8.中学部<音楽グループ>

平成27年度
中学部
音楽グループ
チーフ:佐藤
由佳
発表者:小川 英俊
1 グループテーマ
『音楽の授業における理解支援と合理的配慮』
2 テーマ設定の理由
本校中学部の音楽科は、特別支援学校学習指導要領に基づき、歌唱・身体表現・器
楽・鑑賞の4観点で構成された授業を行っている。これまでの一例として、呼名の曲
からはじまり(歌唱)、和太鼓を叩き(器楽)、J-POP に合わせて体を動かし(身体
表現)、最後に季節の曲を聴いて(鑑賞)クールダウンというテーマに一貫性のない
流れが一般的であった。明星大学教授の小貫悟氏によると「生徒が主体的に考え続け
授業を理解するためには、学習内容の本質を見極め、ねらいを焦点化する必要があ
る。」また、
「場、時間、展開を構造化することで焦点化したねらいがより生徒に伝わ
りやすくなる。
」という。場、時間の構造化に関しては昨年度までの研究で取り組み、
授業の参加という点で成果があり引き続き行われている。今回は「ねらいの焦点化」
と「展開の構造化」に重点をおき、授業を UD 化することでより理解できる授業を行
うことができるのか検証する。
3 グループの重点的取り組み内容
①ねらいの焦点化
1時間の授業の中で達成するべき目標を一つに絞るという考え方。毎時間のねらい
は一つに絞り、その時間で何を学んだのかを生徒が理解するための手助けとした。
②展開の構造化
今回特に力を入れて取り組んだのは展開の構造化である。まず「導入」
「展開」
「ま
とめ」の構造を確立させる。さらに、
「展開」を二つに分け、
「展開Ⅰ」で生徒の心が
動くしかけ(以降「山場」とよぶ)を想定し、「展開Ⅱ」で理解を深められるような活
動に取り組んだ。
③合理的配慮
抽出することで授業の視点が豊かになるという生徒に着目し、その生徒が授業に参
加し理解できる支援方法を考えた。抽出生徒を学年のリトマス紙的存在としてとらえ
ることで、その生徒が授業を理解できるような支援が他の生徒にとっても有益な支援
になることも期待できる。
4 研究の方法及び経過
<方法>
①映像を用いて取り組み以前の現状報告、情報共有
②授業の参加、理解に困り感を持つターゲット生徒の決定
-中・音楽 1-
③小貫悟氏の研修会で提示された資料をもとに指導案作成・検討
④模擬授業(学年を越えた情報共有)
⑤ビデオを用いて報告、PDCAサイクルにより改善を重ねる。
<経過>
6月:テーマ、研究方法、対象生徒の検討
7月:現状をビデオ報告
→うまくいっていることや困り感の情報共有、UD化された指導案検討
8月:模擬授業をグループ内で公開、検討、改善
9月:実践をビデオ報告、検討、改善
10月~12月:各学年でPDCAを継続、グループ研究の日に報告
1月:まとめをもとに振り返り、考察
5 研究の実際
(1)授業構成について
①題材名について
授業の中で心が動く体験を得るためには、生徒の実態を踏まえ、何を成長させたい
のか、どこを成長させられるのかを考え、魅力ある題材を設定することが大切である。
②焦点化のポイントについて
ねらいを明確にすることで、本質にしぼりこむ授業を実践することができる。ねら
いが広すぎると、内容が散って右往左往してしまい、生徒にとって何を学んだのか理
解しにくい。
③UD 化した授業の展開構造について
〇導入部分(つかむ・見通す)
生徒に今回の授業のめあて(生徒にとってのねらい)を意識させる場面。また、
生徒を授業に引き込むためには、モチベーションをあげる仕掛け(アンカーのうち
こみ)を用意することが大切である。
〇展開Ⅰ(☆山場 考える・気付く)
「めあて」を達成する「山場」(心が動く瞬間)を想定し、構成する。「山場」で
の感嘆詞を思い浮かべながら、どのような活動をさせたら心が動く瞬間を迎えられ
るか考案し、後半の授業につないでいく。
〇展開Ⅱ(深める・広げる)
「山場」で獲得したものを、次の展開で活用することで、理解を深め、広げるこ
とができる。ここまでに得たことが、焦点化したねらい(教員にとっての)の達成
になるよう活動内容を設定する。
〇まとめ(ふりかえる)
授業の振り返りを行い、授業のねらいを確認する。今日の授業で何を学んだか、
生徒が明確に答えられるならば、わかりやすい授業が行えたことになる。
-中・音楽 2-
④授業構成を工夫した成果と課題
これまでの授業から、授業構成を意識し展開の構造化を図った成果とは何か考察する。
⑤合理的配慮
抽出することで授業の視点が豊かになる生徒に着目し、その生徒が授業に参加し
理解できる支援方法を考えた。
(2)1年生の取り組み
①題材名:
『ペルシアの市場にて』
この曲はいくつかの場面に分かれており、それぞれ曲調が異なる。また、スト
ーリー性がある。1 学年の生徒たちは曲調、あるいはストーリーからイメージを
膨らまして表現(歌唱、器楽、身体表現)をすることが得意であるため、その幅
を広げたいという願いからこの題材を設定した。
②焦点化のポイント
授業ごとに「ねらい」と「めあて」を1つずつ設定した。
ねらい
めあて
第1回目
場面ごとの曲の違いに親しむ。 「アレっ?かわった!」
第2回目
お店屋さんの場面に親しむ
「ペルシアのお店屋さん」
第3回目
王女様の場面に親しむ。
「王女様が来た!」
第4回目
道化師と蛇つかいの場面に親 「道化師と蛇つかいになろう!」
しむ。
第5回目
王様の場面に親しむ。
「王様の登場」
第6回目
好きな場面を選び自分なりに 「今日も楽しいペルシアの市場」
工夫をしながら表現できる。
小学部までは「器楽」
「歌唱」
「身体表現」
「鑑賞」とそれぞれ異なる曲で行ってきたが、
『ペルシアの市場にて』の曲に全ての要素を取り入れることで、その時間に生徒が何を
学習したのか、より理解できるようにした。
③UD化した授業の授業構成
○導入部分(つかむ・見通す)
アンカーのうちこみとして『ペルシアマン』(図1)
を登場させ、モチベーション高めた。また、本時の
めあてを文字と絵で視覚化(図2)し、提示した。
図2
-中・音楽 3-
図1
○展開Ⅰ(☆山場 考える・気付く)※以降、第 1 回目の授業を具体例とする。
「あれっ?かわった!」をめあてとし、曲想の変化を感じ取った瞬間を山場とした。
また、その客観的評価基準として「変化に応じて小道具を変えた」
、
「変化に応じて
動きが変わった」
、
「変化に応じて楽器の演奏の仕方が変わった」等を設定した。
○展開Ⅱ(深める・広げる)
それぞれの場面について絵カード(図 3)を見せながら物語調に説明をし、生徒
が好きな場面を選んでスカーフなどの小道具や楽器(図 4)を用いて自由に表現す
ることで「場面ごとの曲の違いに親しむ」というねらいが達成できるようにした。
図3
図4
○まとめ(ふりかえる)
予定やめあての絵カードを基にふりかえりを行った。何人かの生徒には視覚的
に提示する前に、活動内容やめあてを言語化できるよう問いかけを行った。
④授業構成を工夫した成果と課題
以上の取り組みにより、生徒一人一人の表現の幅が広がった。特に『ペルシア
の市場にて』の曲を授業の中で繰り返し行ったことにより、鑑賞で曲の背景を知
ることで身体表現に幅が出たり、器楽でリズムをとれるようになったり、歌唱で声
が出るようになったりした。他の題材でも活用できるようにしていきたい。
⑤合理的配慮
ターゲット生徒の実態
陽気で積極的に物事を楽しもうとする生徒。しかし、ひょっとしたはずみで
過度に緊張してしまって、言葉が詰まったり、活動が停止したりすることがあ
る。また、見通しが持てない時には無表情になって反応を拒んでしまうことも
ある。生徒が持つ感性や表現力を引き出しながら授業に対して積極的な側面が
出せるようになるとよい。
目標
「ペルシア」の市場におけるいろいろな役の体験を通して、積極的に授業に参
加して楽しめるように、合理的配慮を工夫した。
-中・音楽 4-
合理的配慮の実践・結果
実践
結果
授業の準備から参加し、展開をあらか 授業展開に見通しが持て、より積極的
じめ知る
に授業に参加。
楽しい雰囲気を作り、自信を持って授 楽しそうな雰囲気に押されて積極的な
業に臨めるように話を盛り上げる
参加となった。
仲の良い友達の活動に注目させる
自分が感じたイメージを具体的に表現
する活動が活発になった。また、友達
の表現を自分にも取り込んで体現する
ようになった。
耳元でささやいて活動を促す
照れが強く、かえって活動を押しとど
める結果となってしまった。
課題
結果としては、ペルシアマンを引退した教員に代わって一番にペルシアマン
に立候補することができた。しかし、すべてのシーンで積極的になれたわけで
はなく、見通しの立つ、楽しい雰囲気を感じられるときだけにとどまってしま
う傾向は残っている。雰囲気に臆せず、自分を出せるようになるには、成功体
験の積み重ねが大切で、合理的配慮によって積極性を引き出して、何事にも自
信をもって臨められるような経験の実践が求められている。
(3)2年生の取り組み
①題材名・・・
「龍神太鼓」
生徒は音のなる物への関心が高い。龍神太鼓はゆっくりしたテーマから速くなっ
ていき、最後は全員で大きく激しく叩いて終わるものである。この単元を通して一
つの和太鼓から様々な響きを感じてほしいという思い、また、仲間とリズムを合わ
せる楽しさを味わってほしいという思いから題材を設定した。また、生徒たちはお
祭りが好きで半被など普段着ないものを身に着けることを好むため、練習を重ねる
中で半被を着る場面を作り、生徒の関心を高めた。
②焦点化のポイント・・・和太鼓の響きを感じる
③UD化した授業の授業構成
○導入部分(つかむ・見通す)
「何の音」で和太鼓を使用することでモチベーションを高めた。
また半被を着たMTが上手な和太鼓の叩き方の見本をする際、響きを感じている姿
を視覚的に表現することで「何をしているのだろう?」と期待感を持てるようにし
た。
(アンカー)他に、和太鼓をたたいている横で風船を持つことで振動(響き)を
感じられるようにした。
(図5)
-中・音楽 5-
図5
図6
↑
この波線が和太鼓を叩いたときに感じる「響き」
○展開Ⅰ(☆山場 考える・気づく)
風船を持ったときに感じた振動を言葉で表現することが難しかったため、波線
と直線を書いたものを提示することで視覚的に表した。
(図6)
○展開Ⅱ(深める・広げる)
龍神太鼓のリズムに合わせて仲間と体全体で響きを感じながら和太鼓を叩く。
(共有化)毎回テーマにヴァリエーション(変奏)を加えることで(大きい音、
小さい音、様々な奏法)和太鼓の豊かな響きや特徴を感じ取ることができるよう
にさせる。
(図7)
○まとめ
振り返りで、本日何を行ったのかを全員
で確認する。また、本時のポイント「響き」
図7
を確認。上手な生徒には前に出て発表した
り、半被を贈呈することで自分も上手にな
↑リズムを可視化
ると前に出たり、半被が着られるという期待感を持たせるようにした。
④授業構成を工夫した成果と課題
和太鼓の響きを具体的に感じ取ることができるようにするため展開1では風船を
用い振動を身体で感じ取れるよう設定した。各々感じたことを波線で視覚化するこ
とで、これが和太鼓の響きだということを言語化して伝え、めあてを明確に達成す
ることができた。展開では、獲得した和太鼓の響きを味わいながらテーマ→5つの
ヴァリエーション→フィナーレを発展させ「龍神太鼓」の演目を仕上げていくこと
ができた。しかし、一回の授業で一つのリズムを取得できる生徒とできない生徒
の差が出てしまった為、習得できない生徒への配慮が今後の課題である。
⑤合理的配慮
ターゲット生徒の実態
和太鼓は夏祭りなどで目にしたり叩いたことがあったようで、授業への興味・
関心は高い。
リズム感もあり興味を持って取り組めているので正しいリズム打ちができそ
うではあるが、前に出ることを渋る場面があったり、前に出ると気持ちが高ぶ
りバラバラな自己流のリズムで叩いてしまうことが多い。
-中・音楽 6-
目標
周りと合わせて正しいリズムで和太鼓をたたくことができる。
合理的配慮の実践・結果
実践
結果
待ち時間や練習時に太鼓の写真を見 ・写真では本人の欲求を満たすことが
せて、太鼓に見立て叩く練習を行う。 できず、効果はなかった。
見守り
・常に「自分がやる」と言葉や姿勢を
示し、前に出ようとする場面が多くみ
られた。しかし結果出るとめちゃくち
ゃなことが多かった。
授業前の休み時間に思う存分自由に ・だいぶ発散された感もあり、授業へ
太鼓をたたく。徐々にリズムが合うよ の積極性も見えた。しかし長続きせず
うに見本や言葉かけで修正していく。 途中で飽きてしまう様子が見られた。
待ち時間が多いと難しい。
だいぶリズムが刻めるようになって ・授業前の練習でうまくいくこともあ
きたため、和太鼓の枠をたたく「カッ ったが、正規の「ドーン」が鳴らした
カ」の部分で太鼓の向きを教員が変え く、向きを変えても正面を打ちたがる
て、叩く位置を意図的に変える。
場面がみられる。
授業以外の日常生活の中でも一緒に 本人が『太鼓』のまねを要求すること
リズムを口ずさむ場面や、手で机をた が多く、いくつかあるバリエーション
たくことを行う。
の中から1つを一緒に楽しみながら行
っている。その結果授業内でもリズム
が合うことが増えたように感じる。
課題
練習では理解しうまくできているリズムを授業内でも叩けるよう、モチベーシ
ョンを上げつつ高揚させすぎない程度にうまく気持ちを持っていけるように
していく。授業であることと、発表の意識を持って取り組めるようにする。
(4)3年生の取り組み
①題材名『ワルツ』
「象」「花のワルツ」「子犬のワルツ」の3曲を題材にワルツの優雅さや拍子感を
感じたり表現を行ったりする。
(図8、9)3 学年の生徒たちは音楽に耳を傾けたり、
音楽に合わせて身体を動かしたりすることを得意とする生徒が多くいる。授業の内
容(この単元ではワルツ)に関心を持ったり、感じ取り理解したりすることで新たな視
点で音楽を捉え、楽しみ方がより高度になったり深まったりすると考える。心で感
じることのできる幅を広げたいという願いからこの題材を設定した。
-中・音楽 7-
←曲のイメージを→
可視化する。
図8
図9
②焦点化のポイント
ワルツの特徴である「3拍子」に焦点を定め、
「ズンチャッチャ」という合言葉を
統一して活動の中で使用した。単元の流れのどこをとっても「ズンチャッチャ」の
リズムをベースに活動を組み、見る活動・身体を使ったリズム打ち・スカーフを使
った身体表現など活動の種類を複数にして個々の切り口に合ったものから順に馴染
み、理解できるようにした。
③UD 化した授業の展開構造について
〇導入部分(つかむ・見通す)
生徒が音楽室に入室してから授業の開始前まではBGMとして本時で鍵となる曲
を流し、耳馴染みを良くしたり期待感をもたせたりする。
アンカーの打ち込みとして題材となっている「象」を主人公にした小劇を見なが
ら曲調テンポ感を味わう。
(図10)
〇展開Ⅰ(☆山場 考える・気付く)
めあて:
「ズンチャッチャッ」ってこんな動きなんだ!!
教員が象の鼻に見立てた腕を「ズンチャッチャ」を感じ取りやすい振りで踊り、様
子をつかめた生徒から順に参加していく。
図10
図11
〇展開Ⅱ(深める・広げる)
ゆったりとしたテンポを味わいつつ、ワルツの特徴を丁寧に感じ取る。確認・認
識・整理するために全員で同じ動きで行う。スカーフを使って言葉のリズムを可視
化し(図11)、
「ズンチャッチャッ」のリズムを捉えやすくした。
〇まとめ(ふりかえる)
授業の各活動を 1 コマずつ道具と共にハイライトで確認する。そのときにどの活
動でも「ズンチャッチャ」が登場したことに気付くこともねらう。
-中・音楽 8-
④授業構成を工夫した成果と課題
活動の内容は、複数あるが、ねらいは共通しているので、生徒にとってつかみやす
いものから入り、ねらいに辿り着くことができた。
支援側の視点では、ねらいが「3拍子」に定めてあることが決まっているため、教員
の支援の上で、動きを変に強いることがなく、子どもにとって感じとった形を表現す
ることをきっかけにワルツを理解できた。
⑤合理的配慮
ターゲット生徒の実態
興味・関心の幅が狭く、活動を理解し且つ興味を示した上で初めて自主的に活
動に参加する。
目標
自主的に参加しようとする。拍手をして喜ぶ等の反応をする。
合理的配慮の実践・結果
実践
結果
楽器を鳴らす活動において、リズム良 ツリーチャイムやスネアドラム等の音
く隣の生徒に手渡せる小さな楽器を 色に特徴のある楽器を使用すること
用いることが多かったが、生徒 C が興 で、本生徒を含め多くの生徒が積極的
味を示す様々な楽器を活用すること に参加している様子が見られた。
で活動への関心を引いた。
メインティーチャーの得意分野であ キレイな響きを聴くことで、演奏した
る楽器を用いて、演奏をすることで関 い意欲を引き出すことができた。本生
心を引いた。
徒を含め多くの生徒が意欲的に活動す
ることができた。
注目を引きやすい映像を用いて、曲の 拍手をして喜んでいる様子が見られ
鑑賞を行った。
た。イメージにつながったのか、次の
活動の受け入れがスムーズであった。
一つの授業の中で、繰り返し同じ曲を バレリーナが回転する映像を鑑賞後、
用いて、鑑賞や身体表現を通して活動 自らが曲に合わせて回転する活動を設
のねらいを理解できるようにした。
けると、曲になじみがあったこともあ
り、少しの身体支援で積極的に活動に
参加した。
身体表現や器楽において、身体支援を 大きな声を出して怒ったり、離席をし
行う。
たり、寝たふりをしたりする。
課題
本時では積極的に楽器に触れようとしたり、身体表現を行ったりする様子が見
られたが、あらゆる授業においてねらいを理解して行うことはまだ難しい。
-中・音楽 9-
6 まとめと今後の課題
(1)研究のまとめ
昨年度、授業の UD 化モデルの「参加」について研究を進めたので、今年度は「理解」
について考えた。特に「ねらいの焦点化」と「展開の構造化」について研究を行い、合
理的配慮の工夫についても合わせて行った。
生徒の実態に合わせて、「山場」(ねらいの達成)のためにアンカー(動機づけ)の工
夫をしたり授業前に補充指導を設けたりすることで、ねらいを意識した導入や展開づく
りをすることができた。具体的には、1年は曲の説明とロールプレイング、2年は響き
を目に見える形にした。3年はパネルシアターやロールプレイングを行った。その中で、
以前と比べ曲のイメージが広がる。自分でリズムが刻める、問いかけへのスムーズな解
答ができる、身体表現の工夫ができるなど生徒の主体的な活動や表現を引き出せること
が多くなった。
このことから、展開の構造化においては生徒の実態により異なるが、授業の内容のわ
かりやすさのための工夫が必要であり、つながりを持たせた授業の展開がより理解へと
繋がったといえる。そして、山場を意識してねらいを焦点化させたことが、理解を促す
ために有効だといえる。
合理的配慮の必要な生徒のための研究であったが、全体の理解を得ることに繋がった。
今回の授業研究は合理的配慮の必要な生徒の支援として、有効なものもあるが、さらに
STの支援の工夫が必要である。
(2)今後の課題
今回、音楽の授業を中心に行ったが、単元全体の中で理解への工夫と繰り返しの学習
を通して行うことで理解の深まりを感じた。UD化モデルの習得・活用に繋ぐために有
効であったねらいの焦点化と授業展開の構造化を各授業で実現し、教科での習得・活用
を達成するだけではなく、1年生のように覚えたセリフを頒布会の売り手の言葉として
用いたり、2年生のように不登校気味の生徒が、他の授業中に「次の日には音楽がある
から学校に行く」という登校への意欲に繋がったり、3年生のように学習してきた内容
を踏まえ、アレンジをして運動会の種目に用いるなど、授業から日常生活における教育
活動全体の中で繋がりのある展開をしていくことでさらなる発展を期待していきたい。
-中・音楽 10-