欧州司法裁判所の判例から

欧州司法裁判所の判例から
資料3
【1】1981-03-31
Jenkins 事件判決(C-96/80)
①
事案:私企業におけるパートタイマーとフルタイマーの時間単価賃金格差。
②
欧州司法裁判所判決
「男性に比べかなり低い割合の女性しかフルタイムの時間あたり賃金を請求するために必要な週最小限の労働
時間数しか働いていない場合には、週最小限の時間数を働くことについての女性の困難さを考慮し、性に基づく
差別以外の要素によって説明できない企業の賃金政策は、EEC 条約 119 条違反となる」(para.13)
「パートタイム労働かフルタイム労働かによって時間あたり賃金が異なる場合、各個別事案において、その事
案の要素、すなわち、その歴史および使用者の意図、を考慮し、本件で問題になっている争点のような賃金政策
が週労働時間による違いとして現れていても、現実には労働者の性に基づく差別かなのか否かを判断するのは、
国内裁判所である」(para.14)
【2】1986-05-13
Bilka 事件判決(C-170/84)
①
事案:私的職域年金からのパートタイム労働者の除外。
②
欧州司法裁判所判決
「フルタイムで働く女性の割合が男性と比べ遙かに低い割合である場合には、職域年金制度からのパートタイ
ム労働者の除外は、女性労働者がフルタイムで働く場合に直面する困難を考慮すれば、その方法は性に基づく如
何なる差別も排除する要因によって説明することができない方法であり、条約 119 条違反である。」(para.29)
「しかしながら、企業が、同企業の賃金取扱いについて、性に基づく如何なる差別とも関係のない要因により
客観的に正当化されることを説明できると証明できる場合には、119 条違反ではない。」(para.30) 「労働者の
性とは無関係に適用されるが実際には男性より女性に多く影響する賃金取扱いの採用について説明するために
使用者より提出された根拠が、客観的に正当化される経済的根拠と言えるか、又どの範囲で言えるかを決定する
のは、国内裁判所−事実を認定する唯一の管轄権を有している−である。国内裁判所が、Bilka が選択した手段
が、企業の側の真の必要(real need)に一致し、追及する目的を達成するという点からみて適切(appropriate)で、
かつ、その目的のために必要(necessary)だと判断した場合には、その手段が男性より遙かに多数の女性に影響を
与えるという事実があっても、119 条違反を構成するという立証としては十分ではない。」(para36)
【4】1989-07-13 Rinner-Kuhn 事件判決(C-171/88)
①
事案:法律上、パートタイム労働者は病休時の賃金継続支払いの権利対象から除外。
②
欧州司法裁判所判決
「…疾病による労働不能中の継続賃金支払いを受けるのに必要な最低週ないし月時間数働いている女性の割合
は、男性より相当程度少ないことは明らかである。こうした状況では、こうした(パートタイム労働者除外の)
規定は、女性労働者に対する差別であり、原則として、119条の目的に反する。但し、2つのカテゴリーの区
別は、性を理由とした如何なる差別とも関係のない客観的な要因によって正当化されうる(Bilka 判決参照)。」
(para11-12)
「(ドイツ政府は、パートタイマーは他の労働者のように雇用企業に取り込まれたり依存したりしてはいない
と主張するが)…しかし、このような考えは、あるカテゴリーの労働者についての一般的な説明でしかなく、客
観的な基準にも、性を理由とする差別と関係ない基準ともなりえない。」(para.13-14)
「労働者の性と関係なく適用されていながら、実際には男性よりも女性に影響を与えている立法規定が、客観
的かつ性を理由とした如何なる差別とも関係のない理由により正当化されるのか否か、またどの程度正当化され
るのか否かを決定するのは、国内裁判所−事実に接近し国内法理を解釈する独占的管轄権を有している−が決定
すべきである。」(para 15)
【5】1989-10-17
①
Danfoss 事件判決(C-109/88)
事案:勤務時間・場所の変動性(mobility)、勤続年数、教育訓練を理由とする賃金格差。
-1-
②
欧州司法裁判所判決
「…企業が透明性を全く欠く賃金制度を適用している場合、女性労働者が、比較的多数の労働者との関係で女
性の平均賃金が男性の平均賃金より低いことを証明したときには、賃金に関する取扱いに差別がないことを証明
するのは使用者である。」(para.16)
「そうした(職務への熱意や進取的精神を考慮要素にして職務評価が行われている)下で、勤務時間帯・場所
の変動性(mobility)は、遂行される仕事の質を評価する(to reward the quality of work)基準として導入される場
合と、あるいは、労働者が勤務時間や勤務場所の変動に適応することへの評価する基準として用いられる場合が
ある。
前者の場合、…変動性基準が女性にとりシステム的に不利益に働くのは、使用者が適用を誤っている場合しか
ありえない。女性が遂行する仕事の質が一般的に劣っているはずだとは思いえない。したがって、使用者は、そ
の適用が女性の不利益にシステム的に働いていると立証された場合には、変動性基準の適用を正当化することは
できない。
後者に対する見解は異なる。勤務時間や勤務場所の変化への労働者の対応性(adaputability)について償う基準
と解する場合、女性労働者は家庭維持や家族的責任をしばしば負っており、男性と同じように勤務時間をフレキ
シブルに計画することができないから、その基準は女性労働者に対し不利益に働くだろう。…(Bilka 事件判決
の客観的正当性に関する判示が賃金についても適用される旨を説明)…したがって、使用者は、労働者に任せら
れた具体的な仕事の遂行にとってそうした適応性が重要であることを立証することにより、適応性に対し報いる
ことを正当化しなければならない。」(paras.18-22)
「…教育訓練の基準に関しては、女性が男性よりも教育訓練する機会が少なかった、ないし、そうした機会へ
の便宜がより少なくしか得られなかったという限りにおいて、女性に対し不利益に働くだろうことを排除するこ
とはできない。但し、…86 年5月 13 日 Bilka 事件判決で示された見解によれば、労働者に任せられた具体的な
仕事を遂行する上で特別の教育研修が重要であることを証明することにより、特別の訓練についての報酬を正当
化できる。」(para.23)
「…勤続期間に関しては、…女性が男性に比べより近時になってから労働市場に参入するようになり、あるい
はキャリアの中断しなければならないことがより多いという限りにおいて、女性に対し不利益に働くだろうこと
を排除することはできない。しかし、勤続の長さは経験と密接な関係を有し、経験を積むことにより一般的に労
働者はその義務をより良く遂行できるようになるから、使用者は、労働者に任された特定の仕事の遂行上の重要
さを立証することなく、自由に、勤続期間に報いることができる。」(para.24)
【8】1991-02-07
①
Nimz 事件判決(C-184/89)
事案:賃金等級昇格のための勤続年数要件に関し、勤務時間が通常労働者の2分の1から3分の1のパート
タイマーは勤続年数を 2 分の1で算定する旨の労働協約規定。
②
欧州司法裁判所判決
「(使用者等は、フルタイム労働者は短時間労働者より、仕事に関係する能力や機能をより早く取得する、あ
るいはより広い経験を有すると主張するが)しかしながら、そうした考慮が、ある範疇の労働者についての一般
化と同様である限り、その基準が客観的であるとも、また、性に基づく如何なる差別とも関係ない基準であると
も認めることはできない(Rinner-Kuhen 事件判決参照)。
経験は、勤務の長さと密接な関連があり、また、労働者に対し、原則として、割当てられた職務の遂行を改善
することを可能とさせるものであるが、そうした基準の客観性は、特定の事案における全ての環境によるもので
あり、また、特に、遂行する仕事の性質とのある特定の勤務時間数の成就による仕事の遂行から得られる経験と
の関係による。しかし、全ての状況のもとで、労働協約の規定が、性に基づく如何なる差別とも関係のない客観
的に正当化される事実に基づいているか否か、また、その程度を決定するのは、事実の評価について唯一適格性
をもつ国内裁判所である。」(para14)
【13】1993-10-27
①
Enderby 事件判決(C-129/92)
事案:言語療法士と心理療法士等の間の賃金格差。
-2-
②
欧州司法裁判所判決
「(賃金性差別の立証責任は、原則として、被害者であると主張する労働者にある。)しかしながら、欧州司
法裁判所の判例法理によれば、差別の被害者であると思われる労働者から同一賃金原則を実現する効果的な手段
を奪うことを避けるために必要な場合には、立証責任を移動することができることは明らかである。労働時間に
基づいて労働者間を区分する方法が、実際には一つあるいは他の性のよりかなりより多くの数の構成員に不利益
な効果を有する場合、その方法は、使用者が性に基づく如何なる差別とも関係のない要素によって客観的に正当
化されない限り、条約 119 条により追及される目的に反すると見なさされなければならない(Bilka 事件判決、
Kowalska 事件判決、Nimz 事件判決参照)。同様に、企業が透明性を全く欠いた賃金制度を適用する場合には、
女性労働者−労働者の相対的多数について−が女性の平均賃金が男性の平均賃金より低いことを立証したとき
には、賃金に関する取扱いが差別でないことを立証するのは、使用者である。」(paras.13-14)
「…言語療法士の賃金が心理療法士の賃金よりも著しく低く、かつ、前者が殆ど独占的に女性である一方後者は
圧倒的に男性の場合には、少なくとも当該職務が同一価値と統計上有効に示されている場合、性差別と推定され
る(a prima facie case)。
それらの統計を考慮に入れうるか否か、すなわち、それらの統計が十分な人数を含んでいるか否か、統計が単
なる偶然あるいは短期の現象か否か、そして、一般的に、統計が重要といえるか否かを評価する国内裁判所であ
る。」(paras.16-17)
【15】1994-02-24
Roks 事件判決(C-343/92)
①
事案:労働不能前に収入があったことを公的労働不能給付の受給要件とする法規定。
②
欧州司法裁判所判決
「…予算上の考慮は、加盟国の社会政策の選択に影響を与え、また、導入したいと思う社会的保護手段の性質
ないし対象範囲に影響を与えるだろうが、予算上の考慮自体は社会政策の追及目的となりえず、従って、また、
一方の性に対する差別を正当化できない。
加えて、正当化されなければ 79/7 指令4条(1)違反の間接性差別となる財政上の考慮について、それが男女間
の異なった取扱いを正当化できるものと認めるとすれば、男女の平等取扱いという共同体法の基本規範の適用と
適用範囲が、加盟国の公的財政状況によって時間と場合により変化することを受け入れることになってしまうだ
ろう。」(para.35-36)
【20】1995-12-14
①
Nolte 事件判決(C-317-94)
事案:法的老齢年金制度から、労働時間が週 15 時間以下かつ月収が通常労働者の7分の1を超えない労働
者を除外する法規定。
②
欧州司法裁判所判決
(各国政府は、本件除外が違法になれば、拠出制年金制度が機能できなくなる、短時間低額雇用の社会的要求
が存在するなかで非合法な仕事('black work')や自営業偽装等の抜道を増やす等を主張した。)
「欧州司法裁判所は、共同体法の現在の発展段階において、社会政策は加盟国の決定事項であると判示してい
る(com v Belgum 事件判決)。その結論、社会雇用政策の目的を達成することができる手段を選ぶのは加盟国で
ある。その権限の行使として、加盟国は広い裁量の余地を有している。」(para.33)
「ドイツにより依拠した社会雇用政策の目的が、性に基づく如何なる差別とも客観的に関係がないこと、また、
加盟国立法府は、その権限を行使する中で、本件国内法がその目的を達成するために必要であると考える権利を
合理的に与えられていることに、注意しなければならない。」(para.34)
「こうした状況において、問題となっている立法は、78 年指令4条(1)にいう間接差別ということはできな
い。」(para.35)
Seymour-Smith 事件判決(C-167/97)
事案:不公正解雇の申立要件を「2年以上の継続雇用」とする法規定
欧州司法裁判所判決
【32】1999-02-09
①
②
-3-
「…統計比較の最善のアプローチは、一方において、問題となっている規則において2年雇用の要
件を満たしうる被用者数における男性の割合と満たせない男性の割合、そして、他方において被用者
における満たしうる女性と満たせない女性の割合を比較することである。影響をうける人の数を考慮
するのでは不十分である。なぜなら、加盟国において雇用されている男女の割合と同じように、働い
ている人の数によるからである。
…統計証拠により、より小さいしかし持続的で比較的一定した長期間の差別的効果が、男性と2年
間雇用要件を満たす女性との間にあることが明らかにされた場合は、それも間接差別のケースであろ
う。しかし、そうした統計から導かれる結論を決定するのは、国内裁判所である。
また、職場状況に関する統計が有効で考慮に入れられるものであるか否か、すなわち、統計が十分
な個人を含んでいるか、統計結果が単なる偶然や短期の減少でないか、そして、一般的に重要な内容
を表しているかを判断するのは国内裁判所である。」(para59~62)
「…欧州司法裁判所は…、提出された一件記録および書面また口頭での意見に基づき、国内裁判所
が判決を行いうるようにガイダンスを与えることができる。
加盟国が、その選択した手段が、加盟国の社会政策の必要な目的によるものであり且つ同目的を達成する上で
適切かつ必要な手段であることを立証できれば、立法規定が男性労働者より遙かに多数の女性労働者に影響して
いるという単なる事実では、条約 119 条違反とはみなすことはできないことは、確立した判例法理である。
…採用を奨励することが、社会政策上の目的となることは疑いがない。
全ての関連する事実について、また、他の方法により当該社会政策目的を達成しうる可能性を考慮
に入れつつ、その目的が性に基づく如何なる差別とも関係のないか否か、問題となっている規定が目
的を進める可能性があるか否かを、確かめなければならない。
…社会政策は共同体法において現状では本質的に加盟国の決定事項ではあるが、この関係で加盟国
に認められた広い裁量も、共同体法の男女同一賃金原則のような基本的原則の実行を挫折させる影響
を与えることはできない。
…採用を奨励する具体的な手段の可能性に関する単なる一般論では、当該規定の目的が性に基づく
如何なる差別とも無関係なであると立証するには十分でないし、また、目的遂行のために適切に選ば
れた手段であると合理的に考える基礎となる証拠を提供したことにもならない。」(paras. 67-77)
【32】2000-03-30 JämO 事件判決(C-236-98)
①
事案:助産師と医療技術者の賃金格差。賃金比較の際に、基本給額で比較するのか、諸手当も含んだ額で比
②
欧州司法裁判所判決
較するのかが争点となった。
「…男女に対し付与される様々な種類の対価すべてについて評価および比較を行なう義務があるとすれば、司
法審査は困難なものとなり、条約 119 条の実効性は結果として縮小されるだろう…すなわち、真の透明性は、そ
れは効果的な司法審査を可能にするものであるが、男性または女性に付与される報酬の諸要素の各々に対して同
一賃金原則が適用された場合にのみ確保されるということである。
それゆえ、本件においては、より高度の透明性を確保し、それにより 75/117 同一賃金指令の実効性を保障す
るために、助産師の月額基本給は、臨床技師の同種の賃金と比較されることを要する。」(para43-44)
【44】2003-03-20
①
Kutz-Bauer 事件判決(C-187/00)
事案:「高齢者のためのパートタイム制度労働法」およびそれに基づく労働協約により、55 才から退職年
金満額受給開始年齢まで、公務員がパートタイムに転換した場合にフルタイム勤務時の賃金の 70%を
補償されていた(同開始年齢は男 65 才・女 60 才)。
②
欧州司法裁判所判決
「(ドイツ政府の、当該制度は高齢労働者がフルタイム勤務から早期退職にインセンティブを与え、失業者へ
職を用意し新規雇用を奨励することを目的とするもので、60 才以上の女性に同制度を適用すれば、満額退職年
金受給者が職を塞ぎ続ける、また、社会保障制度のコスト増になるとの主張に対し) 「ドイツ政府が新規採用
-4-
奨励から引き出している議論に関して、雇用問題で追及している目的を達成するために可能な手段を選ぶのは、
加盟国である。欧州裁判所は、加盟国が権限を行使するうえで広い裁量権を有していることを認めている。」
(para.55)
「加えて、欧州裁判所は、Seymour-Smith 事件判決で、採用の奨励が社会政策上の立法目的を構成することは
論をまたないと判示した。」(para.57)
「しかし、社会政策について加盟国が有している広い自由裁量も、男女均等取扱原則のような共同体法の基
本原則の実施を挫折させる効果を与えることはできないという事実は残る。」(para.57)
「…採用を奨励する手段の可能性に関する単なる一般化では、議論となっている規定の目的が性に基づく如何
なる差別とも関係がないとするには不十分であるし、選択された手段が目的を達成するために適切なものであ
る、ないし適切かもしれないと合理的に考えることができる基礎となる証拠を提示するにも不十分である。」
(para.58)
「…欧州裁判所は、予算的考慮が加盟国の社会政策選択の基礎にあり、また、採用しようとする保護手段の性
格や対象範囲に影響を及ぼしてはいるが、予算的考慮それ自身は、政策によって追及される目的を構成しないし、
したがって、一方の性に対する差別を正当化することはできないと考える。加えて、予算的考慮が性にもとづく
間接差別を構成するはずの男女の異なった取り扱いを正当化することを容認することは、男女間の平等取り扱い
原則と同じように基本的な共同体ルールの適用と射程範囲が、加盟国の公的財政状況にしたがって時と場所で多
様化することを意味する。」(para.59-60)
「Hamburg 市は、公的機関としても使用者としても、高齢雇用者のパートタイム勤務制度から生じる差別を、
単に、そうした差別を回避することがコスト増となるとの理由だけでは正当化できない。したがって、国内裁判
所に対し、問題となっている高齢雇用者のパートタイム勤務制度から生ずる異なった取り扱いが性に基づく如何
なる差別とも関係のない客観的理由により正当化されることを立証するのは、Hamburg 市である。…退職年金満
額の受給を求める労働者がアクセスすることを排除する制度の規定が、男性労働者より女性労働者に相当程度高
い割合で影響を与えるという事実だけでは、76 年指令第2条1項、第5条1項に違反すると見ることはできな
い。」(para.62)
「更なる考察の観点から言えば、…76 年指令第2条1項、第5条1項は、男女労働者が高齢雇用者のパート
タイム勤務制度の利益を受けることを容認する労働協約が、パートタイム勤務制度における応募の権利が退職年
金満額受給権開始の日までしか適用されず、かつ、そうした年金の受給権が 60 才である人間のクラスが殆ど全
て女性で、他方、同 65 才からでしかない者は殆ど全て男性である場合には、その規定が性に基づく如何なる差
別とも関係のない客観的基準により正当化されない限り、それを排除すると解釈されなければならない。」
(para.63)
【49】2004-05-27 Elsber-Lakeberg 事件判決(C-285/02)
① 事案:超過勤務報酬はパートタイム労働者もフルタイム労働者も月3時間を超えた時から支給す
る旨の法規定
② 欧州司法裁判所判決
「同一賃金原則遵守の有無を決定するための労働者の賃金比較に用いる方法に関して、判例によれば、効果的
司法審査を可能とする真の透明性は、労働者に払われた全ての考慮の如何なる一般的総合的評価も除外して、男
女に対し認められた報酬の各々の側面に対し原則を適用した場合にのみ保証される。従って、所定労働時間に対
する賃金面と超過時間に対する賃金面とを分けて比較することが必要である。」(para.15)
「…3時間の超過時間は、事実として、フルタイム労働者よりパートタイム労働者に対しより負担が重い。フ
ルタイム労働者が、超過時間について支払いを受けるために、月 98 時間の所定労働に加えて3時間働くのは 3
%の超過労働であるが、他方、パートタイム労働者が月 60 時間の所定労働に加えて3時間働くのは 5%の超過
労働である。パートタイム労働者にとって、賃金支払いが支払われる超過労働時間数が彼らの所定労働時間に比
例した形で減少しているわけではないので、超過勤務賃金に関して、パートタイム教師はフルタイム教師と比べ
異なった取り扱いを受けている。」(para.17)
-5-
【51】2004-10-12
Wippel 事件判決(C-313/02)
①
事案:パートタイム労働者は使用者の必要に応じて呼出されて就労し(拒否可)労働時間数と労働時間帯が
②
欧州司法裁判所判決
固定していない契約は、男女均等待遇指令、パートタイム指令に反するか。
「…(97 年パートタイム労働指令、76 年男女均等待遇指令の)差別禁止規定は、単に共同体法の基本原則、
すなわち、比較可能な状況は際が客観的に正当化されない限り異なって取り扱うことは許されないという一般的
平等原則の特定の表現にしかすぎない。したがって、この原則は、比較可能な状況にある者間においてのみ適用
される。」(para.56)
(パート指令に違反しないか?)パートタイム労働者は、週の労働時間も時間帯も決められていない労働契約
のもとで働くが、提供される仕事を受諾するか拒否するかの自由があり、実際に働いた時間の報酬が支払われる。
フルタイム労働者は、固定された時間数と時間帯で働き、諾否の自由はない。(paras.59-60)
こうした状況では、97 年指令にいう Ms Wippel と比較可能なフルタイム労働者はいない。したがって、週勤
務時間も勤務時間帯を規定していないパートタイム労働契約は、枠組み協約4条にいう不利益な取り扱いの結果
ではない。(para.62)
(76 年指令に違反しないか? ) 76 年男女均等待遇指に関して、…比較可能な労働者の状況とは、第1に、労
働契約に週労働時間数も時間帯も規定されておらず使用者の必要に従って働いているパートタイム労働者の状
況、第2に、労働契約にそうした規定のある使用者の他の全ての労働者(フルタイム労働者とパートタイム労働
者両方)の状況である。
後者の範疇の労働者は、使用者のために週固定された期間を、拒否の可能性なしに、可能か望むか否かに関わ
らず働く義務を負っていることからみて、こうした労働者の状況は、必要に従って働くパートタイム労働者の状
況と類似はしていない。(para.64)
したがって、本件のような状況では、2つの範疇の労働者は比較可能ではなく、週労働時間の長さも労働時間
帯の規定もなく必要にしたうパートタイム労働契約は、76 年指令に違反しない。(para.65)
【53】Nikoloudi 事件判決(C-196/02)
①
事案:臨時から常勤への登用に2年フルタイム勤務を要件とする労働協約は性差別か。
なお、当該会社の従業員は常勤と臨時から構成され、常勤従業員は期間の定めなくフルタイム勤務。
臨時従業員は、原則として有期契約で、例外としてパートタイムの清掃員(女性限定)および物故従業
員扶養家族のみ期間の定めがなかった。
②
欧州司法裁判所判決
「…立証内容からして、有期雇用契約は実際は(in nature)の期間の定めのない契約あるいは常勤の職とは基本
的に異なっている。その結果、有期雇用契約を締結した労働者は、制度的に、期間の定めのない契約に基づく職
にある労働者の状況と実際には比較可能な状況にはないことは明らかである」とし、期間の定めのない労働者に
対する性差別のみ検討する。(para.22)
「(女性清掃員従って女性のみが期間の定めのないパートタイム労働に雇用されるのは、直接性差別かについ
て)一つの性の者により構成された労働者の範疇が許されることは、特に 76/207 指令 2 条(2)及び(4)により、
事実であり、また、女性労働者のみという範疇を作り出すこと自身は女性に対する直接差別とはならない。…し
かしながら、その範疇に関して不利益な取り扱いを本質的に導入することは、…直接性差別となりうる。」
(para.34)
「(正当化について)たとえ…経済発展や職の創出について政策に関する立法目的を主張しようとするもので
あると仮定しても、それは、本件の手段の目的が性に基づく如何なる差別とも関係ないことを示すには不十分な
一般化にすぎない。加えて、予算的考慮が加盟国の社会政策選択の基礎にあり、また、採用されることが望まれ
る社会的保護方法の性質あるいは範囲に影響を与えるだろうけれども、予算的考慮自身は、その政策を追求する
目的を構成するものではないし、また、したがって一方の性に対する差別を正当化することはできない」
paras.52-53
「…勤務の長さは、経験と密接に関連し、また、労働者がその職務をよりよく遂行することを一般的に可能と
-6-
するものであるが、そうした基準の目的は、各個々の事案における全ての事情次第である。」(para.55)
「次に、勤務期間を算定するときにパートタイム勤務を(時間)比例的に算定することに関して、…勤務の長
さは、経験と密接に関連し、また、労働者がその職務をよりよく遂行することを一般的に可能とするものである
が、そうした基準の目的は、各個々の事案における全ての事情次第、とりわけ、遂行される義務の性質と、なさ
れた仕事の時間数の後にそれらの義務の遂行がもたらすところの経験(※時間をかけて仕事をしたことによって
もたらされる経験)との間の関連性次第である。」para.61
【54】2006-10-03 Cadman 事件判決(C-17/05)
① 事案:勤続の長さを賃金決定基準とすること(年功制賃金制度)。
② 欧州司法裁判所判決
「欧州司法裁判所は、Danfoss 事件判決 paras.24 および 25 で、勤続の長さを基準とすることは女性に対し男性
より不利益な取扱いとなるだろうことは否定できないと述べたのちに、使用者はその基準によるために特別の正
当化を提供する必要はないと判示した。
欧州司法裁判所は、その立場を取って、評価、とりわけ労働者がその義務をよりよく遂行することを可能とす
る経験の獲得は、賃金政策の正当な目的となることを認めた。
一般的法則として、勤続の長さの基準によることは、その目的を達成するのに適切である。勤続の長さは経験
と密接な関連があり、そして、経験は一般的に労働者に対しその義務遂行の向上を可能とする。
したがって、使用者は、労働者に任された具体的な仕事の遂行における勤務の長さの重要性を立証することな
しに、勤務の長さを自由に評価できる。」(paras.33-35)
「しかしながら、同じ判決において、欧州司法裁判所は、使用者によって勤続の長さを詳細において正当化さ
れなければならない状況がありうる可能性を排除していない。
それは、特に、労働者から、その状況において、勤続の長さの基準によることが既述の目的を達成するために
適切か否かに関して、重大な疑問を生じさせる可能性のある証拠が提出されていた場合である。そうした状況に
おいては、それが一般原則であることを証明すること、すなわち、勤務の長さが経験と密接な関係に立ち、また、
経験が労働者に対しその義務をより良く遂行することを可能とさせるということは当該仕事に関しても又真実
であること、を証明するのは、使用者である。」(paras.37-39)
「さらに次のことを付け加えなければならない。遂行される職務の評価に基づく職務分類制度が賃金決定にお
いて用いられている場合には、当該労働者の状況についての個人ベースとの関係において当該基準に依拠するこ
とを正当化する必要はない。
したがって、勤務の長さによる基準に依拠することによって追及される目的が経験の獲得であるならば、そう
した制度の文脈において、個別の労働者について、関連する期間の間に職務遂行能力を向上させる経験を獲得し
てきたことを立証する必要はない。反対に、遂行される仕事の性格は、客観的に考慮されなければならない。」
(paras.37-39)
-7-