. . ( . ): ∼ 一般講演 8 心機能低下例の難治性心房細動・粗動に対する アミオダロンの長期効果 水牧 功一 菅生 昌高 藤木 明 常田 孝幸 西田 邦洋 長沢 秀彦 阪部 優夫 井上 博* では,PQ間隔が延長し,Ⅰ度房室ブロックと左軸偏位 はじめに を認めた.また,左脚ブロックで,上方軸の心室期外 心機能低下例の心房細動・粗動は,心不全の原因と 収縮の多発を認めた.1 996年の入院時の心電図では, 1―3) ,その治療には難渋するこ 粗動周期が2 20 msec程度の通常型心房粗動を認めた. とが多い.われわれは今回,心機能低下例の心房細動・ 図2に心エコー図を示す.右室径は4 8 mmと著明に 粗動に対するアミオダロンの長期投与効果について検 拡大し,中隔の奇異性運動を認め,右室の負荷所見は 討した. 著明であった. なり予後を悪化させるが 入院経過中には四肢誘導は通常型を示しながら,胸 症例呈示 部誘導では入院時にみられた V1誘導で陽性の心房粗 1.症 例 1 動波に対して陰性の粗動波となり,さらにその後Ⅱ, 1歳,男性. 症 例:6 Ⅲ,a V F で陽性波の非通常型心房粗動も認められた (図 主 訴:労作時呼吸困難. . 3) 家族歴:父;高血圧. 3番目の心房粗動に対して Haloカテーテルでマッ 4歳;境界型糖尿病,5 7歳;高尿酸血症. 既往歴:5 ピングすると,三尖弁輪を時計方向に回転する非通常 982年 (4 6歳),近医で高血圧に対して加療 現病歴:1 型心房粗動であった.アブレーションを施行している を開始された.19 9 0年 (54歳) ,胸部 X線写真で CTR拡 方の電位は,右房造影を3 0° で isthmusが3 cmと非常 大と心電図上,右室起源の non sustained VTを認め, に拡大していた.焼灼を繰り返し,double potentialも 右室の著明な拡大より不整脈原性右室心筋症 (ARVC) 広範囲に作製できたが,完全なブロックラインの作製 が疑われ,第1回入院となった.このとき右室心筋生 には至らず,粗動は burst pacingで停止させた. 検 で 心 サ ル コ イ ド ー シ ス と 診 断 さ れ,キ ニ ジ ン 図4に経過を示す.3種類の心房粗動が出現し,そ 30 0 mg/dayとプレドニゾロン30 mg/dayの投与で外 れぞれアブレーションを3セッション行ったが,完全 来通院となった(プレドニゾロンは1年間で減量,中 に isthmusの線状焼灼を成功させるには至らなかった. 止). そこでプロプラノロール,さらにピルジカイニドを その後症状はなかったが, 1 9 96年8月に CTR拡大と 併用したが無効であるため,最終的にアミオダロンの 通常型心房粗動(AFL)を認め,労作時呼吸困難が徐々 投与を開始したところ,これらの心房粗動は消失した. に悪化したため同年10月1日,第2回入院となった. その後,5年間の経過中,一度も発作を認めていない. 図1に心電図を示す.19 94年の外来経過中の心電図 CTRは60%前後で一定し,左室径および右室径に関 しても改善してきている状態で,悪化は認めなかった. * K. Mizumaki, A. Fujiki, K. Nishida, M. Sakabe, M. Sugao, T. Tsuneda, H. Nagasawa, H. Inoue:富山医科薬科大学医学部第 二内科 0287―3648/03/¥500/論文 /JCLS 2.症 例 2 5歳,女性. 症 例:5 主 訴:呼吸困難,動悸,失神. ― ( 1238)― 第7回アミオダロン研究会講演集 1994年1月21日 1996年10月1日 ø √1 ø √1 ¿ √2 ¿ √2 ¡ √3 ¡ √3 a √R √4 a √R √4 a √L √5 a √L √5 a √F √6 a √F √6 図1 症例1の心電図(199 4年1月∼1996年1 0月) LVDd/Ds=44/35 mm,RVD=48 mm,LVEF=0.42 図2 症例1の2D−EchocardioÁraphy AFL−1(1996年10月1日) AFL−2(1996年11月18日) ø √1 ø ¿ √2 ¿ √1 AFL−3(1996年12月4日) ø √2 √2 ¿ √3 √3 ¡ √3 ¡ ¡ √4 a √R √4 a √1 √R a √4 √R √5 √5 a √L √5 a √L a √F √6 a √F √6 図3 症例1の心電図(1 99 6年10月∼12月) ― ( 1239)― a √L a √F √6 . 1996 8 9 10 AFL1 AFL 11 1997 1(月) 12 1998 2002(年) AFL2 AFL3 Ablation Quinidine 300 mÁ Propranolol Pilsicainide 20 mÁ 150 mÁ Amiodarone CTR(%) LVDd(mm) 2DE LVEF(%) RVD(mm) 62 44 35 48 200 mÁ 55 45 36 48 58 46 40 44 61 38 45 42 図4 症例1の経過(心サルコイドーシス;61歳,男性) 1997年1月1日 1997年1月29日 ø √1 ø ¿ √2 ¿ ¡ √3 ¡ a √R √4 a √R √4 a √L √5 a √L √5 a √F a √F √6 (VVI 70 bpm) √1 √2 √3 √6 図5 症例2の心電図(19 97年1月)(拡張型心筋症;55歳,女性) (突然死) ,弟;突然死,叔母, 家族歴:母;心疾患 従姉妹(母方);心疾患. 方軸で,周期はアミオダロン投与下で1 3 0 bpm程度の 比較的遅い VTであった.入院後に認められた非通常 既往歴:特記すべきことなし. 型心房粗動はⅡ,Ⅲ,a V F で陽性波で,FF間隔は24 0 9 87年 (4 5歳),近医で DCM(拡張型心筋症) , 現病歴:1 msecであった. SSS(洞機能不全症候群) と診断され,VVIペースメー 入院時の心エコー図では LVDd(左室径) が59 mmと カー(PM)植込み術を施行された.1 9 9 2年,CHF (心不 著明に拡大し,LVEFは02 . 2と著明な心機能低下を認 995 全)のため PMを VVIから DDD―Rに変更された.1 めた.アミオダロンに加え,心房粗動に対してカルベ 年より再び CHFが増悪し,同年7月 VT(心室頻拍) に ジロールを併用したときの心エコーでも入院時とほぼ よる失神発作で入院し,アミオダロン (1 00 mg/day) の 同様の所見であった. 投与により VTは消失した.1 9 9 6年7月,CHF悪化に 図6に経過を示す.今回の入院では,非通常型心房 伴い VTが再発し,心不全治療が強化された.同年11月 粗動が持続していた.薬剤抵抗性であり,DCで停止さ より発作性心房細動が出現し,1 2月下旬には軽労作で せることを繰り返したが,その後も再発を繰り返した. 呼吸困難が出現するようになり,1 9 9 7年1月1日に そこで,アミオダロンにカルベジロールを併用して VTが再発し入院となった. 徐々に増量したが,75 . mg/dayまで増量した時点で血 図5に心電図を示す.入院時には左脚ブロックの下 圧が低下し,中止せざるを得なかった. ― ( 1240)― 第7回アミオダロン研究会講演集 1996 11 1997 1 3 1998(年) 1 5 9 6 10(月) AFL Sust VT 心不全死 DC Amiodarone 200 100 Carvedilol 300 400 mÁ 2.5∼7.5 mÁ 25 μÁ Levothyroxine 2DE CTR(%) LVEF(%) 62 58 22 20 60 23 59 24 60 20 図6 症例2の経過(拡張型心筋症;55歳,女性) 1997年1月8日 1997年1月12日 ø √1 ø √1 ¿ √2 ¿ √2 ¡ √3 ¡ √3 a √R √4 a √R √4 a √L √5 a √L √5 a √F √6 a √F √6 図7 症例3の心電図(19 97年1月)(陳旧性心筋梗塞;64歳,女性) 1998年9月18日 1998年9月19日 ø √1 ø √1 ¿ √2 ¿ √2 √3 ¡ √3 ¡ a √R √4 a √R √4 a √L √5 a √L √5 a √F √6 a √F √6 図8 症例3の心電図(19 98年9月)(陳旧性心筋梗塞;64歳,女性) このため,アミオダロンを4 0 0mg/dayまで増量した た. ところ,心房粗動も VTも消失して経過は良好であっ 3.症 例 3 たが,最終的には心不全死に至った.経過中は CTRが 4歳,女性. 症 例:6 60%前後,LVEFも2 0%前後でほとんど変化はなかっ 主 訴:眼前暗黒感,動悸. ― ( 1241)― . 1996 12 1997 1998 1999 1 9 8 2000 2 2001 1 9 2002(年) 3 (月) AFL +AF +AF Ablation +AF VT AV ablation +DDD−PM Pilsicainide 150 mÁ Cibenzoline(CBZ) 300 mÁ Aprindine iv CBZ iv Metoprolol 40 60 mÁ Amiodarone 200 mÁ 400 mÁ 図9 症例3の経過(陳旧性心筋梗塞;64歳,女性) 表1 まとめ 基礎疾患 Drug 他の治療 LVEF AF,AFLへの効果 CTR(%) (投与期間) 症例1 Sarcoidosis NSVT AMD 2 00 mg 03 . 6→04 . 5 AFL消失 Ablation(不成功) 55→6 1 (68カ月) 症例2 DCM VT,SSS AMD 4 00 mg DDD―PM 症例3 AMD 2 00 mg AFL(自然停止) + Met 6 0 mg OMI 04 . 0→04 .0 1∼2 /年 VT(Ⅰ群薬) Ablation(不成功) 61→6 0 (47カ月) AV ablation+ PM 02 . 2→02 . 0 AF,AFL消失 62→6 0 (40カ月) (AMD:amiodarone,Met:metoprolol) 996年2月から陳旧性心筋梗塞 (左室前壁) 現病歴:1 ション施行したが,完全に心房粗動を停止させること で通院していた.19 9 7年1月に発作性心房細動,心房 は不能であった.途中ピルジカイニド,シベンゾリン 粗動 (非通常型)を認め当科に入院し,カテーテル・ア を投与したが心房粗動が繰り返し起こり,一時アプリ ブレーションを受けたが心房粗動は停止せず,直流通 ンジン,シベンゾリンの静注を併用したところ,proar- 電により洞調律に復帰し,ピルジカイニド(1 50 mg/ rhythmiaによる VTが出現した. day) が開始された.同年1 2月心房粗動が再発し,シベ 最終的にはメトプロロールとアミオダロンを併用し ンゾリン(3 00 mg/day) に変更されたが, 1 9 9 8年9月に たが,やはり心房粗動が再発し,症状が非常に強いた 眼前暗黒感を伴う心房粗動が出現し当科入院となった. め,房室結節のアブレーションと DDDペースメー 図7に経過中にみられた非通常型心房粗動を示す. カーという pace & ablate治療を選択したところ,その CL 200 msecの周期で,Ⅱ,Ⅲ,aVF で陽性波の非通常 後は全く症状が消失した.1年に1∼2回,非通常型 型心房粗動を認めた. 心房粗動発作はその後も出現するが,症状は全くなく, 図8 に今回入院時の心電図を示す.最初は心拍数 いずれも自然停止している. 150/分の頻拍で,F波は判別が困難であったが (左図) , ま と め ベラパミルによる rate controlがついたときには,Ⅱ, Ⅲ,aVF でわずかに下向きの4 2 0∼4 4 0 msec周期の長い 表1にまとめを示す.症例1は心サルコイドーシス, 非通常型心房粗動を認めた (右図) .V1∼ V4までQ波を non―sustained VTの症例で,通常型心房粗動に対する 認め,右脚ブロック型となっている. アブレーションが不成功であったため,アミオダロン 図9 に経過を示す.アブレーションを合計4セッ 2 00mg/dayを投与したところ,その後6 8カ月の経過で ― ( 1242)― 第7回アミオダロン研究会講演集 心房粗動は全く消失している. 症例2は DCM,VT,SSSの症例で,アミオダロン 40 0mg/dayの投与により心房細動,心房粗動は消失し たが,心不全死した. 症例3は OMI,VTに心房細動・粗動の合併がある 症例で,アミオダロンとメトプロロールの併用でも発 作があり,症状が強いことからアブレーションを施行 したが不成功であった.房室結節のアブレーションと ペースメーカーの併用により,自覚症状はほとんど消 失した.自然停止する心房粗動を1年に1∼2回認め, 現在47カ月の経過観察中である. 結 論 心機能低下例に伴う難治性心房細動・粗動に対する アミオダロンの長期投与の有効性が示唆された4―6). 文 献 1)Benjamin, E. J., Wolf, P. A., D Agostino, R. B. et al.:Impact of atrial fibrillation on the risk of death:the 2, Framingham Heart Study. Circulation 9 8:946―95 19 9 8 2)Middlekauff, H. R., Stevenson, W. G. and Stevenson, L. W.:Prognostic significance of atrial fibrillation in ad- vanced heart failure. A study of 390 patients. 99 1 Circulation 84:4 0―48,1 3)Dries, D. L., Exner, D. V., Gersh, B. J. et al.:Atrial fibrillation is associated with an increased risk for mortality and heart failure progression in patients with asymptomatic and symptomatic left ventricular systolic dysfunction:a retrospective analysis of the SOLVD trials. Studies of Left Ventricular Dysfunc3,19 98 tion. J. Am. Coll. Cardiol. 3 2:6 95―70 4)Singh, S. H., Fletcher, R. D., Fisher, S. G. et al.:Amiodarone in patients with congestive heart failure and asymptomatic ventricular arrhythmia. Survival Trial of Antiarrhythmic Therapy in Congestive Heart Fail99 5 ure. N. Engl. J. Med. 3 33:7 7―82,1 5)Deedwania, P. C., Singh, B. N., Ellenbogen, K. et al. for the Department of Veterans Affairs CHF―STAT Investigators:Spontaneous conversion and maintenance of sinus rhythm by amiodarone in patients with heart failure and atrial fibrillation:observations from the veterans affairs congestive heart failure survival trial of antiarrhythmic therapy(CHF―STAT). 79,1 99 8 Circulation 9 8:257 4―25 6)Shiga, T., Wakaumi, M., Imai, T. et al.:Effect of low― dose amiodarone on atrial fibrillation or flutter in Japanese patients with heart failure. Circ. J. 6 6:6 0 0― 60 4,20 02 ― ( 1243)― . 質疑応答 (岡山大学大学院医歯学総合研究科循環器内科教授) 座長/大江 透 (富山医科薬科大学医学部第二内科) 演者/水牧 功一 大江(座長) どうもありがとうございました.ただ 象があります. いまの演題にご質問,またはご追加のある方はお願い 大江 先生のメインのテーマではないのですが, します. AVブロックを作製してペースメーカーを入れた症例 先生の症例は VTと心房細動の合併例が多いですが, 3の場合,心房粗細動は引き続き起こっていますか. アミオダロンを投与すると VTの方がよく抑制されて 水牧 いまでも起こしますが,症状は非常に改善し いる印象を受けました.心房粗細動の方がアミオダロ ています.心房粗動で心拍数は多くないのですが,起 ンに抵抗性であったとの感じがしましたが. こりやすく症状が強いのです.少し心機能低下も起 水牧(演者) VTはすぐ消失しますが,最終的に心 こってきていて,OMIもあることから薬物による房室 房粗動が残ってしまいます.アブレーションも繰り返 の伝導抑制が十分には行いにくい症例でした. し3例施行しましたが,非常に難治だったということ 大江 アミオダロンは,その発作の頻度は抑制して です. いるのですね. 大江 先生の印象では心房粗細動よりも,VTが特 水牧 自然停止しなかった心房粗動が自然停止して にアミオダロンに対して抵抗性だったのでしょうか. います. 水牧 なかなか難しいですが,どちらが主体という 大江 どうもありがとうございました.それでは, よりは,両方ほとんど同程度に出現していたという印 このセッションを終わらせていただきます. ― ( 1244)―
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