川端ゼミ 卒論の書き方のヒント 川端基夫 0:はじめに 卒論の出来は、これまでどれだけ「まともな学術論文」を読んできたかで決まる。と にかく、良い論文をどんどん読んで、それらから「見習うこと」が一番の勉強。50で も100でもよいので、どんどん目を通して「論文形式」に慣れること。なお、論文は、 必ずしも全部読まなくてよい。「はじめに」の書き方、論理の組み立て、話の流れ、分 析の手法、図表の整理の仕方、引用の仕方、注の付け方、結論の書き方、文献リストの 書き方など、参考になる「形式」を学ぶことが重要。 したがって、必ずしも自分の関心に合って無くても 、どんどん乱読すべき。 ☆参考にすべき論文集: 『流通研究』、 『消費者行動研究』、 『経済地理学年報』、 『地理学評 論』などの学会誌がベスト。その他、 『マーケティングジャーナル』や各大学の紀要な ども参考になるが、これらは論文によって水準の差が大きいのが難点。 1:テーマを探る (1)問題意識との出会い・・・・出発点(きっかけ)は以下のようにいろいろある。 ①素朴型:ふと疑問に思ったことを調べてみる。興味のあることを調べてみる。 調べ方が浅いと小学生の宿題。しかし深く調べていけば大きなテーマを発見する こともある。 ②文献模索型:興味のある問題に関する文献をあれこれ読む中で手つかずのテーマ を探す。文献や論文を読み込む中で、まだ手が付けられてない未開拓の課題・領 域を知ることもできる。 ③データ・資料型:興味深いデータや資料との出会いから、それが利用可能なテ ーマを探す。 ④体験型:自身が体験した出来事を題材に最近生じた出来事(報道など)から探る。 (2)本物のテーマとの出会い 最初から「本物」のテーマに出会う人は少ない。 とりあえず1つの仮テーマを決め てやっていくうちに、 「本物」のテーマに出会うことも多くある。調査をして理解が 深まる中で、テーマを変える人も多い。重要なことは、 「始めること」である。悩ん でいるだけでは何も始まらない。 2:論文の「目的」の設定 論文とは、「一般的な理論」「一般的な法則性」「他にも適用可能な要因・戦略 」の導 出が目標となる。したがって、たとえ個別事例の分析をしても、その事例 だけに終わる のでなく、結論的に一般化が目指されなければならない。「はじめに」で書く問題意識 や意義においても、この分析がどのような「一般化」「他への応用」につながるのかが 書いていなければならない。個別事例の解明だけでは無意味である。 何をどこまで明らかにするのかは、とりあえず設定して、最終的に見直せばよい。 3:論文のタイトルの表現方法 【悪い例】 「○○について」=これは小学生のエッセイか社会科の「調べもの」のタイトル 「なぜ○○は××なのか」=これは週刊誌の記事、ビジネス書のタイトル 、ビジネス エッセイの類のタイトル(学術論文としてはNG)、サブタイトルとしては可能かも。 「○○社の経営戦略」=特定の企業の戦略を調べるなら、君たちが調べなくてもその 会社の経営者に聞けばもっと正確によく分かるので 、論文自体が無意味。 「○○と××」=単にキーワードが並んでいるだけで「関係」性が不明瞭 【良い例】・・・タイトルは最後に決定すればよいので仮に決める程度で 「○○の××性に関する研究(一考察)~近年の高齢化との関係から~」 「○○における××の可能性~××の視点から~」 「○○が××に与える影響~大阪市△△商店街を例に~」 などタイトルを見れば内容や分析の観点が分かるように書く。ゼミHPで先輩達の 例を見ておくこと。 4:先行研究を分析する 文献を探すことは、「答え」を探すことではない。誰かが既に分析していることなど、 今さらやっても仕方がないからである。とはいえ、これまで、そのテーマに関してどの ような研究が行われたのか、誰が何を分析しどのような結果を出したのか、それは納得 出来るモノか、何がやられて何がやられていないか、それを整理しておくことは重要で ある。それを基に、自分の論文の位置づけや意義が決まるからである。 先行研究は、広く見渡すことが重要である。自分のテーマに関するものだけを拾い上 げるのではなく、考え方や分析手法など関連のありそうなものは目を通しておく。 5:何を参考にするか(文献リスト) (1)データベースを利用する ①図書館のデータベース(大学だけでなく公的図書館や専門図書館を利用) ②本のデータベース(Cinii,amazon , BOOK PLUSなど) ②論文と雑誌記事のデータベース(Cinii,MAGAZIN PLUS) ③新聞記事のデータベース(日経テレコン、聞蔵など) ④英語文献のデータベース (2)文献・資料の種類 単行本、学術論文、雑誌記事、白書、統計書、社史、調査報告書、新聞、有価証券報 告書・アニュアルレポート、決算(株主)説明会資料、会社案内など。できるだけ、多 様なものに目を通すこと。 基本的に WEB サイトは誤りや嘘も少なくないため信頼のあるページしか引用できな い。また、修正や更新も頻繁に行われるため、いつの時点の情報なのかを明記しつつ利 用することが重要。使用可能なページは官公庁のページ、企業の公式ページ、業界団体 (協会)のページ、大学・公的研究機関のページ、研究者の個人ページなど。一方、ウ ィキペディア・はてな、個人ブログのようなものは避ける。→参考にはしてもよいが引 用はしてはいけない。必ずもっと確かな資料で裏付けをとること。 WEBで見つけた資料は、それがどのようなものであるのか(誰がいつ何年に書いた ものか)を明確に。個人的なブログや根拠のない資料・データは使ってはならない。 →「文献リストの作成法」(ゼミHPに掲載)を必ず参照すること 6:組み立て(構成・話の流れ)を考える 基本的には大きなところから、具体的な話、細かな話に絞り込んでいく。論理的に展 開していくプロセスを考えることは非常に難しい。具体的な企業を取り上 げる 際に は、 その業界の分析から始める必要があるし、具体的な商店街や商業集積を捉 える 場合 は、 それらの全国的な動向を抑えておく必要がある。業界全体や全国での動向の中で、対象 とする企業や商業施設を位置づけた場合、どういう特徴があるのかを明らかにしておく こと。それは、「なぜそれを研究対象として取り上げたのか」を明らかにすることに他 ならない。なお、具体的な地域を取り上げるなら、その地域の地図は 必ず 必要 であ る。 研究対象地域の地図は、それがどこにあるのか大まかな位置を示すものと、対象エリア の詳細な地図との2種類は必ず必要。 話の流れには「飛躍」があってはならない。各章の内容が順序よく関係し合っている こと(前の章と後の章とが断絶していてはダメ)。 7:引用の仕方、図表の出所 論文は、根拠を示しながら書くのが基本である。根拠が無い話は、エッセイ(随筆) か感想文に過ぎないのでNG。したがって、自分で考えたことなのか、誰かの文献や資 料から引用したことなのかの区別を必ず付けておく。 例1:本文中で他者の論文を引用する場合。 「・・・・この問題については、川端(1997)が①・・②・・③・・④・・の4つ の視点からすでに整理している(同書 pp.36~39)が、ここではそれをベースに 6つの視点から整理を試みたい。」 例2:図表の出所の書き方 出所:中小企業庁『中小企業白書 2013 年版』図 3-12 を一部改変。 出所)川端基夫(2009)、p.67、図1に筆者加筆 など、具体的な頁や図表番号をきちっと書くこと。また、図表をそのままコピー利 用するのではなく、必要な部分だけを使って自分で再整理して 使うことが望ましい。 その場合は、上の例にあるように「一部改変」「筆者加筆」などと記す。 8:論文を書く際の基本ルール (1)文体は「です」「ます」体は使わない 「る」 「である」体を使うのが原則。雑誌やビジネス書で見かける「~なのだ」とい う表現(バカポン語)も論文では使わない。 (2)主語は書かない 主語は記さずに、単に「~と考えられる」 「~と思われる」と受け身的に書く。どう しても主語を入れたければ、 「筆者」という語を使う。例: 「筆者の経験によると・・・・」 「筆者が調査を行った日は・・・・・」など (3)「~と思う」「~だろう」は使わない 論文は個人的な感想や想像を書くものではなく、客観的に述べるものだから。した がって、論文は、原則的に根拠を示しながら断言するのが理想である。できるだけ、 曖昧な表現は使わないようにすべきである。しかし、断言するためには相当の証拠を 示す必要があるので、分析の結果を述べる場合などは、ある程度は曖昧さを含んだ表 現となる。とはいえ、論文は感想文ではないので、単に「~と思う」といった個人的 な感想表現や「~だろう」という憶測表現は使わない。論文の場合は「~と思う」で はなく、 「~と考える(考えられる)」 「~と言える(と言えよう)」とする。また、 「~ だろう」ではなく、「~と言ってよかろう」「~と考えてよかろう」などと妥当性に対 する判断を含めた表現を使う。 また、誰か他の人(学者や企業人、あるいは新聞など)が言ったことであれば、 「~ とされる」 「~といわれる」と書く。その場合は、注をつけて誰がどの論文や記事でそ う言ったのかという出所を必ず明記しておくこと。事実なのか、著者の推測なのか、 誰かが言ったことの引用なのか、他人の推測なのか、の区別を明確にすることが重要。 (4)「・・・、そして・・・」という接続詞は使わない 論文は論理的な文章であるから、たとえば「まず・・・・、次に・・・・、さらに・・・・」 と順序立てて話を展開したり、 「~については2つの要因がある。1つ目は・・・。2 つ目は・・・」と整理をしつつ話を進めることが望ましい。 「そして」というのは、単 純に出来事を順につないでいるだけなので使わない。小学生の日記のような文章にな るため。 (5)雑誌のような文章は NG 例: 「今や、暮らしの中の日常風景の一部となってしまったネット販売。しかし、そこ には大きな落とし穴もある。」 改善例: 「ネット販売ビジネスは、今や消費者にとって日常風景の一部と言っても過言 でないほどにまで普及してきている。しかし、一方でネット販売ビジネスには多 様な問題が存在している。」 (6)段落を付ける 読みやすい文章とするために、内容的なまとまりごとに段落を付ける。目安として は、200-400字ごとに段落を付けることが望ましい。段落をうまく使うと、内 容的なまとまりが通じやすい論文になる。 (7)注をうまく使う 本文で記述したことの「補足説明」は、注を付けて欄外に記述する。 例)用語の説明、人物や企業の説明、資料の説明、データの説明、年次の説明、 調査の補足説明など。 (8)NGワード 「なので」で始まる文(→「したがって」「よって」と書く) 「○○だ」「○○なのだ」(バカポン語) 「○○です」「○○と思います」(小学生語)(→「○○である」「○○と考えられる」) 「私たちは・・・」「私は・・・」(→「筆者は・・・」) とりあえず、以上。この先は、個別に指導する。
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