思い出の映像により自分の人生を辿る。

演台番号09-05
思い出の映像により自分の人生を辿る。
~過去から現在へとつながっているその人の姿に触れる~
発表者 グループホームてらど 副ホーム長 中村 洋子(介護支援専門員)
協同発表者
•  土井正樹(医師)
•  土井輝子(グループホームてらどホーム長)
検証対象者紹介
*T・Sさん
*82歳 男性
*同志社大学法学部卒 *農業畜産(乳牛)従事
*保育園理事、民生委員
家族構成
妻
本人
性格
夫としては優しい。父
としては厳しい。
責任感が強い。家の事
よりも地域のことを率
先してこられた。
長
女
次
女
疾患
1、右脳出血(平成23年1月発症)
左上下肢片麻痺、左空間無視、言語障害
2、脳血管性認知症
意思疎通(相手からの話はほぼ分かってられる)
意思表示(単語、短文は可能)
ADL
1、歩行困難(リクライニング車いす利用)
2、食事(家族による介助)
3、排尿(バルーン留置)、排便(おむつ)
映像による回想療法の目的
• 映像を用いた回想療法「思い出ビデオ」
により、その人の人生をさかのぼる。
• 利用者が過去の思い出を保持し、現在の
記憶の形成を補う。
• その過程で利用者の人間像を家族や介護
スタッフが再認識する。
そのことにより・・・・
• 家族関係が再構築される。
• 利用者の心が活性化される。
• 利用者の人間像や歴史を再認識すること
が出来る(パーソンセンタードケア)
質の高い介護の実現
映像による回想療法の方法
• 家族よりその方の昔の写真やビデオを集め
ていただく。
• 家族と一緒に、その人にとって思いが強い
であろう写真を選ぶ。
• 本人に写真を見てもらう。その表情を家族
と一緒に確認をしていく。表情を映像のプ
ロが撮影していく。
• 6回の映像による回想療法を繰り返す。撮
影されたデーターを医師、大学准教授、在
宅かかりつけ医、映像クリエーターにて考
察を行う。
京都府立医科大学
医師、老年精神医学
成本迅先生
京都工芸繊維大学
認知症の工学的支援
桑原教彰准教授
大阪大学
脳神経工学
朝田雄介さん
京都府立医科大学
臨床心理士
加藤佑佳さん
(株)ビジョンエース
映像クリエーター 二木義弘社長
在宅療養支援診療所 土井医院
院長
土井正樹先生
映像1回目
・ 同志社時代写真に対して⇒
見ているが問いかけに反応なし。
・家族写真に対して⇒
問いかけに口は動くが,言葉は聞き取れず。
・畜産(乳牛)業時代の写真に対して⇒
「牛は信州から連れてくる」「1頭15~16
万円」との言葉がある。
• 保育園理事時代の写真に対して
⇒「園長、大変やったな~」と家
族がおっしゃると・・・・
無言で涙ぐまれた・・・
• 妻と一緒の旅行写真に対して⇒
「バックして」と声を高くして
おっしゃる。それに対して同志社
大学時代の写真にもどすと学友を
見られて涙ぐまれる場面有。
映像5回目
• 保育園ビデオ映像で保育園の先生の
コメントに対して ⇒大泣きされる。
涙ぐまれることはあったが、号
泣にちかいような感情表現が見
られたのは初めてであった。
映像による回想療法の結果
1.  学生時代の写真に反応を示されたが、何度
も見るうちに効果は鈍くなった。
2.  畜産については反応が良く問いかけに対し
て発語があった。
3.  保育園時代が本人にとって強く記憶に残っ
ていることが確認できた。
4.  写真よりもビデオの方が感情表出が激し
かった。
5.  映像を実施する中で家族が本人に関わるこ
とで関係が修復された。
考 察
• 実施前は表情が乏しく発語も少なかった
が、実施中より、うなずきや口を動かす
ことも多くなる。「いつもすまん・・・」
と介護スタッフに対してお礼や断りを言
うことが日常的に見られるようになった。
そして、笑顔も見せていただけるように
なった。
• 映像による回想療法の取り組みにより、
本人の記憶が呼び起され、心の活性化に
つながったのではないかと思われる。
質の高い介護に向けて・・・
• その人の人生を辿る中でその人の生きて
こられた姿に触れることが出来た。その
人そのものを見ることが出来た。同時に
心からの尊敬の気持ちが持てるように
なった。
• その人らしさ、その人間性をしっかり見
ていくことが、本人の尊厳を大切にして
いくことなのだと確信した。
利用者とスタッフが人間対人間の関係
で向かい合い、
その人らしい生活を支
援していきたいと考え
る。