研 究 集 録 - 広島市教育センター

研究報告書
No.59
研
究
集
第
平 成 17年 度
25
号
研究員研究報告
平 成 18年
広島市教育センター
録
ま
え
が
き
現在,特色ある学校づくりを進める中,各学校においては,子ども一人一人の個性を
尊重し,「確かな学力」や「豊かな心」を育成することを目的として,創意工夫を生かし
た教育活動が展開されていることと推察致します。
これからの社会を生きる子どもたちに,「確かな学力」や「豊かな心」を育成するため
には,学校教育の直接の担い手である教師が,自己研鑽を重ね,教育者としての使命感,
幼児児童生徒に対する教育的愛情と深い理解,教科等に関する専門的知識等に基づいた
実践的指導力を向上していくことが必要とされており,そのことによって保護者,地域
社会から教師に対する揺るぎない信頼を確立していくものと考えます。
当教育センターにおいては,学校の教育力を高める人材を育成することを目的として,
教職員一人一人の資質能力の向上を図るための各事業を展開しており,その中でも教員
長期研修事業は,専門的分野に係る指導力の向上を図るとともに,ミドルリーダーとし
ての資質能力を高め,本市教育の向上・発展に資することを目的として,昭和57年から
実施して参りました。
平成17年度教員長期研修生の調査・研究は,「確かな学力」や「豊かな心」を育成する
ために,これからの子どもたちが身に付けるべき力を明らかにし,その力が生きて働く
力と成りうるためのよりよい学習指導や生徒指導の在り方を探究する,いわば子どもた
ちの「生きる力」の育成を目指した探究活動の足跡であり,『研究集録第25号』はその成
果をまとめたものです。教育実践等に御活用いただければ幸いに存じます。
最後に,これらの研究を進めるにあたり,広島市の学校,幼稚園をはじめ多くの方々
に多大なる御協力,御支援を賜りましたことに厚くお礼申し上げます。
平成18年4月
広島市教育センター
所長
升
尾
好
博
目
平成17年度
1
次
教員長期研修生研究報告
小学校国語科における「聞く力」を高める指導法に関する研究
1
−「聞く」「聴く」「訊く」を意識させる学習過程と評価の工夫を通して−
安 北 小 学 校
2
本
理
恵
運動への意欲を高める体育科の学習指導法に関する研究
−仲間とのかかわりを深める器械運動の実践を通して−
3
倉
9
五月が丘小学校
吉
田
昌
史
児童の自己存在感を高める指導法の工夫に関する研究
17
−構成的グループ・エンカウンターのシェアリングにおける援助に視点を当てて−
井口台小学校
4
安 西 中 学 校
山
口 田 中 学 校
田
直
子
33
垰
ゆ か り
41
広島商業高等学校
福
原
幼児の探究心を深める教師の援助の工夫に関する研究
−5歳児の協同的な活動の観察と分析を通して−
子
25
高等学校英語科における語彙習得指導法に関する研究
−語句のイメージ化を通して−
7
典
中学校英語科における実践的コミュニケーション能力の基礎を育成する指導法に関する研究
−聞き手に伝えることを目的とした音読指導を通して−
6
井
中学校第2学年美術科の鑑賞における,美術作品の「見方を深める」ための学習指導法に関する研究
−感性と知を働かせるため,相互に交流する活動を通して−
5
笠
一
夫
49
亀 崎 幼 稚 園
金
子
忍
小学校国語科における「聞く力」を高める指導法に関する研究
−「聞く」「聴く」
「訊く」を意識させる学習過程と評価の工夫を通して−
広島市立安北小学校教諭
Ⅰ
研究主題設定の理由
1
倉
本
理
恵
研究主題に関する基礎的研究
(1) 「聞く力」について
平成 10 年 12 月に改訂された『小学校学習指導要
『国語教育指導用語辞典』(教育出版)によれば,
領』では,国語科において,「伝え合う力を高める」
「聞くこと」とは,
「発話の文字どおりの意味を発話
ことが目標に位置付けられた。また,
「話すこと・聞
の流れや場面の目的などと照合して,文脈上の意味
くこと」は,1領域にまとめられ,学年ごとの指導
を生成する能動的な作業」であり,
「きく」を「聞く」
時数も配当されている。話す活動と聞く活動を相互
「聴く」
「訊く」の三つの形態に分類し,次のように
に関連して指導し,双方向に伝え合う能力の育成を
表している。
より一層重視していくことが求められている。
「聞く」は,主観を交えず相手の話を正しく理解
しかし,これまでの「話すこと・聞くこと」の指
するつもりできくこと,
「聴く」は,選り分ける,
導においては,
「話すこと」が中心で「聞くこと」の
焦点を合わせる,内容を吟味するなどして,より
指導が十分なされてこなかった。また,「聞くこと」
主体的にきくこと,「訊く」は,不明,疑問な点
が指導されたとしても,「静かに聞く」「話された内
を問い質すことである。
容を正確に聞き取る」などの一方向に聞く活動の指
導に重点が置かれてきたという現状がある。
双方向に伝え合う能力を育成するためには,
「正確
そこで,本研究では,「聞くこと」を「聞く」「聴
く」「訊く」の総体として定義し,「聞く力」を図1
のような三つの要素に分けてとらえることとする。
に聞く」だけでなく「聞き取った内容と自分の考え
とを照らし合わせながら聞き返す」ことまでを含め,
情意面
・思いやりをもって相手の話や意図を分かろうとする。
・相手の話を補ったり引き出したりしようとする。
・自分の考えと比べて,共通理解を図ろうとする。
・「聞くこと」の喜びを感じ,生活に生かそうとする。
「聞く力」を能動的なものに高めていくことが必要
であると考える。
そこで,本研究では,双方向に聞く活動の中で,
児童の「聞く力」を高める学習指導法について,授
認知面
業実践を通して探ることとした。
Ⅱ
技術面
・技術の有用性に気付く。
・技術の伸びや課題に気付く。
・「聞くこと」のよさに気付く。
研究の方法
図1
・「聞く」ための技術
・「聴く」ための技術
・「訊く」ための技術
本研究で育てたい「聞く力」
「聞く力」を高めるために必要な手だてを具体化
「聞く力」を高めるためには,聞くための技術だ
し,授業実践を通して,その手だての有効性につい
けでなく,その技術の有用性や伸び,聞くことのよ
て分析・考察する。
さなどに気付く認知面,また,相手の話を分かろう
として聞き共通理解を図ろうとする意欲などの情意
Ⅲ
研究の内容
面も共に高めなければならない。
「聞くこと」で新た
な考えが生まれることを信じ,例え不完全で拙い話
-1-
でも,相手の意図を分かろうと補いながら聞き,自
く」「聴く」
「訊く」ための技術を具体化し,繰り返
分の考えとすり合わせ,納得するまで聞き出そう問
して学習させながら,学んだことをふり返り,応用
い返そうとする聞き手の存在が,話し手を支え,伝
させるような学習過程や評価を工夫することが必要
え合いを深めると考えるからである。
であると考える。さらに,その学習過程が児童にと
(2) 「聞く力」と対話
って活動目標を達成するために必要だと感じさせる
対話をその形態からとらえるとき,一対一の間で
工夫をすることが児童の活動意欲を高め,さらに学
行われる伝え合いと限定する立場と,一対多までを
習効果をあげるものと考える。
含めたものと考える立場がある。本研究では,話し
2
手と聞き手が固定されることなく交互に交替する,
研究の仮説
小学校国語科において,双方向に伝え合う活動の
一対一や一対多の伝え合いを対話ととらえる。
中で「聞く」「聴く」「訊く」を意識させる学習過程
対話の機能として,『音声言語指導大事典』(明
と評価を工夫すれば,児童の「聞く力」をより能動
治図書)は,対話においては,
「話の文脈は2人の相
的なものに高めることができるであろう。
互理解によって生み出される。独話の文脈が一人で
3
作られるのに比べ,対話・対談の文脈は聞き合いに
(1) 単元構想における工夫点
よってつむぎ出される。
」と示している。対話は,
「話
ア
すこと」
「聞くこと」が双方向になされる活動であり,
検証授業の計画と実施
取り立て学習を位置付けたスモールステップの
学習過程
相手と向かい合い話したり聞いたりしながら話題が
それないように続けていく,いわば共同作業である。
①モデルの例示
常に相手を意識し,受容的に受けとめ,理解し,自
情意面
・相手の話を「聞き」
「聴き」
「訊
き」たいという意欲をもつ。
・
「聞くこと」の喜びを感じ,生
かそうという意欲をもつ。
分の考えと照らし合わせながら共通理解を図ろうと
して聞き返すことが,対話成立の前提となる。また,
山元悦子は「対話は相互に啓発し合う行為であり,
協同的な対話は新しいものを生み出す生産的・創造
②試行
的な営みである。」と対話の生産性を指摘している。
技術面
・
「聞く」
「聴く」
「訊く」技術を
対話活動の中で活用する。
これらのことから,本研究では,対話を「双方向
に聞き合い理解を深めたり共感したりしながら新た
③ふり返り
なものを生み出す伝え合い」ととらえ,
「聞く力」を
認知面
・技術の有用性,伸びや課題に
気付く。
・「聞くこと」のよさに気付く。
高めるために必要な言語活動として学習過程に取り
入れる。聞き合うことで理解を深めたり共感したり
しながら新たなものを生み出す体験を重ねることが,
図2
・相手意識,目的
意識の明確化
・教師や児童によ
る演示,ワーク
シート,てびき
・対話活動
・技術をトレー
ニングする取り
立て学習
・対話時間制限
・ふり返りカード
・評価カード
・モニタリング
・教師による評価
スモールステップの学習過程と評価の工夫
技術を高めるだけでなく,
「聞くこと」のよさの実感
やそれを生活に生かそうとする意欲につながると考
学習過程を「練習学習」と「発展学習①」
「発展学
えるからである。
習②」に分け(表1),練習学習の中に「聞く」「聴
(3) 「聞く力」を高めるために
く」
「訊く」技術をトレーニングする取り立て学習を
村松賢一は,
「聞くことの指導は,とかく独話的な
位置付ける。練習学習・発展学習ともに学習過程を
場における『聞き取り』に偏りがち」と聞くことの
スモールステップ化し(図2),児童が対話の難しさ
指導課題を指摘する。さらに,
「聞く,聴く,訊くを
を体験し,技術の必要性に気が付いたところで,技
総合的に体験させること」の必要性を述べている。
術をトレーニングする取り立て学習を展開する。練
「聞く力」を高めるためには,双方向に伝え合う
習学習で学んだことを,発展学習で徐々に応用させ
活動の中で「聞く」
「聴く」
「訊く」を意識させ,
「聞
ることで,螺旋的に繰り返し学習できるようにする。
-2-
イ
観点を明確にした評価
動を位置付けたのである。児童は,作品についての
毎時間ごとに学習のねらいを明確にして自己評価
お互いの考えを聞き出し,共通点を探ることを積み
を行うふり返りカードや,観点にそって相互評価を
重ねて,作家が伝えたいことを明らかにしなければ
行うモニター(二つのペアが互いの対話を評価し合
ならない。ここに「聞くこと」の必然性が生まれる。
う)の設置,対話記録やふり返りカード・評価カー
伝え合う言語活動を設定するとき,児童にとって必
ドでの教師による形成的評価などを工夫する。
然性があり魅力的な活動であるだけでなく,伝える
ウ
内容に価値があると感じることが,さらに学習意欲
「必然性」をもたせる場の設定
児童は,伝えたいテーマに出会い伝えたい内容を
を高める。
「宮沢賢治」は,その点でも効果的な題材
もったとき,伝え合う必然性を感じるものと考える。
であると考える。
本研究では,前単元の「伝記
(2) 単元計画と実施
宮沢賢治」における
賢治の理想の生き方への感動を,
「宮沢賢治の世界を
広島市立A小学校第6学年を対象に「座談会を開
5 年生に伝える座談会を開こう」という活動目標へ
こう―宮沢賢治の世界―」の単元計画を作成し,平
とつなげた。そのための言語活動として,
「宮沢賢治
成 17 年 10 月 3 日∼10 月 24 日に実施した(表1)。
の作品の魅力や主題を探る」をテーマにした対話活
表1
時と
学習過程
1
練習学習
2・3
4∼6
主な学習活動
単元構成の工夫
聞く力の高まり
12
発展学習②
9∼11
「聞くこと」の必要性に気付
き,意欲をもつ。
「注文の多い料理
店」について対話を
する
対話を体験し,進め方を知る。対話の楽しさや難し
さを知り,座談会の成功に向けて,今の課題を考
える。
「聞くこと」の楽しさや難しさ
に気付き,課題をもつ。
取り立て学習
体験した対話の反省から,必要な技術に気付き,
対話に生かす。
「聞く」「聴く」「訊く」技術の必
○ ○
要性に気付く。
13
座談会の練習をする
他のグループと発表
し合う
座談会の練習をする
14
座談会を開く
15
学習をふり返る
○ ○
く」「訊く」を学ぶ
「聞く」技術:「反応」の練習
「訊く」技術:「質問・感想」の練習
「聴く」技術:「確認」の練習
イ 4人組でモニタリング
ア 「聴く」技術:「確認」の練習
イ 3人組でモニタリング
「「聞く力」の高まりを見取る規準」(表2)とを照ら
表2
情意面
ア テレビの対談番組から「聞く」「聴
○ ○
話記録,授業観察記録などに見られる児童の様子と
授業後のふり返りカードや感想,アンケート,対
認知面
教師の演示によるモデル対話
ア 「聞く」技術:「反応」の練習
複数の人の考えを「聞くこと」
「訊く」技術:「質問」の練習
○ ○ ○
イ 録音によるふり返り
で共通点を見つける。
ウ 聴衆(5年生)を意識させるモデル
互いに評価し合い,共通点の見つけ方や対話の進 他のグループの「聞くこと」
イ 中間発表会
○
(二つのグループでモニタリング)
め方の参考にする。
のよさに気付く。
中間発表で学んだことを生かし,共通点を見つけな 複数の人の考えを「聞くこと」
ア 「聞く」技術:「反応」の練習
○ ○
がら対話する。
で,考えを深める。
イ 録音によるふり返り
聴衆を意識して,共通点を見つけながら対話する。
〃
○ ウ 5 年生に伝えるためのビデオ録画
学習をふり返り,自分や友だちの伸び,学んだこと 「聞くこと」のよさや可能性に
イ 伸びや学んだことのふり返り
○
等を交流する。
気付き,生かそうとする。
(1) 分析の視点と方法
技術面
○
座談会形式で,共通点を見つけながら対話するこ
とを体験する。
検証授業の分析・考察
視点
具体的な工夫点
ウ 相手意識・目的意識の明確化
教師の演示により座談会のゴールをイメージさ
せ,学習の見通しと自分の目標をもつ。
技術を生かして,相手の考
えを聞き出す。
(○印は,特に重点を置いた工夫点)
工夫点
ア イ ウ
学習計画を立てる
発 宮沢賢治の作品を読
作品に対する自分の考えをまとめて対話し,作品
展 み,同じ作品を読ん
に対する考えの共通点を探る。
① だ友だちと対話する
7・8
4
「座談会を開こう−宮沢賢治の世界−」単元計画
し合わせながら分析し,その背景を考察する。
「聞く力」の高まりを見取る規準
規準と見取りの方法
「聞く」
「聴く」
「訊く」技術を対話の中で生かすことができたか。
(表3)をもとに対話記録(録音テープ)
・観察記録を分析する。
技術の有用性,伸びや課題,「聞くこと」のよさなどに気付いたか。
ふり返りカード・感想・アンケートを分析する。
相手を思いやっているか,分かろうとしているか,
「聞くこと」の喜び
を感じ,生かそうとしているか。
対話記録(録音テープ)と感想を分析する。
-3-
ふり返りカードへの記述の例
表3に例示
○○すると,うまくできた。○○することが大切だ
と思った。上手になった。前よりもできた。聞くこ
との大切さがわかった。考えが深まった。
相手の気持ちを分かろうとして聞きたい。分かり合
えてうれしい。これからも聞き合いたい。
表3
本単元で取り上げる技術の評価規準
反応 確認
聞く 聴 く
おおむね満足(B)
十分満足(A)
目を見て,うなずきながら聞く
あいづちを打ちながら聞く
へえ/うん/はい/そうですか/なるほど
質問
感想
訊く
聞き取ったことや理解したことを確かめる
さっき∼と言っていましたね/あなたの考えは∼ですか/
***は∼ですよね/∼についてですか
分からなかったことや知りたいことを尋ねる
もう一度いってください/∼は何といったのですか/
∼のセリフをどう思いますか/私は∼と思うけどどうですか
話されたことに対する自分の感想を返す
私もそう思います/その場面については∼/
確かに∼ですね/私はちょっとちがって∼
意図や共通点を確かめる
∼だから,***と思ったんですよね/∼だからでいいですか/
∼が共通していますね/∼にはいろいろ意見がありましたね
話された内容についてさらに詳しく聞き出す
例えばどんなところですか/どの場面からそう思ったのですか/
他に∼と思うところはありますか/もし∼だったらどうですか
話された内容をもとに,修正した自分の考えを返す。
わたしは∼と思うようになりました/確かに∼かもしれませんが/
確かに∼かもしれませんが∼もあるのでは
(2) 分析と考察
ア
図3,図4は,
「聞く」
「訊く」技術のうち「反応」
技術面の高まりについて
と「質問」について,対話に生かしているかを教師が
対話記録・観察記録の分析によれば,ほとんどの
児童が「聞く」「聴く」
「訊く」技術を対話に生かす
評価したものである。単元後半には,ほとんどの児
童が「十分満足」「おおむね満足」に達している。
ことができた。
また,表4のような個の変容(A児)も見られた。
A児は,教師の演示やモデル対話,実際に対話して
単元初期
22
7
N=38人
9
A
単元後期
29
2
7
B
C
0%
20%
図3
40%
60%
80%
100%
みてのつまずき体験,対話のモニタリング等を通し
て「聞く」「聴く」「訊く」技術の必要性に気付き,
モニターや教師からの肯定的な評価によって自信を
付け,自分の成果と課題を時間毎に意識しながら,
「反応」についての評価
「聞く」「聴く」「訊く」技術を高め,共通点を確認
することができた。これらのことから,取り立て学
N=38人
19
12
単元初期
7
A
31
単元後期
7
B
C
0%
20%
40%
60%
80%
図4
「質問」についての評価
表4
習を位置付けたスモールステップの学習過程の工夫,
観点を明確にした評価の工夫が,
「技術面」の高まり
に有効であったと考えられる。
100%
A児の「聞く力」の高まりとその分析
<第2時>
2人
よろしくお願いします。
B児
Aさん,注文の多い料理店の魅力はどんなところでしたか。
A児
わたしは,注文の多い料理店の魅力は・・・(23秒無言)①感―C
A児
山猫たちのわなに,わなにはまるところだと思います。Bさんはどんなところが魅力だと思います
か。②質―B
B児
わたしは,最初次はどうなるかなとどきどきしました。中に進めば進むほど,次は,この続きはと
夢中にさせる話でした。
A児
それについては,わたしは・・・(28秒無言)③感―C
A児
すいません,もう一度聞かせてください。④質―B
B児
最初,次は何になるかとどきどきしました。中に進めば進むほど,次はと夢中にさせる話でした。
A児
なるほど⑤反―B,それについては,わたしは,わたしも,えっと,それについて,わたしは・・・
(37秒無言)⑥感―C
A児
私もそのとおりだと思います。⑦感―B あの,えっと・・・(26 秒無言)⑧質―C
B児
Aさんは,この物語のどんなところをおもしろいと思いましたか。
A児
わたしは,この物語でおもしろい,おもしろいと思ったところは,いつもいばっている紳士が,山
猫たちにだまされるところがおもしろいと思いました。
※1「反応」の
A児
Bさんは,どう思いましたか。
よさへの気付き
B児
わたしも,紳士がだまされていくのがおもしろいと思いました。
A児
二人の意見はちがったけれど⑨,いろんな意見がわかってよかったです。
<第3時>
2人
よろしくお願いします。
C児
いきなり,質問なんですが。
A児
はい。①反―A
C児
Aさん,宮沢賢治の注文の多い料理店を読んで,一番ちょっとおもしろかったところはどこになりますか。
-4-
第2時でのA児は,ワークシートに用意し
ていた答えも,なかなか答えられない(①)
でいる。ワークシートにある質問をしている
(②)が,B児の回答にどう感想を返してよ
いかわからず,合計 1 分以上の沈黙(③⑥)
がある。反応や感想をなんとか返した(⑤⑦)
が,二つ目の質問ができずに口ごもってしま
い(⑧)
,見かねたB児が次の質問をしている。
ここまでで,5分間の対話時間のうち 3 分 30
秒が経過した。
「紳士がだまされるところがお
もしろい」という共通点も聞き取れていない
(⑨)。
対話を続けようという意欲は感じられるが
「聴く」
「訊く」技術が身に付いていない。A
児の自己評価も「めあての達成感」は 4 段階
評価の「1」であった。しかし,この後C児
とD児の対話をモニタリングし,
「うなずいた
りあいづちを打つと気持ちが伝わりやすい」
と気付き評価カードに書いた。次時への課題
をもったものと思われる。
第3時は,対話の前にモデル対話を演示し,
第2時の感想や対話記録の中から,技術への
気付きを紹介し,短冊にして掲示した。その
中で,A児の「もう一度聞かせてください」
と言う発言を聞き取れなかったときの「コツ」
A児
C児
A児
C児
A児
C児
A児
C児
A児
C児
A児
C児
A児
C児
A児
C児
A児
C児
D
児
モニターの意見
B
児
D
児
紳士が,えっと,なんか扉がたくさんあるじゃないですか?②確―Bあの扉を自分の都合のいいように考
えて,進んでいったところがおもしろいと思いました。
確かにそうですね。普通だったら,2 人いるんで,そういう考えはもたずに,どっちかくいちがってもいいは
ずなんですが,どう思いますか。③感―B,質―A
私も,2 人もいる,話し相手がいるんだから,くいちがって,くいちがってしまっても,おかしくないと思うん
ですけど④感―B,なんでか,あの紳士たちは,話し合ったりしませんでしたよね。⑤確−B
<中略>
この白い大きな犬が,倒れて死んだときに,どうして紳士はそのままほっておいたんだと思いますか。
犬と,犬は,物としか思えてない紳士たちだから,犬を自分でほっておいても平気だったんじゃないでしょ
うか。⑥確−B
ちょっとその紳士は,ひどいですよね。自分が飼っている犬を死んだからといって,ほっておく人がいるで
しょうか。そんなのは,ちょっと冷酷ですよね。⑦確―B
あの・・・⑧
Aさんも,そう思いませんか。⑨
はい,私もそう思います。うちも犬を飼っているけど,死んだらほったらかしになんかできないと思います。
⑩感―B
そうですよね。その,賢治さんは,この本を書いたときに,一番初めに,「タンターンと鉄砲で撃ってみた
い」という紳士のせりふがあったんですが,それは,どういう気持ちで書いてあったんだと思いますか。
ただ,獲物をとりたくて,獲物をとりたくて,ものをとらないといけないと思っていただけだと思います。Cさ
んはどうおもいますか。⑪質―B
ぼくもそうなんですが,多分この紳士は,多分自分のピカピカの鉄砲で,ただ獲物を撃ちたいという一心
で,その撃ったことによって動物の命が失われるなんていうことを全然考えていなかったんだと思います。
ああ,そうかもしれませんね。⑫感―B Cさんは,この注文の多い料理店の中で,特に印象に残ってい
るところはどこですか。
やっぱり,最後にほっておいた,白くまって言うか,白い大きな犬が,助けに来てくれたことが,ちょっと印
象に残りました。それがなぜかということが,疑問に思って,そこが一番印象に残りました。
そうなんですか。私は・・・私が印象・・・
あーあの,Aさんは,この注文の多い料理店で賢治さんが,一番伝えたかったことは何だと思いますか。
動物を物としか思えない紳士たち・・動物を物としか思えない人たちは,なんかいつか悪いめに会うという
ことを言いたかったんじゃないかと思います。Cさんはどう思いますか。⑬感―B,
そうですね。(終了の合図)ああ,ありがとうございました。
えっとですね。この一つ一つ,C君が言った後に,Aさんは「はいそうですね。」ととっさに,考えていなかっ
たとしても,「はいそうですね。」と時間を稼いでいるというか,場を保っていく,あいづちがうまかったです
⑭。C君は,ほんとに,質問がとっても上手で,相手がAさんが,ちょっとつまってしまったときもあったら,
「そうなんですか」と言わずに,やっぱり,つまっているんだなあというのは分かっているんだと,ちょっとよ
く分からなくなったけど,あの,なんていうかな,あの・・・・助け舟っていうのかな,それですね。⑮
私も,というか,私が思ったことは,Cさんはもうちょっと優しい顔で話した方がよかったと思います。すご
く,まじめな顔で話していたので,もっと,ちょっと,もうちょっと,よくした方がいいと思います。でも,Cさん
はすごく,Dさんと同じで,質問がうまくって相手が困っているときに助け舟とかを出していたのが,よかっ
た⑯と思います。Aさんは,Cさんがなんで犬を置いていったのかと質問すると,物としてしか思っていな
いと納得する答えを返していたので,とてもよかった⑰と思いました。
えっと,またぼくなんですが,Aさんがいってることに,納得してしまいました。⑱
※2「感想」「質問」「確認」のよさへの気付きやそれらを「がんばり
たい」という意欲,
「できてよかった」という伸びへの気付き,喜び
として示した。A児は教師に評価されたこと
でうれしそうな表情を見せた。
第3時でのA児は,C児との対話の前に,
B児とD児の対話をモニタリングしている。
その中から学んだ技術を,実際に活用する姿
が見られた。B児やD児が相手の話の途中に
何度も「はい」というあいづちを入れていた
り,「∼じゃないですか」という確認をした
りしていたことをそのまま真似ている様子が
うかがえる(①②)。また,B児が自分の考
えを話した後「どう思いますか」と自分の考
えについての相手の考えを質問したことも,
自分の対話に取り入れている(⑪)。
また,C児の聞き出し方の上手さに影響を
受けながら,対話が続いている様子もうかが
える。C児がA児の考えに共感しながら感想
を返し,A児のことばの中から自分の考えも
交えた質問をした(③⑦⑨)ことで,C児に
同意する形で自分の考えを返したり(④⑩),
主人公の行動を確認したり(⑤)している。ま
た,主人公の行動を「動物の命を粗末にして
いる」と考えているC児の意見を聞いて,A
児は共感を示し(⑫),最後には作品のメッ
セージについての自分の考えを返し,C児の
考えも質問することができた(⑬)。
対話後のモニターからの意見では,途中詰
まりかけたA児(⑧)をC児がフォローした
点を2人とも評価(⑮⑯)した。A児に関し
ては,「あいづち」がうまかったことをD児
が評価した(⑭)。D児は,評価カードにも,
A児について「前時と比べてあいづちが進歩
した」という内容の記述をしている。また,
2人ともA児の考え(⑧)を「納得できる」
と評価(⑰⑱)した。この日,教師とモデル
対話を行ったD児からの評価は,A児の自信
につながったのではないかと考えられる。
授業後のA児の自己評価も「めあての達成
感」は4段階で「4」であり,達成感を感じ
ていることがうかがえる。
上手に聞き出す相手に考えが引き出される
という対話活動のよさ,「技術の観点を示し,
自分の目標をもって活動し,ふり返り,次の
目標をもつ」という学習過程の工夫,評価の
工夫が技術面の高まりに有効に働いたと考え
る。
<A児の感想>
第3時で自信がつき始め,第4時から第6
第3時
今日は,はきはきできてよかった。次は,魅力や主題を伝えられるようにがんばりたいです。
時の取り立て学習,第7時の発展学習でも,
第4時
相手の質問へは,具体的に答えるといい。必要なことを聞き出すことをがんばりたい。
具体的な技術を目標として意識しながら,で
第5時
例をあげて対話すると,説得力がある。
きたことと課題とを整理して取り組んでいる
第6時
相手のことばをくり返し聞いたりしてやることなどができるようになってよかったです。
姿がうかがえる。
第7時
相手のことばを確認することをがんばりたい。
<第8時>
第8時でのA児は,積極的に対話を進めよ
E児
Aさん,このお話の,このツェねずみというお話の,ええと,笑える部分は何ですか。どの場面ですか。
うとしている。
A児
このお話の笑える部分ですか。①確―B
※3対話を進める意欲
前時の目標であった「確認」を相手の質問
E児
はい。
をくり返して行っている(①)。ワークシート
A児
えっと,はい,それは,イタチとかねずみ,ツェねずみが,いろんな友だちとかに「まどうてくださいまどうて
に用意していない質問にも,自分の経験に引
ください」と言うのが,ちょっとおもしろいと思いました。
き寄せて答えた(②)。自分と相手の理解を確
<中略>
認(③)したり,話を展開させる質問(④)を行
E児
Aさんは,ううん,柱や,ああ,ツェねずみの友だちの柱やイタチみたいな人になって,ツェねずみに,いっ
っている。
ぱい叱られたと言うか,怒られたりしたとき,あの,Aさんは,どうしますか。
相手の話に同意し,自分の考えも述べる
A児
どうするっていうか,まあ,最初はとにかくあやまって,それでも許してくれなかったら,もう怒って,もう怒
(⑤)だけでなく,考えの共通点を確認(⑥)
って,それで,もう今度から顔を見なくなると思います。②感―B
することもできた。最後には,自分が確認し
E児
そうですか,ぼくもいっしょで,やっぱり,なんか,そういうことを言って,そんなことをいろいろ言ってた,い
た共通点に相手が付け加えを行うと,共感し
ろいろ叱られてたというか怒られたというか,そういう感じの友だちが,ぼくがごめんごめんとあやまって
確認(⑦)している。
も,許してくれなかったら,もう,人間の考え方なんですけど,もう,家に帰ります。
A児の自己評価も「ねらいの達成感」は 4
A児
なるほど,そうなんですか。えっと,Eさんが,では,Eさんに質問します。えっと,ねずみ捕りが,ツェねず
段階評価で「4」をつけている。
みをつかまえましたよね。③確―B
第8時の感想でも,自分の「ことばのキャ
E児
はい。
ッチボール」が上達したことを実感し(⑧),
A児
その時,Eさんがねずみ捕りだったら,ツェねずみをつかまえますか。④質―B
次の対話への課題ももつことができている
E児
このお話から見ていくと,やっぱりツェねずみは友だちを大切にしていないから,これはもう,ばちだと思っ
(⑨)
。また,C児と聞き合うことで,考えの
て,心を鬼にしてつかまえますね。Aさんはどう思いますか。
共通点を見つけ,理解が深まったことも実感
A児
わたしも同じように,ツェねずみは友だちを大切にしていないので⑤感―B,もう,あれ,友だちを大切に
することができた(⑩)
。
しない友だちなんか,ほしくないので,怒って,ツェねずみをつかまえちゃうと思います。
具体的な技術をゲームを交えてトレーニン
A児
時間がないので,もうまとめに入っていいですか。
グしながら,学んだ技術を対話で生かし,自
A児
では,わたしとEさんの,共通点は,ツェねずみは友だち,ツェねずみは,友だちを大切にしていなくって,
己評価・相互評価でふり返ったことで,今で
大切にして,大切にしていなかった,ということでいいでしょうか。⑥確―A
きていることや次への課題を認識することに
E児
ううん,大切にしていなくて,ばちがあたってしまった,ということじゃないんですか。
つながり,技術の達成度が高まっているもの
A児
ああ,そうですね。じゃあ,そういうことでいいでしょうか。⑦感―B,確―A
と考える。
E児
はい。
A児
今日は,Eさんと話していろんなことが分かってよかったです。ありがとうございました。
<A児の感想>
なんか,とても前に話したときより話し方が上達したなあ⑧と思えるようになりました。次は,例をあげて答えたい⑨です。同じような意見が詳
第8時
しく分かってよかったです。⑩
※4自分の伸びへの気付き,意見の深まりへの気付きや喜び。
-5-
イ
認知面の高まりについて
いることが分かる(図6)。
表5は,児童の単元途中の感想を時系列に整理し
N=37
34
人数
分析したものである。児童は,教師の演示によって,
学習のゴールをイメージし,そのために「聞く」
「聴
3
く」「訊く」技術が必要であることに気付いている。
0%
とてもそう思う
20%
40%
だいたいそう思う
図5
60%
80%
あまりそう思わない
100%
まったくそう思わない
「聞く力」が高まったか
そして,練習した技術を対話の中で生かし,それを
自己評価・相互評価(モニタリング)したことで技術
の有用性を意識し,伸びや課題を確かめながら,
「聞
N=37
35
人数
0%
とてもそう思う
20%
40%
だいたいそう思う
図6
2
60%
80%
あまりそう思わない
100%
まったくそう思わない
考えが深まったか
くこと」の大切さに気が付いていった姿がうかがえ
る。また,表4のA児についても,
「反応」から「感
想」「質問」
「確認」へと技術のよさに次第に気付き
(※1,2)
,自分の伸びや意見の深まりを実感して
いる様子が分かる(※4)。
これらのことから,
「聞く」
「聴く」
「訊く」を意識
図5,図6は,単元終了時に行った児童の自己評
させ,練習した技術を対話の中で生かし,ふり返り
価である。全員の児童が「聞く力」の高まりを肯定
を行うスモールステップの学習過程の工夫,観点を
的にとらえ,その伸びを実感している(図5)とと
明確にした評価の工夫が,
「認知面」の高まりに有効
もに,対話による,自分の考えの深まりを実感して
であったと考えられる。
表5
児童の感想に見る「聞く力」の高まりとその分析(「聞くこと」のよさや伸びへの気付き ,意欲)
第一次
・賢治の世界はとてもいい世界なので,5年生にぜひ,私たちの座談会を見て,「賢治の世界はいいなあ。
こういうことを考えながら詩や童話を書いていたのか」というように賢治に親しみをもってもらいたい
です。
・ミニ座談会を先生方がやって,その中で,こんなことをやっている,こんなことをやればいいんだなと
いうのを考えました。座談会というものは,けっこうむずかしいです。自分で計画を立て,会話をした
り準備に手間がかかりそうでした。でも,先生たちのミニ座談会のおかげで,少し上手にできると思い
ます。5年生に楽しんでもらえるようにがんばりたいです。
第二次
・先生たちのを見ているだけだとかんたんそうだったけど,やってみるとむずかしかった。
・前を向いて話すことができないことに気が付いた。次はがんばりたい。
・二回目だけど,少しまだむずかしい。でも,対話のよさや楽しさが分かった気がします。
・昨日よりあいづちをうったりうなずいたりすることがうまくできるようになった。やっぱり,あいづち
があると「聞いているよ」ということが伝わってきて,話しやすいと思った。
・もっと相手が答えをかえしやすい質問をしたらよかったと思うし,自分も相手が質問しやすいかえし方
をするべきだと思った。
・今回は,きのうより新しい質問をできたのがよかったです。人の言ったことばを聞いていいなあと思っ
たので,まねしたいと思いました。
・新しい質問で止まっていたら,
「例えば私はこう思います。
」とフォローしていた。なかなかできないと
思うし,すごいと思った。
・確認をすると,相手もわかっているんだなと分かるし,あいづちをうつことで自分もなっとくができる。
・自分で意識してやると,思ったよりならったことを使えるようになりました。本番でも今まで以上に,
ならったことを利用して賢治さんの魅力を伝えたいです。
第三次
・
「雪渡り」は宮沢賢治さんが読者に伝えたかったことがぜんぜん分からなかったので,家でも何回も読ん
で見つけ出したい。
・はじめは,メッセージは「動物にもいろいろなことができる」と思っていたけど,対話をして「差別は
いけない」と思うようになりました。
・はじめてのセロ弾きのゴーシュだったけど,今までのことが役に立ってなんとか時間いっぱいやること
ができてよかった。
・ぼくは今回はあまりうまくできなかったけど,相手の意見を聞き出すことはうまくできたと思います。
あともう少し,早く答えられたらいいなと思います。相手の意見を聞いて,意見が変わったり思いつい
たりするんだなと思いました。
・自分に質問されたことを相手にも質問すると深められると思いました。
・モニターをしているとき,2 人がとても上手だったので,間の開け方などが分かってよかった。
・友だちと話したら,いろんな考えが分かってよかった。自分が思いつかなかったこととかもいろいろ聞
けてよかった。
・はじめは時間があまっていたけど,今日は5分では時間が少なかったので,ぼくたちは上達したんだな
あと思いました。
-6-
前単元における賢治の生き方への感動
が,
「その理想を表現した賢治の童話を広め
なければ」という学習目標をもたせた。そ
れは,
「座談会を成功させて,5 年生に賢治
の魅力を伝えたい」という学習の必然性に
つながった。また,教師が「ミニ座談会」
を演示し学習のゴールをイメージさせたこ
とで,児童は「座談会成功のための課題」
を明らかにし,学習に対する見通しをもち,
「やってみたい」という意欲が高まったと
考える。
「つまずき」の体験が,
「どうしたらうま
くいくか」を考えることにつながり,課題
意識がより具体的になった。児童が見つけ
た技術を次時のはじめに「コツ」として紹
介し全体で評価し学びを共有したことで,
目標も具体化し技術の有用性も確認でき
た。
「モニター」の経験によって新しい技術
も発見でき,もっと練習したいという意欲
につながった。テレビや今までの対話から
見つけたコツを聴型としてプリントに整理
し,取り立て学習をしたことで,聴型にあ
てはめて聞くことができるようになった。
技術を練習しては,対話で試してみるとい
う学習過程の工夫により,児童は技術の有
用性や自分たちの上達に気付くことができ
た。
「賢治のメッセージを伝えたい」という
目的意識が明確であったため,賢治のメッ
セージを探るために作品を積極的に読もう
としている。また,友だちと対話すること
やモニターとして対話を聞くことを通し
て,
「コツ」を見つけたり新しい考えが生ま
れたりしたことを実感している姿がうかが
える。対話時間を制限したことも,伸びを
実感することに有効であったと考えられ
る。取り立て学習やこれまでの対話で学ん
だことを活用しながら技術が高まっている
ことも意識できており,
「聞くこと」のよさ
を感じ始めている。
第四次
・人数が多いとやっぱり難しい。自分がキャッチしないと相手もキャッチしてくれないと思った。
・一人一人が積極的にやらないと,二人だけの対話になり座談会らしくないと思います。質問する人が決
まっているので,自分でキャッチするつもりで聞くといいと思います。
・相手の話をちゃんと聞いていると,答えやすくなる。人が話したことを自分の話に付け加えて答えると
よりくわしくなる。
・キャッチボールは,前回にくらべてすこしはよくなったけど,同じ相手に何度か質問してしまいました。
本番の座談会まで少ししかない時間を使い,うまくできればいいと思いました。
・他のグループのを聞くと悪いところもよいところもみつかって,他のグループのことから,自分たちに
生かして,次の練習をがんばりたいです。
・一番初めに練習をはじめた時より,10倍くらい上手くなっていたし,自分の意見も言えるようになっ
ていた。
・あいづちや感想を意識してやると,ほとんどのボールをうまくとれて,うれしかった。
・笑顔で相手の顔を見ながら,話すことができました。そして,何よりも5年生にも分かりやすくできた
ような気がして楽しかったです。
第五次
・成長したことは,聞く・聴く・訊くのきく力。いろいろなことを意識して聞いていくうちに,あいづち
をうつところやうなずきや感想をいれたりすることが自分でもわかるほど,うまくなっていったからで
す。特に訊くはよく成長したと思います。
・相手が答えやすい質問をする。一番大切なのは,相手の意見をちゃんと聞いて,それを生かして相手に
伝えること。
・ただ,話したり聞いたりするだけでなく,考えて話したり聞いたりすれば,もっとよく分かるというこ
とを学べたと思います。考えることによって,よく相手に伝わり,よく自分に伝わるということをよく
学ぶことができました。
・対話のむずかしさと,成功したときのうれしさが心に残っている。はじめは,ほとんどうまくいってい
なかったのに,最後の座談会では,一回目とはくらべられないくらいにうまくなった。小さなことから
すこしずつやっていけば,とてもうまくなるのだなあとすごく思った。この授業はとてもおもしろかっ
たと思います。
・相手の意見と自分の意見を重ねて初めて,大切な何かがわかるのです。みんなと,物語を書いた作者と,
私とで,心を通じ合わせて物語の足りない部分がうまるんだなあと思いました。
ウ
情意面の高まりについて
第四次に入り対話の人数が増えると,新
しい課題が生まれ,
「賢治の理想を5年生に
伝えたい」という目的意識の高さや自己評
価・相互評価による伸びの実感が,新たな
課題への挑戦意欲を喚起した。また,対話
による考えの深まりの実感がさらなる自信
と意欲につながった。中間発表という形で
相互評価を取り入れたことにより,自分た
ちの対話の修正点や取り入れるとよいアイ
ディアに気が付いて,グループで話し合い
ながらよりよいものにすることができた。
技術を意識しながら「聞くこと」のよさに
も気付いている。
「賢治の理想を伝える」と
いう目標の達成感も高く,自分たちの伸び
に満足している様子がうかがえる。
学習全体をふり返り,学んだことや成長
したことを交流した。児童は,
「聞く力」の
伸びを具体的に実感している。具体的な「聞
く」
「聴く」
「訊く」技術を示し,自己評価・
相互評価しながらふり返り,伸びと課題を
確認しながら,くり返し学習してきて,最
終目標の「座談会」を成功させた達成感が
その伸びの実感を大きくしているのではな
いだろうか。児童は,
「聞く」
「聴く」
「訊く」
ことの大切さを感じることができた。双方
向に「聞くこと」を通して,自分も相手も
考えを深め,相手と協同して新しい考えを
生み出すよさに気付いている。相手を思い
やり,共感的に聞こうとすることの大切さ
も感じている。
単元終了後の児童の感想からは,
「聴き,訊くこと
が大切」と感じている姿や,
「聞くこと」の喜びを感
じている姿,学んだことをこれからの生活に生かそ
N=38
27
人数
うとする姿がうかがえる(表6)。また,表4のA児
11
についても,技術面や認知面の高まりとともに,具
0%
20%
とてもそう思う
図7
40%
だいたいそう思う
60%
80%
あまりそう思わない
100%
体的な課題を挙げ「がんばりたい」という意欲が高
まったくそう思わない
賢治の魅力を伝えたいと思ったか
まり,意見の深まりを「よかった」と表す等,情意
面が高まっている様子(※2,3,4)を見取るこ
第1時では,前単元における「賢治の生き方への
とができる。
感動体験」から出発し,相手意識・目的意識を明確
にしたことで,全員の児童が「座談会を成功させ,
N=38人
5年生に賢治の魅力を伝えたい」という意欲をもつ
児童の感想の「5年生に楽しんでもらえるようにが
第12時
んばりたい」や「ならったことを利用して賢治さん
第13時
31
第14時
32
の魅力を伝えたい」などの記述から,
「賢治の魅力を
とてもそう思う
3 ←1
9
29
0%
伝えるために」目標を達成しようとする姿がうかが
←1
3
9
25
第11時
5
13
22
第10時
ことができた(図7)。表5に(意欲)として示した
12
20
第9時
20%
だいたいそう思う
5
40%
2
6
60%
あまりそう思わない
80%
100%
まったくそう思わない
える。
「賢治の魅力を伝えることができたか」という
自己評価の満足度は,座談会本番(第 14 時)に向
図8
賢治の魅力を伝えることができたか
けて高まっている(図8)。児童は,
「賢治の魅力を探
り,伝える」という最終目標を見失うことなく活動
これらのことから,必然性をもって取り組んだ言
しており,この目標達成への意欲と,
「聞くこと」が
語活動の達成感や「聞く力」の伸びの実感,
「聞くこ
なければ続かない対話のよさが,活動場面において
と」のよさの実感が,これからも「聞き,聴き,訊
も相手の話を「分かろうとして聞き,聴き,訊こう」
こう」とする「情意面」の高まりにつながったので
とする意欲の高まりにつながったと考える。
はないかと考える。
-7-
表6
単元終了後の児童の感想
的に聞き出そうとする聞き手の存在が「話そう,
●
相手の気持ちを分かろうとすることが大切だと思いまし
た。気持ちが通じないと会話だってすれちがいがちで,上手
にキャッチボールなんてできないからです。
● 相手が言っている時に心で聴いたり口で訊いたりする力
が大切。それは,相手のことを聞いて話を進めていったりし
ないといけないし,話しているのを聞いて,自分と何がちが
っているのかを分からないといけないから。
● 聴くことが大切と思います。ただ聞いていたんじゃあ,後
で何を話していいかわからなかったり,フォローを入れにく
かったりいろいろなると思います。聞いていても,答える人
はいるかもしれないけど,それは,相手の意見を入れてない
回答になると思います。
● 人の話を考えながら聞いたり,すぐに自分の意見を考えた
りできるところに役立つと思います。わけは,座談会の練習
でも本番でも思ってもなかった質問が来たりするとき,とっ
さに考えなければいけなかったからです。
● 私はこの学習を通して,一番心に残ったことは,座談会を
して話す楽しさと訊く楽しさを学んだことです。今までより
もずっと楽しくわくわくした授業でした。
● 聞くには三つの聞くがあるということが分かりました。話
したり聞いたりすることは,むずかしいけど,何度も練習を
すればうまくできると思いました。ふだんも,話したり聞い
たりすることがどうすればうまく続くかということを考え
ながら話したり聞いたりしたいです。
● 人といっしょに話し合ったりするときに,聞く力がついた
から,もっと話しやすくなり,役に立つと思った。次に,み
んなと話すときに,とても早く話が進んでよい話し合いにな
ると思う
● 話し合いのときとか自分から進んで話したり,聞く聴く訊
くの三つでやりたい。人の話をこの三つでやると,相手にも
いいと思う。
話したい」という意欲を引き出し,対話すること
で互いの考えが深まり「伝える内容」をもてた(図
9)ことが「話すこと」への自信につながったと
考える。
11
第7時
13
読み取ったメッセージを 自
分のことばで書いている
14
印象に残った場面とそのわ
けを 書いている
38
第12時
印象に残った場面のみ書
いている
N=38人
0%
20%
図9
○
40%
60%
80%
100%
教師によるワークシート分析
「聞く」「聴く」「訊く」を意識させる学習過程
や評価を工夫したことは,
「聞く力」を高めるため
に有効であった。しかし,単元を通して児童の学
習意欲を支えたのは,
「5年生に賢治の魅力を伝え
たい」という相手意識・目的意識であった。児童
にとって,言語活動が「達成したい」魅力のある
活動目標をもち,
「聞かねばならない」必然性をも
Ⅳ
成果と課題
った活動であったことが成果につながったと考え
る。同時に,その達成の過程で技術面が高まり,
1
成果
それを実感し「聞くこと」のよさに気付く認知面
○
「聞く」「聴く」「訊く」技術の必要性を感じさ
の高まりが,これからも「聞くこと」を生活に生
せ,トレーニングした技術を対話で活用できるよ
かそうとする情意面の高まりに結びついたと考え
うな学習過程を工夫したことは,技術面の高まり
る。
に有効であった。
○
児童の実態に合わせ「モデルの例示→試行→ふ
2
課題
○
取り立て学習を単なる技術トレーニングではな
く,児童の活動目標にとって必要性が感じられる
た学習過程を工夫したことは,児童の「できそう
ように学習を位置付けた。しかし,一つの単元の
だ」→「∼はできた」→「もっと∼をすれば」→
中に技術トレーニングを取り入れられる時間は限
「∼をがんばろう」という学習意欲の継続につな
られている。大単元の学習過程に位置付けるだけ
がり,技術面・認知面の高まりに有効であった。
でなく,年間の学習指導計画を吟味し,帯単元や
○
り返り→次の課題」というスモールステップ化し
ふり返りカードやモニターの設置,教師による
小単元としても今後継続的に取り組んでいきたい。
形成的評価などを取り入れ,観点を明確にした自
己評価や相互評価を工夫したことは,モデルの例
参考文献
示にもなり,技術の有用性や伸びを実感する認知
面の高まりに有効であった。
○
①
単元終了時の「この学習で一番成長したと思う
井上尚美・田近洵一『国語教育指導用語辞典
三版』
こと」の記述では,「聞く力」に次いで「話す力」
②
-8-
2004
高橋俊三『音声言語指導大事典』
1999
を挙げる児童が多かった。相手を思いやり,積極
教育出版
第
明治図書
-9-
運動への意欲を高める体育科の学習指導法に関する研究
―仲間とのかかわりを深める器械運動の実践を通して―
広島市立五月が丘小学校教諭
Ⅰ
研究主題設定の理由
Ⅱ
吉
田
昌
史
研究の方法
日常生活における運動遊びの減少や精神的なスト
児童が仲間とのかかわりを深めることを通して,
レスの増大など,児童の成育環境の変化に伴い,体
運動への意欲を高めることのできる学習指導の在り
力・運動能力の低下や活発に運動をする者とそうで
方を追究する。
ない者との二極化が指摘されている。
このような状況の中,小学校体育科では『小学校
Ⅲ
研究の内容
1
研究主題に関する基礎的研究
学習指導要領解説体育編』において,今回の学習指
導要領改訂の方針の一つとして
(1)
児童の発達的特性を考慮した運動に仲間と豊か
運動への意欲について
『小学校学習指導要領解説体育編』には,体育科
にかかわりながら取り組むことによって,各種の運
の目標として,
動に親しみ運動が好きになるようにすること。
を挙げている。
欲が高いが,運動を苦手とする児童は,運動への意
心と体を一体としてとらえ,適切な運動の経験と
健康・安全についての理解を通して,運動に親しむ
資質や能力を育てるとともに,健康の保持増進と体
力の向上を図り,楽しく明るい生活を営む態度を育
てる。
欲が低く,運動する喜びを味わうことができない状
と示されている。そして,
「運動に親しむ資質や能力
況が見られた。また,児童への聞き取りから,意欲
を育てる」については,児童が生涯にわたって運動
の低い児童は,技能差だけではなく,運動場面で仲
やスポーツを豊かに実践していくための基礎を培う
間とうまくかかわれていないということから,運動
ことを重視するために強調したものと位置付け,
「運
する喜びを味わえていないことが原因の一つである
動に親しむ資質や能力」の一つに「運動への関心や
ことも分かった。これは,教師が,子どもたちのか
自ら運動をする意欲」を示している。
しかしながら,これまでの自身の授業実践を振り
返ってみると,運動を得意とする児童は運動への意
かわりをどのように引き出して学習のねらいにせま
児童は,運動が「できるようになりたい」
「上手に
っていくのか,かかわりをどのように質的に深めて
なりたい」など,達成欲求をもっている。教師は,
いくのかということについて,具体的な構想がもて
一人一人の児童に応じて達成欲求を満たすことがで
ずにいたからだと考える。
きるようにすることが大切である。達成欲求を満た
そこで本研究では,仲間とのかかわりを深めると
すことができれば,喜びや満足感を味わい,
「またや
いう視点から,指導の手だてを工夫し,仲間と運動
りたい」
「もっと上手になりたい」など,運動への意
することの喜びを十分に味わわせることが,児童の
欲が高まると考える。
運動への意欲を高めることにつながるのではないか
(2)
と考える。
ついて
運動への意欲と仲間とのかかわりの関連性に
岩田靖は,
「
『関心・意欲』というものは,子ども
-9-
の運動に対する興味や関心をできる限り大切にする
械運動」領域において
という授業の前提の意味だけでなく,授業における
運動に集団で取り組み,一人一人ができる技を組
み合わせ,調子を合わせて演技するような活動に発
展させることもできる。
教師の能動的な働きかけや子ども同士のかかわり合
いを通して積極的に,そして豊かに育てられるべき
対象としてとらえるべきであろう。
」と述べている。
めることにつながると考える。
という内容が新たに加えられた。また,
一人一人が自己の課題をもって自発的・自主的な
工夫をしながら取り組み,仲間で互いに励まし合
い,助け合って,学習を進めていくように指導して
いくことが大切である。
(3) 「仲間とのかかわりを深める」とは
と記されている。本来,器械運動は個人的な達成型
このことから,教師の能動的な働きかけにより,仲
間とのかかわりを深めることが,運動への意欲を高
本研究では,
「仲間とのかかわりを深める」という
の運動としてとらえられがちであるが,集団で,一
ことを,
「仲間と課題を解決していく中で,意見を出
つの演技に取り組むことにより,一人一人のできる
し合ったり,
互いに励まし合ったり,
教え合ったり,
技を用いて動きを組み合わせたり,仲間と動きを合
よさを認め合ったりしながら,運動する喜びを共有
わせることで動きの質を高めたり,仲間とともに作
できる人間関係を築くこと」と考え,仲間とのかか
品を創り上げていく喜び,発表を見る楽しさや発表
わりを深めている状態を以下の視点でとらえること
する緊張感や達成感などを引き出したりすることが
とした。
・ 仲間と意見を出そうとしたり,受け入れよう
としたりする
・ 仲間と励まし合い,教え合おうとする
・ 仲間のよさを認め合おうとする
できると考える。
(4)
「場の設定」
「教具の工夫」
「教師の働きかけ」を行
(5)
「仲間とのかかわりを深める」ことを意図した授
業を行うためには,前述した三つの視点に沿って,
仲間とのかかわりを深める器械運動について
平成 11 年における『小学校学習指導要領』の改訂
により,
『小学校学習指導要領解説体育編』では,
「器
表1
指導の手だての視点
仲間と意見を出そう
としたり,受け入れよ
うとしたりする
仲間と励まし合い,教
え合おうとする
仲間のよさを認め合
おうとする
2
指導の手だてについて
うことが必要であると考える。そこで,次のような
指導の手だてを工夫した(表1)。
仲間とのかかわりを深める具体的な指導の手だて
場の設定
具体的な指導の手だて
教具の工夫
教師の働きかけ
・ペアやグループでの演技 ・児童が,集団演技づくりを考える ・教師が,集団演技づくりを考える場面において,
を考える「演技の構成を考 場面において,演技の構成を視覚的 個々の意見に対して,意見を受容する雰囲気や安
える場」を設定する。
に確認することのできる「ホワイト 心感をもてるように,積極的に言葉かけを行う。
ボード」と「マットの使い方カード」
を活用する。
・児童がペアで,グループ ・児童が練習場面において,アドバ ・「一声運動」として,教師が児童に肯定的なか
で,ペアグループでと互い イスの視点を焦点化することのでき かわりのポイントを提示し,成功した時のほめ方
の演技を相互評価する「見 る「技のポイントカード」を活用す や失敗したときのアドバイスの仕方を教え,積極
的に言葉かけを行う。
合いの場」を設定する。 る。
・毎授業終了時に,児童が
グループの仲間のよかっ
た点について,全体で賞賛
し合う「振り返りの場」を
設定する。
・「意欲面」「仲間とのかかわり」な
どの観点から,仲間のよかった点を
記入することのできる「学習カード」
を活用する。
授業実践と結果の分析・考察
・教師が課題に積極的に取り組んでいる児童や,
仲間のよさや頑張りを認める発言や行動に対し
て言葉かけを行い,全体に紹介する。
・教師が,仲間のよさや頑張りについて記述され
た,児童の体育日記を毎時間,授業始めに全体に
紹介する。
の単元計画を作成し,平成 17 年 11 月 4 日∼11 月 29
(1) 授業実践の単元計画
日に授業を実施した(表2)
。
広島市立A小学校第4学年を対象に「集団マット」
- 10 -
表2
時
めあて
(分 )
5
1
3
単元計画
4
5
6
7
8
学 習 の イ メ ー ジ を つ ペ ア で 「同 時 に 」と い ペ ア や グ ル ー プ で 「同 ペ ア や グ ル ー プ で 「順 グ ル ー プ で 「は じ め 」 グ ル ー プ で 試 し な が グ ル ー プ で 集 団 演 技
「な か 」「お わ り 」の 集 ら 集 団 演 技 を つ くる を ス ム ー ズ に 行 う
番 に 」と い う感 じ を つ
かむ
う感 じをつ か む
時 に 」と い う 感 じ を つ
団演技を考える
かむ
かむ
気持ちを合わせて発表
会を楽しむ
○オリエンテーショ ○ 準 備
ン
○ ウ ォー ミン グ ア ップ
○準備
○準備
○準備
○準備
○準備
○準備
○ ウ ォー ミング アップ
○ ウ ォー ミン グ ア ップ
○ ウ ォー ミング ア ップ
○ ウ ォー ミン グ ア ップ
○ ウ ォー ミング アップ
○ ウ ォ ー ミン グ ア ップ
・学 習 の テ ー マ
① 集 団 マ ット遊 び
① 集 団 マ ット遊 び
① 集 団 マ ット遊 び
① 集 団 マ ット遊 び
① 集 団 マ ット遊 び
① 集 団 マ ット遊 び
○グループ練習
・み ん な で ジ ャ ン プ
・横 転 が り
・み ん な で ジ ャ ン プ
・横 転 が り
・透 明 8の 字 と び
・み ん な で ジ ャ ン プ
・透 明 8 の 字 と び
・み ん な で ジ ャ ン プ
・透 明 8の 字 と び
・み ん な で ジ ャ ン プ
・透 明 8の 字 と び
・み ん な で ジ ャ ン プ
・発 表 会 に 向 け て の 最
終練習
② 感 覚 づ くりの 運 動
・ゆ り か ご
・か え る の 足 うち
② 感 覚 づ くりの 運 動
・ゆ り か ご
・か え る の 足 う ち
② 感 覚 づ くりの 運 動 ② 感 覚 づ くりの 運 動
・ゆ り か ご
・ゆ り か ご
・か え る の 足 うち
・か え る の 足 う ち
10
・学 習 の 進 め 方
② 感 覚 づ くりの 運 動 ② 感 覚 づ くりの 運 動
・ゆ り か ご
・ゆ り か ご
・か え る の 足 うち
・か え る の 足 う ち
・補 助 倒 立
・補 助 倒 立
・補 助 倒 立
・補 助 倒 立
・補 助 倒 立
・補 助 倒 立
・ブ リ ッ ジ な ど
・ブ リ ッ ジ な ど
・ブ リ ッ ジ な ど
・ブ リ ッ ジ な ど
・ブ リ ッ ジ な ど
・ブ リ ッ ジ な ど
○ペア練習
○ペア練習
○ペア練習
○グループ練習
○グループ練習
○グループ練習
①できる技合わせ
①できる技合わせ
①できる技合わせ
・集 団 演 技 づ くり
・集 団 演 技 づ くり
・集 団 演 技 づ くり
・前 転
・自 分 が で き る 技
・自 分 が で き る 技
・集 団 マ ッ ト の 演 技
(V T R )
② チャレンジ技
②チャレンジ技
・後 転
○グループ練習
・側 方 倒 立 回 転
○グループ練習
・学 習 の 約 束
・くち リ ズ ム に 合 わ せ
て
・くち リ ズ ム に 合 わ せ
て
15
・技 の 種 類
20
2
25
・集 団 演 技 の 練 習
・集 団 演 技 の 練 習
・ペ ア グ ル ー プ で の
見合い
・ペ ア グ ル ー プ で の
見合い
○集団演技発表会
・ペ ア グ ル ー プ で の
見合い
○グループ練習
・学 習 カ ー ド の 使 い
方
・決 め の ポ ー ズ ・か
け声
35
○ ま と め (振 り 返 り ) ○ ま と め (振 り 返 り )
○ ま と め (振 り 返 り )
○ ま と め (振 り 返 り )
○ ま と め (振 り 返 り ) ○ ま と め (振 り 返 り )
○ ま と め (振 り 返 り )
40
○ 整 理 運 動 ・片 付 け ○ 整 理 運 動 ・片 付 け
○ 整 理 運 動 ・片 付 け
○ 整 理 運 動 ・片 付 け ○ 整 理 運 動 ・片 付 け ○ 整 理 運 動 ・片 付 け
○ 整 理 運 動 ・片 付 け
(2)
分析の方法
手だてが有効であったかを三つの視点から分析・考
児童の運動への意欲の高まりを見取るために,単
元前と単元終了後にアンケート調査を行った。また,
察する。
ア
「仲間と意見を出そうとしたり,受け入れよう
仲間とのかかわりが深まっているかを見取るために
としたりする」視点について
毎時間授業終了後に意識調査を行った。これは,高
仲間と意見を出そうとしたり,受け入れようとし
橋健夫らが小学校高学年用に作成した「集団的形成
たりすることができたかどうかを児童の意識調査の
評価」の項目を参考に,
「仲間とのかかわりについて
結果から分析する。
の意識調査」として作成したものである。この意識
図1は,単元前・後に行った児童への意識調査の
調査の結果をもとに分析する。また,児童の学習中
うち「体育では,グループで話し合うとき,自分か
の発言や感想もとに,「仲間とのかかわりを深める」
ら進んで意見を言いますか」の項目を取り上げて,
ことを見取る規準(表3)を拠り所にして,児童を
「はい」
「どちらでもない」
「いいえ」の割合をグラ
見取り,指導の手だてが有効であったかを考察する。
フ化したものである。グラフを見ると,単元前は「は
い」と答えた児童が9名だったのに対し,単元後に
表3
仲間とのかかわりの深まりを見取る規準
は 26 名となり,多くの児童が進んで意見を言えるよ
(学習中の発言,学習カード・体育日記の記述などを通して)
〇「仲間と意見を出そうとしたり,受け入れようとしたりする」
・
「意見を出した」
「意見が参考になった」
「意見を聞いてくれた」
「話し合えた」
〇「仲間と励まし合い,教え合おうとする」
・
「ほめられた」
「励まされた」
「補助してもらった」
「∼を教えて
もらった」
「ほめた」「励ました」
「補助した」「∼を教えた」
〇「仲間のよさを認め合おうとする」
・「○○さんが,できた」「○○さんが,上手になった」「○○さ
んが,∼して頑張っていた」「○○さんが,△△さんを励まし
ていた」「○○さんが,△△さんを助けていた」「協力できた」
「仲良くできた」
うになっていることがうかがえる。
9
単元前
17
N=30人
4
はい
26
単元後
0%
20%
図1
(3) 分析・考察
40%
どちらでもない
4
60%
80%
いいえ
100%
「自分から進んで意見を言う」
そこで,このような結果が得られた理由を「場の
仲間とのかかわりを深めることを意図した指導の
設定」
「教具の工夫」
「教師の働きかけ」の三つの指
- 11 -
導の手だてから考察する。
<教師の働きかけ>
<場の設定>
ここでは,教師の働きかけの有効性について,自
ペアやグループでの演技を考える時間を保障し,
分から意見を出すことに苦手意識をもっているA児
一人一人の意見が演技の中に反映されるように考え
の意識調査(図2)や感想の推移(表6)をもとに
て「演技の構成を考える場」を設定した。
分析する。
表4に示した児童の感想からは,仲間の意見を大
(点)
切にしていこうとする姿勢がうかがえる。
3
2
1
3
2
表4
児童の感想
はい
どちらでもない
いいえ
意見を大切にする
進んで意見を出し合う
1
○ 困ったことがありましたが,S さんがナイスアイデアを出し
てくれました。女子は前転をするから,男子は側転をしたらと
いってくれました。班がまとまってよかったです。だから,み
んなが協力すれば,何でもできるんだなと思いました。
○ 班で,口げんかみたいになったけど,意見を大切にして練習
をしました。スムーズにするために,固く考えず,簡単に考え
て演技をつくりました。
1
図2
2
3
4
5
6
7
8 (時)
「意見を出そうとしたり,受け入れようとした
りする」(A児)
表6
A児の感想の推移
(第3時) 朝,先生にそうだんして,みんなは意見を言えたけ
ど,私は言えずに2回目の話し合いで私も意見を言え
ました。私は,「2人でも4人でもできることをがん
ばって協力する。
」と言いました。
(第4時) なかなか合わなくてみんなとできませんでした。ペ
アグループと協力してやって,3回目にやっとできた
けど,これからもみんなと協力して楽しい体育にして
いきたいと思いました。
(第5時) 最初は,なかなかそろわなくてできませんでした。
だけど今日は,「みんなで回って,ハイ,ポーズ」じ
ゃあなくて,わたしは,「1,2,3,4,5,6,
7,8,」というふうにしようと,みんなや先生にそ
うだんしました。そしたら,「いいよ。」と言ってく
れました。体育は,とても楽しいです。
(第6時) みんなと一緒に協力していろいろな技をしました。
一声運動で「がんばれ。」「あともう少しだよ。」とい
うこと一声運動は大切だということが分かりました。
(第7時) まだ,リズムに合わないかもしれないけど,8時間
目の体育はとても楽しみです。今まで,みんなと一緒
に体育をしてきて,とても楽しかったです。
(第8時) 集団マットをしようとする時や話し合いに,先生が
ついてくださって,いろんなアドバイスをもらいま
した。楽しかったです。
このことから,演技の構成を考える場を設定した
ことは,児童が,よりよい演技づくりに向けて試行
錯誤する中で,一人一人の意見の大切さを感じさせ
ることに有効に働いたと考える。
<教具の工夫>
ホワイトボードを話し合いの場で活用した。出た
意見をもとに,ホワイトボードに書き込んだり,修
正をしたりすることで,意見を出した児童だけでな
く,グループ全員が動きや演技の構成を視覚的に確
認し,理解することができるのではないかと考えた
からである。このホワイトボードの活用によって,
全員が動きや演技の構成についての共通理解をする
ことや,その場で何度でも,書き直しながら修正す
A児の所属するグループは男女が対立し,意見が
ることができたために,グループの話し合いが活性
まとまらない傾向にあった。特に,第4時には,グ
化した。このことは,表5にある児童の感想からも
ループ内の対立が激しくなり,練習を十分に行うこ
うかがえる。
とができなかった。そこで,第5時では,話し合い
このことから,ホワイトボードの活用が,仲間と
の場面で,教師がグループに入り,児童一人一人の
意見を出そうとしたり,受け入れようとしたりする
出した意見に対して,
「いいアイディアだね。」
「いい
ことに有効に働いたと考える。
よ。試してごらん。
」など,承認を意識した言葉かけ
を積極的に行った。教師が一人一人の意見を承認す
表5
○
児童の感想
今までとはちがって,演技をどうすればいいのかを書くホワ
イトボードに,今までは加えていなかったけど,技を加えてみ
ました。そしたら,いいのができたから,どんどん工夫してい
きたいです。
○ ホワイトボードに書いたみたいに,本当にやってみました。
「はじめ」は,よかったですが,
「なか」と「おわり」はやめ
ました。
「なか」で足があたったからです。なので「なか」は,
集まるではなく,
「首倒立」にしました。で「おわり」は,二
人が補助倒立で二人が首倒立にしました。上手くいきました。
ることによって,A児は自分が出した意見がグルー
プや教師に認められるという経験をし,第5時の感
想では,
「『いいよ。
』と言ってくれました。体育は,
とても楽しいです。」という記述をしている。第6時
以降も,A児の所属するグループは,一人一人の意
見をまず認めるという雰囲気が次第にめばえてきた。
- 12 -
A児は,単元終了時の,集団マットの学習で「うれ
よりよい演技づくりに向けて,互いの「くちリズム」
しさや楽しさを一番感じたことは何ですか」という
を伝え合うなど,協力する場面が見られるようにな
問いに対して,
「みんなで一緒に考えたり,意見を出
り,演技後には「どうだった?」
「うまくできてた?」
し合ったりしたこと」と答えた。
と演技のつながりや技の正確さについての評価を求
このことから,グループでの話し合いの中で,一
める声も出てきた。また,
「あのグループのようにや
人一人の意見を聞いて認めるという教師の言葉かけ
ればいいんだ。
」
「そういう回り方もあったんだ。
」な
が,仲間と意見を出そうとしたり受け入れようとし
ど,ペアグループから学ぶことを意識した発言があ
たりすることに,有効に働いたと考える。
ったり,感想が見られたりした(表7)
。
イ 「仲間と励まし合い,教え合おうとする」視点
について
表7 児童の感想
○ ペアグループで見合いました。とてもよい感想を言ってもら
(点)
いました。息が合っているからこそこんなに美しい演技が生ま
れるんだなと思いました。今日の体育は,とっても楽しかった
です。
○ 私は,ペアグループの演技をじっくり見て「後転は,そうす
れば上手くできるのか」と思いながら見ていました。
仲間と励まし合い,教え合おうとすることができ
たかどうかを児童の意識調査の結果から分析する。
図3は,毎時間授業終了後に行った児童の意識調
査のうち「グループの友達を補助したり,アドバイ
このことから,
「見合いの場」を設定したことが,
スしたりすることができましたか」
「グループの友達
をほめたり,励ましたりしましたか」の二つの項目
仲間と励まし合い,教え合おうとすることに有効に
を取り上げて,クラス全体の平均値をグラフ化した
働いたのではないかと考える。
ものである。まず,
「グループの友達を補助したり,
<教具の工夫>
アドバイスしたりすることができましたか」の項目
図4に示したような,
「技のポイントカード」を全
のグラフを見ると,第1時では「2.35」だったもの
ての児童に配付することによって,運動過程におけ
が,第8時では,
「2.97」となり,ほぼ全員が「でき
る,どの場面でどのような言葉をかけてあげられる
た」
ことがうかがえる。
「グループの友達をほめたり,
のかということを,具体的に理解できるようにした。
励ましたりしましたか」の項目についても同様に,
このことにより,それまで,運動を得意とする児
時間の経過とともに徐々にできてきていることがう
童が運動を苦手とする児童へ教えるという一方向だ
かがえる。
けの活動が見られがちであったが,運動を苦手とす
る児童からも「足を伸ばして。」
「脇をしめて。
」「手
(点)
3
のひらは,上に向けて。
」など,具体的な言葉による
N=30人
3
2
1
2.5
2
はい
どちらでもない
いいえ
アドバイスが行われるようになり,教え合いという
活動が双方向に見られるようになった。
1.5
補助・アドバイス
1
1
2
3
4
5
6
7
(時)
8
ほめ・励まし
図3 「仲間と励まし合い,教え合おうとする」
そこで,このような結果が得られた理由を「場の
設定」
「教具の工夫」
「教師の働きかけ」の三つの指
導の手だてから考察する。
<場の設定>
ペアグループをつくり,互いの演技を見合う場を
設定することにより,教え合いや励まし合いができ
るようにしようと考えた。その結果,各グループが
- 13 -
図4
「技のポイントカード」の例
<教師の働きかけ>
ような結果になったのは,教師の言葉かけに具体性
教師の働きかけの有効性について,運動を苦手と
がなく,抽象的であったからだと考えた。
するB児の意識調査(図5)や感想の推移(表8)
をもとにして考える。
そこで,第6時の授業の始めに,
「一声運動『肯定
的なかかわり方のポイントを具体的な表現で提示し,
第5時において,演技のリズムについていけなか
学習カードに記載したり,黒板に掲示したりして学
ったB児は,ペアグループから「Bさんだけがおく
級全体に意識付けられるようにしながら,積極的に
れていたよ。
」
「もう少し早く回って。
」という指摘を
友達に声をかけることを目標とした運動(表9)
』」
受けた。このことが,B児のうまくできないのでは
の内容を学級全体で振り返ることにした。その中で
ないかという不安を,さらにつのらせることになっ
も,特に「友達がやる気をおこすような言葉をかけ
てしまい,その結果,泣き出してしまった。そこで,
よう」という内容について確認し合った。さらに,
すぐにペアグループを集め,B児の頑張りについ
教師も自らグループを回りながら「しっかりポーズ
ても認めていくように「B児のよさも見つけてあげ
を決めて。」
「すばらしいよ。」
「支持しているからや
てね。
」という言葉かけを行った。
ってごらん。
」
「もうできるよ。
」など,技能に関する
助言と運動結果に対する賞賛や自信をもたせるよう
(点)
3
3
2
1
2
な具体的な言葉かけを積極的に行った。
はい
どちらでもない
いいえ
B児は,第6時の感想にもあるように,
「アドバイ
スのおかげでできました。
」「すごいじゃん,できた
1
1
図5
2
3
4
5
6
7
8 (時)
じゃん。
」などの,言葉かけをしてもらい,そのこと
「友達とお互いに教えたり,助けたりしました
を「うれしかったです。
」と表現している。また,意
識調査の結果も「3」になっている。さらに,第7
か」(B児)
時の感想からは,
「いいよ,
その調子。」
「よかったよ。
」
という言葉をかけてもらっただけでなく,
「私も,い
表8 運動に苦手意識をもっているB児の感想の推移
(第2時)
(第3時)
ペアでWさんとで楽しかったです。
F君は,速くて合わなくて,いろいろきめても合い
ませんでした。Wさんが帰ってきて,3人だからうま
くいきました。よかったです。分かったことは,協力
しないとうまくいかないことです。
(第4時) 最初は合わなかったけど,声を入れたら合いまし
た。楽しかったです。アシストはF君です。理由は「練
習しよう」とできないときに言ってくれたからです。
(第5時) ペアの班に見てもらうとき「Bさんは,おくれたり
して,できてないよ。」と言われて泣いてしまいまし
た。その時,Wさんがなぐさめてくれました。
(第6時) 側転の練習をしました。前は,できなかったけど,
ゴムをもってくれているWさん・Iさんのアドバイス
のおかげでできました。できた時も「すごいじゃん,
できたじゃん」と言ってくれました。うれしかったで
す。8班の人に見てもらうとき成功したと思います。
(第7時) グループでホワイトボードをみて話し合ったこと
を練習しました。一人ずつやって先生もアドバイスを
くれました。Wさんも「いいよ,その調子」といって
くれました。兄弟班も「よかったよ」とかいいことば
かりでした。私も,いいところを言ってあげたいです。
(第8時) いよいよかけ声です。「7班!」はWさん,「協力」
私とWさん,「努力」I君,「がんばるぞ!!」が全
員。そのかけ声で気合が入りました。発表が上手くい
って「成功した。」と思って「ハイタッチ」を思いっ
きりしました。教えてもらった技をずっと使っていき
たいです。
いところを言ってあげたい。
」という自分から進んで
仲間とのかかわりをもとうとする内容の記述も見ら
れるようになった。第8時では,全員でかけ声をか
けることによって,喜びを表現するハイタッチをす
るなど,B児の運動に対する積極性がうかがえた。
表9
「一声運動」の内容
『一 声 運 動 ! ! 開 始 』
○ 友 だ ちが や る気 をお こす ような 言 葉 をか け よう。
「す ご い ! 」「ナ イ ス ! 」「う ま い 」「き れ い 」
「い い よ 」「そ の 調 子 」「平 気 平 気 」「ド ン マ イ 」
○ 男 女 関 係 な くみ ん な で 助 け 合 お う。
「2 人 組 で ,む り な と き は 3 人 や 4 人 で ほ じ ょ し 合 お う 」
○ 成 功 した ときは ,喜 び を表 そ う。
「ハ イ タ ッチ 」「ガ ッツ ポ ー ズ 」「拍 手 」「声 か け 」「握 手 」
以上のことから,教師が運動結果に対する賞賛や
しかし,第5時のB児の「友達とお互いに教えた
技能に関する助言などを積極的かつ具体的に行った
り,助けたりしましたか」についての意識調査の結
ことや子ども同士で「やる気をおこすような言葉か
果は「1」であった。教師がB児の不安を取り除こ
けをしていこう」という「一声運動」を励行したこ
うと意図する言葉かけをしたにもかかわらず,この
とや,どんな言葉を言えばよいのかを具体的に示し,
- 14 -
紹介したことが,教え合ったり,励まし合ったりす
仲間に認められることによって喜びを感じ,その結
る言葉かけの活性化に有効に働いたと考える。
果,運動に積極的に取り組む児童も出てきた。
ウ
「仲間のよさを認め合おうとする」視点につい
このことから,この場の設定が,認められること
て
のすばらしさ,よさや頑張りを伝え合うことの大切
仲間のよさを認め合おうとすることできたかどう
さをクラス全体で実感することにつながり,仲間の
かを児童の意識調査の結果から分析する。
よさを認め合うことに有効に働いたと考える。
図6は,毎時間授業終了後に行った児童の意識調
<教具の工夫>
査のうち「友達のよさや頑張りを見つけることがで
毎時間グループの仲間やペアグループのよかった
きましたか」の項目を取り上げて,クラス全体の平
点について書き込むことができるように,学習カー
均値をグラフ化したものである。このグラフを見る
ドを工夫した。学習カードに記入したことを,授業
と,第1時では「2.63」だったものが,第8時では,
終了後に教師が見ることで,授業中に見落としてい
「2.97」となり,ほぼ全員が「できた」ことがうか
た児童のよさや頑張りを発見することができ,次の
がえる。
時間に,賞賛することができたり,頑張りを評価し
たりすることに役立った。
(点)
3
<教師の働きかけ>
N=30人
3
2
1
2.5
はい
どちらでもない
いいえ
毎時間終了時に,グループの仲間やペアグループ
のよかった点について発表させていたが,第3時ま
2
1
図6
2
3
4
5
6
7
では,児童の発言が非常に少なかった。また,発言
8 (時)
「友達のよさや頑張りを見つけることができま
内容も,
「後転ができていた。」
「側転ができていた。
」
という,
「できた」ことについてであった。
したか」
そこで,
「できたことだけでなく,できなくても一
そこで,このような結果が得られた理由を「場の
生懸命やってきたことが大切なんだよ。
」という助言
設定」
「教具の工夫」
「教師の働きかけ」の三つの指
を行った。さらに,第4時においては,課題に対し
導の手だてから考察する。
積極的に取り組んでいる児童や,仲間に対しての助
<場の設定>
言や補助,賞賛や励ましなどの発言や行動に対して,
「ナイスファイト」(意欲面)
「ナイスアシスト」
(仲間とのかかわり)などの観点から学習カードに
教師が賞賛する言葉かけをより積極的に行い,全体
にも紹介していった。
記入し,全体で賞賛し合うことのできる,
「振り返り
の場」を設定した。
すると,第5時には,挙手も多くなり,発言も「し
っかり声を出して,リズムをとってくれたのでうれ
しかったです。
」「ペアグループの人が,難しい技に
表 10 体育日記
何度も挑戦していました。
」「困っているとき,いろ
今日の目標は,応援する,アドバイスをするでした。Tさん
は,足うちが5回できていました。ぼくも,Tさんのように上
手になりたいです。最後のナイスファイト,ナイスアシストで
Sくんがぼくのことを言ってくれたのでうれしかったです。
○ 今日の体育は,楽しかったです。なぜなら,ほめられたから
です。ぼくは,骨折して体育ができなかったけど,声だけでも,
がんばろうと思って,がんばりました。がんばって,がんばっ
てがんばりまくりました。そしたら,5班で一番かつやくした
とナイスアシストで言ってもらえたから,うれしかったです。
んなアドバイスをもらって,助かった。」
「できたと
○
き,
『よかったね。
』と言ってもらって,うれしかっ
たです。」など,仲間のよさを見つけたことや仲間か
ら頑張っていることをほめられた喜びについてなど,
具体的に記述した内容になってきた。
このことから,技ができた,できないということ
このことにより,次第に認め合う雰囲気が生まれ,
にかかわらず,教師が運動に取り組む前向きな姿勢
発表に対して大きな拍手も自然に出るようになって
を取り上げて,全体の場で賞賛したことが,児童の
きた。また,表 10 の体育日記のように,全体の場で
認め合いを活性化させることに有効だったと考える。
- 15 -
エ
運動への意欲の高まりについて
単元前と単元終了後に行ったアンケート調査の結
1
成果
○
今回の研究を通して,教師の言葉かけが仲間と
果(図7)と児童の感想(表 11)から,児童の運動
のかかわりを深めることに,重要な関係があるこ
への意欲の高まりを分析・考察する。
とが分かった。そこで,どのような言葉かけが必
要であるのかを六つの項目に分類し,教師の言葉
17
単元前
11
2
かけの例として表にまとめた(表 12)
。
N=30人
今後は,この表をもとに,いつどのような場面
はい
29
単元後
1→
で効果的に働くのかを考えていきたい。
ど ち らでもない
いいえ
0%
20%
図7
40%
60%
80%
100%
「自分で進んで運動をする」
表 12 教師の言葉かけの例
自信をもたせる助言
教師の言葉かけ
10回やってみよう・1回でやってみよう・みんなで合
わせよう・同時にやってみよう・順番にやってみよう
すばらしい・上手だよ・きれいだよ・かっこいいよ
・完璧だ・助け合っているね・よく声が出ているよ
・ぴったりだよ・ナイス
いいよ・今のオッケイ・いいね・今の感じ・そう,そ
う・その感じだよ・合ってきたよ・そろってきたよ
目線は前・背中を丸めて・足は腰より高く・ポーズも
決めよう・リズムに合わせて・タイミングを合わせ
て・リズムをとって
ちゃんとできているよ・もういけるよ・それで十分だ
よ・みんなできているよ・チームワークがいいね
励まし・援助
がんばれ・見ているからやってごらん・支持してあげ
るよ・リズムをとってみるよ
項目
目標の提示
表 11 運動が苦手な児童の感想(単元終了後)
賞賛
(B児)
前までの体育は,発表とかは,なかったけど,先生の体育は,
班で発表や話し合いがあって,とても楽しくなりました。でき
ないときにはげましてくれる友達がいるのがうれしいです。
(中略)発表が終わって「成功した。」と心の中で思いました。
よかったです。
(C児)
私は,今までできなかった後転が,あと少しでできるように
なりました。班のアシストと先生の協力で,何とか回って立ち
上がれるようになりました。回ったとき,「つま先が,もうち
ょっと早くマットについたら,できるよ。」と友達に言われて,
練習をしています。今,習ってきたことをもとに,がんばろう
と思います。がんばって練習したらできるようになって,新し
い技にちょうせんしていきたいです。
承認
技能向上の助言
○
運動を苦手とする児童にとって,仲間とともに
課題に挑戦したり表現したりすることで,今もっ
「自分で進んで運動をしましたか」の項目のグラ
ている力でさらに豊かな楽しさを味わうこができ
フにおいて,単元前では,運動を苦手とする2名の
たことや練習場面や発表会などを通して,自分の
児童(B児,C児)が「いいえ」と答え,消極的な態
技が集団演技の中で生かされると実感できたこと
度を示していた。しかし,単元後には,2名とも「は
が,運動への意欲の高まりにつながったと考える。
い」と答えており,学習に対する姿勢の変容が見ら
2
課題
れた(図7)。
この2名の変容を単元終了後の感想(表
○
今回の研究では,運動の苦手な児童については,
成果を確認することができたが,運動の得意な児
11)から考察する。
まず,B児については,仲間と話し合ったり励ま
童にとって,仲間とのかかわりを深めることが運
されたりすることで,運動することの楽しさや喜び
動への意欲の高まりにつながっていたかどうかに
を実感し,
「できた」という達成感を味わっているこ
ついては,分析が不十分であった。今後は,運動
とがうかがえる。次に,C児については,友達の具
の得意な児童についても運動への意欲の高まりに
体的なアドバイスにより,できなかった技がもう少
つながっていくのかについて追究していきたい。
しでできそうだという手ごたえを感じ,次の技への
参考文献
挑戦意欲につながっている姿がうかがえる。
上記のことから,運動を苦手とする児童にとって
は,仲間とのかかわりを深めることを通して運動へ
①
市村操一『体育授業の心理学』
2002
の意欲を高めることができたのではないかと考える。
②
Ⅳ
大修館書店
高橋健夫『体育授業を観察評価する』
店
成果と課題
- 16 -
2003
明和書
- 17 -
児童の自己存在感を高める指導法の工夫に関する研究
―構成的グループ・エンカウンターのシェアリングにおける援助に視点を当てて―
広島市立井口台小学校教諭
Ⅰ
研究主題設定の理由
Ⅲ
子どもたちをとりまく社会のめまぐるしい変化に
より,子どもたちが人とかかわる力を身に付ける機
井
典
子
研究の内容
1
研究主題に関する基礎的研究
(1)
自己存在感とは
会が減ってきた。そのため,小学校においても,児
童の人とかかわる力を意図的に育てるための生徒指
笠
本研究においては,児童の自己存在感を,以下のよ
うにとらえ,研究を進めることとする。
自己存在感とは,自分を価値のあるもの,かけ
導の重要性がますます高まってきている。
生徒指導においては,児童と教師との好ましい人
がえのない存在として認め,集団の中で居場所が
間関係を主軸として,学校のすべての活動が,児童
あると感じる気持ちである。それは学校において
一人一人の自己実現を援助し,自己存在感を与える
は,学級集団の中で人とかかわることを通して自
ようなものになるように指導・援助していくことが
分を知り,自分を受け容れ,自分を肯定的にとら
大切である。
えることができたときに感得することができる。
これまで,自己存在感を高めるための一つの方法
(2) 自己存在感の高まり
として,構成的グループ・エンカウンター
有村久春は,「自己を認識していく際に,自分の
(Structured Group Encounter:以下 SGE と略す。)
あり様や心,自らの姿をあるがままに肯定し受け容
が効果的であるという認識から,学級活動の中に取
れることが自己受容である。ありのままの自分の姿
り入れてきた。しかし,シェアリングにおいて,児
を見つめることが,自己受容の第一歩であり,この
童の実態に合わせた振り返りを行わなかったため
見つめ方が自分のよさを肯定し,自分のかけがえの
に,エクササイズの意味付けをすることができず,
なさを認識することにつながる。」と述べている。
友達と自分との違いに気付くことや自分を肯定的に
このことから,自己存在感を高めるには,自分を見
受け容れることができない児童もいた。
つめることから自分に気付き,自分の存在を価値付
そこで,自己存在感を高め,どの児童も学級の中
けていくような自己受容が欠かせない。有村はさら
に居場所があると感じられるようにするために,S
に,「この自己受容とともに,他者受容も考えられ
GEでのシェアリングにおける援助の在り方につい
る。この二つは表裏一体,相互扶助の関係にある。
て探ることとした。
自分が他者に受容される経験の積み重ねによって,
自己の受容に気付き,より高次の自己受容が促進さ
Ⅱ
れるのである。」とも述べている。ここでいう他者
研究の方法
受容とは,自分が他者に受け容れられているという
児童の自己存在感を高めるために,学級活動に取
感覚である。
河村茂雄は自己受容について,「自己受容ができ
り入れた SGE のシェアリングにおける教師の援助を
工夫し,その有効性を探る。
ている人とは,いままでに十分他者から受容される
- 17 -
体験をしている人であろう。その中で,自分は自分
(3) 「かかわる場」としての学級活動とSGE
でいいと,等身大の自分が受容できるのである。」
と述べている。
本研究では,他者とかかわる場として,学級活動
の中に SGE を取り入れる。『小学校学習指導要領解
したがって,児童の自己存在感を高めるためには,
説
特別活動編』によると,特別活動は望ましい集
他者からの受容の経験の繰り返しによって自己受容
団活動の展開を前提としている教育活動であり,そ
を高めていくことが必要であるといえる。
れは特別活動固有の特質である。中でも学級活動の
そこで,児童が他者とかかわることにより,他者
内容(2)「日常生活や学習への適応および健康や安
からの受容を意識しながら自己受容を高めていく姿
全に関すること」では,教師と児童,児童相互の間
を,自分自身に問いかけるようにじっくりと「見つ
の,信頼・尊敬・親愛・協力などの温かい人間関係
める」,自分の個性にそうかと「気付く」,自分の存
を育成することの重要性が強調されており,そのた
在をこれでよいと「価値付ける」といった3段階に
めには「様々な人間関係を経験させることが必要で
分けてとらえることとし,それぞれの段階における
ある」と述べられている。すなわち,様々な人間関
具体的な姿を考えた(図1,表1)。
係を経験できる場として,望ましい集団活動を取り
入れることが重要であるといえる。このことは,SGE
の目的「他者とのふれあいを通して自他のかけがえ
のなさに気付くこと」と同義であり,SGE を取り
入れて望ましい集団活動を展開することが,自己受
価値付ける
教師や友達とのかかわり
受 容
他者からの受容
自 己
他者からの受容
教師や友達とのかかわり
自己存在感の高まり
気付く
で
容を高める他者とかかわる場として有効であると考
える。
(4) 自己存在感を高めるSGEのシェアリング
SGE の中のシェアリングは,エクササイズでの
体験を振り返り,感じたことや気付いたことを表現
し合う場である。そこでは友達との体験の共有がで
見つめる
き,お互いを大切に思い,心の絆が強くなる。シェ
かかわる場
アリングは,エクササイズの意味付けをする大切な
図1
自己存在感の高まる過程
場である。したがって,SGE を行うにあたっては,
シェアリングの充実を図ることが重要である。
表1
自己受容の高まる段階での具体的な姿
高まりの姿
見つめる
発言や記述
・自分がどのように感じたか心 ・○○だと思った。(感情を伴わな
の中に問いかける。
い記述) ・気付いたことはないか,じっく
りと考える。
など
など
・自分の感情に気付く。
・自分は,他者とは違うという
ことに気付く。
・学級の中で自分の役割に気
付く。 など
・○○だと思った。(感情を伴う記
述)
・○○さんは∼で,自分と同じだ。
(または違う。)
・自分の長所は∼だ。
・∼だと言われてうれしい。
・友達に∼だと分かってもらえ
た。 など
・自分の長所も短所も分かり,
個性を認める。
・自分を肯定的に認め,自信
をもつ。
・「こんな自分が好き」という気
価値付ける 持ちをもつ。
・友達に信頼されていると感じ
る。
・友達に認められているという
気持ちをもつ。 など
・短所が長所に変わった。
・前よりも∼になった。
・私は∼な自分が好きだ。
・友達に認められた。
・自分に自信がもてた。
・これから∼しようと思う。
・勇気をもって表現してよかった。
気付く
など
児童は,シェアリングで他者とかかわり,そのか
表情・行動
かわりから自己を見つめる。自己を見つめることに
よって,他者と自分との感じ方や気付き方を比べ,
↓
安心した
表情
自分の感じ方や気付き方に気付く。自分の感じ方や
笑顔が出
る
声の調子
が上がる
れを受け容れることができる。このような他者から
自信のあ
る表情を
する
気付き方が他者に受け容れられると,自分自身もそ
の受容を繰り返すことで,自己受容が高まり,自分
の存在を肯定的にとらえ,価値付けることができる
ようになる。すなわち,自己存在感が高まる。
このようなシェアリングにするために,自己受容
など
↓
の姿を段階的に高めていくような場の設定の工夫,
振り返り用紙の工夫に加え,他者からの受容を意識
付ける教師の態度や言葉がけ等のかかわり(表3)
- 18 -
を,重要な援助として行う。
は 90%以上と高いことが分かる。
(5) 他者からの受容を意識付ける教師の援助
給食や弁当 1
他者からの受容を意識付ける援助に必要なのは,
遠足や運動会
1
先生と会える
児童の気持ちに共感できるような,カウンセリング
1
感覚にもとづくかかわりである。
友達と話したり
12
遊んだりする
とき
そこで,教師のかかわり方を4種類に分け,具体
スポーツ や
クラ ブ 活動
17
(人 )
N=32
的な態度や言葉を考えた(表2)。
図3
表2
学校で一番楽しいのは,どんなときですか。
自己受容を高める教師のかかわり方の例
かかわり方
具体的な態度
言葉がけの例
図3から,「スポーツやクラブ活動」が一番楽
真剣に耳を傾け,言葉にうなず 「うんうん。」
ア 受容的態度と言葉がけ
しいと答えた児童が半数以上いることが分かる。
き,気持ちや考えを受け容れる。 「なるほど。」
(傾聴・容認・納得)
「そうなんだ。」など
スポーツやクラブ活動といった学級以外の集団で
イ 支持的態度と肯定的評価
状態をよく理解し,あせらず受 「そうだね。」
(共感・理解・賞賛・励ま け止める。
「分かるよ。」
し)
よいところをほめ,認める。
「すごいね。」 など
ウ 応答的態度と言葉がけ
児童の自己指導力を信頼し,そ 「∼ということなのね。」
(確認・明確化・質問・繰
の話題について話し合い,自信と 「∼かな。」
り返し)
勇気に気付くようにかかわる。
友達とのつながりを感じている児童が多く,学級
内で「友達と話したり遊んだりする」ことの楽し
「∼でいいの。」など
さを実感できていないということも推察できる。
児童の考えを十分に聞き,積極 「私は∼だと思うな。」
エ 自己開示と純粋性
的にかかわろうとする「教師とし 「∼したいな。」
(感情表現)
ての生き方」をもつ。
「∼だと思うよ。」
3
など
0%
2
20%
自己受容に関する児童の実態把握と結果の分析
図4
・考察
7
11
40%
11
60%
80%
そう思う
あまり思わない
どちらかというとそう思う
わからない
100%
(人)
N=32
あなたは友達に信頼されている(よい仲間
だと思われている)と思いますか。
(1) 実態把握
○
対象
広島市立A小学校第6学年
○
時期
平成 17 年8月∼9月
○
方法
面接法(担任),質問紙法
32 名
図4から,学級の友達から「信頼されていると思
う」「どちらかというとそう思う」と答えた児童を
合わせると半数に満たないことが分かる。仲の良い
(2) 実態把握の結果・分析
8月に行った学級担任との面接からは,児童の人
友達が固定していたり,友達とかかわる機会が少な
間関係について,グループが固定化しているところ
かったりする等の理由から,自分が学級の友達にと
もあるが,全体的には良好な関係であるととらえた。
ってよい仲間だという気持ちをもてないでいる児童
さらに,例年行っている「学校生活アンケート」
が多いということが推察できる。
の中の以下の三つの項目の結果(図2・3・4)をも
そこで,本研究を通して,児童が最も身近な学級
とに,児童の自己受容にかかわる意識の分析・考察
集団の中で他者からの受容を意識し,自己存在感を
を行った。
高めるような,適切な援助の方法を明らかにしてい
きたい。
0%
図2
2
21
9
20%
40%
60%
80%
満足している
あまり満足していない
まあまあ満足している
満足していない
3
100%
授業実践の計画
(1) 学習指導計画
(人 )
広島市立 A 小学校第6学年 B 組 33 名(実態把握
N=32
あなたは,学級生活に満足していますか。
後に1名の転入児童あり)を対象に,児童が最も関
心をもっている修学旅行の事前・事後に行った。
図2から,「満足している」「まあまあ満足して
○
いる」を合わせると,学級生活に対しての満足度
- 19 -
単元名
学級活動(2)「ふれあい活動
∼思い
出いっぱいの修学旅行にするために∼」
○
実施時期
平成 17 年9月 28 日∼ 10 月 18 日
表3
学習指導計画
全6時間(事前5時間,事後1時間)
単元の目標
○ 友達と積極的にかかわることができる。安心して修学旅行に行くことができる気持ちをもつことができる。
(関心・意欲・態度)
○ 学級の一員としての自覚をもち,自分の役割を意識することができる。
(思考・判断)
○ シェアリングを通して,自分の感じたことや気付いたことを伝えることができる。
(技能・表現)
○ 友達と自分との違いに気付き,自分の良さを認めることができる。
(知識・理解)
主な学習活動のねらい
エクササイズ(E)とシェアリング(S)
ふれあい活動のねらいを知り,修学旅行に向け
ての意欲を高める。教師とのリレーションづくりをす
1 る。
(E)「笠井先生のイエスノークイズ」
(S)「シェアリングをしてみよう」
拒否的な聞き方と受容的な聞き方のロールプレ
イングで,友達に優しくしたりされたりする体験を
し,友達と心と心でつながる感覚をもつ。
2
(E)「私の話を聞いて」
(S)「ペア・シェアリング」
自己紹介カードをだれのものか当て合い,お互
いの個性を認め合う。
修学旅行に向けて安心感を持つ。
3
(E)「ブラインド・デート」
(S)「ジャンケン・シェアリング」
短所を長所に変えるリフレーミングをし合い,自
分の個性を受容する。
同じ班の友達と仲良くなる。
4
(E)「みんなでリフレーミング」
(S)「モヤッとorスッキリシェアリング」
非言語での共同絵画を通して,友達を思いやる
気持ちをもち,ともに過ごす喜びを感じる。
時
シェアリングでの児童の
自己受容がみられる姿(
部分)
教師の自己開示を受け,どのように感じたか自分を見
つめ,友達と比べて似ているところや違っているところに
気付く。自分の特徴をクイズにすることで,自分の個性に
気付く。
【見つめる】 【気付く】
友達に優しくしている(されている)自分や,優しくでき
ない(されていない)ときの自分の感情に気付き,表現す
る。感じ方や気付き方を友達と比べ,自分の感じ方を受
け容れてもらう。
シェアリングでの教師の援助の方法
(
部分)
・ 友達との感じ方の違いに気付くような振り返り用紙1
・ 一人一人の感じ方をほめ,違いを認める言葉がけ
・ 自己開示のためのデモンストレーション
・ 安心してシェアリングができる場の設定
・ 具体的に感情を語るデモンストレーション
・ 二人の違いに気付き,相手の感じ方を受け容れるよう
な振り返り用紙2
・ 二人での気付きを学級全体に紹介するような言葉が
【見つめる】 【気付く】
け
自分を知ってもらった感情と,自分の長所・短所を伝 ・ 教師の自己開示を含んだデモンストレーション
え,受容的に聞いてもらう。自分の個性に気付く。
・ 気軽に自分の気持ちを語るために,自由に歩き回る
感情を表現する。
場の設定
・ 友達の個性を受け容れ,自分の個性に気付くような
振り返り用紙3
【気付く】 【価値付ける】
プラスのストロークを浴びて,自分の短所を長所として ・ お互いを尊重し合うような言葉がけ
受け容れる。自分の個性を価値付け,感情を表現する。 ・ 今の感情を素直に表すために,教室の両端に分かれ
て移動するような場の設定
・ 自分の短所をリフレーミングしてもらった思いを表現
できるような振り返り用紙4
【気付く】 【価値付ける】
友達の気持ちを思いやりながら,自分の意図した絵を ・ 班で順番に話し合えるような教師のデモンストレーシ
描くことができたと感じる。話し合いで自分の感情を表現
ョン
することができる。自分たちの班のよさとともに,自分のよ ・ 展覧会という場の設定
5
(E)「共同絵画
さを認めてもらい,価値付ける。
・ それぞれの班のよさを認め合うような言葉がけ
∼ぼくらのスナップ写真∼」
・ 思いやりの体験を実感し,自分のよさを認めてもら
(S)「班でシェアリング
い,価値付けるような振り返り用紙5
∼展覧会をしよう∼」
【気付く】 【価値付ける】
修学旅行の思い出を振り返り,お互いの気持ち
自分の感情の変化に気付き,学級全体の中で表現す ・ 非言語で活動を振り返るような場の設定
を交換し合うことにより,自分の存在をかけがえの る。学級の一員であるという気持ちをもち,自分をかけが ・ 全体が輪になって座り,一人ずつみんなの前で自分
ないものだと感じる。
えのない存在だと感じ,価値付ける。
の今の感情を表現できるような場の設定
6
・ 教師からの感謝の気持ちを述べる自己開示
(E)「思い出のメッセージアルバム」
・ これまでの活動を振り返り,自分の感情と行動の変化
(S)「みんなでシェアリング
に気付くような振り返り用紙6
∼こんな自分っていいじゃん∼」
【気付く】 【価値付ける】
※エクササイズについては「構成的グループ・エンカウンター事典」 図書文化社を参考とした。
(2) 分析の方法
4
ア
(1) 学級全体の児童の自己受容が高まる姿
自己受容の高まりの姿(表1)を見取りの規準
実践授業の分析・考察
各時間における各児童のシェアリングでの振り返
容,他者とかかわる児童の様子等を拠り所に,児
り用紙への記述内容や学習中の発言等を,表1の「見
童の自己受容を高めるための援助の方法がどのよ
つめる」「気付く」「価値付ける」段階での具体的な
うに機能したかを,学級全体について分析・考察
姿に照らし合わせ,それぞれどの段階まで自己受容
する。
が高まったかを分析・分類した。図5は,時間毎に
イ
として,シェアリングでの振り返り用紙の記述内
自己存在感がもてていないと思われる児童に着
それぞれの人数をグラフに表したものである。
目し,児童の振り返り用紙の記録や感想等をもと
に,自己受容の高まりの様子を,表1と照らし合
わせながら見取り,援助の方法がどのように機能
したかを分析・考察する。
ウ
5
第1時
26
4
第2時
第3時 0
自己存在感の高まりとその要因について,分析・
第6時 0
0%
0
22
3
第5時
0
31
第4時 0
事前事後の意識調査の結果を拠り所に,児童の
0
27
気付く
9
14
価値付ける
14
9
22
20%
40%
60%
(人)
80%
100%
考察する。
図5
- 20 -
見つめ る
各時における自己受容の姿
N = 31
図5より,学習が進むとともに,児童の自己受容
が段階的に高まり,第6時においては半数以上の児
童が「価値付ける」段階に至ったことが分かる。
次に,各時間のシェアリングにおける児童の様子
と,その分析・考察の内容を,児童の振り返り用紙
ジ
ャ
ン
ケ
ン
・
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
形態 個人 → 全体
時間 エクササイズ10分 シェアリング10分
第 児童が自分の感じ方に気付き,表現したことに対し,
1 教師が受容,容認している例
時
C「自分といっちする所が一つ
ありました。」
↓
T「そうなの?うれしいなあ。
勇気を出して言ってよかっ
た!」
短所は・・・してしま
う。」
↓
T「どちらもいいねー!」
児童の様子と分析・考察
自分の長所と短所を見つめ,それを表現し合うシェアリ
ングを行った。どの児童も二人以上とシェアリングを行い,
平均すると 3.6 人と話をすることができた。それは,自分の
長所と短所を見つめ,教室を自由に歩き回り,出会った友
達に瞬時に伝えるという必然性のあるシェアリングの場を
設定したことにより,どの児童も,少し勇気を出して表現
し,表現したことを相手に受け容れてもらったことによっ
て自分の個性に「気付く」ことができたからだと考える。
児童の様子と分析・考察
図8
教師の自己紹介を聞き,それについての自分の感じ方や気付
第3時の様子
き方をしっかりと「見つめる」ことをねらいとした振り返り用
形態 全体
時間 エクササイズ16分 シェアリング15分
児童の素直な感情表現を,教師が受容し,感想を
述べる形で自己開示をしている例
紙を使用してシェアリングを行ったため,自分の感じ方や気付
き方に「気付く」ことのできた児童も多くいたが,
「見つめる」
ことにとどまった児童もいた。これは,教師が個々の児童に対
し,他者からの受容を意識付けるような援助を行うことができ
なかったために,自分の感情に気付いたり,表現したりするこ
とができなかったからだと考える。
図6
第1時の様子
第
2
時
C「少なくとも今日書い
モ
ヤ
ッ
と
T「気持ちいいと思って
た短所は長所らしく
なった!とても気持
ちいい!」
もらえて私もうれし
児童の様子と分析・考察
い。」
友達とお互いの短所を長所に言い換えた後の気持ちを表
o
現するシェアリングを行った。非言語で教室内を移動する
C「笑いながら聞いている自
r
という,体での表現を伴うシェアリングの場を設定したた
分がいいなと思う。」
ス
ッ
キ
リ
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
めに,児童は友達の動きも把握しながら,エクササイズ感
↓
T「すばらしい!そこはA児
のいつものよさだね。
それをいいなと気付けた
児童の様子と分析・考察
第
4
時
↓
形態 二人組 → 全体
時間 エクササイズ8分 シェアリング12分
児童が自分のよさに気付い
たことに対して,教師が肯定
的に評価している例
ペ
ア
・
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
時
C「長所は・・・できる。
を例に挙げながら示す(図6・7・8・9・10・11)。
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
を
し
て
み
よ
う
形態 二人組 → 全体
時間 エクササイズ20分 シェアリング14分
第 児童が自分の個性に気付き,表現したことに対し
3 て,教師がそれを受容している例
ね。」
拒否的な聞き方と受容的な聞き方を行い,それについて感想
を二人で話し合うシェアリングを行った。どのペアも活発に感
情や気付きを表現し合う姿が多く見られた。それは,普段から
仲の良い友達とシェアリングを行うような場の工夫をしたため
に,友人関係が広がっていない児童も安心してシェアリングを
覚で感情を瞬時に表現することができたと考える。そして,
自分の動きを友達に見てもらうと同時に感じ方を容認して
もらえるので,友達に受け容れられたという気持ちがもて
たと考える。
またその後,振り返り用紙に,自分の短所を記述するよ
うにしたが,33人中20人が,前時に書いたこととは違
う短所を記述していた。これは,教師が繰り返し同じ問い
をし,二度目に振り返り用紙に記述するようにしたことで,
児童が自分の内面をさらに深く「見つめ」,自分の個性に「気
行うことができたからだと考える。また,友達と自分の感じ方
付く」ことができたからだ考える。また,友達に,自分で
の違いに気付き,それを率直に書くことができるような振り返
は気付いていなかった長所を教えてもらったことで,友達
り用紙の工夫により,友達と自分の似ているところや違ってい
からの受容を実感し,それによって自分の個性を「価値付
るところを記述することができた児童が多かったととらえる。
ける」ことができたのだと考える。
図7
図9
第2時の様子
- 21 -
第4時の様子
シェアリングにおいて,人数やかかわり方を段階
形態
時間
班 → 全体
エクササイズ15分
的に変え,その段階に応じた適切な援助を行うこと
シェアリング15分
によって,児童は他者からの受容を繰り返し実感し,
児童の様子と分析・考察
第
5
時
自己受容が高まったと考えられる。
修学旅行で同じ班になる友達
と,共同絵画の題を付け,感想
(2) A児の自己受容の高まり
を表現し合うシェアリングを行
ア
った。
班
で
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
A 児の実態
雰囲気は和やかだったものの,
A 児は,事前の意識調査では「友達からはあまり
「思いやりを体験しての感情や
気付き」を表現するまでには至
信頼されていない。」と回答しており,友達からの
らず,友達に思いを受け容れて
受容を感じる機会が少ないのではないかととらえ
もらった(思いやったり思いや
られたりする)ことを実感した
た。しかし,「学級生活には満足している。」と回答
児童もいれば,実感できずにエクササイズの感想にとどま
していることから,本学習を通して友達とかかわり
った児童もいた。それは,教師のデモンストレーションに
よる援助が,本時のねらいに合ったものではなかったこと
を深め,自己受容を高めていきたいと考えた。
と,エクササイズが,思いやりを実感し,その感情を交流
イ
するような内容になっていなかったからだと考える。
図10
形態
時間
図 12 は,第1時から第6時までの A 児の自己受
第5時の様子
全体
エクササイズ8分
A 児の変容
容の姿をグラフに表したものである。第1時から第
5時までは,「気付く」姿を見取ることができた。
シェアリング30分
そして,第6時には,自分のことを「価値付ける」
第
6
時
み
ん
な
で
シ
ェ
ア
リ
ン
グ
発言や記述を見取ることができた。A 児は,各時間
のシェアリングを通して自己受容を次第に高めてい
ったと考える。A 児の自己受容の姿①・②の事例を
詳しく分析・考察したものを表5,表6に示す。
児童の様子と分析・考察
価値付ける
学級全員が円になって座り,学習全体を通して自分の感
事例②
気付く
じたことや気付いたことを,表現するシェアリングを行っ
事例①
た。全児童が,自分から進んで感情を伝えることができた。
見つめる
振り返り用紙の記述から,多くの児童が修学旅行を通して
自分のよさに気付き,それを友達に受容的に聞いてもらう
ことで,友達に受け容れられたということを実感し,自分
1
2
3
4
5
6
(時)
の個性を「価値付ける」ことができたことがうかがえた。
それは,段階的に高めていったねらいと場の設定により,
図12
児童が無理をせずに心を開いていき,他者からの受容を繰
A児の自己受容の変化
り返すことができたからだと考える。
図11
第6時の様子
表4 事例① 第3時 A 児が自分の個性に「気付き」
,他者に伝えようとする事例
児童の様子
教師や友達とのかかわり(
は友達によるもの)
エクササイズ「ブラインド・デート」では,友達
の自己紹介カードを誰のものか当てようと,積極的
に参加していた。エクササイズを終え,その感想と,
エ 純粋性
自分の長所と短所を伝え合う「ジャンケン・シェアリング」で,
3人の友達とシェアリングを終え,次の相手が見つからな T:①(A児を見つけ,すかさず声をかける。)
い様子で,一人で立っている。
「まだ時間はあるよ。ほらほら。A児。B児としてみたら?」
②(A児の肩を持って,B児に向ける。)
B児:③快くシェアリングを始めようとする。
ア 受容的態度
- 22 -
分析・考察
決まった友達としかかかわりをもたないA児に対し,他の児童とかかわらせよう
とする気持ちから,教師は①のように,積極的に声をかけ,B児とのシェアリング
を仕向ける。B児とA児のかかわりの具合は分からなかったが,,B児は誰とでも
明るく楽しく話ができる性格なので,受け容れてくれるものと判断して声をかけ
た。②のように,A児の肩を持ったのは,恥ずかしがるA児に勇気をもたせたかっ
たことと,B児に対して,「よろしくね。」とのメッセージを態度で表したかったからで
ある。
③のように,B児はなんのためらいもなくA児とのシェアリングを承諾したことで,
A児は安心し,シェアリングをし始めることができたのだととらえる。
また,「ジャンケン・シェアリング」という時間とルールの枠の中での自己表現
方法は,仲の良い友達とは関係なく行うことができるため,普段かかわりの少な
(恥ずかしそうな顔をしながら),B児とジャンケン・シェアリ
ングをする。)
「僕の長所は,自分だけの世界を作ることができることで
ア 受容的態度
す。短所は,その世界に入ったら出ることができず,人に
迷惑をかけてしまうところです。」
B児:(④笑ってうなずいて聞く。)
い友達と思い切ってシェアリングを行うのには効果的だったと考える。
恥ずかしがりながら自分の長所と短所を伝えるA児に対して,B児が
④のように,受容的な態度で笑ってうなずいて聞いたことが,A児の
「言ってよかった。
」 という気持ちにつながったのだと考える。
また逆に,⑤のB児の長所と短所を受容的に聞くことによって,A児
は,B児の個性も受け容れることができ,自分の個性と比べて似てい
B児
:
⑤
「
僕
の
長
所
は
,
明
る
く
元
気
な
と
こ
ろ
で
す
。
短
所
は
,
す
ぐ
キ
レ
るところも違うところも見つけることができ,さらに自分の個性に気
気付く
るところです。」
付いたと思われる。
(笑いながら))うなずいて聞く。)
A児は,B児と「ジャンケン・シェアリング」をしたことによって,
「自
ア 受容的態度
分とは反対の人とも楽しく話をすることができた。」と振り返り用紙に
「ありがとうございました。」
記述しており,これまでは,自分と似た性格の友達ばかりと付き合っ
気付く
(笑って握手する。
)
B児:「ありがとうございました。」
てきたが,違う性格の友達とも話をすることができた大きな喜びを感
(笑って握手する。)
じている。
振り返り用紙に「自分とは正反対の人とも楽しく話がで
相手を選ばないシェアリングの方法で,教師がB児とジャンケンす
イ 肯定的評価
きた。」と記述。
るように促したことや,B児が受容的にA児の話を聞いたことなどが,
T:返事に⑥「すばらしいね。A児の長所短所どちらもいいね。 A児が自分自身の新たな一面に気付き,自信を持つことにつながった
気付く
(毎日クイズを出してくれているので)⑦)A児のおかげで楽しい のではないかと考える。
,
よ。」と記述。
そして,⑥⑦のように,教師が必ず肯定的な評価やな自己開示をす
ることで,A児の個性を全て受け容れ,好きだという気持ちを伝える
エ 自己開示
ことで,A児は自分の個性をどんどん受け容れていけるのだと考える。
表5 事例② 第6時 A 児が自分の個性を「価値付ける」事例
児童の様子
教師や友達とのかかわり(
は友達によるもの)
分析・考察
修学旅行を振り返るエクササイズ「思い出のメッセージアルバ 第5時までのA児の様子を受けて,教師はまだA児が自信をもてない
(班の友達からもらった「勇気があるんだね。」等のメッセ ム」では,班の友達からA児に対して,①「一緒に班で行動して でいると把握したため,第6時では,自信をつけるような援助をしよ
ージが書かれたアルバムを非言語で読み,自分で自分 楽しかったよ。」「思ったよりも勇気があるんだね。」等のプラス面の うと考えた。
の好きなところを記述する。)友達からのメッセージをうれし メッセージが送られた。
A児は,①のような友達からの肯定的なメッセージをもらったこと
そうに読み,「ぼくはぼくが好きです。なぜならば,不安があ
で,自分が友達に認められ,受け容れられていることを感じたと考え
イ 肯定的評価
っても,思い切ってやることができるからです。」と記述す
る。そして,自分が不安に思っていたことが,自信に変わったと記述
る。(読み直し,座って待つ。)
し,自分を肯定的に価値付けることができたと考える。
(②一人一人の発表については,強制するのではなく, 教師が②③のように,進んで手を挙げた児童から順番に発表するよ
言いたい児童から順番に当てることで,児童のやる気を うにしたことは,教師主導ではなく,児童主体の発表形態をとること
表出させたいという思いから)
につながったと考える。また,その中で手を挙げる児童は,自分から
「みんなで顔を見てのシェアリングです。記入したこと 話したいという意思を示すことで,みんなにも認められたという気持
や,6時間を通して感じたことなど,今の気持ちを,み ちをもつことができ,
,それが受け容れられることでいっそう自信がつ
んなに伝えてみてください。③一番に言ってくれる人?」 くと考えた。
と呼びかける。
教師の呼びかけに応じて挙手をしたA児を見て,他の児童は驚いて
エ 純粋性
教師の呼びかけに,すかさず手を挙げる。
いた。それは,進んで挙手したA児の勇気を賞賛する気持ちの表れだ
(④A児を見て,学級全体から「すごい。」と言ったり, ととらえることができる。また,そのような④賞賛の声に,A児の発
どよめきがおきる。
)
表しようという勇気はさらに後押しされたと感じられた。
教師からの⑤の言葉がけと⑥のみんなからの賞賛の拍手により,A
イ 支持的態度(賞賛)
(表情を変えずに,手を挙げ続ける。)
児は緊張しながらも一番初めに気持ちを表現することができた。その
T:(⑤驚きながらもうれしい顔をして)
「勇気を出したA 行為は,自分に自信がついたことをA児が実感した瞬間だととらえる。
児に拍手。
」
さらにそれを受容的に聞き,賞賛した⑦全員からの拍手によって,
(少し緊張しながら),
「いろいろな人と話したこと ⑥(教師も他の児童も全員で拍手をする。
)
A児は振り返り用紙に「自信がついた」と,自分を価値付ける記述をす
で,今まで知らなかったことが見えてきてよかった
イ 支持的態度(賞 ることができた。
イ 支持的態度(賞賛)
です。
」と発表する。
事後の意識調査の中で,ふれあい活動全体を通して自分自身がどう
⑦
(全
員
が
受
容
的
に
聞
い
た
。
発
表
が
終
わ
る
と
全
員
で
拍
手
を
変
わ
ったかとの問いかけには,これまでの活動を振り返りながら,自
価値付ける
価値付け
する。)
己を見つめ,価値付けるA児の姿を見取ることができた。
事後の意識調査では,「前は,あまり気の合わない人は
イ 支持的態度(賞賛)
避けていたけど,今ではその逆になった。」と記述する。
友達関係に広がりが少ないととらえたA児の自己
わりの少なかった友達や教師からの,受容的な態度
受容を高めようと,いろいろな友達とかかわるよう
と,学級全体からの支持的態度(賞賛)が特に有効
に言葉がけをした。A児が自分の個性に「気付き」,
に機能したと考える。修学旅行では自分のよさを友
自分の個性を「価値付ける」ためには,今までかか
達に認めてもらい,価値付けることができた。
- 23 -
(3) 児童の自己受容の高まりと教師のかかわり方
る児童が増えたと考えられる。すなわち,自己存
について
在感を高めることは,児童の学級生活への適応と
児童の自己受容を高めるために行った援助を分析
・考察した結果,「見つめる」段階にある児童に対
人間関係の広がりへとつながっていくということ
ができるであろう。
しては,自分の個性に「気付く」までの教師の根気
強い応答が有効的だと分かった。また,自分の個性
Ⅳ
成果と課題
1
成果
を「価値付ける」段階に至らせるには,教師自身が
自己開示の見本を示した上で,児童の自己開示を促
本研究において,児童の自己存在感を高めるため
すような受容的態度が有効だと分かった。
教師は,児童が今どの段階にあるかということを,
に行った指導・援助は,児童の自己受容を高め,自
表情や様子等から瞬時に把握し,さらに次の段階へ
己存在感の高まりにつながった。援助が有効に機能
と高めていけるように常に表3のようなかかわり方
するためには,SGE のシェアリングのように,他
を意識し,最も適切な援助を行うことが大切である。
者とかかわる場を設定することが重要である。その
(4) 授業後の意識調査の分析・考察
場において,全面的に児童の存在を尊重し,受け容
実践授業の後,事前と同じアンケートを実施し,
れるという教師の基本的な姿勢が,児童の自己受容
その結果(図 13・14・15)をもとに,児童の自己受
の大きな一歩につながることが分かった。特に個別
容にかかわる意識の分析・考察を行った。
の援助においては,一人一人のその時点での課題を
正しく把握し,その児童に寄り添った援助を丁寧に
事前
9
21
13
事後
0%
17
20%
図13
40%
行っていくことが重要だと分かった。
2
2
60%
80%
満足している
あまり満足していない
まあまあ満足している
満足していない
本単元は,学校行事にかかわる指導を,生徒指導
100%
(人 )
を行う有効な機会であるととらえ,児童の自己存在
N = 32
感を高めることを目的として,学級活動の年間計画
あなたは,学級生活に満足していますか。
の中に位置付けて行った。本単元の指導を通して,
児童は学級での居場所を感じ,心の絆を深めること
遠足や
運動会 勉強
1
ができた。
スポーツ や
クラ ブ 活動
2
2
7
(人)
児童の自己存在感を,さらに人とかかわる力へと
N=32
広げていくためには,学校の教育活動の中に,生徒
22
友達と話したり
遊んだりする
とき (事前は14人。8人の増加)
図14
課題
学校で一番楽しいのは,どんなときですか。
指導・教育相談をどう位置付けていくか,探ってい
く必要があると考える。
事前
事後
8
0%
図15
7
11
3
11
5
13
20%
40%
60%
6
80%
参考文献
100%
そう思う
あまり思わない
(人)
どちらかというとそう思う
わからない
N = 32
①
有村久春『キーワードで学ぶ特別活動
導・教育相談』
あなたは友達に信頼されている(よい仲間
②
だと思われている)と思いますか。
③
間関係の広がりや心と心のつながりを実感してい
- 24 -
2003
國分康孝・國分久子『構成的グループ・エンカ
ウンター事典』
図 13,図 14,図 15 の結果から,学級内での人
金子書房
生徒指
図書文化社
2004
國分康孝『エンカウンターで学級が変わる
Part3』
誠信書房
1999
中学校第2学年美術科の鑑賞における,美術作品の「見方を深める」ための学習指導法に関する研究
−感性と知を働かせるため,相互に交流する活動を通して−
広島市立安西中学校教諭
Ⅰ
研究主題設定の理由
Ⅱ
山
田
直
子
研究の方法
美術科教育における鑑賞指導では,生徒が作品の
生徒が鑑賞の能力を高める上で,美術作品の見方
よさや美しさなどを豊かに感じ取れるように指導す
を深めることができる学習指導法を,鑑賞の授業実
ることが大切であり,現行の『中学校学習指導要領
践を通して探る。
解説−美術編−』にも鑑賞指導の一層の充実を図る
ように記されている。
Ⅲ
研究の内容
品の特徴や価値などの知識を得ることを中心とした
1
研究主題に関する基礎的研究
指導になっていたように思う。このような指導を通
(1) 美術科教育における鑑賞
これまでの鑑賞指導を振り返ると,生徒が美術作
して,生徒は美術作品のよさや価値を知識として習
遠藤友麗は,美術科教育における鑑賞について,
得し,作品の見方を広げ,深めることができるもの
「他者の表現からよさや美しさを感じ取り味わった
と考えていた。そして,そのことが鑑賞の能力を高
り,感情や意図と工夫などを読み取ったり,文化の
めることにつながると考えていた。しかし,生徒自
違いやよさを尊重し合ったりする学習を通して,自
身が美術作品を時間をかけてしっかり見るという活
己と他者の視界を広げ豊かな生き方を見いだしてい
動がおろそかになったり,身に付けた知識において
く活動である。」と述べている。
も与えられたものであったりすることが多かったた
しかし,生徒の実態は,鑑賞を通して豊かな生き
めに,生徒が理解したことを作品に対する感じ方に
方を見い出すまでには至っておらず,鑑賞後の感想
してしまいがちになっていたように思う。これでは
にも「○○が描いてある」や「迫力がある」などの
見方を広げ,深めるということは不十分であったの
記述がよく見られる。これは,美術作品を漠然と見
ではないかと考える。
たり,既習の事項に照らして見て分かること,直感
したがって,生徒が作品から何かを感じ取り,考
的に自分が感じたりしたことを感想にしていること
えや思いを深めることのできる場をつくる必要があ
が多い。これでは,「表現のよさを感じ取る」こと
る。そして,美術作品を見ることを中心に,知識を
はできているものの,「自己と他者の視界を広げ」
もって見たり,また自分の考えをもって見たりする
るまでには深まっていないのではないかと考える。
ことができれば,見方を深めることができるのでは
美術作品に向き合うことにより,作品から見付け
ないかと考える。このことが美術科教育における鑑
たことや感じたことを生徒自身が明確にし,それを
賞の能力の向上につながるものと考えるのである。
ことばや文章で表現することができる。さらに作者
そこで本研究では,美術作品の見方を深める鑑賞
の意図や自分以外の人の感じ方や思いまでを知る機
の指導を追究していきたいと考え,その指導法を探
会をもつことで,美術作品の見方を広げ,深めるこ
ることとした。
とができる鑑賞の活動になると考えるのである。
- 25 -
(2) 「見方を深める」について
とらえていくものとする。
「見方を深める」とは『中学校学習指導要領解説
−美術編−』には以下のように記されている。
そして,感性と知をかかわらせながら,その両面
を高めていくのである。したがって,鑑賞の指導を
するうえで,両面を相互にかかわらせることにより,
「見方を深める」とは,単に直感的に感じる美の感覚だけ
でなく,形や色の特徴や性質,用具や材料の基本的な用い方
などの知識や,自らの技能・経験に立脚した見方及び作者の
表現の精神や感性,生き方などと作品とのかかわりなどの視
点から,感性と知の両面を豊かに働かせ深く味わうことを目
指している。
*
は加筆
共に高めることをねらうように学習展開を工夫する
必要があると考える。
(4) 生徒が相互に交流することの意義
現行の『中学校学習指導要領解説−美術編−』へ
このように,美術作品の「見方を深める」ための
鑑賞活動においては,感性と知の両面を働かせる活
の改訂に際し,指導計画の作成と内容の取り扱いに
関して,以下のことが新たに設けられた。
動を展開する必要があると考える。感性を働かせる
学級全体やグループなど形態を工夫して,一人一人が
作品表現への自分の思いや工夫したことを発表したり,
他者のよさを認め合ったり,よりよく批評し合ったりす
る学習の機会を設けることが大切である。
活動においては,前述したように,よさや美しさな
どを感じ取ることができる活動を行う。また,知を
働かせる活動では,これまで身に付けた知を生かし,
さらに意欲的に学習しようとする態度を働かせる活
鑑賞活動を行うということは,前述したように美
動を行う。そして,それらを相互にかかわらせなが
術作品を見ることで自分なりの思いや感じ方をもつ
ら学習を展開していくことが「見方を深める」指導
ということである。しかし,これは個人的な活動に
になると考える。
陥りがちである。そこで,班や学級全体で自分の思
(3) 美術科教育における感性と知
いなどを発表したり,それを聞いたりするといった
遠藤友麗は,美術科教育における感性と知につい
相互に交流する活動を設けることで,多様な見方が
て次のように述べている。感性とは,「よさや美し
できるようになると考える。作品を見て抱いた感じ
さなどの価値,他者の心情などを感じ取る力のこと」
方や思いを交流するためには,自分の感じ方や思い
である。また,知は「新しい価値を見い出したり,
を明確にする必然性が生じる。さらに,自分以外の
新しいものをつくり出したりすること」である。美
人の見方を知り,その感じ方や思いに触れ,理解し
術科教育における知とは,生徒自らが活動して何か
たり共感したりすることにより,それらを認識し,
知ることを指し,学習活動で働かせることのできる
自分の見方に取り入れ生かすことができる。
これらのことにより,美術作品の見方を深めるこ
もので,その「知を代表するものが創造性」である
と記している。本研究では,感性と知はこのように
とにつながると考えるのである。
「見方が深まる」構想図について
鑑賞活動において,第1学年では,作品の特徴や表現に関す
る基礎的な学習と,自分なりの感じ方をもつことができるよう
な活動を展開し,美術作品の基本的な見方を知り,見方を広げ
られることをねらった。
第2学年では,それを基盤に感性と知を働かせる活動を行う
ことで,その両面をかかわらせる。感性を働かせる活動では,
生徒が相互に交流できる場をもつことで感じ方を広げ高める。
知を働かせる活動では,見ることを中心に新たに知ることで視
点を増やす。そしてそれぞれの活動をかかわらせることで,感
性と知が徐々に高められ一体化していくと考える。その活動を
経て,生徒は多様な見方を認識することをねらいとする。その
結果,見方が深まると考えるのである。
図1 中学校第2学年における「見方が深まる」構想図
- 26 -
2
検証授業の計画と実施
(1) 対象生徒
(2) 題材名
働かせることができるように考えた。その対象とす
中学校第2学年
る美術作品は西洋画の肖像画である。しかし,その
「西洋を魅了した浮世絵」(
『美術2・
3上』P.34,35
日本文教出版
西洋の人物の背景には,日本の浮世絵や屏風などが
描かれているものを提示し,生徒が興味をもって見
2001)
−自己紹介文をつくろう−
ることができるようにした。
(3) 学習指導計画の作成にあたって
○
感性と知を働かせることのできる活動を組み込む
相互に交流する場面設定の工夫
感性を働かせる活動として,生徒が相互に交流す
こととし,以下の点に配慮した。
る場面を毎時設定した。まず第1時では,主に班で
○
話し合い,個人が発表する。第2時では,班の話し
意欲的に知を働かせるための工夫
これまでの実践を反省し,生徒が美術作品につい
て調べたり,想像したりすることで,意欲的に知を
表1
学習活動
第
1
時
1 作品を見て,初発の感想を書く。
2 作品の構成物を見付ける。
そして,
作品に対する疑問をワークシート
に記入する。
3 見付けたことを発表し合う。
活動の内容
(知)
(感性)
見る
見付けたこと
を交流する
4 作品について調べ,ワークシート 知る
に記入する。
5 調べて分かったことを学級全体で
確認する。
6 再度作品を見て感想を書く。
知ったこと
を交流する
知って見る
7 作品をさらに2点追加して見て, 見る
3点の表現上の共通点を探す。
第
2
時
1 3点の作品について共通点を
見付けたこと
確認する。
を交流する
「タンギーじいさんの肖像」
「ラ・ジャポネーズ」
「エミール・ゾラの肖像」
2 浮世絵について時代背景や表現 知る
の大きな特徴について学習し,浮
知ったこと
世絵の影響について考える。
を交流する
3 自己紹介文を班で作成する。
自分の考えを
作品に描かれている人物に成り もって見る
代わり,班で文章を作成する。
班で話し合う
第
3
時
1 前時にまとめた内容を班で確認 自分の考えを
する。
もって見る
班で話し合う
合いを行い,第3時では,それを学級全体で発表す
るという展開とした。
学習指導計画
知を働かせる活動に関して
教師の支援
感性を働かせる活動に関して
・ ワークシートに記入することで, ・ 人の考えを聞くことで作品の構成
見付けたものが確認できるようにす
物を新たに発見できることを気付か
る。
せる。
・ 板書により自分の見付けた構成物
を確認できるようにする。
・ 班で協力して調べることにより,
作品の基礎知識を得ることができる
ようにする。
・ 自分と他の人が知ったことが全く ・ 学級全体で内容を交流することで,
同じではないことを知らせ,多様な
作品に対する感じ方を広げられるよ
見方に気付かせる。
うにする。
・ 作品について基礎的なことを知っ
た上で再度作品を見て新たに発見し
たことを認識させる。
・ 作品の構成上に共通点を見付ける ・ 学級全体で交流し,共通点を自分
ようにさせる。
のものとして認識させる。
・ 西洋画の背景に浮世絵などが描か ・ 認識したことを実感させ,作品や
れていることを知り,浮世絵に関心
表現などに関心をもち,自分なりの
をもたせるようにする。
考えをもたせるようにする。
・ 浮世絵の影響を想像できやすい資
料の提示を行う。
・ 浮世絵についての基礎的な知識を ・ 近くの生徒同士や班で話し合える
得た後,各自が想像できるように西
ようにすることで,想像しやすいよ
洋に与えた影響について提示する。
うにする。
・ 学級全体に自己紹介文を発表する ・ 自己紹介で必要な項目を共通認識
ことを意識させるために,自己紹介
することで,作品から想像する内容
において必要な項目を確認する。
を明確にする。また,班で考えを出
し合わせることで,多様な考えに気
付かせる。
・ 作品について調べたり,作品を
見たりすることで想像できる内容
になっているかを確認するように
する。
2 班ごとに発表する。
学級で発表する
・ ワークシートに他の班の発表に
対する感想等を記入することで,
作品に対する見方の多様さを気付
かせる。
3 「タンギーじいさんの肖像」の 多様な見方を知り,自分 ・ 本題材最後の感想を書き,最初
感想を書く。
の考えをもって見る
の感想との違いに着目させるよう
感想プリントを活用する。
- 27 -
・ 自分と班員の考えの相違に気付き,
それを認識できるようにする。
・ 班員全員が発表することで交流の
よさを感じ取れるようにする。
・ 自分の感じ方や思いとの相違を知
らせるようにする。
・ 学級で発表し合うことで認識した
見方を意識しながら,再度,感想が
書けるようにする。
○
自己紹介文の作成を通して
を示している。
作品に描かれている人物に成り代わって自己紹介
文を作成することは,対象となる作品を何度も見つ
作品から感じたり考えたりできた
めることで,人物の性格などを想像することを必要
1時
とする活動である。このことは人物についての自己
2時
紹介のための情報を得る知の側面と,人物の性格な
どを想像することから感性の側面の両面を働かせる
3時
必然性が生まれると考える。全3時間の学習を通し
0%
て,感性と知の両面を働かせることをねらいとし,
できた
自己紹介文を作成をする場面を設定した。
3
検証授業の分析・考察の視点
図2
20%
ほぼできた
40%
60%
あまりできなかった
80%
100%
できなかった N=57
鑑賞の能力に関する生徒の自己評価票の記述
「見方が深まる」ことについては,感性と知のそ
れぞれの面に対する生徒の感想やつぶやきの質と量
感想を発表できた
の変化から,以下のように分析する。
1時
○
学級全体の感想と自己評価の質の変化
○
個人の感想やつぶやきの質と量の変化
・
学級における個人の感想の変化
・
同じ班内での個人の感想の変化
2時
3時
0%
4
検証授業の結果と考察
○
学級全体の感想と自己評価の質の変化
できた
第1時において,作品から感じたり,考えたりす
図3
20%
ほぼできた
40%
初発の感想
30
25
延 20
べ
人 15
数 10
5
0
2
3
4
5
6
7
8
9
項目
10
11
12
13
14
15
16
1時 終 了 時 の 感 想
30
25
あては
まる
延 20
べ
人 15
数 10
疑問に
感じる
5
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
項目
10
11
12
13
14
15
16
授業終了時の感想
30
25
延 20
べ
15
人
数 10
5
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
項目
10
図4
11 12
13
14 15
16
学級全体の感想の質の変化と感想の内容の分析例
- 28 -
80%
100%
できなかった N=57
関心・意欲・態度に関する生徒の自己評価票の記述
ることができたと自己評価していた生徒は,8割強
1
60%
あまりできなかった
第2時ではほとんどその数には変化が見られない
知る活動を行った。感性を働かせる活動としては,
が,班や学級で発表し合うという活動後には,9割
浮世絵の影響について生徒が自分なりの想像をし
を超える生徒が「作品から感じたり考えたりできた」
た。そして,この両面をかかわらせるために,自己
という実感をもったことが図2から分かる。また,
紹介文を班で作成することとした。
図3に示したように,第1時では「感想を発表でき
第3時では,完成した自己紹介文を学級全体で発
た」と実感した生徒は7割強であったものが,第3
表し合うという活動をし,感性と知を生徒自身が意
時には9割を超える数の生徒が「できた」「ほぼで
欲的に働かせ,自分なりに人物について想像し,作
きた」と実感している。これらのことから,自己紹
品の多様な見方を認識することをねらった。
介文の作成を通し,生徒が感想を相互に交流するこ
とで,感想の内容が増え,感じたり,考えたりした
ことを意欲的に述べることができるようになったの
ではないかと思い,これは見方が深まったと考える。
次に,生徒の感想の内容の変化については,図4
に示し分析する。
初発の感想では,項目1∼4のように「男の人が
座っている」「人物の後ろにたくさんの絵がある」
など主に目に付いた構成物を感想として書いている
ものや既習の知を働かせて見た内容と,それに対し
て,項目 12 ∼ 16 の「きれい」「明るい絵」など直
感的に感じたり思ったりした内容とに大きく分かれ
た。また,どちらも一語文や短い文章での記述であ
り,作品のどこからそのように感じたかなどの具体
的な内容ではないものが多く見られた。
第1時の学習活動では,班で作品について調べ,
図5
班で作成した自己紹介文
その後全体で交流をした。この活動において,生徒
は知っていることを明確にし,新しく知ったことを
第3時終了時の感想では,知をさらに働かせて自
共有するという知を働かせる活動を主に展開した。
分の経験に基づいた想像から「(この人物の)好き
活動後の感想には,前述の1∼4に分類される構
なことは日本の絵を描くことだと思う」など,人物
成物の発見がさらに多くなり,それらの構成物から
とそのほかの構成物を自分なりの考えで関連付ける
連想するように,自分の思いをもつことができるよ
ことができた。同時に,感性を働かせて自分なりの
うになったと見られる記述が目立つようになった。
思いや感じ方をもつことができるようになったと推
また,直感的に漠然とした感想を書いた生徒は,交
察する。図5は,完成した自己紹介文である。
流により作品の構成物などに視点が移り,「色がた
くさん使ってあるから楽しそう」など,自らの直感
的な感想を裏付けるまで記すという具体的な内容に
変化した。全体を見ると,作品について調べる活動
で作品を見る視点が増え,感想の内容が具体化し感
想の文章量そのものも増える傾向があった。
第2時では,知を働かせる活動として,人物の背
景に描かれている浮世絵に着目し,時代背景などを
- 29 -
いろんな絵を集中して見ている 今までそんなにじっくり絵を見た
と,
「作者はこう思って描いたのか ことがなかったので,今回の授業で
な?」と考えられました。発表は他 絵にはこんなところもあるんだと思
の班に比べてスムーズじゃなかった いました。
かもしれないけど,楽しくできた。
テストのように自分の意
想像力を働かせることによって,たくさ 見と他の人の意見が全く同
んのことを考えることができた。みんな一 じになるとは決してないこ
人一人見方が違うので「そういう考え方も とを学んだ。なかなか大変
あったのか!」と驚いた。
だった。
図6
授業後の生徒の感想
図4で示したように,生徒はこれまで感性または
析については,表2に示した通りである。
知のどちらか一方を大きく働かせて作品を見る傾向
にあったと思われるが,この活動を通して,感性と
知の両面を働かせた内容の感想へと変化することが
初発の感想
30
生 徒 B の 初発の感想
は
既習の知によって
25
作品を見た
記述
延 20
べ
15
人
数 10
できた。
図6に示したように,この活動を行うことにより,
5
0
1
感想の内容が変化し,生徒自身がそのことを実感し
たと思われる記述が見られた。
○
2
3
4
5
6
7
8 9 10 11 12 13 14 15 16
項目
1時終了時の感想
30
生徒Cの感想は知を
25
働かせたと思われる内容
延 20
が記述されている。
べ
個人の感想やつぶやきの質と量の変化
・
生徒Cの初発の感想は
直感的な感じ方での記述
学級における個人の感想の変化
生徒Bの感想は作品
を見る視点の増加と
質が変化 し あては
た。
まる
15
人
数 10
図7に示した生徒Bと生徒Cは同じ班に属してお
0
り,班の活動に伴い感想に変化が見られる。生徒B
1
は初発の感想では主に既習の知の側面から作品を見
る傾向にあり,生徒Cは直感的な感じ方である感性
の面からの内容であった。作品について調べる活動
により,両者とも作品を見る視点が増えた。さらに
疑問に
感じる
5
2
3
4
6
7
8 9
項目
10 11 12 13 14 15 16
授業終了時の感想
30
25
生徒Cの最後の感想
延 20
は作品を見て想像した
べ
15
内容の記述が見られる
人
生徒Bの最後の感想は
想像したもののみの
記述が見られる
数 10
5
班での交流する活動を通して,それぞれの発言など
0
1
2
3
4
がかかわり合い,感性と知の両面を働かせるような
感想に変化したと推察する。班での活動の詳細と分
5
図7
5
6
7
8 9 10 11 12 13 14 15 16
項目
生徒B,生徒Cの感想の内容の変化
表2 班の交流による生徒の感想や発言の変化
生徒
学習活動
1
第
1
時
作品を
見て最初
に感じた
ことに関
する記述
生徒A
生徒B
生徒C
男の人がにこやか
に座っている感じ
がする。後ろの絵
は日本風。
なぜ浮世絵みたい
なのが後ろに飾っ
てあるのだろうか。
肌の色に黄色が使
われている。①
よい年の取り方をし
たおじいさんの感
じ。全体的に柔らか
い色づかいなのはど
うして。②
生徒D
考 察(主に生徒Bに関して)
背景がいろんな絵で
作品の第一印象で,生徒A,生徒Bは作品を見
埋め尽くされてい て目に付くものや,描かれている構成物の中で自
て,すごくカラフル 分の知っているものを挙げることを感想としてい
できれいだった。③ る(①)
。疑問点としては,自分の体験や考えでは
理解できないという作品の構成や構成物などを挙
げている(④)ようである。
2 作品に描かれているものを発表し合った後作品に対する疑問点を考える。
次の活動は班で作品について調べる活動であっ
た。生徒Bは生徒Cにこの活動内容について説明
3 作品に 人物はどこの国の なぜ浮世絵が後ろ 全体的に柔らかい色
をしている。この受け応えの中で「タンギーじい
対する疑 人か。
に飾ってあるのか。 遣いはなぜ?配色が
さんの出身について」という発言などから,生徒
問点に関 後ろの女性は日本 日本の風景が描か 黄色っぽい理由。
Bの視点が変化したと思われる。初発の感想やそ
する記述
人か。
れている。④
の直後の疑問では,視点は背景にある浮世絵(①
④)にあったが,この活動後の感想では人物に着
4 作品に
「何について調べ
目した内容になっていることからも分かる(⑤)
。
ついて班
る?絵について?」
第1時では,生徒Bは常に積極的に話し合いに
で調べる
「タンギーじいさ
参加した。中でも生徒Cとの会話が多く,その見
活動での
んの出身につい 「日本って書いてあ
方を自分の感じ方として受け入れているところが
主な発言
て。
」
るじゃん。」
ある。それは生徒Cの「色づかい(②)
」というこ
とばから作品の色に着目し「色づかいが明るい
5 作品について基礎的なことを班で調べた後,それを確認するために,班で調べたことを学級全体で (⑤)
」と書いていることから分かる。色からのイ
交流する活動を行う。調べる内容は,作品名・作者名・作者の出身国・描かれた時代などである。
メージでその性格を想像したためだと考えられる。
しかし,
「明るい色づかい」から「楽しそうな人」
6 再度作 最初は日本人の絵 何か日本の絵か写 場所は日本かな。 タンギーじいさんは と感じたのは,第1学年での色彩の学習をした結
品を見て かと思った。
真を自慢している ⑥教科書にこの絵 日本の絵が好きなの 果,知を働かせたともとらえられる。この場面で
書いた感 タンギーじいさん ような感じ。明る が完成した同じ年 かと思った。
生徒Bが感性を働かせたとは考えにくいのである。
想の記述
がモデルになった く楽しそうな人だ にゴッホが日本を
また,生徒Bが人物の背景から浮世絵などを発
わけを知りたい。 と思う。
愛したとあった。
見しただけだったが,作品について調べたりそれ
なぜなら色づかい 結構な年を取り,
を確認したりする活動を行うと,人物に着目した
が明るいから。⑤ 自分の好きなこと
「明るく楽しそうな人⑤」という記述がみられる
をしている人だと
ようになった。これは学習を行うことで作品を見
思う。なぜなら日
る視点が増えたと考える。授業後の感想でも,
「す
本に行ったかのよ
みずみまで見れ,いろいろ発見できた(⑦)
。
」と
うに描かれている
記述しているように,見て発見することが多くな
から。
ったことを成果として感じていると推測する。
- 30 -
生徒Bは,交流する活動により,十分に感性を
授業に すごい発見やおも すみずみまで見れ, 絵から想像がふくら 集中して授業をまじ 働かせたとはいえないが,知を働かせて見ること
関する感 しろいことを見付 いろいろ発見でき んでまとめるのに苦 めに受けた。
で,それを高め,以前より作品を見る視点が増え,
想の記述
けられてよかった。 た気がする。⑦
労した。
他の人の見方を認識した上で自分の感じ方として
いた場面も見られた。
○
1 3点の作品の共通点を確認する。
X「タンギーじいさんの肖像」 Y「ラ・ジャポネーズ」 Z「エミール・ゾラの肖像」
第1時で生徒Bは,知を働かせることで,作品を
見る視点を増やすことができた。
第
生徒Bは,第2時においても知を働かせて作品を
2 2 作品の
「ゆかたと扇子。
」
見ている。それは,作品の構成物の中から日本に関
時
背景の表
「日本の絵。
」
するものを見付け発表しているだけでなく,詳しい
現につい
「浮世絵。
」
浮世絵に関する構成物の記述が見られるからである。
て班で話
「だって西洋を魅
また,作品から見付けただけではなく,教科書の記
し合う活
了した浮世絵って
述からも見付けた構成物を確認し,確信している。
動での主
書いてあるじゃ
これは知をしっかり働かせたためだと考える(⑧)
。
な発言
ん。
」⑧
「ほんとじゃ。
」
この第2時の班の活動では,人物に成り代わって
自己紹介文を作成した。まず班でどの作品を扱うか
3 自己紹介
「何調べる?Xの
を検討した際に生徒Bは,作品Zを提案した(⑨)
。
文を班で作
タンギーじいさん
理由は,作品の構成物から容易に文章を作ることが
成する活
にしようや。
」
できると考えた結果の発言であると見られる(⑨)
。
動での主
「 Z 。だっ て好
その後の自己紹介文を作成する活動では,生徒Bは
な発言
「Zがいい。
」
きなこと読書っ 「趣味調べる人?
教科書等の資料から文章を作ろうとしていたようで
て簡単にできそ 想像でいいよ。即
ある。それは,生徒Cの想像して作成するよう(⑩)
「趣味調べる。
」
う。」⑨
やって。
」⑩
に促す発言に反応していないことに表れている。
「 先 生他に 資料
生徒Bは第2時では,第1時にも増して知を働か
ない?こういう 「絵から見て書く
せることができたため,作品から見付けただけでな
調べるものは?」 んよ。作者自身の
く,教科書等の資料からも積極的に情報を得ること
⑪
ことよ。
」
ができ,それを班員に示すこともできてきた。しか
「部屋がフランス
し,目に見えるものに限界を感じたり,情報を得る
っぽい。
」⑬
ことができなくなったりすると,そこで活動が止ま
「えー,日本の何
り,自ら人物について想像することができない状況
「パソコンで調べる が描いてある?」
に陥っているのである。そのため,教師に資料を求
か。
」⑫
める様子が見られたのだと考える(⑪⑫)
。
これらのことから生徒Bは,班で積極的に交流を
○ 授業に 本がたくさんあっ 手は挙げてなかっ 絵から感じ取ること 授業の内容がよくわ 行うことができたことで,さらに知を働かせたこと
関する感 たので,趣味は本 たが,発表はした。 が多すぎてまとめる かった。
を確信に変えるという高まりを見せたが,感性を働
想の記述
を読むことかなと 考えを言うことが のだ大変だったけど
かせ,想像することまでは至らなかったという様子
思った。
できた。
楽しかった。
が見られる。
1
第
3
時
自己紹
介文を発
表するた
めに,班
で模造紙
に清書し
確認する
活動にお
ける主な
発言
「名前。
」⑭
「覚えれん。
」
2
学級内
で発表し
合った後
鑑賞活動
について
の感想の
記述
今まで鑑賞はあま
り好きではなかっ
たが,この授業で
いろいろなことを
発見するおもしろ
さや,みんなと自
分の意見を比べた
りすることの楽し
さがわかった。
○
授業に おもしろかった。
関する感
想
4
3度目
に作品を
見た感想
の記述
モデルになった理
由は日本が大好き
だという思いをみ
んなに伝えたかっ
たから,自然な笑
顔。ゴッホに無理
矢理モデルにされ
たわけではない。
「何を一番言いた
いか?」
「何を一番目立た
せる?」
「え∼名前?」
「最後が締めなん
じゃけぇ。
『趣味の
本を読むことなど』
の『など』ですが
いいよ。
」
「読む順番覚え
た?」
この授業で観察力
と想像力が養えた。
みんな違う考えを
もっていることが
感じ取れた。⑮
絵をぱっと見るのと
学んでから見るのと
では印象が大きく違
うということがわか
った。自分自身でも
感じたし友達の意見
からも感じておもし
ろかった。浮世絵が
広く愛されたことに
ついてもっと学びた
いと思った。 ⑯
6つの班がそれぞれ
おもしろい意見を出
したりするのがすご
く楽しかった。
発表は面倒くさか
ったがみんなのお
もしろい意見が聞
けた。
とても楽しかった。
人の意見と自分の
意見の違いから考
えさせられた。 ⑰
みんなの前で発表
してすごく緊張し
たけど,いい経験
になった。
趣味は絵描き。
実はアメリカ生ま
れ,
フランス育ち。
年は54。 ⑱
日本をこよなく愛
している。後ろに
日本の絵があるか
ら。⑲日本画をた
くさん持っている。
ゴッホとは日本画
の話で盛り上がっ
たのでモデルにな
った。
タンギーじいさん
は日本の絵が好き。
日本文化を知って
いる外国人。 ⑳
にぎやかな部屋だ
と思う。
- 31 -
第3時では,まず班で打合せを行った。自己紹介
文を学級で発表する準備段階で,一番目立たせる
ことについて話し合った。この活動で,生徒Bは
「名前⑭」と応答している。作品Zは描かれた人
物の名前が作品名となっている。それで名前を目
立たせることは,間違いではないと判断した生徒
Bの発言だと思われる。ここでも知を働かせて活
動している様子が見られる。
しかし,第3時で生徒Bは,学級内での発表を
終えた感想において,自分と異なる考えを感じ取
っている記述が見られる(⑮)
。これまでの知を働
かせて作品を見ることを中心にした作品の感想で
はなく,感性を働かせて見るということを実感し
た結果の記述ではないかと思われる。それは,生
徒Bが生徒Cと会話を多く交わしており,このこ
とが生徒Bの見方に変化をもたらしたのではない
かと考えるからである。また,生徒Bの最後の感
想にある「フランス育ち⑱」という記述からも推
察できる。これは,生徒Cが第2時に発した「部
屋がフランスっぽい⑬」が心に残った結果ではな
いだろうか。このことから,生徒Bが今まであま
り働かすことができなかった感性を働かせて,人
物について想像することができたのではないかと
推察する。生徒Bはこの班の交流を通し,感性を
働かせ新たな見方をすることができるようになり,
その結果,見方の深まりを感じられるようになっ
たのではないかと考える。
初発の感想では「よい年の取り方をしたおじい
さん②」など直感的に感性を働かせて見る傾向に
あった生徒Cにおいては,この活動を進めていく
中で,
知を働かせる傾向の生徒Bとの会話から,
「場
所は日本⑥」と漠然と見ていた背景から,作品を
見る視点が具体的になり,さらに「浮世絵が広く
愛されたことについてもっと学びたい⑯」や,最
後の感想の「後ろに日本の絵がある⑲」ことを理
由にした記述が見られるようになった。このこと
から生徒Cは,感性を働かせて見ただけでなく,
知を働かせて見ることもできるようになり,それ
を交流から実感している(⑰)
。
知を働かせて見たことによる感想や発言
交流で効果を感じたと思われる感想
・
感性を働かせて見たことによる感想や発言
ゴシック体の文字は生徒の感想,明朝体の文字は生徒の発言の内容
同じ班での個人の感想の変化
性と知の両面を働かせることはできたと思われる
学習活動では,生徒が相互に交流する活動として,
が,それを一体化するというところまでは十分に
班単位で話し合うことができるように,毎時場を設
指導できていないのではないかと感じる。それは,
定した。
美術作品について生徒自身が自分の価値判断の規
ここまで生徒Bを中心に分析を行った。このこと
準をもって見るというところまで高めた指導にな
から,班で積極的に話すことにより,知を働かせる
っていなかったのではないかと思うからである。
傾向が強かった生徒Bは,感性を強く働かせて見る
第3学年における鑑賞活動の指導では,生徒が自
生徒Cの見方に影響を受けたと見られる。それは,
分なりに作品の批評ができるようにする指導を取
生徒Cの見方を自分の感じ方に取り入れたと見られ
り入れることの必要性を感じる。
る記述⑱から推察できる。同様に生徒Cについても,
○
本研究において,限られた時間でできるだけ
生徒Bと積極的に話すことで,知を働かせた見方に
美術作品を見る機会を増やしたため,知を働かせ
気付き,それを取り入れた様子が見られる。
る活動の内容をできるだけ少なくし,感性を十分
また,同じ班であってもほとんど発言をしなかっ
に働かせることをねらった。しかし,作者の人と
た生徒Dも,初発の感想では「カラフルできれい③」
なりや,作品の制作に関する時代背景や社会情勢
という漠然としたものから,最後の感想では「日本
などについては,詳細に学習をする機会を確保し
文化を知ってる外国人⑳」という記述に変化してい
ておらず,感性と知をバランスよくかかわらせて
る。これは,周りの人のやりとりを見たり,聞いた
働かせた指導になっていたか,再考を要すると感
りすることで,自らも感性だけでなく,知も働かせ
じている。
た見方に変化したからであると考える。
これらのことから,班や学級で生徒が相互に交流
以上の成果と課題を踏まえて,今後も感性と知の
する活動により,感性と知の両面を自然にかかわり
両面を働かせることで美術作品の見方を深めること
合わせることができ,美術作品の見方を深めること
のできる指導法について,さらに追究していきたい。
ができたと考える。
参考文献
Ⅳ
成果と課題
①
アメリア.アナレス『みる
す
1
成果
○
美術作品の鑑賞の指導をするうえで,感性と知
②
の両面を働かせる活動を取り入れた指導法を展開
鑑賞教育へのヒント』
遠藤友麗『改訂
美術科編』
③
かんがえる
淡交社
明治図書
1999
北尾倫彦・生江洋一『平成 14 年版
美術
ことができた。
評価規準とABC判定基準−』
学習活動に自己紹介文の作成を取り入れたこと
で,作品を何度も見る必然性が生じ,生徒の感想
課題
○
生徒の活動の様子や感想の内容から,その感
観点別学習状況の新評価規準表
中学校・
−題材の
図書文化社
2002
④
文部省『中学校学習指導要領解説−美術編−』
は,回を重ねるごとに新たな内容へと変化した。
2
2001
中学校学習指導要領の展開
することにより,生徒は美術作品の見方を深める
○
はな
開隆堂出版
⑤
- 32 -
1998
文部科学省教育課程課『中等教育資料』
うせい
2005
ぎょ
- 33 -
中学校英語科における実践的コミュニケーション能力の基礎を育成する指導法に関する研究
−聞き手に伝えることを目的とした音読指導を通して−
広島市立口田中学校教諭
Ⅰ
研究主題設定の理由
音読は,『中学校学習指導要領解説−外国語編−』
垰 ゆ
Ⅲ
研究の内容
1
研究主題に関する基礎的研究
か り
の「読むこと」の言語活動に位置付けられており,
(1) 実践的コミュニケーション能力の基礎について
学校教育において一般的に行われている指導法の一
『中学校学習指導要領解説−外国語編−』では,
「実
つである。
践的コミュニケーション能力とは,実際のコミュニ
しかし,中学校英語科における授業実践において,
ケーションを目的として外国語を運用する能力のこ
音読がどのような効果を生徒に及ぼすのか,その理
とである」と示している。この場合のコミュニケー
論も指導方法も現段階では明確な解答は明らかにさ
ションとは,聞くこと,話すこと,読むこと,書く
れていない。
こと等を通して,自己の考えを相手に伝えたり,相
自己の授業実践においても,音読の機能や効果・
手の意向を理解したりする双方向的な活動を意味し
目的等を生徒に意識化させないまま指導を行ってき
ており,コミュニケーションには相手(聞き手)の
たために,生徒は本文の内容を単に文字と音声を結
存在が不可欠であることを包含している。
び付けることや,大きな声でできるだけ速く読むこ
このコミュニケーションにおける概念を実践的コ
と,繰り返し読むことにより本文を暗記すること等
ミュニケーション能力の基礎という視点に置換する
に終始し,中学校英語科の目標でもある「実践的コ
と,自己の抱く諸概念や情感等を相手(聞き手)に
ミュニケーション能力の基礎」を育成するための方
伝わるよう,話すことの表現スキルを工夫しながら
向性をも見失う状況に陥っていた感がある。
伝えようとする意欲ととらえることができる。また,
これらの課題については,複数の原因が考えられ
相手(話し手)の意向を理解しようと傾注する姿勢
るが,教師が音読の機能や効果・指導方法等につい
を含めることは必然である。
て認識していないままに授業を展開し,生徒へ音読
(2) 聞き手に伝えることを目的とした音読について
の意味を意識化させられなかったことが主たる原因
音読は書かれた文字を音声化して読む活動である
ととらえられる。
が,聞き手に伝えることを目的とする場合,語気の
そこで本研究では,音読指導を通して,中学校英
強弱や声量の大小,または,読む速さを調整するな
語科における実践的コミュニケーション能力の基礎
ど,読むことの表現スキルを工夫することが必要と
を育成する指導法を探ることとする。
なる。その際,読むことの表現スキルは,書かれた
内容や書き手の意向等を理解したうえで構成される
Ⅱ
研究の方法
べきものである。結果として,聞き手に伝えること
を目的とした音読とは,読むことの表現スキルと書
聞き手に伝えることを目的とした音読の指導法を
かれた内容についての理解が重要な要素となる。
工夫し,その有効性について,授業実践を通して分
析・考察する。
聞き手に伝えるために必要な音読における読むこ
とのスキルと,書かれた内容理解についての整理を
- 33 -
「音読の要件」として表1に示す。
section 2 におけるリーの発話→section 3 の本文
全体へと段階を追って読み方を工夫する活動を取り
表1
音読の要件
[表現スキル]
・適切な声量と聞き手が聞き取りやすい明瞭さ
・強弱,読む速さ,イントネーション,リズム,区切り
・表情,身振り・手振り,アイコンタクト 等
[内容理解]
・書き手の意向や登場人物の気持ちの読み取り
入れた。
また,聞き手に伝えることを目的とした音読の具
等
体的な指導の工夫を次のように設定した。
ア
教師の音読を生徒に聞かせ,生徒が気付いた要
件を「音読のポイント」として毎時間提示する。
*『中学校学習指導要領解説−外国語編−』等を参考にした。
イ
(3) 実践的コミュニケーション能力の基礎と聞き手
生徒が登場人物の気持ちを考えながら読み方を
に伝えることを目的とした音読の相関について
工夫できるワークシートを準備する。
ウ
自分の音読が聞き手にどのように伝わっている
音読において聞き手に伝えることを目的とするこ
かを生徒自身が確認できるように,グループや全
とにより,読み手に上述した「音読の要件」を意識
体でお互いの音読を聞いて感想を伝え合ったり,
化させれば,読み手は必然的に書かれた内容を理解
評価し合ったりする場を設定する。
し,書き手の意向や情感が読み手の意識や「音読の
エ
要件」を経由し,聞き手に伝わることになる。
生徒が当日の授業を振り返り,次の授業への目
標をもつことができる振り返り用紙を準備する。
したがって,授業実践において,聞き手に伝える
ことを目的とした音読の指導法を工夫することによ
夫したりして音声化するものと考えられる。また,
主な学習活動
第1時
に応じて表現スキルの諸要素を組み合わせたり,工
書かれた内容理解についても必然的に深化・広域化
第2時
し,書き手の意向等を推測しながら音声化すること
が予想される。
践的コミュニケーション能力の基礎の育成につなが
第3時
このようなサイクルが達成されたとき,音読が実
ると考える。
研究仮説の設定
中学校英語科において,聞き手に伝えることを目的と
第4時
2
した音読指導をすれば,実践的コミュニケーション能力
の基礎を育成することができるであろう。
第5時
3
授業実践計画の作成
研究仮説を実証するために広島市立A中学校第3
学年B組(39 名)を対象に,単元名「Be Proud of
第6時
Yourself」(SUNSHINE ENGLISH COURSE 3 Program 6)
について学習指導計画(全8時間:表2)を作成し,
指導計画の作成にあたっては,
「聞き手に伝わるよ
section 1 における登場人物リーの発話(文レベル)
→リーの発話に対する由紀の発話(文レベル)→
- 34 -
第8時
うに読み方を工夫しよう。」という課題を生徒に与え,
第7時
平成 17 年 10 月 11 日∼11 月2日に実施した。
学習指導計画
時
り,生徒は「音読の要件」を意識し,書かれた内容
表2
ビデオを視聴し,乙武氏の生き方や
考え方について知る。
2 ビデオの内容について気付いたこ
と,感じたことをグループ内で交流す
る。
1 単元全体をイメージしながら,聞き
手に伝わる音読の要件を意識した教師
の音読を聞く。
2 教師の音読を聞いて気付いたこと
を,グループ内で交流する。
3 グループ内で出た意見を全体で交流
する。
1 section 1 における,Really? But he
didn’t take part in the games, did
he? が聞き手に伝わるように読み方を
工夫する。
指導
の工
夫
1
1 section 1 における,Yes, he did.
Everyone was surprised at his good
dribbling. が聞き手に伝わるように
読み方を工夫する。
2 グループ内でお互いの音読を聞い
て,感じたことや気付いたことを伝え
合う。
3 グループで交流したまとめを,各グ
ループの代表者が発表する。
1 section 2 におけるリーの発話が聞
き手に伝わるようにグループで読み方
を工夫する。
・文脈の中での意味をとらえる。
・とらえた意味を表現する読み方を工
夫する。
2 グループごとに音読を発表する。
・強弱の位置を示し,それに合わせて
音読する。
1 section 2 におけるリーの発話が聞
き手に伝わるように音読する。
・グループの中でお互いの音読を聞い
て評価し合う。
1
section 3 におけるリーの気持ちが
聞き手に伝わるように,個人で読み方
を工夫する。
2 個人で工夫した読み方を,グループ
の中で聞き合う。
1
section 3 におけるリーの気持ちが
聞き手に伝わるようにグループ内で音
読する。
・お互いのよいところを合わせて
section 3 全体を音読する。
2 グループごとに発表し,評価し合う。
活動のねらい
単元全体の内容に対す
るイメージをもつ。
ア
聞き手に伝えることを
目的とした「音読の要件」
に気付く。
ア
イ
聞き手に伝わるように
音読するためには,本文
の内容を理解することが
必要であることに気付
く。
本文が聞き手に伝わる
ように音読するには,生
徒に提示している「音読
のポイント」のどの要件
が必要であるかを考え
る。
ア
イ
ウ
エ
ア
イ
生徒に提示している
「音読のポイント」に絞
って,読み方を考える。
ウ
エ
ア
ウ
エ
ア
イ
ウ
エ
ア
ウ
エ
自分の音読が聞き手に
どのように伝わっている
かということに気付き,
改善点を見つける。
登場人物や書き手の気
持ちが聞き手に伝わるよ
うに音読するためには,
「音読のポイント」のど
の要件が必要かを考え
る。
自分の音読が聞き手に
どのように伝わっている
かということに気付き,
改善点を見つける。
4
分析の視点と方法
ことを手掛かりに,リーの気持ちを「少し驚いた様
生徒の「音読の要件」に対する意識の変化につい
子。バスケットを本当にできるのかなぁと思ってい
て,ワークシートの記述,グループ活動の様子,振
る。」と推測している。読み方については,疑問文だ
り返り用紙の記述から分析・考察する。
から最後は上がり調子にするなど,生徒は既習の知
5
識を使って読もうとする姿勢が見られた。しかし,
授業実践の結果と分析・考察
(1) ワークシートの記述より
図1のワークシートの記述からは,本文の内容と読
生徒に「音読の要件」を意識させるためには,ま
み方の工夫とを関連付けて考えようとする様子は見
ず生徒自身が「音読の要件」に気付くことが大切で
られない。ここではまだ,内容と読み方を別々にと
あると考えた。そこで第2時では,教師の音読を聞
らえているのではないかと思われる。
いて,教師が聞き手に伝えるためにどのような工夫
をして音読していたかについて,生徒それぞれが気
付いたことをグループ内で交流した。各グループか
ら出てきた意見を次のようにまとめ,
「音読のポイン
ト」(表3)として毎時間提示した。
表3
音読のポイント
・感情・気持ちを込めて ・演技,なりきる
・語りかけるように
・相手の目,顔を見て
・大きな声で
・はっきり発音
・速さを変える
・伝えたいこと,大切なこと,重要語句,ポイントを強く発音する
生徒から出てきた言葉を「音読のポイント」とし
図1
第3時ワークシートの記述
図2
第4時ワークシートの記述
てまとめたため,本来の「音読の要件」とは表現が
異なるところもあるが,生徒は教師が聞き手に伝え
ることを目的とした「音読の要件」ととらえたこと
に概ね気付くことができたと思われる。しかし,こ
の段階では,内容理解に関する気付きは見られなか
った。
第3時,4時,5時,7時に,本文の内容が聞き
第4時では,第3時で扱ったリーの発話(図1)
手に伝わるように,読み方を工夫する活動を行った。
その際,生徒が「音読の要件」である表現スキルと
に対する由紀の発話が聞き手に伝わるように読み方
内容理解の両方を意識して音読することができるよ
を工夫する活動を行った(図2)。図2の生徒の記述
うに,図1∼図4のワークシートを使用した。
にあるように,生徒は強弱を付けて読もうとしてい
第3時は section 1 における登場人物リーの発話
るが,単に強弱を付けるだけでなく,
「自信ありげに」
の一部について,聞き手に伝わるように読み方を工
など,登場人物の気持ちを表そうとしていることが
夫する活動を行った(図1)。ワークシートの質問項
わかる。この時点では,ワークシートの質問や指示
目に対する生徒の記述から,登場人物の気持ちを読
項目に従って登場人物の気持ちの理解に至っている
み取ろうとしていることがうかがえる。教科書の本
が,
「音読のポイント」のどの表現スキルを使えばよ
文には乙武氏の障害にかかわる記述はなく,乙武氏
いかなど,具体的な手法や,その根拠となる理由は
の著書『五体不満足』の表紙の写真が載っているだ
なく,本文の内容理解についても,表面的な理解に
けである。生徒は写真やビデオの内容から分かった
とどまっていると思われる。
- 35 -
表4
そこで第5時は,毎時生徒に提示している「音読
のポイント」の中から「伝えたいこと,大切なこと,
重要語句,ポイントを強く発音する」に焦点を絞り,
グループで聞き手に伝わるような読み方を工夫する
活動を促した(図3)。グループごとにワークシート
①
とリーの発話を5段階に区別したカード(字の大き
さを5種類表記)を配付し,音の強弱だけで内容理
解を促す作業を取り入れた。リーがどのような気持
ちでセリフを言ったのかを表現するには,音の強弱
だけでは難しいことを生徒に実感させたいと考えた
生徒
D
A
D
A
D
A
D
A
D
B
A
A
D
B
B
D
A
D
A
D
A
D
A
D
教師
からである。本文の内容のどこが重要で,どの部分
をどのような大きさの声で読めばよいかを考えさせ
A
教師
るため,強弱を付けたい部分を5段階の大きさのカ
②
ードから選択できるようにした。生徒は聞き手に伝
A
B
D
A
えるために本文の内容を読み取り,登場人物の気持
ちになって読み方を模索し始めた。表4は第5時に
おける,一つのグループの活動の様子である。
表4①の場面では,生徒はワークシートと単語が
書かれたカードを見て,単語の大きさで強弱を表す
ように読み方を考えようとしているが,ここではま
だ生徒は既習の知識をもとに,声に出して読んでみ
③
た感覚のみで読み方を考えており,内容を意識する
ところまでには至っていない。
表4②の場面では,強弱に集中した意識を内容理
C
B
D
A
B
A
A
C
A
D
A
B
A
B
D
A
D
A
C
A
A
D
A
D
B
D
解へも向けさせるために,教師が助言を行っている。
その結果,生徒は内容について音の強弱との関連付
けを模索し始める。しかし,この段階でも男子が内
容を考え,女子が強弱を考えるというように別々に
④
活動を進めており,内容と音の強弱は一体化してい
ない。
表4③の場面では,本文の内容と登場人物の気持
ちを読み取ったところで,ワークシートにまだ登場
D
全員
A
D
全員
B
全員
A
D
A
D
A
D
A
A
第5時グループ活動の様子
生徒の発言
どうするん?
作るんじゃろ,これ?
じゃけえ,でかいところはでかくするってことじゃろ?
うん。
じゃあどうする?
ここが強く読むか普通に読むか・・・。
じゃあさ,else が一番でっかく?
そう,else が・・・。
一番でっかく?同じでいいよね?
What else….
疑問じゃけえさ,do ってでっかいほうがいい?
he は小さく・・・。
What は?
What? どうじゃろ?一緒ぐらい?
did he は?
あー,真ん中らへんでよくない, did。
いいよ,真ん中で。
he は?
he は・・・。
一番小さく?
What else did he do?
What else did he do? do は真ん中っぽくない?
do は真ん中かね?
どのくらい?真ん中?
これは気持ちを考えてね。話は続いているわけでしょ
う?最後,由紀がここはね疑う気持ちというのを確認し
たでしょう?まさか試合にはね,でも出たんだって。す
ごいドリブルが上手いんだって由紀から聞いて,リーが
こう言っているんだから,このときの気持ちからこれを
聞いて,ここではどんな気持ちになっているのかな?
彼はほかに何をしましたかっていう?
そしたら,きっとこういう言い方になるっていう・・・
どういう気持ちでこのセリフを言ったのかっていうこ
と。
気持ちか。リーはどういう気持ちか・・・。これをどう
いう気持ちで言ったか・・・。
じゃけえ,興味をもって訊く?
興味,興味っぽい感じやろ?
その,興味をもって知りたいっていう感じじゃない?そ
の人のことについてもうちょっと知りたいという感じ。
のり貸して。
I’m sure….
いいよ,トミー(生徒C)の野生の勘で。
わかりました。人気があるんですねっていうことじゃろ。
そうじゃね。
He was very active…active どうかね?
待って,気持ちを書くんじゃろ,これって?
うん。
どんな気持ちで言ったかじゃろ・・・。ほかに彼は何を
しましたか。
もっと知りたいなーみたいな。
知りたいな。でかいね,しかしこれ。
知りたい。
I’m sure he was popular.
I’m sure って分かりましたよね。
彼は人気だった?
人気だったんですね。
人気だったんです。
彼は人気だったんですね
彼は人気だったんだ。
だったんだ,みたいな・・・。
どういう気持ちで言ったか?これを?分かったっていう
ことかね。
乙武さんのことを理解した。
ああ,少し理解できた,みたいな・・・。
うん。
少し理解・・・。
あっ,彼の人格を少し理解できた。
考 察
生徒は配られたワーク
シートと単語が書いてあ
るカードを見て,単語の
大きさによって強弱を考
えていくことに気付いて
読み方を考え始める。
第4時までの授業を通
して内容理解が重要であ
ることや大切なところを
強く読むという知識はも
っている。しかし,ここ
では単語や英文を声に出
して読みながら,読んだ
ときの音の感じで強弱を
決めていたり,疑問文だ
から do を強くするとい
うふうに,既習の知識と
感覚で強弱を決めてお
り,本文の内容と結び付
けて考えるところまでは
至っていない。
ああ,全員で言うん?じゃあ,いっせーのーで。
What else did he do?
はは・・・やばいじゃん。
せーの。
I’m sure he was popular.
せーの。
Very interesting! How long can I borrow the book?
けっこう,これとこれの差は激しいね。
ん?How long can I borrow the book? ああ,うーん。
ここが難しいな。
I’m sure he was popular. はは・・・。
どうやってでっかく言えばいいかわからんな。
What….
思いきりつけるか,強弱 What!
小さいのはほんまに小さいね。あ,そんなに小さくない
んじゃ,でも・・・。ばり濃いのと,ちょっと濃いのと,
薄いのと,OK,一番でかいのを・・・3番目,2番目,
これが・・・はぁはぁはぁ・・・。
全員で本文の内容と登
場人物の気持ちを確認
し,グループごとに工夫
した読みを発表する活動
へ向けて,自分たちが工
夫したとおりに声に出し
て読もうとしているが,
自分たちが工夫したとお
りに強弱を付けて音読す
ることは容易ではないこ
とを感じている。
もう一度ワークシート
に戻って,強弱の付け方
を確認しながら読み方を
模索している。
単語の大きさを決める
ことに意識が集中し,内
容へ意識が向いていなか
ったため,教師が言葉か
けをし,ワークシートへ
目を向けさせた。そこで
生徒は内容を考え始め
る。
男子(A,B)が中心
となって本文の内容を考
えている。女子(C,D)
は男子の会話を聞きなが
ら,カードを切ってワー
クシートに貼る作業をし
ている。お互いにかかわ
り合いながらも別々に活
動を進めており,ここで
はまだ内容と読み方をあ
わせて意識するところま
では至っていない。
本文全体の内容と登場
人物の気持ちを理解した
ところで女子からワーク
シートを受け取り,リー
の気持ちをワークシート
に記入しなければならな
いことに気付き,4人で
リーの気持ちを確認し始
める。
それまでは別々に活動
を進めていたが,ここで,
4人でワークシートを見
ながら,リーの気持ちを
確認し,内容についての
共有化ができている。
人物の気持ちを記入していないことに気付き,そこ
いことに気付き,ワークシートを確認しながら読み
から4人で登場人物の気持ちを確認し始めている。
方を模索している。
この段階でグループ全員が,本文の内容について意
識できたととらえられる。
ワークシートにリーの気持ちを記入する箇所を設
けたこと,表現スキルを強弱に絞って読み方を工夫
表4④の場面では,グループごとの音読の発表に
する活動を取り入れたことにより,生徒は内容を理
向けて,自分たちが工夫したとおりに声に出して読
解しようとして,さらに,読み方の具体的な工夫を
もうとしている様子がうかがえる。読んでみてはじ
するまでに至っている。このグループの協議により
めて,ワークシートどおりに読むことが容易ではな
完成したワークシートが図3である。
- 36 -
び付けて読み方の強弱をとらえようとしていること
がうかがえる。
第7時では,
『五体不満足』を読んだリーの感想文
が記載されている本文の箇所を,生徒個人が聞き手
に伝わるように読み方を工夫する活動を行った(図
4)。ここでは,生徒に意識させる表現スキルを限定
せず,第1時から第6時までに学習したことをもと
に読み方を考えさせた。図4はそのワークシートで
ある。
図4中に,「次につづく文によいんを残すように」
「きっぱりと」
「自信ありげに」等の記述が見られる。
これらの記述から,ただ内容を読み取って強弱を付
図3
第5時ワークシートの記述
けようとしているだけでなく,リーの気持ちを聞き
手に伝えることを意識して読み方を考えようとして
いることがうかがえる。
(2) 振り返り用紙の記述より
生徒の「音読の要件」に対する意識の変化は,振
り返り用紙の記述からもうかがうことができる。表
5は第4時から第8時までの生徒の振り返り用紙の
記述(同一生徒ではない)を抜粋したものである。
表5の第4時から第7時の生徒の記述から,グル
ープや全体での交流を通して気付いたことを次時の
授業の音読に生かそうとしている様子がうかがえる。
第6時と第8時には,図5の評価カードを用いて,
お互いの音読を評価し合う活動を取り入れている。
お互いの音読を聞くだけでなく,お互いに評価し合
うことにより,音読における自己の課題をより具体
的に意識することができている(表3,第6時,第
8時の生徒の記述より)のではないかと考える。ま
た,交流を通して気付いたことや自己の音読の振り
図4
第7時ワークシートの記述
返りにより,次時の授業へ向けての課題が明確にな
り,
「音読の要件」についてのより多角的な視点での
図3にある「リーの気持ち」における記述に,
「も
意識化を図ることができたのではないかと思われる。
っと知りたい」「乙武さんを少し理解できた」「おも
しろいので興味が深まった」とあり,由紀とリーと
音読評価カード
(
他のグループの人の音読を聞いて、次のあてはまるものに○をつけましょう。
A:できている B:だいたいできている
C:あまりできていない D:全くでていない
① リーの気持ちが伝わってくるように読んでいたか。
A B
② 相手(聞き手)の目や顔を見て、音読していたか。
A B
③ 相手に伝わるような声の大きさだったか。
A B
④ 強弱をつけて音読することができていたか。
A B
(伝えたいこと、大切なこと、重要ポイントを強く)
の会話の内容からリーの乙武氏に対する関心が高ま
っていく様子を読み取っていることが分かる。また,
強弱の付け方については十分であるとはいえないが,
「popular」という単語を強く読むこととしているこ
と,表4③の場面の様子から,生徒は内容理解に結
- 37 -
)へ
1
2
C D
C D
C D
C
D
よかったところを一言、言葉で伝えてあげてください。
(
図5
第6時音読評価カード
)より
表5
時
振り返り用紙の記述
第4 時
振り返り用紙の質問項目
生徒の記述
グループでお互いの音読を聞き合って,気付いたこと,感じたこと
を書きましょう。
由紀やリーの気持ちをみんな読み取ろうとしていた。強く言うこと
で気持ちが伝わりやすくなるんだと思った。
次はどんなことに気を付けて読もうと思いますか。
第 5時
他のグループの音読を聞いて,気付いたこと,感じたこと,他のグ
ループのよかったところを書いてください。
他のグループの音読を聞いて,自分もその読み方や考え方を取り入
れてみようと思ったことを書いてください。
次はどんなことに気を付けて読もうと思いますか。
第6 時
グループの人たちの音読を聞いて,気付いたこと,感じたことを書
きましょう。
グループの人たちから評価してもらったり,感想や気付きを言って
もらったりしました。それに対してあなたはどのように感じましたか。
次はどんなことに気を付けて読もうと思いますか。
第 7時
グループの人たちの考えや音読を聞いて気付いたこと,感じたこと
を書きましょう。
第8 時
他のグループの音読や,もらってコメントから気付いたこと,感じ
たことを書いてください。
次はどんなことに気を付けて読もうと思いますか。
気持ちを強く伝えられるように頑張りたい。
else や borrow とか,みんな強調していた。
なんか,リーの気持ちを表しているところとかを,もっと強く言っ
てみればよい。
何を伝えたいのか,話し手の気持ちを考える。
声が小さいと,いくら気持ちを込めても伝わらない。
全くその通りだと思った。アドバイスもいくつかもらったので,今
から直そうと思います。
考
察
振り返り用紙に記入することにより,グループの中でお互
いの音読を聞き合う活動から気付いたことを振り返り,その
気付きを次の授業へ生かそうと意識していると思われる。
他のグループが強弱を付けた箇所と自分のグループが強弱
を付けた箇所との共通点を見つけたりしながら,まだはっき
りとではないが,強弱と登場人物の気持ちの関係性に気付い
ている。気付いたことを次の授業へ生かそうと意識している
と思われる。
グループの仲間から評価を受けることにより,自分の音読
が他の生徒から聞き手にどう伝わっているかを認識し,指摘
を受けたところを次の時間への課題または留意点として意識
している。
気持ちを込めて,大きな声で,意識して読む。
いろんな読み方をしていたけど,みんなちゃんと内容とかをつかん
でいるから,言いたいことはわかった。
リーや乙武さんの気持ちとか,伝えたいことが伝わるように気を付
ける。
聞いている人にはオーバーなくらいに表現しないと伝わらなくて,
厳しい意見が多かった。
グループでの交流を通して,明確ではないが,内容を理解
することの大切さに気付き,それを次の授業へ生かそうとし
ていると思われる。
他のグループから評価を受けることにより,自分たちの意
識と聞き手が感じたことにずれがあることに気付いている。
クラス全体の意識の変化は図6のとおりである。
に合わせて音読を発表した。生徒は音読を発表した
これは,生徒の振り返り用紙の記述の中から「音読
り,他のグループの音読を聞いたりして,強弱のみ
の要件」を意識した文言を拾い,図の下方に示した
を意識した音読に違和感を覚え,読み方の工夫は強
1∼15 の「音読の要件」に係る項目別に分類し,そ
弱を意識するだけでよいものか否かと,読み方を模
の数値をグラフ化したものである。
索していることが考えられる。また,図7の振り返
第4時では,
「お互いの音読を聞いて気付いたこと,
り用紙を用いたことにより,生徒は強弱だけでなく,
感じたこと」の質問項目において,項目 14 に関する
他の表現スキルも必要であると気付いたのではない
記述が最も多い。この時点では,生徒はまだ「音読
かと思われる。
のポイント」からどの表現スキルを使えばよいか,
第6時は,グラフ⑤のように強弱に対する意識が
具体的な意識をもっていないためであると考える。
強いが,項目2「感情・気持ちを込める」を意識し
しかし,
「次はどのようなことに気を付けて音読しよ
ている記述も見られる。この時間では,第5時でグ
うと思うか」という質問項目に対しては,1∼15 の
ループごとに読み方を考えた section 2 におけるリ
項目に記述が分かれている。これは,振り返り用紙
ーの発話について,全体で強弱を付ける位置を確認
の「次はどのようなことに気を付けて音読しようと
し,音読の練習をした後,グループ内で図5の音読
思うか」という問いかけにより,生徒が当日の授業
評価カードを用いて評価活動を行った。グラフ⑥の
を振り返り,黒板に提示している「音読のポイント」
項目2「感情・気持ちを込める」,項目5「声の大き
を見ながら次時の授業の目標を考えたためであると
さ」
,項目6「相手の目や顔を見て」は,それぞれ音
思われる。
読評価カード(図5)の評価項目①,③,②に当て
第5時は,
「音読のポイント」から,
「伝えたいこ
はまる。このことから,評価カードを用いて評価活
と,大切なこと,重要語句,ポイントを強く発音す
動を行なうことにより,生徒の「音読のポイント」
る」という項目に絞って読み方を考える活動をした
に対する意識が強弱だけでなく,他の項目へも広が
ために,グラフ③のように生徒の意識は「強弱」の
ったものと思われる
項目に集中したものと思われる。しかし,グラフ④
第7時は section 3 の本文全体について個人で読
では,意識にばらつきが見られる。特にグラフ③で
み方を工夫し,工夫した読み方をグループ内で交流
は見られなかった「内容理解」や「感情・気持ちを
する活動を行った。次時の授業では,単元のまとめ
込める」という項目を意識した記述が多く見られる。
として,section 3 の本文全体を,一人一人の音読
この時間は生徒に強弱に絞って読み方を考えさせた
をつなぎ合わせて,グループの音読として全体で発
後,グループごとに強弱を付けた箇所を示し,それ
表することを伝えた。第4時から第6時においても
- 38 -
「お互いの音読を聞いて気付いたこと,感じたこと」
「次はどのようなことに気を付けて音読しようと思うか」
① 第4時 お互いの音読を聞いて気付いたこ
と,感じたこと
延
16
べ
6
4
人 2
3
2
1
1
1
1
数
1
延
べ
人
数
2
3
4
5
6
7
8
9
延
べ
人
数
10 11 12 13 14 15
1
2
3
4
5
6
7
8
5
3
1
9
1
3
3
1
③ 第5時 お互いの音読を聞いて気付いたこと,
感じたこと
21
1
② 第4時 次はどのようなことに気を付けて
音読しようと思うか
延
べ
人
数
1
10 11 12 13 14 15
12
5
1
2
3
4
2
3
2
5
6
7
2
8
9
6
1
1
2
3
4
5
2
1
3
4
5
6
2
1
7
8
9
2
3
5
1
2
1
1
6
7
8
9
10
図6
3
4
5
6
2
2
7
8
6
9
4
1
1
4
10 11 12 13 14 15
1
3
5
7
4
5
1
2
6
7
1
8
9
3
2
1
5
10 11 12 13 14 15
7
2
1
2
3
4
7
7
5
6
2
1
7
8
9
5
2
1
10 11 12 13 14 15
⑧ 第7時 次はどのようなことに気を付けて
音読しようと思うか
延
べ
人
数
4
7
1
10 11 12 13 14 15
内容理解
感情・気持ちを込める
表情・態度
強弱
声の大きさ
3
4
⑥ 第6時 次はどのようなことに気を付けて
音読しようと思うか
延
べ
人
数
10 11 12 13 14 15
9
2
2
5
⑦ 第7時 お互いの音読を聞いて気付いたこと,
感じたこと
延 17
べ
人
数
1
1
④ 第5時 次はどのようなことに気を付けて
音読しようと思うか
⑤ 第6時 お互いの音読を聞いて気付いたこと,
感じたこと
延
べ
人
数
8
相手の目や顔を見て
発音
速さ
スラスラと
伝わるように
12
2
3
5
4
1
1
4
5
6
7
11
12
13
14
15
8
8
3
2
9
10 11 12 13 14 15
1
よかった、うまい
工夫している
がんばる
いろいろな読み方がある
その他
「音読の要件」に対する意識の変化
にとってはこれまでの中で最も大きい発表の場であ
るといえる。発表の場がこれまでよりも大きくなっ
たことにより,生徒の聞き手に伝えようとする意識
が強くなり,そのため必然的に内容を読み取ろうと
する意識が強くなったのではないかと考える。その
結果,第7時の「お互いの音読を聞いて気付いたこ
と,感じたこと」の質問項目に対して,項目1「内
容理解」に関する記述が増えたと思われる。さらに,
「次はどのようなことに気を付けて音読しようと思
うか」という質問項目により,生徒が読み取った内
図7
第5時振り返り用紙
容を聞き手にどのように伝えるかを意識し,グラフ
⑧では,項目1「内容理解」に関する記述よりも,
グループ内や全体で音読を発表する場を設定してき
項目2「感情・気持ちを込める」に関する記述が多
たが,section 1 では登場人物リーの発話の一部と
いのではないかと思われる。また,項目8の記述も
由紀の発話の一部,section 2 ではリーの発話とい
増えているが,「みんなで協力する」「みんなと息を
うように,音読する英文の量は少ない。また,発表
合わせて読む」等の記述をしており,「音読の要件」
の場については,グループ内での発表や,全体での
とは直接関係はないが,次時の音読の発表を意識し
発表ではあったが,グループ全員で声を合わせて一
たものであると考える。
斉の発表であったため,第8時の音読発表は,生徒
- 39 -
第8時は前時に読み方を考えた section 3 の本文
について,グループごとに発表し,図5の音読評価
ことができた。また,授業実践において次のような
カードを使って,お互いの音読を評価し合った。生
指導の工夫をしたことが,生徒に「音読の要件」を
徒の振り返り用紙には表5の生徒の記述に示したよ
意識化させるうえで有効であることが分かった。
うに,「厳しい意見が多かった」「自分が思っていた
○
ワークシートに読み方の工夫や登場人物の気持
のと相手が感じていたのとでは違う」という記述が
ちを記入する箇所を設けることにより,生徒に「音
見られた。しかし,第8時の振り返り用紙の「聞き
読の要件」である表現スキルと内容理解の両方を
手に伝えることを目的とした音読のよさを感じるこ
意識して読み方を考えさせることができた。
とができたか」という質問項目に対して,37 人中 36
○
人が肯定的な回答をしている。
グループや全体でお互いの音読を聞いて評価し
合うことにより,生徒は自己の音読の課題を具体
また,
「聞き手に伝えることを目的とした音読のよ
さは何か」という質問項目に,
「相手に気持ちが伝わ
的に意識することができた。
○
振り返り用紙に「グループや全体での交流を通
る」
「書いた人の気持ちがわかる」というコミュニケ
して気付いたこと」や「次の授業ではどのような
ーションや内容理解等について意識した記述(表6)
ことに気を付けて音読するか」を記入することに
が見られた。
より,生徒は交流や自己の音読について振り返る
第7時,第8時の活動は,読み方を考える英文の
ことができ,次時の活動に向けての課題を明確に
量が多く,生徒にとっては難易度の高い活動であっ
た。また,グループでの音読練習の時間も十分であ
することができた。
2
課題
ったとはいえず,この8時間の授業を通して生徒は
本研究では,聞き手に伝えることを目的とした音
達成感を得ることができなかったのではないかと心
読指導を通して,生徒に「音読の要件」を意識化さ
配したが,予想以上の反応が記述によって理解でき
せることを目指して実践授業を行ってきたため,表
た。この振り返り用紙への記述から,生徒は8時間
現スキルを身に付けさせる指導は敢えて行っていな
の授業実践を通して,音読の意味を実感することが
い。今後は生徒に音読の表現スキルを身に付けさせ
できたのではないかと考える。
るための指導法の在り方を探るとともに,各単元に
おける音読指導について,3年間を見通して計画的
表6
聞き手に伝えることを目的とした音読のよさ
コミュニケーション(相手に伝えること)について
・気持ちを伝えられる。目と目を見て,感情を込められるから。
・読み方に気を付ければ,相手に気持ちを伝えることができる。登場人物の気持ちを
考えて読めば,伝えることができるから。
・同じ文でも読み方によって,感じ方が違ってくるのがおもしろい。身振り手振り,
表情,声の大きさ,トーンで色々変わるから。
内容理解について
・人物の気持ちを考えて相手に伝えるところ。人の気持ちを考えられるから。
・読んでいて,主人公の気持ちがよく伝わってくるような気がします。英語が読める
ようになる。
・書いた人の気持ちを考えられること。強弱をつけることで,気持ちがわかる気がし
たから。
に行っていきたい。
参考文献
①
高橋俊三・愛知県設楽町立田口小学校『音読で
国語力を確実に育てる−子どもの声と笑顔があふ
れる学校−』
Ⅳ
成果と課題
②
③
て,生徒の「音読の要件」に対する意識について分
析・考察した結果,次のような成果と課題が明らか
大修館書店
2003
新里眞男「音読の意義と指導法」
『英語授業学の
視点』
④
2001
田中武夫・田中知聡『「自己表現活動」を取り入
れた英語授業』
聞き手に伝えることを目的とした音読指導を通し
明治図書
三省堂
1991
文部省『中学校外国語科指導資料コミュニケー
になった。
ションを目指した英語の指導と評価』 開隆堂
1
1993
成果
聞き手に伝えることを目的として音読指導をする
⑤
ことにより,生徒に「音読の要件」を意識化させる
- 40 -
文部省『中学校学習指導要領解説−外国語編−』
東京書籍
1999
高等学校英語科における語彙習得指導法に関する研究
−語句のイメージ化を通して−
広島市立広島商業高等学校教諭
Ⅰ 研究主題設定の理由
福
原
一
夫
Ⅱ 研究の方法
高等学校英語科の各科目において,生徒に語彙を
語彙習得において「語句の使われる場面」をイメ
習得させることは指導の根幹部分にあたると考えら
ージするための学習指導法を具体化し,その指導法
れる。そこで,これまでは語句の意味と発音の確実
を取り入れた実践授業において有効性について探り,
な定着を目指して指導を行ってきた。よって,生徒
さらに,効果的な「語句のイメージ化」の手だてに
は授業において多くの語句に出会い,日々習得を重
ついて工夫する。
ねている。しかし,情報や相手の意向などを理解し
たり自分の考えなどを表現したりする場面において,
Ⅲ 研究の内容
習得した語句を運用することができないことがある。
それは,生徒が習得した語句を実際の場面でどのよ
1 研究主題に関する基礎研究
うに使うのかを理解することができていないからで
(1) 語彙と語句とは
あると考えられる。
語彙とは,広辞苑によると,「一つの言語の,あ
『高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編』
るいはその中の特定の範囲についての,
単語の総体」
においては「言語材料の分析や説明は必要最小限に
とある。本研究では,高等学校で習得すべき語句を
とどめ,実際の場面でどう使われるかを理解し,実
語彙と考える。
際に活用することを重視すること」
と示されている。
また,語句とは,同じく広辞苑によると「①語と
このことを踏まえ,語彙の指導においては語句の意
句 ②ことば,ことばの一まとまり」とある。本研
味と発音を確実に理解させた後,その使用場面を与
究では,上記①の意味としてとらえ,その中でも単
えた言語活動によって定着させることができると考
語と連語を中心に考える。
えていた。それにもかかわらず,上記のような生徒
(2) 「語句が使われる場面」とは
の実態が見られる。それは語彙の指導において,
「語
コミュニケーションにおいては常に,言語は具体
句の使われる場面」を生徒に意識させる手だての工
的な場面において,具体的な働きを果たすために使
夫ができていないからであると思われる。もし,
「語
用される。よって,語彙指導においては,言語の使
句の使われる場面」を意識して語句を習得させるこ
用場面に留意した指導が必要である。
とができれば,適切な言語運用ができる語句として
『高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編』
身に付けさせることができるのではないだろうか。
には,言語の使用場面として電話,買い物,家庭,
そこで,本研究では,習得した語句を実際のコミ
学校,手紙などの日常生活に密着した場面やスピー
ュニケーションの場面で活用することができること
チやディスカッションなどの場面が例示されている。
をねらいとした語彙指導の手だてとして,
「語句の使
“cafeteria”であれば飲食場面,
“jump”であれば
われる場面」をイメージできるようにさせる指導法
運動場面,そして“sleepy”であれば就寝場面など
を探ることとする。
が想定される。しかし,それらはあくまで言語の使
- 41 -
用場面の設定にすぎない。場面そのものの設定が目
語句と結びつけることを「語句のイメージ化」とす
的ではないので,
「語句の使われる場面」を意識した
る。
指導が大切であると考える。
(4) 「語句のイメージ化」を図る指導とは
例えば,
“headache”という語の指導においては,
未習得の語句を人は音で認知する。また,「語句
頭痛という日本語の意味と発音を理解させ,たとえ
が使われる場面」のイメージを,感覚を通して認知
頭が痛くなくても病院などの場面を与え,生徒が“I
する。よって,語彙の習得には,音として認知され
have a headache.”と運用することにより,その言
た語句を,感覚的に認知したものと結び付ける「語
語の使用場面は理解できていた。
句のイメージ化」が必要であると考える。
しかし,本来“headache”が使われる場面は,頭
つまり,「語句のイメージ化」を図る指導とは,
がズキズキ痛むという感覚を伴った場面であり,そ
文字を見たり,音を聞いたり,発音したりする活動
のことが理解できて初めて,実際にその語が活用で
に併せて,視覚,聴覚,臭覚,味覚,触覚などの「感
きるということであると考える。このことから語句
覚」を通してイメージをもたせ,それを音と結び付
を習得するということはその語句の日本語の意味を
けて意味を理解させ,把握させることととらえる。
知ることではなく,その「語句が使われる場面」を
2 実践授業の計画と実施
イメージできるようになることが重要な要件である
生徒がどのように「語句のイメージ化」を行って
ととらえる。
いるのかを探るために,広島市立A高等学校第3学
年の1クラスを対象に Oral Communication Ⅰ
このように考えると,“cafeteria”は,職場や学
校の施設が多くの人のために,食事を摂る場所とし
「 Unit 5 Visiting the Big Apple
て機能を果たしている場面など,“jump”は,重力
Transportation in Manhattan」の単元において,
に逆らって跳んでいる感覚など,
“sleepy”は眠くて
平成 17 年 10 月 21 日∼11 月 8 日に授業を実施した。
仕方のない感情を抱いている状態など,このような
なお,実践授業(全3時間)を行う段階では,
「語
語句がもつ感覚をそれぞれ意識させる必要がある。
句のイメージ化」を図る指導の流れとして,①学習
それは,
人が語句に対してイメージする感覚であり,
する語句を発音し,②「語句が使われている場面」
その語句の本質とも言えるものであると考える。
のイメージをもつ,
という指導計画を立てた。
また,
そこで本研究では,語句に対してイメージする感
Topic B
語句ごとにイメージをもたせるために,表1に記載
覚を「語句が使われる場面」としてとらえ,
『高等学
した手だてを考えた。
校学習指導要領解説 外国語編 英語編』の「言語の
使用場面」と区別して取り扱うこととする。
表1 イメージをもたせるための手だて
(3) 「語句が使われる場面」と「語句のイメージ化」
イメージ化するもの
とは
public
transportation
認知心理学においてはことばを産出するときや
理解するときには,音や文字である言語記号に関す
第
る記憶だけでなく,イメージに関する記憶もかかわ
っているととらえている。このことに関して森敏昭
1
は,
「母国語のことばは文字という“記号”と結び付
fare
park the car
いているだけでなく,
“映像的表象”や“活動的表象”
とも結び付いている。それゆえ日常生活のリアルな
subway
時
take the train
体験を記述することができるのである。
」
と述べてい
る。これら二つの表象を併せて,
「語句が使われてい
transfer
る場面」をイメージしたものとしてとらえ,それを
-42-
生徒の学習活動
・ 語句に対して抱いている
情景や感覚などを,文字で
記述する。
(意識化)
・ 記述したものを発表す
る。
・ イメージした内容を確認
しながら発音する。
・ 語句に対して抱いている
情景や感覚などを,絵に描
く。
(意識化)
・ 記述したものを発表す
る。
・ イメージした内容を確認
しながら発音する。
in front of
第
2
next to
in the south part of
・ 各自,語句に対して抱い
ている情景や感覚などを,
文字で記述する。
(意識化)
・ 記述したものを発表す
る。
・ イメージした内容を確認
しながら発音する。
70%
public transportatin
fare
park the car
take the train
時
以前にイメージ化
した語句を含んだ単
文
・ 2つの単文を聞いて,理
解した内容を絵に描く。
(実
感)
以前にイメージ化
した語句を含んだ文
章
・ マンハッタンへの観光の
順番を決定する2人の女生
徒 の 会 話 で あ る
Task-Listening を聞き,行
き先や交通手段など,理解
し た 内 容を 文字 で 記述す
る。
transfer
in front of
next to
第
3
時
in the south part of
(N=37人)
30%
97%
84%
100%
100%
76%
95%
89%
92%
subway
0%
20%
40%
できた
60%
3%
16%
0%
0%
24%
5%
11%
8%
80%
100%
できていない
図1 各語句のイメージが浮かんだ人数
3 実践授業の結果の分析・考察
図2は,第2時に,イメージ化を図るための語句
「語句のイメージ化」の手だての工夫に対する効
を含む文を聞かせ,文全体のイメージをもてている
果について,実践授業で使用したワークシートと振
かを確認したものである。
り返りシートにより,次のような分析を行った。
【設問】次の文を聞いて,その内容を絵に描きな
(1) 分析の方法と視点
さい。
上記のシートに記述した生徒の感想やデータを
英文1 A young girl parked the car next to the
集計した。クラス全体に対してと,英語に苦手意識
building.
を感じている生徒に対して,この指導の手だてが次
の四つの観点から有効であったかどうかを考察する。
英文2 I’ll take the train in front of the large
park.
ア 「語句のイメージ化」ができているか
イ 「語句のイメージ化」の効果
ウ Task-Listening の内容理解の状況
英文1
エ
英文2
実践授業の3時間を通して,「語句のイメージ
37%
63%
21%
79%
化」のよさが実感できたか。
0%
(2) 分析の内容および考察
(N=38人)
ア 「語句のイメージ化」ができているか
図1は,第3時の授業後に実施した振り返りシー
20%
40%
60%
80%
100%
聞いて絵を描いた生徒
文字を見て絵を描いた生徒
図2 二つの英文を聞いて理解した生徒数
トに記述した「語句のイメージ化」の意識の結果で
ある。
1人を除き全員が絵に描いているが,音を聞いて
【設問】次の語句について,イメージが浮びます
絵が描けた生徒は,2∼3割と少なく,音とイメー
か。
ジとを結び付けることができていなかったと考える。
イメージ化した九つの語句のうち,七つの語句に
図3は,第3時の活動の中で,イメージ化を図る
ついては,80%以上の生徒がイメージできていると
ための語句を含む比較的長い会話文を四つのパート
感じている。このことより,語句を聞いて,各自が
もつイメージを文章に書いたり,
絵に描いたりして,
確認した後,確認し発音する工夫が有効に働いたも
に分けて聞かせ,行き先と行く手段を理解すること
ができた生徒数を表している。それまでに習得した
語句をイメージ化することができていれば,行き先
のと思われる。
と行く手段をある程度理解できるのではないかと考
-43-
えた。
【設問】次の文を聞いて,行き先と行く手段を答
えなさい。
29%
Part1(take the train, park the car が含まれる会
42%
29%
話文)
Part2(transfer, in front of, subway が含まれる
0%
会話文)
Part3(take, subway, in the south part of が含ま
20%
(N=38人)
40%
はい
まあまあ
60%
80%
あまり
100%
いいえ
れる会話文)
Part4(take the train, next to が含まれる会話文)
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
図4 語句のイメージ化を実感した割合
97%
84%
図2で示したように,実際に英文を聞いて絵を描
68%
41%
けた生徒は 20∼30%であったにもかかわらず,
「語
句のイメージ化」によって,58%の生徒が今までと
41%
はどこか違う感覚をもった。
「はい」または「まあま
19%
あ」と答えた生徒は,以下のような理由を挙げてい
8% 3%
Part 1
(N=37人)
Part 2
る。このことから,
「語句のイメージ化」による効果
Part 3
行き先
があったと考える。
Part 4
行く手段
図3 Task-Listening の内容を理解した生徒数
Part 1 では,行く手段の正答率が 84%と高い要因
は,
“take the train”と“park the car”のイメー
ジ化ができていたからである。また,Part 3 では,
行き先の正答率が 97%と高い要因は,
“in the south
part of”のイメージ化ができていたからだと考える。
・
・
・
・
・
・
・
・
自分で絵を描いたから覚えやすい。
後で聞いても頭に残るような気がする。
想像しながらだから聞きやすくなった。
すぐに映像が浮かぶようになった。
語句をイメージできたから。
イメージがすごく浮かんできた。
文章を聞いて情景を浮かべたから。
イメージしながら語句を聞き取ったので,情
景が浮かびやすかった。
ウ Task-Listening の内容理解の状況
Part2 の正答率が極端に低いのは,語句がイメー
ジ化できていても問題の提示方法が適切ではなく,
図5は,第3時において,比較的長い会話文を聞
イメージ化した語句だけでは解答が導き出せないも
いて,
「語句のイメージ化」により聞きやすいと実感
のであったからである。
した生徒の割合を示す結果である。
【設問】Task-Listening が,以前より聞きやすい
以上のことから,すぐに運用面に反映されるほど
と感じましたか。
の「語句のイメージ化」の段階までには,至ってい
図6は,同じく第3時において,比較的長い会話
ないと考える。
文を聞いて,
「語句のイメージ化」により理解できた
イ 「語句のイメージ化」の効果
と実感した生徒の割合を示す結果である。
図4は,第2時において,二つの英文を聞いて語
【設問】Task-Listening が,以前より理解できた
句のイメージ化の有効性を実感した生徒の割合を示
と感じましたか。
す結果である。
図5の結果から,第3時の Task-Listening を聞く
【設問】次の文を聞いて,以前より聞きやすいと
という課題は,生徒にとって聞き取りの難易度がか
感じましたか。
なり高い英文であったにもかかわらず,73%の生徒
-44-
が「はい」または「まあまあ」と回答しており,以
前より聞きやすいと振り返っている。また,図6の
結果から,70%の生徒が「はい」または「まあまあ」
と回答しており,以前より理解できたと振り返って
27%
27% 3%
43%
いる。このことから,
「語句のイメージ化」を取り入
れた指導の有効性がうかがえる。
0%
20%
(N=37人)
30%
43%
40%
はい
60%
まあまあ
80%
あまり
100%
いいえ
図6 Task-Listening が以前よりも理解できたか
22% 5%
エ 「語句のイメージ化」のよさの実感
表2は,実践授業における毎時の生徒の感想から,
0%
20%
(N=37人)
はい
40%
60%
まあまあ
80%
あまり
100%
「語句のイメージ化」をどうとらえているかを分析
いいえ
し,その変化を示している。
図5 Task-Listening が聞きやすいと感じましたか
表2 生徒の「語句のイメージ化」に対する感想
第
1
時
第
2
時
第
3
時
生 徒 A
生 徒 B
頭の中でいろいろ想像
することは新鮮な感じだ
った。イメージしたりそれ
を言葉にしたり,絵にした
りすることは楽しかった。
英語でしゃべられるとや
る気がなくなりました。
絵や情景などを考えた
のはすごく新鮮だった。英
語は苦手ですが,楽しか
ったです。絵を描くことによ
って伝えることもできると思
いました。
(①の段階)
前回の授業よりも意味
が理解できたと思いま
す。英語でしゃべった後
に,日本語で解説を付け
てくれたのもよかったで
す。
(②の段階)
イメージが頭の中で浮
かび,理解できた気がし
ます。それに文字だけで
やるよりも忘れにくいと思
いました。聞いただけで
理解することができたと思
うのでよかったです。
(③と④の段階)
生 徒 C
普段のやり方ではただ
覚えるだけで実用的に感
じなかったが,情景などを
イメージしたので英語を身
近に感じることができた。
英語が得意な方ではない
が,絵を描いたりして新鮮
で楽しかったです。
(①の段階)
(①と②の段階)
イメージすることで,その
だんだん英語の語句か
時の情景が少し浮かぶよう ら情景がパッとすぐ浮かぶ
になった。今までの授業と よ う に な っ た の で 良 か っ
違い新鮮でよかったです。 た。イメージすることで,今
まで以上に英語を理解す
ることができるようになっ
た。
生 徒 D
新鮮で楽しかったです。
想像力が豊かになりまし
た。今までは一つの語句
をそこまでイメージしたこと
はありませんでした。
(①の段階)
文を聞いたときに意味を
理解しながらイメージしな
ければならないので難しか
ったのです。人とのイメー
ジの違いも面白かった。楽
しかった。イメージすること
は大切だと思いました。
(③の段階)
(③と④の段階)
(①と②の段階)
リスニングは苦手ですが
絵を書いたりしたので語
映像を浮かべることで,
語句の意味が覚えられる 句の情景が浮かぶように イメージすることで会話の
ようになった。映像を浮か なった。今日のリスニング 内容がわかりやすくなって
べることで状況がわかるよ は聞き取りにくかった。
きました。楽しく授業を受
うになったと思います。
けられました。
(③の段階)
(③と④の段階)
-45-
(①と②の段階)
る場面」のイメージ化の際に,実際にイメージ化さ
【設問】本時の授業でよかったことがあれば書い
れたものは英語の語句そのものではなく,日本語の
てください。
ここでは特に,あまり英語が得意ではなく,顕著
介在した意味内容(日本語訳)であったので,語句
に変化が見られる生徒の中から,無作為に生徒Aか
の正確なイメージ化となっていなかったと考えられ
ら生徒Dの四名を抽出した。また,
「語句のイメージ
る。
例えば,
“fare”という「語句のイメージ化」がで
化」
のよさを実感する段階を,
次の①∼④に分類し,
きていると思われる指導において,その語句の日本
整理した。
①
語の意味を「運賃」という意味を含めて,
「料金」と
この手だての授業方法は楽しかった。
いう形で与えた。その日本語の意味から,実際に4
人の生徒が一般的な料金と勘違いして,自動販売機
② 覚えやすい,または,理解しやすいと,
「語句
でジュースを買っているような場面をイメージして
のイメージ化」のよさを感じた。
いる。しかし,これは“fare”の正確な語句の理解
ではなく,間違った理解につながっていると言える。
③ 「語句のイメージ化」ができた。
また,
“public transportation”の指導においては,
生徒に関連した「語句の使われる場面」を自由にイ
④ 覚えることができた,または,理解できた。
メージさせたが,その後それらを発表させただけで
聞くことができた。
生徒の感想から,個人差はあるものの,最初はど
終えてしまっている。この語は集合名詞なので生徒
の生徒も①の段階であったが,学習を進めるにつれ
はバス,電車などのいくつかの関連した場面を理解
て段階的に変化し,第3時を終えると③の「語句の
しただけで,その語の「語句の使われる場面」を理
イメージ化」ができた段階に達し,さらに④の理解
解することはできていないのではないかと考えられ
の定着に有効であるということを実感していると言
る。
「これらに共通することは何ですか。
」などの発
える。
問をし,焦点化する指導が必要であったと感じる。
4
特に,生徒Dに着目すると,結果的には②の段階
「語句のイメージ化」を図る指導の再構成
実践授業を通して明らかになった「語句のイメー
にとどまっているように見えるが,この生徒にとっ
ては,毎時間授業が楽しいと思える気持ちが継続し,
ジ化」を図る指導の課題を解決するために,次のよ
また,第3時では難易度の高い課題であったにもか
うな改善の視点を定めた。
かわらず,会話の内容がわかりやすくなってきたと
・
感じている様子がうかがえ,
「語句のイメージ化」の
日本語の意味を介在せずに,感覚を通して意
味内容を把握させる。
手だての効果があったと言える。
・
また,ここでは特に取り上げなかったが,英語が
「語句のイメージ化」の際に,自由に「語句
の使われる場面」をイメージさせた後,その語
得意な生徒の感想からも,
「語句のイメージ化」を導
句の本質に焦点化させる。
入した授業に対して興味や関心をもち,積極的に学
習する姿が見られ,実践授業を通して,語句をイメ
そして,表それらをもとに「語句のイメージ化」
ージ化することができた③の段階や聞くことができ
の指導法をモデル化したものを表3のように構成し
たと実感する④の段階にまで達していたことがわか
た。
その考え方を基に,実践授業でイメージ化を試み
る。
た語句のうち,
“fare”
“public transportation”
“in
(3) 実践授業を通して見えてきた課題
front of”の3つをもう一度イメージ化する展開を表
今回の実践授業においては,語句の意味内容の提
4のように再構成した。
示を生徒の多くが望んだため,日本語の意味で確認
をすることを行っている。その結果「語句の使われ
-46-
表3 語句の特徴を踏まえた「語句のイメージ化」のモデル
手だての工夫の基本的な考え方
1
発音練習を行う。
2
視覚や動作などの感覚を通して,
「語句の使われる場面」のイメージをもつことのできる活動を行う。
3 「語句の使われる場面」のイメージが,もてたかどうかを確認する活動を行う。
語句とそのイメージす
べき「語句の使われる場
「語句のイメージ化」の手だて
教師の支援(発問や指示)
面」の例
・ 「その語がどのような場面・状況で使
(具体物が比較的理解しや
・
視覚的な材料を提示する。
用されるのかを考えて下さい。」
すい名詞)
・
美術館での鑑賞の場面,床の間などや玄関など
・ 「これらは何でできているのでしょ
pottery
それが飾られている場面,それを製作している場面
うか。
」
「土で作られた壺や皿な
など,生徒からの回答を黒板に書く。
・ 「回答の中で共通していることを土台
どが作製されたり,使用さ
・
金属やガラスで作られた壺や皿などを提示し,
にして,一文でこの語が使用される場
れたり,または鑑賞された
それが具体物を表しているか質問し,語句のイメー
面・状況を表してみましょう。」
りなどされ,存在している
ジ化ができているか確認する。
・ “Is this a pottery?”
場面」
・ 集合名詞なので,それを表すものを数
(集合名詞)
・ 視覚的な材料を提示する。
枚提示する必要がある。
insect
・ 昆虫が生きている場面,昆虫採集の場面,昆虫
・ 「その語がどのような場面・状況で使
「体が頭,胸,腹の三部に
を飼っている場面など,生徒からの回答を黒板に書
用されるのかを考えて下さい。」
分かれ,六本の足を持つ節
く。
・ 「回答の中で共通していることを土台
足動物が観察されたり,採
・ 蜘蛛やミミズなど昆虫に類似したようなものを
視
にして,一文でこの語が使用される場
取されたり,飼育されたり
提示し,それが具体物を表しているか質問し,語
覚
面・状況を表してみましょう。」
などされ,存在している場
句のイメージ化ができているか確認する。
的
・“Dose this photo show an insect?”
面」
・ 「これらの場面からこの語を表す他
・ 口紅をしている場面,口ひげを生やしている場
(多 様な 日本語の 意味 を
の場面を考えて下さい。」
面などを提示する。
もつ動詞)
・ 「この語を表す場面を一言で述べて
・ 生徒が回答した場面を黒板に書く。
wear
下さい。」
・ 髪を生やしている場面,ニコニコしている場面
「身体に何か付帯した場
などを提示して,wear で表現できるか質問し,語 ・ 「これらの場面で wear は使えます
面」
か。」
句のイメージ化ができているか確認する。
「何かが接触している場面」
・ on the table, on the wall, on the ceiling の場面
・ 「これらの場面からこの語を表す他の
(多様な日本語の意味をも
を提示する。
感
場面を考えて下さい。
」
つ前置詞)
・ 生徒が回答した場面を黒板に書く。
覚
・ 「この語を表す場面を一言で述べて下
on
・ 指輪をしている場面,通りで遊んでいる場面,
的
さい。
」
「接触,支も,継続してい
バイクに鍵が付いている場面などを提示して,on
に
・ 「これらの場面で on は使えますか。」
るなどの場面」
で表現できるか質問し,語句のイメージ化ができて
理
いるか確認する。
解
し
・ 「この語がどのような場面・状況で使
易
用されるのかを考えて下さい。」
・ ジェスチャーで居眠りの場面を提示する。
い
・ 「sleep のもつ場面と違いますか。
」
(比較的簡単に動作で理解 ・ 授業中の場面,温かい陽だまりの場面など,生
も
・ 「回答の中で共通していることを土台
徒からの回答を黒板に書く。
することができる動詞)
の
にして一文でこの語が使用される場
・ 教師が nap, sleep の動作を行って,瞬間的にそ
nap
面・状況を表してみましょう。」
の語句を発音させることによって,語句のイメージ
「短い眠りを行っている
化できていることを確認させる。(またはその語句 ・ 「動作している場面の語句を答えて下
場面」
動
さい。
」
を発音して,生徒にその動作を行わせる。
)
作
・ 「発音する語句の動作をして下さい。」
的
・ 生徒を使うなどして”Can you stand next to
・ 「この語がどのような場面・状況で使
(比較的簡単に動作で理解
me?”など会話して,その位置関係の場面を動きで
用されるのかを考えて下さい。」
することができる位置関
提示する。
・ 「回答の中で共通していることを土台
係の語句)
・ 二つの建物が並んで建っている場面,映画館で
にして一文でこの語が使用される場
next to
二人が並んで座っている場面など生徒からの回答
面・状況を表してみましょう。」
「主体に対して客体がそ
を黒板に書く。
・ 「次の英語の指示に従って下さい。
の横の位置に存在する場
・ 英語で指示して,その動作を行わせ,語句のイメ
“Can you sit next to Miss A?”
面」
ージ化ができているかを確認する。
(聴 覚を 通して理 解で き
・ 可能であれば実際に聞かせる,感じさせるなどを
る語句)
行う。できなければ,音に驚いている場面や,胃痛
noisy,など
・ 「その語がどのような場面・状況で使
などの場面を絵や動作で提示する。
「大きな音がして,イライ
用されるのかを考えて下さい。」
そ
・ 勉強中に大きな騒音に困っている場面や,大きな
ラを感じている場面」
・ 「回答の中で共通していることを土台
の
音で会話ができない場面,体のどこかが痛む場面,
(感覚を通して理解できる
にして一文でこの語が使用される場
他
など生徒からの回答を黒板に書く。
語句)
面・状況を表してみましょう。」
の
・ 実際音を聞くことで noisy の場面を提示して,
ache など
・ 「音を聞いて noisy と感じたら挙手
感
noisy と感じたら挙手をするなどして語句のイメー
「長く続く,鈍い痛みを感
して下さい。」
覚
ジ化ができていることを確認する。
じている場面」
・ 「この場面で ache は使えますか。
」
(その他味覚,臭覚,触覚 ・ 心の痛みを感じている場面を提示して ache が語
句のイメージ化ができていることを確認する。
などを通して理解するこ
とができる語句)
備
考
・ 実物,絵,写真,映像などが用意できるものは用意する。
・ Picture Dictionary なども活用する。
・ 感覚的に理解しにくい語句には,英英辞典を参考にすると「語句の使われる場面」のイメージの例が提示しやすい。
・ 生徒がイメージする「語句が使われる場面」は必ずしも口頭で回答させ,黒板に書く必要はない。時間があれば絵に描かせ,そ
れらを OHP などで提示する活動などもよいのではないかと考える。
-47-
表4 実践授業において学習した語句の再イメージ化案(“fare” “public transportation” “in front of”のみ)
語句とそのイメージすべ
き「語句の使われる場面」
の例
(具体物が比較的理解しや
すい名詞)
fare
「お金が運賃として使用さ
れている場面」
(集合名詞)
public transportation
「ある交通手段が運賃を払
い,移動するための手段とな
っている場面」
(比較的簡単に動作で理解
することができる位置関係
の語句)
in front of
「主体に対して客体がその
前の位置に存在する場面」
Ⅳ
「語句のイメージ化」の手だて
教師の支援(発問や指示)
・
バス,市内電車,JR の運賃支払い場面など視覚
的な材料を提示する。
・ 生徒のジェスチャーが正しいのかどうかを,他
の生徒に問いかける。
・ 料金箱にお金を入れたりする動作をジェスチャ
ーで行い,語句のイメージ化ができているかどう
かを確認する。
・ バス,市内電車,アストラムライン,JR などの視覚的
な材料を提示する。
・ 旅行の場面,街へ出かける場面,など生徒から
の回答を黒板に書く。
・ ラクダとか船などを提示し,それが具体物を表し
ているか質問し,語句のイメージ化ができている
か確認する。
・ 生徒を使うなどして“Can you stand in front of
me?”など会話して,その位置関係の場面を提示す
る。
・ 二つの建物が道を挟んで見合わせて建って
いる場面,映画館の前で待ち合わせをしている場
面など生徒からの回答を黒板に書く。
・ 英語で指示して,その動作を行わせ,語句のイ
メージ化ができているかを確認する。
成果と課題
・
「その語がどのような場面・状況で使用される
のか考えて下さい。」
・ 「お金やバスカードなどを用いて,ジェスチャ
ーでこの語が使用される場面・状況を表してみま
しょう。」
・ 「このお金は fare として用いられていますか。」
・ 集合名詞なのでそれを表すものを数枚提示する
必要がある。
・ 「その語がどのような場面・状況で使用される
のか考えて下さい。」
・ 「広島以外のその語の使われる場面はどうでし
ょうか。未来においてはどういう場面が考えられ
えるでしょうか。
」
・ 「回答の中で共通していることを土台にして一
文でこの語が使用される場面・状況を表してみま
しょう。」
「ラクダが public transportation となるのはどんな
場面でしょうか」
・
「この語がどのような場面・状況で使用される
のか考えて下さい。」
・ 「回答の中で共通していることを土台にして一
文でこの語が使用される場面・状況を表してみま
しょう。」
・ 「次の英語の指示に従って下さい。“Can you sit
in front of Miss A?”
とができていない。それを表す語を具体化するこ
とによってイメージ化を図るものを,より明確な
1
成果
ものとすることが必要であると考える。
○ 「語句のイメージ化」により「語句が使われる
○
「語句のイメージ化」のモデルは例示すること
場面」をイメージすることができ,語句に関して
ができたが,今後の実践の中で,様々な語句に関
正確な理解を深め,運用しやすいと実感できる語
して,この手立ての工夫のさらなる有効性を探り,
彙習得につながることがわかった。
多くの語句に関して体系化していきたい。
○
語彙習得する過程を具体化することができた。
○
指導上の課題を明らかにし,「語句のイメージ
内容などの段階の差を十分吟味するなど,語彙を
化」のモデルを例示し,効果的な指導を再構成す
運用する場面において,生徒に余裕をもつて「語
ることができた。
句イメージ化」の有効性を実感させる展開を考え
○
○
「語句のイメージ化」を図る指導が,生徒の英
例えば「聞くこと」においては英文の量,速さ,
る必要がある。
語に対する興味や関心を高めるのに効果的である
ことがわかった。
○
参考文献
語句の段階からその「語句が使われる場面」を
イメージして意味内容を理解することは,文や文
①
章においてもその使用場面を意識し内容を理解す
新しい教育心理学者の会『心理学者
を語る』
ることつながることが生徒の感想から伺えた。
2
課題
○
「語句の使われる場面」という表現は抽象的で
②
北大路書房
1995
森敏昭『認知心理学を語る②
ラボラトリー』
教科教育
北大路書房
おもしろ言語の
2001
③ 『高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編』
あり,具体的にそのものを伝える語を考え出すこ
文部省
-48-
開隆堂出版
1999
幼児の探究心を深める教師の援助の工夫に関する研究
−5歳児の協同的な活動の観察と分析を通して−
広島市立亀崎幼稚園教諭
Ⅰ
研究主題設定の理由
Ⅱ
金
子
忍
研究の方法
小学校に入学した1年生の教室において,話が聞
5歳児の協同的な活動の保育実践において,幼児
けない,学習への意欲が乏しい等の姿が見られると
の言動を観察・分析し,探究心を深めるための教師
いう報告を聞くことがあり,幼稚園教育において育
の援助の工夫について探る。
てるべきことは何かを自分なりに考えて保育実践を
Ⅲ
研究の内容
かったり,遊びを自分なりに工夫し深めていくこと
1
研究主題に関する基礎的研究
ができなかったりすることがあった。それは,教師
(1) 「探究心」について
行ってきた。幼児の姿を振り返ると,いろいろな遊
びに興味や関心をもちながらもやってみようとしな
が,やってみようとしない原因について気付いてい
「探究心」について湯川秀樹は,「探究心は興味
なかったり,幼児が興味や関心をもったことに共感
や関心,好奇心を動力としてものの本質に迫る力で
して深めていく援助が十分できていなかったりした
あり,それが幼児の知の広がりや深まりにつながっ
のではないかと思われる。
ていくのである。
」と述べている。
そこで,本研究では,「探究心」とは,「幼児が,
『幼稚園教育要領解説』の領域「環境」において,
好奇心をもち主体的に環境にかかわる中で,物事を
周囲の様々な環境に好奇心や探究心をもってかかわ
り,それらを生活に取り入れていこうとする力を養う。
教師は,幼児の好奇心を広げ,探究心を深めるような
環境の設定を行い,援助していくことが大切である。
さらに深く追究しようとする力」と考えた。
(2)
探究心の深まりについて
滋賀大学教育学部附属幼稚園は,「学びの過程」
と示されている。このことから,幼児がいろいろな
ことに興味や関心をもって主体的に環境にかかわり,
を,「心が動く→やってみる→なるほどとわかる→
好奇心を抱いて自分なりに疑問をもち,考えたり試
繰り返す→やっぱ
したり工夫したりする態度を育てることや,幼児な
りと納得する→次
7 次の生活に生かしていく
りの思いや考えを遊びや生活に取り入れる態度を育
の生活に生かして
6 やっぱりと納得する
てることが,幼稚園教育の基本として大切なことの
いく」としていた。
5 繰り返す
一つであると考えた。
その過程を参考に
4 なるほどと思う
そこで,本研究では,いろいろな遊びに興味や関
して本研究は,幼
心をもちながらも,遊びを工夫したり深めたりして
児が人やもの,物
いくことができにくい幼児が,自分から深く物事に
事に出会い,自ら
かかわろうとする過程を通して探究心を深めるため
働きかけてその幼
にはどのような教師の援助をすればよいか,保育実
児なりに試行錯誤
践とその分析より考えていきたい。
を繰り返し,発達に必要なものを獲得しようとする
3 やってみる
2 やってみたい
1 心が動く
図1
探究心の深まり
気持ちの高まりを探究心が深まることと考えた。ま
- 49 -
た,幼児の心が動き出し「心が動く」の段階から「や
より,5歳児の探究心の深まりは,より一層充実し
ってみる」の段階に気持ちを高めていく過程におい
たものになると考える。
て,初めてのことに対する不安や自信のなさ等の思
(4) 探究心と教師の援助について
いがあると思われ,「やってみたい」の段階を入れて
探究心を深めていく過程においては,幼児が周り
探究心の深まりを図1のように考えた。
の環境に安心してかかわっていくことができる生活
(3) 探究心と5歳児の協同的な活動について
があることが基盤である。そして,教師は,幼児が
5歳児の時期は,一緒に物事にかかわり活動する
かかわりたくなるような環境の構成を工夫すること
中で幼児同士の人間関係が深まり,互いに学び合い,
が大切である。また,幼児が興味や関心をもったこ
大きな目標に向けて共に協力していくことが可能な
とを受け止め共感し,じっくり取り組めるような時
時期である。そこで,学級全体で一つの課題をもち
間を保障しながら試行錯誤を見守ることが必要であ
幼児一人一人が目的意識をもって取り組む協同的な
る。さらに,幼児と行動をともにする中で,頑張り
活動を通して,自分なりの思いを実現させていくと
を認めたり励ましたりして,幼児が満足感や充実感
ともに,共感したり,認め合ったり,一緒に目的に
を味わい,新たな課題に向かって取り組もうとする
向かって協力したりすることにより,さらに意欲を
思いを支えていくことが重要な援助であると考える。
もって取り組み充実感や達成感を味わうことができ
このことをもとに,表1の「探究心の深まりを見
る。つまり,友達とかかわり合って活動することに
表1
取る視点と教師の援助」を作成した。
探究心の深まりを見取る視点と教師の援助
教師の援助
探究心の深まりを見取る視点
[つぶやき]
「○○ちゃん,一緒にもっと∼してみよう」
「○○ちゃん,教えてあげる」
「○○ちゃんは∼してくれる?△△は∼する
から」
「楽しかったね,明日も一緒に続きをしようね」
「先生(○○ちゃん),家でもやってみたよ」
[視線・表情]
・友達の動きに気
付く。
6 やっぱりと
納得する
<説明,納得>
「やっぱりそうだったんだ,∼だから∼なんだ」
「∼したら∼になるね」
「○○ちゃんと同じになった」
・自分なりに比較
して見る。
5 繰り返す
<工夫,思考>
「もう一回,∼してみよう」
「○○ちゃんみたいにしたい」
「また∼したい」
「また∼してもいい?」
「○○ちゃん,比べてみよう」
・友達と見比べる。 ・何度も繰り返す。
・いろいろな物を
・友達のやっていることを真似る。
探して見る。
・自分なりに考え工夫する。
・気付いたことを認めたり疑問を投げかけたりして,また自分なりに考えることができるようにする。
・何度も繰り返して遊べるように,材料や用具を準備したり時間の保障をしたりする。
・友達に刺激を受けてやってみようとする姿を認め,思いが実現していくように援助する。
4 なるほどと
思う
<予想,予測>
「○○かもしれない」
「∼っておもしろいね」
「∼って,∼みたいだね」
「へぇー,∼なんだ」
「先生(○○ちゃん),∼になったよ」
・知っていることを
思い浮かべて見
る。
・うなずく。
・対象物を見る。
・分かったように思う。
・思ったことを伝える。
・予想したり予測したりする。
・関連するものを持って来る。
・絵本や図鑑等で調べる。
・試して遊ぶ中での驚きや発見に共感し,試して遊ぶ楽しさが味わえるようにする。
・興味や関心をもったことに働き掛けて,自分なりに考えて遊ぶ楽しさが味わえるようにする。
・好奇心がふくらむような言葉掛けをしたり,アイディアを出したりする。
・幼児の発見や気付きを大切にして他の幼児にも伝え,互いの考えを受け入れて遊ぶ楽しさが味わえるよ
うにする。
3 やってみる
<試行>
「こんなふうにしてみよう」
「∼って,どうするん?」
「先生(○○ちゃん),教えて」
・関心のあるのも
をずっとを見る。
・いろいろなことを試してみる。
・同じことをする。
・教えてもらいながらする。
・友達や教師に尋ねる。
・幼児が興味や関心をもったことに共感したり一緒に楽しんだりする。
・興味をもちながらも材料や用具の扱い方や仕方が分からないでいる幼児には,個人的に知らせたり一緒
にやってみたりする。
・幼児が興味や関心をもったことを十分試すことができる環境を設定したり,時間を保障したりする。
2 やってみたい
<意識>
「∼やってもいい?」
「∼したい」
・身をのり出して見 ・同じ物を探す。
る。
・接近する。
・幼児の心を揺さぶるような言葉掛けをして,自ら環境等へのかかわっていけるようにする。
1 心が動く
<気付き,発見,
疑問>
「あれ?へえー」
「これ,なあに?」
「先生(○○ちゃん),見て,見て」
「先生(○○ちゃん),見せて」
「先生(○○ちゃん),すごいね」
・じっと見つめる。 ・耳を傾ける。
・考え込んでいる。 ・歓声をあげる。
・首をかしげる。
・教師に見てもらいたがる。
・身振りを交えて伝えようとする。
・心を動かして見たり耳を傾けたりしている時間を大切に見守る。
・幼児の小さな驚きや発見の喜びに教師も共感していく。
・関心をもってかかわってきた幼児の気持ちを受け入れ,関心の輪を広げていく。
・何に心を動かしているか,興味・関心がどこに向いているかを探し,環境設定の視点にしていく。
7 次の生活に
生かしていく
<満足,充実>
2
[行動]
・友達と一緒に活動することを楽しむ。
・新たなことに気持ちが向き取り組む。
・自分なりに考えて動く。
・生活に取り入れる。
・生き生きとよく動く。
・分かったことを教えたり伝えたりす
る
・自分の言葉で説明する。
・最後まで取り組む。
保育実践計画の作成
(1)
・友達と一緒に遊びを進めようとする姿を認め,成長の喜びが味わえるようにする。
・思いや考えを教え合ったり伝え合ったりする姿を認め,遊びへの満足感や充実感が味わえるようにする。
・自分たちで考えた遊びをみんなの前で発表する機会をもち,自信につながるようにする。
・幼児一人一人の考えやよさを認め合えるように言葉掛けをしていく。
・自分たちで作ったものを大切に扱えるように,また,遊びが翌日にも続いていくように,幼児と一緒に環境
を整えたり片付けたりしていく。
・あきらめないで最後まで取り組もうとする姿を認めて,満足感が味わえるようにする。
・自分なりに分かったことが実感できたり,一緒に取り組んだ友達と思いを共有できたりして充実感を味わ
えるように言葉掛けをしていく。
取りをしたり予備観察を行ったりして,いろいろな
保育実践の指導計画(T2として参加)
遊びに興味や関心をもちながらも,遊びを工夫した
広島市立A幼稚園5歳児B組(18 名)を対象に,
り深めたりしていくことができにくいA児を抽出し
協同的な活動「みんなで遊ぼう」の指導計画を作成
た。また,A児は,友達関係に広がりがなく自分の
し,平成 17 年 10 月 5 日∼10 月 20 日に保育を行な
思いを言葉で伝えることにも課題があり,やってみ
うこととした。
たい気持ちをもちながらも自ら活動に取り組んでい
なお,保育実践に先駆けて,事前に担任より聞き
くためには,教師の援助が必要な幼児である。そこ
- 50 -
で,A児がやってみたい気持ちを高めていくことが
(2) 保育実践の活動内容と教師の援助
できるように,教師の援助を表2のように考えた。
表2
抽出児A児への教師の援助
表1,表2をもとに立案した指導計画においては,
表3のように活動内容,学級全体及びA児への具体
(ア) A児のつまずきを探り,乗り越えていくことができるように
的な教師の援助を考えた。
具体的にやり方を知らせていく。
(イ) A児が興味や関心をもったことに共感し,試行錯誤を見
A児への
守りながら思いが実現するようにかかわる。
教師の援助
(ウ) 友達のよさに気付くことができるように言葉掛けをして,目
的に向かって一緒に取り組む楽しさが味わえるようにする。
(エ) 言葉で表現しようとする姿を認め,自分の思いを友達に
表3 活動内容と主な教師の援助
伝える心地よさが味わえるようにする。
期日
活動内容
探究心の深まり
学級全体への援助
A児の目指す姿(○)と援助(・)
10/5 「 み ん な で 遊 ぼ 1 心が動く
・「みんなで遊ぼう」の活動を学級全員で取り組むことを ○関心をもって話を聞き,やってみたい気持ちをもつ。
(水)
う」の話を聞く。
知らせ,新しい活動への期待感がもてるようにする。
・経験のないことへの不安な気持ちを言葉などで表すときに
は,その思いを受け止めていく。
援助(ア)
10/7 遊びについて話 2 やってみたい
・これまで経験している遊びに加え新しい遊びを提示し ○自分なりにやりたい遊びを選んで,グループに入る。
(金)
し合い,グルー
て,興味や関心がもてるようにする。
・自分なりの考えで遊びを決めることができたときには,しっ
プつくりをする。
・友達に左右されることなく,自分なりにやりたい遊びを かり認めていく。
援助(イ)
決めるように話し合いを進めていく。
10/12 グループ毎にゲ 2 やってみたい
・教師もグループに入り,話し合いの様子を見守ったり ○自分の思いを十分に言葉で表現できないところはあるも
のの,関心をもって話し合いに参加する。
(水) ームについて話
必要に応じてアイディアを出したりする。
・製作に必要な材料や用具について話し合い,材料集 ・活動に対して不安な気持ちを表す言葉を受け止め,何に
し合い設計図を
不安を感じているかを探る。
援助(ア)
めに意欲がもてるようにする。
作る。
10/13 グループに分か 3 やってみる
・やりたい気持ちを大切にし,興味や関心をもったことに ○自分なりに考えたり友達に教えてもらったりして作る。
・いろいろな素材や用具に触れたり,自分なりに試したりする
(木)
れてゲームを作
かかわっていけるようにやり方を知らせる。
4 なるほどと思う
援助(イ)
る。
・いろいろな材料に親しんだり試したりできるように,材料 姿を認めていく。
・活動が停滞しているときには,関心が向いているところを探
や用具を整えておく。
り,参加するきっかけ作りをしていく。
援助(イ)
10/14 グループの友達 3 やってみる
・何度も試したり工夫したりする中での発見や驚きに共 ○興味や関心をもったことに,繰り返し取り組む。
・興味をもったことに対して,何度も試したり考えてかかわっ
(金)
とゲームを仕上
感し,気付いたことへの喜びが味わえるようにする。
4 なるほど思う
援助(イ)
げる。
・幼児なりの考えが実現していくように,教師もアイディア たりする姿を認める。
を出したり手伝ったりしていく。
・ゲームができた喜びをグループの友達と共有できるように
5 繰り返す
声を掛ける。
援助(ウ)
10/17 学級の友達とゲ 5 繰り返す
・遊び方やこつをやさしく教え合う姿を認めて,友達に遊 ○他のグループへ遊びに行ったり,自分のグループに友達
(月)
ームで遊ぶ。
んでもらう楽しさが味わえるようにする。
を誘ったりして遊ぶ。
6 やっぱりと納得する
・遊びに必要なものへの気付きを認め,実現できるように ・友達に遊びを知らせる姿を認め,グループの一員として友
材料等を準備する。
達と力を合わせる楽しさが味わえるようにする。
援助(ウ)
10/19 5 歳 児 C 組 を 招 6 やっぱりと納得する
・C組の幼児にやさしく教える姿を認めるとともに,自分 ○自分のグループの遊びに友達を誘ったり,遊び方やルー
いて遊ぶ。
(水)
たちで考えた遊びを楽しんでもらっている充実感が味わ ルを知らせたりする。
7 次の生活に生かしていく
・自分のグループの遊びに友達を誘ったり,張り切って遊び
えるように声を掛ける。
方やルールを知らせたりする姿を認めていく。
援助(エ)
10/20 4歳児D組,B幼 7 次の生活に生かしていく ・言葉のやり取りやかかわりを楽しめるように,教師も遊 ○大勢の友達に遊び方やルールを知らせて遊ぶ。
(木)
稚園児と一緒に
びに入り呼び込みをしたり遊び方を知らせたりしていく。 ・たくさんの友達に遊び方やルールを知らせようとする姿を
ゲームで遊ぶ。
・自分たちが作ったゲームをたくさんの友達に楽しんで 認めて自信がもてるようにする。
援助(エ)
もらえた喜びや満足感に共感する。
3
保育実践の結果の分析・考察
について分析・考察する。
(1) 保育実践の分析の方法
(2) 保育実践の結果の分析・考察
保育実践をビデオカメラで撮影するとともに,I
ア
Cレコーダーで音声を記録し,表1をもとにA児の
探究心の深まりを見取り,教師の援助(ア)から(エ)
表4 <事例1>10 月 12 日
A児への教師の援助についての事例
次の事例1から事例3(表4,表5,表6)は,A
児への教師の援助を分析・考察したものである。
ゲームについての話し合いと設計図作り※2−行は 2 やってみたいの段階の行動
5日は,T1がB組全体で新しい活動をすることを話し,コリントゲームや割り箸鉄砲,手裏剣などの実物を見せて,遊びに期待がもてるようにした。A児も遊びのイメージが
膨らんで興味をもち,手裏剣で的当てをしたりコリントゲームを試したりして遊んでいた。7日は,T1がトングを使った遊びとパチンコを新たに紹介した後,やりたい遊びを選
んでグループに分かれた。A児は,トングのグループに一旦入ったが,他の幼児が遊びを替える姿を見て,割り箸鉄砲のグループに替わっていた。A児のやってみたい気
持ちを大切にするため,グループ決めを次回にもち越した。
そして12日,T1がグループ決めの話し合いを進めたところ,A児は,手裏剣のグループに入ったが,また,友達の動きに影響を受けて,選んだ遊びを替えてコリントゲー
ムと割り箸鉄砲のグループになった。話し合いに疲れたためか,グループに分かれると床に寝転がってしまった。昨年度のD組がつくったコリントゲームで実際に遊んだこと
により気持ちを立て直したが,遊びについての話し合いでは,A児は他の幼児が理解できるように自分の考えを伝えることができなかったり,友達の考えを受け入れようとし
なかったりして,次第に遊びへの期待感が薄れてきていた。
A児・周りの幼児の言動
教師の援助
分 析
・T2は,A児が話し合いに疲れてきていると判断し
B:他のグループを見て,「看板,作ってる。」と言う。
T2:「設計図を作ってるんじゃない。」と他のグル て,B児が設計図作りに気付いたタイミングをとらえ設
ープが,設計図作りに取り掛かっていることを知 計図作りを提案した。A児は,他の幼児が素早く行動
して設計図を作ろうとする姿を見たり,これまで経験し
らせる。
たことがない設計図作りが始まったりすることにより強
C:すぐに隣のグループの様子を見に行く。
T2:「『紙ください。』と言って,紙をもらって来よ い不安感をもち,①のように自分の気持ちをアピール
したのではないかと思われる。設計図作りに取り掛か
う。」と設計図作りを始めることを提案する。
B,C,D,E:画用紙や鉛筆の準備を始める。
る前に見本を準備して見せたり,設計図とはゲームを
作っていくために,皆で考えたことを絵に表したもの
A:周りの様子を眺め座り込んだままでいる。
- 51 -
D:大きな声で「紙ください。」と言い,T1から画用紙を受け取って
来る。
T2:設計図がかけるように,「あっちの広いとこ
ろに行って,鉛筆か何か持って来よう。」と声を
A:座ったまま口を尖らせ大きな声で,①「字,かけないもーん。」 掛け,場所を確保する。
と言う。
であることや,一人でかくのではなくて皆で協力して
かくことを知らせたりする援助が必要であったと思わ
れる。
・A児は,すぐに気持ちを立て直すことができないとこ
ろがあり,C児が鉛筆を渡すことがなければ,活動に
参加できなかったことが予想される。B児の②やT2の
B:②「字じゃなくていいんよ。」と言う。
T2:③「字じゃなくって,絵をかくんよ。」と声を掛 ③の言葉掛けよりも,C児が鉛筆を持って来てくれた
ことが大きく作用してA児が 2 やってみたい気持ちに
C:持っていた鉛筆をA児に 1 本渡す。
け,不安な気持ちを取り除くようにする。
[援助(ア)]
なったと思われる。教師の援助以上に,幼児同士の
A:こわばった表情がゆるみ,鉛筆を持って笑顔で設計図作りに
かかわりにおいて,気持ちを高めていけることが分か
加わる。
2−行
った。
設計図をかくために画用紙を引っ張り合ったり,かき損じて画用紙を裏返したりといろいろな問題が起きながらも,頭をつき合わせて設計図をかこうとしていた。A児も画用
紙の側に座り,設計図を作りに参加していた。昨年度作ったコリントゲームを見ながら同じようにかこうしているので,自分たちがやってみたいゲームを作ることを知らせた。
T2:「B組のゲームを作ろうね。」と声を掛ける。
・自分たちの考えでゲーム作りをすることを知らせるた
D:「あっ,そうだ。④コースを作ればいいんじゃない。」と提案す
めに,D児の④の提案をすぐにT2が取り上げたこと
T2:「コースをどうする?こういうふうにするか, は,新しい自分たちのゲームを作ろうとする気持ちに
る。
斜めにするか。」と声を掛ける。
結びつき,いろいろな考えを生むきっかけになったと
D:「途中で,他の道に行って・・・。」と考えの続きを話す。
思われる。教師が幼児のどの言葉を取り上げていくか
T2:「例えば,こういうふうに落ちてくるようにする によって,その後の展開が大きく変わると思われる。
には,どうしたらいい?」と設計図の上に,指で
ジグザクを示したりまっすぐ転がることを示したり ・T2が,どんぐりの転がる道を設計図の上に具体的に
する。
[援助(イ)]
D:⑤「あっ,そうか。」と言う。
指で示したことにより,D児はイメージを膨らませて⑤
と言っていると思われる。また,⑥よりC児は「迷路」を
C:⑥「迷路みたいにすればいいじゃん。」と考えを言う。
イメージしたと思われる。さらに,T2が⑦で「迷路」の
T2:⑦「迷路みたいにしたらおもしろいかもね。」 考えを認めたことは,A児が⑧を言うきっかけになった
D:「いいよ,いいよ,それがいいかもよ。」「いいよ,いいよ,そうせ と言う。
[援助(イ)]
と思われ,「迷路」のように幼児がよく知っている言葉
ん?Eちゃん。」と隣に座っているE児に同意を求める。
や親しんでいる言葉を教師が使うことにより,どの幼児
にもイメージが広がりやすいことが分かった。
A:⑧「迷路ってさあ,ここから入って,ここからもう 1 回入るのがい
い。」と,鉛筆で設計図の上を示しながら考えを言う。
2−つ
・それまで友達やT2の話を黙って聞いていたA児
が,C児の「迷路」の言葉を聞いて⑧のように自分の
C:設計図の上を指でたどりながら,「あのね,ここからこう行って,
考えをはっきり言ったが,すぐに少し困った表情にな
ここになるのは?」と言う。
りT2に小声で⑨を言っている。このことから,A児がい
つも心のどこかに不安な気持ちをもち,A児の行動に
A:⑨「T2 先生,どんぐりが入るとき,ちびい,ちびいけん,ぎりぎ
ブレーキをかけていると思われる。
り曲がらんじゃん。」と言う。
T2:「ぎりぎり曲がらすためには,⑩どうしたらい
いかを考えてみたら?」と声を掛ける。
・T2は,A児の⑨を受けてすぐに⑩を返したが,不安
D:「ここにあったとして,これがこう来て,ころっと落ちて行って,途
[援助(イ)]
を受け止める言葉になっておらず,「迷路」のイメージ
中こんな感じで・・・。」と言いながら鉛筆で設計図にジグザグやル
で話を進めようとしていた。T2が話し合いの先を急が
ープをかき,さらに回転することも考えてかき込んでいる。
T2:「わあー。」と大きな声で驚き,「そんなにぐ ず,A児の思いを受け止め具体的に尋ねて何を考え
るりっと回るかなあ。すごい,見て,これ,すごい ているかを理解しようとする丁寧なかかわりをしていれ
ことになっているよ。」と言う。
ば,A児の不安が明らかになり,その不安を取り除くこ
A:D児がかく様子を,見ている。
とができたと思われる。
T2:A児の方を向いて「うまくいくかねえ,ちょっ
とやってみようやぁ。」と声を掛ける。
・A児は,D児の⑪からイメージを膨らませて,⑫のよう
D:「あっ,そうだ,⑪わな作らん?」と新たな考えを言う。
に自分なりの考えを伝えることができた。それが,D児
T2:「わな?どうやってわな作るん?」と尋ねる。 の⑭で受け入れられて,A児は⑮のように笑顔でうな
A:⑫「あっ,そうだ,これたぶん,D君がかいたこれねえ,山にし
ずいている。このことから,これまで話し合いの中で自
ようや。ダンボールの山。」 と言う。
2−つ
分の意見を受け入れてもらえなかったA児にとって,
T2:⑬「山にする?」と尋ねる。
D児に思いを受け入れてもらえたことは,大きな喜び
D:手でどんぐりの動きを示しながら「あっ,そうだ。⑭山を作って
だったと思われる。
ごろごろごろごろ,そうだよ。」と言う。
・A児は,自分の思いを友達に分かるように伝えること
A: 笑顔で⑮「うん。」とD児に向かってうなずく。
がなかなかできないが,T2が⑫の言葉を受け止めて
T2:「なるほど,いろいろ考えるなあ。」といろい ⑬のように繰り返していくことにより,思いを出しやすく
ろな考えがたくさん出てきたことを認める。
なったり,相手の考えを理解することにつながったりし
たと思われる。
<考察>
[援助(ア)] T2は,活動の中でA児が何につまずきを感じているかを゙探ることを考えていたが,事前に具体的な手だてを考えておくことができていなかった。事前につまずき
を予想して,それに対しての具体的な手だてを十分考えておくことの大切さが分かった。
[援助(イ)] T2は,幼児の思いが実現するように願い話し合いを進めたが,幼児のイメージがわく「迷路」の言葉が出たことにより,「迷路」に関することで話を進めようと焦り,
A児の不安な気持ちを十分に受け止めることができなかった。他の幼児のやってみたい気持ちの高まりを認めながらも,そこですぐに同じやってみたいの気持ち
になれないA児への配慮が必要であることが分かった。
表5 <事例2>10 月 14 日
ゲームの仕上げに向けて
13日,A児のグループは,まずダンボール箱を切り開き,土台作りから始めた。どんぐりが転がって散らばらないように牛乳パックを切って柵作りをすることを考えて,全
員で取り掛かった。A児は,ガムテープをちぎることができなかったり,牛乳パックを底まで切ることができなかったりしたが,B児やT2に手伝ってもらいながら取り組んだ。C
児とD児は,スタートを何度も工夫して作っていた。A児は,ペットボトルのふたを使ってもらおうとしたり,卵パックを見つけてどんぐり入れにして,皆に使ってもらおうとしたり
していた。
そして14日は,グループ毎にゲーム作りの続きに取り組んだ。昨日A児は,ゲーム作りのための材料を持って来ることを忘れて気にしていたが,今日は袋いっぱいに材
料を持って来て張り切っていた。持って来たラップの箱を友達に見せ,どこかに使おうとしていたので,その箱をゲームに使えるように援助を心掛けた。D児に教えてもらっ
て箱のふたを切りどこに使うか考え,ラップ芯の続きに置いてどんぐりの転がる道を作ろうとしていた。どんぐりを転がすことをためらっているので,T2が試すことを促した。
A児・周りの幼児の言動
教師の援助
分 析
T2:「はいどうぞ,こちらへどうぞ。」と声を掛け ・①の言葉でA児が試してみようとする気持ちをもった
ことがわかり,T2がすぐにどんぐりを一個渡したが,E
A:「入るかなあ。」と言う。
2−つ る。
児が②と言いA児の頼みに答えようとしたので,あわ
T2:「やってごらん,どんぐりでやってごらん。」と てて③と言った。T2がもう少し幼児同士のかかわりを
A:柵作りをしていた友達に①「どんぐり貸してくれない。」と言う。 声を掛けて,試してみることを促す。 [援助(イ)] 待つことにより,E児とのかかわりができ,E児と一緒
にA児の思いを実現することになったかもしれないと
2−つ
T2:「先生が,こっちを持っておくからやってみ 思われる。
・A児が転がしたどんぐりが箱から出てこなかったこと
よう。」と声を掛けて,どんぐりを 1 個渡す。
- 52 -
E:②「どんぐり?」と言う。
E:A児にどんぐりを渡そうとする。
[援助(イ)]
T2:③「Eちゃんも,どんぐりを渡してあげて。」と
柵作りをしていたE児にも声を掛ける。
[援助(イ)]
A:「もういい,もういい。」と言い,E児が渡そうとしたどんぐりを受
け取らない。
A:どんぐりをスタートの芯に 1 個転がし,下に出て来ないのを見
て,「やっぱりできん。」と言う。
3−行
A:斜面の下から箱の中をのぞき込み⑥「もうちょっとじゃあ。」と
言う。
4−つ
T2:「だってA君,④こっちからどんぐり見えるも
ん。」と言い,どんぐりが箱に引っかかっている
ことを知らせ,⑤「ここ見て,どう?」と声を掛け
る。
[援助(イ)]
E:箱の中をのぞき込み,「もうちょっと(穴が)大きい方がいいんじ
T2:⑦「どんなにしようか?」と声を掛ける。
ゃない。」と言い,柵作りに戻る。
A:「こうやったら,入るんじゃけど。」と言い,箱の側面の穴に直接
どんぐりを突っ込む。
3−行 T2:⑧「残念,入らないなあ。どうしますか,じゃ
あ。」と次の考えを引き出すように声を掛ける。
[援助(イ)]
A:箱と切り取ったふたをつなげて斜面に並べている。
T2:A児の近くに来たD児に,⑨「これは,入ら
んかったんだって,どんぐり。」と声を掛ける。
[援助(ウ)]
D:ラップの箱を持ち,「ここを切ったらいいよ。」「ここを切るんよ。」
とA児に切るところを教える。
A:D児に教えてもらったとおりに箱を切りながら,⑩「できたよ,D
君。」と言い,箱を斜面に置く。
3−つ T2:D児がA児の言葉に反応しなかったので,
「(D君に)聞いてごらん。D君,呼んどってよ。」
D:A児が斜面に置いた箱を持ち,どんなに切ったかを確認して, と声を掛け,A児の思いが伝わるようにする。
[援助(ウ)]
「こう切って。」とA児に切るところを教える。
A:D児に教えてもらい,「どこ,どこ?よし。」と言う。はさみを左手
に持ったり,右手に持ち替えたり,両手で持ったりして箱を切り,
⑪「D君,これでいい?」と尋ねる。
4−つ
D:C児と一緒にガムテープを貼りながら,「こっち持って来て。」と
言う。
A:「待って今・・・。」とはさみを両手に持って硬い部分を切りなが
ら言う。切り終えた箱を見せ⑫「D君,これぐらいになったよ。」「こ
っちも?」と箱の反対側を切ることを尋ねる。
4−つ
D:A児のところに行き,「あと,ここを切って。」と十分切れていな
いところを切るように教える。
A:また箱を切り始めて,⑬「かたーい。」と大きな声で言う。
T2:A児が,困っているので⑭「どこが?」と尋
A:⑮「かたいけぇ,やってよ。」と切りにくいことを言い,「かたい, ね,どこにつまずいているかを確認する。
[援助(ア)]
かたい。」と何度も言う。
T2:「ここが難しかった?ここは,切れるかもよ。」
A:⑯「かたい,かたいんよ,ここが。」と,箱の底近くを切ることが と思いを受け止めると共に励まして切り方を知ら
せる。
[援助(ア)]
できないことを言う。
T2:箱を広げて持ち,切りやすくして「ここをまず
A:はさみの持ち方を自分で確認して,正しく持ち,「ここを?」と 切って,ここで 1 回切る。」と声を掛ける。
[援助(ア)]
尋ねながら切ろうとする。
3−行
A:はさみに集中しないで,女の子の方を見ている。
T2:「見て,見て,切るところ見て,こう切って,
一番奥まではさみを入れて。」と声を掛けながら
一緒にはさみを持って切る。
[{援助(ア)]
T2:A児の手を放し自分で切ることができるよう
に,「まっすぐ,まっすぐ,はい,切れた。」と声を
掛ける。
を確認してT2は,箱を指差し④のように声を掛けた。
T2は,A児には転がらないことを予測できないのでは
ないかと思うとともに,どんぐりが転がらない原因を自
分の目で確かめさせることが,生活経験の少ないA児
にとって,必要な経験であると思った。うまくいかない
ことがあるとすぐにあきらめるところがあるA児が,⑥の
言葉を言ったことから,あと少し頑張ればできるかもし
れないという気持ちに変わったことがうかがえ,転がら
ない原因を自分で確認させたことは効果的であったと
思われる。
・T2は,A児からどんぐりが転がるにはどうしたらよい
か考えを引き出そうとして⑤,⑦,⑧と言葉を掛けた
が,A児は,箱とふたを斜面に並べているだけだっ
た。このとこから,A児は,なかなかいい考えが思い付
かず困っていたと思われる。箱の穴の位置が側面の
中央にあることに気付くよう示したり,箱の穴とどんぐり
の大きさを比べて見せたりするなどもっと具体的な援
助をすることによって,A児は,箱を切ることを思い付
いたのではないかと思われる。
・T2が,A児の考えが出なかったことに焦って答えを
出してしまうのでなく,A児の思いを⑨のようにD児に
伝えたのは,T2が,友達関係が広がりにくいA児に
友達とのかかかわりをもつことができるようにしたいと
いう願いをもっていたからである。A児は,これまでの
設計図作りにおいて,自分の考えが受け入れてもら
えず,表情が硬くなったり 2 やってみたい気持ちがし
ぼんでしまったりすることがあったが,D児とのかかわ
りが生まれたことにより⑩,⑪,⑫のように何度もD児
に切り方を教えてもらいながら 3 やってみるの気持ち
を 4 なるほどと思うの段階に高めていくことができたと
思われる。
・A児が何度もあきらめず箱を切ることができたのは,
D児とのかかわりに支えられていただけでなく,T2が
数日前にA児にはさみの個別指導をしたことも効果
的だったと思われる。それは,はさみを正しく持ち直し
て切ろうとしていることからうかがえ,はさみを使うこと
に自信がついてきていると思われる。このことより,は
さみで切る技能の向上が,4 なるほどと思うの段階に
気持ちを高めていく要因の一つであったと思われる。
・いつも教師に小声で自分の気持ちを伝えることが多
いA児が,大きな声で⑬のように自分ができないこと
を表した。失敗を見せたくないところがあるA児が自
分のありのままの姿を出せたことを認めるとともに,D
児とのかかわりの中で頑張っていたA児の集中できる
時間が限界に近付いたのではないかと思い,すぐに
⑭のように尋ねた。箱を投げ出すことはしていないこ
とから,できないことへの不安な気持ちはなく,何とか
自分で切ろうとする気持ちをもっていると思われた。A
児の切りたい気持ちと手伝って欲しい気持ちを受け
止め時間をかけてかかわることにより,あきらめずに頑
張ることができたと思われる。
・T2は,A児の甘えが出てきていることを感じる⑮,⑯
のような言葉を受け止めながらも,箱を広げて自分自
身の力で切ることができるようにしたり,一緒にはさみ
を持って具体的にやり方を知らせたりした。このことよ
り,A児は,頑張れば自分もできるという気持ちになり
あきらめないで箱を切ったと思われる。
・A児は,D児に切り方を教えてもらったり,T2に手伝
ってもらったりしながらではあるが,自分自身の力で
箱を切る達成感を味わい,すぐに反対側の穴にはさ
みを入れる行動に移っている。このことから,A児は,
4 なるほどと思うから 5 繰り返すの段階に気持ちが高
まっていると思われる。
A:片側を切り終えるとすぐに反対側の穴にはさみを入れようとす
T2:「D君,できたよ。」と知らせる。
る。
D:A児から箱を取り,斜面に置き,反対側が切れていないことに
T2:「じゃあこっち側も切ろう,頑張れA君。」と
気付いて「こっちも出ないと。」と言う。
励ます。
[援助(イ)]
A:また,箱を切り始める。
5−行
<考察>
[援助(ア)] A児がはさみの扱いに自信がないことを探り,機会をとらえて個別指導をしたり,具体的に繰り返し指導したりして,はさみの扱いに自信がもてるようになったこと
が,2 やってみようの段階から,3 やってみるの段階に気持ちを高めていくことにつながったと思われる。
[援助(イ)] A児が自分の持ってきた箱を使ってどんぐりが転がる道を作ろうとすることにT2が焦らず付き合い,試行錯誤する姿を見守りながら何とか思いを実現させようとし
たことにより,A児がやってみたいと思ったことをあきらめないで実現に向けて取り組むことができたと思われる。
[援助(ウ)] T2が,A児とD児のかかわりのきっかけを作って,友達と一緒に目的に向かって取り組む楽しさが味わえるようにしたことにより,A児は,D児に尋ねたり教えても
らったりして自分の存在感を感じながら遊びを進めることができたように思われる。
- 53 -
表6 <事例3>10 月 19 日
5歳児C組を招いて
17日は,グループ毎にゲームの名前を考えたりルールを確認したりして,学級の友達と一緒に作ったゲームで遊んだ。C児が他の幼児が考えたゲームの名前に賛成し
ないで思いを通そうとする姿を真似て,A児も話し合いで納得せず行き詰ってしまうことがあったが,何とか決まり,遊びが始まった。A児は,隣の「手裏剣忍者的当てゲー
ム」が気に入り,何度も遊びに行きゲームを楽しんでいた。B組は,降園時にC組へ行き,19日に自分たちが作ったゲームで一緒に遊ぼうと招待した。
そして19日,C組がB組の保育室に入室し,互いに挨拶を交わしてT1の話を聞いた。A児と同じグループのD児は,思わず「楽しくなってきたあ。」と言い,活動への期待
感を表していた。また,B児もT1の「友達とちょっとけんかもしたんだよ。」の言葉に反応して,声を抑えて笑い,A児,D児も一緒に笑っていた。
A児・周りの幼児の言動
教師の援助
分 析
T1:「では,①どこから説明しましょうか?すごく ・C組の幼児が入室してきたときに,A児が,E児と顔
を見合わせてにこにこしていることから,C組を招き遊
B,C,D,E:A児と同じグループの幼児を中心に7∼8人が「は 張り切っていますね。」と言う。
んでもらうことへの期待感で胸が膨らんでいると思わ
い。」と手を挙げる。
T1:A児のグループを指名し,「やる気満々。じ れる。また,T1の「けんかもした。」の言葉に,E児が
A:手を挙げていない。
ゃあ,そのゲームの名前を教えてください。」と言 笑い出し,続いてA児も笑い出したことより,グループ
の話し合いで考えを受け入れてもらえなかったこと
う。
や,字が書けないとすねたこと,遊びの名前がなかな
A,B,C,D,E:「どんぐりころころゲーム。」とゲームの名前を言う。
T 1 : ②「 最 初 に , 遊 び 方 を 教 え て も ら え ま す か決まらなかったことなどを思い出したと思われる。い
ろいろな困難をグループの友達と一緒に乗り越えてき
C,D:ゲームのところに行き,「どんぐりを,ここから入れて,ここか か?」と尋ねる。
たことが,グループの一員としての自覚を生み,さらに
ら転がって,ここから出る。」と小声で言う。
T1:「ちょっと1つ,試しに転がしてみて欲しいん 今日の活動へ期待感を膨らませていると思われる。
ですけど。」と言う。
・B組の話し合いでは進んで手を挙げていたA児が,
A:T1の方を振り返り,指で 3 を示している。
T1の①の問い掛けには手を挙げないで他の幼児の
様子を見ていたことから,C組の幼児が一緒にいるこ
A:③「3個しかできないよ。」と小声で言う。
6−つ
T2:「A君が,大事なことを覚えていましたよ。④ とで,前に出ることに少し恥ずかしさや自信のなさを
一人,・・・。」ともう一度言いやすいように声を掛 感じていると思われる。
A:はっきりとした大きな声で⑤「一人3個しかできないよ。」と言 ける。
[援助(エ)]
・A児は,T1の②の言葉を理解し覚えていて,指で3
う。
6−つ
T2:「いいこと覚えていたよ。A君,すてき。」と頑 を表したり小声で③と言ったりしている。ゲームのルー
ルを伝えたい気持ちをT2が察して④のように話すき
張って大きな声で言ったことを認める。
っかけを作ったことが,大きな声で⑤の言葉につなが
[援助(エ)]
ったと思われる。また,頑張って大きな声で言ったこと
を,T1,T2の二人から認められたことは,A児にとっ
T1:「大きな声で言えましたね。」と認める。
て自分の思いを言葉ではっきり伝える気持ちよさが味
[援助(エ)]
わえたのではないかと思われる。
それぞれのグループの遊びについての説明が終わり,遊びが始まった。A児は,嬉しさのためかぴょんぴょん飛び跳ねながらあちこちに移動していた。C組のF児を誘う
が,他のグループのゲームから行くことになり,他の幼児を誘い自分のグループのゲームに案内していた。
F:「どんぐり飛ばせゲーム」で遊んだ後,A児に声を掛けられた
・A児は,「手裏剣忍者的当てゲーム」から「どんぐり飛
ため,A児のグループのゲームに行き,どんぐりを持たないで列
ばせゲーム」に移動して遊ぼうとしているF児を見つ
に並ぶ。
け,すぐに声を掛けている。最初に誘って来てもらえ
なかったことを覚えており,どうしても自分のグループ
A:F児の腕を取り,どんぐりの入っている箱が置いてある机のと
に来て遊んでもらいたいという強い気持ちをもってい
ころに連れて行く。
6−行
ると思われる。
A:⑥「こっちに来て,ここで3個取るんよ。」とどんぐりの箱を示し
ながら言う。
6―つ
A:背後から肩に手を載せ,F児を列に並ばせる。
6―行
A:F児が並んだことを確認して,ぴょんぴょん飛び跳ねながら
「手裏剣忍者的当てゲーム」の方に行ってはまた戻って来る。
A:飛び跳ねながら⑧「惜しいー。」と言ったり,興奮して声を上
げながらどんぐりが転がる様子を見たりしている。
T2:A児に自分のグループに戻るように促し,
⑦「今日は,ここで一生懸命教えてあげて,頑
張れ。」と励ます。
[援助(ウ)]
T2:大きな声で,「惜しいー。」「残念。」と言
い,ゲームの楽しい雰囲気を盛り上げる。
T2:C組の幼児が転がしたどんぐりが箱に入
り,⑨「すごーい,100点です。おめでとう。」と
大きな声で言う。
A:どんぐりが箱に入ると,飛び跳ねながら拍手をする。
D:G児が転がしたどんぐりが引っかかったので「まだ行けるよ。」
と言い,A児と一緒に取って転がす。
A:G児にどんぐりを取りに行かせるため,後ろに並ばせようとす
る。
D:G児がまだどんぐりを持っていることに気付き,「3回できるん
よ。」と言う。
T2:A児に「『お次の方どうぞ』って言ってあげ
て。」と声を掛ける。
[援助(ウ)]
T2:すぐに他のグループに行こうとするA児を
ゲームのそばに立たせ,一緒にどんぐりが転
がる様子を見る。
[援助(ウ)]
T2:「まだ,3回していないんだって。」と言い,
A児に確認する。
A:「3回できるんよ。」とG児に言う。
A,D:また,どんぐりが枝に引っかかり,「まだ行ける。」と互いに
言い,どんぐりを転がす。
T1:「よく教えているねえ。」と認める。
[援助(エ)]
・A児は,F児がどんぐりを持たないで列に並んでいる
ことに気付いて箱が置いてある机に案内したり,⑥の
言葉を掛けたりと,遊びに来た幼児に遊び方を正しく
伝えることができていた。このことから,どんぐりを3個
取ることや,列に並ぶこと,どんぐりを転がして点数の
箱に入ったら賞品をもらえることなどのゲームの遊び
方を十分理解していると思われる。A児は,遊び方を
理解して友達に教える段階,6 やっぱりと納得するの
段階に気持ちを高めていると思われる。
・T2は,「手裏剣忍者的当てゲーム」の方へ何度も行
き落ち着かない姿を,A児が遊びに期待感をもち張り
切っている姿ととらえた。その気持ちの高まりを認める
とともに,グループの一員として最後まで活動すること
ができるように,T2が,⑦の言葉を掛け自分のグルー
プに戻るように何度も促した。T2と一緒に拍手をした
り⑧の言葉を発したりすることより,グループの一員と
して遊びに参加する楽しさを味わうことができたと思わ
れる。
・T2は,B組が自分たちで考えた遊びを友達に楽し
んでもらうという目的に向かって力を合わせた満足感
が味わえるように,大きな声で⑨と言い,楽しい雰囲
気作りに努めた。また,T2が,その場に合った言葉を
発して,A児が,どのように遊びにかかわったらよいか
を,モデルとなるように演じた。そのことを繰り返すこと
により,友達にかかわっていくことが苦手なA児から,
自然に⑧の言葉が出るようになった。教師自身が遊
びに必要な環境となることも大切であることが分かっ
た。
A:「惜しいー。」と言い,ゲームの周りを嬉しそうに回り,落ちて
いたどんぐりを見つけて箱に入れる。
20日のB幼稚園との交流会では,B組が作ったゲームを園庭に出し4歳児D組も一緒に遊んだ。A児はゲームの受付の役になり,やって来た幼児にどんぐりを3個ずつ
渡す,D児は転がったどんぐりを一生懸命に集めて箱に戻す,B児は賞品作りをするなど役割を果たしながら遊びを楽しんでいた。
<考察>
[援助(ウ)] A児は,C組の幼児に作ったゲームで遊んでもらうことをとても喜んでいたが,興奮して落ち着かないところがあった。そこで,T1が今日の目的をはっきり伝え,
T2も遊びに必要な言葉を使いながら一緒に遊んだことは,A児がグループの一員としての役割を果たすことにつながったと思われる。
[援助(エ)] 今日の活動に期待感をもったり,また,グループの一員としての存在感を感じたりすることにより,A児は自信をもち,はっきりと自分の思いを友達に伝えたり,遊
びを知らせたりすることにつながったと思われる。
- 54 -
イ
た。また,事例3より,友達と協力して作ったゲー
A児への教師の援助についての考察
三つの事例を通して,A児に対する(ア)から(エ)
ムを他のクラスの幼児に楽しんでもらうことを通し
の援助について,以下のように考察した。
て,進んでゲームに誘ったり,ルールを教えたりす
○ つまずきを乗り越えるための援助(ア)について
る姿が見られ,グループの一員として役割を果たす
事例1では,活動においてだけではなく日々の生
ことができ,6やっぱりと納得するの段階へと気持
活や遊びを通して,A児が何に不安を感じたりつま
ちを高めていくことができたと思われた。
ずきを感じたりしているかを十分に把握して,見通
○ 自分の思いを伝えるための援助(エ)について
しをもちながら具体的な手だてを考えておくことの
事例3より,活動を通して気持ちを高めて取り組
大切さが分かった。また,事例2より,A児のつま
んだり,グループの一員として存在感を感じたりす
ずきに対して個別指導をしたり,その都度繰り返し
ることによって,A児は自信をもち,みんなの前で
指導をしたりしていくことが自信につながり,2や
大きな声で発表したり,進んで友達にルールを教え
ってみたいを3やってみるの気持ちに高めていく
たりなど思いを伝えながら遊ぶ楽しさが味わえた。
ことができることが分かった。
2やってみたいという遊びへの気持ちの高まりが,
○ 思いを実現していくための援助(イ)について
幼児の自信につながり,また,幼児の言葉の獲得に
事例1より,幼児の思いを実現させようとして教
もつながることが分かった。
以上のことより,2やってみたいの段階から3や
師が焦ることは,グループの中で中心となる幼児の
考えを取り上げて話し合いを進めることにつながり,
ってみるの段階に課題をもつA児が,6やっぱりと
A児のような2やってみたいから3やってみるに
納得するの段階に気持ちを高めていく姿を通して,
課題をもつ幼児の思いを十分受け止めることができ
(ア)から(エ)の教師の援助について具体化すること
なくなることが分かった。このことより,2やって
ができた。
また,
5歳児における探究心の深まりは,
みたいから3やってみる段階に気持ちを高めてい
友達とのかかわりの中で充実していくことが明らか
くには,幼児の思いを受け止め,きめ細やかなかか
になってきた。
わりをしていくことが大切であることが分かった。
4
「探究心の深まりを見取る視点と教師の援助」
また,事例2より,A児が関心をもったことを受け
の表の再構成
止めて,思いが実現するように教師が焦らず試行錯
抽出児のつぶやきや表情,行動を表1と照らし合
誤を見守り付き合っていくことにより,3やってみ
わせて保育実践における事例1から事例3を分析・
るの段階からあきらめず何度も5繰り返すの段階
考察していくと,視線については,教師の主観が入
に気持ちを高めて取り組むことができることが分か
るため見取りが難しかったが,つぶやきや行動から
った。
幼児が探究心を深めていく様相を見取ることができ
○ 友達と目的に向かうための援助(ウ)について
た。また,探究心の深まりの段階に合わせて教師の
A児は,友達のマイナス面に目が向きがちなとこ
援助を分析していくと,幼児が興味や関心をもった
ろがあるため,友達のよさに気付けるような言葉掛
ことにかかわっていくための援助,興味をもったこ
けをするようにした。しかし,友達関係が広がりに
とに十分かかわり試行錯誤しながら思いを実現して
くいA児にとっては,同じ目的に向かって取り組ん
いくための援助,自分なりに関心をもったことを生
でいく中で,友達と一緒に考えたり,悩んだり,で
活に取り入れ友達と一緒に楽しみ充実感を味わうた
きた喜びを味わったりすることが大切なのではない
めの援助と,大きく三つの段階の援助があることを
かと考えた。事例2では,教師がD児とのかかわり
推察した。そこで,次の表7のように表1の再構成
のきっかけを作ったことにより,3やってみるの気
を行い,教師の援助に見通しをもつことが大切であ
持ちを高めながら教えてもらったり,認めてもらっ
ると考えた。
たりして一緒に取り組む楽しさを味わうことができ
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表7
7 次の生活に
生かしていく
<満足,充実>
探究心の深まりを見取る視点と教師の援助の再構成
探究心の深まりを見取る視点
[つぶやき]
[行動・表情]
「○○ちゃん,一緒にもっとこうしてみよう」
・友達の動きに気付く。
「○○ちゃん,次は∼してみよう」
・友達と一緒にすることを楽しむ。
・新たなことに気持ちが向き取り組
「○○ちゃん,教えてあげる」
「○○ちゃんは∼してくれる?△△は∼するか む。
ら」
・自分なりに考えて行動する。
「楽しかったね,明日も一緒に続きをしようね」 ・生活に取り入れて楽しむ。
「先生(○○ちゃん),家でもやってみたよ」
6 やっぱりと
納得する
<説明,納得>
「やっぱりそうだったんだ,∼だから∼なんだ」
「∼したら∼になるね」
「○○ちゃんと同じになった」
「∼は,∼ということなんだ」
・比較してみてわかる。
・大きくうなずく。
・分かったことを教えたり伝え合っ
たりする。
・やり方が分かり進んで取り組む。
5 繰り返す
<工夫,思考>
「もう一回,∼してみよう」
「また∼したい」
「また∼してもいい?」
「さっきは∼だったのにね」
「今度は,こうしてみよう」
「今度は,こっちでやってみよう」
・やり方を変えて試す。
・材料や用具を変えて試す。
・自分と周りを比較する。
・新たにアイディアを出す。
4 なるほどと
思う
<予想,予測>
「∼かもしれない」,「∼っておもしろいね」
「∼って,∼みたいだね」
「∼したらどうなるかなあ」
「∼じゃないかと思うんだ」
「∼したら∼かもね」,「へぇー,∼なんだ」
・何度もうなずく。
・分かったことを伝える。
・関連するものを持って来る。
・分からないことを調べる。
3 やってみる
<試行>
「こんなふうにしてみたよ」
「へえー,こんなになるんだ」
「これでいいのかな」
「こんなになったけど・・・」
・自分なりに試してみる。
・教えてもらいながらする。
・尋ねながらする。
2 やってみたい
<意識>
「∼したい」,「∼させて」
「∼やりたい」,「∼やってもいい?」
「∼って,どうするん?」
「先生(○○ちゃん),教えて」
・身をのり出して見る。
・関心をもったものを目で追う。
・関心をもった物事に接近する。
・必要なものを持って来ようとする。
1 心が動く
<気付き,発見,
疑問>
「先生(○○ちゃん),見せて」
「先生(○○ちゃん),見て,見て」
「すごいね」
「どうなってるのかなあ」
「あれ?へえー」,「これ,なあに?」
・首をかしげる。
・耳を傾ける。
・思わず歓声をあげる。
・身振りを交えて伝えようとする。
・じっと見つめる。
Ⅳ 成果と課題
教師の援助
(◎は,段階における主な援助)
【友達と一緒に充実感を味わうために】
◎幼児なりに考えた遊びを友達と一緒に楽しめるように,グループや学級などの中で場
を設定する。
◎友達と思いや考えを伝え合ったり教え合ったりする姿を認め,目的に向かって一緒に
取り組む満足感や充実感を味わえるようにする。
○最後まであきらめないで取り組むことができるように,励ましたり頑張りを認めたりす
る言葉掛けをする。
○新たな課題を見つけて取り組もうとする姿を認め,いろいろなことに進んで取り組む
充実感を味わえるようにする。
○友達のよさに気付いたり自分の存在感に気付いたりできるように,活動への取組の
様子を学級の中で紹介する。
【試行錯誤をしながら思いを実現していくために】
◎幼児が興味や関心をもったことを繰り返し取り組むことができるように,時間を保障す
るとともに試行錯誤を見守る。
◎幼児なりの思いや考えが実現していく楽しさが味わえるように,材料や用具を準備し
たりやり方を知らせたりする。
○幼児の考えた遊びがより楽しく,おもしろくなるように,一緒に遊びを楽しむ中でアイ
ディアを提供していく。
○友達の考えを聞いたり,自分の考えを言ったりして考えを伝え合う場面を作り,いろ
いろな考えがあることに気付けるようにする。
○材料の用い方や用具の扱い方などが分からないでいる幼児には,具体的なやり方を
知らせたり一緒にやってみたりする。
○友達のやっていることに関心をもってかかわろうとしているときには,幼児の気持ちを
大切にしながらきっかけを作り,一緒に取り組む楽しさが味わえるようにしていく。
○やってみたい気持ちをもちながら行動に移ることができないときには,その原因を探
り乗り越えていくことができるように具体的な援助をする。
【興味や関心をもったことにかかわっていくために】 ◎幼児の興味や関心の方向を探り,幼児がかかわりたくなるような環境の構成をする。
◎幼児のつぶやきや行動,表情より心の動きを見取り,思いに共感して寄り添う。
○小さな驚きや発見などの喜びを,教師や友達に伝えたい気持ちを受け止め,他の幼
児にも伝えていく。
○幼児がいろいろな素材や材料,用具等に親しんで遊ぶ楽しさが味わえるように見通
しをもって環境の工夫をする。
○幼児が,経験のないことへの不安や苦手なこと,自信がないことへの不安な気持ちを
示すときには受け止める。
○ 探究心が深まっていく過程においては,幼児の
興味の方向,関心の度合い等に違いがあり,課題
1 成果
の段階も違うため,一人一人に応じた指導が大切
○ 「探究心の深まりを見取る視点と教師の援助」の
であると思われた。また,保育の中では,幼児の
表を作成して保育実践を行う中で,抽出児が自分
つぶやきや行動等から瞬時に幼児の心の動きを
から物事に深くかかわろうとする気持ちを高め
見取ることが必要で,見取りの視点を具体化して
る姿を見取ることができ,探究心を深めるための
いくことの大切さを感じた。今回の研究では,幼
教師の援助を具体化することができた。
児の探究心に視点を当てて研究を進めたが,さら
○ 幼児が物事に深くかかわろうとする気持ちを高
に,幼児の心の動きを探る方法を考えていきたい。
めていくには,教師の援助の方向を深まりの段階
に応じて変えていく必要があることが分かり,
参考文献
「探究心の深まりを見取る視点と教師の援助」の
表の再構成をすることができた。
① 小田豊・神長美津子『新たな幼稚園教育の展開
○ 5歳児が探究心を深めていく過程においては,
−幼児教育の充実に向けて−』
東洋館出版社
2003
友達とのかかわりによって探究心の深まりがよ
り一層充実したものになることが確認でき,5歳
② 国立教育政策研究所教育課程研究センター『幼
児の遊びに協同的な活動を取り入れることが有
児期から児童期への教育』 ひかりのくに 2005
効であることが分かった。また,探究心を深める
③ 滋賀大学教育学部附属幼稚園 『遊びの中の「学
ことは,小学校での学びにつながる幼稚園教育の
びの過程」−発達特性と教育課程−』 明治図書
基本として大切なことの一つとして考えていく
2000
ことができた。
④ 文部省『幼稚園教育要領解説』 フレーベル館
1999
2 課題
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