通信システムのモデル 送信機 「コミュニケーション工学A」第6章 アナログ変調方式:振幅変調 送信メッセージ(例えば音声)をアナログまたはディジタル電気信 号に変換. 変調:通信路で伝送するのに適した周波数帯の信号波形へ変換. 受信機 変調の種類 振幅変調(AM) 検波出力の信号対雑音電力比(S/N) フィルタで邪魔な雑音を除去し,処理しやすい電圧まで増幅. 復調:もとの周波数帯の電気信号波形に変換し,送信メッセージ を復元. 雑音 メッセージ 情報源 送信信号 送信機 受信信号 通信路 受信メッセージ 受信機 受信者 電気信号 同軸ケーブル 光ファイバー 光 空間 電波 安達:コミュニケーション工学A 安達:コミュニケーション工学A 1 2 変調の種類 無線通信 送 信 し た い 情 報 を 表 す 信 号 を 変 調 信 号 (modulating signal)という. 変調された信号を被変調信号(modulated signal)という. 搬送波g(t)=Accos(2fct+)を変調する方法に3つある. アンテナ:電波の輻射 アンテナ長:搬送波の波長の4分の1くらいが必要.1000kHzの搬 送波では波長が300mなので,アンテナ長は75mにもなる. 携帯電話では800MHz帯,1.5GHz帯,2GHz帯,PHSでは1.8GHz 帯を使っている.周波数の高い搬送波を利用しているので,短い アンテナで良い. 振幅変調: 振幅Acを変化させる 位相変調:位相を変化させる 周波数変調:瞬時周波数(1/2)d/dtを変化させる 変調の基本 アナログ変調とディジタル変調 高い周波数帯の搬送波(carrier wave)の振幅や位相の変化に送 信したい情報を乗せる. 安達:コミュニケーション工学A アナログ変調:変調信号s(t)がアナログ波形である. ディジタル変調:変調信号s(t)がディジタル情報を表わす. 3 安達:コミュニケーション工学A 4 振幅変調(AM) AM波の一般式 変調信号s(t)が余弦波のとき(すなわちs(t)=cos(2fst)であ るとき)の周波数スペクトル 搬送波の振幅を,送信したい変調信号s(t)に比例して変化させる. AM波gAM(t)は次式のように表せる. AM波は次式のように,離散的周波数位置に信号成分 g AM (t ) A(t ) cos(2f c t ) Ac 1 m AM s (t )cos(2f c t ) (6.1) が存在する信号になる. g AM (t ) Ac {1 m AM cos(2f st )}cos(2f ct ) ここで, m AM は変調指数(modulation index )で,0 m AM 1である. また,s (t ) max 1とする. Ac cos(2f ct ) ( Ac / 2)m AM cos2 f c f s t cos2 f c f s t 変調指数mAM は,搬送波の振幅と変調信号の最大振幅 との比である.mAM=1のとき100%変調と呼ぶ. AM変調器の構成 ( Ac / 2)[exp( j 2f ct ) exp( j 2f ct )] exp j 2( f c f s )t ( Ac / 4)m AM exp j 2( f c f s )t exp j 2( f c f s )t (6.2) ( Ac / 4)m AM exp j 2( f c f s )t mAM AM波 gAM(t) s(t) 搬送波Accos(2fct) 図6.1 AM変調器 安達:コミュニケーション工学A 安達:コミュニケーション工学A 5 周波数スペクトル密度 Ac[1+mAMcos(2fst)] gAM(t) G AM ( f ) g AM (t ) exp( j 2ft )dt 6 Ac ( Ac / 2) f f c f f c 0 f f c f s ( Ac / 4)m AM f f c f s f f c f s ( Ac / 4)m AM (6.3) f f f c s ここで次式の関係を用いた(式(2.48)でtとfを入れ替え). t -Ac 図6.2 AM波の時間波形 GAM(f) Ac/2 AcmAM/4 AcmAM/4 f 1 exp( j 2ft )dt (2.4) シフト -fc-fs -fc -fc+fs 1/2 1/2 -fs 0 fs シフト Ac/2 AcmAM/4 AcmAM/4 fc-fs fc fc+fs f 図6.3 AM波の線スペクトルの大きさ 安達:コミュニケーション工学A 7 安達:コミュニケーション工学A 9 一般のAM波の周波数スペクトル密度 変調信号が|f|≦fmに帯域制限されているとき,fmを最高変 調周波数といい,電話音声ではfm=3.4kHzである. 搬送波周波数より高い周波数(上側波帯)と低い周波数 (下側波帯)に連続的に周波数スペクトルが存在する. AM波を伝送するには変調信号の最高周波数fmの2倍の 帯域を必要とする. 変調信号s (t )が余弦波のような周期信号でないとき,AM波 の周波数スペクトル密度はどのようになるだろうか? ●AM波g AM (t )は次式で表せる. g AM (t ) Ac {1 m AM s (t )}cos(2f ct ) ( Ac / 2)[exp( j 2f ct ) exp( j 2f ct )] (6.4) ( Ac / 2)m AM [ s (t ) exp( j 2f ct ) s (t ) exp( j 2f ct )] ½Acffc ●これをフーリエ変換して周波数スペクトル密度を求めよう. ½AcmAMS(f+fc) F [ s (t ) exp( j 2f ct )] S ( f f c ) (6.5) F [ s (t ) exp( j 2f ct )] S ( f f c ) 変調信号s(t) のスペクトル密度 S(f) シフト シフト -fm -fc であることから F [ g AM (t )] ( Ac / 2)[( f f c ) ( f f c )] 2 fm ½AcmAMS(f-fc) fc fm f 下側波帯 上側波帯 図6.4 AM波の周波数スペクトル密度 ( Ac / 2)m AM [ S ( f f c ) S ( f f c )] (6.6) 安達:コミュニケーション工学A 0 ½Acffc 安達:コミュニケーション工学A 11 12 ●電力効率 AM波の電力効率 変調信号成分の電力とAM波全体の電力との比を電力 効率という. AM 2 2 ( Ac2 / 2)m AM Ps s 2 (t ) m AM s 2 (t ) (6.9) Pc Ps A2 / 2 ( A2 / 2)m 2 s 2 (t ) 1 m 2 s 2 (t ) c c AM AM ここで,変調信号が余弦波s (t ) cos2f s t であるとき ●変調信号成分に無関係な搬送波成分も送信されている. g AM (t ) Ac {1 m AM s (t )}cos2f ct 2 /2 m AM Ac cos2f ct Ac m AM s (t ) cos2f ct (6.7) AM 搬送波成 分 信号成分 ●変調指数を最大(m AM 1)にしても,電力効率は33.3%に ●AM波の電力 しかならない.このようにAMは電力効率が低い. 2 1 m AM /2 (6.10) 2 2 s 2 (t )cos 2 2f ct PAM g AM (t ) Ac2 cos 2 2f ct Ac2 m AM 2 s 2 (t ) Ac2 / 2 ( Ac2 / 2)m AM (6.8) 搬送波成 分 信号成分(側帯波) 安達:コミュニケーション工学A 13 安達:コミュニケーション工学A 14 AMの効率限界 AM波の検波(復調とも言う) 搬送波帯へ周波数スペクトルがシフトされた信号を,もと の周波数帯へもどす操作を検波と言う(復調と言うことも ある) . 整流検波と包絡線検波の2つがある. 余弦(あるいは正弦)信号で変調したときの効率は最大で も33.3%にしかならない. 残りの66.7%の電力は情報を運ばない搬送波の電力として 消費されてしまう. 電力効率を向上させる方法 AM波 gAM(t) 搬送波成分の除去両側波帯通信(DSB) 側波帯の一方のみ送信単側波帯通信(SSB) ½Acffc ½AcmAMS(f+fc) 変調信号s(t) のスペクトル密度 S(f) シフト シフト -fc -fm 0 ½AcmAMS(f-fc) fc 2 fm 図6.4 AM波の周波数スペクトル密度 f 0 -fc 下側波帯 上側波帯 安達:コミュニケーション工学A もとの信号 s(t) 変調信号s(t) のスペクトル密度 ½Acffc S(f) ½AcmAMS(f+fc) シフト シフト ½Acffc fm 検波器 ½Acffc ½AcmAMS(f-fc) f fc 下側波帯 上側波帯 安達:コミュニケーション工学A 15 16 整流検波 AM波は g AM (t ) Ac {1 m AM s (t )}cos2f ct ダイオード の出力波形 である. ダイオード 半波整流すると, AM波 gAM(t) g AM (t ) Ac {1 m AM s (t )} / (6.14) vo(t)+Ac/ 低域通過 フィルタ t 検波器出力 vo(t) となる. gAM (t) このあと,コンデンサで直流成分を遮断すると vo (t ) ( Ac / )m AM s (t ) (6.15) (a)整流検波器 図6.5 整流検波 を得る.これが半波整流検波出力になる. 安達:コミュニケーション工学A (b) 検波器各部の波形 17 安達:コミュニケーション工学A 18 両側波帯 (double sideband:DSB)変調 包絡線検波 整流検波では出力が1/になる.整流検波より出力を大 v (t)+A きくできるのが包絡線検波である. AM波の o DSB変調 AMでは搬送波成分まで伝送する必要があった.このため, 電力効率が最大でも33.3%しか得られない. 搬送波成分を抑圧し,変調信号成分を運ぶ両側波帯のみ を伝送するのがDSB変調である. c 包絡線 AM波 gAM(t) C t 検波器出力 vo(t)+Ac R DSB変調は,変調信号s (t )と搬送波 cos(2f ct )との積を作る操作で ある.DSB波は次式のようになる. gAM (t) (a)包絡線検波器 包絡線検波出力は g DSB (t ) Ac s (t ) cos(2f ct ) (b)検波器各部の波形 図6.6 包絡線検波 Ac s(t ) exp( j 2f ct ) s(t ) exp( j 2f ct ) (6.17) 2 周波数スペクトルの大 きさはもとの1 / 2になり,搬送波の周波数位置 Ac {1 m AM s (t )} である.このあと,直流成分を遮断すると vo (t ) Ac m AM s (t ) (6.16) へ平行移動されている.また,AM波では存在した搬送波成分がな を得る.これが検波器出力になる.整流検波の出力より倍大きい. いことから,電力効率DSB 1であり,AMに比べて電力効率が高い. 安達:コミュニケーション工学A 安達:コミュニケーション工学A 19 20 s(t) DSB波の検波(あるいは復調) t 0 乗算器 変調信号 s(t) 搬送波 Accos(2fct) DSB波 gDSB(t) gDSB (t) t 0 図6.7 DSB変調器 図6.8 DSB波 ½AcS(f-fc) S(f) シフト 2 fm 乗算器 DSB波 gDSB(t) 変調信号s(t)の周波 数スペクトル密度 ½AcS(f+fc) -fc DSB検波では,変調で用いた搬送波と同一周波数でかつ 同一位相の局部発振波を再生し,受信したDSB波に乗算 することによって変調信号を再生する. これは同期検波(synchronous detection)またはコヒーレント 検波(coherent detection)と言われる. 0 fm 検波器出力 (1/2)Acs(t) 局部発振波 cos(2fct) シフト -fm 低域通過 フィルタ f fc 下側波帯 上側波帯 図6.10 DSB検波器 図6.9 DSB波の周波数スペクトル密度 安達:コミュニケーション工学A 21 安達:コミュニケーション工学A 22 ●乗算器出力 局部発振波の周波数と位相が搬送波のそれらとずれて いたときにはどうなるか? g DSB (t ) cos(2f ct ) Ac s (t ) cos 2 (2f ct ) Ac s(t )[1 cos(4f ct )] (6.18) 2 括弧内の第2項は搬送波周波数の2倍の周波数である. ●局部発振波が cos[2( f c f )t ]であるとき,乗算器出力は Ac s(t ) cos(2f ct )cos[2( f c f )t ] Ac s (t )cos(2ft ) cos(2(2 f c f )t ) (6.20) 2 ●低域通過フィルタ出力は上式の第1項であるから ●乗算器の後に遮断周波数f mの低域通過フィルタを接続すれば 次のような検波出力を得ることができる. vo (t ) Ac s (t ) (6.19) 2 (1/4)AcS(f+2fc) Ac s (t ) cos(2ft ) (6.21) 2 となり,正確にs (t )を抽出できない. 理想低域 フィルタ ½AcS(f) vo (t ) (1/4)AcS(f-2fc) -2fc -fm 2 fm 変調信号のスペクトル 0 fm 2fc ●周波数は完全同期している(f 0)が,位相が 異なっているときのDSB検波器出力は f Ac s (t ) cos() (6.22) 2 である. / 2のとき出力が得られなくなる. vo (t ) 2 fm 図6.11 乗算器出力の周波数スペクトル密度 安達:コミュニケーション工学A 安達:コミュニケーション工学A 23 検波器出力の信号対雑音電力比(S/N) 24 AM包絡線検波のS/N 検波器入力の信号と雑音 包絡線検波器への入力はAM波と帯域通過雑音の和で ある.帯域通過フィルタがAM波 gAM(t) に歪みを発生させ ないものとする. 検波器に入力されるのは受信信号と雑音である.雑音は, 通信路で発生した雑音と受信機内部で発生した雑音の 和になる. 受信信号電力が雑音電力より充分大きくなければ,検波 器出力の雑音の影響が無視できない. アナログ通信系の特性評価の基準として用いられるのが, 信号対雑音電力比(S/N)である. ●帯域通過フィルタを通過したAM波g AM (t ) g AM (t ) Ac {1 m AM s (t )} cos(2f c t ) ●白色雑音の電力スペクトル密度をN 0 / 2とする.帯域幅Bの 帯域通過フィルタを通過した雑音は次式のように表せる. nin (t ) nc (t ) cos(2f c t ) ns (t ) sin( 2f c t ) gAM (t)+ nin(t) 受信AM波 gAM(t) 帯域通過 フィルタ 白色雑音n(t) 安達:コミュニケーション工学A 33 包絡線 検波 sout(t)+ nout(t) 図6.16 包絡線検波器入力の信号と雑音 安達:コミュニケーション工学A 34 ●変調信号が周波数f mまで周波数スペクトルを有するものと 包絡線検波器への入力はAM波と帯域通過雑音の和である. 帯域通過フィルタがAM波に歪みを発生させないものとすると, 検波器入力は次式のように表せる. すると,B 2 f m. ●信号電力Ps ,inと帯域通過雑音の電力Pn,in Ac2 2 2 ( ) [1 m AM P g t s 2 (t )] s ,in AM 2 (6.31) P n 2 (t ) n 2 (t ) n 2 (t ) 2 f N in c s m 0 n,in g AM (t ) nin (t ) Ac [1 mAM s (t )] cos(2f ct ) nc (t ) cos(2f ct ) ns (t ) sin(2f ct ) 変調信号s(t) のスペクトル密度 ½Acffc [ Ac Ac mAM s (t ) nc (t )] cos(2f ct ) ns (t ) sin(2f ct ) ½AcmAMS(f+fc) [ Ac Ac mAM s (t ) nc (t )]2 ns2 (t ) cos(2f ct (t )) (6.29) ここで, (t )は次のようになる. -fc 2 fm 図6.4 AM波の周波数スペクトル密度 ns (t ) (t ) tan 1 (6.30) Ac Ac mAM s (t ) nc (t ) ½AcmAMS(f-fc) シフト 0 下側波帯 +fc f N0/2 0 +fc 図6.17 帯域通過雑音nin(t)の電力スペクトル密度 安達:コミュニケーション工学A 35 36 ●検波器出力S / N 検波器出力のS/N ●包絡線検波器出力 S / N out R (t ) [ Ac Ac m AM s (t ) nc (t )]2 ns2 (t ) (6.32) Ps,out Pn,out ( Ac m AM ) 2 s 2 (t ) 2 fm N0 Acが充分大きいとき,上式は次のように近似できる. ここで,検波器入力の信号電力Ps,inが R (t ) Ac Ac m AM s (t ) nc (t ) (6.33) 1 2 2 Ac [1 m AM s 2 (t )] 2 であることから,検波器出力S/Nは次式のように表わせる. Ps,in 従って,検波器出力の信号成分sout (t )と雑音成分nout (t ) は,それぞれ次式のようになる. v0 (t ) Ac m AM s (t ) nc (t ) (6.34) sout (t ) 上側波帯 Pn(f) B=2fm -fc 安達:コミュニケーション工学A S(f) シフト ½Acffc S / N out nout (t ) ●検波器出力の平均信号電力 2 ( Ac m AM ) 2 s 2 (t ) Ps,in 2m AM s 2 (t ) Ps,in (6.36) 2 2 1 2 2 Ac [1 m AM s 2 (t )] 2 f m N 0 1 m AM s (t ) 2 f m N 0 2 P ( A m ) 2 s 2 (t ) c AM s,out (6.35) Pn,out nc2 (t ) nin2 (t ) 2 f m N 0 安達:コミュニケーション工学A 37 安達:コミュニケーション工学A 38 第7章予定 「角度変調」 ●特にs (t ) cos(2f s t )のとき(ただし,0 f s f m) S / N out 周波数変調(FM)と位相変調(PM) FM波の周波数成分 AM波とFM波の比較 FM検波のS/N エンファシス 2 Ps,in m AM 2 1 m AM / 2 2 f m N 0 2 m AM S / N in 2 1 m AM /2 2 S / N in (6.37) 3 安達:コミュニケーション工学A 39 安達:コミュニケーション工学A 45
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