東京急行電鉄㈱ 経営統括室 人事企画部 18 加藤孝志 KATO Takashi 鉄道の安全運行につなげる 健康管理、健康支援活動の展開 働く人すべてが心身両面にわたり健康で働 鉄道の安全な運行の前提となる従業員の健康 くことができる職場環境を形成していくこと を確保・向上させるため、工夫を重ねていま が必要です。今回は、鉄道会社からの報告。 す。 東 京急行電鉄の概要 (中災防健康確保推進部) このため、2004年4月に新たな健康管 理・健康支援プランをコアとした「労働衛生 弊社は、東京の田園調布・洗足などの街づ 中期2ヶ年計画」を策定し、実施してまいり くりを手がけた田園都市株式会社を母体と ました。現在は、この計画実施で培った素地 し、1 922年(大正11年)9月2日に目黒蒲 と効果を踏まえ、2006年4月から「労働衛 田電鉄として設立されました。その後、東急 生3ヶ年計画」として新たにスタートし、2 多摩田園都市に代表される鉄道事業を基盤と 年目を迎えています。 した「街づくり」を事業の根幹に置きなが ら、長年にわたり、鉄・軌道事業、不動産事 労 業、リテール事業など、生活に密着した生活 ⑴対象者のプライオリティ付けを行い、 働衛生計画の概要 関連事業を展開しています。 活動を展開 健 当社社員(特に乗務員)の健康管理におい 康管理・健康支援活動の経緯 て、他業種との最大の違いは、自己の健康が 近年、生活習慣病やメンタルヘルス面で健 自己にとどまることなく第三者(旅客)へも 康状態に不安を抱える社員が増加傾向にあ 影響が及んでしまうことです。特に電車の運 り、これまでさまざまな対策を講じてきまし 行中に乗務員が健康障害を発症してしまい、 た。しかし対策そのものに連続性、継続性が 後の運転継続が困難となってしまうといった なく、体系立てて実施されていなかったため ことは絶対にあってはならず、また、許され に、その効果を把握するまでには至っておら るものではありません。 ず、また、そのことが社員の健康に対する意 識を希薄にする一因にもなっていました。 このため、職種に応じて健康支援を行うべ き者のプライオリティ(優先順位)付けを行 い、プライオリティ1の職種として鉄道運転 では、外部の専門講師からメンタルヘルスの 士、車掌、プライオリティ2の職種として駅 概要と傾聴術についての講義を受け、その 務係員、鉄道技術系係員、プライオリティ3 後、2人1組となり、それぞれ話し手役、聞 の職種として本社事務員を位置づけていま き手役となって演習を行いました。 す。このように差別化を図ることで鉄道乗務 今年度は「生活習慣病予防」をテーマと 員に対してより手厚い健康管理・健康支援を し、春季健康診断の結果、メタボリックシン 行っています。 ドロームに該当した者に対して「血圧脈波検 具体的に申しますと、例えば保健指導の基 査(CAVI)」を実施いたしました。これは 準として、血糖、脂質、血圧それぞれの項目 血管年齢を測定し、動脈硬化の程度を目に見 においてプライオリティ別(職種別)に基準 える形で示すことができるものです。検査か 値を定め、乗務員についてはより厳しい基準 ら得られる「血管年齢」と「血管の硬さ」か で対象者を選定し、指導を実施しています。 ら、自身の持っている心筋梗塞、脳卒中を発 ⑵年度ごとに重点取組事項を定め、 症するリスクを客観的に把握してもらうこと 活動を展開 で、食生活を見直す、運動を定期的に行うな 毎年、年度初めに、その年度に重点を置い どの行動変容につながるきっかけを提供する て活動を展開していく事項(テーマ)を決め 目的で実施いたしました。 ています。20 04年度は「禁煙推進」、2005 この結果をもとに、程度に応じて、産業医 年度は「肥満解消」、2006年度は「メンタル との面談、保健師との面談を実施し、生活改 ヘ ル ス 対 策 」 を テ ー マ に 活 動 し ま し た。 善などのアドバイスを行っています。 20 07年度は「生活習慣病予防」をテーマと ⑶数値目標を定めて活動を展開 して活動を展開しています。 各部や各事業場ごとに「健康者率(向上)」 2 004年度の「禁煙推進」については、喫 「喫煙率(低下)」「肥満者率(低下)」の3つ 煙者を対象に、禁煙につながる内容の研修会 の数値目標を定めて、健康管理・健康支援活 を実施し、産業医がたばこの害についての講 動を展開しています。 話を、衛生管理者が、楽にできる禁煙方法に これらの数値目標を達成するために、現在 ついての講話を行い、禁煙を希望する者には 3名の担当保健師が各現業事業場に出向き、 健康管理センターにおいてニコチンパッチの 個別の健康相談や健康指導のほか、健康講話 処方せんが出せる体制を整え、結果、数十名 を行っています。 の禁煙成功者を出すに至っています。 特に、講話自体に興味を持って聴講しても 昨年度は「メンタルヘルス対策」に重点を らえるように、パワーポイントを活用して写 置き、鉄道運転士、特に見習い運転士を指導 真や絵図を使ったり、クイズを取り入れて聴 する立場にある主任運転士、指導運転士に対 講者参加型の講話にするなど毎回工夫を凝ら して重点的に研修を行いました。この階層の した内容で実施しています。また、講話内容 運転士は、実際に電車の運転に携わり、お客 そのものも、単に「太ってはいけません」と 様の命を預かる立場にあることから、まずは か「塩分を摂りすぎてはいけません」といっ 自分自身のメンタルヘルス不調の未然予防を た内容にとどまらず、なぜ太ってはいけない 図ることが必要であり、さらに、見習い運転 のか、なぜ塩分を摂りすぎてはいけないのか 士にメンタルヘルス不調を発症させないため といった、具体的な体のメカニズムを詳細に の知識を修得することも求められます。研修 説明することで、自主的な行動変容につなげ 危険度診断・血圧(日本高血圧学会・高血圧治療ガイドライン 2004 収縮期 拡張期 120 未満 80 未満 かつ 収縮期 拡張期 130 未満 85 未満 かつ 収縮期 拡張期 130~139 85~89 または 収縮期 拡張期 140~159 90~99 または 収縮期 拡張期 160~179 100~109 または 収縮期 拡張期 180 110 以上 以上 または より) 最も心臓病や脳血管障害などを 起こしにくい理想的な血圧 至適血圧 正常血圧 正常高血圧 軽症高血圧 中等症高血圧 重症高血圧 ※収縮期と拡張期の血圧が異なる分類にあてはまるときは、高い分類にある方の値で考えましょう ※単位:mmHg 図 作成中の「健康診断結果の見方、活用法」(抜粋) ることをねらいとしています。 ドバイスの3つの項目を設けて解説するもの 今 です。健診結果が通知されたら、すぐにこの 後の課題 冊子をひも解き、自身の健診結果に興味を抱 弊社では、鉄道現業で働く者が深夜労働従 き、自身の結果がどの位置にあるのかを見極 事者であることもあり、健康診断を年に2回 め、数値が悪化する前になんらかの行動を起 行っています。 こすきっかけとなるようなツールにしたいと ここで問題となるのが、各自に健診結果を 通知した際、異常なしの場合、即、破棄して しまうケースが散見されることです。まった 思っています。 健 康者率のさらなる向上を目指す く問題のない異常なしなのか、今回はすれす ここ数年減少傾向にあった社員の健康者率 れのところで異常なしの判定になったにすぎ が、今年度の春季健康診断結果では増加に転 ず、このまま放置すると近い将来異常ありの じることができました。これは、前述しまし レベルになってしまうのかなど、各自が結果 た日々の地道な活動の成果が多少現れて来て (数値結果)に関心を持ち、健康状態を客観 いるものと自負しているところですが、それ 的に理解し、もし、ボーダーライン上にある 以上に社員一人ひとりの健康に対する意識が ならば、生活習慣を見直すなどの行動を社員 高まってきている証しであると思っています。 一人ひとりが取れるようになることが、今後 今後は、この増加に転じた健康者率をさら の健康者率向上につながるものと思っていま に高め、維持していく施策を立案し、実施し す。 てまいりたいと思っています。 このための施策として、現在、「健康診断 弊社は、このたび、(財)健康・体力づくり 結果の見方、活用法」なる冊子を作成し、全 事業財団が主催する体力つくり優秀組織表彰 社員に配付するべく準備を始めています。こ において「文部科学大臣賞(職域組織の部)」 の冊子は、健診の検査項目ごとに、①この検 を受賞いたました。この賞の受賞が名目だけ 査で何がわかるのか、②数値基準の解説(単 のものとなることのないよう、今後も社員の なる数値表記だけではなく信号のイラストを 健康管理と健康支援活動を積極的に進め、お 添えて、青なら正常値、黄なら注意値、赤な 客様に安全で安心してご利用いただける鉄道 ら異常値と表記)(図)、③ドクターからのア でありつづけるよう努力してまいります。 (中災防 月刊誌「安全と健康」H20.2月号より)
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