2015.01.22 スイス中銀ショック(ピクテ投信投資顧問)

ご参考資料
ピクテ・グローバル・マーケット・ウォッチ 2015年1月21日
先進国
Pictet Global Market Watch
スイス中銀ショック
ユーロに対して設定していたスイスフランの上限を、スイス国立銀行(中央銀行、SNB)が突然撤廃したことから、ス
イスフランは急騰の展開となりました。SNBは欧州中央銀行(ECB)の量的金融緩和観測を勘案し、上限の維持を
断念したものと思われます。スイス経済ならびに株式市場には、マイナスの影響が及ぶと見ています。
図表1:SNBのバランスシートならびに
スイス名目GDPの推移
SNBの決定と金融市場の反応はどのよう
なものでしたか?
2015年1月15日、スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は、
2011年9月に対ユーロで設定したスイスフランの上限を
撤廃しました。SNBの決定に対してスイスフランは急騰
し、対ユーロでは一時的に約40%上昇、一方、対ドルで
も3年ぶりの高値を付けました。G10参加国の通貨がこ
れほどの変動を示すことは異例です。
同日のスイス株式市場は、現地通貨ベースで約10%の
大幅下落となり、スイス債券利回りはマイナス圏での
低下幅を拡大しました。
また、ポーランドやハンガリー等、多額のスイスフラン
建て民間債務を抱える国の通貨も下落しました。
(期間:2000年1月~2015年1月)
億スイスフラン
スイスの名目GDP
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
SNBのバランスシート
1,000
0
2000年
2005年
2010年
2015年
出所:トムソン・ロイター・データストリームのデータを使用しピクテ投信
投資顧問作成
対ユーロのスイスフランの上限は、そも
そも、なぜ設定されたのですか?
対ユーロのスイスフランの上限は、スイスフラン高が国
内経済の回復を脅かす水準にまで進むことを回避する
ために設定されたのです。上限が設定された2011年秋、
スイスフランは1ユーロ=1スイスフランのパリティ近辺で
推移しており、ピクテの試算では、適正価値をほぼ4標
準偏差上回っていました。
上限設定は、強まりつつあったデフレ懸念に対する対
応でもありました。
SNBはなぜ上限を撤廃したのでしょうか?
SNBは、スイスフランはもはや過大評価されているわ
けではないと述べ、「足元の状況に対して政策を調整
する機会を捉えることが出来た」と説明しています。
とはいえ、スイスのインフレ率がSNBの目標水準を遥
かに下回る-0.3%であることから、金融政策変更の背景
にはSNBが挙げた以外の要因があったことは明らかで
す。
1月22日の欧州中央銀行(ECB)理事会で本格的な量
的金融緩和策が決定されれば、ユーロ安が進み、対ユ
ーロのスイスフランの上限に抵触するのではないかと
の懸念をSNBが強めていたであろうことは想像に難く
ありません。そのような状況が実現すれば、SNBは、上
限維持のため紙幣を発行し続けなければならず、した
がって、同行のバランスシートが適正な水準を大きく超
える規模にまで拡大することになりかねません。
SNBのバランスシートは5,250億スイスフランに膨れ上
がっています(図表1参照)。
<次ページに続きます>
ピクテ投信投資顧問株式会社
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
1
3
ご参考資料
Pictet Global Market Watch
先進国
2014年12月以降、SNBがドイツならびにフランスの短
期国債を買い続けており、購入額が275億スイスフラン
に上っていることには留意が必要です。短期国債の短
期間での大量購入は、購入対象債券が近い将来底を
ついてしまう可能性を示唆しているからです。購入する
国債の年限を長期化し、信用格付けの幅を広げること
は受け入れ難かったのかもしれません。SNBは、ECB
の量的金融緩和実施後のユーロ急落を勘案し、対
ユーロのスイスフラン上限を維持するためのコストとリ
スクは大き過ぎると判断した公算が高いと考えます。
SNBの決定が示唆すること
3)スイスフラン建て債務を抱える新興欧州各国
2015年1月15日のSNBの発表を受け、ハンガリー・フォ
リントならびにポーランド・ズロチは急落の展開となりま
した。両国の民間セクターは、多額のスイスフラン建て
債務を抱えているからです。ハンガリーでは、住宅ロー
ンの40%以上がスイスフラン建てとなっており、GDPの
9%程度に達しています。また、ポーランドでもスイスフラ
ン建て住宅ローンがGDPの7.8%を占めています。スイ
スフラン高が家計のローン返済を困難とするであろうこ
とは明らかです。(もっとも、ハンガリー政府は外貨建て
ローンを自国通貨建てローンに変換する制度を提供し
ていることから、ローン利用者が恩恵を受けることもあ
り得ます。)
1)スイス経済ならびにスイス企業
4)中央銀行の政策ガイダンスに対する信任
スイス経済は景気後退(リセッション)入りが予想されま
す。ピクテの試算では、スイスフラン(実効為替レート)
の5%の上昇は、100ベーシス・ポイント(1%)の金利上昇
に相当すると見ています。スイスフランが足元の水準
で推移するならば、輸出依存度の高いスイス経済は、
2015年は2-3%程度のマイナス成長となり、失業率が2%
程度上昇することも想定されます。このような状況では、
SNBの決定がスイス経済をデフレの脅威にさらすことと
なります。最も悲観的な状況では、スイス企業の製造
拠点の国外への移転や大規模な事業再編もあり得る
と考えます。スイスSMI指数の構成企業は、売上の90%
以上をスイス国外で計上しています。
SNBの決定を受け、同行に対する信任が損なわれたこ
とは疑いの余地がありません。対ユーロのスイスフラン
上限を何としても堅持する意志を、僅か数日前に明言
していたからです。とはいえ、重要なことは、デフレ入り
がほぼ決定的となり、スイスフランが2011年当時の水
準を回復する状況で、ピクテのモデルによると、スイス
フランの実効為替レートが適正価値を17%程度上回っ
ており、SNBの行動を経済的に正当化するのは困難だ
ということなのです。
SNBが中銀預金金利のマイナス幅を拡大したことが、
スイスフラン高の影響を緩和するとは思われません。
0.75%のマイナス金利が大手行に適用されるわけでは
ないからです。銀行貸出の伸びは、信用需要が低迷す
る環境ではなおさらのこと、期待できそうにありません。
SNBの行動は、システミック・リスクの懸念を強める結
果となり、中小行から大手行に預金を移す動きを促す
ことともなりかねません。
SNBがスイスフランの上限設定の対象をユーロから通
貨バスケットに変える等の代替案を検討しなかったこと
も懸念されます。
より広い視点からすると、SNBの決定は、2008年の債
務危機を受けて設定された非伝統的施策の運営に対
して各国中銀が抱える問題を端的に表していると言え
そうです。スイス企業は勿論のこと、投資家は、信頼で
きるとの定評があった中央銀行の行動に不意を突か
れる結果となりました。今後は中銀のフォワード・ガイ
ダンスが信頼を失うことともなりかねません。
5)株式市場ならびに債券市場
2)ユーロ圏の金融政策の見通し
SNBの政策変更が示唆しているのは、ECBが1月22日
の理事会で本格的な量的金融緩和を決定することで
す。ピクテでは、ECBが量的金融緩和を、その使命と法
的枠組みの範囲内で行うため、ユーロ圏18ヵ国の国債
を同行への出資比率に応じて買い入れる公算が高い
と見ています。そうなると、買い入れ額の18%がドイツ国
債、14%がフランス国債、12%がイタリア国債、8%がスペ
イン国債となります。また、買い入れは月額では400億
ユーロ、総額では最低5,000億ユーロと見込まれ、これ
を下回る規模は市場の失望を誘う公算が高いと考えま
す。
・SNBの今回の決定を受け、今後、中銀の金利見通し
に対して懐疑的な見方が増え、その結果、金融市場の
ボラティリティが上昇する公算が高いと考えます。一方、
金は恩恵を受けるかもしれません。
・対ユーロのスイスフラン上限の撤廃は、スイス株式に
は明らかに悪材料です。株価収益率(PER、2015年利
益予想ベース)は16倍を上回っており、既に割高水準
で推移しているからです。
・SNBの政策転換は、ECBの本格的な量的金融緩和を
示唆しており、ユーロ圏の市場には好材料です。
<次ページに続きます>
ピクテ投信投資顧問株式会社
巻末の「当資料をご利用にあたっての注意事項等」を必ずお読みください。
2
3
ご参考資料
Pictet Global Market Watch
先進国
・投資家が日本銀行のデフレ脱却に向けた強い意志を
試すこととなれば、円の上昇が予想されます。通貨クロ
ーネをユーロに連動(ペッグ)させているデンマーク中
銀等、通貨ペッグ制を採用する中銀が、金融政策を市
場に試される展開もあり得ます。
・フランス国債ならびにドイツ国債は、売り圧力にさらさ
れる可能性があると考えます。前述の通り、2014年12
月以降、SNBが両国の国債を大量に購入しているから
です。もっとも、ECBの量的金融緩和は、これを相殺す
ることとなり得ます。
※将来の市場環境の変動等により、当資料記載の内
容が変更される場合があります。
当資料をご利用にあたっての注意事項等
●当資料はピクテ投信投資顧問株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場
の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。●当資料に記載された過去の実績は、将
来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用
目的への適合性を保証するものではありません。●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象
ではありません。●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、
会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。
3
3
商品内容説明資料補完書面(投資信託)
リスクについて

投資信託、投資証券はその投資対象となっている株券、債券、投資信託、不動産、商品
等(以下、
『裏付け資産』
『※』といいます。
)の価格や評価額に連動して基準価格が変動
し損失が生じるおそれがあります。したがって、投資元本が保証されているものではな
く、これを割込むことがあります。その他外貨建て資産に投資した場合には為替変動リ
スク等もあります。
 投資信託、投資証券は裏付け資産の発行者の業務や財産の状況等に変化が生じた場合、
投資信託、投資証券の価格が変動することによって損失が生じるおそれがあります。
 投資信託等には、解約することができない一定の期間(クローズド期間)が定められて
いるものもありますのでご留意下さい。
※ 裏付け資産が、投資信託、投資証券、預託証券、受益証券発行信託の受益証券等である場
合には、その最終的な裏付け資産を含みます。
手数料等諸費用について
■ 申込時に直接ご負担いただく費用等
・申込手数料等
上限 3.78%(税込)
■ 換金時に直接ご負担いただく費用等
・換金(解約)手数料
販売時に手数料がかかり、売却時にも手数料がかかるもの
該当する投資信託はありません
販売時に手数料がかからず、売却時に手数料がかかるもの
上限 3.00%(税込)
・信託財産留保額
上限 0.5%
※外国投資信託の売買時、分配時、償還時の為替レートは、外国為替市場の動向をふまえ
て当社が決定いたします。
■ 投資信託の保有期間中に間接的にご負担いただく費用等
・信託報酬
上限 3.30%(税込)程度
・その他の費用・手数料
監査費用、有価証券等の売買にかかる手数料等、その他のファンドの運営・管理に関
する費用・手数料等をご負担いただく場合がございますが、これらの費用・手数料等は、
事前に計算が出来ないため、その総額・計算方法を記載しておりません。
※当該手数料等の合計額については、保有期間等に応じて異なりますので、表示することはでき
ません。
投資信託に係るリスク、手数料等の詳細については投資信託説明書(交付目論見書)に詳しく記
載されておりますのでご覧ください。
当ファンドの販売会社について
商号等: 東海東京証券株式会社
加入協会:
金融商品取引業者
東海財務局長(金商)第 140 号
日本証券業協会、一般社団法人金融先物取引業協会
一般社団法人第二種金融商品取引業協会
201108