3 次元物体の遠隔地間共有システムに関する研究 菊川哲也 (ヒューマン

平成 22 年 2 月 16 日
大阪大学大学院情報科学研究科 マルチメディア工学専攻 博士前期課程修士学位論文発表会資料
3 次元物体の遠隔地間共有システムに関する研究
菊川 哲也 (ヒューマンインタフェース工学講座)
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はじめに
グループで会議をする際,文書や模型などを見たり触れた
りしながら行うことは多い.また,そのような会議が遠隔地
間で開かれる機会も増えてきている.
文書は FAX などで容易に遠隔地間で共有できる.しかし,
一つしかない 3 次元的な実物体を共有するためには,ビデ
オ会議などを利用したとしても,その立体的な形状情報は伝
わりにくい.あらゆる方向から見た画像を大量に送ることは
データ量の点で現実的ではない.形状データを予め送ること
も考えられるが,その場での形状修正には対応しにくい.
そこで本研究では,限られた視点から撮影した画像から任
意視点画像を生成できる信頼度マッピング法と,多人数共有
型立体ディスプレイ IllusionHole を組み合わせて応用するこ
とで,3 次元物体を遠隔地間で共有することができるシステ
ムを提案する.実物体を囲む複数人が自然な議論ができるこ
とと同様の環境を遠隔地にも同時に創り出すことを目指した
システムの設計と処理アルゴリズムについて検討した結果を
報告する.
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提案システム
2.1 概要
提案するシステムの概要を図 1 に示す.このシステムは,
物体を撮影し,その画像をもとにして遠隔地にいる利用者
の視点に合った画像を生成する撮像系と,利用者の視点位置
を取得しその位置に合った画像を立体表示する表示系から
構成される.撮像系には,信頼度マッピング法によって任意
視点画像を生成する処理系も含まれる.制御を司る PC-1 と
PC-2 がネットワークで接続されているものとする.
2.2 被写体の撮影
信頼度マッピング法で物体を任意方向から見た画像を生成
するため,その素材となる画像を撮影する.このためにはい
くつかの実現方法が考えられるが,今回は,撮影中は剛体で
ある物体を対象とすることとし,物体を水平面内で回転する
ターンテーブルと,図 2 のように鉛直方向に離れて配置した
2 台のカメラを用いて試作した.
ターンテーブル中央に被写体となる物体を置き,ある角度
回転させるごとに撮影する.この際,できるだけ撮影回数を
節約することが時間とメモリ量的には有効であるが,最終的
に生成される画像の品質とのトレードオフの問題も考慮する
必要がある.また,被写体と背景を区別する 2 値画像である
マスク画像を容易に生成するため,物体色に応じて背景色を
変更するすることができるように撮像系を試作する.
2.3 信頼度マッピング法によるステレオ画像の生成
信頼度マッピング法処理用 PC は,表示系においてユーザ
の視点位置を取得する度に,その視点に合ったステレオ画像
を GPU により生成する.
従来の信頼度マッピング法により生成される画像は,被写
体以外の背景が含まれていたが, IllusionHole では被写体の
みを表示する必要がある.そこで,マスク画像を用いた背景
除去処理を新たに加えた信頼度マッピング法を実装し,これ
を利用して被写体のみを表示する.
2.4 遠隔地での立体表示
表示装置には,直接指示可能で複数人に対して歪みのな
い立体画像を同時に表示できる IllusionHole を用いる.ただ
し,撮影装置側での複数人のインタラクションと同等のイン
タラクションを表示装置側でも可能とする必要がある.また
撮影装置と表示装置の将来的な一体化を目指す必要があるた
め,今回は両者のコンパチビリティを高めた筐体設計を行う.
そのため,従来の IllusionHole にあったプロジェクタ部の張
出しをなくした新たな光学系を持つ筐体を,2 台の短焦点プ
ロジェクタと円偏光フィルタを用いて設計する.この際,観
察方位によってステレオ画像の輝度差が大きくなり,クロス
トークも観察され立体視が困難であるという問題が生じるた
め,輝度補正を実装して表示する.
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実装結果
図 2 の実物体を 10 deg 毎に撮影した 72 枚の画像から信
頼度マッピング法によって別の新たな 2 人のユーザ視点のス
テレオ画像を生成し,輝度補正を加えて IllusionHole に表示
した例を図 3 に示す,
生成される画像の質について画質の客観的指標である PSNR
値を用いて評価したところ,ある視点におけるカメラ画像
と,その視点から信頼度マッピング法によって生成された画
像の PSNR 値は,25 dB 程度であった.
また,IllusionHole の周囲から 30 deg 間隔で中心から等
距離の 12 の視点から画像を観察したところ,ステレオ画像
の輝度差は全ての視点において 20%未満であった.一般に,
30%以上であると立体視が困難であると言われているので,
十分に輝度差を軽減できているといえる.
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おわりに
本稿では,3 次元的な物体を遠隔地間で共有するため,物
体を撮影した少数の画像から信頼度マッピング法を応用して
任意視点画像を生成し,遠隔地にある IllusionHole でステレ
オ画像としてインタラクティブに立体表示するシステムを提
案した.また,そのために新たに装置を設計し実装した.ま
たシステムの評価も行った.今後は信頼度マッピング法のさ
らなる高画質化や,装置の改良などを行う予定である.
撮像系
表示系
3次元トラッカのタグ
PC-1
PC-2
ネットワーク
撮影装置
表示装置
ネットワーク
処理系
信頼度マッピング法
処理用PC
4
3次元トラッカ
図 1: システム構成
(a) ユーザ 1 の画像
図 2: 撮像装置
(b) ユーザ 2 の画像
図 3: ステレオ画像の表示例