9 世紀にわたる女性助祭 - Womenpriests.org

第十七章 9 世紀にわたる女性助祭
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第十七章
9 世紀にわたる女性助祭
教理省の女性司祭反対も、彼らが議論の余地のない事実として
信じているものに根拠を置いている。教会は女性司祭を叙階しな
かった。これは過去 2000 年の間変わることのない不変の慣習で
あった、と。
カトリック教会は、司祭叙階を女性に合法的に授けることが
できると今だかつて思ったことがない……。中世から現在に
至るまで、この問題が再び取り上げられることはなかった。
なぜなら女性を叙階しないという慣習は、平和裡に普遍的に
受け入れられてきたからである……。この問題に関する教会
の伝統は世紀を通してあまりにも確固たるものだったので、
教導職は明確に表現するために介入する必要も、法を擁護す
る必要も感じなかった。なぜなら原則が攻撃されることも、
また、法に対して異論が唱えられることもなかったからであ
1)
る。
こうして教理省は、女性を叙階しないという慣習はその事実そ
のものが聖なる伝統の一部であることを証明しているのだと主張
する。しかし、本当にそうなのだろうか。この主張の欺瞞を暴露
するのはそれほど難しいことではない。慣習がどんなに長い間行
第四部 再度の試み
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われてきたとしても、それ自体何も証明しはしない。19 世紀も
の間、教会は奴隷制を行ってきた。では、それが聖なる伝統だっ
たのだろうか。しかし、女性叙階に関して、教理省は事実をも曲
げてしまったのである。女性は最初の 1000 年の間叙階されてい
たからである。何千人もの女性が助祭として叙階され、司祭職の
秘跡的聖職の最初の段階であるこの助祭職に参加していたのであ
る。
初代教会にはたくさんの奉仕職があり、それらは皆、祭司職に
多かれ少なかれ関連していた。すなわち、祭壇奉仕者、朗読奉仕
者、伝道師(要理を教える人)、教会番、副助祭などであった。宗
教改革の時、司祭職を含め秘跡の多くが批判、攻撃され、トレン
ト公会議は 1563 年、三つの聖職、すなわち、司教、司祭、助祭
のみが初代教会時代から聖なる秘跡であると宣言したのである。
司祭職は聖なる奉仕職であるが故に神聖なものである。司祭
職がより相応しい方法で、より深い尊敬をもって遂行される
ために、教会が最も秩序ある決定を行い、一つの祭司職の中
での奉仕のために、いくつかの異なる聖役があるのがよい。
すなわち、そのように分割された聖職は既に司祭の剃髪でし
るしを付けられた人たちが下級から上級の聖職に進むはずで
ある。なぜなら、聖書は司祭のみでなく、助祭(執事)につ
いても明らかに言及しているからである。そして最も重みの
あることばで彼らの叙階に当たって、何が特に注意されねば
ならないかを説いている……。もし誰かが、カトリック教会
の中に司教、司祭、助祭からなる制定された聖なる叙階によ
2)
る位階制度がないと言うなら、彼は異端者と呼ばれる。
第十七章 9 世紀にわたる女性助祭
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教理省は初代教会に女性の助祭がいたことを認めているが、彼
女たちが秘跡としての叙階を受けていたことを否定し、女性の助
祭職は下級聖品に過ぎず、秘跡ではなく、祝福を与えること、実
務を行うことを委任されていたに過ぎないと言う。これは正しい
のだろうか。
私たちは、女性助祭が初代教会で男性助祭と全く同じ叙階式に
よって助祭になったことを知っている。この事実は非常に重要な
ので、女性に授けられた助祭職が男性のそれとどのくらい同じ秘
跡であったかを古代典礼に沿って検証してみよう。なお本章は、
フランンシス・バルベリーニ枢機卿(Francis Barberini)図書館で
見つけた古代ギリシャ語文献の式文に基づいている。これはフィ
レンツェの聖マルコ修道院からのもので、ニコリスのニコライ
(Nicolai de Nicolis)が遺したものである。それで私はこの写本を
ニコライ写本と呼ぶ。写字生が用いたアンシアル字体を分析した
ところ、この写本は 9 世紀から遅くとも 12 世紀の間に書き写され
たようだ。内容はもっと古く、6 世紀から 8 世紀にかけてのビザ
ンチンの慣行を反映している。当時は教会が東と西に分かれてい
3)
なかったことを思い出して欲しい。
4)
写本は儀式書である。それは司教、司祭、助祭、副助祭、朗読
奉仕者、教会番の叙階や任命式に用いられた式や祈願についての
細かい指示を掲載している。男性と女性の助祭のために別々の叙
階式がある。本章では比較できるようにこれら二つの典礼を並記
して紹介する。完全なテキストに最少限度の必要なコメントを補
足する。
第四部 再度の試み
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開祭の儀
男性助祭の叙階
女性助祭の叙階
聖なる奉献の後、聖域の扉が開
聖なる奉献の後、聖域の扉が開
かれ助祭が諸聖人の連祷を始める
かれ助祭が諸聖人の連祷を始める
前に、助祭候補者は大司教の前に
前に、女性助祭候補者は司教の前
進み出る。
「聖なる恵み」の宣言
に 進 み 出 る。司 教 が「聖 な る 恵
がなされる時、彼は跪く。
み」を大声で唱えた後、女性は頭
5)
を下げる。
ギ リ シ ャ 正 教 会 の エ ヴ ァ ン ジ ェ ロ ス・テ オ ド ル(Evangelos
Theodorou)が指摘するように、双方の背景は、私たちがここで上
級聖品について考察していることを示している。まず、叙階はギ
リシャ語で‘cheirotonia’と呼ばれ、
『按手』を意味する。そして、
叙階は祭壇の前の聖域で行われる。今日でも東方典礼では祭壇の
周りの聖域は会衆から聖なる仕切りで隠されている。仕切りの扉
が開かれて候補者は聖域に入ることが許される。さらに男女双方
の助祭叙階はミサ聖祭中、奉献の後の非常に厳粛な瞬間に行われ
た。朗読後、副助祭のようないわゆる下級聖職はミサ聖祭中では
なく、聖域外で按手によって授けられる。
候補者が司教の前に立つと、司教は彼の名前を呼んで助祭の候
補を公に指名し、次のようなテキストが読まれる。「常に病む者
を癒し、欠けたところを補ってくださる聖霊が、彼・彼女が相応
しい助祭になれるよう彼・彼女の上にくだるように祈りましょ
6)
う」
。
時と場所と人々及び聖職者の前での荘厳な宣言など、すべては
叙階に公的な性格を与える。これは明らかに、すべての人にその
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按手
男性叙階候補者
女性叙階候補者
大司教は候補者の額に 3 回十字
司教は彼の手を彼女の額に置き、
のしるしをし、彼の手を置いて祈
3 回十字のしるしをして祈る。
る。
「聖なる全能の主よ、あなたの
「神である主よ、あなたはあな
独子である私たちの神が肉によれ
たの摂理により、あなたのはかり
ば処女マリアから生まれたことに
しれない力を通して、あなたの汚
より、女性の性を浄められました。
れない奉仕職に仕える典礼聖役に
あなたは男のみでなく女にも聖霊
任命される人たちに、聖霊の豊か
の恵みと祝福を与えてくださいま
な働きを送ってくださいます。主
した。主よ、このはしためを顧み、
よ、どうか、あなたが私に助祭の
あなたの助祭の奉仕職に聖別して
聖役(leiturgia)に任命することを
ください。そして、彼女の上に豊
望まれるこの候補者が、信仰の秘
かな聖霊を注いでください。
義を清い良心で守ることができる
彼女が常に、あなたに喜ばれる
ように、彼を真剣で、厳格なよい
正統な信仰と非難されることのな
行いのうちに保護してください。
い行いによって自分の聖役(lei-
最初の殉教者聖ステファノに与え
turgia)を果たすことができるよ
た恵みを彼にも与えてください。
うに、彼女を守ってください。あ
彼をあなたの奉仕職の聖役に呼
なたにすべての栄と誉れがありま
ばれた後、あなたが彼に託す責任
すように」。
を果たすのに相応しくしてくださ
い。それを良く行う者は大いなる
報いを得るでしょう。あなたの僕
を全き者にしてください。神の国
とその力は世々にあなたのもので
ありますように」。
7)
候補者が今から助祭になることを公示するためである。
この箇所の重要性を理解するために、私たちは基本的なところ
第四部 再度の試み
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に戻らなければならない。秘跡は神聖なしるしと定義される。そ
の長い歴史の中で、教会は各秘跡の『しるし』の持つ二つの側面
を受け入れるようになった。すなわち質料(物体または行為)と
形相(話されたことば)とである。洗礼において水を流すことは
質料で、
「私はあなたを父と子と聖霊の名によって洗礼を授ける」
は形相である。これら二つの要素が秘跡的しるしの実質を形成し
ている。すなわち、これら二つの条件が整う時、秘跡が有効に行
われたことが分かる。ここで細部にわたって正確を期すことはカ
トリック教会がいつも主張するように大切なことである。
聖なる叙階の場合、大昔から按手は秘跡の質料であり、聖霊を
候補者の上に祈り求めることは形相と考えられてきた。両者は秘
跡的しるしの本質をなし、それによってすべての人はこの人が確
かに叙階されたのだと分かる。また、彼・彼女の頭に手を置き、
祈ることによって司教は秘跡を授ける。
私たちがここで研究している祭儀の中で、聖霊が男女の助祭候
補双方の上にくだるよう呼び求められている。したがって、両者
ともに秘跡として叙階される。全会衆に聞こえるように大声で行
取り次ぎの祈り
男性叙階候補
女性叙階候補
他の助祭の一人が、私たちの魂
他の助祭の一人が、私たちの魂
の救いのために、世界平和のため
の救いのために、世界平和のため
に、大司教のために、皇帝たちの
に、大司教のために、皇帝たちの
ために、その他のために、取りな
ために、その他のために、取りな
しの連祷を始める。
しの連祷を始める。
われる。
第十七章 9 世紀にわたる女性助祭
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叙階候補者のための特別な祈りが含まれていることは、他の写
本の並行儀式からも知られている。そのような祈りの中に「今、
叙階された女性助祭、某の救いのために主に祈りましょう。最も
憐れみ深い主が彼女に誠実で、誤りのない助祭職を与えるよう、
第二の按手
男性叙階候補者
女性叙階候補者
司式に参加している助祭が取り
助祭がこれらの取り次ぎをして
次ぎの祈りをしている間、大司教
いる間、大司教は候補者の頭に按
はまだ候補者の頭に按手したまま
手したままで次のように祈る。
で次のように祈る。
「主であり、師であるあなたは
「私たちの救い主である神よ、
あなたに奉献し、喜んであなたの
あなたは不朽の声で預言しました。 聖なる家での奉仕をふさわしく行
福音書に『あなた方の中で偉くな
う女性を拒みません。あなたの奉
り た い 人 は ま ず、僕(diakonos)
仕職の聖役に彼女たちを受け入れ
になりなさい』と書かれているよ
てください。あなたの聖霊の賜物
う に、助 祭 職 の 聖 役(leitourgia)
を、あなたに自分を捧げることを
に招かれたこの僕を、命の与え主
望むあなたのはしために与えてく
である聖霊が信仰と愛と力と聖性
ださい。あなたの助祭職の恵みを
で満たしてくださいますように。
あなたが聖役(leitourgia)に招い
恵みは私の按手によってではな
たフェベに与えたように。主よ、
く、あなたの豊かな憐れみによっ
彼女があなたの神殿で罪を犯すこ
てふさわしい者に与えられ、罪か
となく耐え、彼女の行い、特に、
ら浄められ、裁きの日に汚れない
謙遜と節制を守りますように。
者としてみ前に出で、あなたの約
さらに、あなたのはしためを全き
束された報いを受けますように、
者にし、キリストの裁きの座に立つ
あなたは私たちの神、憐れみと救
時、優れた行いのふさわしい実をあ
いの神だからです」。
なたの独子の憐れみと慈悲を通し
て得ることができますように」。
第四部 再度の試み
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8)
主に祈りましょう」
。
司教は再び按手して聖霊を呼び求める。第 1 回目の按手と同じ
ように、第 2 回目のこの行為はそれ自体秘跡を授けるのに充分で
ある。ただ、司教、司祭、助祭のための候補者は二重の按手を受
ける。おそらく 2 回目は候補者が、有効に叙階されたことを完全
に確かだと感じる必要性から行われるようになったのであろう。
この 2 回目の聖霊祈願は司教が静かに唱えることに注意したい。
任命
男性叙階候補者
女性叙階候補者
大司教は男性候補者から襟に巻
大司教は助祭用ストラを襟に巻
かれた布を取り、彼の肩にストラ
かれた布の下の彼女の首の周りに
を置く。大司教は助祭に接吻して
掛け、ストラの端を前で揃える。
香炉を渡し、彼に祭壇に置かれた
聖なる捧げ物に香を焚かせる。
司式した助祭が大声で行った取り次ぎを強化するように思われる。
男女の助祭は公式の式服としてストラを受ける。男性助祭は将
来ミサ聖祭の間に祭壇で仕えるために香炉が渡され、初めて捧げ
ご聖体を配る
男性叙階候補者
女性叙階候補者
聖体拝領の時、新助祭は御体と
聖体拝領の時、新助祭は御体と
御血を拝領した後、大司教は彼に
御血を拝領した後、大司教は彼女
カリスを渡す。今度彼は信者たち
にカリスを渡す。彼女はそれを受
に御血を拝領させる。
け取り、祭壇の上に置く。
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物に香を焚く。
男女双方の助祭に司教はカリスを渡す。ビザンチンの慣行では、
カリスの中の聖変化された御血の中に御体を浸していた。彼ら彼
女らはカリスを持ち、人々に拝領させる。男性助祭は教会のミサ
聖祭で奉仕していたので、叙階後は聖体を配ることを始める。女
性助祭は御聖体を病人のもとに運んだ。両助祭に与えられた役割
については次章で扱われる。ここでは叙階された男女の奉仕職に
差異がなかったことを述べるだけで充分であろう。とにかく、女
性助祭たちは「あなたの聖なる家で奉仕するため」「神殿での聖
役(leitourgia)に従事するために」叙階されたのである。
各秘跡は見えるしるし、他のものから区別できる何かであると
定義される。男女の助祭は並行して唱えられる聖霊を求める祈り
のもとに、全く同じ儀式を通して同じ助祭職に叙階された。もし
一人の男性が叙階され、女性はされなかったなら、信者はどう
やって見分けたのだろうか。真理は単純である。女性助祭は司祭
職に受け入れられていた。でなければ司教の叙階の意向と叙階そ
にせ
のものの儀式を偽ものとしてなぶりものにすることになる。
もし誰かが、聖なる叙階を通して聖霊は与えられず、した
がって、司教が「聖霊を受けなさい」と意味もなく祈り、叙
階を通して霊印は与えられないと言うなら、彼をアナテマ
9)
(異端者)と見なそう。
トレント公会議が「霊的であり、消えないしるし」として描写
した秘跡的性格(霊印)を助祭は受けるのである。助祭職を通し
て与えられる『霊印』がどのように司祭職の『霊印』と司教職の
第四部 再度の試み
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『霊印』と関連づけられるかについて、神学者たちの意見は一致
していない。多くは、助祭の『霊印』は他の『霊印』を受ける素
地をつくるものだと考えている。この文脈で、誰もまず助祭に叙
階されないで司祭に叙階されることはないと書かれている古い規
10)
定を指摘する 。助祭の『霊印』を受けた女性は叙階の秘跡に真
に参与したのであり、司祭にも叙階されることができたはずなの
である。