関するご意見募集には、予想以上の多
ピュータ将棋の実力はますますエキサイティングなものに
数のご意見が寄せられています。これと並行して、森岡@
なっているようです。
GA 将!!!!さんが立ち上げたコンピュータ将棋関連の暫定掲
さて、次の金曜日からはゲームプログラミングワーク
示板でも多くの議論が行われ、議論沸騰しています。1 ス
ショップ (GPW)2009 です。プログラムも最終版となり、
レッドの記事数が 50 に制限されているこの掲示板におい
ナイトイベントの GPW 杯 3 本立てもあります。皆さんと
て、「ライブラリルールに関して」のスレッドは約 3 日で
お会いするのが楽しみです。
「レス満タン」になり、現在「ライブラリルールに関して
(2)」に突入しています。
4.6 「コンピュータは七冠の夢を見るか?」将棋世界で連
前の記事のコメントで森岡@GA 将!!!!さんから掲示板立
載開始
ち上げの告知があったときには、前の記事への追記で済ま
(http://www.computer-
せようかと当ブログ主も思っていましたが、ここまで盛り
shogi.org/blog/do_computers_dream_of_grand_slam/,
上がると改めて紹介せざるを得ません。主張を広くアピー
2009/12/5)
ルしたい方は、当協会のご意見募集に続いてこちらにもご
月刊将棋世界誌にて、今月 3 日発売の 2010 年 1 月号か
ら、「コンピュータは七冠の夢を見るか?」という連載記
参加を。(後略)
事が始まりました。プロ棋士の片上大輔六段、ponanza 開
4.5 人間 vs コンピュータ将棋、今年のエキシビションは
発者の山本一成さん、GPS 将棋開発者の金子知適さん、
(http://www.computer-
松本哲平さんの東大カルテットによる、164 ページからの
1
勝
1
敗
shogi.org/blog/computershogi_split_exhibition_matches_2009/, 2009/11/8)
6 ページの記事です。
連載第 1 回の内容は、第 19 回コンピュータ将棋選手権
前回の記事にてうっかりお知らせし忘れてしまいまし
で優勝した GPS 将棋の紹介、GPS 将棋が第 19 回コンピ
たが、エンターテイメントと認知科学研究ステーション特
ュータ将棋選手権の対激指戦で見せた指し手の分析、GPS
別企画「将棋研究の最前線」にて行われた 2 局のエキシビ
将棋によるプロのタイトル戦 (佐藤八段 vs 羽生王位)の
ション対局がネット中継されていました。結果はリンクで
実戦譜を検討させた結果の分析と、詳細な内容を凝縮して
示されているように、昨年のエキシビションと同じく 1 勝
います。(後略)
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
第 5 回 コンピュータ将棋 世界最強決定戦
橋 本
1.はじめに
剛
*
2.1 一回戦(一日目午前)
毎年恒例となった第 5 回コンピュータ将棋世界最強決定
戦が 2010 年 1 月 14, 15 日に北陸先端科学技術大学院大学に
て行われた。当日は大雪の影響が心配されたが無事に(一
最初は GPS 将棋‐TACOS、大槻将棋‐激指の対戦から。
前者は先手 GPS の四間飛車穴熊に対し後手 TACOS は5三
部関係者が気の毒な目にあわれたが)予定通り開催された。
銀左6四歩の急戦で仕掛けた。GPS がやや模様のいいとこ
過去 2 年間主要な大会で優勝もしくはそれに準ずる成績を
ろから、角切りのやや強引な攻めで迎えたのが図 1。穴熊と
挙げたソフト 4 チームが招待される。今回の参加は以下の 4
はいえさすがに強引過ぎる攻めだと思われる。大内九段に
チームである。
よると、TACOS がここで△3五同歩と取った手が甘く、歩
ソフト名
過去 2 年間の主な成績
CPU,
総コア数
激指
GPS 将棋
TACOS
いところだったようだ。市販ソフトで試してもほとんどが
前回優勝,2008 年世界コンピ
Xeon X5482
ュータ将棋選手権優勝
8 コア
2009 年世界コンピュータ将
Xeon X5570
切れないとコンピュータには難しいようだ。実際先手の▲
棋選手権優勝
8 コア
4七金▲3八飛が間に合いあとは GPS の一方的な攻めが炸
2008, 2009 年
Xeon X5492
裂する展開になってしまった。
Computer Olympiad 優勝
大槻将棋
を取り込まれても3二歩があるのでその一手を他に使いた
3五歩と取ってしまい、このあたり寄せまできちんと読み
8 コア
2009 年世界コンピュータ将
Xeon X5365
棋選手権準優勝
8 コア
表 1 参加ソフト一覧
第 1 回より連続参加の YSS が初めて選ばれず、GPS 将棋
と大槻将棋の 2 チームが初参加となった。なお主催は北陸
先端科学技術大学院大学ゲーム情報学ユニット、審判長は
大内延介九段で、同大学遠隔教育研究センターの全面協力
により高品質の動画中継と棋譜中継を行った。
対局は開発者代表が実際の将棋駒を動かしながら行った。
今回 TACOS 以外はすべてインターネット経由のリモート
で思考用マシンを動かし、手元のノート PC で手の入力を行
った。持ち時間は各60分切れたら秒読み60秒で、コン
ピュータ将棋の大会としてはかなり長時間となり、一手5
分以上の長考も多い。大内九段と飯田弘之教授の詳しい解
説も中継された。なお、棋譜と解説時のコメント、写真な
ど詳しくは[1]を参照されたい。
図1 GPS 将棋‐TACOS
大槻将棋‐激指は相矢倉で後手激指の急戦調に。激指が仕
掛けから終始見事な指し回しで大槻将棋を圧倒した。鶴岡
さんによると、激指は選手権後に評価関数の学習を行いか
なり強くなったようだ。
2.対局
*
松江工業高等専門学校 情報工学科
〒690-8518 島根県松江市西生馬町 14-4
E-mail: [email protected]
2.2 二回戦(一日目午後)
午後は激指‐TACOS、GPS 将棋‐大槻将棋の組み合わせ。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
前者は先手激指の四間飛車穴熊に対し、急戦の定跡を使っ
が入玉しながらも寄せきった。
ている TACOS はまたも棒銀で急戦に出た。先手が▲3八飛
車から玉頭を狙う定跡通りの展開で、後手は棒銀が9五に
残り勝ちにくい展開に。やはり激指の攻めが冴え渡りあと
は一方的な展開になった。
後者は相矢倉から、先手 GPS 将棋がまたしても桂損の強
引な攻めで後手大槻将棋ややや指しやすい展開になり図2
に。ここで△5五歩なら良かったようだが、大槻将棋は▽
7五歩▲同銀△8五桂とややおかしな攻め方に出た。8五
には8一の桂を跳ねて行きたいところで、人間なら違和感
のある構想である。今のトッププログラム同士の対戦では
このレベルのミスが命取りになってしまう。その後は GPS
の完璧な指し回しを見るだけとなってしまった。
図3 大槻将棋‐TACOS
勝った方が優勝となる激指‐GPS 将棋戦は先手激指の三間
飛車対後手 GPS 将棋の居飛車穴熊になった。早い段階で小
競り合いが起こったものの、なかなか終盤にならない渋い
展開となった。難しいが、解説によると図4では先に▲7
八歩と打つ方が勝るようだ。大内九段と飯田教授の解説は
常に的確で、
「この手を指すとこういう展開になるので、こ
こは普通こう指す」というところでコンピュータが違う手
を指すとたいていその予想通りの展開になっていた。プロ
グラマ陣はプロの局面評価がいかに凄いか改めて感心して
いた、
図2 GPS 将棋‐大槻将棋
この結果、激指と GPS 将棋が2勝で最終日に直接優勝を掛
けて戦うこととなった。
2.3 三回戦(二日目午前)
まずは2敗同士の大槻将棋‐TACOS から決着がついた。相
矢倉だが先手大槻将棋が序盤早々に▲5五歩と位をとり後
手 TACOS は流れで銀矢倉に。44手目、先手がまだ囲いき
図4 激指‐GPS 将棋1
れていないところで TACOS のうまい仕掛けが出て TACOS
がやや優勢になった。そして迎えた第3図、△7五桂が手
順前後だった。この後▲2五桂△6七桂成▲同銀△4七と
に手抜きで▲1四桂が厳しい攻め。以下△同歩▲1三銀か
ら攻めが続いた。先に桂を渡したため攻めの手段を与える
格好になった。以下は難しい終盤戦になったが、大槻将棋
その後も渋い応酬が続き、激指は学習した評価関数らしく
穴熊にもぐり低い構えになり、GPS 将棋は2,3,4筋の位を
取り厚みのある固い穴熊になった。手が無くなった激指は
穴熊側の端歩を伸ばしたが、逆にそこを GPS に突かれてし
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
まう。図5から GPS は△3六歩と角筋を通し、以下▲同飛
コンピュータ同士が手をつぶし合うので、この大会では余
△2三銀▲8二歩△1四歩と攻めた。以下 GPS が1筋の位
計にそう感じるのかもしれない。 毎年この大会で大内先生
も制圧し、9筋から攻めるしかない激指と玉頭の厚みで押
と飯田先生によるプロの評価がいかにすぐれているかを思
してくる GPS との差がじわりじわりと広がっていった。最
い知らされる。現状は深い読みによって人間のミスを的確
後には大差になったが、162手目で GPS がネットワーク
に捉えることでアマトップと互角以上に戦えるレベルに到
の問題でマシンと通信できなくなるトラブルが起こった。
達しているが、真にプロ並みの評価が可能になるのは名人
数分後には回復したが、鶴岡さんの判断でその時点で激指
を破るずっと先ではないかと思えてならない。
が投了、GPS 将棋が初出場ながら見事全勝優勝を飾った。
結果を表2に記す。
GPS 激指 大槻 TAC 勝敗 順位
GPS 将棋
激指
○後 ○先 ○先 3-0 1
×先
○後 ○先 2-1 2
大槻将棋 ×後 ×先
TACOS
○先 1-2 3
×後 ×後 ×後
表2
0-3 4
結果
4. 参照
[1] コンピュータ将棋世界最強決定戦 Web ページ
http://www.jaist.ac.jp/rccg/saikyo/
図5 激指‐GPS 将棋2
3. 最後に
この大会は持ち時間が多く、プログラマ同士が対局中に
読み筋を検討することが多いが、コンピュータ同士の読み
は驚くほど一致していることが多い。コンピュータ将棋は
近年の評価関数学習の成功により数年前に比べてかなり進
化を遂げたが、強い人間から見るとまだまだ甘い手が多い
ことが解説を聞いているとよくわかる。持ち時間が多い分
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
第 11 回~第 13 回コンピュータ将棋オープン戦の結果
香山
健太郎
1. オープン戦概要
日時
第 11 回 2009 年 2 月 14 日(土) 13:00~
第 12 回 2009 年 4 月 5 日(日) 13:00~
第 13 回 2010 年 2 月 13 日(土) 13:00~
形式
インターネット上に設置した対局サーバに接続して対局
主催
コンピュータ将棋協会(略称:CSA)
参加費
無料
http://www.computer-shogi.org/
参加条件 途中から・途中までの参加可
人間・人間+コンピュータの参加可
同一作者の複数プログラムの参加可
持ち時間 すべて 25 分切れ負け
2. 第 11 回(2009 年 2 月 14 日)
参加者(申込順)
参加者名・開発者名・チーム名 エントリー名
メンバー詳細・備考
1.
東京農工大学小谷研究室
まったりゆうちゃん
○佐藤直人、築地毅、柳圭二郎、柴原一友、小谷善行
2.
Team GPS
GPS 将棋
田中哲朗、金子知適、森脇大悟、副田俊介、林芳樹、○竹内聖悟
3.
柿木 義一
柿木将棋
4.
東京農工大学小谷研究室2
がっかりゆうちゃん
5.
本田 啓太郎
K-Shogi
6.
西村 則久
マイムーブ
7.
奈良 和文
奈良将棋
8.
川端 一之
なのは
9.
井上 浩一(人間)
10.
佐藤直人、○築地毅、柳圭二郎、柴原一友、小谷善行
山田 剛(人間)
結果
対局者名
1 回戦
2 回戦
3 回戦
4 回戦
山田 先●
K-Sh
●
井上
○
奈良 先○
1.
まったりゆうちゃん
○
2.
GPS 将棋
井上
○
山田
3.
柿木将棋
なの
○
4.
がっかりゆうちゃん
奈良
5.
K-Shogi
マイ
6.
マイムーブ
7.
奈良将棋
8.
なのは
9.
井上浩一(人間)
GPS 先●
がっ
10.
山田剛(人間)
まっ ○
GPS 先● マイ 先●
奈良
勝敗
ソル
順
コフ
位
9
8
●
1-3
K-Sh 先○
4-0
奈良 先●
K-Sh 先○ マイ 先○
3-1
7
3
●
井上 先●
なの 先○ 山田
●
1-3
7
9
○
まっ 先○
柿木
●
GPS
●
2-2
10
4
K-Sh 先●
なの 先○ 山田
○
柿木
●
2-2
7
6
がっ 先○
柿木
○
GPS
●
まっ 先○
3-1
9
2
柿木 先● マイ
●
がっ
●
井上 先●
0-4
○
まっ 先●
なの
○
2-2
6
7
がっ 先○
2-2
8
5
1
10
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
3. 第 12 回(2009 年 4 月 5 日)
参加者(申込順)
参加者名・開発者名・チーム名 エントリー名
メンバー詳細・備考
1.
東京農工大学小谷研究室
まったりゆうちゃん
東京農工大学小谷研究室
2.
Team GPS
GPS 将棋
田中哲朗、金子知適、森脇大悟、副田俊介、林芳樹、○竹内聖悟
3.
森岡 祐一
GA 将!!!
※3回戦まで
4.
高田 淳一
臥龍
5.
山田 雅之
ym 将棋
6.
本田 啓太郎
K-Shogi
7.
山田 泰広
山田将棋
8.
草野 一彦
Tohske
9.
小幡 拓弥
文殊
10.
井上 浩一
井上将棋
11.
山田 剛(人間)
※2回戦から
※奇数の場合のみ参加
結果
対局者名
1 回戦
2 回戦
3 回戦
4 回戦
1.
まったりゆうちゃん
山剛
2.
●
ym 将 ○
文殊 先●
Tohs 先○
2-2
GPS 将棋
井上 先○
Tohs 先○
K-Sh
山将
4-0
3.
GA 将!!!
Tohs
●
臥龍 先●
ym 将 先●
4.
臥龍
山将 先●
GA 将 ○
Tohs
○
K-Sh 先●
2-2
5.
ym 将棋
K-Sh
ゆう 先●
GA 将
○
文殊
●
1-3
6.
K-Shogi
ym 将 先○ 山将
GPS 先●
臥龍
○
3-1
7.
山田将棋
臥龍
井上
GPS 先●
2-2
8.
Tohske
9.
文殊
10.
井上将棋
11.
山田剛(人間)
●
○
K-Sh 先●
GA 将 先○ GPS
井上
GPS
●
○
○
○
勝敗
○
臥龍 先●
ゆう
●
1-3
●
ゆう
○
ym 将 先○
2-1
山将 先●
山剛 先●
1-3
井上
2-0
ゆう 先○
位
1
0-3
●
文殊 先○
順
○
2
4. 第 13 回(2010 年 2 月 13 日)
参加者(申込順)
参加者名・開発者名・チーム名
エントリー名
メンバー詳細・備考
1.
Team GPS
GPS 将棋
田中哲朗、金子知適、森脇大悟、副田俊介、林芳樹、○竹内聖悟
2.
芝浦工業大学
芝浦将棋
○黛恵輔、五十嵐治一 ※ネットワーク環境の都合により棄権
3.
激指チーム
激指
○鶴岡慶雅、横山大作、丸山孝志、高瀬亮、大内拓実
4.
井上 浩一(人間)
5.
竹内 章
習甦
6.
東京農工大学小谷研究室
まったりゆうちゃん
小谷善行、柴原一友、築地毅、佐藤直人、○松原徹、横山昌弘、宇賀神拓也
7.
東京農工大学小谷研究室
がっかりゆうちゃん
小谷善行、柴原一友、築地毅、佐藤直人、○松原徹、横山昌弘、宇賀神拓也
8.
s.take(人間)
9.
山田 剛(人間)
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
結果
対局者名
1 回戦
2 回戦
3 回戦
1.
GPS 将棋
take 先● がっ
○
まっ
3.
激指
まっ 先○ take
○
4.
井上浩一(人間)
習甦 先●
5.
習甦
6.
4 回戦
ソル
順
コフ
位
8
4
激指 先●
2-2
山田 先○
GPS
○
4-0
●
がっ
○
山田 先●
1-3
6
7
井上
○ 山田 先●
take
●
がっ 先○
2-2
7
5
まったりゆうちゃん
激指
●
井上 先○
GPS 先● take
●
1-3
10
6
7.
がっかりゆうちゃん
山田
●
GPS 先● 井上 先●
習甦
●
0-4
8.
s.take(人間)
GPS
○
激指 先●
習甦
○
まっ 先○
3-1
9
2
9.
山田剛(人間)
がっ 先○
習甦
激指
●
井上
3-1
7
3
まっ
○
○
勝敗
○
1
8
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
事務局だより
コンピュータ将棋において、コンピュータ対
試みた。会費が払われておらず、また最後まで
人間の対局の機運が増してきている。また、コ
連絡が取れない人44名についてそのような
ンピュータ側では、協力してシステムを作るこ
った。今後この退会者と連絡が取れ、入会金と
とが進展している。これらの中身はここでは示
会費が払われた場合は、会員にもどる(入会金
すことができないが、その内明らかになり、脚
に対応してバックナンバーが送られるので、2
光を浴びるであろう。大変楽しみである。
年くらいの間は会誌の切れ目も無くできる)
。
事務局(小谷)は、ゲーム計算アルゴリズム
事務局の仕事は、研究室の大学院生の佐藤直
の本を岸本・柴原・鈴木の諸氏と書いた(ゲー
人君に頼んでいる。また、4月からは大栗融君
ム計算メカニズム、コロナ社)。ゲーム計算一
も事務局に加わる。会誌を送付すると数人が宛
般について述べた本は四半世紀以上前、有澤誠
先不明で返送される。会員情報の変更、入退会
氏のコンピュータレクリエーションの本があ
に つ い て は 速 や か に ア ド レ ス
ったが、そうした方向のものである。コンピュ
[email protected] に知らせてほし
ータ将棋の発展にも役立てばと思っている。
い。
会誌については、慢性的遅延発行になってし
まっていることをお詫びしたい。これをここ一
下記は 2010 年3月15日現在の会員である。
会員情報については会員名のみを公開してい
年ほどで解決しつつある。前号は合併号とした。 る。このなかのだれかに連絡したい場合でも情
また今回の号はそれにそれほど間をおかず発
報は現在のところ、公開しないことになってい
行する。なお、今号についてはお詫びの意味も
る。その場合は事務局に1.連絡希望、2、相
あり会費徴収はしないこととした。会の収支は
手の名前、3ご自分の連絡先、を書いたメール
それに対応できる。
を上記宛に送ってほしい。それを相手方に転送
今回、理事会では、長期に連絡が取れない会
員について退会の扱いにすることにした。事務
する。さいごに、逝去された会員の轟聰氏に哀
悼の意を表す。
(小谷善行)
局では、数回に渡り、メール等を通じて連絡を
浅野薫、
鮎川正幸、荒木俊郎、有岡雅章、飯田弘之、 生井智司、池泰弘、 石黒俊太郎、
市川弘幸、 伊藤毅志、伊藤清、 伊藤則通、梅島康秀、 江澤義典、大泉紘一、大駒誠一、
大澤清一、 大槻知史、大西鉄矢、岡崎正博、岡部文洋、 荻猛、
小澤正夫、柿木義一、
勝又清和、 勝又環、 加藤徹、 加藤俊博、加藤英樹、 門脇芳雄、金子知適、鎌田真人、
香山健太郎、河瀬篤、 河野泰人、川端正一、河原林秀典、顔士浄、 木下順二、許舜欽、
朽名夏麿、 Reijer Grimbergen、 黒田久泰、甲村実、小谷善行、小橋一秀、佐伯毅彦、作田誠、
佐々木宣介、清水賢治、末廣大貴、鈴木康夫、鈴木康広、 砂田淳一、脊尾昌宏、副田俊介、
外村浩美、 高木秀和、高田淳一、高田正之、高橋清一、 高橋優仁、滝沢武信、竹森正己、
田中哲朗、 棚瀬寧、 棚原一、 谷口和友、鶴岡慶雅、 寺田光聡、當間愛晃、杜貴崇、
長井歩、
中里収、 中山泰一、南雲夏彦、奈良和文、 鳴海達也、西村則久、萩原俊男、
橋本剛、
原岡望、 府川和弘、保木邦仁、堀江順宏、 堀川慶士、本田恭之、増井典夫、
松崎直樹、 松原仁、 三谷浩司、村上裕、 森岡祐一、 森田和郎、森博、
山下宏、
安武和宏
山田剛、 山田泰広、山本剛、 山本正樹、 吉村信弘、Jeff Rollason、若林茂樹
以上104名
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
コンピュータ将棋協会・会誌執筆要領 兼 テンプレート
将 棋 太 郎
*
・ 計 算 機 花 子
**
1.まえがき
表 1 各項目のポイント数
本会誌は 1987 年発刊,以降毎年 1 巻ずつ作成されてい
項目
ポイント数
る。コンピュータ将棋協会の主催事業,例会における配
表題 (和文)
18
布資料,および,当協会の趣旨に沿う記事(次節参照)
表題 (英文)
14
著者名 (和文)
12
著者名 (英文)
9
脚注の著者連絡先
8
アブストラクト
8
本文
9
参考文献
9
を本誌に収録する。
2.記事種目
会誌で扱う記事種目として,依頼原稿,投稿原稿,転
載原稿がある。
2.1 依頼原稿
なお,表中の文字のポイント数は特に指定しない。
例会議事録を書記担当者に依頼する。通常,電子メー
ルで CSA メーリングリストに流され,編集委員が本誌の
スタイルに編集する。その他,必要に応じて原稿を依頼
することがある。
2.2 投稿原稿
CSA 会員に興味あると思われる内容の論文を随時受け
付ける。当協会の趣旨に沿う原稿であるかどうか,およ
論文投稿先:
169-8050
東京都新宿区西早稲田 1-6-1
早稲田大学 政治経済学術院
瀧澤武信(編集委員長)
03-5286-1236
び,論文内容に関する査読を行なう。編集委員会の判断
の下に 2 名以上の有識者に査読を依頼する。
2.3 転載原稿
[email protected]
★e-mail での投稿を強く推奨します.
当協会の趣旨に沿う他誌に掲載された論文(一般記事
も含む)を本誌に転載することがある。ただし,転載許
可の承諾を得ることを条件とする。
2.4 原稿の体裁
MS ワード・テンプレートもしくはそのテンプレートに
相当するフォーマットを使用した 10 ページ以内の原稿を
1 部提出する。見本テンプレートは CSA ホームページか
3
本誌に掲載された原稿の著作権
本誌(Vol.9 以降)に掲載された依頼原稿・投稿原稿の著
作権は原則として本協会に帰属する。これが適用できな
い事情のある場合,著者と本協会理事会の間で協議のう
えで措置する。その他著作権に関する取り扱いは常識に
基づいて処理する。
ら入手できる。フォントの大きさの目安を表に示す。
(2004 年 3 月 28 日
*
CS 大学大学院 CS 研究科
〒923-1292 石川県能美市旭台 1-1
E-mail [email protected]
**
CSA 株式会社主幹研究員
〒550-0003 大阪市西区京町堀 31415926535 (π会館)
編集委員会改定)
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
コンピュータ将棋協会賞
CSA 賞選考委員会
委員長 瀧澤武信
2009 年度のCSA賞は,選考委員会で厳正に審査した結果,伊藤毅志氏に研究賞,鶴岡慶雅氏に貢献賞を授与すること
が決定され,2009 年 5 月 5 日の第 19 回世界コンピュータ将棋選手権の懇親会の席上で授与式が行われた.また,矢内理
絵子氏,安食総子氏にコンピュータ将棋選手権における長年のご協力に対する感謝状を贈呈した.
2009 年度CSA研究賞
感謝状
伊藤 毅志 様
矢内 理絵子 様
将棋に関する認知科学的な研究を長年行ない
そ
長年にわたり コンピュータ将棋選手権における
その成果を生
解説および聞き手をつとめ 指し手に対する的確
かしたシステムを作成してコンピュータ将棋選手
な指摘や 懇親会等での挨拶を通じて 選手のやる
権に出場した さらには一般向けの本も出版して
気を高め コンピュータ将棋の発展に寄与された
コンピュータ将棋の発展に大いに貢献したので表
ことに 感謝する
の結果を学会や論文として発表し
彰する
2009 年度CSA貢献賞
感謝状
鶴岡 慶雅 様
安食 総子 様
あなたの開発された激指は アマチュア竜王アマ
長年にわたり コンピュータ将棋選手権における
チュア名人など複数獲得しプロの公式戦の予選で
聞き手やエキシビションにおける棋譜読み上げな
プロ棋士とも互角の戦いをする強豪に対して 持
どをつとめ また懇親会等での挨拶や 情報処理学
時間の比較的長い試合で勝つなどの活躍をし コ
会誌への寄稿を通じて 選手のやる気を高め コン
ンピュータ将棋の現状を一般の方に分かりやすく
ピュータ将棋の発展に寄与されたことに感謝する
示した これはコンピュータ将棋の発展に大いに
寄与したので表彰する
伊藤毅志氏
鶴岡慶雅氏
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
コンピュータ将棋協会 会則
2007 年 3 月 10 日
第 1 章 総則
第 3 章 会員
第 1 条 (名称)
第 6 条 (会員)
本会は、コンピュ- タ将棋協会と称する。英 文名称は
本会の目的に賛同して入会した者を会員とする。
Computer Shogi Association とし、略称を CSA とする。
第 7 条 (会員の種類)
第 2 条 (事務局)
本会の事務局を東京都小金井市中町 2-24-16 東京農工大学
工学部情報工学科小谷研究室内に置く。
本会の会員は、次の通りとする。
1 正会員(本会の目的に賛同し、
所定の会費を納める個人)
2 学生会員(本会の目的に賛同し、所定の会費を納める
学生)
第 3 条 (支部)
3 賛助会員(本会の目的に賛同し、その事業を援助する
本会は、理事会の議決を経て必要の地に支部を置くことが
個人、法人、団体)
できる。
第 8 条 (入会金および会費等)
第 2 章 目的および事業
第 4 条 (目的)
本会は、コンピュ-タと将棋を通じて文化の向上に寄与す
ることを目的とする。
1 会員が入会するときは、細則に定められた入会金を添え
て会費を納入しなければならない。
2 会員は、細則に定められた会費を納入しなければならな
い。
3 入会金および会費は、いかなる理由があってもこれを返
第 5 条 (事業)
本会は、前条の目的を達成するために次の事業を行う。
1 例会の開催および会誌の発行
還しない。
4 会員は、細則の定めに従って本会が発行する会誌の配布
を受ける。
2 コンピュ-タ将棋選手権の開催
3 コンピュ-タ将棋に関する(学術)論文発表会
(ワ-クショップ)の開催
4 コンピュ-タ将棋の通信規約等の規約の作成
5 コンピュ-タ将棋を通じての国際交流
6 コンピュ-タ将棋に関する資料の収集と管理
7 その他本会の目的を達成するために必要な事業
第 9 条 (会員の退会等)
1 会員は、会長に届ければ、自由に退会することができる。
2 会員が 2 年以上会費を滞納したとき、会長は理事会の議
決を経て、その会員を退会させることができる。
3 会員が本会の名誉を傷つけ、または本会の目的に反する
行為をしたときは、会長は理事会の議決を経て、その会
員を除名することができる。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
役員は、すべて無報酬とする。
第 4 章 役員および職員
第 10 条 (役員)
本会には、次の役員を置く。
1 会長 1 名
第 16 条 (職員)
1 本会の事務を処理するため、必要な職員をおくことがで
きる。
2 副会長 若干名
2 職員は、会長が任免する。
3 理事 若干名
3 職員には、報酬を支払う。
4 監査 1 名
第 5 章 総会および理事会
第 11 条 (役員の選任)
第 17 条 (総会の招集)
1 会長、副会長、理事、監査は総会で選任する。
1 通常総会は、毎年 3 月の例会日に行う。
2 理事の中から会長が会計 1 名を指名する。
2 理事会が必要と認めたとき、
会長が臨時総会を招集する。
3 現在会員の 3 分の 1 以上が要求したとき、会長は 30 日以
第 12 条 (役員の職務)
内に臨時総会を招集する。
1 会長は、本会の事務を総理し、本会を代表する。副会長
は会長を補佐し、会長に事故があるときは、その職務を
代行する。会長、副会長ともに事故があるときは、会長
があらかじめ指名した理事が、その職務を代行する。
2 会計は、会長の指示に基づき本会の入会金、会費および
その他の収入、事業に伴う支出およびその他の支出を管
理する。
3 理事は、会長、副会長とともに理事会を組織し、この会
則に定める事項を決議し執行する。
第 18 条 (総会の議長)
通常総会の議長は、会長とし、臨時総会の議長は、会議の
都度出席会員の互選により定める。
第 19 条 (総会の議決事項)
総会は、この会則に別に定めるもののほか、次の事項を議
決する。
1 事業報告および収支決算についての事項
2 事業計画および収支予算についての事項
4 監査は本会の会計の状況を監査する。
第 20 条 (総会の定足数等)
第 13 条 (役員の任期)
総会の議事は、この会則に別段の定めがある場合を除き、
1 本会の役員の任期は1年とする。但し再任を妨げない。
出席会員の過半数をもって決し、可否同数のときは、議長の
2 役員は、その任期満了後でも後任者が就任するまでは、
決するところによる。
なおその職務を行う。
第 21 条 (会員への通知)
第 14 条 (役員の解任)
会長、副会長および理事は、理事現在数または会員現在数
総会の議事の要領および議決した事項は、会誌に掲載し、
会員に通知する。
の 4 分の 3 以上の議決によりこれを解任することができる。
第 22 条 (理事会の招集)
第 15 条 (役員の報酬)
理事会は、会長が招集し、次の事項を行う。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
1 総会/例会の議題の作成
この会則は 1995 年 5 月 13 日より施行する。
2 この会則に定めるもののほか、本会の総会の権限に属
1997 年 5 月 10 日改訂。改訂日より施行する。
さない事項の議決および執行。
2007 年 3 月 10 日改訂。改訂日より施行する。
3 理事会の議長は会長とする。
第 23 条 (理事会の定足数等)
1 理事会は理事現在数の 2 分の 1 以上の者の出席がなけれ
ば、議事を議決できない。但し、当該議事につきあらか
じめ意志を表明した者は、出席者とみなす。
2 理事会の議事は、この会則に別段の定めがある場合を除
コンピュータ将棋協会 細則
第 1 条 (入会金)
1 正会員の入会金は、3,000 円とする。学生会員の入会金は、
これを免除する。
2 正会員は入会時に前年の会誌を受け取ることができる。
き、出席理事の過半数をもって決し、可否同数のときは、
議長の決するところによる。
第 2 条 (会費)
1 正会員および学生会員の会費は年 3,000 円とする。
第 6 章 資産および会計
2 賛助会員の会費は年 10,000 円とする。
第 24 条 (資産の構成)
本会の資産は次の通りとする。
1 入会金および会費
2 資産から生ずる収入
3 事業に伴う収入
4 寄付金品
第 3 条 (例会の開催)
1 本会の例会は、毎奇数月第 2 土曜日 15:00 より開催され
る。
2 理事会は例会の会場および記録者を定め、会員に通知す
る。
5 その他の収入
第 4 条 (会誌の発行)
第 25 条 (会計年度)
本会の会計年度は毎年 1 月 1 日に始まり 12 月 31 日に終わ
る。
1 本会は、会誌を年 1 回以上発行する。
2 正会員および学生会員は会誌の発行ごとに 1 部の配布を
受ける。
3 賛助会員は会誌の発行ごとに 2 部の配布を受ける。
第 7 章 会則の変更および細則
第 26 条 (会則の変更)
この会則は、理事会および総会の 3 分の 2 の議決を経なけ
第 5 条 (会員への通知)
会員への各種の通知は、原則として会誌で行う。
れば変更することができない。
第 27 条 (細則)
細則は理事会により定める。
この細則は 1997 年 5 月 10 日より施行する。
2007 年 3 月 10 日改訂。改訂日より施行する。
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
コンピュータ将棋協会決算報告書,監査報告書,予算書
2009 年度決算報告書
(2009 年1月1日~2009 年 12 月 31 日)
収入の部
会費収入
680,000 会費(含入会金) + 過年度未入金分請求
---------------------------小計
680,000
支出の部
消耗品費
189 糊
通信費
3,980 会誌発送料
人件費
25,000 事務局事務謝金
印刷費
189,000 会誌 20 号印刷代
---------------------------小計
218,169
差額
461,831 次年度に繰越
前期繰越金
1,401,274
-----------------------------次期繰越金
1,863,105
監査報告書
本決算は適正であります。
2010 年 3 月 4 日
監査 木下順二 (印)
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
2010 年度予算書
(2010 年1月1日~2010 年 12 月 31 日)
収入の部
会費収入
300,000
---------------------------小計
300,000
支出の部
消耗品費
20,000
通信費
50,000 会誌発送料
人件費
70,000
会誌印刷費
130,000
雑費
30,000
---------------------------小計
300,000
次期繰越金繰入額
前期繰越金
0
1,863,105
-----------------------------次期繰越金
1,863,105
ࠦࡦࡇࡘ࡯࠲዁ᫎදળ⹹8QN
編集後記
瀧
澤
武
信
*
本号は,2009 年度版であり,2010 年 3 月までのコンピュ
編集者が「コンピュータ将棋」の開発に着手したのは
ータ将棋に関する記事を収録した.しばらくの間発行が遅
1974 年 11 月のことである.それから約 20 年後に選手権の
れていたが,ようやく発行が追いついた.
上位ソフトがようやくアマチュア初段に到達した.ここま
本号には shotest の作者でイギリスの Jeff Rollason 氏
など CSA 会員や世界コンピュータ将棋選手権参加者から多
数の記事が集まり,前号に引き続き大変充実したものにな
った.記事をお寄せいただいた皆様に感謝する.
では,上達するのに非常に時間がかかったが,そこからの
進歩はすさまじく,今やプロの域に近づいてきた.
2010 年秋には,日本将棋連盟が情報処理学会からの挑戦
を受ける形で,清水市代女流王位・女流王将との平手の対
一方,掲載すべき記事でまだのものもあり,会誌が内容
局が行われることになった.コンピュータ将棋協会はもち
的にも追いつくのはまだ暫くかかりそうである.次号は
ろん中立の立場であるが,清水さんにはコンピュータ将棋
2011 年 3 月の予定である.会員の皆様からの投稿も歓迎で
の特徴を説明するアドバイザーをつけるべきだと考えてい
ある.コンピュータ将棋に関連するオリジナル原稿であれ
る.その上で,どのような結果になるのかが楽しみである.
ば,査読の上掲載したいと考えている.
世界コンピュータ将棋選手権は 2001 年から 2008 年まで
千葉県木更津市の「かずさアーク」で行われてきたが,2009
年には東京都新宿区の「早稲田大学国際会議場」で行われ
た,2010 年は東京都調布市の「電気通信大学西 9 号館」で
行われる.2009 年の選手権は「下克上」と表現した方もい
たように,
「大爆発」の年であったが,2010 年の選手権では,
従来からの強豪ソフトの巻き返しや,新規参入者による新
たな手法によるソフト(ハード的にも)が期待でき,益々
の進歩が期待できる.一方で経済情勢のために「協賛金」
が集まらず,選手権は「参加費」と共催団体からの援助で
まかなっているのが現状であり,運営は厳しい.
さて,この冊子体の会誌であるが,これは,ある時期に
fix した情報を提供するのに適しており,この発行形態は当
分の間継続していくことにしたい.
本号の編集に当たり,正文社の半田和男氏に大変お世話
になった.お礼を申し上げる.
*
コンピュータ将棋協会会長
早稲田大学政治経済学術院
[email protected]
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