エリカ号事件―破毀院の判決

エリカ号事件―破毀院の判決
The ERIKA – The Cour de Cassation decision
フランスの最高裁判所(破毀院)は議論を呼び起こす結論を出しました。
1999 年、フランスの西岸沖において、マルタ
為により汚染損害の生じた場合は、この限り
船籍のエリカ号が嵐に見舞われて、船体が 2
でない」と定めています。2007 年の事実審裁
つに破断するという事故が発生しました。そ
判所での訴訟から、2012 年に破毀院で判決が
の際、1 万トンの燃料油が沿岸に流出し、深刻
出されるまでに争われた多くの訴訟事案にお
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な油濁事故を招きました 。同船はTevere
いて、被告らがチャネリング条項から利益を
Shippingが所有し、フランスの大手石油会社
得られるかどうかという点が争点となりまし
TOTAL SAの子会社であるTotal Transport
た。
Corporation(TTC)に航海用船に出されていた
ものでした。
この流出事故の3年前、フランスは、「油に
よる汚染損害についての民事責任に関する国
際条約(International Convention on Civil
Liability for Oil Pollution Damage [CLC])」の
1992 年議定書を採択しました(同条約は、持
続性油の流出に対する登録船主の厳格責任を
定め、トン数に応じた責任の制限に対する強
制保険を要求しています)。フランスはまた、
CLC の制限を超える油濁クレームに対する支
払いを行う国際油濁補償基金(International Oil
Pollution Compensation Fund)を設立する条約
も採択しています。CLC の枠組みの中核にあ
破毀院は 2012 年 9 月 25 日に判決を出しまし
るのは、いわゆる「チャネリング条項」です。
た。
これは、すべての油濁損害クレームは条約の
条件に基づいて船主に対して行い、その他の
パリの第一審の刑事裁判所は、4 か月間の事実
者(船舶の用船者を含む)に対してはいかな
審を経て、4 名の被告人(TOTAL SA 社、船級
るクレームも行ってはならないが、「これら
協会 RINA、Tevere Shipping の取締役並びに
の者が汚染損害を生じさせる意図をもって、
Panship の技術管理担当取締役)は、油の流出
又は無謀にかつ汚染損害の生じるおそれのあ
に対する刑事責任があるとする判決を出しま
ることを認識して行った自己の行為又は不作
した。また、裁判所は、同人らはフランス国
内法に基づく民事損害賠償責任も負うと判断
しました。TOTAL SA の責任は、船舶の調査
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Gard News では、この事故と訴訟に関して、過去の記事で
も取り上げてきました。Gard News190 号掲載記事「French
court holds multiple defendants liable for ERIKA spill(フラ
ンス裁判所、エリカ号の流出について、複数の被告人の責任
を認定)(英文のみ)」、192 号掲載記事「A small claim with
large consequences(大きな影響のある小さなクレーム)(英
文のみ)」、199 号掲載記事「The ERIKA – Paris Court of
Appeal finds multiple parties criminally liable(エリカ号事件
-パリ控訴院、複数の当事者の刑事責任を認定)(英文のみ)」
等を参照してください。
The ERIKA – The Cour de Cassation decision
がずさんであったことを根拠としたものでし
た。支配的な特徴はなく、裁判所は、船舶が
古かった、事故の少し前に所有権と船級協会
の変更が数回あった、そしてシングルハル構
造であったという、危険の「組み合わせ」が
あったことに触れました。裁判所は、船舶を
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Gard News 210 May/July 2013
用船したと認められたのは子会社の TTC であ
ました。裁判所は控訴審判決を破毀し、
ったことから、TOTAL SA 社にはチャネリン
TOTAL 社は、CLC のチャネリングの利益を受
グ条項からの利益を得る権利はないと判断し
けられず、民事損害賠償金について責任を負
ました。
うと判断しました。そして、「環境」損害に
ついては、「汚染」損害と同じであるという
2010 年、パリ控訴院は、刑事罰金を認容する
判断しました。つまり、環境損害は CLC の範
判決を出す一方で、TOTAL SA 社は事実上の
囲内であるということです。
用船者であって、チャネリング条項の利益を
受ける権利があるとして、民事責任について
まとめ
はこれを破毀しました。パリ控訴院は、国際
いずれにしても、用船者である TOTAL 社が
条約はフランス国がフランス国内法に基づい
CLC のチャネリング条項の対象であると裁判
て当事者に刑事責任を課す能力を制限するも
所が結論付けたことは注目に値します。しか
のではないと判断し、CLC に基づく民事責任
し、裁判所が「注意不足」を「無謀」に相当
についての判決を破毀しました。
すると結論付けたことは、法の枠組みを拡大
して、被害者の補償を制限基金の範囲外に求
当事者 4 名と多くの申立人は、判決を破毀院
める傾向にあることを示しています。
に上告しました。
破毀院の判決が、並行して行われている
破毀院
Commune de Masquer が提起した民事訴訟に及
破毀院は、長期にわたる訴訟手続きの後、
ぼす影響を見届けることは興味深いことであ
2012 年 9 月 25 日に判決を出しました。まず、
ると思われます。この別の訴訟手続きでは、
破毀院は、フランスの裁判所は、事故がフラ
TOTAL 社が汚染の発生に寄与したかどうか、
ンスの領海内ではなく、排他的経済水域
そして EU 指令 75/442/EEC(破毀物指令)に
(EEZ)で発生したとしても、事案に対する
基づく責任を問われるかどうかということに
管轄権を有すると判断しました。また、4 名の
ついて、ボルドーの控訴院から判決が出され
被告らがフランスの海域と沿岸に汚染を生じ
る予定です。
させたことについて刑事責任を負うことを確
認しました。
今後進展がありましたら、Gard News でお知ら
せします。
民事責任については、裁判所は、船級協会は
CLC のチャネリング条項の対象であると認め
つつも、損害は船級協会の「注意不足」から
発生したと判断しました。この「注意不足」
は、CLC における「無謀」に該当するという
のが裁判所の見解です。したがって RINA は、
CLC の保護を得ることができませんでした。
また、裁判所は、用船者である TOTAL SA 社
は CLC のチャネリング条項の対象であるとし
ました。しかしながら、TOTAL 社の「注意不
足」は「無謀」に該当し、CLC のチャネリン
グの利益を否定するに足りるとの結論に至り
The ERIKA – The Cour de Cassation decision
Gard News 210 May/July 2013