ゼロエミッションの布地プリントを目指して(仮訳) 革新的なデジタル捺染システムが日本で開発された。これは、高速かつ精細な染色 のために、コピー機の原理を応用したものだ。さらには無駄な染料や水洗いによる排 水を出さないため、きわめて環境にも優しいという。佐々木節が報告する。 現在、テキスタイルプリントの主流を占めているのは、昔ながらの色糊とスクリーン版 を用いる有版捺染方式である。10 年ほど前からスクリーン版を使用しないデジタルの インクジェット方式も導入され始めているが、その普及率は世界プリント生産量の 数%程度にとどまっている。 インクジェット方式の最大の難点は、その染色スピードの遅さにある。染料を噴き出す ノズルが布地の幅を往復移動していくため、どうしても時間がかかってしまうのだ。ま た、いったん紙に染料を吹き付け、それを布地に定着させる転写捺染方式の場合、イ ンクジェット方式では専用の高価な転写紙が必要となる。 さらには、布帛へのダイレクトプリントの場合、染料インクのにじみを防ぐため布地に 特別な前処理を施さなければならないといった要因もある。 こうしたインクジェット方式の問題を一気に解消したのが、京都市産業技術研究所(京 都府)と長瀬産業株式会社のデナテックス工房(兵庫県尼崎市)との共同で開発され た静電電子写真方式(静電捺染)の捺染システムである。 「この静電電子写真方式の原理は、基本的には、コピー機やレーザープリンターと同 じです。デジタル化された色やデザインを筒状の感光体ドラムに帯電させ、CMYK(シ アン・マゼンタ・イエロー・ブラック)4 色の専用のトナーを転写紙を介して布帛にプリン トしていくのです」こう語ってくれたのは、京都市産業技術研究所の研究担当課長(京 都工芸繊維大学繊維科学センター特任准教授)の早水督氏である。 早水氏によれば、標準的な工程で、洗浄などのために生地 1 ㎡あたりの捺染に使用 される水の量は、従来のスクリーン捺染が約 75 ㎏、デジタルインクジェット捺染が 20 ~30 ㎏なのに対して、この染料トナーを使用する静電昇華転写タイプの場合はゼロ。 染色排水もない。720dpi 以上の解像度にも対応できるため、まるで写真と見まちが えるような高精細な図柄を染色でき、加工速度も毎分 10m と類似の昇華転写タイプ であるインクジェット方式の約5倍程度の速さを実現している。 静電電子写真方式タイプの捺染システムの開発がスタートしたのはおよそ 10 年前の こと。世界でも類を見ない、日本独自の技術を用いたシステムだけに、製品化までの 道のりはきわめて厳しいものだったと早水氏は振り返る。 「紙への直接プリントに用いるのは顔料ですが、布地への染色の場合は染料を使用 し、これを布地に定着させなければなりません。苦労したのは、布地に転写、定着さ せるための、この荷電微粒子を含む染料トナーと安定した転写機構の開発でした。ま た、専用の染料トナーが完成したあとも、紙と違い複雑な凹凸がある布地にきれいに プリントできるまでには、帯電の具合を調整するなど、さらに試行錯誤の連続でした」 2013 年 1 月から販売を予定している長瀬産業株式会社の静電捺染プリンター(転写 捺染方式)“DENATEX-KIP”は、高価な専用の転写紙を必要としないためランニング コストは安くすむ。また、小ロットでのプリントも可能で、専門の工場以外のデザイン事 務所やファッション関係の教育現場で染色生地を作り出すこともできる。 「日本の繊維産業は、新素材の開発分野では世界をリードしていますが、製品の製 造に関しては、コストの問題などもありほとんどが海外で行うようになっています。こ れに対し、静電電子写真方式タイプの捺染システムは、日本発のテクノロジーで技術 者を育み、新たな繊維製品を生みだしていくことが期待できるのです」と早水氏は言う。 現在のところ、静電電子写真方式で捺染できるのは、衣料製品のおよそ半分を占め るポリエステル素材のみだが、将来的には他の素材への適応も可能である。現在さ らに、転写紙を必要とせず、布地に直接プリントできるシステムの開発も進んでいて、 来年中には実用化できるメドも立っている。そうなれば完全なゼロエミッションの捺染 システムとなるわけだ。この新しい静電電子写真方式タイプの捺染技術には日本国 内はもとより、世界中から大きな注目が集まっている。
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