高等学校におけるテーブルコーディネートの指導

高等学校 家庭科
高等学校におけるテーブルコーディネートの指導
指導主事
Ⅰ
黒
川
佳
子
研究の趣旨
現 行 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 に よ り 高 等 学 校 専 門 教 科「 家 庭 」,科 目「 フ ー ド デ
ザイン」に「テーブルコーディネート」が新設された。これは「食の文化的意
味を踏まえて精神的な満足を得るための食事という視点を重視し,作ることか
ら食べるところまでを総合的にとらえて計画・実践できる能力と実践的な態度
を 育 て る こ と を ね ら い と す る( 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 ― 家 庭 編 ― )」こ と に
よる。しかし,これまで家庭科では「栄養・食品・調理」を「食」に関する指
導の中心としてきたため,
「 テ ー ブ ル コ ー デ ィ ネ ー ト 」の 指 導 に つ い て は 研 究 や
実践事例がなく未知の内容である。
そこで,食事の文化的・精神的な意義についての思考や理解を深め,食事を
総合的にデザインする能力と態度の育成を目標とした「テーブルコーディネー
ト」の指導方法について研究を行うこととした。
Ⅱ
研究の概要
1 テーブルコーディネート及び高等学校における指導法の研究
(1) テ ー ブ ル コ ー デ ィ ネ ー ト の 意 味 と 現 状
「テーブルコーディネート」とは日本で作られた用語で,一般的には食事の
目 的 に 合 わ せ た テ ー ブ ル ク ロ ス・食 器・花 な ど の 食 卓 上 の 演 出 及 び イ ン テ リ ア・
照明・音楽など食事をする空間の演出を指す。テーブルコーディネートという
言葉を用いる場合,料理を含める場合と含めない場合が見られるが,本研究で
は「料理も含めた食事の場の演出」という意味で用いる。テーブルコーディネ
ートの作品例は,ホテル,レストラン,百貨店・専門店の食器売り場などで見
ることができる。しかし,これらの作品はその性質
テーブルコーディネート
上,料理が伴わなかったり,一般家庭・学校での実
現が難しい高価な食器などを用いた凝った演出であ
調理実習
ったりすることが多い。このことからテーブルコー
食事の場
栄養
の演出
ディネートはテーブルクロスやナプキン・食器など
食品
献立
を並べることであるという誤解が起きたり,現実の
生活からかい離した印象を持ったりすることが少な
図1「食事の総合デザイン」として
のテーブルコーディネート概念図
くない。
1
(2)
「フードデザイン」におけるテーブルコーディネートの位置づけ
「 フ ー ド デ ザ イ ン 」の 目 標 は ,
「 栄 養 ,食 品 ,献 立 ,調 理 ,テ ー ブ ル コ ー デ ィ
ネートなどに関する知識と技術を習得させ,食事を総合的にデザインする能力
と態度を育てる」とされ,テーブルコーディネートはフードデザインを構成す
る5本柱のひとつである。テーブルコーディネートは前述したように料理(学
校では調理)を含めた食事をする場の演出である。高等学校における調理の学
習は,栄養,食品,献立などを関連付けて行うものであるので,テーブルコー
ディネート自体が食事を総合的にデザインするというフードデザインの目標と
重 な る も の で あ る と 言 え る 。( 図 1 )
本研究ではテーブルコーディネートを「食事の総合デザイン」ととらえ研究
を進めることとした。
(3) 「 食 育 」 へ の 寄 与
平成17年7月に施行された食育基本法の前文においては,
「 食 」を 大 切 に す
る 心 の 欠 如 や 伝 統 あ る 食 文 化 の 喪 失 が 問 題 と さ れ ,「『 食 』 に 関 す る 考 え 方 を 育
て 」,
「 豊 か な 食 文 化 の 継 承 及 び 発 展 」が 期 待 さ れ る な ど ,
「 栄 養 」や「 食 の 安 全 」
だけでなく,
「 食 」の 文 化 的・精 神 的 な 役 割 に つ い て も 言 及 が 見 ら れ る 。こ こ で
も「食」に関する総合力が求められており,テーブルコーディネートは国民的
課 題 で あ る「 食 育 」に 寄 与 で き る と 考
グラフ1 テーブルコーディネート
えられる。
を指導していますか(20校中)
(4) 高 等 学 校 に お け る 指 導 の 現 状
未実施,
7
県内県立高校のうちフードデザイ
実施, 13
ンを履修させている20校に対しテ
ーブルコーディネートの指導状況に
ついて聞き取り調査を行ったところ
グラフ2 どのような内容を
右 の グ ラ フ 1 ,2 の よ う な 回 答 結 果 が
指導していますか
(複数回答 13校中)
得られた。
指導していると回答した13校の
食卓上の小物の製作
ナプキンのたたみ方
う ち 5 校 が ,グ ラ フ 2 に 示 さ れ る 指 導
食器などの配置
内容いずれかを調理実習と組み合わ
食卓のデザイン画
せ て 指 導 し て い る と 回 答 し て い る 。し
フラワーアレンジメント
食卓のカラーコーディネート
か し ,小 物 の 製 作 や ナ プ キ ン の た た み
食器やテーブルクロスなどの選び方
方など断片的な指導が中心であるこ
0
1
2
3
4
5
6
7
校
とがわかる。
(5) 高 等 学 校 に お け る 指 導 の 考 え 方
以上述べたように,テーブルコーディネートは食事に関する総合デザイン力
を 育 成 す る こ と が で き ,食 育 に も 寄 与 で き る が ,業 界 と 学 校 の 現 状 が か い 離 し ,
学校での指導が断片的であることが明らかになった。そこで,食卓構成・食卓
作 法・調 理 実 習・テ ー ブ ル コ ー デ ィ ネ ー ト・会 食 な ど ,
「食事を作ることから食
べるところまで」を組み合わせた現実的な題材を構成し指導を行う必要がある
と考えた。総合デザイン力を育成するためには,総合的な題材による指導が必
要であるという考え方による。
2
2
高等学校における授業実践
上に述べた指導の考え方をもとに,研究協力校で授業実践を行った。
研究協力校 福島県立東白川農商高等学校鮫川分校
実施学年等 2学年フードデザイン選択者12名
実施期間 平 成 1 7 年 1 1 月 ~ 平 成 1 8 年 3 月
(1)
題材構成と授業の実際
表1「クリスマスの食卓」の実際(12時間)
学習内容
ねらい
① 題材1「クリスマスの食卓」
1 テ ー ブ ル コ ー デ ィ ネ テーブルコーディネー
ア 題 材 1 の 実 際 ( 2 時 間 ×6 回 )
・ ー ト の 基 礎 知 識 ,作 品 ト へ の 関 心 と 意 欲 の 喚
生徒になじみ深い行事食から学習
2 鑑 賞 ,ナ プ キ ン の た た 起
み方
を始めるのが良いのではないかとい
3 テ ー ブ ル コ ー デ ィ ネ 西洋料理の食卓構成の
う 考 え か ら ,ま ず ,西 洋 料 理 を テ ー マ
・ ー ト 体 験 ,西 洋 料 理 の 理 解 , 食 卓 作 法 の 習 得
4 食卓作法
と し た「 ク リ ス マ ス の 食 卓 」と い う 題
5 クリスマスの食卓1
西洋料理の献立と調理
材 で 指 導 を 行 っ た ( 表 1 )。 3 ~ 5 名
・ ~献立と調理法~
法の理解
の グ ル ー プ 学 習 と し ,ナ プ キ ン を た た
6 ( ビ ー フ シ チ ュ ー ,シ ー
ザ ー サ ラ ダ ,ブ ッ シ ュ ド
む ( 1 , 2 時 間 目 ), テ ー ブ ル コ ー デ
ノエル)
7 クリスマスの食卓2
食事のテーマにあった
ィネートをした食卓で食卓作法の体
・ ~食卓のデザイン~
食空間についての思考
験をする(3,4時間目)など,体験
と表現
8
9
ク
リ
ス
マ
ス
の
食
卓
3
調理技術の習得,食卓
学 習 を 中 心 と し ,段 階 を ふ み な が ら 指
・ ~ 調 理 実 習・テ ー ブ ル の 表 現 , 食 卓 作 法 の 実
導 を 進 め た 。献 立 と 調 理 法 に つ い て 指
10 コ ー デ ィ ネ ー ト ・ 会 食 践 , 総 合 的 に 食 事 を 考
導 し た 後 ( 5 , 6 時 間 目 ), ク リ ス マ
~
える態度の育成
11 西 洋 料 理 の 献 立 ・ テ ー 西 洋 料 理 の 献 立 と 食 卓
スにふさわしい食卓をまず生徒一人
・ ブ ル コ ー デ ィ ネ ー ト 構成・テーブルコーデ
一 人 が デ ザ イ ン し ,そ の 後 食 器 な ど を
12 の ま と め
ィネートについての知
識の深化
実際に配置しながらグループとして
の デ ザ イ ン を 決 定 し て 行 っ た ( 7 , 8 時 間 目 )。 そ れ ら を 総 合 す る 実 習 と し て ,
9,10時間目には,調理実習をし,テーブルコーディネートした食卓での会
食を行った。
イ 題材1の成果と課題
題材全体を通して,生徒の関心は高く意欲を持って学習を進める姿が見られ
た。題材1開始前と終了後に行った「食事の準備をするときに考えることは何
で す か 」と い う 質 問 に 対 す る 記 述 式 の 回
答 を 分 析 し た と こ ろ ,題 材 開 始 前 に く ら
べ終了後には食事に対する意識の広が
り が 見 ら れ ,特 に「 心 」に 関 す る 記 述 が
増 加 し た ( 表 3 )。 し か し , 表 3 に 示 す
通 り ,こ れ ま で 十 分 指 導 し て き た は ず の
栄 養 に 関 す る 記 述 が 見 ら れ ず ,食 事 の 総
合デザイン力という観点からは課題で
あ る 。( 研 究 協 力 校 で は 1 学 期 に は 家 庭
科 技 術 検 定 食 物 調 理 2 級 受 験 を 通 し ,栄
養 や 嗜 好 な ど を 考 慮 し た 献 立 作 成 を 指 「 ク リ ス マ ス の 食 卓 」実 習 の 様 子( 9・1 0 時 間 目 )
導している)
3
②
ア
題材2「ひなまつりの食卓」
表2「ひなまつりの食卓」の実際(10時間)
学習内容
ねらい
題材2の実際
1 日本料理の食卓構成, 日 本 料 理 の 食 卓 構 成
( 2 時 間 ×4 回 , 1 時 間 ×2 回 )
・ 日本の行事と食事
と日本の食文化への
題材2は日本料理をテーマとした。 2
理解
3 ひなまつりの食卓1
日本料理の献立と調
指導の順序は表2の通りほぼ題材1
・ ~献立と調理法~
理法の理解
と 同 様 で あ る が , 日 本 の 食 の 伝 統 と , 4 ( ち ら し ず し ,は ま ぐ り
のうしお汁,桜餅)
題材1の反省から日本料理の栄養的
5 日本料理の献立と配 日本料理の献立と配
な特徴についてもりこみながら指導
膳・食卓作法
膳 の 理 解 ,食 卓 作 法 の
習得
を 進 め た 。( 表 2 )
6 日本料理の特徴,
日本料理の食材と栄
イ 題材2の成果と課題
・ ひな祭りの食卓2
養 的 特 徴 の 理 解 ,食 事
題 材 2 で は ,7 時 間 目 ,ひ な ま つ り
テーマにあった食空
7 ~食卓のデザイン~
間についての思考と
の食卓のデザインを行う段階で大き
表現
な 課 題 が 生 じ た 。生 徒 一 人 一 人 が 食 卓
8 ひなまつりの食卓3
調 理 技 術 の 習 得 ,食 卓
・ ~ 調 理 実 習 ・ テ ー ブ ル の 表 現 ,食 卓 作 法 の 実
を デ ザ イ ン し ,そ れ を 相 互 評 価 し な が
9 コ ー デ ィ ネ ー ト ・ 会 食 践 ,総 合 的 に 食 事 を 考
らグループとしての食卓のデザイン
~
える態度の育成
10
テ
ー
ブ
ル
コ
ー
デ
ィ
ネ
テーブルコーディネ
を 決 定 す る 時 点 で ,特 に 題 材 1 で 取 組
ー ト の ま と め ,食 事 の ー ト と 食 事 の 意 義 に
みが良かったグループの一部生徒に
意義について
つ い て の 知 識・思 考 の
深化
意 欲 の 低 下 が 見 ら れ た 。ワ ー ク シ ー ト
などの分析から,生徒それぞれが表現したいことがあったのに,グループ活動
では十分に表現できなかったためと考えられる。このグループは5名編成で他
のグループより人数が多い。他グループでは意欲の低下は見られなかったこと
から,グループの人数が多すぎたこと,題材1によって「食卓をデザインする
力」を身に付けてきていたことに対応した指導内容でなかったことが意欲の低
下につながったと考察できる。生徒の実態にあった表現の場を確保していく重
要さを実感した。
題材2終了時の食事に関する意識は,題材1にくらべ「栄養,衛生」などの
面 で 広 が っ た が ,一 方「 心 」に つ い て の 記 述 は 減 少 し た( 表 3 )。生 徒 の 学 習 状
況の観察及びワークシートからは
表3 食事を準備する時考えること(12人中)
この原因を明らかにすることがで
題材1開始前
題材1終了後
題材2終了後
きなかった。
栄養
●●
③ 題 材 3 「 日 常 食 」( 3 時 間 )
味覚 ●●●●●●
●●●●
●●●●●
題材2で一部生徒に意欲の低下
視覚
●
●●●●●●●
が見られたため,それぞれの考え
配膳
●●●
を表現できるよう少人数のグルー
量
●●
●
プに編成しなおし,題材3「日常
効率 ●●
●
●●●
食」を実施した。事前の準備,実
嗜好 ●
●
●
習を含めて3時間しか確保できな
心
●
●●●●●
●
かったため詳しいデータを得るこ
衛生
●●●
と が で き な か っ た が ,「 ク リ ス マ
※「 食 事 の 準 備 を す る 時 ど の よ う な こ と を 考 え ま す か 」と い う
質問に対し,例えば「 味 や 見た目 を考え, 食器を正しく配置
ス」のようなクラス共通のテーマ
し ,楽 し い 食 事 と な る よ う 考 え る 」と い う 回 答 の 場 合 ,
「味覚,
を設定せず実習を実施したので,
視 覚 ,配 膳 ,心 」と 捉 え そ れ ぞ れ 1 ポ イ ン ト( ● )と す る 。こ
こ で い う「 心 」と は「 精 神 的 な 満 足 」に つ い て 言 及 し て い る こ
それぞれのグループで季節を表現
とを指す。
4
するなど工夫が見られた。献立は「和風きのこスパゲッティ,クラムチャウダ
ー,野菜サラダ,果物」である。
「 ひ な ま つ り の 食 卓 」実 習 の 様 子( 8 ,9 時 間 目 )
「日常食」実習の様子
(2) 授 業 実 践 を 終 え て
研究協力員(指導者)は,上記 3 つの題材による実践について以下のように
反省を述べている。
① 生徒にとって難しいと感じられたテーブルコーディネートが,実際の生活
で実践できるものだと生徒が実感を持つようになった。
② 生徒にわかりやすい行事をテーマとして学習を始めたことは,生徒にとっ
て取組みやすかった。
③ テーブルコーディネートに対して,今までの学習に対する取組みにくらべ
積極的な姿勢が見られた。自分自身で考えたり,表現したりする中で試行錯
誤する姿が見られ,思考力・表現力の育成に役立つ。
④ 「食」に関する指導の新しい視点であり,指導者自身が食生活に関する指
導に様々な可能性を発見することができ,今後の展開が広がった。
⑤ テーブルコーディネート及び総合的な題材構成による指導は,食生活の指
導法として活用していく価値がある。
⑥ より実践的な能力と態度の育成には,年間を通した指導が必要である。
⑦ テーブルクロスなどの用具の確保が課題である。
Ⅲ
研究のまとめ
本研究全体としては次のような成果と課題が得られた。
1 成果
(1) 題 材 構 成 に よ る 現 実 的 な テ ー ブ ル コ ー デ ィ ネ ー ト の 指 導 法 の 研 究 と 検
証ができた。
(2) 総 合 的 な 題 材 構 成 に よ る 指 導 で , 食 事 を 総 合 的 に デ ザ イ ン す る 意 識 の 育
成が可能であることが検証できた。
(3) 生 徒 の 関 心 を 引 き 付 け る こ と が で き る 指 導 内 容 で , 思 考 力 ・ 表 現 力 の 育
成に役立つことが分かった。
5
2 課題
(1) 食 事 を 総 合 的 に デ ザ イ ン す る 実 践 的 能 力 と 態 度 の 育 成 に は 長 期 的 な 計 画
が必要である。
(2) 用 具 の 確 保 や 活 用 法 に つ い て は 検 討 が 必 要 で あ る 。
3 テーブルコーディネートの展開の可能性
食事に関する総合デザインとしてのテーブルコーディネートの考え方は,小
学 校 ,中 学 校 ,高 等 学 校 普 通 教 科 で の 食 生 活 の 指 導 や 学 校 給 食 の 指 導 に お い て ,
栄養や調理技術という今までの視点とは異なる視点から児童・生徒にアプロー
チできるという点で有効である。豊かな食生活とは何かを生徒自身が考え,実
践していく力を育成する指導法として活用できるのではないかと考える。今後
さらに活用しやすい指導法の研究を進めて行きたい。
【研究協力校・研究協力員】
福島県立東白川農商高等学校
鮫川分校
教諭
緑川祐子
<参考・引用文献>
高等学校学習指導要領解説―家庭編―(文部科学省 平成12年3月)
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