第2学年 国語科学習指導案 平成27年2月10日(火) 場 所 教 室 1 単元名・教材名 人間の生き方を見つめる・『走れメロス』 2 生徒の実態と本単元の意図 (1)本単元に至るまでの指導の系統 育成すべき国語の能力 【指導事項(読むこと)】 学習活動と関連 学習内容 単元・教材名 する他領域等の 指導 ・心情を表す語句に注意して ・体験を生かした 教材名 読むことができる。 【2 年ア】 心情の理解 『アイスプラネット』 〈2 年・4 月〉 ・文章の構成や展開、表現の ・表現の特徴や物 教材名『盆土産』 仕方について、根拠を明確 語の展開の仕方 〈2 年 9 月〉 にして自分の考えをまとめ に着目した作品 ることができる。【2 年ウ】 の批評の仕方 【書くこと】 ○教材名『字の ないはがき』 ・作品における 語り手の視 点を変えた リライトの 仕方 ・文章全体と部分との関係、 ・描写や登場人物 教材名『夏の葬列』 ・効果的な描写 描写の効果や登場人物の言 の言動の意味な 〈2 年 10 月〉 の工夫 動の意味などを考え、内容 どを考えた内容 の理解に役立てることがで の理解 きる。【2 年イ】 (2)生徒の実態と本単元の意図(一部省略) ①生徒の実態 生徒は本単元に至る学習の成果として、心情を表す語句に注意し、描写や物語の展開 に着目して作品を読み取る力をつけてきた。文学的文章の教材としてはこれまで『アイ スプラネット』『字のないはがき』『盆土産』『夏の葬列』を学習してきた。『アイスプラ ネット』では主人公になりきり、作品中の人物に手紙を書くことで、本文には描かれて いない主人公の心情の考察を行った。 『字のないはがき』では、語り手の視点を変えてリ ライトすることで、登場人物の心情の読み取りを深める活動を行った。『盆土産』では、 今なお教科書に掲載され続けている作品の価値を批評することで物語の展開や表現の特 徴を捉える学習を行った。 『夏の葬列』では、ジグソー法を用いて主人公の心情を多角的 に捉え、それぞれの読みを組み立てて課題に迫る学習を行った。 本単元では、第2学年最後の文学的文章として、これらの学習を総括した『走れメロ ス』の学習を進めていく。物語の展開や表現の仕方の分析に加え、そのような表現をし た書き手の目的や意図、効果について考える力をつけていきたい。また、様々な状況下 における人間の姿を捉えさせることで、人間の生き方を見つめられる単元としたい。 1 ②教材観 本作品は、自分の身代わりとして人質となった友との約束を守るため、様々な困難を 乗り越え、刻限までに王城に辿り着こうとするメロスの姿が中心に描かれた作品である が、メロスに限らず、登場人物たちは置かれた状況により様々な内面の揺れや葛藤、苦 悩、変化を見せる。邪知暴虐の王ディオニスの人間的苦悩や、メロスの親友セリヌンテ ィウスの揺れる友への思いなど、ストーリーの展開とともに変容していく様々な人間像 から、多様な読みが引き出される作品である。 作品の末尾に「古傳説と、シルレルの詩から。」 と註記されていることから、この作 品がドイツの詩人・シラーの詩『人質 譚詩』(小栗孝則 訳)に依拠していることが明 らかにされている。しかし、 『走れメロス』はこの『人質』を素材としながらも、太宰に よって多くの加筆がなされている。登場人物への性格付与、物語内容の肉付けや新たな 展開など、様々な改変点が見られる。このような加筆による改変点には、太宰が作品に 込めた思いがあると考えられる。 『走れメロス』と『人質』とを比較して浮かび上がって くる共通点や相違点の考察をすることで、太宰が示した作品のテーマに迫っていきたい。 ③指導観 本単元においては、 「読むこと」の指導事項「イ 文章全体と部分と関係、例示や描写 の効果、登場人物の言動の意味などを考え、内容の理解に役立てること。」及び「ウ 文 章の構成や展開、表現の仕方について、根拠を明確にして自分の考えをまとめこと。」主 軸とし、言語活動例「ア 詩歌や物語などを読み、内容や表現の仕方について感想を交 流すること」に基づいた「作品中で語られていないエピソードを書く」という言語活動 を「単元を貫く言語活動」として設定する。 「書く」活動をゴールに設定しているが、重 点は「書くための読み」であり、 「エピソード」という本文には語られていない場面や視 点を変えたリライト作品を書くために、作品に対する読みを深めることを重視していく。 本単元では、 『走れメロス』とシラーの『人質』という2つの作品における違いについ て、特に「登場人物像」の違いに着目させ学習を進めていく。 『走れメロス』はメロスを 中心とした物語ではあるが、太宰の加筆によって、メロスは勿論、暴君ディオニスや親 友セリヌンティウスにも心の迷いや変容、成長が描き出されている。太宰がシラーの『人 質』よりも「人間らしく」した登場人物たちによって、この作品は単なるメロスの物語 から多様な読みが引き出される作品になっているのである。また、作品の比較によって 豊かになった登場人物像に加え、作品のタイトルにも着目させる。タイトルが『人質』 から『走れメロス』になっていることも重要な改変点で、それはメロス自身の心の声や、 メロス以外の人物の声とも読み取れる。これら『人質』との違いに見られる『走れメロ ス』の特徴に着目させることで、読みの世界を広げさせていきたい。 そして、そのように広がった『走れメロス』の読みを、語られていない「エピソード」 を書くことで、太宰の「内容や表現の仕方」へのさらなる気付きを生み、読みの世界を 深めさせたい。 2 3 単元の目標 (1) 作品に表れている書き手の思いや価値観、その表現の仕方について、自分の考えを もち、交流することでさらに考えを深めようとしている。(関心・意欲・態度) (2) 文章全体と部分の関係、描写の効果や登場人物の言動の意味などを考え、内容の理 解に役立てることができる。(読むこと) (3) 文章の構成や展開、表現の仕方について、書き手の目的や意図、その効果などを根 拠にして自分の考えをまとめことができる。(読むこと) (4) 抽象的な概念を表す語句や多義的な語句について理解し、語感を磨くことができる。 (伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項) 4 単元の評価規準と学習活動に即した評価規準 ア 国語への 関心・意欲・態度 単 元 の 評 価 規 準 学 習 活 動 に 即 し た 評 価 規 準 ※( )の部分はAの状況、他はBの状況を示す エ 読む能力 オ 言語についての知識・ 理解・技能 ・作品に表れている書き (1)文章全体と部分の関係、描 ・抽象的な概念を表す語 手の思いや価値観、そ 写の効果や登場人物の言 句や多義的な語句に の表現の仕方につい 動の意味などを考え、内容 ついて理解し、語感を て、自分の考えをもち、 の理解に役立てることが 磨くことができる。 交流することでさらに できる。 考えを深めようとして いる。 (2)文章の構成や展開、表現の 仕方について、書き手の目 的や意図、その効果などを 根拠にして自分の考えを まとめことができる。 ①学習の見通しをもち、 (1)①登場人物の設定や言動 ①抽象的な概念を表 す (進んで)感想を書こ の意味に着目し、作品に描 語句や多義的な語句 うとしている。 かれている内容を(的確 について、文脈に沿っ ②作品に対する自分の考 に)読み取っている。 て意味を(的確に)理 えをもち、(積極的な) 解している。 交流によって考えを深 (2)①2つの作品を比較し、文 めようとしている。 章の構成や展開、表現の仕 方の違いをとらえている。 (2)②2つの作品の描かれた 方の違いから、書き手の目 的や意図、表現の効果につ いて、(共通点や相違点を 挙げながら)考えをまとめ ている。 3 5 指導と評価の計画(全6時間) 時 主な学習活動 学習内容 1 ○学習の概要を知り、学習 計画を確認する。 ○本文を読み、初発の感想 を書く。 ○登場人物の相関図を作成 する。 2 ・ 3 ○シラーの「人質」を読む。 ○登場人物の描写や言動の意 エ(1)① ○ジグソー法「エキスパー 味が作り上げる文章全体の エ(2)① ト活動」において担当す 雰囲気 ・机間指導による観察 ○学習課題の設定 ○単元の見通し ○観点を定めた感想の記入 ○人物の設定・関係性 評価規準・評価方法 ア① エ(1)① ・ノートによる考察 る課題を決める。 ○登場人物の言動と作品のテ ・ワークシートによる ○『人質』と比較すること ーマとの関わり(単一視点) 考察 で浮かび上がってくる人 物像や物語展開による変 容 を 、 班内で検討する。 (エキスパート活動) 4 ( 本 時 ) ○エキスパート活動で検討 ○登場人物の言動と作品のテ エ(2)② した課題の答えを持ち寄 ーマとの関わり(複数視点) ・机間指導による観察 り、 「タイトルに込められ ○文章の構成や展開、表現の ・ワークシートによる 仕方に表れた書き手の目的 や意図 考察 5 ○ エ ピ ソ ー ド の 原 案 を 作 ○描きたい登場人物の選択 る。 ○登場人物の言動との関連性 ア② エ(2)② た作者の思い」について の考えをまとめる。 (ジグソー活動) ○各班が導き出した課題の 答えを発表し合い、各自 の考えを深める。 (クロストーク活動) ○エピソードの大枠 エピソード0「ディオニス」・・・「暴虐の王」誕生の秘密 エピソード1「セリヌンティウス」・・・揺れる友への信頼 エピソード2「メロス」・・・勇者のその後 6 ・机間指導による観察 ・ワークシートによる 考察 ○エピソードを作り、相互 ○登場人物の言動と作品のテ ア② 交流をする。 ーマとの関わり エ(2)② ○文章の構成や展開、表現の オ① 仕方に表れた書き手の目的 ・机間指導による観察 や意図 ・ワークシートによる ○単元を振り返り、身に付い 考察 た国語の力の確認 4 6 本時の学習指導(本時4/6時) (1)目標 ○2つの作品の描かれた方の違いから、書き手の目的や意図、表現の効果について、考 えをまとめることができる。(読むこと) (2)展開 学習活動 学習内容 指導と評価の創意工夫 1 前時の復習を ○エキスパート活動による登場人物像の ・エキスパート班にし、 行う。 考察 課題に対する班の考 えを復習させる。 2 本時の学習の めあてをつかむ。 タイトルに込められた太宰の思いを考えよう 3 ・視点が違う考えを生か し合いながら課題へ と迫っていく学習で あることを説明する。 考察する観点 ○太宰が『走れメロス』において肉付けし ・生徒にとって身近な例 を確認する。 た登場人物像 を挙げ、改変点に作り ○太宰の加筆に見られる書き手の目的や 手の意図が表れてい 意図 ることを説明する。 4 課題に対する ○エキスパート活動における分析 考えを検討する。 ・メロスの視点による分析 ・友との約束を何としても守らなければならないという思い 【ジグソー活動】 ・信念を貫き通して正義を示さなければという思い ↓ ・信念に負けそうな弱い自分を克服したいという思い 【クロストーク 活動】 〈押さえる表現〉 ・人を疑うのは最も恥ずべき悪徳だ。 ①班ごとの発表 ・友と友の間の信実は、この世でいちばん誇るべき宝なのだか ②個人での思考 らな。 ・正義だの、信実だの、愛だの、考えてみればくだらない。人 を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかった か。ああ、なにもかもばかばかしい。私は醜い裏切り者だ。 どうとも勝手にするがよい。やんぬるかな。 ・死んでおわびなどと、気のいいことは言っておられぬ。 ○ディオニスの視点による分析 ・本当は人を信じたいという思い ・人を信じる心を取り戻せるという期待が込められた思い 5 〈押さえる表現〉 ・おまえなどには、わしの孤独の心がわからぬ。 ・疑うのが正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、 おまえたちだ。人の心は、あてにならない。人間は、もとも と私欲の塊さ。信じては、ならぬ。 ・暴君は落ち着いてつぶやき、ほっとため息をついた。 「わしだ って、平和を望んでいるのだが。」 ・ 「おまえらの望みはかなったぞ。おまえらは、わしの心に勝っ たのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、 わしも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き 入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい。」 ○セリヌンティウスの視点による分析 ・自分の命がかかっているから、急いで戻ってきてほしいとい う思い ・一度でも疑ってしまった自分の弱さを振り払う思い 〈押さえる表現〉 ・メロスは、友に一切の事情を語った。セリヌンティウスは無 言でうなずき、メロスをひしと抱きしめた。友と友の間は、 それでよかった。 ・あの方は、あなたを信じておりました。刑場に引き出されて も、平気でいました。王様がさんざんあの方をからかっても、 メロスは来ますとだけ答え、強い信念をもち続けている様子 でございました。 ・私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生 まれて初めて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私 は君と抱擁できない。 ○太宰がタイトルに込めた思い 自分の信念に負けそうになるメロスの姿や、本当は平和を望 【評価②】 〈評価規準〉 エ(2)② 〈評価方法〉 ・ワークシートの内容 の観察 〈Cの生徒に対する手立て〉 ・意見の共通点や相違 5 自分の考えを ○作品の比較による書き手の目的や意図、 点を見つけさせる。 ワークシートに 効果についての考察 む(人を信じたい)が、そうするのが怖いディオニスの姿、 そして、無二の親友であっても、その帰りを疑ってしまうセ リヌンティウスの姿。人間なら誰しもが持っている「弱さ」 を明らかにしながらも、それでもその弱さを克服してほしい という強い思いが、命令形の「走れメロス」というタイトル に込められている。 記入する。 6
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