免疫染色における トラブルシューティング 名古屋第二赤十字病院 医療技術部検査・病理課 水嶋 祥栄 免疫組織化学染色フローチャート 検鏡 脱水・ 透徹・ 封入 免疫染色( 用手法・ 機械法) 抗原賦活( 酵素処理・ 加熱処理) 脱パラフィン 薄切 パラフィン包埋 ( 脱脂・ 脱灰) ホルマリン固定 臓器の切り出し ◆固定に関するトラブル ●固定が強い ・ タンパク間に形成された架橋により抗原決定基がマスクされる ・抗原決定基の立体構造が変化して抗原性が失われる ⇒染色性低下・非特異反応の増強 ●固定が弱い ・組織および細胞が壊れて構成分子が流出し染色性が低下 ・固定不良による染色ムラを生じやすい ◆固定液が免疫染色に与える影響について 【固定条件】 ①10%ホルマリン ②10%ホルマリン・60℃加温 ③20%ホルマリン ④10%ホルマリン・メタノール(7:3) ※②以外は室温で固定 リンパ節 甲状腺 【材料】 リンパ節生検 ※検体を約3×3×10mm角に切り出し、上記条件にて4時間固定後包埋 甲状腺 ※検体を約3×3×10mm角に切り出し、上記条件にて一晩固定後包埋 ※切片の厚みや染色時間などの影響を避けるために、1つのブロックにまとめて包埋した ◆HE染色 ①10%ホルマリン ~リンパ節生検~ ②10%ホルマリン60度加温 ③20%ホルマリン ④ホルマリンメタノール ◆CD3 ◆CD79a ①10%ホルマリン ②10%ホルマリン60℃ ③20%ホルマリン ④ホルマリンメタノール 甲状腺 HE染色 10%ホルマリン 10%ホルマリン60℃4時間加温 20%ホルマリン 10%ホルマリン60℃一晩加温 ホルマリンメタノール ◆固定不良~乳腺・HER2~ 固定良好 固定不良 ◆固定前壊死~肝臓~ 正常部位 HE×40 壊死部位 HE×40 正常部位 JC70a×40 壊死部位 JC70a×40 ◆固定に関するトラブル 問題点 対処法 固定が強い ・タンパク間に形成された架橋に ・長時間固定しない より抗原決定基がマスクされる ・抗原決定基の立体構造が変化 して抗原性が失われる ↓ 染色性低下 非特異反応の増強 固定が弱い ・組織・細胞が壊れて構成分子 (16~24時間程度) ・穏やかな固定剤を使用する ・検体採取後は速やかに固定する が流出 ・固定不良による染色ムラを生じ やすい ・丸ごと固定は避け割を入れてから 固定する ・小切片にしてから固定する ・固定液を振とうさせ、固定を促進 する ◆脱脂・脱灰に関するトラブル ●脱脂 ・脂肪組織・結合組織など疎水性の高い組織で、抗体が非特異的に反応 ・脱脂不足で薄切困難 ●脱灰 ・脱灰した組織の染まりが悪い ・脱灰した組織がスライドから剥れやすい ◆脱灰液が免疫染色に与える影響 EDTA72h 10%蟻酸2晩 プランクリクロ8h プランクリクロ48h ◆脱灰液が免疫染色に与える影響~CD3~ EDTA72h 10%蟻酸2晩 プランクリクロ8h プランクリクロ48h ◆脱灰液が免疫染色に与える影響~CD79a~ EDTA72h プランクリクロ8h 10%蟻酸2晩 プランクリクロ48h ◆脱脂・脱灰に関するトラブル 問題点 対処法 脱脂 ・脂肪組織・結合組織など 疎水性の高い組織で、抗体が 非特異的に反応 ・非イオン性界面活性剤を加えた洗浄用 緩衝液を使用する 脱灰 ①脱灰した組織がスライドから 剥れやすい ①コーティングガラスを使用する ①切片の乾燥を十分に行う ②脱灰した組織の染まりが悪い ②長時間脱灰しない ②10%蟻酸で脱灰を行う ◆薄切に関するトラブル ・切片の厚みで発色が変わってしまう ・長期保存した標本では染色性が低下する ◆切片の厚みによる染色の違い~脳・Ki67~ 1μ×10 1μ×40 5μ×10 5μ×40 ◆長期保存標本の染色性~GIST~ QBend10 0W C-kit 0W 室温保存 5W 室温保存 5W 冷蔵保存 5W 冷蔵保存 5W 37℃保存 5W 37℃保存 5W ◆長期保存標本の染色性~扁桃腺~ CD3×40 CD3(6ヶ月孵卵器保存)×40 L26×40 L26(6ヶ月孵卵器保存)×40 ◆薄切時のトラブル 問題点 対処法 ・切片の厚みで発色が変わってしまう ・切片の厚さをそろえるように心がける (3μm程度) ・長期保存した標本では染色性が 低下する ・特に核内抗原では、薄切後時間が経つにつれて 熱処理後の抗原性が減弱してしまうので、 標本はその都度作製する。 ・切り置き切片は高温で保存しない。 保存する際は袋やスライドケース等に入れて密封し、 冷蔵庫に入れて保存する。 ◆自動免疫染色装置 【染色方法】 ▼フルオート 脱パラフィンから核染色までの全てを行える ▼セミオート 脱パラフィンから賦活までは用手法で行い、抗体反応から核染色のみを行う 【染色原理】 ▼滴下式 抗体をプローブやチップに吸い上げ滴下。攪拌機能はないので染色ムラを 起こしやすい ▼オイルカバースリップ方式 試薬を滴下後オイルを上乗せし風を送り、対流により攪拌させる ▼毛細管現象方式 スライドガラスとカバータイルにわずかな隙間をつくり、そこに試薬を吸入させ 切片と反応させる ◆各機種の特徴 機種名 ベンチマークXT 販売元 ベンタナ 染色方法 Autostainer(Plus ) Bond Max DAKO 三菱化学ヤトロン フルオート セミオート フルオート 染色原理 オイルカバースリップ 滴下式 毛細管現象方式 脱パラフィン 可能 不可 可能 抗原賦活 加熱処理○ 酵素処理(加温) 加熱処理× 酵素処理(室温) 加熱処理○ 酵素処理(加温) 最大染色枚 数 30 48 30 バーコード 試薬○ スライド○ 試薬× スライド○ 試薬○ スライド○ 一次抗体 専用試薬(汎用も可) 汎用試薬 汎用試薬 検出試薬 専用試薬 専用試薬 汎用試薬 ※病理と臨床2007 Vol.25より一部抜粋 ◆自動染色機の染色比較~GIST~(上段:C-kit下段:CD34) (ベンタナ・ベンチマークXT) ①ダコ/ポリ/6.0クエン酸 ①ニチレイ/NU-4A1/6.0クエン酸 ②ダコ/ポリ/専用試薬 ②ダコ/QBend10//専用試薬 ③ダコ/ポリ/専用試薬 ③ダコ/BI-3C5/専用試薬 ◆抗原賦活に関するトラブル ●酵素処理 ・長時間の酵素処理で切片が剥がれる。または染色性が低下する ・時間を厳守しても染色が弱い ●加熱処理 ・緩衝液の液量不足、液面低下による染色ムラ ・加熱中に切片が剥離してしまう ・染色が弱い ●共通 ・賦活のし忘れで染色が認められない ◆酵素と処理時間~結腸・AE1/AE3~ プロK処理10分 トリプシン処理10分 プロK処理30分 トリプシン処理30分 ◆酵素処理・加熱処理の比較~結腸・CK20~ トリプシン pH6.0クエン酸 MW界面活性剤入り pH6.0クエン酸 MW pH9.0濃縮buffer 電気ポット ◆酵素処理・加熱処理の比較~リンパ節・~ KP-1 トリプシン pH6.0クエン酸 MW PGM-1 トリプシン pH6.0クエン酸 MW ◆酵素処理・加熱処理の比較~リンパ節・CD22~ トリプシン pH6.0クエン酸 MW pH6.0クエン酸 MW界面活性剤入り pH9.0濃縮buffer 電気ポット ◆適切な抗原賦活を行う為の工夫 白:免疫染色以外 青:賦活処理なし もしくはFITCなど 赤:酵素処理による賦活 黄:熱処理による賦活 処理に応じてガラスの色を変えることには、賦活のし忘れ、処理方法の 間違いを防ぐ視覚的な効果がある ◆加熱後の冷却時間 CD3 CD3 0分 CD79a 0分 Ki67 0分 30分 CD79a 30分 Ki67 30分 ◆酵素処理時のトラブル 問題点 対処法 ・長時間の処理で剥がれる。 染色性が低下する ・各酵素の反応時間、温度を厳守する ・コーティングガラスを使用する ・時間を厳守しても染色性が悪い ・一次抗体に対し適切な酵素処理を行う →至適ではない酵素処理法では、抗原性が変化し 抗体の特異性が失われることがある。 ・酵素の保存温度を厳重に管理する ・古いものや失活の恐れのある試薬は使用しない ◆加熱処理時のトラブル 問題点 対処法 ・染色ムラ ・ドーゼ内部に水が混入しないように注意する ・組織切片が緩衝液に十分に浸るようにして乾燥に 気をつける ・切片が剥離する ・加熱処理時間、処理温度を厳守する ・コーティングガラスを使用し、伸展、乾燥を十分に行う ①染色が弱い ①一次抗体のデータシートで推奨されている緩衝液、 賦活の種類、処理時間を確認する。 ①界面活性剤を緩衝液に対し0.1%の割合で加える ①熱処理後、緩衝液とともに組織切片を十分に冷却する (常温、20分以上) ②賦活のし忘れで染色が認め られない ②間違え防止の為に各前処理ごとにスライドガラスの 色を変える ◆洗浄バッファー 問題点 対処方法 バックグラウンドが見られる ・十分に洗浄を行う ・洗浄効果を上げる為に ◇非イオン性界面活性剤 ◇スキムミルク を加える。 ・塩濃度を上げた洗浄用緩衝液を使用する ・市販の濃縮bufferは定められた希釈濃度を守る 染色が弱い、染まらない ・buffer中の微量のアジ化ナトリウムがペルオキ シダーゼを不活性化し染色を不可能にするので、 アジ化ナトリウムを含んだbuffer使用しない ◆愛知県内の水質 供水地 pH 残留塩素濃度 愛知用水水道北部 7.2~7.5 0.2~0.5 愛知用水水道南部 7.1~7.4 0.3~0.7 尾張水道 7.3~7.7 0.3~0.5 西三河水道 7.2~7.5 0.2~0.5 東三河水道 7.3~7.5 0.3~0.5 ※洗浄bufferに使用する蒸留水、イオン交換水のpHは染色性に 影響を与える恐れがある ◆一次抗体に関するトラブル 問題点 対処方法 染色にムラがある ・洗浄液の振り落としを十分に行い、切片上で試薬を 混和させる バックグラウンドが見られる ・一次抗体以降の反応では切片を乾燥させない ・内因性ペルオキシダーゼのブロッキングを十分に行う ・抗体の希釈濃度を下げる 染色が弱い。 もしくは染色が認められない ・適切な反応時間、反応温度の組み合わせを検討する ・抗体の有効期限、保存方法を確認する (小分けにして保存し、繰り返し凍結融解は行わない) ・洗浄液を良く振り落とし一次抗体が薄まらないようにする ・抗体をかけまちがえないように視覚的な工夫をする DAKO Autostainer 1.染色したい一次抗体名を登録 3.スライドポジションを確認しながら、ラックに スライドを並べる 2.試薬ポジション、必要試薬量を確認し ラックに試薬をセット 4.バッファー、蒸留水の量を確認しスタート ◆モノクローナル抗体とポリクローナル抗体 ◇モノクローナル抗体 1つの抗原決定基にのみに特異的に反応する1種類の抗体。抗体を産生する1個の融合細胞 を培養して増やす。品質が安定しており、ロット差がない。 ◆ポリクローナル抗体 動物に抗原を免疫し、その動物から採取した血液から得られる。免疫した抗原上にある 複数の抗原決定基に反応する複数種類の抗体からなる。強い染色強度が得られるが、 免疫動物の状態や精製度によりロット間差が生じることがある。 カルレチニン モノクロ 一晩 ポリクロ 一晩 ◆内因性ペルオキシダーゼの除去~CD3~ 《自家製H2O2 20分処理》 一次抗体前 一次抗体後 《市販品H2O2 5分処理》 一次抗体前 一次抗体後 ◆二次抗体に関するトラブル ●LSAB(labeled streptavidin)法 ビオチン標識した二次抗体に、ペルオキシダーゼ標識したストレプトアビジンを反応させ発色 させる方法。浸透性に優れ、染色感度が良い ●高分子ポリマー法 ポリマーに多数の二次抗体とペルオキシダーゼを結合させた試薬。 2ステップのため経済的。染色感度が高く、さらに内因性ビオチンなどの影響を受けない。 ただ、ポリマー試薬の分子量が大きいため、組織・細胞内への浸透性が悪く、感度がむしろ 低下する現象もみうけられる。 その点を改良し、組織浸透性を向上させるため、高分子ポリマーの分子量を小さくした試薬も 市販されている。 一次抗体 二次抗体 ストレプトアビジン ビオチン ペルオキシダーゼ ◆二次抗体に関するトラブル ダコ・ケムメイトエンビジョン(ポリマー法) カルレチニン 30分 カルレチニン 一晩 ※ポリマーが細胞内に十分に浸透しない為、通常の染色時間では染色されない。 一次抗体を一晩反応させることで、反応が増強される →個々の抗体および抗原の種類や反応性によって最適と思われる方法を随時 選んで用いることが、正確な結果を出すのに重要!!! ◆核染色に関するトラブル~前立腺~ P63 核染4分 P63 核染10分 P504s 核染4分 P504s 核染10分 ◆まとめ◆ ●免疫染色の良否に影響を与える要因として ・技術的なエラー ・抗原性の失活(固定、脱灰、切片の保存方法など) ・抗体の失活(保存方法、保存期限など) ・一次抗体・二次抗体の特異性 ・賦活方法の良否 ・抗原性の多様性(低分化な腫瘍ほど特異的な抗原性が欠落しやすい) ・その他 などが挙げられる。 ●良好な結果を得る為には、抗体や試薬の管理に気を配る必要がある。 全ての抗原・抗体に万能な染色は無いので、最適な染色条件の検討、 決定を行う必要がある ●自動免疫染色機の使用により作業の効率化、労力の削減をすることができる。 また正確な温度、時間、試薬、プロトコールの管理により、優れた染色結果と 再現性を得ることができるが、それらを最大限に発揮する為には、日頃からの 試薬管理、精度管理が肝要である。
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