①感染性関節炎

平成 22 年 7 月 16 日
挾間副会長より
「関節痛を起こす疾患には」
①感染性関節炎、②変形性関節症、③結晶性関節炎、④自己免疫疾患:関節リウマチ、
SLE、
⑤血清反応陰性関節炎がある。
①感染性関節炎:まず感染症を否定する必要がある。
ⅰ)細菌性関節炎:突然発症。単関節炎のことが多いが、
a)非淋菌性:単に化膿性関節炎ともいわれるが、診断・治療が適切に行われた場合でも非可
逆的な関節破壊が起こることがあり、最初に否定すべき疾患。
b)淋菌性:性行為後の尿道分泌物などの症状が聴取できれば疑える。移動性多発関節炎・皮
膚病変・腱滑膜炎の三徴をきたすものと、非対称性単関節炎・多関節炎で発症するものがある。
腱滑膜炎は手関節・足関節・手指小関節を侵し、強い疼痛を伴う。
ⅱ)結核性関節炎:肺結核の既往がなくても考慮すべき。骨関節結核としては、脊椎カリエスが
最も多く、関節結核は少ないが、股関節の慢性単関節炎をみたらまず考える。はっきりした倦
怠感・微熱をきたさないことも多く、初期には原因不明の疼痛とされる。WBC は正常値を示す
こともまれでない。血沈値は中等度亢進が多く 50mm/h 程度とされる。100mm/h 以上の亢進で
は一般細菌によるものや混合感染を考える。CT は骨破壊像の検出に優れる。
ⅲ)ウイルス性関節炎:肝炎、ヒトパルボウイルス B19、風疹ウイルス、HIV 感染
肝機能検査、HBs-Ag、HCV-Ab、HPV IgM 抗体、HIV 抗体、HIV-RNA 定量などで検査。
ヒトパルボウイルス B19 は小児ではりんご病で有名だが、成人では急性の関節リウマチ様多発
関節炎を引き起こすことがある。発熱は比較的まれで、約 15%に顔面紅斑がみられる。
②変形性関節症:最も多く見られる関節疾患で老化と考えてよい。加齢により軟骨が磨耗、変
形し、反応性に骨新生と関節周囲の軟部組織が増生する疾患。高齢女性の膝、股関節に多
く、Xp 上、関節裂隙の狭小化、軟骨下骨の硬化像、骨棘の形成が特徴的。指では DIP に生じ
やすくヘベーデン結節と呼ばれる。休息により症状軽減するため、朝のこわばりはない。触診
では骨ばった硬さがあり、関節リウマチで見られる弾力性のある腫脹とは異なる。根本治療は
存在しないが、ヒアルロン酸の関節注射が有効なことがある。
(症例)75 歳女性。数年前より左膝痛を自覚。とくに立ち上がりや長時間歩行時に関節痛が増
強し、安静で改善していたが、1 年間で次第に疼痛が増強し、左膝関節が腫脹してきた。→左
膝関節腫脹があり関節液貯留。血液検査では炎症所見はみられず。膝関節 Xp では両膝の
関節裂隙の狭小化に加え、軟骨下骨の硬化像、骨棘がみられた。
③結晶性関節炎
ⅰ)痛風
中年以降の高尿酸血症のある男性に好発する急性の単関節炎。好発部位は母趾の付け根
や中足趾節間関節で、発赤は関節部位を越えて広がり、通常は 1-2 週間で自然消退する。確
定診断は、関節液中の尿酸塩の結晶を証明すること。発作時の尿酸値は正常のことも多い。
予防としては内服薬で尿酸値を調整し、発作時には NSAIDS やコルヒチンを投与する。尿酸値
を下げるには減量が有効。
(症例)56 歳男性。BMI 35 の肥満があり、メタボによるデータ異常のため通院中。最近残業が
続きストレスが多く、昨夜は宴会があった。起床後に右足の第 1MTP 関節内側の激痛が出現し、
歩くことができなくなった。第 1MTP 関節内側は発赤・腫脹・熱感・圧痛著明。血液検査では
WBC 9600↑、CRP 3.5↑、UA 7.5 で、軽度の炎症所見を認めるも尿酸値は正常範囲であっ
た。
ⅱ)塩基性リン酸カルシウム結晶沈着症
塩基性リン酸カルシウム”(BCP)という用語は“アパタイト”よりもはるかに正確である。この結晶
が、変性した軟骨や腱に沈着して発症する。結晶が沈殿するためには軟骨変性が重要である
ため、60-80 歳の高齢者での発生が多い。発作のないときには、通常の変形性関節症のような
病像をとる。痛みの起こりやすい部位は膝関節が最も多く、ついで手、足、股、肘関節など。発
作は 1~数箇所の関節炎が突然出現し自然に軽快するが、痛風より痛みは軽度。Ca 結晶塩
の沈着は Xp で軟骨部の点状、綿状陰影としてみられる。
(症例 1:偽痛風)75 歳女性。突然左首,左肩,左背中に疼痛出現。痛みは翌日にさらに強く
なり着替え,寝返りもできなくなったため3日目に外来受診。発熱なく、皮疹もない。左後頚部
筋肉には強い圧痛あり。CRP 2.5mg/dl↑、血沈 47mm/h↑。頸部 CT では環椎横靱帯に淡い
部分を含む石灰化がみられた。/これは一般的でない症例報告です。
(症例 2:石灰沈着性肩関節周囲炎)47 歳男性。3 日前から右肩がずきずき痛み、夜間に痛み
のため目覚めるとのことで受診。肩関節から腕全体にかけてほとんど動かせず、肩関節前面
の一箇所に著明な圧痛を認める。Xp では圧痛点に一致した部位の腱上に石灰の沈着を認め
た。/石灰沈着部(圧痛部)へのステロイド注入が有効。
ⅲ)シュウ酸カルシウム結晶沈着症
シュウ酸カルシウム結晶沈着は,血液透析や腹膜透析を受けている高窒素血症の患者で,特
にシュウ酸塩に代謝されるアスコルビン酸(ビタミンC)の治療を受けた患者に最も多く生じる。
④自己免疫疾患
ⅰ)関節リウマチ:中年女性に多い慢性多発性関節炎で、発症率は人口の 1%弱。全身の関
節が障害されるが、朝のこわばりがあり、持続性に手指の MCP 関節、PIP 関節を中心とした対
称性の関節痛、腫脹が認められる。触診では、圧痛、弾力性のある滑膜が触れる。関節炎が
慢性化すると関節破壊が生じる。最近では抗 CCP 抗体が測定可能となり、関節破壊前に診断
がつくようになった。MTX(リウマトレックス)や、近年では TNF-α阻害薬(インフリキシマブ)などの生物
学的製剤に使用により関節破壊の進行を回避し、寛解を目指せるようになった。
(症例)54 歳女性。6 ヶ月前より、手指の朝のこわばり、足底部の不快感を自覚するようになっ
た。3 ヶ月前より、右第 2 指の PIP 関節の疼痛が出現し、さらに左第 2,3 指、左右の手関節の
疼痛とともに、紡錘状の関節腫脹を伴うようになった。微熱が出現し、日によって関節症状の
変動がみられ、朝のこわばりは 2 時間を越えることが多くなった。
→圧痛を伴う左右対称性の関節腫脹はあるが、Xp 上、明らかな関節破壊所見はみられなか
った。血液検査では CRP 2.1mg/dl↑、血沈 35mm/h↑、リウマトイド因子(+)、抗 CCP 抗体(+)
であった。
ⅱ)SLE(全身性エリテマトーデス)
(症例)36 歳女性。海水浴後、顔面と頚部に赤い皮疹、および手指の関節痛と微熱を認めた。
皮疹は改善傾向にあったが、微熱が続き全身倦怠感に加え脱毛も出現し、関節痛が増強して
きた。WBC 2800/mm3↓、RBD 460 万、血小板 12 万/mm3、血清補体価↓、尿蛋白(+)、抗核
抗体(+)、抗 ds-DNA 抗体(+)。
⑤血清反応陰性関節炎
血清反応陰性関節炎(seronegative arthritis)は、亜急性に関節炎を発症し、関節内に菌が認
められず(化膿性関節炎ではなく)、その上リウマトイド因子が陰性である疾患群のこと。
欧米人の患者では共通の遺伝的背景(HLA-B27)をもつことが多い。また関節の中でも脊椎
に特徴的に関節炎をおこしやすい。確定診断といえるものはなく、診断は困難である。反応性
関節炎と呼ばれることもあるが、これはより狭義の病名にも使われるのであまり適切ではない。
代表疾患
ⅰ)強直性脊椎炎 (Ankylosing spondylosis; AS)
股関節、仙腸関節、肩関節、膝関節などの体幹に近い大関節が侵されることが多く、骨性
強直になりやすい。一般的に男性では脊椎症状が、女性では関節症状が前面に出ることが多
い。
ⅱ)反応性関節炎 (Reactive arthritis; ReA)
以前はライター症候群と呼ばれ、結膜炎、非淋菌性尿道炎(腸炎)、関節炎を主症状とする疾
患で、尿道炎や腸炎に続発する無菌性関節炎でHLA-B27陽性である。感染のエピソード後2
‐4週後に膝、足関節に発症することが多い。AS様の仙腸関節炎や、時に多発関節炎をきた
す。
a)腸炎(赤痢菌、サルモネラ、エルシニア、キャンピロバクターなど)後のもの
b)尿道炎(クラミジア・トラコマティスなど)後のもの
ⅲ)乾癬性関節炎(関節症性乾癬、Psoriatic arthritis)
指のDIP関節に好発するのが特徴で、爪の変形を伴うこともある。脊椎炎を伴うものは
HLA-B27と関連があるといわれている。
ⅳ)腸疾患性関節炎 (Enteropathic arthritis)
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)に伴うもの。大関節に多く発生し、移動性で数週
間で消退し後遺症を残すことはまれ。末梢関節炎型と脊椎炎型があり、脊椎炎型では
HLA-B27と関連があるといわれている。