「スパイバープロジェクトに関する資料」 【合成クモ糸プロジェクト】

アントレプレナー概論 I 第 9 回
「スパイバープロジェクトに関する資料」
スパイバープロジェクトは、以下に示す2つのプロジェクトを中心に活動し、事業化を目指している学
生主体のプロジェクトです。本講では、以下に示した2つのプロジェクトの概要と事業化に向けた戦略に
ついてお話し、その問題や課題について議論したいと思います。また、スパイバープロジェクト立ち上げ
のエピソードや、講師である関山がとったキャリア選択についてもお話しようと思います。
【合成クモ糸プロジェクト】
— クモの糸をベースとした新規バイオ素材の開発と量産 —
クモの糸は近年その驚異的な性能が科学的に解明されつつあり、化学繊維に替わる天然素材とし
て注目されています。たとえば直径1cmのクモ糸は、ジャンボジェットを持ち上げることができるほど強い
といわれています。しかし、技術的・コスト的な課題が多数あり実用化には至っていません。合成クモ糸
プロジェクトでは、クモの糸をベースとした新規バイオ素材の実用化に向けて、バイオインフォマティクス
を活用してクモの糸をさらに高機能化した新規バイオ素材の開発と、枯草菌というバクテリアを用いた量
産システムを開発しています。
クモ糸の特性について:
地球上で確認されているクモの数は 3 万 4 千種以上あり,それらのクモは全て糸を紡ぐ.その内の半数
は網を張るが,残りの半数は網を張らない.その使用用途に応じて出糸突起と呼ばれる穴より種々の糸
を紡ぎ出す.生成される繊維の中でも Major ampullate と呼ばれる分泌腺から産生される牽引糸(縦糸)
と,Flagelliform と呼ばれる分泌腺から産生される横糸は高い強度と伸縮性を持ち,最も研究がなされて
いる.これらの繊維はナイロンを上回る堅さと強度,そしてケブラーやカーボンファイバーを上回る伸縮
性と強靭性を持っている.他の繊維素材と比較しても総合力の最も高い繊維素材であることが分かる
(表 1).また、特筆すべき特性のひとつとして熱的性質が挙げられる.クモの牽引糸には融点がなく,少
なくとも 200 ℃までは熱的に安定している.熱を加えると水分の蒸発に伴う重量の減少が見られるが,
300 ℃で黄変,400 ℃で黒色化するものの,600 ℃まで耐えうる.また,紫外線を照射したときの相対
的ラジカル強度の照射時間依存性についても,絹糸と比べ約 2~6 分の 1 程度と,紫外線に対しても劣
化しにくい.さらに,高い吸水性があることから,通常の合成繊維に比べ帯電しにくいといった特性もあ
る.もちろん生分解性(土に帰る)であるので、環境にも優しい.タンパク質、すなわちアミノ酸の組み合
わせで構成されるクモ糸は、その配列を改変することで更なる高機能化が可能であることが予想されて
おり、カスタムオーダー可能な次世代のバイオマテリアルとして期待されている.
表 1 クモ糸と他の繊維素材の特性比較
Material
Strength, σmax
Extensibility, εmax
Toghness
(MJm-3)
(Gpa)
ニワオニグモ 縦糸
1.1
0.27
160
ニワオニグモ 横糸
0.5
2.7
150
絹糸
0.6
0.18
70
コラーゲン繊維
0.15
0.12
7.5
骨
0.16
0.03
4
ウール
0.2
0.5
60
エラスチン繊維
0.002
1.5
2
レシリン繊維
0.003
1.9
4
合成ゴム
0.05
8.5
100
ナイロン繊維
0.95
0.18
80
ケブラー繊維
3.6
0.027
50
4
0.013
25
1.5
0.008
6
炭素繊維
スチール弦
【GenoMedia プロジェクト】
— DNAを用いた新規情報媒体「GenoMedia」の開発 —
GenoMedia プロジェクトでは、バクテリアのDNAにデジタルデータを保存するシステムを開発しまし
た。この新しい情報媒体「GenoMedia」の特徴は、①数億年間情報を安定に保存することができる、②
10,000 Tbyte/gという情報集積能(CD-ROMは21 Mbyte/g)、③宇宙空間などの極限環境での情報保
存が可能、④コピーはほぼ無限にほぼタダできる、⑤埋め込むチップの形状は自由自在(見えないくら
い小さくもできるし、色んな形に加工することもできる)、といった点です。しかし①データの書き込みが
高額(100 byteあたり6万円)、②書き込み、読み出しに時間が掛かる(それぞれ2〜3日を要する)、とい
った課題もあります。将来的にDNAコンピューティングが実用化した際、データ保存システムの基盤技
術となることが期待されています。GenoMediaプロジェクトでは、DNAコンピューティングへの応用のみな
らず、新規ビジネス創成に向け、新たなアプリケーションの開発を行なっています。
GenoMedia 参考ページ:
http://www.iab.keio.ac.jp/jp/content/view/128/1/
http://www.guardian.co.uk/science/story/0,,2018550,00.html
http://www.upi.com/NewsTrack/Science/2007/02/15/dna_might_be_used_to_store_various_data/6982/
【事前課題】
以下の2つの課題について、合計600字以内でまとめて下さい。どちらのケースについても、具体的に誰
が顧客なのかを強く意識しながら検討して下さい。
1. ケブラーの4倍の強度とナイロンの10倍の伸縮性を併せ持つ、次世代のスーパークモ糸繊維の量産
が可能になった時、どのようなアプリケーションが考えられるでしょうか。そのビジネスモデルとともに考え
て下さい。
2. GenoMediaの新しいアプリケーションおよびビジネスモデルを考えて下さい。