国 語

国語研究委員会「研究のまとめ」
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研究のエッセンス
(1) 研究テーマ
「言語活動を効果的に取り入れた国語学習のありかた~基礎基本の定着をめざして~」
(2) 研究テーマ設定の理由
学習指導要領の改訂に伴い、全教科にわたって「言語活動の充実」が重要になっている。特に、
言語活動の基礎基本を担う国語科には、どのような言語活動が学習に効果的であるのか追究して
いく使命がある。国語学習において言語活動が充実し、なおかつ効果的でなければ、他教科の求
める言語活動に資することができないであろう。そのためには、国語科においての3領域「話す
こと・聞くこと」
「書くこと」「読むこと」のどの領域においても、基礎的・基本的な力を確実に
身につけ、
自ら課題を解決していく学習によって、言語活動の充実が図られることが大切である。
(3) 研究仮説
①話し合い活動を、課題解決のための手段として取り入れることで、児童生徒一人一人が主体的
に課題を追究していく学習につながる。
②意見交換の活動を行う際に、タブレット端末等 ICT 機器を効果的に用いることで、生徒の意欲
を喚起し、主体的な取り組みにつながる。
③単元を貫く言語活動を設定し、実態に即した学習を積み重ねていくことで、目的意識や必要感
が明確になり、児童生徒自身が明確な課題をもった追究を行うことができる。
④自分の意識に潜在している感情や感覚、思いを言語として顕在化することにより、時間経過に
伴う自己評価の比較、客観的な他者評価を行うことができ、自己充実感、自己肯定感の高まり
を自覚することができる。
(4) 研究の成果
いくつかの授業実践から、言語活動を学習に効果的に取り入れるためには、以下のことが必要
であることが示唆された。
①目的意識、必要感の明確化
その話し合いや意見交換がどのような目的でなされるのか、学習者に話し合いや意見交換を行
う必要感はあるのかを見極めることが必要である。つまりは、目的意識や必要感が生じる学習
場面や課題設定を行うことが求められる。
②単元を貫く活動の設定
「話すこと・聞くこと」
「書くこと」「読むこと」のどの領域においても、学習問題を設定して
いくが、その問題を解決するために、毎時間が連続していつも目的意識を持って取り組めるよ
うに、単元を貫く課題を設定する。
③評価として表現した言語の客観視
自己評価をカード等に書き出したり、他者に発信したりして学習を終了させるのではなく、自
己評価の変化を自身で比較することにより、自己の高まりを自覚することができる。
(5) 残された問題と今後の方向
今年度は、各領域や各教材で個々の事例を分析、考察していくことで成果をまとめることはで
きた。来年度は、どのような領域や教材にも共通して汎用できる言語活動の研究、言語活動の仕
組み方や設定の仕方などを追究できれば、本研究委員会の目的に資すると思われる。
また、各活動においてつける力を観点として、学習者の変容や学習効果を明確にしていく記録
のあり方や授業分析、考察の仕方を追究していくことで、研究がより深まることが期待される。
以上を、本委員会の今後の課題、方向にしていきたい。
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実践のエッセンス
(1) 事例1 A 中学校1年
キーワード<読解力の高まりを自己評価する>
①教材名・領域 「大人になれなかった弟たちに……」
・読むこと
②実践の概要と考察
ⅰ) 授業展開の概要
作品を読んでの初感と学習後の感想を比較して、自分で高まったと思うことを評価し、
『読
む視点』を確かにする。
ⅱ) 授業の分析と考察
<A生の初感と学習を振り返っての感想、及びその比較>(生徒の感想より)
初感:やっぱり、戦争は、とてもこわいものなんだと思いました。食べる物も尐なくて、ほんと
に大変なんだぁと思いました。
学習後:このお話は、戦争があった時のお話です。ぼくは、戦争がきらいです。このお話では、ひ
もじかったり、弟の死があったりして、悲しいことばかりおこっていました。この話のよ
うに、戦争は、悲しいことばかりおきて、とてもつらいんだと思いました。この話では、
母は、子ども達のために頑張ってて、最後には、子供たちを守りきれず、とても悔しかっ
たと思います。
「僕」は、いけないと分かっていたのに「ヒロユキ」の大事な大事な食べ物
のミルクを飲んでしまって、すごい後悔が残ってしまっていると思いました。
比較:初感では、戦争のことだけを書いていたけど、今は「母」や「僕」
「ヒロユキ」の気持ちを
しっかり分かって書いているなぁと思いました。
「母」が子どものために頑張っていること
や、
「僕」は盗み飲みをしてしまって、すごく後悔しているなど、このお話の中にまで、し
っかり入って、気持ちを書けるようになったと思いました。
<B生の初感と学習を振り返っての感想、及びその比較>(生徒の感想より)
初感:戦争中は、食べ物があまりなく、その貴重な食べ物を母は食べずに子どもにあげるのは、
とても優しいと思った。
「ヒロユキ君」が死んでしまったのは、ものすごくつらいことだと
思う。ぼくにも小さい妹がいるので、その気持ちはよくわかる。こんなつらくて、悲しい
ことはもう二度と起こってはいけないと思った。
学習後:戦争中は食べ物があまりないのに、自分の分まで、子どもにあげたお母さんはすごいと思
う。最後は、栄養失調で死んでしまった「ヒロユキ」はとてもひどいことだと思うし、死
んでしまったヒロユキに対する悲しみはとても大きいと思う。ミルクを盗みのみしてしま
った僕の気持ちやヒロユキを亡くした母の気持ちを考えてみると、戦争のひどさが分かる
ような気がした。この話は、戦争で死んでしまったたくさんの方について書いているとい
うことが分かった。
比較:母や僕の戦争中の気持ちが分かった。→とてもつらかったと思う。この話の題名の「弟た
ちに……」の「たち」にはとても深い意味があるとは、最初考えてもいなかったけど、よ
く考えるとその深い意味が分かった。ヒロユキは、戦争で死んでしまった人の代表だし、
ヒロシマやナガサキも同じように代表だと分かった。
A生は、初感で書けなかった登場人物の心情にも言及する感想をまとめとして書いている。特に、
「話の中まで、しっかり入って、気持ちを書けるようになった」と自分の読みの深まった視点につ
いてあげている。これは、この教材の特徴である表現の工夫から登場人物の心情を深く読み取る学
習を通して、心情を観点とした感想が書けるようになったことを自覚できた姿である。また、B生
は題名の「たちに」に着目した感想を終末に書いていることから、新たな視点から作品をとらえる
ことができたことを自覚した姿と考える。
以上のことから、初感と終末の感想を比較したことは、自己の学習の高まりや読みの深まりを評
価し、自分の「読みの視点」を確かにしたり、広げたりすることに有効であることが示唆された。
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(2)事例2 B 小学校3年
キーワード<単元を貫く課題を設定>
①教材名・領域「きつつきの商売」
・読むこと
②実践の概要と考察
ⅰ)授業展開の概要
単元名「きつつきとお客さんの会話を楽しみ、音読劇にしよう」
○「音読劇」という単元を貫く言語活動を通して、「場面の様子について、登場人物の
行動や会話を中心に想像を広げながら読む力」が育っていくと考え、本単元を設定
した。
ⅱ)授業の分析と考察
<变述をもとに場面の様子を考えながら読んだ A 児>
きつつきの「コーン」という音の読み方について、複数の变述と関
連づけたり、友達と聞き合ったりして考える。
○A 児は、きつつきの「コーン」という音をどう読むかの場面で
「大きなぶなの木」
「てっぺん近くのみき」「くちばしで力いっ
ぱいたたきました」
「こだましました」「うっとり」
「うんと長い
時間」などの言葉を手掛かりにしてぶなの音を想像し、声の大
小や間に気をつけて音読していた。
○グループでは、読んだ感じを友だちと聞き合いながら、何人かでこだまのように「コーン」と
いう響きをこだまのように繰り返したり、音の響きを簡単な体の動きを入れたりしながら、
読み方の工夫を考えた。
つける力
《考察》
○本単元のお話は、会話文が多いのが特色である。「会話文を読ん
場面の様子を登場人物の会話文
を中心に想像して読む。
でいくうちに自然に読み手が登場人物になりきってしまう」よう
な、楽しくユーモアにあふれたあたたかい会話文によって構成さ
場面
行動
会話
れ、会話文によってお話が進んでいく。
音読劇という言語活動を取り入れることにより、
登場人物
の気持ち
・物語を2つの場面でとらえる
(複数の变述からより豊かに読み取ることができる)
背景
動作化
セリフ
・関係する变述を挙げて、読み方を工夫する。
・会話文を場面の様子が表れるように読み、声や簡単な体の動
きで表す
など、児童自ら「場面の様子について、登場人物の会話を中心に」
言語活動
会話の根拠と読み方の違いを比
べ、音読劇で演じる。
して、関係する变述に自然に着目して、繰り返し読む学習を位置
づけることが可能になる。
○会話文が多いという特色を生かし、
「登場人物の気持ちの変化・情景などについて、变述をもと
にグループで話し合いながら、想像して読むこと」も本単元では取り入れた。児童は「音読劇
のために読む」わけであるが、グループの中で、根拠となる变述を元に、読み方を工夫し、違い
を比べ合いながら、聞き手により豊かにわかりやすく伝わるよう、繰り返し読みを練習するこ
とは、本単元でつける力に向かっていく活動となることが示唆された。
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(3)事例3 C 中学校1年
キーワード<タブレット端末,交流,詩の創作,写真>
①教材名・領域 「はじめての詩」「詩四編」・書くこと
②実践の概要と考察
i ) 授業展開の概要
「私のお気に入りの場所」というテーマで創作した自分の詩(写真つき)をグループ内で
鑑賞し合い、友達のアドバイスを参考に推敲し、作品を完成させる。
ii) 授業の分析と考察
<国語科としての視点から>
【成果】 普段は表現することが苦手な生徒たちも、意欲的に学習を進め、個性的で生き生きとし
た表現の作品を創ることができた。このことは、タブレット端末等の ICT機器の活用により
意欲が喚起されたこととともに、詩作における音数制限(五七調・七五調)により、語句の選
択が容易になったことが要因であると考えられる。
【課題】
・写真と創作詩との融合表現という学習活動が、生徒にとって詩作そのものに向かう意識(作品を
推敲する、詩句の表現を練る等)よりも、写真と詩のレイアウトをどのようにするのか、といっ
た意識に向かっていた。より「表現のよさ」に課題が据わる授業展開にしていくことが大切であ
る。
<タブレット端末活用の視点から>
【成果】
・タブレット端末に自分で撮影した写真と創作した詩を取り込むことにより、詩のイメージが視覚
化して、より相手に伝わりやすくなった。
・3人1グループによるタブレット端末を用いた学習形態により、視覚化した作品を鑑賞し合う中
で、グループ内での交流が活性化したり、確かなイメージを元に具体的な意見交換の姿が見られ
たりするようになった。
【課題】
・1台のタブレット端末をグループで使用しながら学習を進めていく展開において、ともすれば、
一人ひとりの学びの充実を図ることよりも、グループでの交流の姿に指導者の意識が向きがちに
なる。よって、タブレット端末を用いた交流学習においては、生徒に課題を明確にもたせ、指導、
助言や評価が友との関わり方に偏らないように留意することが大切である。
・グループに1台のタブレット端末の使用では、活発な交流が生まれるグループがある一方で、
自分の活動に没頭するあまり、他との交流がないままに時間が流れていってしまうグループも
存在した。
<グループ活動(交流・学び合い)の視点から>
【成果】友の作品を見合うことにより、お互いの表現のよい部分を伝え合い、相互に自信を持っ
たり、友のよい表現を自分の詩作に生かしたりする姿が見られた。
【課題】グループで一作品を共同制作するのではなく、それぞれが自分自身の作品を創る学習活
動の場合、学び合いが成立することは難しい。具体的にどういう点をお互い見合えばよいのかと
いった鑑賞のポイントや、話し合いのルールや流れを明確にしておく必要がある。
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(4)事例4 D 小学校4年
キーワード<単元を貫く課題を設定し、中心になる变述を元に心情の読み取りを深める>
①教材名・領域「一つの花」
・読むこと
②実践の概要と考察
ⅰ)授業の展開と概要
単元名「一つの花のお話を友達に紹介しよう」
○自分が紹介したい内容について、取り上げた理由がわかるように伝える言語活動を仕組むこ
とにより、
「場面の移り変わりに注意しながら、登場人物の性格や気持ちの変化、情景などに
ついて变述を基に想像して読む」力が育っていくと考え、本単元を設定した。
「C読むこと」の3・4年の指導事項「ウ場面の移り変わりに注意しながら、登場人物の性格
や気持ちの変化、情景などについて变述を基に想像して読むこと」に重点を置き、
「エ目的や
必要に応じて、文章の要点や細かい点に注意しながら読み、文章などを引用したり要約したり
すること」
「カ目的に応じて、いろいろな文や文章を選んで読むこと」を関連させた、
「物語を
友達に紹介する」言語活動を実施した。
ⅱ)授業の分析と考察
一番紹介したい变述を中心に、紹介する内容を考える.
○
A児は「ゆみ。一つだけあげよう。一つだけのお花大事にするんだよう。」という变述を中
心にして紹介しようと組み立てた。
○
A児は、この变述を取り上げた根拠となる部分を抜き出す場面で、
「そんなとき、お父さん
は、きまってゆみ子をめちゃくちゃに高い高いするのでした」を挙げ、「お父さんは、ゆみ子
の将来のことが心配でたまらなくて、でも戦争に行かないといけなくて、何も出来ないからく
やしくて、だから高い高いした」と父の気持ちを読み取った。
○
さらに、
「そんなお父さんは『最後にゆみ子の笑顔を見てうれしかった。何もしてあげられな
い頃もあったけど、最後に何かできたからうれしかった。それにゆみ子達にさようならを言い
たくなかった』のだ」と読み深めていった。
○
お父さんの「すごいふくざつで、ゆみ子のことを考える気持ち」が表れている言葉が「ゆみ。
一つだけあげよう。一つだけのお花大事にするんだよう。」と捉え、これを紹介の中心に据え
ていった。
【考 察】
A児は、
「一つの花」の物語の中で、父親のゆみ子に対する思いに焦点をあて、父親の行動や
発した言葉に注目していった。自分がその作品のどこに惹かれ、それはどの变述を根拠に感じ
たことなのかを明確にすることは、本単元でつけたい力に向かっていく活動となることが示唆
された。
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(5) 事例5 E 中学校2年
キーワード<生徒の意識を出発点とした言語活動の設定
リライト>
① 教材名・領域
「アイスプラネット」
・読むこと、書くこと
② 実践の概要と考察
ⅰ) 授業の概要
全 6 時間。本作品の終末場面について、
「ぐうちゃんの手紙を『ぼく』がどのように受け止めた
のか知りたい。
」という生徒の意識を出発点として、終末場面をリライトする言語活動を単元の中
心に据えた。リライトすることを通して、登場人物の心情や人物像の読み取りの深まりや文章表現
の特徴の理解を確かにすることにつながった。
本単元では、作品の一部に学習者の読みを反映させながら創作する活動を「リライト」とした。
ⅱ) 授業の分析と考察(成果と課題)
初発の感想を元に作った課題(生徒の意識の出発点)について、「ぐうちゃんの手紙」をリライトす
ることを通して考えよう。
○A生は、初発の感想で「ぐうちゃんの手紙を『ぼく』がどのように受け止めたのか知りたい。」と考
え、各場面の『ぐうちゃん』
『僕』の気持ちについて読み取った。
○この物語の特色(表現等)をつかみ、心情や人物像の理解を深めた。
(生き生きとした日常的な会話文の多用、指示語の多さ、比較的短文が多い。)
○「ぐうちゃんの手紙」を読んだ僕の心情を今までの読み取りを生かして考え、最後の一文にこれか
らの僕の生き方を込める内容まで深めてリライトすることができた。
〈分析〉A 生のリライト作品
(「僕」がぐうちゃんからの手紙を読む場面)
自然に涙が出た。ふいてもふいても、涙は止まらなかった。きっとあの日、ぐうちゃんは分かって
いたんだ。もうこれが最後だということを。自分が死ぬということを。
僕は何も分かってなかった。ぐうちゃんに何も伝えられなかった。
「後悔」だけが、涙になってあふれた。おさえることができなかった。
(「僕」が、ぐうちゃんの写真を見る場面)
ぼくは、たくさん勉強して・・・それから、旅に出た。
〈考察〉
上記のような文章を記すまでの過程で、A 生は、登場人物の人物像や各場面における心情を、变
述を根拠に捉えたり、本作品の文章表現の特徴をつかんだりした。物語の展開は、原作と異なるも
のとなった。原作とは異なった物語の展開や、主人公である「ぼく」の視点から描かれた心情描写、
ぐうちゃんからの手紙の内容を受け、
「ぼく」の決意が記された最後の一文には、A 生の「読み」が
大きく影響していることが分かる。
〈成果〉
① 生徒の意識を出発点とした言語活動を設定したことで、単元全体を通じて、生徒の追究への意
欲を持続することができた。
② 生徒の意識を出発点として、リライト活動を行ったことで、級友がどのような作品を完成させ
たのか、興味をもって読み、評価し合うことができた。
③ 単元の目的はリライトではないが、生徒に「リライトするために、読む」という意識を持たせ
ることで、登場人物の人物像や心情について、变述を根拠に読んだり、文章表現に着目したり
することに必要感が生まれ、追究への意欲につながった。
〈課題〉
リライトする際に戸惑ってしまうことがないよう、ある程度条件を提示したり、リライトする
部分を制限したり、リライト作品を例示したりしたが、できあがった作品には文章量や文章表現
に個人差が生じた。よって、例示するリライト作品の量を増やしたり、文章表現の工夫の観点を
例示したりというサポートが必要と思われる。
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(6)事例6 F 小学校5年
①活動名・領域
キーワード<話し合い活動の日常化>
「毎日話そう・聞こう・語り合おう」・話すこと聞くこと
②実践の概要と考察
ⅰ)展開の概要
○話す・聞く・話し合うという活動をドリル的に毎日短時間決まった時間に取り組んでいく。
○各教科の学習において、話し合う活動を多く取り入れ、友達の話を聞きながら、自分の思いを
そこに重ねて語り、全体として考えを深めていく学習を日常化していく。
例・サッカーゲームにおいてチームの作戦を話し合う活動
・総合的な学習で取り組みたい内容について、それぞれの思いを聞きながら一つに決め出し
ていく活動
・TPP の問題について社会科で扱い、調べ学習から自分の考えを述べあう活動
○朝の会や帰りの会を利用し、当番がスピーチをしたり、お互いのいいところを語り合ったりす
る活動を毎日行う。
ⅱ)分析と考察
【成果】
○自分の考えを話すことが好きな児童が多いことから、1 学期は、主に「聞くこと」に関わる活
動を多く行った。自分と相手の意見の違いを聞きわけることや、相手の本当に言いたいことが
何であるか、表現の裏にある思いにまで意識を向けられるように声掛けをしながら取り組ませ
たことで、相手に話をしっかり聞こうとする雰囲気が高まってきた。
○ドリル的な活動は、本校の清掃後に位置付けられているドリル学習の時間に行った。
【参考文献
㈱小学館発行「菊池省三の話し合い指導術」
】話す・聞く・話し合う活動をより楽しくゲーム的
要素を取り入れながら取り組むことで、誰とでも自然に話ができるようになった。
○2 学期には、週に1~2回程度、新聞などの投稿文を読んでそれに対する自分の感想を、ペア
で語り合う活動を取り入れた。その際、新聞の投稿記事や、SNS に挙げられていた文を扱った。
優れた文章に触れることで、子どもたちの感情と思考が自然と動き出し、自分の思いを進んで
語ろうとする姿につながり、活発な語り合いとなっていった。
○高学年になると、なかなか自分の考えを言わなくなる、ということはよく言われる現象だが、
日常的に話す聞く活動を取り入れた5年生の子どもたちは、活動そのものに親しみ、楽しんで
活動した。初めのうち抵抗を感じていた子の様子も変化していった。
また、
ドリル的な活動に加え、
どの教科においても日常的に語り合う生活を繰り返していると、
子どもたちは自然と互いの話に耳を傾け、みんなの前でも自然に自分の思いを語り、進んで話
し合う姿が見られた。
【考察】
児童は本来、人と語り合うことが好きだということである。それは、語り合うことで、自分と
いう人間を相手に受けとめてもらい、相手に存在を認めてもらい、相手の存在を認めていく関係
が育つからではないか。高学年になって考えを発言することが尐なくなるのは、決して子どもた
ちの本当の気持ちではなく、さまざまな要因が、
「話そう」とする思いを阻害しているからだと思
われる。
誰もが自分の思いを語り、それを基に人間関係がより深まり、また、自分一人では見えてこな
いものの見方や考え方を獲得していける、そんな学級づくりや授業づくりには、子どもを信じつ
つ、教師の積極的な働きかけにより、継続的な取り組みをしていくことが大切であると示唆され
た。
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(7)事例7 G 小学校2年 キーワード<聞き手の育ち、スモールステップ>
①教材名・領域「あったらいいな、こんなもの」
・ 話す・聞く
②実践の概要と考察
ⅰ)授業展開の概要
自分が考えた「あったらいいな」と思うものを、ペアやグループの中で聞き合っ
たり、
スモールステップを踏んだ学習カードを使用したりすることを通して、クラス全
体の発表会に向けて内容や順序を整理する。
ⅱ)授業の分析と考察
<聞き手の質問に答えながら、話す楽しさを実感したA児>
本単元は、発明家の疑似体験ができる夢のある単元
である。
○A児は、持ち前の豊かな想像力を発揮し、あったら
便利だと思う物をいくつも発明した。その中でも、
料理ができるロボット「りょうりロボ」は、特にお
気に入りで、
「料理をすばやく作ることができる」
とペアの児童に説明した。
○ペアの児童から「発明した理由」
「かかる時間」
「材
料はどこに入れればよいか」などの質問を受けた A
児は、うれしそうに一つ一つていねいに答えた。
○希望の料理名をロボットの前で言うと、レシピがア
ンテナに送られるしくみになっているという説明
をすると、ペアの児童に「それはいいねえ。」と言
われ、それを受けてA児は、うれしそうにさらに、他の特徴の説明を詳しく続けた。
<スモールステップを踏むことで、説明する内容が整理されたB児>
学習課題に対して誠実に取り組むが、考えをまとめることが苦手なB児には、ス
モールステップを踏んだ学習カードが効果的だった。
○カード①あったらいいなと思う発明品を複数メモできる学習カード。
→すべての発明品を生かしたいB児は、「まほうの箱」と一つの名にまとめて記入。
カード②「形や大きさ」
、
「はたらき」、「発明した理由」の項目にしたがって記入。
カード③ペアや班の児童に質問されたことを補足し、「はじめ」
「中」「終わり」の
項目で作られた発表原稿を作る学習カード
→ B 児は、説明する内容を整理し、クラス全体での発表会の際に役立てた。
【考察】
A児は、この学習活動を通して、話すことの楽しさを実感したと思われる。その要因は聞き
手の成長である。発明した理由、料理にかかる時間等は、発明者のA児が自負するところであ
り、尋ねてほしいところでもある。その点を敢えて尋ねられることは、A児にとって、大変心
をくすぐられるところである。さらに、聞き手に「それはいいねえ。」と、共感的に受け止め
られたこともA児がますます相手に話す楽しさを感じることにつながったと思われる。
また、相手にわかるように伝えるために、思考の段階に合うようにスモールステップを踏ん
だ学習カードを作ったことは、クラス全体でのB児の成功に結びつき、B児の自信へとつなが
ったといえる。
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