発達障害の子どもの ための学校支援Ⅱ

発達障害の子どもの
ための学校支援Ⅱ
―適応に関する実態把握と教材・教具の開発を中心に―
目
Ⅰ
次
はじめに
1
Ⅱ.ICFの考え方を使っての現状分析
1
Ⅲ.学級集団の中での問題発生や悪化の予防
3
Ⅳ.子ども用の情緒や行動の包括的な質問紙の活用
4
Ⅴ.個別の指導計画の作成と指導や支援に対する評価
5
QU(Questionnaire-Utilities)について
5
事例1
ICF 使った指導計画の作成
~小学校低学年の高機能広汎性発達障害の疑いのある児童を対象として~
事例2
通常の学級における「困り感」のある児童への支援
~「グレーゾーン」のA 児の事例より~
事例3
7
18
中学校で通常学級に在籍するADHD と診断され、
LD(読み書き)の疑いのある生徒の指導事例
36
開発した教材
45
シニアアドバイザーによる研修
66
おわりに
68
Ⅰ.はじめに
近 年 、 ADHD 、 高 機 能 広 汎 性 発 達 障 害 で 不 登 校 等 の 二 次 障 害 に よ り 心 身 症 ・ 神 経 症 等 の
診 断 に て 、 小 児 科 、 児 童 精 神 科 に 入 院 し 、 特 別 支 援 学 校 (病 弱 養 護 学 校 )に 在 籍 す る 児 童 生 徒
が増加しており、その対応が大きな教育の課題となっている。これらの児童生徒の数は、平
成 15 年 度 と 平 成 18 年 度 を 比 較 す る と 2 か ら 3 倍 に な っ て い る 。 そ の 多 く は 、 不 登 校 、 対 人
恐怖、過剰な不安状態などを呈し、心身症や適応障害、不安障害等の診断で入院し、病院に
隣接する特別支援学校に在籍している。これらの児童生徒と関連する小中学校の児童生徒を
対象に、具体的に次の4点について研究し明らかにする。
( 1 )米 国 T.M. Achenbach ら が 開 発 し 、 国 際 的 に 通 用 し て い る 子 ど も 用 の 情 緒 や 行 動 の 包 括
的 な 質 問 紙 [ 親 用 の CBCL ( =Child Behavior Checklist )、 教 師 用 の TRF ( =Teacher's Report Form )と
本 人 用 の YSR ( =Youth Self Report )] を 使 用 し 、 親 、 教 師 、 本 人 の 三 者 の 立 場 か ら 多 面 的 に 情
緒や行動を評価し、客観的・主観的実態を検討し、3者間のずれ、プロフィールの特徴を解
析し、心理、行動特性を明らかにし、自尊感情の低下を防ぐ。
(2) 発 達 障 害 の 子 ど も が つ ま ず き や す い 聴 覚 情 報 を 視 覚 に 訴 え る い わ ゆ る 視 覚 支 援 教 材 の
開 発 を 行 い 、 そ れ を 活 用 す る こ と に よ り 、 児 童 生 徒 が 「 で き た 」、「 わ か っ た 」 と い う 学 習
面での達成感、成功感を味わわせる機会を増やし、自尊感情を高める機会を確保する。
( 3 )本 人 、 親 、 教 師 の 評 価 が 著 し く ず れ て い る ケ ー ス や 、 適 応 状 態 に 改 善 が み ら れ た 児 童
生 徒 の 事 例 研 究 を 行 い 、 学 校 適 応 (特 別 支 援 学 校 へ の 適 応 と 小 学 校 、 中 学 校 へ の 適 応 を 含 む )
へ の 障 壁 、 そ の 再 適 応 へ の 過 程 (心 理 面 と 学 習 面 の 両 方 )を 明 ら か に す る 。
( 4 )( 1 )( 2 )( 3 )を 検 討 す る 中 で 、 個 々 の 児 童 生 徒 の 実 態 に 応 じ た 教 材 開 発 や 個 別 指 導 の 在 り
方 ( LD 、 ADHD 等 の 児 童 生 徒 に 配 慮 し た 教 科 学 習 の 内 容 ・ 方 法 )に つ い て 、 ガ イ ド ブ ッ ク を
作成し、教育現場に配布する。
な お 、 こ の 研 究 を 進 め て い く 過 程 に お い て 、 I C F ( WHO
国際生活機能分類)の考え方
を使って現状分析を行い、問題発生予防の考えに従って学級・学校経営から個別指導までの
プロセスを明らかにする。
Ⅱ.ICFの考え方を使っての現状分析
1.ICFとは、
障 害 に 関 す る 国 際 的 な 分 類 と し て は 、 こ れ ま で 、 世 界 保 健 機 関 ( 以 下 「 W H O 」) が 1980
年 に 「 国 際 疾 病 分 類 ( I C D )」 の 補 助 と し て 発 表 し た 「 W H O 国 際 障 害 分 類 ( I C I D H )
が 用 い ら れ て き た が 、 W H O で は 、 2001 年 5 月 の 第 54 回 総 会 に お い て 、 そ の 改 訂 版 と し て
「 I C F ( International Classification of Functioning Disability and Health)」 を 採 択 し た 。
ICFは、人間の生活機能と障害に関して、アルファベットと数字を組み合わせた方式で
分 類 す る も の で あ り 、 人 間 の 生 活 機 能 と 障 害 に つ い て 「 心 身 機 能 ・ 身 体 構 造 」「 活 動 」「 参
加 」 の 3 つ の 次 元 及 び 「 環 境 因 子 」 等 の 影 響 を 及 ぼ す 因 子 で 構 成 さ れ て お り 、 約 1500 項 目
に分類されている。
これまでの「ICIDH」が身体機能の障害による生活機能の障害(社会的不利を分類す
るという考え方が中心であったのに対し、ICFはこれらの環境因子という観点を加え、例
1
えば、バリアフリー等の環境を評価できるように構成されている。このような考え方は、今
後、障害者はもとより、全国民の保健・医療・福祉サービス、社会システムや技術のあり方
の方向性を示唆しているものと考えられる。
2.ICFの目的
ICFは多くの目的に用いられうる分類であり、さまざまな専門分野や異なった領域で役
立 つ こ と を 目 指 し て い る 。 ICF の 目 的 を 個 別 に み る と 、 以 下 の と お り で あ る 。
・ 健 康 状 況 と 健 康 関 連 状 況 、 結 果 、決 定 因 子 を 理 解 し 、研 究 す る た め の 科 学 的 基 盤 の 提 供 。
・ 健康状況と健康関連状況とを表現するための共通言語を確立し、それによって、障害の
ある人々を含む、保健医療従事者、研究者、政策立案者、一般市民などのさまざまな利用者
間のコミュニケーションを改善すること。
・ 各国、各種の専門保健分野、各種サービス、時期の違いを超えたデータの比較。
・ 健康情報システムに用いられる体系的コード化用分類リストの提供。
このICFの考え方は、特別支援学校の学習指導要領改訂にも大きな影響を与え、特に自
立活動の領域においては色濃く反映されている。
本研究では、発達障害のある児童生徒の環境や個人特性を考えた実態把握をICFにより
分 析 し 指 導 に 役 立 て る も の で あ る 。 特 に 、「 子 ど も 」 に か か わ る 複 数 の 教 師 が デ ィ ス カ ッ シ
ョンを行いながら分析を行うことにより情報を共有していくことが重要である。
ICFの分類
健康状態(変調または病気)
ADHD
心身機能・身体構造
注意機能の問題
記憶機能の問題
情動機能の問題
など
活動
参加
教室から飛び出す
トラブルを起こしやすい
授業に集中できない
一斉授業に参加しに
くい
登校を渋る
背景因子
環境因子
個人因子
薬の服用
オープンスペースの教室
排他的なクラスメート
学校を信頼できない保護者など
図1
自尊感情の低下
自己効力感の低さ
ICF の 構 成 要 素 間 の 相 互 作 用
2
用語の説明
心 身 機 能 ( body functions ) と は 、 身 体 系 の 生 理 的 機 能 ( 心 理 的 機 能 を 含 む ) で あ る 。
身 体 構 造 ( body structures ) と は 、 器 官 ・ 肢 体 と そ の 構 成 部 分 な ど の 、 身 体 の 解 剖 学
的部分である。
機 能 障 害 ( 構 造 障 害 を 含 む )( impairments ) と は 、 著 し い 変 異 や 喪 失 な ど と い っ た 、 心 身
機能または身体構造上の問題である。
活 動 ( activity ) と は 、 課 題 や 行 為 の 個 人 に よ る 遂 行 の こ と で あ る 。
参 加 ( participation ) と は 、 生 活 ・ 人 生 場 面 ( life situation ) へ の 関 わ り の こ と で あ る 。
活 動 制 限 ( activity limitations ) と は 、 個 人 が 活 動 を 行 う と き に 生 じ る 難 し さ の こ と で あ る 。
参 加 制 約 ( participation restrictions ) と は 、 個 人 が 何 ら か の 生 活 ・ 人 生 場 面 に 関 わ る と き に
経験する難しさのことである。
環 境 因 子 ( environmental factors ) と は 、 人 々 が 生 活 し 、 人 生 を 送 っ て い る 物 的 な 環 境 や 社
会的環境、人々の社会的な態度による環境を構成する因子のことである。
*個人因子
Ianes1) は 、 情 緒 と 行 動 の 個 人 因 子 と し て 、 帰 属 ス タ イ ル 、 自 己 効 力 感 、 自 尊
心 (セ ル フ ・ エ ス テ ィ ー ム )、 動 機 、 情 緒 等 を あ げ て い る 。 こ れ ら の 内 容 は 、 武 田 の 大 学 院 等
の授業の中で解説しているが、本紙では省略する。
1 ) Ianes, D., Celi, S., & Cramerotti, S ( 2003 ) Il Piano educativo individualizzato progetto di vita. Erickson.
Ⅲ.学級集団の中での問題発生や悪化の予防
問題の発生を予防することを一次予防、問題の悪化を防ぐことを二次予防、問題による二
次 的 な 社 会 的 不 利 益 を 防 ぐ こ と を 三 次 予 防 と い う ( 図 2 )。
一 次 予 防 は 、 一 般 的 な 予 防 ( universal prevention ) と 選 択 的 予 防 ( selective prevention ) に 分 け
られる。一般的な予防は児童生徒全員を対象に行うものである。例えば、発達障害など特別
な教育的ニーズのある児童生徒が在籍する学級において、普段の学級経営において発言の仕
方、仲良くするマナーなど学級生活にかかわるルールを決めておくことが大切である。いわ
ゆ る 全 員 を 対 象 と し た メ ン タ ル ヘ ル ス ケ ア で あ る 。 河 村 ( 2006 ) が 開 発 し た Q U
( Questionnaire-Utilities ) な ど も 一 般 的 予 防 や 選 択 的 予 防 の 実 態 把 握 の た め に 有 効 で あ り 、 多
くの学校で活用されている。また、一次予防において多動であったり、対人関係に問題を抱
えていたりするリスクの高い子どもたち数人に対して個別に指導・支援を行うことを選択的
予 防 ( selective prevention ) と い う 。
二次予防は、教室を飛び出す、対処に暴力をふるうなどの問題を出している子どもに対し
て 問 題 の 悪 化 を 防 ぐ こ と を 目 的 に し て 行 う 。す な わ ち 、適 用 根 拠 の あ る 必 要 な 予 防( indicated
prevention ) で あ る 。 適 切 な 対 処 が 必 要 で あ り 、 保 護 者 や 専 門 機 関 等 と の 連 携 を 図 り な が ら 指
導・支援が必要な段階である。
三次予防は、不登校等の非社会的行動や非行等の反社会的行動、また、心身症等の身体症
状に対して、カウンセリングや治療を行うことにより問題による二次的な社会的不利益を防
ぐことである。
3
臨床・治療(clinical / treatment)
三次予防
適応根拠のある必要な予防
(indicated prevention)
二次予防
選択的予防(selective prevention)
一般的な予防(universal prevention)
一次予防
図2
問題発生の予防
Ⅳ.子ども用の情緒や行動の包括的な質問紙の活用
幼児期から思春期にいたる子どもの情緒や行動を包括的に評価する質問紙として、米国
Vernmont 大 学 の Achenbach が 開 発 し た 一 連 の 調 査 票 が あ る 。 保 護 者 が 記 入 す る Child Behavior
Checklist (CBCL) 、 ほ ぼ 同 じ 内 容 で 本 人 が 回 答 す る Youth Self Report (YSF) 、 な ら び に 教 師 が 回
答 す る Teacher ’ s Report Form (TRF) で す 。 CBCL は 2-3 歳 の 幼 児 版 ( CBCL/2-3 ) と 年 長 児 版
( CBCL/4-18 ) と に 分 か れ る 。
CBCL な ど 一 連 の 評 価 用 紙 の 構 成 の 特 徴 は 、 子 ど も の 情 緒 と 行 動 を 多 面 的 に 評 価 す る こ と
で あ り 、 そ れ ぞ れ 男 女 別 に 標 準 化 さ れ て い る 。 CBCL / 4-18 は 社 会 的 能 力 尺 度 と 問 題 行 動 尺
度から構成されている。社会的能力尺度は、子どもの趣味や友達関係、家族関係など生活状
況 を 調 べ る も の で あ る 。 問 題 行 動 尺 度 は 118 の 質 問 項 目 と 書 き こ み 可 能 な 1 項 目 か ら 構 成 さ
れ て い る 。こ れ ら の 質 問 に よ り 評 価 さ れ る 症 状 群 尺 度 は 、
「 ひ き こ も り 」、
「 身 体 的 訴 え 」、
「不
安 / 抑 う つ 」、「 社 会 性 の 問 題 」、「 思 考 の 問 題 」、「 注 意 の 問 題 」、「 非 行 的 行 動 」、「 攻 撃 的 行
動 」 の 8 つ の 軸 か ら な り 、 さ ら に 「 ひ き こ も り 」、「 身 体 的 訴 え 」、「 不 安 / 抑 う つ 」 か ら な
る 内 向 尺 度 、「 非 行 的 行 動 」 と 「 攻 撃 的 行 動 」 か ら な る 外 的 尺 度 と 総 得 点 が あ る 。 こ れ ら の
得点は標準化されたプロフィール表にプロットすると T 得点に換算される。このプロフィ
ール表には 2 つの点線が記入されており、2 つの点線にはさまれた領域は境界域、その下は
正 常 域 、 そ の 上 は 臨 床 域 と 評 価 さ れ る (図 3 )。 こ れ ら の 結 果 か ら 、 子 ど も の 情 緒 面 及 び 行 動
面の発達や問題の特徴を一目で包括的につかむことができる。さらに対象年齢がひろいこと
から追跡調査によるその子どもの変化を観察することが可能である。
4
臨床域
境界域
正常域
図3
発 達 障 害 の あ る 児 童 の Teacher ’ s Report Form (TRF) の 結 果
Ⅴ.個別の指導計画の作成と指導や支援に対する評価
WISC Ⅲ や DN-CAS 等 の 知 能 検 査 や 認 知 検 査 を 実 施 す る と 共 に 、 各 教 科 等 の 実 態 や 情 緒 及
び 行 動 の 実 態 を 把 握 し 、個 別 の 指 導 計 画 を 作 成 す る 。児 童 生 徒 本 人 に 対 し て の 評 価 、そ し て 、
個別の指導計画に関する形成的評価を経て、指導や支援に対する評価を行う。
Q U ( Questionnaire-Utilities ) に つ い て
Q U ( Questionnaire-Utilities ) は 、 現 在 、 h y p e r ‐ Q U に グ レ ー ド ア ッ プ さ れ て い る 。
Q -U の 診 断 尺 度 ( 学 校 生 活 意 欲 尺 度 と 学 級 満 足 度 尺 度 ) に 加 え 、 対 人 関 係 を 築 く 際 に 必 要
なソーシャルスキル尺度で構成されている。
アンケートの結果、児童を4つの群に分類し、どの群に位置するかによって、児童の学級
内での相対的な位置を確認できると同時に、個々の抱える問題がわかり、教師の具体的な対
応 を 検 討 す る こ と が で き る も の で あ る ( 図 4 、 表 1 )。 Q U は 、 問 題 発 生 の 予 防 と い う 視 点
から、一般的予防や選択的予防の実態把握のために有効であり、広く小中学校で活用されて
いる。
5
図4
Q-U プロット図(小学生用 )(河村, 2004 から引用)
表1
Q-U の結果から得られる各群の特徴
群の名称
特
徴
学級生活満足群
承認得点が高く、被害得点が低い児童です。学級内に自分の居場
所をもち、生活を意欲的に送っていると考えられます。
非承認群
承認得点と被侵害得点がともに低い児童です。不適応感やいじめ
を受けている可能性は低いですが、学級内で認められることが少
なく、自主的に活動する気持ちが弱い児童と考えられます。
侵害行為認知群
承認得点と侵害得点がともに高い児童です。学校生活や諸々の活
動に意欲的に取り組みますが、そのプロセスでトラブルが生じて
しまうことが多い児童と考えられます。物事に対して、過敏な反
応を示す児童も含まれます。
学級生活不満足群
承認得点が低く、被侵害得点が高い児童です。いじめ被害や悪ふ
ざけを受けている可能性が高いと思われます。学級集団への適応
感は低く、不登校に至る可能性も高いと考えられます。中でも、
要支援群の児童には早急な対応が必要です。
文献
厚 生 労 働 省 ( 2009)「 国 際 生 活 機 能 分 類 - 国 際 障 害 分 類 改 訂 版 - 」( 日 本 語 版 ) の 厚 生 労 働 省
ホ ー ム ペ ー ジ 掲 載 に つ い て http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
河 村 茂 雄 ( 2006 ) 学 級 づ り の た め の Q-U 入 門 . 図 書 文 化 .
武 田 鉄 郎 ( 2008 ) L D , A D H D 等 で 適 応 障 害 の あ る 児 童 生 徒 の 心 理 ・ 行 動 特 性 及 び 支 援 体
制 に 関 す る 研 究 報 告 書 . 科 学 研 究 費 補 助 金 基 盤 研 究 ( C)( 研 究 代 表 者
武田鉄郎
研究
課 題 番 号 17530706 )
武田
6
鉄郎
事例1
ICF 使った指導計画の作成
~小学校低学年の高機能広汎性発達障害の疑いのある児童を対象として~
7
1.対象児童の実態
主訴
自閉的な傾向がある本児は、1 年生のときには、みんなと一緒に教室で授業を受けられる
ようになってきたが、2 年生になって、注意の持続が短く姿勢保持ができない、落ち着きが
ない、課題の遂行が困難などの学校生活での困難さが目立つようになってきた。また、友
達との関わりでは、少しずつ良い関わりがとれるようになってきたが、友達とトラブルに
なり、パニックになる事も多く、教室を飛び出してしまう事もある。集団の中で行動する
事に非常に緊張感が高まりその反動が攻撃的な行動に出るようである。
学習面の実態
一斉指導の中では、課題に対する理解が困難で、担任の個別の声かけが必要である。国
語では、板書を写す事にとても時間がかかり、書く事に対して困難さが見られる。また、
物語文では、登場人物の気持ちを言葉で表現する事も難しい。算数では、繰り上がりの足
し算で間違いが多く見られる。しかし、紙に計算式を書くと、時間はかかるが、間違いが
少ない。先生と一対一での個別指導では、課題を最後まで頑張る事が出来る。音楽では、
歌を歌ったり、楽器を使ったりする演奏に苦手意識が高く、学習に参加しようとしない。
情緒・行動面の実態
何か新しい活動に取り組む時や、時間割が変更されると、とても不安が高く、落ち着き
がなくなり、常に担任の側にいようとする事が多い。また、自分の気持ちを表現する事が
できない時、それがストレスとなり、友達とトラブルになったり、教室を飛び出す事もあ
る。また、課題ができない時にも、不安を抑える事ができず、教科書を投げたり、教室を
飛び出したりする。
8
2.ICF による実態分析
高機能広汎性発達障害の疑い
心身機能・身体構造
言語理解の能力に困難がある。
周りの空気を読むことが難しい。
落ち着きがない。
注意機能に困難さがある。
こだわりが強い。→自分の好きな色しか使わない
感情のコントロールをすることが難しい
活動
1 学期にできた事が 2 学期にできない事がある。
☆「九九」が暗唱できないが、九九表を横に置くと計算
間違いをしない
自分の気持ちを言語化することが困難
宿題を一人で最後までやりきる事ができない。
書くスピードは遅い。
わからなくなると教科書を投げる
☆コミック会話を用いれば、自分の気持ちを表現するこ
とができる
姿勢保持ができない。
場面に応じた言葉づかいや行動を行う事が難しい。
参加
自分の気持ちを伝えられない事から友人とトラブルを起こしやすい。
パニック後、散歩等のタイムアウトを行えば気持ちが安定する
課題ができなかったり、自分の納得のいかない事があると教室を飛び出し
たり課題を拒否したりする。
集団の中に入り一緒に活動することがかなりのプレッシャーになり、その
反動が行動に出る。→運動会の練習等
楽器演奏が苦手なために音楽の授業に参加できない
☆やることがパターン化されている活動(掃除、当番等)では、意欲的に取
り組むことができる。
環境因子
家庭
愛情不足
母 19 歳で出産
1~2 歳まで母と離れて暮らす
駄々をこねることはなく
寂しい時涙をためていた。
家族構成
父、母、2 歳の弟
両親の理解を示すが、家庭での
支援は乏しい。
担任と家庭は連絡を密にしてい
る。
学級の様子
通常学級に在籍
パニックを起こしても周り
ははやし立てたりしない
グループ活動の時、友人は A
君が活動に参加できるよう
に声かけをよくしている。
パニックになり教室を飛び
出した時は、校長が対応して
くれる。
担任
担任を信頼している
→不安な課題の前や問題行動を
起こした時でも担任の先生と
コミック会話で気持ちを表現
できれば安心できる。
担任との関係はうまくいってい
る
→個別に声かけ・丁寧な説明を
し、指導すると、理解するこ
とができる。
担任の先生がいないと不安が
る。
友人
自分から友達を誘って遊ぶ
事はないが、誘われると仲間
に入る。
☆友達とトラブルを起こし
ても自分の非を認めること
ができる。
個人因子
WISC-Ⅲ
FIQ 85 VIQ 82 PIQ 92
CBCL
臨床域 不安/抑うつ 注意の問題
境界域
問題
引きこもり
非行的行動
身体的訴え
社会性の問題
思考の
攻撃的行動
何か新しい事を行う時は不安が高い。
帰属スタイル
課題ができなかった時は、自分の能力が足りないと思い込む
ことが多く、自信をなくしがちである。
自己効力感
成功体験が少なく、新しい課題に取り組む事に自信がなく、
時間がかかる
自尊感情が低い。
9
3
一次予防
問題の発生と悪化の予防
一般的な予防
学級
学校
家庭
・スケジュール(一日、一週間、一か月)を時間割表(板書)やプリント
・職員全体で学級や児童の様子を伝
・学校・学級便りなどで、学校での
などで知らせる。
え合い、情報を共有する。
取り組みを知らせる。
・大事なことは言葉と共に視覚支援教材を用いて、わかりやすい提示を行
・友達関係に配慮して学級編成を行
・家庭訪問、懇談会などで保護者か
う。
う。
らの願いを聞きニーズを把握する。
・コミュニケーションルールや自分の気持ちを伝える方法を考えたり話し
・学校(担任、特別支援コーディネ
合ったりする機会を作る。
ーター、学校長等)を中心にして支
・自分のことや友達のことについて伝えたり、話し合ったりする機会を作
援体制を充実する。
る。
・学級活動で友達の「良いこと発見」をして一人ひとりの良さを認め合う
関係を作る。
・学習につまづきが見られる児童に対して個別に対応する機会を設ける。
選択的な予防
二次予防
・「気持ちシート」使って自分の気持ちを伝える方法を知らせる(顔の絵、
・リソースルーム(気持ちを落ち着
・学校や家庭での出来事について、
感情の言葉カード、文章が書けるカード)
かせることができる場所)を確保す
電話や連絡帳を通じてやり取りする
・全体に指示した後、個別に本児のわかりやすい方法で伝える。
る。
など担任と保護者との連携を密にす
・本児のことを学級全体で理解するようにする。
・個別対応ができる支援体制を整え
る。
・褒めたり、みとめたりする機会を増やす。
ておく。
・家庭でも褒める事を増やす。
適用根拠のある
・トラブルが起こった時は、言葉や気持ちシートなどを使って、自分の気
・リソースルーム(気持ちを落ち着
・学校(担任、特別支援コーディネ
必要な予防
持ちを表す事ができるよう促す。
かせることができる場所)を確保す
ーター、学校長等)と保護者と懇談
・パニックが起こった時は場所を移動して落ち着かせ本児の言い分をしっ
る。
を行い、方針を決める。
かりと聞き気持ちを受け止める。
・個別対応ができる支援体制を整え
・コミック会話を用いながら出来事を振り返らせ自分の行動に気付き、省
ておく。
みることができるようにする。
・校内委員会を開き、現在の支援方
法を再検討する。
三次予防
問題による二次
・本児との関係が十分取れている教師が中心となり、本児の言い分を聞い
・専門機関に相談をする。
的な社会的不利
てサポートを行う。
・校内委員会を開き、支援体制の確
益の予防
・応用行動分析から指導の方略を導き出し、実施、経過観察を行う。
認と新たな支援について検討する。
10
・関係機関に相談し、連携を図る。
4 個別の指導計画
作成日
平成
年
月
日
児童名
生年月日
A
年
平成 14
○ 月
○ 日
満
(第 2 学年 男・女)
8 歳 ○ヵ月
1.教育的ニーズ
1)通常学級教員
・自分の気持ちを表現できる。
・皆と一緒に集団活動に参加することができる。
・最後まで諦めずに課題をやりとげる事ができる。
・言葉を書く事や話す事ができる。
3)保護者・児童
・自分の気持ちや表現を言葉で表現できるようになってほしい。
・困った時やわからない時は、自分から聞けるようになってほしい。
・途中で諦める事なく、最後までできるようになってほしい。
2.心理検査の結果
検査名
実施日
結果
WISC-Ⅲ
CA
CBCL
総得点
: 7 歳 0 ヶ月
83
T 得点
75
FIQ
: 85
内向尺度得点
28
VIQ
: 82
VC
: 82
FD
: 79
PIQ
: 92
PO
: 95
PS
: 80
内向 T 得点
77
外向尺度得点
22
外向 T 得点
68
WISC-Ⅲ:学校で習うような一般的な知識は、身についている。また、時間の流れにそって物事を考えたり、結果を予測する力
を持っている。しかし、言葉で答える問題は、全般的に単語一語で答えていた。また、
「ここ」
「あそこ」というような答え方が多く
見られた。
「算数」の問題がわからないというところから「言葉を使う、理解する」というところに困難さが考えられる。
「数唱」で
所見
の課題から、
「覚えておく」という事にも苦手さが見られる。
「符号」で作業に時間がかかる事や、
「記号」では筆圧が強過ぎている事
から、書く事の苦手さも考えられる。また、注意を向けておく時間の短さや、しなければならない事が何かという指示に従う事が苦
手かもしれない。したがって、学習場面では、絵や図を使う事も必要だと考えられる。そして、言葉での説明は、やさしい言葉で丁
寧に、短くきって説明することが好ましい。
3.授業・生活場面での実態(チェックリスト項目を学習・行動の場面別に分類)
授業名
実態把握
・登場人物の気持ちを言葉で表現する事が難しい。
・文字を書く速度が遅く、声かけが必要である。
国語(書写)
優先度
◎
○
学
習
算数
・繰り上がりの足し算、繰り下がりの引き算が正確にできない。
・計算するときに時間がかかる。
・1対1の個別の指導を行うと頑張る事ができる。
面
・歌を歌う事は好きではない。
・楽器の演奏は苦手意識が強く、参加しようとしない事が多い。
音楽
・自分のイメージした色や形ができないと、途中で投げ出してしまう。
図工
学
・新しいゲームや運動を行う時、不安が高く、すぐに活動に参加できない。
体育
習
面
その他
11
◎
行
動
場面
行事、集会等
教室
授業、行事等
〃
〃
〃
遊び、行事等
〃
遊び、授業等
〃
遊び、行事等
〃
〃
遊び、授業等
〃
授業、行事等
学校生活全般
面
4.支援の場と支援体制
支援の場
1)
通常学級
2)
特殊学級/通
級指導教室
3)
学校全体
4)
専門機関等
5)
家庭
6)
その他
実態把握
・自分がやりたい事をうまく表現できず、からに閉じこもって
しまう。
・取りかかりが遅く、教師の声かけが必要である。聞く力が弱
い。
・自分から友だちの中に入っていく事ができず、声をかけてく
れるのを待っている事が多い。
・新しい課題を行う時、スムーズに入れない。
考えられる要因
優先度
・対人関係
◎
○
◎
・対人関係・コミュニケーション
・相手の気持ちを考えた言動が難しい。
・新しい事を行う時に、不安が高い。
・周りの雰囲気や状況や判断が苦手である。
・周りの雰囲気や状況判断ができない。
担当者
支援体制等
担任・TT 担当・専科・介護員・教育補助員・学級の協力的な児童
特殊学級担任・通級指導教室担当・介護員・
生徒(生活)指導担当・養護教諭・スクールカウンセラー・
病院・児童相談所・適応指導教室・保健所・
医者・相談員・カウンセラー・心理士・特別教育支援士
母親・父親・家庭教師・スポーツコーチ・
12
学年会、校内支援委員会
個別の指導計画2 作成日 H22. 1月 12日
児童生徒名
A
5.目標・指導の内容・手立て・評価
目標
指導の内容
手立て
指導場面
自分の気持ちを言葉 相手に自分の気持 自分の気持ちを伝え 学校生活全般
や絵で伝えることが ちを伝える方法につ たい時には、口で言
できる。
いて知る。
う・言えなかったら文
字や絵で表し伝え
る。(気持ちシート)
担当者
期間
評価 具体的な進歩や改善すべき点
学級担任・学 開始日
級の児童たち
評価日 年 月 日
本児の言い分をしっ 取り出し指導
かりと聞き、気持ち
を受け止める。その
後、絵や文字を用い
ながら話をし、どうす
れば良かったのか
気づかせ、省みるよ
うにする。(コミック会
話)
あらかじめ、集団行 学校生活全般
動を行う前に、予定 特別活動
を話しておき、不安
を軽減する。グルーフ
作りに配慮し、1人
でいる子には声かけ
するように促す。
学級担任
開始日
評価日 年 月 日
学級担任・学 開始日
級の児童たち
評価日 年 月 日
最後まであきらめず できたという達成感 授業の課題や順番 学校生活全般
に、課題をやり遂げ が味わえるように、 などメモ書きし、先の
ることができる。
少し考えたらできる 見通しを持ちやすく
ような内容をする。 する。 スモールステップ
で行う。できたらほ
文字を書くことや話 ひらがなを書く練習 楽しく取り組めるよう 取り出し指導
すことができる。
や言葉で話す練習 にゲームなどを取り入
をする。
れるようにする。
学級担任
開始日
評価日 年 月 日
学級担任
開始日
評価日 年 月 日
友達とのトラブルが
あった時に、好まし
い対処行動を身に
付ける。
みんなと一緒に集団 みんなで一緒にやっ
活動をすることがで て良かったと思える
きる。
経験を増やす。集団
行動でのルールを理
解させる。(ロールプレ
イ・テリングストーリー)
13
5
考察
担任の主訴を元に、A 児の実態を様々な角度から把握するために校内委員会を開き、支援方法
を考えた。その際、A 児に関わる全ての教員が、A 児の実態を共通理解し、支援の一貫性を持た
せるために、ICF による実態分析を行った。
ICF
個人の困難さとして「自分の感情を表現する事がうまくできない」「見通しを持てない事に
対して不安がある(新しい事、自信のない事)」「集団活動で不適応」の 3 つの問題点が見え
てきた。そして、この困難さが、自尊感情や自己効力感の低下に影響を与えていると考えられ
た。環境要因として「愛情不足」「周囲の友達も A 児の気持ちをうまく理解できていない」等
があり、それらも A 児にとって学級での様子に影響していると考えられた。学校での対応を考
えていくうえで、A 児の実態を客観的に分析する事が必要であるため、アセスメント(WISC-Ⅲ、
CBCL(TRF))を行った。
WISC-Ⅲ
学校で習うような一般的な知識は、身についている。また、時間の流れにそって物事を考え
たり、結果を予測したりする力を持っている。IQ を見ると、動作性 IQ が言語性 IQ よりも高い
事から、視覚優位である事がわかった。したがって、学習場面では、絵や図を使う事も必要だ
と考えられる。また、反対に聴覚情報から情報処理する能力に弱さが見られる。よって、言葉
での説明は、やさしい言葉で丁寧に、短くきって説明することが好ましい。
CBCL(TRF)
不安/抑うつ、注意の問題が臨床域にある。これらのアセスメントから、学校生活において A
児の認知特性や対人関係の形成の困難さが不安や緊張を高める要因となり、それらが、学習面
と行動面の困難さに影響を与えていると考えられる。よってこれらの問題が続くと、非行的行
動や攻撃的行動、不登校等の二次障害に発展する恐れがある。
A 児に対する支援
A 児に対する支援は、武田のモデルによると、一次予防の一般的予防、選択的予防と二次予防
の段階から考えられる。一次的予防の一般的予防として、学級経営の段階で、一人ひとりの良
さを認め合う関係づくりを行った。また、A 児に対しては、一次予防の選択的予防として、対人
関係への支援として、「気持ちシート」を使って自分の気持ちを伝える方法を知らせるように
14
した。また、トラブル時などには、A 児の気持ちを落ち着かせる事のできるリソースルームの活
用や個別対応ができる支援体制を整えるようにした。学習面の支援として、A 児の視覚優位の認
知特性に合わせて、できるだけ絵や図、写真などの具体物を使って説明したり、言葉での説明
は短く、丁寧に行うようにした。今後は、A 児の言語発達を促すために、自分で体験することを
増やして、動作と言葉を結びつけたり、言葉の意味をカードにする事で語彙を増やしていく事
も必要である。また、漢字は意味も一緒に教えたり、特徴を言葉で言ったりして覚えるような
支援を考えられる。二次予防での対人関係の支援として、A 児がトラブルを起こした時や不安そ
うな様子が見られた時に、コミック会話を用いて、A 児の気持ちを表現させる手助けや、自分の
行動を振り返る事ができるようにした。
これらの支援を行う事で、担任との一対一のコミック会話で、気持ちを表現する経験を通し
て、様々な生活場面においても、自分の気持ちを表現する事ができるようになってきた。また、
周囲の子ども達も A 児に対して、優しく接するようになった。A 児の感情表現の力がついた事と
学級の親和的な雰囲気が良好な関係性を築く事に繋がった。
今後の課題
A 児は対人関係において良好な関係を築けつつあるが、よりコミュニケーションの力を向上さ
せていく必要がある。学習場面では、視覚支援に加えて、言語発達を促すために、語彙、ひら
がな、漢字を豊かにしたり、活用できるように支援する事が必要である。そのため、個別の指
導計画を再評価し、より A 児のニーズに即した計画を立て直す必要がある。また、A 児の実態を
教職員全体で把握し、支援の一貫性を持たせるために用いた ICF が、うまく活用されておらず、
一部関わっている担任と専科による支援が主になっている。そのため、コーディネーターを中
心に校内委員会を開き、再度 A 児についての情報を共有し、支援の方策を立てていく必要があ
る。担任以外に個別に対応できるような体制づくりを検討する。また、家庭との連携をこれま
で以上に密にし、学校と家庭での支援方法の一貫性を持たせる事も大切である。
コミック会話の例
15
16
17
通常の学級における
「困り感」のある児童への支援
~「グレーゾーン」の A 児の事例より~
18
1.A 児のプロフィール
・小学校5年生(男子)
・家族・・・父、母、兄(中学1年生)
・診断は受けていない。
LD,ADHD の傾向あり
主訴
学習面・・・学習に対する苦手意識から、意欲が乏しい。
言語理解、表現が苦手である。「聞く」・「読む」に著し
い困難がある。
計算は出来るが、推論を要する問題は難しい。
行動面・・・課題への集中時間が短い。
高いところに登るなど危険なことを平気でする。
自分の持ち物の管理、整理整頓ができない。
対人関係・・・自己中心的な言動が目立つ。
友達と仲良くしたいという思いはあるが、友人関
係をうまく築けない。
19
2.ICF による実態分析
健康状態(ADHD,LD 傾向)
困難の発生する要因は?
心身機能・身体構造
活動
参加
・注意を向けて話を聞けないが、興味
があることは聞ける。
(注意機能の問題)
・課題に集中する時間が短い。
(注意機能の問題)
・感情をコントロールすることが難し
い。(情動機能の問題)
・言語受容と表出の困難さ。
(言語に関する精神機能の問題)
・読むことが苦手である。
・リコーダーの演奏に躓きがある。
・必要な物をなくしたり、壊したりし、忘れ
物が多い。
・危険な行動を平気でする。
・給食当番や掃除などの仕事がきちんと
できない。
・ルールを守れず、自己中心的な言動の
ため、友達とのトラブルが生じる。
・運動会の練習や卒業式の練習
など集団での活動が困難で、ス
トレス要因となる。
・授業中、挙手をせずに発表して
しまうなど、学習のルールを守
れない。
環境因子
個人因子
・ 担任は特別な支援の必要性を感じているが、一斉指導の中
・自尊感情が低く、学習意欲が乏しい。
・学習面でのアンバランスが目立つ。
・注目欲求が強い。
・周囲の友達との差(社会性・思考の問題)が目立つ。
・人を求めているが、人との関係をうまく築けない。
・反抗的な面がある。
で、個に応じた適切な支援ができているとはいえない。
・クラスメートは本児の特性を理解しているが、遊び仲間は
少数で限られている。
・学校にリソースルームがなく、人的資源が乏しい。
・両親は共働きで、父は関わりが薄く、母は子どもへの理解
はあるが、関わる時間が少ない。
20
21
文部科学省のチェックリストの結果
(行動面「不注意」「多動性―衝動性」
)
22
23
24
TRF:子どもの行動チェックリスト(教師用)の結果
25
3. 問題の発生と悪化の予防
支援の場
支援レベル
一
次
予
防
二
次
予
防
三
次
予
防
学
級
学
校
家
庭
一般的な予防 ・学級目標を掲げ、一貫性のある指導をする
・校内委員会を設置する
・学校だよりで学校の取り組みを
・発達障害についての研修を行う
・学級でのルールを明確に掲示する
伝える
・視覚支援教材を取り入れる
・児童の実態把握をする
・学年だより、学級だより、学級懇
ex:掃除当番や、給食当番のグループごとの手順カードで
・児童や学級の様子を伝え合い
談会等で学級の様子や取り組みを
視覚提示する
情報を共有する
伝える
ex:一日の生活に見通しを持たせる(1時間ごとのスケジュール・学校生活のルールを明確化し、
・保護者のニーズを把握する
で提示する)
共通理解を図る
・教室の前面はすっきりさせておく(学級の掲示物は教室の
・環境整備(どこに何があるか、何を置け
後ろにできるだけ集める)
ばよいかが一目でわかりやすいように
・わかりやすく、楽しい授業(学習規律・リズムとテンポ・指示は 構造化の工夫をする)
簡潔に・教材教具の工夫)を行う
・友達の心を傷つけない個を認め合う学級づくりを目指す
(「ふわふわ言葉」、「ちくちく言葉」の活用)
選択的な予防 ・座席の位置・グループ構成メンバーを配慮する
・校内委員会で支援体制について検討 ・連絡帳や家庭訪問などで保護者
・子どもの言動などに対して、肯定的な見方を心がける
する
との連絡を密にする
・指示を個別に伝達する
・個別の指導計画を作成する
・学校での対応について理解を促し
・活躍できる場をつくる(得意な体育の係で出番を設定する)
・リソースルームを確保する
家庭での関わり方、ルール作り等
・専科担当、委員会担当などの教師集団による行動観察を
・関係機関と連携を図る
を提案し、実行してもらう
行い、共通理解及び一貫性のある支援を目指す
・クールダウンする場(リソースルーム)の活用
・コミック会話やソーシャルスキルトレーニングを取り入れる
・日々の記録を行い、指導経過から、課題を検討する
・学級での話し合う機会を持ち、周囲の理解を図る
適用根拠のある ・成功体験を積み重ね、自尊感情を高める
・校内委員会で支援体制の確認と新た ・学校、関係機関と連携して、
必要な予防 ・約束ノートをつくり、ポイントカードを活用する
な支援について検討する
懇談を行い、方針に沿った関わり
・取り出し指導をする場、クールダウンする場として、リソース
・リソースルームの確保と個別対応で
をしてもらう
ルームを活用する
できる人的配置をする
・コミック会話やソーシャルスキルトレーニングを取り入れる
・関係機関に相談する
・学級で本児のことについてよく話し合い理解を深める
・本児の心身状態の把握に努める
・関係機関に相談し、連携を密にする
・学校、関係機関と連携し、
問題による
・校内委員会で支援体制の確認と新たな 理解をさらに深めて、適切な関わ
二次的な社会的 ・支援員等が本児のサポートをする
支援について検討する
りをしてもらう
不利益を防ぐ ・学級で本児の状態を伝え、さらに理解を深める
・リソースルームを本児の1つの居場所
とし、個別対応をする
26
4. 個 別 の 指 導 計 画
長期目標
短期目標
①英語活動の授業
で積極的に取り組む
意欲的に学習に参 ことができる。
加することができる。 ②短いリコーダーの
曲を最後まで演奏す
ることができる。
手立て
①「絵入り単語カード」
を釣りゲームで取り入
れる。
②「リコーダーサポート
シール」と「カラフル運
指表」を使い、リコー
ダーの練習をする。
行や段落を混同せ 「一行スリット」を使っ
教科書をつまずかず
ずに読むことができ て、音読の練習をす
に音読できる。
る。
る。
①授業の中でスリーヒ
授業のスリーヒント ントクイズを取り入れる
クイズの時間や朝の ②クラスで話を聞く時
集中して話を聞くこと 会・終わりの会で先 のルールを明記した
生や友達の話を集 「気づきカード」を示
ができる。
中して聞くことができ す。
る。
算数の「面積の求め
集中して課題に取り 方を考えよう」で、求
組むことができる。 め方を考え、立式す
ることができる。
社会的に不適切な
クラスでの「みんな
言動をしないよう、自
遊び」に楽しく参加
分の感情をコント
することができる。
ロールできる。
自分の持ち物の管
理や身の回りの整
理整頓ができる。
連絡帳、学年だよ
り、学年通信や宿題
セットを家に持ち帰
り、母親に見せるこ
とができる。
27
ヒントカード、3ステップ
プリント(難易度の異な
る学習プリント)や「らく
らく図形セット」を取り
入れる。
「みんな遊び」のルー
ルを事前に確認し、
「約束ノート」と「ポイン
トカード」を活用する。
机の横に「整理ボック
ス」を設置し、終わりの
会の前にランドセルに
入れるように声をか
け、習慣づける。
A 君の「困り感」
学習面・・・学習に対する苦手意識から、意欲が乏しい。
言語理解、表現が苦手である。「聞く」「読む」に著しい困難がある。
行動面・・・課題への集中時間が短い。
自分の持ち物の管理や身の回りの整理整頓がうまくできない。
対人関係・・・幼い自己中心的な言動が目立つ。
友達と仲良くしたいという思いはあるが、友人関係をうまく築けな
い。
手立て
① 「絵入り単語カード」を釣りゲームで取り入れる。
② 「リコーダーサポートシール」と「カラフル運指表」を使い、リコーダーの練習を
する。
③ 「一行スリット」を使って、音読の練習をする
④ 授業の中でスリーヒントクイズを取り入れる。
クラスで話を聞く時のルールを明記した「気づきカード」を示す。
⑤ ヒントカード、3ステップ学習プリントや「らくらく図形セット」を取り入れる。
⑥ 「みんな遊び」のルールを事前に確認し、「約束ノート」と「ポイントカード」を活用
する。
⑦ 机の横に「整理ボックス」を設置し、終わりの会の前にランドセルに入れる
ように声をかけ、習慣づける。
その後・・・
② 英語活動では、得意の釣りゲームで意欲的に活動に参加できた。
②「リコーダーサポートシール」を使って、『オーラリー』を最後まで演奏することが
できるようになり、学年集会でもクラスのみんなと合奏ができた。
③「一行スリット」を繰り返し使い音読することによって、参観日の『わらぐつの中の
神様』の音読発表会では、自信を持って発表することができた。
④スリーヒントは最後まで聞き、意欲的に答えられた。朝の会・終わりの会での自分
勝手な発言が少なくなった。
⑤ヒントカードや3ステップ学習プリントは自分で選んで取り、問題に取り組むこと
ができた。
⑥「みんな遊び」でのトラブルが少なくなり、友だちからも認めてもらえる場面が
見られた。A 児の日記にも「みんなあそび、たのしかった。」と書かれていた。
⑦学年だよりと学級だよりを家に持ち帰り、母親に見せることができた。
28
A君の「困り感」への手立て
• 学習に対する苦手意識から、意欲が乏しい。
「 絵入り 単語カ ード 」 で釣り ゲームを 取り 入
れる 。
英語学習
1
• リコーダーの演奏に躓きがある。
・リ コ ーダーのそれぞれの穴の
周り に、 ク ッ シ ョ ン 性のある 素
材で 作っ たド ーナツ 型のシ ール
を 貼り 、 指で 穴を ふさ ぎ やすく
する 。
・ それぞれの「 リ コ ーダー・ サ
ポート シ ール」 に色を つけて お
き 、 運指表を シ ールの色に対応
さ せて 作り 、 運指を わかり やす
く する 。
「 リ コ ーダーサポート シ ール」
と 「 カ ラ フ ル・ 運指表」 を
使い、 リ コ ーダーの練習を する 。
2
29
• 読むことに著しい困難がある。
「一行スリット」を使って、
音読の練習をする。
一行ずつを
ク ロ ーズア ッ
プ し て、 読み
取り やすく す
る。
3
・聞くことに著しい困難がある。
見える部分では
答えがわかりに
くいように穴を
空ける。
授業の中でスリ ーヒ ン
ト ク イ ズを 取り 入れる 。
動物の名前
漢字カード
を示す。
4
30
• 幼い自己中心的な言動が目立ち、先生の話
や友達の発表を聞くことができない。
ク ラ スで話を 聞く 時のルールを 明
記し たカ ード を 掲示し たり 、
「 気づき カ ード 」 を そっ と 見せる 。
5
活動中、 個別にA君を 注意する と き は、 こ れら の小さ な
「 気づきカード」 を 、 そっ と 見せる な ど し て 、 気づき を
促すこ と も 効果的だっ た。
手のひらサイズ
聞こう
しずかに
目を見て
6
31
・課題への集中時間が短い。
「 ら く ら く 図形セッ ト 」 を 使っ て、
面積の簡単な求め方を 考える 。
A
A
B
C
B
C
D
D
7
みんなで決めよう
・友達と仲良く
したいという
思いはあるが、
友人関係をう
まく築けない。
①多数決
③じゃんけん
④ゆずりあう
決まった意見には、したがう。
サッカーがやり
たかったけど、
まあいいか
「みんな遊び」
のルール
その1
②あみだくじ
私はトランプ
ドッチボールが
え~おにごっこが
の方がいい
したかったんだ
いいのに・・・
な・・・
~!
みんなで決めたことで、楽しく遊ぼう!
8
32
• 自分の持ち物の整理整頓ができない。
「整頓ボックス」を机の横に置き、終わりの
会の前に、自分の荷物をランドセルに入れ
る習慣をつける。
9
33
6.考察
通常の学級で学ぶ A 児への特別な配慮・支援
A 児を含めた学級全体のインクリュージョンに向けた取り組みという視点に
立った支援の方法を考察する。
学校教育法の一部改正(2007 年 4 月施行)に伴い、特別支援教育が法的な根
拠を持って開始された。
「指導についての計画又は家庭や医療、福祉などの業務
を行う関係機関と連携した支援のための計画」であり、児童のニーズによる「個
別の指導計画」
・
「個別の教育支援計画」の作成により、通常の学級における「困
り感」のある児童生徒に対して、特別支援教育と発達障害の問題が位置づいた。
本事例の「グレーゾーン」とは「医師による診断や専門家による判断をされ
ていないが,行動観察やチェックリスト等の間接的アセスメントにおいて困難
が見られる児童の状態像」と定義する。
「勉強ができるようになりたい」「わるいことをしないようにしたい」「友達
と楽しく遊びたい」という A 児の願いを踏まえ、今後は知能検査の個人内差等
により科学的に考察していきたいが、今回は間接的なアセスメントから本児の
自尊感情を高める支援を考えた。
まず、ICF による実態分析から困難の発生要因が見えてきた。心身機能、身
体構造として、注意機能の問題、情動機能の問題、言語受容と表出に困難を抱
えていることが気になった。個人因子では、自尊感情が低く、学習意欲が乏し
いこと、学習面でのアンバランス、人を求めているが人との関係をうまく築け
ないことなどが挙げられた。環境因子としては、適切な学習支援の必要性や校
内体制の機能がうまく行われていないこと、家庭での両親との関わり方の問題
が浮かび上がった。
文部科学省のチェックリストでは LD 傾向(
「聞く」「読む」)に著しい困難が
あり、ADHD(不注意優勢)傾向という結果が出た。LDI-R でも LD の可能性
が高いという判定が出た。
TRF の結果は、社会性・思考・注意の問題、非行的行動、攻撃的行動が臨床
域に達し、不安や抑うつは境界域にあることから、早期支援が必要とされる。
これらを総合的に判断すると、「問題の発生と悪化の予防」(武田モデル)の
二次予防の段階と考えられる。
A 児は運動能力に優れるという良い面も持ち合わせているにもかかわらず、
それが自己肯定感に繋がっていない。そこで、学習面においても「できた」
「わ
かった」という成功体験を味わい、自尊感情を高めるための教材・教具の開発
34
に取り組んだ。これは A 児だけでなく、クラスのすべての児童の視点に立つユ
ニバーサルなものである。
さらに、A 児が安心して学校生活を過ごすためには、リソースルームの設置
と A 児の関係性に配慮できる人的資源を確保し、個別学習も考慮することが望
まれる。
また、保護者との対話と共同も重要である。学校での困難な状態だけでなく、
運動など得意な面も活かしていくことも伝えるなど、保護者との共感を目指し
ていきたい。A 児の多動性・衝動性は学年が上がるにつれて低下しており、家
庭での困難さは少なくなってきているが、集団の中で個別の指導計画に基づい
た適切な支援を行うために、関係機関との連携も必要である。
しかし、教育現場では通常の学級に在籍する本児のような「グレーゾーン」
の児童のケースでは、知能検査実施に至らず、家庭が関係機関と繋がらないこ
とも多いと思われる。そのような場合は、クラス全員で行う読み書きスクリー
ニングテストや児童のノートや作文、テストの誤り等を丁寧に分析し、認知特
性を明らかにすることも有効である。これは「グレーゾーン」の児童だけでは
なく、クラス全員への支援にも繋がる。
これからの支援として、まず早急にケース会議を開き、担任だけでなく学校
全体の包括的な支援体制に切り替え、A 児の「困り感」を共有することが挙げ
られる。そして、ICF モデルからクラスや家庭の環境の調節を図るとともに、
WISC-Ⅲを実施・解釈し、より得意分野を伸ばす方法を考えていかなければな
らない。TRF では支援の早期介入の段階に入っていることから二次予防に努め、
学校全体の「開かれた問題」として共通理解を深めることが大切である。担任
や保護者に加え、クラスの仲間の協力体制の下で、A 児の希望や意見を尊重し
ながら、社会性の向上とソーシャルサポートによる対人ストレスの軽減を図っ
ていきたい。
学校側には A 児の事例を含め、特別なニーズに合った支援の教育的なプログ
ラムの構築に努めることが求められる。
「グレーゾーン」の A 児の支援を考えて
いくことは、すべての児童の学習やソーシャルスキルの獲得に向けたユニバー
サルな配慮・支援にリンクするという今後の方向性が見えてきた。
35
事例3
中学校で通常学級に在籍する
ADHD と診断され、LD(読み書き)の疑いのある生徒の指導事例
36
1.実 態
・対象児
中学校で通常学級に在籍する1年生男児
・主訴
医 療 機 関 で ADHD(不 注 意 優 勢 型 )、 LD(読 み 書 き )の 疑 い が あ る と 指 摘 さ れ た 。 別 の 医 療
機 関 で 行 っ た WISC-Ⅲ の 結 果 は 、 FIQ が 90 で 視 覚 優 位 。 自 己 肯 定 感 が 低 く 、 感 情 の コ ン
トロールに問題が見受けられる。
・概要
小学校での様子
小 学 校 入 学 ま で 健 診 で は 発 達 に つ い て 問 題 は な く 、小 学 生 で は 通 常 学 級 に 在 籍 し て い た 。
しかし、5年生頃、学習の遅れが目立ちはじめ個別指導を担任から提案されたが、本人は
拒否し、教師に反抗的な態度をとりだした。
中学校での現状
A は通常学級に在籍している。クラスの子どもたちからは好かれ、休憩時間には友だち
と一緒に遊んでいる。また、スポーツ系の部活に所属していたが、行かなくなった。家庭
よりも学校にいるときの方が落ち着いている。最近は深夜までゲームに熱中し、登校日数
が減少傾向にあり、遅刻も多い。
学習面に関しては、読み書きが苦手で学習意欲が低い。学習の遅れが目立つため、学校
からは特別支援学級への入級を進められ、母親は入級に同意している。しかし、A は障害
者に対する偏見が強く、特別支援学級への入級や個別指導を受け入れることができない。
・家庭環境
家族構成は、父・母・妹・A の 4 人家族。
父親は、これまで子どもの養育に関して無関心であった。しかし最近、A のソーシャル
ス キ ル ト レ ー ニ ン グ (以 下 SST)に 付 き 添 っ て 行 っ た り 、 子 ど も の 養 育 に 関 し て 関 心 を 持 ち
だした。
母親は、A とどのように関わっていけばよいのか不安に思い、A は母親に対して反抗的
である。
妹 は 小 学 校 3 年 生 で 、 自 閉 症 で 特 別 支 援 学 級 に 入 級 し て い る 。 よ く 兄 ( A) と け ん か を
する。A は、障害のある妹と自分とを区別し、差別的な態度をとる。
・今後の見通し
A への今後の支援の見通しとして以下の 6 点が考えられる。
①基本的な生活習慣を確立し、遅刻・欠席日数を減らす
②A の認知特性に合わせた指導方法を分析する
③自ら興味・関心を持てる科目を見つける
④実態に合わせた個別課題プリント学習等を行う
⑤自尊感情を高め、A の興味・関心の幅を広げる
⑥学年全体で A の情報を共有し、共通理解を深める
保護者への支援として以下の 3 点が考えられる。
①様々な機関に相談し支援の方向性が見えないので、相談する機関を整理する
②家庭との連絡を密にし、学校での状況を保護者に伝える
③家庭での取り組み(トークン、子どもの良さを認める)をサポートする
37
ICF による実態分析
*→良い行動
健康状態
・→課題となる行動、その他
LD、ADHD(不注意優勢)の疑い
心身機能・身体構造
・注意機能の困難さ
・読み書きの困難さ
・情動機能の困難さ
環境因子
家庭
父親
*今までは障害に理解を示
さず厳しく接してきたが、
最近は関係機関の SST に
参加する等変化してきた
母親
・子どもの養育についてあ
らゆる関係機関(病院、支
援学校の教育相談、障害者
センター等)に相談してい
る
妹
小 3(知的障害、自閉症)
支援学級に入級している
活動
・授業に対する意欲がかなり低い
*授業はおとなしい
・勉強の内容が理解できていない
・テストは白紙(名前すら書かない)
*休憩時間は特定の友だちとボール
で遊ぶ
*近所の友だちと遊ぶ
・ゲームが好きで、オンラインゲー
ムをしている
学級の様子
*担任との関係は良い
*学校のほうが落ち着いて
いる
*友達と遊ぶことができる
*学級内に仲のいい友達が
いる
学校
担任
母親は家庭で気になること
を毎日電話で報告する
*学級活動の時間に活躍し、
周りから肯定的に評価さ
れる場面を設定する
コーディネーター
*外部の専門機関との窓口
となる
養護教諭
*クールダウンしに来たと
きに受け入れる体制を作
る
スクールカウンセラー
*母親に対する心理的なケ
ア
参加
*中学校では通常学級に在籍
・登校日数減少気味
・遅刻増加
・スポーツ系の部活に所属しているが怪我をきっかけに行かなくな
った
・本人が支援学級への入級を拒否している
*友達と一緒に遊びたい
*関係機関の SST に参加することができる
*学校の行事には参加できる
その他
SST 実施時の様子
・終始、暗い顔つき
SST で「うれしい感情の表現」
を得点(100 点満点)で表現す
る練習
ロールプレイングゲームをク
リアーした時→50 点
友達にいっしょに遊びに行こ
うと誘われた→50 点
かわいい女の子と話をした→
30 点
お手伝いをしてほめられた→
20 点
先生にほめられた→20 点
最新のミニカーを買ってもら
った→10 点
次回の SST には「来たくな
い」
38
個人因子
小学校
通常学級に在籍
・個別指導は本人が拒否
・高学年の時には教師に対して反抗的だった
中学校
・障害児・者に対する偏見がある
・自分が障害者であるといあるというレッテルを貼ら
れることに対して抵抗感を感じている
・うれしい、楽しいなどの感情表現が豊かではない
・母親対して反抗的な態度をとる
薬(ストラテラ)の服薬を医療機関から勧められてい
るが、本人が拒否している
*興味関心の高いこと(ゲーム)については、ある程度集
中できる。
・注意力が持続しない
*視覚優位、・言語性が低い
・家庭では衝動的に怒りだす
・自己肯定感が低い
*関心のある分野のことに関する複雑な文章は理解で
きる
支援の場
支援レベル
一般的な予防
一
次
予
防
選択的な予防
二
次
予
防
三
次
予
防
学級
学校
・教育環境を整備する。
・予定をプリント等で事前に知らせ
る。 ・学習支援を要す
る生徒に対して、TTや個別に対応す
る機会を設ける。
・自分のことや友だちのことについ
て、話し合う機会を設ける。
・支援体制を整える。教職員全
体が、学級・生徒の様子につい
て情報共有する
・発達障害について研修する。
・生徒の問題行動について、多
面的に原因を考える。
家庭
地域や関係機関
・学校便り等で、学校
での取り組みを知らせ
る。
・個人面談等で学校・
家庭での様子を把握す
る。
・座席の位置やグループ活動のメン ・個別(小集団)での学習の場 ・担任又は特別支援教
バーに配慮する。
を確保。
育コーディネーターと
・個別(小集団)対応ができる 保護者が、学校・家庭
支援体制を整える。
での様子等について連
・スクールカウンセラーと連携 絡、連携を行う。
する。
・相談機関の情報を保
護者に伝える。
・生徒と話し合い、納得した上で、 ・校内支援委員会を開き、支援 ・学校(担任、学年主
放課後等の個別(小集団)学習を行 体制の整備。
任、特別支援教育コー
う。
ディネーター、管理
適用根拠のある ・信頼する教師が話を聞く。
職)と保護者で懇談を
必要な予防
行う。支援について話
し合い、学校の方針に
ついて保護者から了解
を得る。
・生徒の様子や変化について把握す ・学校、保護者、関係機関とケース会議を開催、支援の
る。
方針を決める。
・保護者と連携を密にして、生徒の現状を把握する。
問題による二次的
な社会的不利益を
防ぐ
39
・特別支援学校の教育
相談を利用する。
・関係機関と連携する
・関係機関と連携する
生
活
面
(
学
習
面
実態
・遅刻・欠席増加ぎみ。
・家庭ではゲーム以外に興味・関心がなく生活
リズムが乱れがちである。
・学校では大人しいが家庭では暴力をふるうこ
とがある。
目標
・ゲーム以外に興味関心を
持つ。
・遅刻・欠席を減らす。
・生活リズムを整える。
支援
・家庭と連携して褒める機会を増やし自
尊感
情を高める。(トークンの支援)
・Aが納得した上で覚え書き(遅刻・欠
席を減らすなど)を作成する。
・メンタルフレンドを通して興味・関心
を広げる。
・学習意欲が低い。(答案用紙に名前すら書か
ない)
・注意力が持続しない。
・読み書きが苦手。
・興味・関心のある教科を
みつける。
・自己理解を高めて目標を
設定
し、学習に取り組む。
・机間巡視を通してAとかかわる機会を
増やす。
・個別指導に参加するようにはたらきか
ける。
・視覚的な支援をする。(授業の予定を
事前に黒板に書く、プリントを配布する
など)
・プリント学習を積極的に取り入れる。
・Aが納得した上で覚え書き(興味・関
心のある教科についてスモールステップ
で取り組む)を作成する。
・障害者に対して強い偏見がある。
・特定の友だちとは話ができる。
・相談できる教師を作る。
・言語かできるようにす
る。
・人の個性を認めることが
できる。
・コミュニケーションを取りやすい教師
とかかわる。
・教師間でAについて共通理解をはか
る。
・Aの気持ちに寄り添った言葉かけをし
て言語化をはかる。
)
各
教
科
を
含
む
社
会
性
40
評価と課題
90
85
臨床域
80
75
70
境界域
65
60
55
正常
域
50
45
総得点
外向尺度
内向尺度
TRF(担任)
攻撃的行動
非行的行動
注意の問題
CBCL
思考の問題
社会性の問題
不安 抑/うつ
身体的訴え
引きこもり
40
TRF(教科担当)
子どもの行動や情緒の特徴を客観的にアセスメントする指標としてAchenbach(1991)は、保護者が
記入する CBCL(Child BehaviorChecklist)、自己記入式のYSR(Youth Self Report)、教師が記入す
るTRF(Teachers Report Form)などの質問紙を開発している。今回の事例でこの質問紙を利用し、
教師用TRF、保護者用CBCLの両面から対象生徒の情緒面、行動面などを評価し、分析をおこなった。
CBCL(母親)とTRF(学級担任、教科担当)のデータを見ると、CBCLのデータでは「引きこもり」
「思考の問題」「非行的行動」「攻撃的行動」および「外向尺度」「総得点」が臨床域に達してい
る。TRF(担任)ではすべての項目が正常域である。TRFとCBCLを比較すると「引きこもり」「身体的訴
え」「思考の問題」「非行的行動」「攻撃的行動」の5つの要素で得点に大きな開きがある。「引き
こもり」「攻撃的行動」に関しては学校生活では大きな問題がないため教師から見ると得点が低く
なっている。「思考の問題」では、普段から接する機会が多い母親から見ると認知的に問題がある
認識されているためCBCLの得点が高い。しかし、学校では本人の学習意欲が低いという観点からTRF
の「思考の問題」の得点が低くなっている。「思考の問題」は周囲から見ると問題が表面化しにくい
ため、本人や母親以外からは気付かれることが少なく、注意が必要な要素である。「注意の問題」は
母親および教師(学級担任、教科担任)の両方に得点の相関が見られ、注意力が持続しにくいことが
考えられる。指示の単純化や学習時間など学校現場での配慮が必要である。「攻撃的行動」に関して
は家庭内でのみ暴力行為をおこなうためCBCLのデータだけ「攻撃的行動」の得点が高くなっている。
また、「引きこもり」の得点が高いことから今後、不登校に陥ることも考えられるため学校と連携
し、情報交換を密にしていくことも必要である。
学校での学習に対する関心・意欲は低いが対人関係、社会性には大きな問題が見られないことか
TRFのデータでは境界域、臨床域に達している項目はない。このことからわかるように学校では一見
すると学習意欲が低いという点以外は問題が表面化していなことがわかる。しかし、家庭では自己の
認知的な問題(言語化、感情表現など)を理解してもらえないことなどが原因で引きこもりぎみにな
り、感情表現の一つの手段として攻撃的行動が増加していると考えられる。同時に本人と親子関係の
質の問題からCBCLの得点が高くなっていると推測できる。
以上の結果から学校での学習面の支援だけでなく、家庭での保護者と本人の関係性の改善、自己を
表現できる環境作りや自尊感情を高めることができるような支援が必要である。学校では問題行動は
学習面以外に表面化していないが、家庭での様子を見れば二次障害を呈しているのは明らかである。
また、TRFとCBCLのデータの開きから見ても学校と保護者の子どもに対する認識に大きな開きがあ
る。したがって学校、家庭だけでの支援でなく関係機関と連携した包括的な支援が必要である。
41
がんばりカード
日にち
目標
1
2
3
4
5
6
7
合計
宿題のプリントを1枚
する
5
食器の後片付けをする
4
「おはよう」のあいさ
つを必ず言う
7
忘れ物チェックをする
5
合計
21
1日の自己評価
42
約束は生徒に書かせるようにする。生徒の実態に
応じて約束の数は変えてもいいが、多すぎると約
束を明確に意識できないことがある。生徒自身が
約束を決めて生徒が納得した内容かが重要。先生
が一方的に約束の内容を決めない。
約束(覚え書き)
僕(名前)は次の約束を守ります。
(約束)
1 チャイムが鳴ったら教科書の準備をする。
2 授業中は先生が黒板に赤で書いた所をノートに写
す。
3 宿題は1日1枚、自分の好きな教科のプリントを
します。
(約束を守る場所)学校と家
(誰との約束)A先生とお母さん
( 約 束 期 間 )4 月 1 0 日 か ら
4月15日までです。
(注意点)
① 約束が守れたら好きなマンガが1冊買える。
② 約束が守れなかった時は宿題を2枚にする。
自分ひとりの約束でな
く、先生と生徒の約束
であることを意識させ
る。名前を書いて約束
が成立したら、
先生
平成22年
4月
10日
先生
A先生(先生が記入)
生徒
名前(生徒が記入)
と一緒に頑張ろうとい
う意欲が持てるよう教
師が声かけする。
*この覚え書きは教職員間で内容を共有し、約束が守
れているときは他の先生も生徒を褒める
43
考察
本事例の生徒は授業に対して関心意欲が低く、テストの答案用紙に名前すら書かない状
態である。学校ではおとなしく、友だちや教師とコミュニケーションをとることができる。
大好きなゲームの内容を把握し、複雑な文章表現を理解できる。教師や保護者の行動観察、
知能検査からこの生徒は視覚優位であると推測できる。小学校の段階から視覚支援が行わ
れていたら、ここまで学習に対する意欲は低下しなかったと思われる。
中学入学後、学年の教師集団の「気づき」から A の実態の調査、家庭との連携がはじま
り、そこから家庭内での問題も見えてきた。明らかに A は二次障害の段階になっていると
推察される。CBCL 検査の結果や ICF の作成から、A の実態や環境が整理され、支援の方
向を定め、理解度に合わせた個別もしくは小集団での学習を行うことで、自信をつけるこ
とが必要と分析された。ところが思春期という時期を考慮し個別での学習は難しいのが実
情である。
CBCL の結果や生活の実態から「まず登校すること」、
「自分のしんどさを話せる大人(教
師)を作ること」
、
「自己認識を高め自己の課題を知る」が課題である。この生徒に限らず、
集団のなかでプライドを傷つけずに支援を行う方法を考え、今後、学年の教師を中心に具
体的な支援を行いたい。
本事例ではセンター的役割を担っている特別支援学校の特別支援教育コーディネーター
や教育相談と地域の学校のコーディネーターとが中学校入学後早い段階から連携し、関係
機関との連絡調整をおこない情報を共有することで一貫した支援をおこなうことができた。
しかし、このようなおとなしい児童生徒や診断が下されていないグレーゾーンの子ども
はつい見過ごされがちであり、支援開始が遅くなることが多い。小学校の早い段階からの
「気づき」と支援のスタートの必要性を改めて考えさせられる事例ではないだろうか。
44
開発した教材
45
教材名(領域)
対象
めあて
教材の説明
『魚釣りゲーム』
小学校低学年・中学年
・
・
・
・
目と手の協応動作を高める。
具体物を使って操作性を高める。
ゲームを通して具体物と文字のマッチングができる。
具体物と数字のマッチングができる。
・子どもの好きなキャラクターやイラストなどを使って魚釣りができます。マグ
ネットで操作できるので、操作性が未分化な子どもでも簡単にゲームに参加でき
ます。
・ゲームを通して釣った魚の絵とひらがなのマッチングができます。
【準備物】
・太い棒と細い棒(プラスチック、スチール製)
マグネット、ひも、ビニールテープ(赤と白)、クリップ
【作り方】
①棒にひもをつける。
②長い棒の先とひもの先にマグネットをつ
ける。
③短い棒(ペッタンコ棒)の先にマグネット
をつける。
【使い方】
①釣り竿(長い棒)を使って魚釣りができま
す。ひもで魚を釣ることが難しい時にはペッ
タンコ棒で魚を釣ることができます。
②釣った魚を生徒が発表します。その後カー
ドの裏に書いてある文字を確認します。
③カードの裏の生き物の生活などについて子
どもたちと話し合う。
③釣り終わったら魚の数を数えて数の多い、
少ないを確認して順位を発表します。
指導のポイト
その他
・初めは子どものモチベーションを高めるために釣り竿やペッタンコ棒を使い分
けて魚が釣りやすいようにします。
・川や海の生き物の名前を覚えることで、子どもの言語能力が高まり、言葉の世
界が広がります。
・生き物の名前と姿をマッチングさせながら、カードの裏の解説をもとに生き物
の生活について子どもたちと話すことができます。
・釣った魚の数を数えて具体物と数字のマッチングができます。
46
教材名(領域)
対象
めあて
ひらがなパズルゲーム (国語)
小学1年生~大人まで(入学前でもひらがなが読めたらできる)
読 み書き に困難の ある子 ども、語 彙が少 ない子ど も、ひ らがなな どの文字が
覚えにくい子どもが意欲的に楽しみながら習得できる。
教材の説明
【準備物】
・ 9㎝× 6㎝くら いの大 きさの紙 を80 枚用意し 、次の ような文
字や絵を
描く 。(「 あ 」 ~ 「 ん 」 までのひらがな50音 、「 ゛ 」「 ゜ 」 「 ゃ 」「 ゅ 」「 ょ 」
「っ」各4枚 、「ポケモンカード 」(どんな絵で
もよい)6枚程度)
・作った言葉を書く用紙(記録用紙)
【ゲームのやり方】
① 2、3 人のグル ープを 作ります 。最初 にカード を1人 5枚ずつ 配ります。
残 りのカ ードは中 央に伏 せて積ん でおき ます。順 番を決 め1番目 の人は、積
んだカードから1枚取ります。
② 手持ち のカード と合わ せて、単 語がで きたら自 分の前 に並べま す。単語が
できない時は、パスします。
③できた単語を記録用紙に書き写します。
④横に得点を書きます 。(清音のみは1点、それ以外は2点)
⑤ 一度使 ったカー ドはど けておき ます。 手持ちの 5枚の カードから減った分
は補います。
⑥ポケモンカードが出た場合、何の文字にでも置き換えられます。
⑦順番にカードを取り、言葉を考えていきます。
⑧中央のカードがなくなったり、時間がきたら終了します。
⑨ 得 点 を 計 算 し 、 勝 敗 を 決 め ま す 。( 特 に 順 位 を 決 め る 必 要 は あ り ま せ ん 。
その場に応じて対応するようにします 。)
47
指導のポイント ・清音のみの言葉と「゛ 」「゜ 」「ゃ 」「ゅ 」「ょ 」「っ」が入った
その他
言葉では得点が違うのでできるだけ高い点数になるように意識し
て言葉作りができる。
・配るカードの枚数や得点などはねらいに応じて変える。
・発達段階に合わせていろいろな使い方ができる。
(例 )・50音に並べる。
・先生が読み上げた文字を取る 。(例1)
・先生が読み上げた単語を素早く正確に並べる。
・カードを人数で分配して、それを使っていくつの言葉が作
れるか競い合う。
・ひらがなカードをカタカナカードに変える 。(例2)
(例1)
(例2)
48
教材名(領域)
対象
めあて
『月・日・曜日カレンダー』
小学生(番号の順番を想像しにくい自閉症生徒)
・
「今日は」何月、何日、何曜日なのか一年を通して確認できる
・月、日の見通しをもつことができる
・数字に関する知識を持つことができる
教材の説明
① 実際のカレンダーでの一カ月の日の並びを通して、
「日」を表している白
いカードをカレンダーに貼る。「今日は何月、何日、何曜日ですか」に応
えて、
「月」を表している黄色いカードと「日」を表している黄色いカー
ドをカレンダーに合わせて貼る。
② 月が変わったら、白い「日」のカードの位置を変更する。
【準備物】
画用紙、色画用紙(黄色)
、厚紙(両面白色)、
マジックテープ(粘着タイプ)
、蛍光ペン
【作り方】
① 画用紙を縦に2つに分ける。小さい部分
は「月」
、大きい部分は「日」を表す。
「月」
部分には、12ヶ月を表示できるように
縦に12等分し、ペンで「1月」から「1
2月」まで書く。
「日」の部分には、1週
間の曜日を表示できるように横に7等分
をし、ペンで「月」曜から「日」曜まで
書く。そして、1ヵ月の「日」を表示で
きるように縦5×横7にマスができるよ
うに表をつくる。
② 画用紙の12ヶ月(A)のところの上に
マジックテープを付ける。色画用紙で、
12枚のカードを(A)と同じ大きさで作成する。ペンで「1月」から「12
月」まで書き、後ろにマジックテープを付ける。
③ 「日」のマス(B)の上にマジックテープを付ける。画用紙で、
(B)と
同じ大きさに31カードを切る。ペンで「1」から「31」まで書いて、
後ろと上にマジックテープを付ける。色画用紙で、31枚のカードを(B)
と同じ大きさに切る。ペンで「1」から「31」まで書いて、後ろにマ
ジックテープを付ける。
指導のポイト
その他
【指導法】
・毎日、朝の会の時、生徒に「今日は何月、何日、何曜日ですか」と質問して、
生徒は、カードで答える(言語でもう一度確認しても良い)
。
・番号や一カ月の日や一年間の月を勉強の時、カードで練習する。
【補足】
・カレンダーの使い方に慣れたら、黄色の「月」カードを貼っておいて、実際
のカレンダーの日を見ながら、白い「日」カードを貼る。
49
教材名
『九九覚えマグネット』
(領域)
(小学校 算数)
対象
めあて
小学校2年生~
九九を覚えにくい児童や発達障害のある児童が、ポケモンのキャラクターとい
う興味のある視覚支援を使い、楽しく覚えることができる。
教材の
説明
・
「1」の段から「9」の段までのポケモンマグネット81枚を底板のマグネッ
トにはり、
「九九」を唱えながらポケモンマグネットをひっくり返していく。
【準備物】
・マグネットシート(底板用、かける数・かけられる数用、九九の答え用)
・ラミネートしたポケモンのキャラクター、数字を印刷した紙
【作り方】
・片面粘着シールのついたマグネットを2枚はり合わせる。
・2枚はり合わせたマグネットの両面に、数字の紙とラミネートしたポケモン
のキャラクターをはる。
・かける数、かけられる数(1~9)の紙を、マグネットシートにはる。
【指導法】
指導の
・算数の学習の際机上にセットして、一斉指導または個別指導で使用する。
ポイト
・九九の学習の過程または習熟を図るために用いる。
その他
・九九は小学校2学年で習うが、上の学年で九九が不確かな場合、習熟を図る
ために用いる。
【補足】
・底板マグネットは折りたたむことができる。
・方形マグネットと底板マグネットは袋に入れておくとよい。
50
教材名(領域)
『簡単はさみ』
①握るだけで切れるはさみ
②バネ付きはさみ
対象
知的障害や発達障害のある子ども(特に手先の不器用さからはさみを使う事に
困難さ、苦手意識が見られる子ども)
めあて
指を入れる穴ではさみを使う事が困難な子どもが、はさみを使った作業に興味
を持ち主体的に活動に取り組む事ができる。
教材の説明
① 握る力はあるが、指一本一本が上手く使えず、はさみを使う事が困難な子
どもが、はさみを使い「切る」感覚を経験できる。
主体的にはさみを使う事ができる。
② はさみを「開く」動作が、ばねによってスムーズに行う事ができる。
はさみを「閉じる」→「開く」という作業が困難な子どもが、
「閉じる」だ
けに集中する事ができる。
【準備物】
①はさみ・ハンディ鋸・鉛筆のグリップ・カラーテープ・安全ピン、接着剤
②はさみ・押しばね・接着剤
【作り方】
① (1)ハンディ鋸で、はさみの柄の輪の部分を切りとり、刃と柄が一直線にな
るようにする。
(2)安全ピンをはさみの交差部分に接着剤でつける。
(3)柄の部分に、安全ピンを包み込むように鉛筆のグリップをつける。
→柄の部分に、好みに合わせてカラーテープ等を巻き付ける。
② (1)はさみの柄の 2 つの輪の部分の間に、接着剤で押しばねをつける。
①握るだけで切れるはさみ
指導のポイント
その他
②バネ付きはさみ
【指導】
・普通のはさみを使えるようになるまでの練習用として用いる。
・
「うまく切る」ではなく、「切る」活動を楽しむ事ができるよう配慮する。
【補足】
①握るだけで切れるはさみの柄の部分には、子どもの実態に応じて力が入れや
すいよう、スポンジ等を巻き付けても良い。
51
教材名(領域)
対象
めあて
英語 アルファベットの学習
発達障害(主にディスレクシア児)のある生徒、小・中学生
・アルファベットの形を正しく認識することができる
・モールを使い、正しいアルファベットの形を作ることができる
教材の説明
・ディスレクシアの子どもは黒板や紙に書かれたアルファベットを視覚的にとらえる
よりも、モールなどを使い立体的に形をとらえる方が習得しやすいといわれている。
・上記のほかにモールを使う利点は、①1 つのアルファベットを作るにも様々な作り
方があり(写真①参照)、生徒の豊かな創造性を育むことにつながる、②手先の巧緻
性を高めることにつながる、③生徒が主体的に授業に取り組むことが出来る、④準備
や後片づけが短時間で出来る、⑤何度も繰り返し使うことが出来ることである。
【準備物】
アルファベットの形をしたブロック(市販されている物、写真②参照) モール
【作り方】
・長さの異なるモールを用意する
1本のモールをね
写真①
写真②
じったり、曲げたり
2 本のモールをね
じり合わせている
指導のポイト
その他
【指導法】
1.ブロックの形を視覚と触覚を使い正しく認識する。
2.モールでアルファベットを作り正しく形を認識できているか確か
める。
3.数種類の色のモールを使い筆順や曲線になっているところはきちんと認識できて
いるかを確かめる。
4.ノートに書く。
【補足】
・単語を覚えるのが苦手な生徒にはこれを応用し、指導することもでき
る。
53
教 材 名 (領 域 )
対象
『分類別に整理できるお道具箱』
盲学校小学部や発達障害のある子ども
めあて
・盲学校や発達障害のある小学生や片づけが苦手な子どもにも対応
できる分類別に整理ができる。
教材の説明
・盲学校では少人数学級での学習が主で、棚にコーナーを設けるこ
とで、持ちものの管理をひとりでできるようになる。
・時間割の変化に対応できる。
【準備物】
ビデオテープの空きケース
ケース
(プラスチックのかご)
【作り方】
・ビデオテープの空きケースに点字のシールを貼る。
・発達障害のある子どもには好きなキャラクターなどのシールを貼
るなど工夫をする。
・筆箱などが入るスペースを作る。
指導のポイト
その他
【指導法】
・教科の時間割にあわせてケースを移動できることを伝える。
・ケースに教科書を入れて、整理整頓をする習慣をつける。
・必要な教科書や学用品の管理がひとりで出来る。
【補足】
・ビデオケースなどの廃物利用(エコ)の視点からも利用できる。
・お道具箱は透明な箱なので外からでもよく見える。
教材名
(領 域 )
リ コ ー ダ ー ・ サ ポ ー ト セ ッ ト ①『 リ コ ー ダ ー ・ サ ポ ー ト シ ー ル 』
②『カラフル・運指表』
(音
楽)
対象
小学校3・4・5・6年生
(LD な ど 、 手 先 の 不 器 用 さ か ら 運
指が思うようにできず、リコーダーの演奏に苦手意識のある児
54
童)
めあて
・正しい運指をおぼえて演奏ができる。
・空気が漏れないようにリコーダーの穴をふさぎ、それぞれの
音階の音を出すことができる。
教材の説明
①・リコーダーの足部管、中部管のそれぞれの穴の周りに、ク
ッション性のある素材で作ったドーナツ型のシールを貼り、指
で穴をふさぎやすくする。
②・それぞれの『リコーダー・サポートシール』に色をつけて
おき、運指表をシールの色に対応させて作り、運指をわかりや
すくする。
【準備物】
① ・ EVA フ ォ ー ム (ク ッ シ ョ ン 性 の あ る 素 材 )・ 両 面 テ ー プ
【作り方】
① ・ EVA フ ォ ー ム (ク ッ シ ョ ン 性 の あ る 素 材 )の 片 面 に 、 両 面 テ
ープを貼る。
②カラフル・運 指
表
・リコーダーの穴の大きさに合わせて、ドーナツ型に切り取
る。
・それぞれに油性マジックなどで色を塗る。
①リコーダー・サポートシー
・リコーダーの足部管、中部管の穴に貼る。
ル
指導のポイント
【指導方法】
・『 リ コ ー ダ ー ・ サ ポ ー ト シ ー ル 』 を 貼 っ た リ コ ー ダ ー で 、 ド か
ら音階を順に吹いてみる。
・軽く押さえても、空気が漏れないことを確かめながら、シー
ルの感触に慣れる。
・『 カ ラ フ ル ・ 運 指 表 』 で 運 指 を 確 認 し な が ら 、 も う 一 度 吹 い て
みる。
【補足】
・運指に慣れて、手や指の動きがスムーズにできるようになっ
たら、
『リコーダー・サポートシール』を、中部管のシールから順に
はがして、もとの状態に戻す。
55
教材名(領域)
対象
めあて
教材の説明
『覚え書き(約束)
』
小学校低学年・中学年・高学年、中学生、高校生
・ 基本的な約束を守ることができる。
・ 主体的に日常生活、学校生活を送ることができる。
・ 約束を言語化し、自己理解を深める。
・学校や家庭で問題行動を起こす児童生徒が自分で約束決めて主体的に学校生
活が送れるようにするための支援。また、問題行動を起こした時の罰則として
だけでなく、気になる子どもに対して予防的な支援としても有効。
【覚え書き(約束)作成の手順】別紙参照
① 先生もしくは保護者と約束を決める。その際、守れる約束を生徒から提案
させる。受け入れることが難しい提案でも一度受け入れて紙に書く。
② 生徒から約束の提案が無い場合や無理な約束が多いときは教師から生徒が
守れそうな約束を提案する。
③ いくつか書いた約束の中から生徒に守れそうな約束を選ばせる。この時重
要なのは教師が選ぶのでなく、生徒が納得して自分で約束を選ぶことが大事。
④ 約束が決まったら「いつ」「どこで」「誰と」約束を守るか確認しながら生
徒に書かせる。
⑤ 約束が守れた時のご褒美、守れなかった時の罰則を生徒と決める。
⑥ 最後に生徒、先生が名前を書き、日付と約束を守る期間を記入する。
⑦ 生徒に約束を読ませてから、この約束の内容で良いか確認する。
「自分で決
めた約束だから先生と一緒に守れるように頑張ろう」などと声をかける。
指導のポイト
その他
【指導法】
・生徒が書いた覚え書き(約束は)朝の職員朝礼などで担任以外の職員に知ら
せ、教職員全員で共通理解をはかる。
・約束が少しでも守れている時は、担任以外の教職員も褒める。
(トークンの支
援と併用して使うことも有効)
・1日終わったら、具体的に守れていた事実を褒める。
(小学校低学年などは大
げさに褒めるのも有効だが、思春期を迎えた中・高生には逆効果になる場合が
あるので注意する)
・家庭と連携してできた事実は保護者にも褒めてもらう。逆に家庭で出来たこ
とがあれば学校で褒めて生徒に自信を持たせる。
・約束の期間が終了したら具体的にできたことを褒める。できなかったことは
どうすればできたか生徒が考える機会を設けて、次回の支援に活かせるように
する
・生徒に期間の延長や他の約束が守れるかなど考えさせて、次の覚え書き(約
束)支援につなげる。
【注意点】
・今まで問題行動を起こしていた生徒は約束を破ることが多いので、1回約束
を破ったからといってすぐ罰則を与えるのでなく、イエローカードを提示した
り、担任と秘密のサインを決めておいて生徒が間違いに気がつくことができる
ように支援する。
56
約束は生徒に書かせるようにす
る。生徒の実態に応じて約束の数
は変えてもいいが、多すぎると約
約束(覚え書き)
僕(名前)は次の約束を守ります。
束を明確に意識できないことがあ
る。生徒自身が約束を決めて生徒
が納得した内容かが重要。先生が
(約束)
一方的に約束の内容を決めない。
1
チャイムが鳴ったら教科書の準備をする。
2
授業中は先生が黒板に赤で書いた所をノートに写す。
3
宿題は1日1枚、自分の好きな教科のプリントをします。
(約束を守る場所)学校と家
(誰との約束)A先生とお母さん
(約束期間)
4月10日から
4月15日までです。
(注意点)
①
約束が守れたら好きなマンガが1冊買える。
②
約束が守れなかった時は宿題を2枚にする。
平成22年
自分ひとりの約束でなく、先生と生
徒の約束であることを意識させる。
4月
10日
先生
A先生(先生が記入)
生徒
名前(生徒が記入)
名前を書いて約束が成立したら、
先生と一緒に頑張ろうという意欲
が持てるよう教師が声かけする。
*この覚え書きは教職員間で内容を共有し、約束が守れているとき
は他の先生も生徒を褒める
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教材名(領域)
対象
めあて
『らくらく図形セット』 (算数)
小学生
面積の色々な求め方を考える際、具体物を操作し、視覚的に捉えること
により、簡単な求め方を考えることができる。
教材の説明
・ゴムの線を動かすと、複雑な図形を簡単な図形に変形させることができ、
面積の求め方を考える手立てとなる。
【準備物】
網目ラック、カラーゴムバンド、モール、クリップ
A
線 AC は赤いモールをのせ
て固定している。
この写真では点 A、B、C、D
は赤いゴムバンドをクリップ
C
D
B
で固定しているが、実際は点
B、D は固定せず、 の方向へ
手で動かして考えるとよい。
A
三角形 ABD という1
つの三角形に変形させる
ことができ、底辺8cm、
高さ4cmの三角形の面
B
D
C
積として考えると、簡単
に求めることができる。
指導のポイト
その他
・網目ラックの 1 マスを 1 ㎝四方として考えさせる。
(実際は 3.5 ㎝四方で
あり、大きいので視覚的に図形を捉えやすい。)
【補足】
・それまでの学習内容にある三角形や平行四辺形の面積においても、
「底辺
が同じ長さで、底辺に垂直になっている高さも同じであれば、面積は等し
くなる。
」ということを考える手だてとなる。
58
教材名 (領域)
対象
めあて
『スリーヒントクイズカード』
(国語、英語活動等・・・
「聞く」)
小・中学生
ヒントになる視覚支援教材を取り入れて、楽しみながら注意集中力、聴
覚的短期記憶力をつけることができる。
教材の説明
封筒の穴から見える動物についての3つのヒントを最後まで聞かせて、
答えを考えさせる。例えば、英語活動(高学年)の場合なら、羊(sheep)
のヒントは、
「①It’s white. ②It lives in New Zealand,
Australia, Europe and so on. ③We make wool from it.」
と説明し、
「What’s this?」と問いかける。大きな世界地図を掲示して
それぞれの国の位置を示し、白い wool の毛糸を見せながら説明すると
効果的である。各学年、児童の特性に応じて、カードとヒントの内容を柔
見える部分で
は答えがわか
りにくいよう
軟に変えて使用するとよい。他の教科(例えば、社会科の歴史上の人物の
絵や写真カードにするなど)でも活用できる。
【準備物】動物写真カード(A4 版)、漢字カード(中・高学年用)
、封筒
に、穴を工夫し
て空ける。
指導のポイント
・3つのヒントを全部聞いてから挙手するなどのルールを守らせる。
・授業時間の初めに短時間の集中力ウォーミングアップとしての活用も考
えられる。また、朝の学習や学級会のお楽しみ会等に取り入れてもよい。
59
教材名(領域)
対象
めあて
教材の説明
『トークンエコノミー(がんばりカード)
』
小学校低学年・中学年・高学年、中学生、高校生
・ 子どもが目標を持って行動することができる。
・ 学校と家庭が連携して子どもの支援ができる。
・ ターゲット行動を絞ることができる。
・学校や家庭で集団に適応できない、基本的な生活習慣が確立できない子ども
のために目標となる行動を設定し、頑張った行動に対してポイント(トークン)
を与える。目に見える形(トークン)で子どもの頑張りが評価できるものであ
り、目標を達成するための励みになる。
【トークン作成および実施手順】別紙参照
①子どもに身につけて欲しい行動を決める。その行動はほぼできている行動、
少し頑張ればできる行動、身につけて欲しいが現状では難しい行動に分類す
る。最初、目標は少なくても良い。多くても5個ぐらいにとどめておく。
②事前に1週間程度行動を観察し、分類した行動がどの程度できているか確認
する。そのうえでもう一度目標に無理がないか確認し、必要であれば修正を
加える
③目標が決まったら子どもにトークンの説明をして、目標が達成できた時の子
どもの要望を聞く。何点たまれば目標達成になるか子どもと十分に話し合い、
表は家の中で目につきやすい場所に貼る。
③目標が決まったら実行していく。できた行動があればシールを貼り、学校と
家庭が連携してできた事実を褒める。できなかった場合はどうすればよかっ
たか子どもと一緒に考える。できなかったからといって表に×印はつけない。
また、行動によってシールの色を変えたり、得点を変えても良い。
④1週間経ったら得点を合計する。もし、目標が達成できていたらすぐに子ど
もの要望にこたえる。目標まで達成できていなくてもできたことを褒め、次
回達成できるように励ます。
指導のポイト
その他
【注意点】
・達成が難しい行動が多いと子どもがやる気をなくすため、達成しやすい行動
を必ず入れる。
・目標が達成できた時の子どもの要望は高価なもの(ゲームなど)にしない。
毎回、高価なものだと長続きしないので親がいくつか用意したご褒美から選択
させる。
・ターゲット行動ができるようになってきたらポイントシステムを減らしてい
き、ポイントがなくても行動が身に着くようにする。
60
教材名(領域)
対象
めあて
『絵入り単語カード』(英語)
小・中学生
・ 英語に抵抗がある児童生徒に絵入りのカードを提示することで、抵抗なく
学習ができる。
(ゲーム感覚で学習できるようにする)
教材の説明
・ 英語に抵抗がある児童生徒が、絵カードを使用することによって理解を深
めることができる。
・ ただ単に絵カードを使用するだけではなく、ゲームを取り入れることによ
り、遊びながら学習することができる。
【準備物】
・ 画用紙
・ 印刷用紙(単語の写真・単語の文字)
・ のり
・ はさみ
① のゲームには(クリップ・磁石・紐・棒)
② のゲームには(さいころ)
【作り方】
・ 画用紙の表に絵カードを貼り、裏に単語の文
字を貼り付ける
・ 大小に切り取る
・ ①のゲーム…大小の絵カードにクリップ
をつけ、棒に紐、磁石の順に取り付ける
・ ②のゲーム…大小の絵カードを、すごろく
ができるよう並べる。
指導のポイト
その他
【指導法】
絵カードを提示して、視覚的に英語を理解できるようにする。
【補足】
①大小の絵カードを作成し、大きい方のカードの方には★印を1つ、小さい方
のカードには★印を2つ付け、大…1ポイント、小…2ポイントとする。
このカードにクリップをつけ、『魚釣りゲーム』形式にし、ゲーム感覚で単語
を学習できるようにする。
②他にもサイコロの各面に絵カードを貼って、すごろくの要領でサイコロを振
り、とまったところで、絵カードの単語を言ってもらうゲームもできる。
63
教材名(領域)
対象
めあて
教材の説明
『目玉コロコロ』
視覚障害の子ども、眼球運動に困難のある子ども
・ 目と手の協応動作を高める。
・ 眼球の動作性を高める。
・ ゲームを通して視知覚の機能を高める。
・視力があっても視写ができない、本読みに時間がかかる子どもの眼球の動作性
を高めるために使用する。ゲームを通してたのしく眼球運動ができ、クラスの朝
の会や自立活動などでおこなうのも有効。
【準備物】
・透明のプラスチック棒(ビー玉が入る物)
ビー玉、スポンジボール、ビニールテープ
【作り方】
①プラスチック棒に等間隔にビニールテープ
を貼る。
(色は同じ色にしない)
②プラスチック棒にビー玉を入れる。
③プラスチック棒の両端にスポンジボールを
付ける。
【使い方】
①2~3m 離れた距離にプラスチック棒を
持った人が立つ。もう一人は棒の真正面に
立ち正対する。
②棒を動かす人はゆっくりと棒を傾けてビー
玉がどの色の所にあるか声かけをする。
③棒を見る人は顔を動かさずに目だけを動か
してビー玉の動きを追う。
③顔を動かさずに目だけでビー玉を追うこと
ができていたか棒を持っていた人がフィード
バックする。
指導のポイト
その他
・視力はあっても本読みが苦手、視写が苦手ななど眼球運動に困難がある子どが
ゲーム感覚で眼球運動をコントロールする力を養えます。
・朝の会など短時間でおこなうことが可能であり、クラス全員で楽しむこともで
きます。
・作り方が簡単なので子どもでも作ることが可能です。
*この教材は和歌山盲学校特別支援室中屋久司先生のアドバイスをもとに製作
したものです。
64
がんばりカード
日にち
目標
1
2
3
4
5
6
7
合計
宿題のプリントを1枚
する
5
食器の後片付けをする
4
「おはよう」のあいさ
つを必ず言う
7
忘れ物チェックをする
5
合計
21
1日の自己評価
65
シニアアドバイザーによる研修
シニアアドバイザー 社会福祉法人一麦会 麦の郷 理事長 田中 秀樹 氏
場
所
社会福祉法人一麦会 麦の郷 はぐるま共同作業所見学
日
時
平成 22 年 1 月 19 日(火)
参 加 者
和歌山大学教育学部特別支援教育特別専攻科 6 名
和歌山大学教育学部特別支援教育院生
武田 鉄郎 教授
4名
以上 11 名
麦の郷の基本姿勢・提案は「20 歳になったら、地域で独立した生活をおくる。親も自立
する。」である。そのためにどのような「支援」「仕組み」が必要なのか考えていく、多く
の人(公的機関、民間団体)と手をつなぎ地域で支える力を高めていく、と「麦の郷
研
修・見学冊子」には記載されている。田中氏の話の中にも、何度も「みんなで手をつなぎ、
地域を支える」とのことばがあった。キーワードは、「再チャレンジができる」「アウトリ
ーチ(出前サービス)
」
「地域ネットワーク」である。
麦の郷が作業所を立ち上げるまでをモデルとした映画「ふるさとをください」
(ジェーム
ズ三木脚本)でもあったように、障害者の施設を立ち上げることは簡単ではない。麦の郷
では地域の理解を得るために、地域の高齢者福祉問題にも取り組み、積極的に地域交流を
行い、
「地域に必要とされる・地域の誇り」の施設・事業を目指してきた。今や、麦の郷が
ある和歌山市西和佐地区のスローガンは「福祉の街づくりはこの西和佐地区から」、そして
「西和佐の三つの誇り」の一つが「麦の郷」である。
教育関係者として興味深い取り組みが二つある。
まず一つは「生活訓練」である。平成 19 年度高等学校卒業後、大学・短大への進学率が
74.9%であるのに対し、特別支援学校の高等部(専攻科のある盲・ろうの支援学校を除く)
卒業後、進学するのは 1.1%でしかない。一麦会では、障害があるからすぐ就職するのでは
なく、高等部卒業後さらに豊かな青年期を過ごすため、生活訓練事業「結い」を立ち上げ、
2 年間さまざまな活動を通して生活能力の向上をはかり、個々の可能性を広げる活動を昨年
から始めた。
もう一つは、障害者だけでなく不登校児やひきこもりの青年支援の取り組みも、岩出・
紀の川市の不登校児の居場所「ハートフルハウス」を中心に展開している。
麦の郷の支援活動は、障害をもつ就学前の子ども達から高齢者・訪問看護まで多岐に及
び、施設もたくさんある。限られた時間の中、今回は岩橋(いわせ)の本部にある「ソー
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シャルファーム ピネル(就労継続 A・B 型)」の施設を見学した。ここは、病院のシーツ、
白衣、タオル、おしぼりのクリーニングを行っており、県や市の入札業者として登録し、
たくさんの仕事を請け負っている。
田中氏は我々からの質問にも、詳しく答えてくれた。
例えばベトナムからの留学生は「補助金について。
」、小学校教諭である大学院生からは「不
登校児への取り組みについて。
」等の質問があった。
「福祉の現場から学校に望むことは何か」の質問への答えは、
「『みんなで手をつなぎ、地
域を支える』ため、地域の中で、学校として、教師としてできることを見つけてほしい、
何かあるはずだ。
」であった。
短い時間だったが、田中氏の「障害福祉への熱い思い」そして「努力・工夫すればなん
とかなる精神」に感銘を受けた貴重な研修であった。
田中氏から研修を受ける
麦の郷本部(岩橋)
67
ソーシャルファーム ピネル
68
おわりに
昨今、学校現場では発達障害(LD、ADHD、高機能自閉症等)や二次
障害(不登校、問題行動等)の子どもたちが学習内容を理解できない、
集団生活が送れないなど様々な困難を抱えています。しかし、個々の
子どもにとってどういう支援が有効なのか、どういった教材・教具を
使えばいいのかわからないという教師の声が多いのも事実です。
そこで私たち発達障害支援プロジェクトは和歌山大学内の「紀ノ川
学 地域自主演習モデルプロジェクト」を通して、どの子どもにもわ
かりやすい教材・教具の開発と具体的な支援の方策を検討しました。
学級経営から個別の指導までのプロセス、問題発生の予防については
講義(武田教授主催)を通してグループで話し合い、事例検討をおこ
ないました。同時に関係機関との連携や障害のある子どもたちの学校
卒業後の支援について知るために「社会福祉法人一麦会 麦の郷」を
訪問し、障害のある人が作業所や福祉工場で働く様子を見学すること
ができました。また、地域のシニアアドバイザーである田中秀樹理事
長からは障害者や高齢者のためにどのような「支援」「仕組み」が必
要なのか地域とともに考えることが大切であり「みんなで手をつなぎ、
地域を支える」がキーワードであると教えていただきました。
今回、この取り組みをまとめて冊子ならびに CD-ROM 版を配布するこ
とで特別支援教育の普及・啓発をはかるとともに障害のある人たちが
充実した学校生活、社会生活が送れるようになって欲しいと考えてい
ます。
最後になりましたが、貴重な機会を提供していただいた自主創造科
学センターのクリエ様をはじめ、ご協力いただいた教育機関ならびに
編集に助言していただいたみなさまに深く感謝申しあげます。
2010年 2月末 発達障害支援プロジェクト
代表 大沢 共基
副代表 岩田 雅美
【作成協力者(アイウエオ順)】
岩田雅美
大西優香
大沢共基
小宮山和美
脇田真寿美
庄司清弥
関原英嗣
薗部紀子
福間隆
髙岡里衣
NGUYEN THI CAM HUONG 山村佳代
発達障害の子どものための学校支援Ⅱ
―適応に関する実態把握と教材・教具の開発を中心に―
監 修
編集者
印刷所
デザイン
武田鉄郎
大沢共基・岩田雅美
和歌山印刷株式会社
大西優香
国立大学法人和歌山大学教育学部特別支援教育
武田研究室
〒640-8510 和歌山市栄谷930
℡ 073-457-7253
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