平成23年7月12日 互いの思いや願いに寄り添いながら、生活の質を高め合う家庭科学習 −実験的活動を軸にした学び合いで、批判的思考を促す− 家庭科部 渡壁 誠 Ⅰ 実験的活動を軸にした学び合いで、批判的思考を促す 昨年度、子どもの実験的活動に向かう意識を高めることをめざし、実験的活動を軸とし た 授 業 づ く り を 行 っ た 。子 ど も が 自 ら 実 験 的 活 動 を 求 め る よ う な 学 習 展 開 を 仕 組 む こ と で 、 仲間との関わり合いが今まで以上に密になり、そこで得た見方・考え方を駆使しながら、 「 自 分 な り の 暮 ら し 方 ( 自 分 の 生 活 に 最 も 合 う 行 為 や 方 法 )」 を 見 出 す こ と が で き る と 考 えたからである。その実践においては、一部の子どもに実験的活動を求める意識が見られ た 。 そ の 子 ど も た ち に は 、「 自 分 の 取 り 組 み に 足 り な い も の は 何 か 」「 こ れ を 確 か め れ ば も っ と よ い 取 り 組 み が 見 出 せ そ う だ 」 と い う 意 識 が 働 い て い た 。 つ ま り 、「 自 分 の 現 状 を しっかりと把握し、そこに明確な根拠のある取り組みを加えていくことで、自分なりの暮 らし方が見出せそうだ」という思考が働いていたのである。そこで、今年度は、さらに多 くの子どもがこのような意識をもつことができることをめざし、次のことを主張点として 実践研究を深めていく。 実 験 的 活 動 を 軸 に し た 学 び 合 い で 、 批 判 的 思 考 *1 を 促 す 実験的活動を軸にした学び合いとは、以下のような学びである。 ① [ ]は個々の思考のプロセス 実験的活動によって、自分が今までもっていた知識と実験結果とのずれを明らか にする[問題への着目] ② 実験的活動で見えた事実をもとに自分の生活を振り返り、今までの自分の行為や 方法を見つめ直し、よさや改善点を考える[問題の特定] ③ 個々の考えを仲間と交流したり、その考えに含まれる「生活の中における行為や 方法の意味」を話し合ったりする[解決の選択肢の検討] ④ 仲間との考えの交流によって得た様々な行為や方法の具体、また話し合い活動の 中で捉えた行為や方法の意味をもう一度自分の生活に照らし合わせ、その時点で自 分にとって最もよい方法を決定する[行動の決定] このような学びの中で、子どもたちは今まで当たり前と思っていた生活の中の行為や方 法 に つ い て 、必 要 感 を も っ て 見 つ め 直 し て い く 。そ し て 、「 ど う し て ○ ○ を す る の だ ろ う 」 「どうすることが自分にとって最善の方法なのだろう」などと個別的で現実的な問いを見 出していく。その問いを解決するために、子どもたちは個々の生活の様子を伝え合いなが ら関わり合い、自分と仲間の生活に対する見方・考え方を比較したり、仲間の生活の様子 を自分に照らし合わせて考えたりしていく。このような思考のプロセスを通して、子ども 一人ひとりに、自分の生活に対する批判的思考を促していくのである。 このようにして批判的思考を促していくことで、子どもたちは生活の中で何気なく行わ れている行為や方法の大切さを強く感じるとともに、その行為や方法を行っている家族の *1 ここでいう 「批 判的 思考 」と は、 物事を 見聞 きし たま ま受 け取 るので はな く、 適切 な規 準や 根拠 に基づく 、論理的 で、 偏りのない思考のことである。欧米では、クリティカルシンキングと呼ばれる。 -1- 気 持 ち や 願 い に 気 付 き 、「 生 活 の 中 に お け る 行 為 や 方 法 の 意 味 」 を 自 分 な り に 捉 え て い く であろう。そして、仲間と関わり合いながら学習を進めていく中で、家庭生活への思いを 膨 ら ま せ 、「 自 分 な り の 暮 ら し 方 」 を 見 出 し て い く で あ ろ う 。 そ の よ う な 姿 が 見 ら れ た と き、学びの実感のある家庭科授業となり、子どもたちは仲間とともに見出した暮らし方を 実践しようと、今まで以上に家庭生活に自主的に関わっていこうとすると考えている。 Ⅱ 提案授業について 題 1 1 ◇ 材 実験を通して考えよう「衣服の整え方」 本単元で求める「学びを実感する子どもの姿」 衣服を快適に着るために、日常生活での手入れの仕方について試行錯誤している 衣服を清潔で気持ちよく着たいという思いを膨らませながら学習に取り組み、洗い方や 干し方などについて試行錯誤している姿である。 2 ◇ 自分の生活に合った衣服の手入れの仕方を選んでいる 手洗い、即時の水洗い、乾きやすい干し方など衣服の手入れの仕方のよさを知り、自分 の生活に照らし合わせて、最も自分の生活に合った手入れの仕方を選んでいる姿である。 3 ◇ 自分の生活に最も合う手入れの仕方を見出すために、仲間と自分の見方・考え方をつ なげて考えている 自分の生活に最も合う手入れの仕方を見出そうと、洗い方や干し方について自分と仲間 の見方・考え方や生活の様子を比較したり関係付けたりして考えている姿である。 4 ◇ 自分の生活に合った手入れの仕方が見出せたことに満足感を味わっている 仲間と共に「衣服を快適に着るために自分にできること」について考え合いながら学習 に取り組んだことによって、自分の生活に最も合う手入れの仕方を見出すことができたと いう満足感を味わい、家庭生活で実践しようとしている姿である。 2 単元について 本 学 級 の 子 ど も は 、学 校 で の 衣 服 の 手 入 れ の 様 子 や 事 前 に 行 っ た ア ン ケ ー ト の 結 果 か ら 、 気持ちよく着ることができるように意識している子どもと、手入れについては家族に任せ きりになっている子どもが見られる。家族に任せきりになっている子どもについては、言 うまでもなく手入れについての関心が薄いが、意識している子どもの中にも、どうしてそ のような手入れをするとよいのかということについては、感覚的なものにとどまり、その 意味を具体的に捉えている子どもは少ない。 本題材は、実験的活動を通して、衣服の汚れ方、洗濯機洗いと手洗いの違い、即時の水 洗いの効果、乾きやすくあとの手入れが容易な干し方について考えていく学習である。子 どもたちは、自分の家庭生活で行われている衣服の手入れの仕方を思い起こしながら、自 分にもできる衣服の手入れの仕方を考えていく。しかし、子どもが日常生活で自分自身に 実践できる衣服の手入れの仕方を見出していくことは容易ではない。それは、家庭生活に お い て は 、「 衣 服 の 手 入 れ を 自 分 で し な く て は い け な い 」 と い う 必 要 感 に 乏 し く 、「 快 適 に着るための手入れの仕方を見出したい」という切実な思いが生まれにくいからである。 そこで本題材では、単元初めの実験的活動を通して、日常生活において自分が思っている -2- 以 上 に 衣 服 が 汚 れ て い る こ と に 気 付 か せ る こ と で 、衣 服 の 手 入 れ に 対 す る 関 心 を 高 め た い 。 そして、実験的活動をきっかけにして、家庭生活で日常的に行われている衣服の手入れの 仕方を見つめ直し、仲間の生活と比較したり関係付けたりしながら、科学的な根拠をもっ て衣服の手入れの仕方を考えていくことができるようにしていきたい。このような学びに よって、子どもたちは、必要感をもって学習に取り組み、衣服を気持ちよく着ることのよ さを感得していくとともに、家庭生活を自分ごととして見つめ直すことにつながっていく であろう。 そこで、以下のような支援により、本題材で求める「学びを実感する子どもの姿」をめ ざしたい。 ○ 一単位時間の授業の導入部分で実験的活動を仕組む 実験的活動を軸にした学び合いをめざす授業では、導入部分で、見えない汚れが見える 実験的活動、手洗いと洗濯機洗いを比較する実験的活動、数日置いた汚れとついたばかり の汚れの落ち具合を比較する実験的活動、干し方の違いによる乾き方や後の手入れの容易 さを比較する実験的活動を仕組む。これにより、それまで自分がもっていた知識と実験結 果のずれを明確にし、自分の生活を明確な視点をもって見つめ直すことができるようした い。 ○ 個々の学びをポートフォリオに蓄積する ポートフォリオとは、生活の振り返り・ワークシート・実験の写真、調べ学習のメモや 切抜きなどを一元的にファイルしたものである。このポートフォリオを見ながら、実験的 活動で見えた事実に対して自分の行為や方法を見つめ直すように促す。そうすることによ り、自分の今までの生活のよさや改善点を考えることができるようにし、話し合い活動の 際に仲間との異同を明確にしながら参加できるようにする。 ○ 発言の際に、実物を見せるように促したり生活経験が表れるように問い返したりする 実験結果から考えたことや実験結果を踏まえた自分の取り組みを発言する際には、実物 を見せるように促したり、その発言の背景となる生活経験が表れるように問い返したりす る。そうすることで、その子どもの考えや取り組みの意図が伝わりやすくなるようにし、 自分の生活に照らし合わせながら、取り組みの選択肢に加えたり、すでにもっている取り 組みの中から理由を明確にして選択したりすることができるようにする。 ○ 生活の行為や方法の具体とそれを行う意図をつなげて板書に表す 子どもたちから出された生活の中の行為や方法の具体と意図を色チョークで示したり線 でつないだりする。それにより、自分の生活と仲間の生活との共通点や相違点を捉えやす くしたり、行為や方法を行うことのよさを意図と併せて捉えることができるようにしたり する。さらに、振り返りの場面では板書をもとに自分の取り組みを考えるように促すこと で、自分の生活に合った衣服の手入れの仕方を明確に見出すことができるようにしたい。 ○ 毎 時 間 の 終 わ り に 、「 仲 間 の 考 え 方 の よ さ 」 を 視 点 に 振 り 返 り を 行 う 毎 時 間 の 終 わ り に は 、そ の 時 間 で 学 ん だ こ と や 次 時 へ の 取 り 組 み の 方 向 性 と と も に 、 「仲 間 の 考 え 方 の よ さ 」を 視 点 に 振 り 返 り を 書 く よ う に 促 す 。そ し て 、仲 間 の「 比 較 す る 」「 関 係付ける」 「 照 ら し 合 わ せ る 」と い っ た 考 え 方 に つ い て よ さ を 感 じ て い る 子 ど も を 見 取 り 、 全 体 に 紹 介 す る 。 こ の こ と に よ り 、 仲 間 の 考 え 方 の よ さ を 全 体 に 広 げ 、「『 自 分 な り の 生 活』を見出すためには、比較したり関係付けたりする考え方が大切だな」という意識を高 めていきたい。 -3- 3 目 ○ 標 洗 濯 の 仕 方 等 に つ い て 試 し た り 、そ の 結 果 か ら 考 え た こ と を 話 し 合 っ た り し な が ら 、 衣服を快適に着るための自分なりの手入れの仕方を見出すことができるようにする。 ○ 衣服の日常的な手入れの大切さを感じ取り、家庭や学校で自分にできる衣服の手入 れを行おうとする気持ちをもつことができるようにする。 4 評価規準 関 心 ・ 意 欲 ・ 態 度 (関 ) 創 意 工 夫 (創 ) 生 活 の 技 能 (技 ) 知 識 ・ 理 解 (知 ) ○衣服の手入れに関心を ○清潔で気持ちよく着る ○ 手 洗 い を 中 心 と し ○衣 服 を 清潔 で気 持ち よく 着 もち、衣服を大切に扱 ための手入れについて た洗濯をすること るため手入れが必要である い、清潔で気持ちよく 考えたり、自分なりに ができる。 ことが分かり,手洗いを中 着るために洗濯をしよ 工夫したりしている。 心とした洗濯の仕方につい うとしている。 て理解している。 5 指導計画 17M(6時間) が本時 学習活動 第1次 学習内容 子どもの意識 衣服の汚れ方を知り、学習の計画を立てる ・ 衣 服 の 手 入 れ に 対 す る 関 心 (関 ) 5 M (2 時 間 ) ・ 衣 服 の 汚 れ 方 、 下 着 の 効 果 (知 ) ・ 自 分 の 生 活 に 応 じ た 着 方 や 洗 濯 の 頻 度 (創 ) 衣 服 の 手 入 れ の 仕 ・ 朝 食 の お か ず 作 り で は 、家 で 家 族 に 食 べ て も ら っ て 嬉 し か っ た な 。 方について、自分 「成長したね」と言われて嬉しかったな。次は洗濯の学習か。僕 の生活を振り返る はお家の人に任せっぱなしだな。朝食作りのときのように、自分 (2M) にできることを見つけたいな。気持ちよく服を着るためにはどん なことが大切なのかな。 見 え な い 汚 れ を 確 ・汗チェッカーを使って調べるのだね。すごい、こんなにも汚れて かめる実験を行う (3M) いるのか。私はあまり汗をかいていないから大丈夫と思っていた けれど、思った以上に汚れているのだな。みんな、特にえり元や 脇のところが汚れているね。やっぱり毎日洗うことが大切だね。 僕は体操服を一週間もって帰らないことが多いな。今度から汗を かいた日にはもって帰ることにしよう。僕は食べ物をこぼして汚 したときにすぐに持って帰らなくて、日数の経った汚れは落ちに くいから困ると言われたよ。本当かな、確かめてみたいな。 第2次 学習内容 気持ちよく着ることができる衣服の手入れの仕方を考える ・ 実 験 へ の 取 り 組 み (関 ) ・ 手 洗 い に よ る 洗 濯 (技 ) 9 M (3 時 間 ) ・ 自 分 の 生 活 に 照 ら し 合 わ せ た 手 入 れ の 仕 方 (創 ) ・ 手 洗 い の 仕 方 (知 ) 時 間 の 経 過 に よ る ・しょう油などのしみを付けて3日置いた布と、しみを付けたばか 汚れの落ち方を比 りの布を洗って比べるのだね。3日経ったのはなかなか落ちない 較する実験を行う な。しみを付けたばかりの布は水に浸しただけで汚れがほとんど (3M) 落ちたよ。もみ洗いするととてもきれいになったよ。やはり時間 が経つと汚れは落ちにくいのだね。今までは汚れたときにはティ ッシュなどで拭いていただけだったけれど、簡単に水洗いしてお くと洗濯が楽になるね。 手 洗 い と 洗 濯 機 洗 ・今日は手洗いと洗濯機洗いを比べるのだね。洗濯機洗いの方がき いを比較する実験 れいになると思うよ。よし、手洗い開始だ。洗濯物や水の量に合 -4- を行う (3M) わせて洗剤の量を決めるのだね。なかなか落ちないな。Aくんに つまみながら洗うとよく落ちると教えてもらったよ。やっときれ いになったね。洗濯機洗いと比べてみよう。あれ、洗濯機洗いは 手洗いよりも汚れが残っているな。手洗いの方がきれいになるの だね。でも、洗濯機洗いは一度にたくさん洗えるよ。よごれのひ どいところだけ手洗いをして、あとは洗濯機洗いで洗えばいいと 思うよ。この前の実験で、えりのところが汚れていることが分か ったから、えりのところも手洗いするといいね。 干し方の違いによ ・今日は干し方の違いを考えるのだね。僕の家では靴下はきちんと る乾き方の違いや 同じものを並べて干しているな。シャツはきちんと伸ばすといい 乾いた後の片付け って言っていたな。やってみよう。僕の家では、ズボンを履いて の容易さを比べる いる形で干しているよ。ズボンをたたんだまま干すと中の部分は 実験を行う まだ湿っているね。洗濯物は風がしっかりと当たるように干すこ (3M) とが大切なのだね。干すときにしわを伸ばすようにしていると、 きれいに乾くね。アイロンの時間も短縮できて、環境にもやさし いかもしれないね。よし、みんなと一緒に考えた衣服の手入れの 仕方を夏休みにやってみよう。家の人が喜んでくれるといいな。 <夏季休業中>くつ下は、先に汚れのひどい部分だけ手洗いで洗っておくと、洗濯機洗 いで洗ったときにとてもきれいになるな。きれいになって家の人も喜んでくれたよ。衣 類によって洗剤を変えているそうだよ。干し方もいろいろあるのだな。家庭科で勉強し た 以 外 に も 、お 家 の 人 は い ろ い ろ な 工 夫 を し て い る な 。少 し で も 洗 濯 が 楽 に な る よ う に 、 僕もできることを続けていきたいな。 第3次 学習内容 学習を振り返り、学習を家庭生活で生かす方法を考える ・ 快 適 に 衣 服 を 着 よ う と す る 意 欲 (関 ) 3 M (1 時 間 ) ・ 個 々 の 家 庭 の 暮 ら し 方 に 応 じ た 手 入 れ の 工 夫 (知 ) 学 習 を 振 り 返 り 、 ・僕はくつ下の汚れのひどい部分だけ手洗いをして洗濯機洗いに入 家庭生活で生かす れたら、とてもきれいになったよ。お家の人も喜んでいたよ。僕 方 法 を 考 え る (3M) はなかなか続かなかったよ。手洗いはやっぱり大変だな。僕はと にかく汚れたときにはなるべく早く洗うようにしようと思うよ。 この学習でいろいろな実験をして考えたら、家での洗濯のことも いろいろ分かったね。みんなの家での洗濯の様子も聞けて、とて も参考になったよ。これからも家族の一員として頑張っていきた いな。 -5- 6 本時案 家庭科室 (1)ねらい 目に見えない汚れを確かめる実験を通して、汚れやすい部分や下着の効果 を知り、汗のかき方に応じた着方や洗濯の頻度を考えられるようにする。 (2)学習過程 -6-
© Copyright 2024 Paperzz