公認会計士 神山 敏夫 氏 - 公益財団法人日本生産性本部

第21期 情報化推進懇話会
第2回例会:平成18年5月24日(水)
『日本版SOX法への対応∼内部統制の導入と課題∼』
講
公認会計士
師
神山
敏夫 氏
財団法人 社会経済生産性本部
情報化推進国民会議
『日本版SOX法への対応∼内部統制の導入と課題∼』
資
格
学歴・職歴
― プロフィール
公認会計士(登録番号
No.4153) ―
税 理 士(登録番号 No.22617)
① 昭和 39 年 9 月 公認会計士第二次試験合格
② 昭和 40 年 3 月 中央大学商学部 卒業
③ 公認会計士事務所にてインターン終了後、
昭和 44 年 2 月 公認会計士第三次試験合格
直ちに公認会計士の開業登録及び同年 5 月税理士登録
④ 昭和監査法人(現 新日本監査法人)等で法定監査(東証上場会社)
に従事した後、商法監査・任意監査・中小企業のコンサルティン
グ・サービス並びに、会計・税務等を行う。
⑤ 事業承継、贈与、相続に対する相談及び税務代理
⑥ 中堅企業の事務改善、株式公開準備業務及び経営相談
⑦ 東京家庭裁判所 家事調停員(平成 8 年 4 月就任)として、主に財
産分与・遺産分割を担当
公職等での主たる活動
著
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
日本公認会計士協会
日本公認会計士協会
日本公認会計士協会
日本公認会計士協会
総務省
元
文部科学省
元
内閣府 金融庁 前
最高裁判所
現
元 本部税制委員会 委員長
元 本 部 理 事
元 東京会(関東甲信越エリア) 会長
現 監 事
地方独立行政法人 会計基準等研究会メンバー
独立行政法人 評価委員
公認会計士第三次試験 試験委員
東京家庭裁判所 家事調停員・参与員
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⑪
経営管理基本技法集
(第一法規 ・共著)
経営指導ハンドブック
(第一法規 ・共著)
日本の前途
(サイマル出版会 ・共著)
専門家責任の理論と実際
(新日本法規 ・共著)
相続税通達100問100答
(ぎょうせい・編集協力者)
税務調査と会社経理
(第一法規 ・共著)
自分の会社で大儲けできる人損する人(太陽企画出版)
宗教法人会計の基本と税務
(税務経理協会 ・共著)
会社税務重要問題精選 500
(ぎょうせい ・共著)
公益法人監査ガイドブック
(税務経理協会 ・共著)
地方独立行政法人の会計と監査の手引き(共著)外 多数
書
1
はじめに
今日は公認会計士としての立場から、今の経済環境の激変に対応する法律や会計基準の
改定とその影響についてお話ししたいと思います。これは明治に日本が開国したときに匹
敵する、あるいはそれ以上の激変なのではないかと私は理解しています。私はもう 40 年近
くこの業界にいますが、監査やコンサルテーションの仕事そのものが、当初のものとはそ
のやり方もその背景となる法律も全く違ってきています。例えば今年の5月1日に施行に
なった新会社法を見ると、従来の商法では債権者保護が主体であったのに対し、今回は株
主が非常に強い権限を持つという形に変わり、従来の商法とは大きな違いが感じられます。
それでは、
日本版 SOX 法の背景となった米国エンロン事件からお話ししたいと思います。
1.エンロン崩壊の問題点
①エンロン発展の背景
アメリカのSOX法制定のきっかけとなったエンロンは、1985 年にヒューストンの天然
ガス会社として発足しました。その公益事業会社が、2001 年 12 月 2 日に chapter eleven
というアメリカの法律により、破産・更生申し立てをしたわけです。エンロンの発展の背
景には、アメリカで電力や天然ガス等のエネルギーについての規制緩和が行われたこと、
つまり、それらの市場を通しての売買が認められたことにあります。カリフォルニアにお
ける電力エネルギー危機にエンロンのトレーダーたちが大きく関わっていたことは、今で
はよく知られています。エンロンを監査していた世界最大のアーサー・アンダーセンとい
う会計事務所の会計士たちがその後かなりエンロンに転職し、アメリカのエネルギー関係
の取引を規制する連邦委員会の委員長のウェンディ・グラム氏がエンロンの経営陣に加わ
ったことで、官民癒着の構造ができ上がったと言えましょう。しかし、エネルギーの規制
緩和を推進するという大義名分のため、天下った段階ではそれほど大きな問題にはならな
かったのです。
「自由なマーケット」の教祖であり、ノーベル賞受賞者のシカゴ大学教授のロナルド・
コースの理論をあらゆる財に適用するというのがエンロン経営陣の旗印でした。すなわち、
エネルギーだけでなく、天候さえも市場を通して売り買いをする自由なマーケットを標榜
していたということです。また、公害問題に関連して、企業に割り当てられた排出権の売
買なども行っていました。つまり、神の見えざる手によって市場が価格を決定するという
アダム・スミスの『国富論』の信奉者の流れだったのです。
また、証券アナリストや格付け機関が、常に「投資家は、エンロンが信用できないとい
うならば、どの株が信用できるのか」と推奨していましたし、Fortune500 に入っているこ
とからも分かるように、マスコミも含めたエンロン親衛隊というものが背景にあったので
す。さらに、ロビー活動を通じ、有力な政治家を莫大な資金力を背景に抱え込んでいまし
た。
2.エンロン崩壊の問題点
②バーチャル・カンパニーへの変貌と倫理観の喪失
しかし、エンロンは次第に資産を圧縮してインターネット事業会社に変身していきます。
2
その過程では、天然ガス会社時代のパイプラインをそのまま保有し、資金を確保するため
に油田を子会社に移し、その子会社の株式を一般に売却していたのですが、これが後に大
きな問題を引き起こします。また、エンロンのほかに、LJMというパートナーシップの
組合や多くのSPE(投資事業組合)を組成させ、そこに飛ばすことで損失の隠蔽を図っ
ていきます。さらに、エンロンの経営者の多くが、破綻前に自社株を大量に売り抜けてい
ました。アメリカの会社は経営者にストックオプションを必ずと言っていいほど与えてお
り、それによって経営者が莫大な報酬を得るという図式ができ上がっているのです。それ
を利用して破綻前に売り抜けることで、100 億円の利益を得た人もいるといわれています。
また、エンロンの経営者はそろって非常に高学歴で、ハーバード・ビジネス・スクール
の出身者も多いのですが、それ以外の人は内情を全く知らないという状態でした。そして
ランク・アンド・ヤンク(足を引っ張る)という非常に厳しい人事考課を採用して緊張感
を与えていたということで、行き過ぎた成果主義が問題となっています。こうしてエンロ
ンは、IT企業への脱皮の中で設備型企業から金融企業へと変貌していき、その中で使命
感をなくし、何でもかんでも儲かればいい、というミッション・マネジメントにはほど遠
い利益獲得マシーンに陥っていってしまうのです。
そして、次には会計上のまやかしに突き進むことになります。本来、設備は会計上取得
原価で計上し、それから減価償却を引いていくという費用の配分が原則となりますが、エ
ンロンの場合、連結決算の対象から外すことができる形式基準、すなわち、出資の金額の
5%を超えないとか、借入金や資本金、債権者などの外部からの投資が3%というSPE
を 2400 も作ったのです。そして、設備をSPEに売り、その利益だけが計上されるように
しました。このようにどんどん開発されるビジネスモデルに法律が追いついていけなくな
り、予防法務機能が作動しなくなっていたのです。さらに、政治家、弁護士、会計士、証
券アナリストなども、専門家としての職業倫理が大きく欠落していたと思われます。
3.エンロン崩壊の問題点
③コーポレート・コンプライアンスの機能不全
その結果が、負債総額7兆円、粉飾額 6400 億円、株価下落額5兆円、401k の損失 2300
億円です。これには、レイ(CEO:創業者)
、スキリング(社長兼COO)、ファスト(C
FO)、コーセイ(CAO)というエンロンのトップ4人が、エンロンという会社を独裁的
に動かしてきたというコーポレート・コンプライアンスの機能不全が大きくかかわってい
ました。経営者や経営幹部に対する経済的利益を含む実質報酬は、取締役報酬総額が 340
億円(1人平均4億円弱)、上級幹部平均 8000 万円という莫大な金額に達していたといわ
れます。
エンロンでコーポレート・コンプライアンスがあまり働かなかったのは、国税庁や労働
省、証券取引委員会(SEC)など、多くの行政機関とのかかわりが多かったこともその
理由かもしれません。また、大型倒産のリーガルコストは通常1億ドル程度なのですが、
エンロンは年間 300 億円のリーガルコストをかけて、倒産の後始末をやっています。ヴァ
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イル・ゴチャル法律事務所への支払は毎月 600 万ドル、年間で 70 億円ほどに達するのです。
エンロンでは社内弁護士を 300 人抱え、社外も含めれば 1000 人ぐらいの弁護士が法律関係
に携わっていたといいます。これが行き過ぎた訴訟社会の末路です。
また、去年5月、連邦最高裁はアーサー・アンダーセンの有罪判決を全会一致で覆し、
無罪としました。これは、アメリカが会計監査よりもコーポレート・ガバナンスに問題が
あったことを認めたことを意味します。ただ、アーサー・アンダーセンが監査業務とコン
サルティング業務を兼任していたことは問題です。実際のところ、アーサー・アンダーセ
ンは監査報酬の 27 億 5000 円に加えて、コンサルティング業務の報酬としてそれを越える
29 億 7000 万円を得ているのです。
4.エンロン崩壊の問題点
④脱税疑惑
さらに、国税庁(IRS)はエンロンの脱税疑惑を指摘しました。合衆国議会両院合同
租税委員会が公表したものによると、エンロンは社外弁護士グループその他を使って 20 億
ドルの脱税をしているほかに、1996∼1999 年の間の株主への報告利益が 30 億ドルであった
のに対し、税務当局への申告は 30 億ドルの赤字として法人税を納税していないことが発覚
しているのです。アメリカでは日本と違い、税務申告と決算書が連動していない部分があ
りますので、執行幹部のタックス・シェルターの考案(税金の繰延)など、行き過ぎた節
税工作も行われたと考えられます。
5.サーベランス・オックスレー法(SOX法)
①弁護士の役割の拡大
エンロンやワールドコムの事件を背景にしてできたのが、SOX法です。同様な企業犯
罪がかなり内在しているのではないかということで、アメリカではすでに研究が始まって
いたこともあって、SOX法は議会公聴会、ホワイトハウスの内部検討会、民間団体の提
言など、かなり広範囲の検討プロセスを経て、エンロン破綻からわずか1年弱という異例
のスピードで成立し、その6か月後にSEC連邦施行規則が制定されました。
この法律の中心的課題は、コーポレート・ガバナンスの改革にあります。つまり、日本
のSOX法への対応とは違って、アメリカでは企業統治については経営者に非常に重きを
置いているのです。加えて、弁護士の役割が非常に重要な位置づけになっています。アメ
リカではゼネラルコンサルという立場の人たちが必ず弁護士資格を持っていますが、エン
ロンではその社内弁護士の活用のしかたがあまりよくなかったということで、SOX法で
は企業不正を知った弁護士は、順次、上部機関に報告し、是正されていない場合には取締
役会に報告することを義務づけています。すなわち、弁護士の守秘義務の例外として、取
締役会に対する報告を義務づけたのです。これについてはかなりアメリカの弁護士業界が
反対したようですが、企業不正を知った弁護士の報告義務の具体化を証券取引委員会が制
定する連邦施行規則にゆだねられ、2003 年8月5日に施行されています。ちなみに、その
報告ルートは、CLO(最高法務責任者)、CEO、監査委員会、取締役会、もしくは会社
4
が任意に設定した法律遵守委員会(QLCC)
、SECに報告するというものです。これは
従来弁護士が持っていた秘匿特権を侵害するものではないとされ、会社は担当弁護士から
辞任通告があった場合には、2営業日以内にSECに報告しなければならないとされまし
た。辞任をするということは、かなり問題があるということです。さらに、ABA(米国
法曹協会)も弁護士行動モデル規定を改定しています。
6.SOX法
②NYSE/NASDAQの上場基準改定ほか
また、ニューヨーク証券取引所とナスダックの上場基準も改定され、(イ)ディスクロー
ジャー・プロセス、(ロ)独立取締役の厳格化、(ハ)監査・指名・報酬委員会の独立性、(ニ)
企業倫理綱領の整備・公表、(ホ)監査委員会による弁護士の直接雇用、(ヘ)内部告発者の
保護を定めました。ちなみに、日本でも内部通報者保護法が今年の4月から施行されてい
ます。
会計士や弁護士の組織体には、LLP(Limited Liability Partnership)やGP(General
Partnership)などのパートナーシップの形態があるが、LLPではファームと問題を起こ
したパートナーが責任を負うことにし、GPではパートナー全員の連帯責任を負うという
ものです。アーサー・アンダーセンはGP型でしたが、これからの事務所はLLP型にし
ようという方向に動いています。日本の監査法人はまだほとんどGP型で、今問題になっ
ている中央青山監査法人の社員として登録されている人は無限連帯責任を負うことになり
ます。ただ、公認会計士法の改正問題で今これが問題として取り上げられていますので、
日本でも今後はLLP型になっていくのではないかと思います。
エンロンにおけるガバナンスは、組織と人事の両面で整っていたように見えました。と
ころが現実にはコンフリクト・アンド・チェックの手立てがなく、監視機能が不足してい
たということです。コンフリクトには現実のコンフリクトと潜在的なコンフリクト、つま
り、現実に利害が相反しているケースもあれば、将来そうなるのではないかという意味の
ものがあるのです。
また、SOX法では取締役の自社株売買の届出義務が定められ、SECの連邦規定は、
年金ファンド組み入れ株式の取引禁止期間中の取締役および執行役の売買を禁じています。
エンロンのときはこの法律がなかったために、取締役のみがエンロンの株を売買でき、401k
に加入している従業員はそれが全くできなかったのです。
また、エンロンにはコンプライアンス委員会が置かれ、倫理基準も整備されていました
が、倫理基準(ethical standards)が有効に働いていなかったといわれています。ですか
ら、幾らりっぱな法律やマニュアル、基準ができても、それを適切に運用して守っていこ
うという企業文化がなければ、目的を達成することは絶対にできないのです。今の日本の
会社法もその程度しか考えていないので、そのうちいろいろな問題が出てくると思います。
5
7.SOX法
③内部統制監査
内部統制は、アメリカの企業の日本子会社については 2004 年 11 月 15 日以降に終了する
事業年度から適用されており、SEC登録の日本企業については来年の3月期から適用さ
れることになります。また、内部統制の監査については、解釈法で内部統制システムの問
題が出ていますので、日本も3年後にはこれをやることになっています。
SOX法の 404 条には経営者による内部統制の評価が定められていて、経営者は自分の
会社の内部統制について評価し、それを報告書としてまとめなければならないことになっ
ています。そして、その内部統制報告書には、(イ)経営者は、財務報告に係る内部統制を
整備し、維持する責任があるということと、(ロ)経営者が評価した財務報告に係る内部統
制の有効性、そして、経営者の内部統制評価に対して、監査人は、内部統制の監査基準に
準拠し、その結果を記載して報告しなければならないことになっています。
これについては日本はまだ遅れていますが、3年後から行われることになっています。
財務諸表の監査を頭に思い描いていただくとわかりやすいかと思います。会社が財務諸表
を作り、株主に対して報告をする、その財務諸表を監査するのが公認会計士ですが、同じ
ように、まず経営者が内部統制報告書というものを作り、それに対して公認会計士がその
内部統制システムが正しくできているかどうか、正しく運用されているかどうかについて
監査報告書を出すということです。ですから、実質的には、財務報告の監査も内部統制シ
ステムの監査も同一の監査人がやることになります。つまり、そういう仕組みが二重に付
加されたということになるかと思います。
また、この内部統制の評価に適合したフレームワークとしては、COSO(The
Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission)より「Enterprise
Risk Management-Integrated Framework(ERMのフレームワーク)」が 10 年以上前に公
表されたものの改訂版を 2004 年の9月に発表しています。また、COSOは内部統制に関
して、(イ)業務の有効性および効率性、(ロ)財務報告の信頼性、(ハ)関係する法令等の
遵守という三つの目的を達成するため企業内部で運用されるプロセスであると定義してい
ます。また、この日本版ではこれに(ニ)ITへの対応ということが付け加わっていますが、
アメリカではこれを加えていないのは、当然だと思っているからでしょう。
また、監査人の独立性強化として、財務情報開示の拡張、経営者(CEO、CFO)に
よる財務報告および内部統制評価に対して適正に表示している旨の監査人の署名付き証明
書を提出することになっています。
以上、まとめて申し上げますと、アメリカ版SOX法は、コーポレート・ガバナンスを
主体にしていますので、企業幹部に対する監視を非常に強めているということです。例え
ば四半期ごとのCEOの署名付きの宣誓書を出させており、それに違反すれば罰則がある
ことになります。また第2に、投資家の保護が図られており、賠償金の一部を会社から取
り上げて、株主へ弁済する公的な機構ができています。第3の内部告発者の保護について
は、すでにお話ししました。第4に監査事務所への監視を強化し、SECから独立した企
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業監視委員会が、監査事務所が監査とコンサルティングを同時提供することに対し制限を
設けています。また、第5に、証券詐欺に対しては禁固 25 年という重罪を課すことになっ
ています。
8.カネボウ粉飾事件とライブドア事件
話題を日本に移しましょう。カネボウ粉飾事件では、粉飾の手口として連結外しをして
いました。これを監査人である会計士が指南したということになっていますが、それはま
ず考えられません。連結の条件はこうですよと会社の方に言えば、その条件を外せば連結
外しになるのかなという推定が立つわけです。それで結局、赤字会社の連結外しと架空売
上の計上、そして、減損処理の回避による粉飾決算を行ったということです。しかし、カ
ネボウを監査した中央青山監査法人に対して、検察庁がその罪を問わなかったため、金融
庁が行政処分として「今年7月から2か月間、すべての業務について停止処分とする」と
いう日本で初めての重い処分を課したのです。
また、ライブドア事件に関しては、エンロンに関してお話ししたようなことがほとんど
堀江前社長と彼を取り巻く会計士・弁護士を含むブレーン集団によって行われた、あるい
はゼネラル・マネジメント社という外部のコンサルタント会社がいろいろな形で指導した
といわれています。この事件の特徴は、株式分割により流通株の品薄状態を作り出したり、
株式交換による企業買収を繰り返し、魅力ある会社を演出したということで、これが株式
の時価総額を押し上げたといわれています。結局、偽計取引と風説の流布で上場廃止とな
りましたが、個人株主が今大変なことになっており、1500 人以上の株主が訴訟の準備をし
ているようです。
ちなみに、株主代表訴訟の実例としては、日本興業銀行の過剰融資事件、ビデオリサー
チ損害賠償請求事件、新王子製紙先物取引損失事件、大林組独禁法違反による課徴金事件、
日本航空の違法な為替予約損害事件などがあります。また、財テク失敗に伴う事件も多く
発生しており、今後、株主代表訴訟の提起が想定されるケースとしては、(イ)内部告発型・
内紛型、(ロ)市民オンブズマン、(ハ)総会屋、(ニ)外人投資家による一定数以上の買い
占め、(ホ)社長の独断専行型、(ヘ)株主構成が不安定、(ト)労働組合や取引先導との不良
な関係、(チ)株価の変動が不自然な会社等が考えられます。
9.コーポレート・ガバナンスのための法改正
日本では、冒頭申し上げたように、商法の改正を受けて、今年の5月1日に新会社法が
施行になりましたが、これ以前にも、平成5年の株主代表訴訟、平成 13 年の監査役の機能
強化、平成 14 年の委員会等設置会社に関する改正が行われています。また、2001 年に小泉
内閣ができてから「成長のための日米パートナーシップ委員会」が設立され、日米投資イ
ニシアティブという重要な会合が毎年1回持たれて、その報告書が出るようになりました。
2002 年のその第1回の報告が、アメリカ型コーポレート・ガバナンスを選択できるような
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制度を商法に入れろというもので、平成 14 年の委員会等設置会社の導入はこれを反映した
ものです。第2回は対日直接投資、国境を超えたクロスボーダーの三角合併を認めろとい
うもので、これは新会社法に入っていますが、この条項の発動については1年後に延期さ
れました。したがって、1年後には、アメリカ資本の何千億円という金が入ってきても不
思議ではないということです。アメリカの会社の株を渡す株式交換という手法を使えば、
こちらにお金を持ってくる必要はないのです。これが堀江氏の取った手法です。また、第
3回の報告書には、投資適格、不動産市場の流動化ということが書かれていますが、これ
により今、外資がどんどん日本の不動産、特に都心部を購入しているのです。
次に、今でも多い監査役設置会社(従前型)においても、取締役および監査役は、委員
会等設置会社の取締役や監査委員会と同じ責任があると理解されるようになってきました。
したがって、監査役というのが日本でもかなり重要視されるようになってきたということ
です。日本監査役協会が平成 16 年2月に公表した「監査役監査基準」や会社法施行に向け
て平成 18 年 3 月 9 日同協会の監査法規委員会内部統制部会から「
内部統制システムに関する監査役の当面の実務対応」が公表されています。資料を参考に
して下さい。
ちなみに、監査役の主要な職務は、取締役の善管注意義務の履行として、十分な情報と
適切な意思決定プロセスに基づいて合理的な決定を行っているかどうかを取締役会に陪席
して監査する、あるいは必要であればその部署に出向いて事情聴取するということが一つ
あります。そして、二つには、取締役会が適切な「内部統制システム大綱」を定め、それ
に基づき代表取締役や業務担当取締役が内部統制システムを整備しているかどうかを監視
し、up-date していくということです。そして三つめは、企業情報開示の適正性、透明性、
信頼性の確保のため、会計監査人の独立性を監査する。つまり、会計監査人を替えるとき
は監査役の同意がなければできませんので、代表者の言い分をあまり聞かない会計監査人
を勝手にクビにできないということです。
そこで内部統制という問題が出てくるわけですが、会計士業界ができたときからすでに
内部統制についての監査はやっていますので、これはそんなに新しい言葉ではありません。
ちなみに、内部統制システムとは、
「リスク管理、法令等遵守、職務の効率化、適正な財務
報告などの目的を達成するために、経営行動に携わる人々の行動を統制する仕組み」とい
うのが、一種の定義となっています。
次に、内部統制システムに対する取締役会の責任ということでは、日本の会社法の 362
条第4項第6号にその構築に対する責任が書いてあります。そして、会社法施行規則の第
100 条第1項に五つ、第3項に四つ、合計 10 項目についてきちんと制定しなければいけな
いとなっています。ですから、そんなにやっかいなことではないのです。
会社法とは全部で 979 条ある法律で、1編から8編で構成されています。その第2編が
株式会社編で、第 25 条から第 574 条までとなっています。新会社法の主なポイントは、従
来、経産省の承認を受けた場合は、資本金1円でも会社ができるということがありました
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が、新会社法では資本金の縛りをなくしましたので、有限会社は廃止となり、1円でも株
式会社ができるようになりました。現在の有限会社は株式会社にするか、特例有限会社と
いうことで名前だけ有限会社の形で残しておくかのどちらかを選択することになります。
また、それ以外に新しい制度として、合同会社(LLC)というものを作りました。しか
し、この合同会社自体で税金を納めることになっているので、使い勝手があまりよくない
といわれています。また、その 782 条で三角合併が可能となりましたが、これは 07 年の5
月1日以降発効することになっています。
また、株主への配当では、年4回配当するところが多くなったということが新聞で報道
されていると思います。剰余金のうち自己株式を除いた分配可能額の範囲の金額は、取締役
会に委任されている場合は、いつでも取締役会の決定で分配することができることになり
ますから、株主総会の承認を受けたり中間配当まで待つ必要はないということになります。
さらに、役員の責任限定ですが、上場企業の場合、大物の社外役員がけっこう入ってき
ています。しかし、本当にその会社の内容がわからないような場合には、その責任に限度
を設けておく必要があるだろうということで、代表取締役または代表執行役は年間報酬の
6年分、代表取締役以外の社内取締役は年間報酬の4年分、社外取締役、会計参与、監査
役または会計監査人は年間報酬の2年分で免除してやろうということになっています。
新会社法における機関設計については、資料にその類型を私が表にしたものがあります。
まず一つの類型として、公開会社(株式の譲渡に制限がない会社)と閉鎖会社(株式の譲
渡には取締役会の承認を要する会社)というものがあり、もう一つの類型として、大会社
(資本金5億円以上または負債総額 200 億円以上の会社)と中小会社(大会社以外)とい
うものがあります。ご自身の会社や子会社の管理などの参考にしてください。
また、
「財務報告に係る内部統制の評価および監査の基準」で注意していただきたいのは、
その統制環境について、
「組織の気風を決定し、組織内のすべての者の統制に対する意識に
影響を与えるとともに、他の基本的要素の基盤として、リスクの評価と対応、統制活動、
情報と伝達、モニタリングおよびITへの対応に影響を及ぼす基盤をいう」となっている
ことです。これは簡単にいうと、コンプライアンス重視の社風あるいは企業文化を守って
いこうということです。
ITへの対応ということでは、経産省がEA(Enterprise Architecture)の情報政策と
いうところで取り上げており、相当研究した報告書が出ています。
「内部統制システムに対する監査役の当面の実務対応」、「リスクマネジメントと内部統
制」についても資料を用意しましたので、ご参考になればと思います。また、日本経済団体
連合会が出した「企業行動憲章」、国家公務員の倫理規定の抜粋、新会社法施行の日である
平成 18 年5月1日に大阪第2部市場のフジックスという株式会社が出した「内部統制シス
テムの構築の基本方針に関する決議のお知らせ」、コンプライアンス・プログラムやプライ
バシー・ポリシーの見本、電子広告概念図も付けておきましたので、ご参考になさってく
ださい。
9
最後に今後、立法が予定されている金融商品取引法(仮称)について関心を持って頂き
たいと思います。ご静聴ありがとうございました。
(以
10
上)