脊柱管狭窄症により不全対麻痺となった 軟骨無形成症の1症例 医療法人渓仁会 札幌西円山病院リハビリテーション部 ○野村 美南1) 只石 朋仁1) 三谷 有司1) 伊藤 隆2) 横串 算敏3) 1)理学療法士 2)作業療法士 3)医師 はじめに 軟骨無形性症は 1) 四肢短縮型低身長を示し,身長は成人で120∼130cm程度 である. 2) 身体能力や知能は正常域のことが多く,脊柱管狭窄による 神経症状の発症がなければ,社会生活上の問題は少ない. 3) 脊柱管狭窄は成人期以降12∼43%で何らかの神経症状を きたすと報告されている. これらにより対麻痺を合併した症例報告は散見されるが, 理学療法に関する報告は少ない. 今回,広範囲脊柱管狭窄症により不全対麻痺となった 軟骨無形性症の患者を経験したので報告する. 症例:60歳代,男性 診断名: 軟骨無形成症,広範囲脊柱管狭窄症術後 障害名: 対麻痺(両下肢不全麻痺) 現病歴: 低身長,四肢短縮で出生.義務教育後は革製品製作で自営業 を営む.10年前から徐々に歩行困難. X/7; 両下肢脱力,排尿障害 /8; L2-5椎弓切除術,麻痺改善無し /10; 当院回復期リハ病棟入院 家族歴: 両親,兄弟に低身長なし Key person:なし 社会資源:介護保険 要介護2 身障1種1級 生活保護受給中 現症:対麻痺 四肢長(cm) 上肢長30/30 下肢長43/42.5 座高83.5(身長/体重:123㎝/49.5㎏) ROM(°) 膝伸展-5/-5 脊柱可動性低下:上部胸椎,腰椎 過剰:Th6∼8 筋力 MMT 握力:右19kg 左:23kg 上肢5,腹筋群3 股関節周囲1/1 膝関節以下0/0 感覚(表在・深部) 下肢ほぼ脱失 排尿/排便 膀胱直腸障害 ASIA機能障害尺度 障害程度C 運動52/100 痛覚84/112 触覚85/112 ADL評価【FIM】 運動49/91点 認知35点 計84/126点 (食事以外全て減点) 画像所見 脊髄造影 腰椎多椎間狭窄(術前) MRI 中位/下位胸椎狭窄(術前) 理学療法問題点とSTG 中/下位胸髄/腰髄/馬尾障害 短肢 体幹/下肢 痙性対麻痺 脊柱変形 基本動作の自立 1)長座位保持 2)プッシュアップ ベッド上移動/ADL 移乗自立 自己導尿姿勢保持 短肢(上肢支持困難、後方不安定) 体幹の可動性低下 体幹の協調性低下 背筋優位の動作パターン 長座位姿勢とバランス 胸椎後弯減少,腰椎前弯増強,骨盤前傾, 股関節内旋位 *筋緊張:胸椎下部∼腰背部筋亢進(右>左) ⇒腰椎前弯↓,骨盤後傾位,背筋高緊張↓ 【長座位バランス】 頸部・体幹立ち直り(+)後方不安定. 動的では腹部活動不十分で 頸部・体幹伸展し背筋優位. ⇒背筋優位,後方不安定軽減. いざリ上肢フリーで可能 移乗・プッシュアップ ○移乗 車椅子をベッドに直角に設置. プッシュアップ,いざりで車椅子に 殿部を向け近づき移乗. 〇プッシュアップ (20cmプッシュアップ台使用) 上肢に頼り背筋優位で5㎝程度殿部挙上 ⇒殿部を後方へ引き 20㎝台への昇降可能 アプローチ ①長座位での動的運動やプッシュアップ動作の中で,腹部と背部の協調した動きを, 繰り返し学習させる ②荷重感覚を入力,背筋リラクゼーションを行い背部の緊張を緩め,脊柱アライメントを 整える ③動作方法や代償手段の検討(プッシュアップ台等) ,日常での姿勢や自主トレの指導 背筋高緊張軽減 脊柱の生理的彎曲(+) 後方不安定軽減 長座位やプッシュアップでの 背筋優位の動作改善 徐々にTh7/8の脊柱管狭窄症状 (腹部の感覚障害や痙性増強等) が出現してきていた. ストレッチにて痙性緩和 負荷を下げた訓練の追加 リハ経過 評価項目(Rt/Lt) 初期(X年10月) 最終(X+1年1月) 四肢長(cm) 上肢長30/30 下肢長43/42.5 座高83.5 ROM(°) 膝伸展-5/-5 脊柱可動性 低下:上部胸椎,腰椎 過剰:Th6∼8 筋力 MMT 握力:右19kg 左:23kg 上肢5,腹筋群5 股関節周囲1/1 膝関節以下0/0 感覚(表在・深部) 下肢ほぼ脱失 下肢中等度∼重度鈍麻 表在覚:腹部軽度鈍麻 排尿/排便 膀胱直腸障害 膀胱直腸障害 障害程度C 運動52/100 痛覚84/112 触覚85/112 運動49/91点 認知35点 計84/126点 (食事以外全て減点) 運動57/100 痛覚78/112 触覚78/112 運動60/91点 認知35点 計102/126点 (移乗自立,自己導尿自立) ASIA機能障害尺度 ADL評価【FIM】 腰椎改善傾向 股関節周囲2-/2膝関節伸展1/1 足関節底屈2/1・背屈2-/1 長座位バランス向上に伴うADLの変化 上肢フリーにていざり動作可能,プッシュアップの殿部挙上が 改善し移乗自立 上肢の自由度向上に伴い自己導尿や排便処理自立. 車椅子ADLほぼ自立に至った.(FIM運動49→60/91点) 車椅子作成の工夫 入院後病棟の車椅子 自宅退院前作成車椅子 考察 長座位バランスに必要な要素 対麻痺による要因 ・上部体幹の安定性 ・骨盤・体幹の分離運動 ・脊柱の柔軟性 ・感覚 ・姿勢反射反応 ・感覚 下肢脱失 ・体幹協調性低下 ・下肢運動麻痺 軟骨無形性症による要因 ①短肢 ②脊柱変形 ⇒支持基底面が狭い 後方不安定(下肢の重みが少ない) 上肢での支持困難 体幹の可動性・柔軟性低下 ●背部筋高緊張 ●可動可能なTh6∼8に負担↑ アプローチにより ・脊柱管狭窄の増悪予防 ・自由度の高い長座位バランスや効率的な プッシュアップ獲得によりADL(移乗やいざり, 排泄)に繋がった 姿勢・動作パターンの修正 長座位バランスやプッシュアップの再学習 結 語 今回,脊柱管狭窄症により不全対麻痺となった軟骨無形性症 患者の理学療法を経験した. この疾患の特性から短肢や脊柱の変形により長座位バランス 不安定で背筋優位の姿勢・動作を行っており,ADLに介助を 要していた。 理学療法実施にあたっては,体幹の協調した動きの再学習や 代償手段の活用から,動作の修正や上肢の自由度が高まり ADL向上し,独居にて自宅復帰に繋がったと考えられる.
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