第1章 構造力学基礎の復習 1.1 はりに作用する外力のつり合い 80kN 右図の単純ばりの力の釣り合いを考えてみよ う。我々が使う道具は次の2次元問題における A 力の釣り合い式である。 C HA △ ∑H =0 ∑V = 0 ∑M =0 i △ RA 6m 4m i 構造力学では左の釣り合い式を嫌と言うほど 使用する。このことの意味と使い方は、徹底的 にトレーニングしておきなさい。 力が釣り合い状態にあるときは、水平分力、鉛直 分力の総和及び任意の点回りのモーメントの総和は ゼロとなる。 例題を解きながらつり合い式の利用法を考えてみよう。 (方針) 右上の例題では,単純ばりに4個の外力が作用している。80kN は荷重と呼ばれ、当然既知 である。それに対して残りの外力は反力と呼ばれる未知外力である。未知外力3個,使用でき るつり合い式3個,どうやら解けそうである。 左の計算では A 点回りのモーメントのつり合 いを考えた。それは RA のモーメントがゼロとな (解答) i i より HA = 0 (1) る点を選ぶことにより連立方程式になることを避 けただけで,A 点に回りにこだわる必要はない。 (下向きを正とする)より − RA + 80 − RB = 0 ∑M i (2) ちなみに C 点回りのモーメントのつり合いを考 えてみよう。 = 0( A点回り,時計回りを正とする) RA ⋅ 0 + 80 ⋅ 6 − RB ⋅10 = 0 ∴ RB = 48 kN (3) ∑M i (4) = 0 ( C 点回り) RA ⋅ 6 − RB ⋅ 4 = 0 (6) (2) ⋅ 6 + (6) より 上の値を式(2)に代入して RA = 32 kN RB (1.1) i ∑H = 0 ∑V = 0 B RB = 48 kN (5) と,同じ答えが得られる。 どちらを選んだ方がよいかは一目瞭然です。 このように力のつり合い3式を操って,未知外力である反力が求まる構造物を外的静定構造物 とよぶ。力のつり合い式は構造力学の一番の基本なので,利用法を徹底的にマスターしておかな ければならない。「任意の点回りのモーメントのつり合い」がうまく使えるようになれば少しだ け構造力学に自信がつきますよ。頑張って下さい。 1 80kN はりの断面力 切断 A C 安全な構造物を作る第一段階は,構造物の内 △ 部に生じる応力が,使用する材料の強度を越え △ x ないことを確認することである。 4m 6m 構造物の内部に生じている力を推測しよう。 RA = 32 はりの内部には相当複雑な応力が分布している kN A kN C △ 断面力と呼ばれる部材の中に生じているに違 RB = 48 80kN ので,直接求めないで,少し迂回(うかい)作 戦をとることにしよう。 B △ x B いない力を推測する。ここで用いる道具は「切 断」の考え方と力のつり合い式である。 6m RA = 32 RB = 48 kN kN 先ほど求めた単純ばりの断面力を求めてみよう。 32 kN 切断した左側の力のつり合いを考えてみる。切断しただけ では RA = 32 kN だけしか作用していないので明らかに鉛 直方向の力のつり合いを満足していない。 △ x 全体では力のつり合いを満足していたのに,部分でつり合 わなくなったのは切断したことによる。「部分でも力のつり 合い条件は満足すべきである」のという考え方が正しければ, RA = 32 kN 32 切断面に下向きに 32 kN の力が作用しているはずである。 △ x この力をせん断力(shear force)と呼ぶ。 これで左側部分は力の釣り合いがとれただろうか。向きが 反対で大きさが同じなので鉛直方向にはつり合っているが, kN 32 ⋅ x RA = 32 kN kN ⋅ m 作用位置が直線上にないため,2つの力は偶力を発生して, 回転方向につり合っていないことになる。 △ x この原因も切断したことにあるはずだから,切断面に何ら 32 kN かの回転力が作用しているはずだと考えて良い。切断面に棒 を出し,それにハンドルをつけた図を想像してみてほしい。 2つの力は時計方向に偶力を発生しているので,回転方向に RA = 32 32 ⋅ x kN ⋅ m kN つり合うためにはハンドルに反時計回りの回転力を与える必 要がある。偶力の大きさは 力×2つの力の距離= 80kN 32 ⋅ x (kN ⋅ m) で与えられるので,ハンドルに反時計回り方向に 32 ⋅ x (kN ⋅ m) の回転力を与えれば、回転方向にも つり合い条件を満足する。 C 32 ⋅ x kN ⋅ m 32 kN △ B RB = 48 kN 2 この段面に作用する回転力を曲げモーメント(bending moment)と呼んでいる。わざわざ「曲 げ」を強調しているのは通常用いるモーメントと区別するためである。断面に作用する内力は絶対 に「曲げモーメント」と呼んでほしい 80kN 次に右半分の力のつり合いを考える。右図のように 32kN 左側に作用している力と反対向きの力と回転力が左側 から右側に作用しているものと考えてみよう。 ニュートンの第3法則「作用反作用の法則」を期待 しているのである。 32 ⋅ x kN ⋅ m C △ 6− x B 10 − x RB = 48 下向きを正として鉛直方向の力の和をとると, 次に回転方向のつり合いが成立してるか確かめてみ よう。切断面を x 点と呼び,その点回りのモーメント − 32 + 80 − 48 = 0 の和を求めてみる。 32x + 32 ⋅ 0 + 80 ⋅ (6 − x) − 48 ⋅ (10 − x) となり,明らかに = 32x + 480 − 80x − 480 + 48x = 0 ∑V = 0 となり,同様に を満足している。 ∑M i i =0 を満足している。 以上のことから,切断し た2つの部分には右図のよ kN 32 A kN 80kN 32 kN C うな力が作用しているはず であると考えておく。 △ x 断面に作用する力を内力 あるいは断面力(inner force)とよぶ。 RA = 32 △ 32 ⋅ x kN ⋅ m B RB = 48 kN kN 内力の正負の定義 内力をいちいち考察で求めていたのでは大変なので数学の助 θ けを借りよう。そのためにはせん断力と曲げモーメントの正負 と定義しておかなければならない。関数を考える際,最初に座 標軸を描かなければ何も始まらないのと同じことである。 y 構造力学では右図のような右手系の座標系を使うのが普通 である。自重も荷重も下向きが多いのでこの座標系を使用す るのだろう。 その座標系でせん断力と曲げモーメントは次のような一組 の力を正としている。 せん断力 正 3 x せん断力 正 左面から右面に上向きに,右面から左面に下向きに (上の表現では絶対に覚えきれないので,真ん中 の要素を時計回りに回す向きのせん断力を正と記 憶しておくと良い) 曲げモーメント 曲げモーメント 正 正 下側のせんいがが引っ張られるように作用する1組の曲げモーメントを、正と定義する。 力のつり合いより曲げモーメントとせん断力を求める。 [AC区間で切断] Mx A 最初にACで切断してみる。切断した面にせん断力と曲げモーメン △ トと軸力を正の向きに描き, Qx , M x , Nと名前を付ける。ただし、軸力 x Nx x N x は部材に引っ張り力が生じる向きが正です。 Qx (3つの内力の正の定義をよく覚えておいて,矢印を正の方 向に描くのがコツです。それをいい加減にやると後で何がな りやら分からなくなります。もう一度言います。正の方向に 矢印を描くことです。) ∑H = 0 ∑V = 0 i より i ∑M Nx = 0 より i M x = 32 ⋅ x =0 より ∑V = 0 より i Nx = 0 kN ⋅ m C △ i 6m M x = 480 − 48 ⋅ x (kN ⋅ m) (直線式) Nx x − 6 Qx RA = 32 kN = 0 ( x 点回り)より 32 ⋅ x − 80 ⋅ ( x − 6) − M x = 0 Mx x − 32 + 80 + Qx = 0 ∑M 80kN A Qx = −48kN x = 0 で Mx = 0 x = 6 で Mx = 19.2 (直線式) [CB区間で切断] i = 0 ( x 点回り)より 32 ⋅ x − M x = 0 − 32 + Qx = 0 Qx = 32 kN ∑H RA = 32 kN x = 6 で Mx = 19.2 x =10で Mx = 0 以上の計算結果を図にしたのが右のせん断 Mx = 0 せん断力図 32 kN 力図と曲げモーメント図である。 + はりの場合,せん断力の正を上側に,曲げ − モーメントの正を下側に描くのが普通である。 曲げモーメントは繊維が引っ張られる側に 曲げモーメント図 描くと考えておけばどんな場合でも統一的に 描けるが,せん断力のどういう約束で描くか 192 + kN ⋅ m は必ずしもはっきりしていない。 4 48 kN はりの曲げ応力 木製のはりが下側に曲がっている状態を想像してみよ う。下側の繊維は引っ張られて,上側では圧縮されてい ることが理解できるだろうか。 最初は何となくそうかなと思うことが大事ですよ。ま だ想像できない人は自分の定規ででもやってみて下さい。 じゃ真ん中辺に引っ張りも圧縮も受けない平面がある かもしれないとついでに想像してみて下さい。ついでに その近くは引っ張る力,押す力が小さく外側に行くほど 大きくなるかもしれないと思って下さい。(最初は何で も想像力です) 上に述べた事柄を図にしたのが右図である。上側圧 縮,下側ひっぱりを大きく見ると,概略(C)のよう に考えることができる。この向きが反対で平行な力は 断面に回転力を与えている。この回転力が前に求めた 曲げモーメントと密接な関係がありそうなことは容易 に想像がつく。 先に述べた曲げモーメントと実際の分布応力の関係 を調べてみよう。 曲げ応力を求める際には,ベルヌーイ・オイラー の仮定と呼ばれる世界的に有名な仮定を用いる。 ベルヌーイ・オイラーの仮定 変形前に平面であったはりの断面は,変形後も 平面が保たれる。 相当大胆な仮定のようだが,この仮定を覆す決 定的な事実が示されていないので,この仮説はほ ぼ正しいと考えて良い。 Δx の伸びを考えてみよう。ベルヌーイ・オイ Δx ラーの仮定を用いると,右図のように変形してい る。 中立軸からの距離 y における伸び dΔx は直 線的に変化しているので,ひずみも直線的に変化 して次の式で表される。 5 y dA y Δx + dΔx ε = ky (1) 弾性を仮定しているのでフックの法則を用いて, σ = Eε = Eky = Cy 応力を面積全体で積分すると軸力 (2) N に等しくなるはずである。今,曲げモーメントとせん 断力だけが生じているとすると ∫ σdA = C∫ A A ydA = 0 (3) Gz = ∫ ydA (4) A はz軸回りの断面1次モーメントと呼ばれる物理量で,断面の形とz軸を与えると決まる。 断面1次モーメントがゼロの条件式は,中立軸の条件である。今まで中立軸の条件を決めてい なかったが,中立軸は断面1次モーメントがゼロとなる軸であると定義すればよい。 次に応力の中立軸回りのモーメントの総和を考えてみよう。モーメントの総和は曲げモー メントに等しくなるはずなので次式が成立する。 M x = ∫ σdA ⋅ y = C∫ y 2dA = CI z A C= σ= Mx Iz Mx y Iz σ (5) A ただし, I z = ∫ y 2dA A (6) :曲げ応力 Mx :考えている点での曲げモーメント I z :中立軸回りの断面2次モーメント y :中立軸からの距離(下側正) この式は構造力学で最も基本的な式である。少なくとも構造力学を勉強したと言いたけれ ばこの式を十分に使える程度にはなってほしい。我々が橋を架けるとき,この式を中心に議 論していると考えて良い。それくらい大事な式なのです。多くの演習問題に当たって完璧に 理解できたと言うところまで自分を鍛え上げて下さい。 この式のキーワードは断面1次モーメント,中立軸,断面2次モーメントの3つのようで す。これらを理解するには次節の断面の性質を十分に理解していなければならない。 6 例題11 長方形断面の中立軸は断面の図心(重心)で与えられる。曲げ応力について以下の 問いに答えよ。 1)定義式より、中立軸 Z − Z 軸周りの断面2次モーメント を求めよ。 B 2)幅 B = 12( cm ) 、高さ H = 24( cm ) の断面において、 最大引っ張り応力と最大圧縮応力の大きさを求めよ。 ただし、曲げモーメントは M = 120(kN ⋅ m) とする。 H y Z Z dA = dydz y (解答) 1)Z − Z 軸周りの断面2次モーメントは定義式より次のように得られる。 H B 2 2 H B − − 2 2 I ZZ = ∫ y ⋅ dA = ∫ 2 A ∫ B 2 B − 2 y ⋅ dzdy = ∫ y ⋅ [z] dy H 2 2 0 H 2 H ⎡ y3 ⎤ BH 3 = B∫ 2H y 2 ⋅dy = B ⎢ ⎥ = − 12 2 ⎣ 3 ⎦− H σ c max = −104.16MPa 2 2)上式に数値を代入して BH 3 12 ⋅ 243 = = 13824(cm4 ) 12 12 曲げモーメントの単位を N と cm で表しておく。 I ZZ = y M = 120(kN ⋅ m) = 12000000( N ⋅ cm) σ x = 868y 公式より、曲げ応力は次のように得られる。 σx = M 12000000 y= y = 868y ⎛ N ⎞ ⎜ 2⎟ I ZZ 13824 σ t max = 104.16MPa ⎝ cm ⎠ 曲げ応力の分布図は右図のような直線となる。曲げ応力が最大となるのは上下端なので、 最大引っ張り応力 σ t max = M ⎛ N ⎞ ⎛N ⎞ y = 868×12 = 10416⎜ 2 ⎟ = 104160000⎜ 2 = Pa ⎟ I ZZ ⎝ cm ⎠ ⎝m ⎠ ⎛ kN ⎞ ⎛ N ⎞ = 104160⎜ 2 = Pa ⎟ = 104.16⎜ = MPa⎟ 2 ⎝m ⎠ ⎝ mm ⎠ 最大圧縮応力 σ c max = M y = 868× (−12) = −10416 I ZZ 7 ⎛ kN ⎞ ⎜ 2⎟ ⎝ cm ⎠ z y面 せん断応力 x面 鋼製のはりではせん断力はそれ程の重要性を持たないが, コンクリートはりではせん断応力の影響は無視できない。 コンクリートはりの重要な破壊因子である斜引張力はせん 断応力によって発生するので,せん断応力についても十分 に学習しておかなければならない。 τ yx 面と向きの定義 せん断応力は作用する面と向きの2つで定義する。 τ xy 右図に示すように x 軸に垂直な面を x 面,軸に垂直な面 y を y 面と呼ぶ。 Δy Δx τ xy τ yx せん断応力を次のように,せん断応力の作用する面と 作用する向きの2つの添字で表す。 τ xy τ yx 第1添字はせん断応力の作用する面を,第2添字 は向きを表す。 せん断応力の共役性 Δx と Δy で囲まれる微小要素の力のつり合いを考 x Δx えてみよう。直応力は引っ張りが正とし,せん断応力 は図のように作用していると仮定しておく。中心点の 回転力のつり合いに直応力は寄与しないので,せん断 τ yx τ xy y 応力に関する次のつり合い式を得る。 ∑M i τ xy ⋅ =0 Δy (時計回り正)より Δx Δx Δy Δy ⋅ b + τ xy ⋅ ⋅ b − τ yx ⋅ ⋅ b − τ yx ⋅ ⋅ b = 0 2 2 2 2 ∴ τ xy = τ yx (7) 上記の性質をせん断応力の共役性と呼ぶ。 Δx η せん断応力の分布 τ はりの切断面,すなわち x 面に作用するせん断応力 xy の分布を求めるのに,せん断応力の共役性を利用して, 面に作用するせん断応力 y y − ∫ σ (η)dA + ∫ {σ (η) + Δσ (η)}dA − τ yxby Δx = 0 A A τ yx τ yxを求める作戦をとる。 面より外側の作用する水平力のつり合いを考える。 ∫ y Δσ (η)dA − τ yxby Δx = 0 8 (8) σ (η) σ (η) + Δσ (η) 面積に関する積分は,考えている点より外側について行うことに注意してほしい。任意の点 における曲げモーメントは次式で与えられる。 η Mx η Iz σ (η) = Δσ (η) = ΔM x η Iz (9) 上式を式(8)に代入して ΔM x η ⋅ dA − τ yxby Δx = 0 A I z ∫ τ yx = ΔM x Δx は 1 ΔM x by I z Δx (10) ∫ η ⋅ dA (11) A Δx を限りなくゼロに近づけると,曲げモーメントの微分を表す。 曲げモーメントせん断力の関係は次式で与えられている。 dMx = Qx dx (12) 面積積分の項は,考えている点 y より外側の断面の断面1次モーメントを示している。 Gy = ∫ η ⋅ dA (13) A とおくと, y 点におけるせん断応力は次式で与えられる。 τ yx = Gy by I z Qx (14) B 例題12 長方形断面のせん断力の分布を求めよ。 H (解答) y より外側の断面1次モーメントを求める。 H ⎡η ⎤ Gy = ∫ η ⋅ dA = B∫ 2 η ⋅ dη = B⎢ ⎥ A y ⎣ 2 ⎦y 2 H = B( H2 y2 − ) 8 2 断面2次モーメントは τ xy = B( η τ xy y 2 (a) 式(2)は BH 3 Iz = 12 H 2 y2 2 − ) 8 2 Q = 3Qx ⎧⎪1 − 4⎛⎜ y ⎞⎟ ⎫⎪(b) ⎨ x ⎝ H ⎠ ⎬⎪⎭ BH 3 2 BH ⎪⎩ B 12 9 y=± H 2 でゼロ、y で最大となる放物線である。 最大値はせん断力を面積で除し た平均せん断応力の1.5倍の値を 持つ。 =0 断面の性質 曲げモーメントによる応力、すなわち曲げ応力が次式で示されることが誘導された。 σx = Mx y Iz (1) σx :曲げ応力 Mx : x 点の曲げモーメント Iz :中立軸周りの断面2次モーメント y :中立軸からの距離 上式は構造力学を学ぶ上で最も重要な式である。コンサル タントにいるある先輩は、「荒牧、構造力学を教えているな ら、曲げ応力の式ぐらい使えるようにして出してくれよ」と 文句を言っていましたよ。大学の土木工学科を出て曲げ応力 も使えない卒業生などいらないと言った口振りでした。たぶ ん今もそのことは変わってないと思います。これを使えるよ うになるのは結構大変なんですよ。学生諸君、せめてこの式 だけは使えるようになって下さい。意味が分からず使えない 人は、佐賀大学で構造力学を習ったとは言わないで下さい。 曲げモーメントは切断と力の釣り合い から求めることができる断面に作用する 回転力である。 ここでは中立軸を定義する断面1次モーメントと、曲げ応力を求めるのに必要な断面2次 モーメントを徹底的に学習しておこう。 1. 断面1次モーメント 中立軸位置は断面1次モーメントがゼロとなる軸と して定義された。すなわち ● Gz = ∫ y ⋅ dA = 0 (2) A 長方形の板紙を中心付近で支えると、うまくバランス を取れる軸が存在する。その軸が断面1次モーメントが ゼロとなる軸である。長方形の場合は、中心点を通る軸 ならばどのような向きの軸でもつり合うから、図心軸は 無数にあることが分かる。3角形の図心位置が1:2の ● 位置にあることは有名である。 中学校、高等学校では図形の重心として取り扱ってき たことと思う。平面に重さはないので、重心より図心の 方が意味が明確です。 直感的ではなく、数学的に図心位置を定義するには 断面1次モーメントを理解しておく必要があります。 z いくつかの例題で断面1次モーメントを求めておき ましょう。 x これから計算する系は右下図のような系とする。す なわち、部材軸方向を x 、断面下向きに y 軸、奥行き 方向に z 軸となるような右手系を用いる。ただし、断 面の諸定数を求めるときは、自分で定義した使い慣れ た座標系を用いてよい。 10 y 例題1 幅B 、高さH の長方形断面の最下端 Z − Z 軸 回りの断面1次モーメントを求めよ。 微小面積 dA は次式で与えられるので、 dA = dydz (a) Z − Z 軸周りの断面1次モーメントは次のように求められる。 GZZ = ∫ y ⋅ dA = ∫ H 0 A ∫ y ⋅ dzdy = ∫ y ⋅ [ z ] dy B 0 y B B H 0 Y 0 H ⎡ y2 ⎤ BH 2 = B∫ y ⋅dy = B⎢ ⎥ = 0 2 ⎣ 2 ⎦0 H dA = dydz (b) H z 同様にして、Y − Y 軸回りの断面1次モーメントも計 y 算することができる。 Z HB2 GYY = ∫ z ⋅ dA = A 2 (c) z Z Y y B 問題1 幅 B 、高さ H の長方形断面の中心点を通る2本 Y の軸回りの断面1次モーメントをがゼロである dA = dydz ことを確かめよ。 Z 例題2 幅 B 、高さ H の三角形の底辺軸回りの断面1次 H y z z Z Y モーメントを求めよ。 dA = dydz とおいて、手順通りに積分する方法で も良いが、少し手を抜くやり方を考えよう。 dA は、右図に示すように y の関数である幅 by を用いて dA = by dy by H dy (a) と表すことができる。 y 幅 by は比例関係より、 y by = B(1 − ) H H GZZ = ∫ y ⋅ dA = ∫ y ⋅ B(1 − A 0 (b) H⎛ y y2 ⎞ )dy = B∫ ⎜ y − ⎟ dy 0 ⎝ H H⎠ H ⎡ y2 y3 ⎤ BH 2 = B⎢ − = ⎥ 6 ⎣ 2 3H ⎦ 0 (c) 11 Z B Z z y 例題3 半径 R の半円の Z − Z 軸回りの断面1次 モーメントを求めよ。 R 極座標表示の積分の練習にもってこいの問題で y す。自分でも必ずトレスしてみて下さい。 右下図のような微小面積 dA を考える。断面1 z Z Z 次モーメントは次のように求められる。 GZZ = ∫ y ⋅ dA = ∫ R 0 A π ∫ r sin θ ⋅ rdθdr = ∫ r dr[ − cos θ ]0 R π 2 0 2. dr 0 dA = rdθ ⋅ dr ⎡ r 3 ⎤ 2 R3 = 2⎢ ⎥ = 3 ⎣3⎦ (a) r y = r sin θ 座標軸の移動 断面1次モーメント及び中立軸を求めるのに便利 v y な公式を誘導しておこう。この公式を自由に操れる ようになると断面の性質の勉強も楽しくなります。 z dA = dydz 任意の座標軸 z 軸及び y 軸回りの断面1次 面積の定義式 モーメントを求める。 Gz = ∫ y ⋅ dA = ∫ ( y0 + v )dA = y0 ∫ dA + ∫ v ⋅dA A A A v w z0 A = y0 A + Gw w (3) y0 y G y = ∫ z ⋅ dA = ∫ ( z 0 + w)dA = z 0 ∫ dA + ∫ w ⋅dA A A A A z = z0 A + Gv (4) これはなかなか含蓄のある公式です。今 vw 軸を図心軸(中立軸)としてみよう。図 心軸の定義は断面1次モーメントがゼロなので、中立軸が分かっていれば任意の軸回りの 断面1次モーメント距離×面積で与えられるし、逆に任意の軸回りの断面1次モーメント が求まっていれば、その軸から中立軸までの距離は次式で与えられる。 y0 = Gz A z0 = Gy (5) A 12 y Y 4 長方形断面において Z − Z 軸回り及び Y − Y 軸 回りの断面1次モーメントが次のように与えら 例題 れている。図心軸までの距離 y 0 z0 と を求めよ。 H z0 2 BH 2 HB2 GYY = 2 GZZ = v B w y0 Z (解答) Z Y 座標軸移動の公式より中立軸までの距離は次の ように得られる。 BH 2 G H y0 = ZZ = 2 = A BH 2 HB2 G B z0 = YY = 2 = A BH 2 (a) 常識的な結果が得られたでしょう。 y 5 半円の Z − Z 軸回りの断面1次モーメントは次 式のように得られている。図心軸までの距離を求 例題 めよ。 R 2 R3 GZZ = 3 (解答) 半円の断面積は πR 2 y0 なので図心軸までの距離は 2 2 R3 G 4R = 0.424 R y0 = ZZ = 3 2 = πR 3π A 2 Z Z (a) 半円の図心軸位置は多分この方法が一番簡単に求まると思います。 次に複合断面の図心軸を求めてみよう。式(3)を2回う まく使うことにより簡単に求めることができる。 12cm 例題 6 右図の対称複合断面の図心軸位置を求めよ。 S2 2cm (解答) 最初にZ − Z 軸回りの断面1次モーメントを求める。断面 を S と S2 の2つの断面に分けて考える。長方形断面の 1 10cm 図心軸は中心であることが分かっているので Z − Z 軸回り の断面1次モーメントは容易に次のように得られる。 GZZ = 5 × 20 + 11 × 24 = 364cm3 (a) Z − Z 軸回りの断面1次モーメントが得られたので、全体 の面積で除してやれば図心軸までの距離が求まる。 y0 = GZZ 364 = = 8.27cm A 44 13 (b) Z S1 • y0 2cm 11cm 5cm Z z 3. 断面2次モーメント 断面2次モーメントは次式で定義された。 I z = ∫ y 2 ⋅ dA A 曲げを考えるとき最も基本的な物理量なので、 y 求め方を十分に理解しておいて下さい。 B Y 7 幅 B 、高さ H の長方形断面の最下端 Z − Z 軸 回りの断面2次モーメントを求めよ。 例題 dA = dydz H Z − Z 軸周りの断面2次モーメントは次のように求められる。 I ZZ = ∫ y ⋅ dA = ∫ 2 A H 0 ∫ B 0 2 0 = B∫ 0 y 0 Z H H z B y ⋅ dzdy = ∫ y ⋅ [ z ] dy H 2 ⎡ y3 ⎤ BH 3 y ⋅dy = B⎢ ⎥ = 3 ⎣ 3 ⎦0 z Z Y 2 (a) 同様にして、Y − Y 軸回りの断面2次モーメントも計算 することができる。 y IYY = ∫ z 2 ⋅ dA = A HB 3 3 B (b) Y dA = dydz 問題1 幅 B 、高さ H の長方形断面の中心点を通る2本 の軸回りの断面2次モーメントを求めよ。 H y z Z z Z Y 問題2 幅 B 、高さ H の三角形の底辺軸回りの断面2次 モーメントを求めよ。 by H dy y Z B 14 Z z y 8 半径 R の半円の Z − Z 軸回りの断面2次 モーメントを求めよ。 例題 R 右下図のような微小面積 y dA を考える。断面2 次モーメントは次のように求められる。 GZZ = ∫ y ⋅ dA = ∫ 2 A =∫ R 0 = π R 0 ∫ π Z r sin θ ⋅ rdθdr 2 0 2 π R 1 − cos 2θ ⎡θ sin 2θ ⎤ r dr ∫ ( )dθ = ∫ r 3dr ⎢ − 0 0 2 4 ⎥⎦ 0 ⎣2 π 3 R 2 ∫0 r 3dr = π ⎡r4 ⎤ dr dA = rdθ ⋅ dr R πR4 = 2 ⎢⎣ 4 ⎥⎦ 0 8 r (a) y = r sin θ 問題 3 半径 R の円の図心軸回りの断面2次モー メントを求めよ。 4. z Z R v y 座標軸の移動 断面1次モーメントの場合と同様に、座標軸の移動によ る断面2次モーメントを求める公式は非常に有用である。 z 任意の座標軸 z 軸及び y 軸回りの断面2次 dA = dydz w モーメントを求める。 = y0 2 y0 A ∫ dA + 2 y ∫ v ⋅ dA + ∫ v 0 A A A 2 w z0 I z = ∫ y 2 ⋅ dA = ∫ ( y0 + v )2 dA A v ⋅dA y (6) z I z = y0 A + I w 2 I y = z0 A + I v 2 (7) 中立軸の断面2次モーメントが分かると、任意の軸回りの断面2次モーメント は上式を用いて求めることができる。式(7)は非常に重要公式なので覚えてお くと便利です。 15 b 例題 9 長方形断面の中立軸 C − C 軸回りの断面2次モーメ ントは次の式で与えられることは有名である。底辺 C 軸回りの断面2次モーメントを求めよ。 Z−Z bh3 IC = 12 h C Z Z (解答) 座標軸移動の公式を用いて h bh3 bh3 2 I Z = y0 A + IC = ( )2 bh + = 2 12 3 例題 12cm 10 右図のような複合断面の図心軸が右図のよう に求まっている。図心軸回りの断面2次モー メントを求めよ。 S2 2cm 2.73 C 327 . (解答) 複合断面の断面2次モーメントはそれぞれの図 形の図心軸回りの断面2次モーメントの和を求め 10cm S1 ればよい。 12 ⋅ 23 2 ⋅ 103 I C = ( − 327 . ) ⋅ 20 + + 2.732 ⋅ 24 + 12 12 4 = 567.5cm 2 16 2cm C 8.27cm P 鉄筋コンクリート 土木工学においてコンクリート構造物の位置は非常 に大きい。近代構造工学の発展は安価な鋼材の供給と △ コンクリート技術の進歩によるところが大きい。コン l l 2 △ 2 クリートジャングルなどと悪口を言われながらも,そ の有用性のためにこれからも使い続けられるのは間違 せん断力図 いない。 コンクリートは加工が容易で安価であるが,引っ P + 2 張り応力に極めて弱いという弱点を有している。コ − ンクリート工学は鉄筋やピアノ鋼線,鋼棒で補強し てその弱点を補ってきた。鉄筋コンクリート工学が P 2 土木構造技術の中心であることはこれからも変わら ない。学生諸君,コンクリート構造工学の難しさと 楽しさをじっくりと勉強して下さい。この節はコン 曲げモーメント図 クリート工学の入門編の入り口です。 + Pl 4 コンクリートはりの破壊と防止 無筋コンクリート コンクリート製の単純ばりの中央に集中荷重を載 P 荷した場合を考えてみる。せん断力図と曲げモーメ ント図が右のようになる。この両図は力のつり合い だけで決まるもので,鉄筋が歩かないかには全く関 △ 係のないことを十分に認識してほしい。 曲げ亀裂 △ 鉄筋コンクリート(主鉄筋) P 曲げ破壊 鉄筋を入れていない無筋のコンクリートに荷重を 斜引張亀裂 かけると,載荷点の下側に亀裂が生じ,一挙に破壊 する。これは最大曲げモーメントが生じる中央部の 下側引っ張り応力がコンクリートの破壊強度を越え △ △ たために起こる曲げ破壊である。 主鉄筋 主鉄筋 曲げ破壊を防止するために引っ張り応力側に鉄筋 を入れる。正の曲げモーメントの時は下側に鉄筋を 入れなければならない。右下図のように片側張り出 ●● ● ● しばりの先端に載荷した場合は,全領域で曲げモー メントが負になるので,上側に鉄筋を挿入しなけれ ばならない。 鉄筋がどのような仕組みで補強材として作用する − かは鉄筋コンクリート工学に譲る。 △ 17 P △ 斜引張(しゃいんちょう)破壊 主鉄筋で補強した鉄筋コンクリートばりに載荷すると,支点付近で斜めの破壊線が生ずる 場合が多い。これは斜め方向に引っ張り応力が生じることによって起こる斜引張破壊である。 斜引張応力はせん断応力に起因するものである。 斜引張応力 中央点の下縁に近い 付近の中立点近くの A 要素と,支点 B 要素の応力の状 P 態を考える。 A 要素においてはせん断応力がゼロの B 位置なので曲げ応力だけが作用している。 一方 B 要素は中立軸近くにあるため曲 △ △ げ応力は作用せず,せん断応力だけが生 B 要素 せん断応力の共役性より4つの面に等 τ が生じている。 A 要素 τ じている。 しいせん断応力 C A τ τ 斜線部分で切断して考えてみよう。右 σb 下向きに作用する2つのせん断応力につ τ り合うために斜面上に面に垂直な引っ張 り応力が発生する。この引っ張り応力を σb せん断応力 曲げ応力(直応力) 斜引張応力と呼んでいる。 C 要素 斜引張応力 σn コンクリートは引っ張り力に弱いので τ τ τ τ 斜め方向に亀裂が発生したのである。 右支点に近い B 要素には負のせん断応 τ 力が発生するので亀裂のはいる方向は C 要素との亀裂面と直交する向きになる 斜め方向の応力については次節でじっくりと検討する。 18 τ P 鉄筋コンクリート (主鉄筋+曲げ上げ鉄筋+スターラップ) 曲げ上げ鉄筋とスターラップ 斜引張応力に抵抗するために主として2つ △ △ の方法が用いられている。 曲げモーメント図から理解できるように主鉄筋は中心 ● ● スターラップ 付近では多く必要だが,支点近くではそれ程多くの鉄筋 を必要としない。中心部付近で主鉄筋として用いた鉄筋 を途中から曲げ上げると斜引張応力に抵抗する補強鉄筋 となる。この鉄筋を曲げ上げ鉄筋と呼ぶ。 ● ● ● ● もう1つは主鉄筋を巻くように鉛直方向にループ状の 鉄筋を挿入する方法である。斜引張応力に対して45° の傾きで抵抗する。この鉄筋をスターラップと呼んでい る 主鉄筋,曲げ上げ鉄筋,帯鉄筋を土の位置にどれだけの量配置するかが鉄筋コンクリート工学 の基本中の基本である。これだけ予告編をやっておけば鉄筋コンクリート工学が猛烈に勉強した くなったでしょう。頑張って下さい。 19 P 鉄筋の引っ張り試験 鉄筋の引っ張り試験は材料の性質を考える基本的な試験である。このよう A に材料の強度や変形性能や破壊の状況などを調べる試験のことを材料試験と いう。 このような引っ張り試験を最初に実施したのは、かの有名なガリレオ・ガ リレイと言われている。彼を材料力学の元祖と呼んでもいいようです。ガリ l レオ・ガリレイという男は慣性の法則を見つけたり,天体運動の法則を確立 したり,宗教裁判を受けたり,材料力学を作ったり,本当の天才だったので すね。どんなことでも自分で考えて始める奴は本当に偉いと思います。人が やった後なら本当に簡単ですよね。「創造性」はこれからの時代のキーワー ドです。 P 断面積 A ,標点距離 l の供試体に張力 P をかけて伸びの状況を調べる。 おなじみの物理量を定義しよう。 N = Pa (パスカル) m2 P 2 N N 応力 :σ = 単位 = 102 = 10kPa 2 A cm m2 2 N N N Δl = 103 = 106 2 = MPa 2 2 ひずみ ε = 単位 mm m m l 無次元 ( ) ( ) (1) (2) (メガパスカル) 応力-ひずみ関係 1)縦軸に σ を,横軸に ε 座標軸をとる 2)鉄筋の引っ張り試験を行うと下図のような応力-ひずみ関係式を得る。 いくつかの特性(properties)を 述べてみよう。 σ 弾性領域 塑性領域 σU •C OA 区間 線形弾性領域(linear elastic region) 有名なHook(フック)の法 則が成り立つ範囲である。 σ = Eε σE σP •B • • • E G H A (3) E 上式は傾き E の直線式である。 1 E を弾性定数(Elastic constant),あるいはヤング係 数(Young’s modulus)と呼 ぶ。 単位は応力と同じである。 N m2 D O F ε 永久ひずみ 20 弾性範囲なのでこの区間で力を除く(除荷)と,同じパスをたどって原点 O に戻る。 A 点の応力 σ P を比例関係がここまでと言う意味で比例限度(proportional limit)という。 AB 区間 非線形弾性区間(nonlinear elastic region) 上記の線形関係は成立しないが,この区間で除荷すると載荷時と同じパスをたどる 弾性の性質をしめす。B 点の応力 σ E を弾性限度(elastic limit)と言う。 BG 区間 塑性領域(plastic region) 荷重を除荷すると原点 O に戻らず,永久ひずみ(permanent strain)が残る。例え ば,点 で荷重を除くと,弾性定数にほぼ等しい傾きの直線 上をたどり, 分の永 CD OD C 久ひずみが残る D から再載荷すると CD 直線上をたどり,C 点に到着した時点で元の応力ひずみ関係 に戻る。さらに E で除荷し,再載荷すると直線 EF上を往復して,元の応力ひずみ関係 式に戻る。 すなわち,材料は過去に受けた最大の応力を記憶している「応力記憶材料」と言うわけ である。この性質は土にも見られるから金属固有の性質ではない。土のような塑性領域を 何回も経験したようなすれっからしの材料を相手にするときはこの性質をよく知っておか ないと弾性範囲の広い材料のような勘違いをすることがある。少ない個数の試験で物性値 を決めると危険ですよ。 終局強度(ultimate strength) これ以上の応力には耐えることのできないと言う限度 σ U を終局強度と呼ぶ。設計の 時はこの終局強さが最終の限度である。この応力に達する状態を基準に設計を行うことを 終局強さ設計法,限界状態設計法と呼ぶ。現在の設計法は許容応力法から限界状態設計法 に移行しつつある。 許容応力(allowable stress) 次の式で定義される応力を許容応力と呼ぶ σa = σU σU F σa F : 安全率(safe factor) 例えば,安全率を2とすると終局強さの半 設計利用範囲 分を許容応力と定義したことになる。 許容応力設計法は,対象ごとに安全率を定め, 構造物に発生する応力をこの許容応力以下にする 方法である。 現場では限界状態設計法と併用されている。 21 土の強度 盛り土をした斜面が円弧状の面に沿って回転しながら滑ってしまう現象を円弧すべりと呼 ぶ。この現象は円弧で囲まれた土の塊が重力で下向きに引っ張られると、任意の点O回りに 滑ろうとする回転力が生じる。 面に作用する土の抵抗力によるモーメントがすべりの回転モーメントより大きければ安 定だが、小さくなったときにすべると考えられる。 土はせん断応力に対してどの程度の強度を有しているのか。土質力学における最も重 要なテーマの一つである。 O(回転中心) すべらせようとする回転力 せん断抵抗応力 鉄製のリング 土のせん断強度を求める古典的な実験方法に一面せん断試験がある。 真ん中ですべらせることのできる鉄製のリングの中に、土の供試体 をセットする。上から鉛直力 P をかけた状態でリングの横方向か ら水平力 S を加えると、面に沿ってせん断応力 τ が生ずる。 水平力 S を次第に増加すると、ある力の大きさで力を増 やさなくとも変位が増大する、いわゆるすべりの状態になる。 最大の τ を最大せん断力と呼ぶことにする。 土の供試体 供試体を取り替え、鉛直力を増やして実験を繰り返すと、一 般的には前より大きな S ですべる。鉛直力 P を数回変化さ せて実験を繰り返し、すべりが生ずる鉛直力と水平力を求めて S おく。 σ= P P A (1) S τ= A 22 τ S 横軸に直応力 σ をとり、縦軸にせん断応力 τ をとる。 τ (この座標軸はこの講義と土質力学で嫌と言う ほどでてきますので早く慣れて下さい。) 破壊領域 φ 実験で求めた破壊したときの直応力とせん断 応力をプロットしてみる。少々のばらつきは当 然あるが一般的には右のような図が得られる。 c σ この1本の直線は非常に重要な意味を持っ ているのです。いくつか列挙してみましょう。 1) せん断強度は面に垂直な圧縮応力と直線関係にある。 2) 直応力がゼロの時でも一定の強度を有している。 3) この直線の外側の応力状態にはなれないと考えてよい。 4) すなわち直線の外側は破壊領域である。 5) 直応力がゼロと時の値 c と角度 φ を用いた次のような式で直線を表すことができる。 τ f = c + σ tan φ (2) τf : せん断強度( N / m2 Pa ) σ : せん断面上の直応力( N / m2 c : 見かけの粘着力 ( φ : 内部摩擦角 N / m2 Pa Pa ) ) 上式はモール・クーロンの破壊基準と呼ばれている。 土の強度は土固有の性質だけでなく直応力に依存しているというのが大きな特徴です。その ため、土要素に生じている応力の向きと大きさが決まらないと土の強度が決まらないのです。 このように「強さ」が作用する面に垂直な力に依存するものに覚えがありませんか。 摩擦力です。摩擦力もクーロンの式と呼ばれるでしょう。親戚みたいなものです。 23 静止摩擦力と面に垂直な力との関係は、底面の大 N きさに関係なく次式で与えられた。 S = μN (3) いま、重さ 200 N の物体を考えてみよう。 S 上の場合の接地面積を 10cm2 とすると、直応力は σ = 20 N / cm2 となる。静止摩擦係数を 0.5 とすると、 水平力100N ですべり出す。そのときのせん断応力 はτ = 10 N / cm2 となる。 2 下の場合の接地面積を5cm とすると、直 応力とせん断応力はそれぞれ σ = 40 N / cm2 τ = 20 N / cm2 τ . σ = 05 N 両方とも静止まさつ係数に等しくなる。 摩擦の公式は式(2)のみかけの粘着力がな い場合と考えればよい。 24 S
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