日本の 日本 の 若者はどこへいくの 若者 はどこへいくの ファーリス ・ シハーブ キングサウド大学 勤務 現 在 私 はキングサウド大 学 で日 本 語 や日 本 文 化 を教 えている。 夏 期 休 暇 を四 国 の田 舎 で過 ごしていたが、今 年 は留 学 時 代 の友 人 に会 うために、久 し振 りに上 京 することにした。今 回 東 京 を訪 れ て最 もショックだったのは、人 込 みの中 でも平 気 で抱 き合 う若 者 た ちの姿 や、髪 を金 髪 や様 々な色 に染 めたり、肩 や背 中 をむき出 し にしたり、へそ出 しが普 通 になっている若 い男 女 のファッションであ った。私 が十 年 前 に東 京 で暮 らしていた当 時 も、露 出 度 の高 い派 手 な格 好 の若 者 もいたが、今 ほどひどくはなかったように思 う。街 で 行 き交 う若 い男 女 の様 変 わりを見 て、自 分 が抱 いている日 本 のイメ ージと現 在 との落 差 が大 きく、驚 きだけでなく非 常 にがっかりしてし まったというのが本 音である。 アラブ諸 国 にはいろいろな国 があるが、街 頭 で欧 米 のように男 女 が抱 き合 ったり、一 般 の女 性 が短いスカートをはいたり、へそを出 し て歩 いている姿 を私 は見 たことがない。公 共 の場 で男 女 が戯 れるこ とや裸 に近 い服 装 は不 良 行 動 であり、人 々を誘 惑 し性 犯 罪 を引 き 起 こしやすいと考 えられているからである。アラブ・イスラーム圏 での 常 識 では、女 性 には性 的 な魅 力 があるので家 族 以 外 の男 性 の前 1 では慎 み深 くするべきだという教 えがある。一 方 男 性 も、ランニング シャツや半 ズボンで歩 いている人 は少 ないし、女 性 のように化 粧 を したり、イヤリングをつけた人 を見かけることはない。 特 に女 性 は外 で美 しさを出 すべきでないし、その美 を目 立 たせ てはならないとされている。中 にはサウデイ・アラビアの首 都 、リヤド のように、女 性 は上 から下 まで覆 う黒 いアバーヤを身 に付 けなけれ ばならず、髪 までカバーしているところもある。多くのサウジ女 性 がア バーヤだけでなく、ニカーブと呼 ばれるものを頭 にかぶって外 出 し ている。ニカーブは、顔 を全 部 隠 したり眼 のところだけが開 いた布 製 のカバーであるが、それ程 肌を出すことへの抵 抗 感が強い。 家 庭 を社 会 の最 も重 要 な基 本 と考 えるイスラーム社 会 では、健 全 な家 庭 を築 くためには、異 性 の気 を引 く服 装 がタブー視 されるだ けでなく、婚 前 の性 的 な交 渉 を許 すわけにはいかないと考 えている。 そのために婚 前 の肉 体 関 係 は考 えられないし、結 婚 後 の浮 気 は不 良 というだけでなく犯 罪 の一 つと考えられ罰 せられるのである。その ため安 易 に性 的 な犯 罪 につながってしまう行 動 に対 しては、厳 しく 制 限 しようとする社 会 規 範 が存 在 する。もちろん服 装 もその表 れで あるから、芸 能 関 係 者 などは別 として、人 前 で異 性 を誘 惑 するよう な格 好 をする人は少 ないのである。 しっかりした生 き方 をしている人 が服 装 もそうであると考 えるのは アラブだけではないし、その反 対 が必 ずしもそうであるとは言 えきれ 2 ないとも思 う。しかし街 中 や電 車 の中 など多くの人 々が行 きかう場で は、誤 解 を招 くような服 装 、行 動 は控 えるべきである。その場 合 は、 法 律の強制 よりも個 人の内面 にかかわってくるように思 う。 今 年 の夏 、カイロに住 む私 の友 人 の娘 さんにあった時 、ヘジャー ブ(髪 のベール)をしていたのでびっくりしてしまった。去 年 のラマダ ーン(イスラームの断 食 )をきっかけに、自 らの意 志 でかぶり始 めた という。彼 女 のお母 さんや友 人 が、「まだ18歳 なのだから、ヘジャー ブは少 し早 すぎるよ。」と言 ったらしいが、彼 女 は「ベールをするよう になって、男 性 からじろじろ見 られなくなったので、とてもよかったと 思 う。」と、満足 そうに語 ってくれたのが印 象的 だった。 アラブには、今 でも日 本 人 は着 物 を着 ているというイメージがあ り、多 くのアジアの国 々と同 じように日 本 女 性は肌 を見 せないと思 っ ている人 が多 い。そしてまた、かつての日 本 には、女 性 が自 分 の魅 力 を安 売 りしてはいけないという考 え方 があって、現 在 のアラブ女 性 の生 き方 と共 通 するする文 化 を持 っていたと思 う。現 在 の日 本 は 欧 米 的 な流 行 の影 響 を受 けて、女 性 を色 っぽく見 せるのはごく普 通 だという考 え方 に流 れているようである。テレビもまた、子 どもの見 る時 間 帯 にまでモラルを崩 すような番 組 を組 んでいて、「恥 の文 化 」 と呼 ばれた日 本 は、どこへ消 えてしまったのだろうかといぶかしく思 う。 現 在 の日 本 は、私 の好 きであった日 本 からますます遠 くなり、歪 3 みさえ感 じるのは私 だけであろうか。アラブで日 本 語 を教 えるだけで なく、日 本 文 化 のすばらしさを伝 えていきたいと思 っている一 人 の 教 員 として、日 本 の伝 統 的 な文 化 をかえりみず、欧 米 そのままの風 俗 で満 足 している若 者 に会 うたびに、日 本 の将 来 を憂 うことしきりで ある。 世 界 がグローバリズム化 していると指 摘 されて久 しい。アメリカニ ズムや物 質 的 な豊 かさを享 受 している中 で、昔 と違 った共 通 の躾 や価 値 観 、道 徳 観 がなくなっていくのは仕 方 がないとも思 う。しかし 独 自 の新 しい発 想 は、それぞれの民 族 や地 域 、国 々に伝 わる伝 統 や文 化 の中で育まれるのであり、異 なった文 化 のぶつかり合 いの中 から生 まれてくるのである。それぞれの国 の精 神 、価 値 観 が失 われ、 世 界 が画 一 化 していくのはとてもさびしいし残 念 なことである。そし て、全 てが同 化 している中 からは、何 も新 しいものは生 み出 されは しないのだとも思うのである。 躾 ( しつけ) しつけ ) の 専 門 誌 『 ふれあい』 ふれあい 』 4 5
© Copyright 2024 Paperzz