「FX特別レポート」(2/12) イラク攻撃と石油暴落 ㈱マネー&マネー編集長・吉田 恒 米国によるイラク攻撃が「秒読み段階」に入ってきたと見られているが、実際開戦とな った時にまず注目されるのは原油相場への影響だ。これまでの取材では、「開戦」と同時に 原油価格急落、さらに「終戦」でサダム・フセイン政権崩壊となれば暴落するとの見方が 有力だ。原油価格は 80 年代後半に 10 ドルを割り込み「逆オイル・ショック」というのが あったが、その再現に向かうとの見方もある。 ◆開戦当日に原油急落 ある米国専門家は、イラク攻撃と原油相場の関係についてこんなふうな見方を示した。 「これは自信があっていろんなところで語っているが、開戦の当日に原油価格は急落する ことになると思う」。 この見方の根拠は以下の通りである。 原油相場のトレンドは、供給サイドの要因より需要サイドの要因が影響的になっている。 つまり原油生産拠点である中東危機より、需要、つまり世界景気との連関性が強くなって いるということだ。 その意味では、 「グローバル・デフレ」ともされる最近にかけての世界的景気鈍化の中で、 原油相場が上昇傾向を続けてきた動きは、「戦争プレミアム」という理解になる。イラク攻 撃は「始まったらすぐに終わる」(同筋)との見方が強いため、この「プレミアム」は開戦 とともに剥落する可能性が強く、だから「開戦=原油急落」との予想になるわけだ。 ところで、より注目されるのはその後かもしれない。イラク攻撃については、前述の通 り「始まったらすぐ終わる」として、2 週間程度の短期決着との見方が有力なのだが、それ に伴いイラクのサダム・フセイン政権が崩壊となれば、原油価格は一段と急落、暴落に向 かう可能性もありそうだ。 ◆イラク政権交代なら原油暴落へ 91 年の湾岸戦争では、米国など多国籍軍の勝利となったものの、イラクのサダム・フセ イン大統領は政権の座に残った。これは、この湾岸戦争の戦略目標が「クウェート解放」 に置かれていたことによる。ところが、今回のイラク攻撃については、「レジーム・チェン ジ(体制変更)」(ブッシュ大統領)が戦略目標とされているため、一気にフセイン大統領 の退陣、イラクに「親米」政権が誕生する可能性がある。 ところで、そうなればイラクは戦後復興を目指す中で、原油生産の拡大を急ぐことにな るだろう。これがOPEC(石油輸出国機構)を中心とした産油国の価格維持体制に亀裂 を引き起こす可能性がある。そうなれば、原油価格の急落懸念は一段と広がる可能性が出 てくるわけだ。 この際に注目されるのは中東最大の産油国・サウジアラビアの動きだ。中東専門家の中 には、サウジが原油生産の調整役、スウィング・プロデューサーを放棄した結果、原油価 格が 10 ドルを割り込んで暴落した 80 年代後半の「逆オイル・ショック」再現に向かう可 能性も一部で想定されている。 注目されるのは明らかに米国とサウジの関係だ。客観的にはここ数年両国の関係は悪化 が続いている。アフガニスタン・タリバン政権をサウジの一部が支持していた疑いがある こと。また今回のイラク攻撃でもサウジが米国に基地提供を拒否したことなど。 こういった中で「親米」イラク政権が原油生産大幅拡大に動いた時、サウジが生産を自 粛して、スウィング・プロデューサーを続けるといった姿勢を維持するかは微妙で、むし ろ増産合戦となり「逆オイル・ショック」に向かう可能性は要注意だろう。 原油相場は今のところ、イラク攻撃をにらみながら堅調な動きが続いているが、実際の イラク攻撃となれば、これまでと全く逆の世界に一転して向かう可能性もありそうだ。 (Y)
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