第四十七 四十七回 回: 西 安 紀 行 【一】 常陽銀行上海駐在員事務所 列車による西安旅行を思い立った。これまで労働節休暇を利用して蘭州、敦煌、ウルムチ、トル ファンなどシルクロードの旅をしてきたが、始点とも言うべき西安には行った事がなかった。午後 4時上海を発つと翌朝8時西安に着く列車がある。鉄道作家宮脇俊三著「中国火車旅行(中国では 列車は火車、自動車は汽車という) 」では上海からウルムチまでの様子が描かれているが、その中で 宮脇さんは西安で数泊して街の中を散策したいと書いていた。その思いを感じながら、時間の関係 もあり往路のみ列車を利用し、2泊3日で西安を訪れた。 ●日程概要 11/2 15:56上海駅発(西安駅には翌日の7:58着) 11/3 秦兵馬俑博物館、華青池、始皇帝稜、大雁塔、小雁塔 11/4 碑林、城門(西門)、青龍寺、漢陽博物館 16:55発飛行機で帰路へ 1.上海∼西安 列車の旅 友人2人と上海駅の軟座・軟臥(なんが)専用待合室に集合。中国では軟座が1等、硬座が2等 という区分で待合室も異なる。軟座待合室には各地への時刻表を示す大きな電光掲示板が備えられ、 中国語、英語はもとより日本語でも案内がある。日本人の利用客も多いのだろう。 列車T138号は西安が終点で1,509キロ16時間の旅である。予約した寝台車は軟臥(日本のA寝台 に相当)で4人が上下のベッドで寝ることができるコンパートメントタイプ。枕と毛布が清潔なシー ツで包まれ、下段ベッドに纏めて2組置かれていた。日本の寝台車のようにベッドにカーテンは無く、 着替えや就寝時には気になるところ。定刻に音も無く発車した車内で、持ち込んだよく冷えた青島 ビールで旅の平安を祈り乾杯をする。 ほどなく窓外は暗くなって何も見えないため、明日の予定を相談する。事前に西安のガイドとは メールでやり取りしていたが、大まかな日程のみで見学場所は時間を見ながら随時対応する旨、連 絡済である。Aさんは以前仕事で西安を訪れているが兵馬俑は見ていないと言う。Kさんも私も西 安は初めてであり、旅行ガイドブックに載っている有名スポットで3人の意見が一致した。 Aさんが乗車時に食堂車の営業時間を車掌に聞いていたので、7時過ぎに食堂車に向かった。話 はそれるが、車掌は各車に1名、それも女性である。警官も何人か乗車している。列車スタッフに は何故か女性が多い。メニューには10品目ほどあり、その中から3品とご飯、大瓶ビールを3本注 文する。弁当や出前もするためか、並ぶほどは混雑していない。ビールは常温で冷えていないが、 料理の味は良くつまみにはなる。 1時間ほど食事を楽しんだあと車内に戻り、各自ベッドに横になり、ガイドブックを見ながら明 日の景色に思いを馳せるうち、列車のほどよい揺れにウトウトする。これまで何度も寝台車に乗っ ているが、眠れなかったことは一度もない。以前北京−上海路線に乗車した時には感じなかったが、 この車両は古いのか、下段ベッドは車輪の振動が伝わり、上段ベッドは天井を伝わるタバコの臭い ’ 10.1 40 で気分が悪くなる。室内は禁煙だがデッキで吸うことができる。また、トイレは定期的に服務員と 呼ばれる女性が清掃するせいか比較的清潔で、朝起きてもキタナクテ入れないとうことはないが、 何故か停車時は車掌が鍵をかけてしまう。 2.西安到着 30分ほど遅れて8:30頃西安に到着。事前に連絡してあったガイド倪小軍(ニイ・シャオ・ジュン) さんの携帯に電話をして落ち合う。中国の駅の出口はどこでもそうだが、空港の到着ロビーと同じ で出迎えの人、到着した人、白タクの客引きなどでごった返している。車内で朝食を取っていない ため、何か食べたいと倪さんに頼むと、駅前の食堂に連れて行かれた。食堂というより麺専門店で 日本の立ち食いそば屋に近い。西安は麺の街、様々な麺料理があるという。刀削麺(タオシャオミ エン)を食べる。その場で練った小麦粉の塊を包丁で削り、直接湯の中に投げ込む。スープもあっ さり味で全部たいらげてしまう。 3.兵馬俑坑博物館(ピンマーヨンカンポーウークワン) チャーター車に乗り込み、西安第 一の観光スポット「秦始皇兵馬俑杭 博物館」へ向かう。時間配分を考え て時間のかかる郊外へ先に行き、市 内で時間調整をしようと決めていた。 上海もそうだが、西安市内も道路 工事や地下鉄工事で道路が大渋滞し ている。隙を見て割り込む車や我慢 しきれず途中から引き返す車で、渋 滞が一層ヒドクなる。運転手もこの 道をあきらめ、高速道路に向かう。 始めから高速にすれば良いのにと 思ったが、車のチャーター代には全 ての費用が含まれているので、余計 な出費は避けたいのだろう。 1時間ほどで兵馬俑杭博物館に到 着する。入場代金を払うと近くに20 人ほどが乗れる電動カートが待機し ており、歩くと時間がかかるとガイ ドに言われ乗ることに決める。実際 に乗ってみると徒歩でも10分程度、 帰りは歩いて戻ってきた。兵馬俑自 体はテレビや雑誌で見ていたので、 それほど感動はないがその数には圧 倒される。すべて兵士と思っていた が、髷の形や兜の形で官僚や文民な ど数種類の俑があるらしい。大きな 体育館のような建物の入口付近から 半分ほどが発掘を完了し、出口近く では修復作業中の様子が見られる。 結構細かい破片をつなぎ合わせ一体 兵馬傭博物館入場ゲート。入口奥にはカートが待機している。 看板の井戸から兵馬傭が発見された。特別料金を払って下りる ことができる。一体一体の表情も異なっている。 ’ 10.1 41 一体完成させているようだ。 最後はお決まりのみやげ物店兼展 示館に連れられ、等身大やミニチュ アのレプリカも売られている。ここ で売られているレプリカは、ここの 土を使って焼かれたものらしい。館 外で売られている安物とは訳が違う ようだ。 4.秦始皇帝陵 (チンシーホワンティリン) 次は秦始皇帝陵へ向かう。道路沿 いにはザクロの露天が無数にある。 稜は小高い丘になっており、あたり 一面にザクロの木が植えられている。 それでザクロが名物になっているら しい。頂上に着くと四方を見渡せる のみで、登ってきた人も早々に立ち 去っていく。司馬遷の史記によれば、 この下には盗掘を恐れ水銀の池や、 機械仕掛けの弓矢が仕組まれている というが、中国を始めて統一した始 皇帝の偉大さと共に不気味さも感じ てしまう。 兵馬傭博物館(左)と秦始皇帝陵(右)の模型。位置関係がわ かりやすい。 5.華青池(ホワチンチー) 華青池は温泉地で、玄宗皇帝の愛 妃・楊貴妃が温泉に入りに来たこと でも有名だ。貴妃湯と書かれた建物 には、現在は湯船のみで温泉は入れ られていない。園内中央の九竜湖の 辺に身を傾けた、楊貴妃の白い像が 美しさを思い起こさせる。小部屋で は実際に温泉に入ることができると いう。また毛沢東の筆による長恨歌 や唐の詩人杜牧の碑も残されている。 秦始皇帝陵の頂上から。入口から階段で登るようになってお り、両脇にはザクロの木が多数植えられている。 6.大雁塔(ターイエンター)、 小雁塔(シャオイエンター) 郊外の見学地を後に、市内へ戻る。 日の入りも早いため、市内にある大 雁塔、小雁塔へと向かう。大雁塔は 玄奘三蔵がインドから持ち帰った経 典の保存と翻訳のために建てられた 7層の建物。現在、経典は残ってい 貴妃池の建物の中にある湯船。思ったほど大きくない。また、 何故かお金を投げ入れられている。 ’ 10.1 42 ないが、壁面全体に経典が積まれていたという ガイドの説明に納得する。 追加料金を支払い塔内に入る。塔の最上階か ら遠くまで見渡せ、いにしえの都の夕暮れを見 る錯覚に陥る。京都や奈良で感じる侘びさびと 似た感覚のためではないかと思った。今まで見 てきた中国の寺院は、どこへ行っても大味で、 建物が奥に幾重にも連なっているだけと感じて いたが、ここはちょっと違う。しっとりとした 感触が伝わってくる。暗くなる前に小雁塔へ向 かう。建物の形状が大雁塔に似ているので、こ こは外観だけ鑑賞し、追加料金を払うことなく ホテルに向かう。 7.西安の夜 ホテルは南門近くの日系ホテルを予約してあ る。大規模改修中で料金も割引中だとか。南門 がライトアップされると聞いて、夕食の時にで 大雁塔。玄奘三蔵がインドから持ち帰った経典を もゆっくり眺めてみようと思う。夕食は当地の 保管し、翻訳のために作ったと言われている。 名物料理の一つ、イスラム料理のヤンローバオ モーを食べる。インド料理のナンより硬いパン、 モーを出来るだけ小さく(ここが重要)ちぎる。これは食べる人の担当で、ちぎり終わったモーを 厨房に戻して、ヤンロー(羊肉)のスープで煮る。モーも柔らかくなり、薄い塩味のスープも美味 しい。西安は食の宝庫でもあったらしい。 今回は食べなかったが、パスタ似のトマト味の麺料理もあるらしい。食事を終えてホテルに戻る 途中、南門は明るすぎない程良い照明でライトアップされていた。そこを潜ると鐘楼が見えてくる。 時刻を知らせる鐘の音が聞こえてきそうだ。 (次回へ続く) 陽 乾県 礼泉 高陵 ● 西安咸陽 空港 兵馬俑坑博物館 ● ● 咸陽 興平 ● 華清池 秦始皇帝陵 小雁塔 渭 河 ● ● 大雁塔 長安 戸県 ’ 10.1 43
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