5 ACCU フィールド・レポート ● ESD イノベーション創成プログラム 母語によるエコな絵本の制作 ̶マレーシア・サバ州より 河野 真徳(教育協力課) マレーシアは多民族国家として知られます が、村人が心からコミュニケーションをとるため が、マレー系、中華系、タミール系に加えて、 の手助けをし、彼らが自信を持って行動でき 多くの先住民族が暮らしています。国内には ることが目標です」と説明します。活動の集 147もの言語が数えられ、約9割が少数民族 大成となる絵本制作にあたっては、世代を超 により話されます。カダザンドゥスン言語財団 えて語り継がれる民話の中から、森林保護や ※1 (KLF) は、現地で多数派を占める先住民 天然資源の持続可能な利用に関するものを 族(カダザンドゥスン族)の母語教育の重要性 取り上げています。初めての試みに戸惑う家 を唱え、1995年より識字の活動を始めました。 族もいましたが、見本を手にあらすじの書き写 プロジェクトへの参加を村人に呼びかける説明会 ※1 KLF-Kadazandusun Language Foundation http://www.klf.com.my/ ※2 持続可能な開発のための教育(ESD) Education for Sustainable Development プロジェクト概要 マレーシア・ボルネオ島サバ州における 特に、持続可能な社会に資する先人の叡智 し、イラストの挿入等が進められました。非識 を学ぶ術として、固有の言語の継承と文化の 字の現状と相まって、住民の多くが農作業に 結びつきに着目しています。 従事するトグドン村では、学校や電力等の社 2年がかりの本プロジェクトでは、カダザンド 会的基盤、また薬等の生活必需品が不足し ゥスン語の読み書きを体系的に教えるための ています。KLFでは村人達の生活向上を視 指導者用手引きの作成を皮切りに、教師の 野に入れ、周辺で活動する協力団体を募り、 にしたものを選んで、家族ごとに絵本を作成 ためのワークショップを経て、山間部に位置す 識字を軸に活動の輪を広げています。地元 する。また、一連の過程を映像に収め、周辺 るトグドン村において識字クラスを開講しまし 発の独創的な解決策が、エコな絵本からも た。 現地で事業運営に携わるトリクシーさんは、 発見されることを願います。 「私たちは単に読み書きを教えるのではありま (写真提供:KLF) せん。識字とESD※2との接点にも関連します 識字プロジェクト: サバ州に拠 点を置く KLFによる、同州トグドン村の約30世帯を 対象とした、先住民族の母語であるカダザン ドゥスン語による識字プロジェクト。口承の みで伝わっている民話の中から環境をテーマ 地域及び自らの活動継続の材料として役立 てる。詳細は下記ホームページ参照: http:// www.accu.or.jp/esd/jp/projects/ip/ ip01_malaysia.shtml アジア太平洋現地発 インド ものをつくる人々の国 ラジャスタン州の伝統工芸である 革靴づくり。インドでは、美しい 工芸品を作る人々の立場は低く、 年をとっても体が動くうちはものを つくり続ける。年金制度なんても のは当然ない。 千葉 茂恵 ちば もえ ユネスコ・ニューデリー事務局・文化担当官。パリ本部で文化産業課および文化 政策課勤務を経て、2006 年 8 月よりインド勤務。文化資源と地域開発をテー マに、無形文化財、文化産業、町並み保存と観光関連のプロジェクトを主に担当。 の青空鍵屋で、少年がやすりでガリゴリと 書類を大量に作成することしか芸のない 鍵のかたちを整えている。合鍵をつくっても 小役人の私は、 ものをつくる人々を尊敬する。 らい、いささか不安であったが、驚いたことに それは、多くの先進国の住民が忘れた、人間 家のドアはちゃんと開いた。お代は50ルピー としての根源的な生存技術をもっているから (約129円)。 だ。インドの強みは、このものをつくる人々が 靴修理のおじさんも、合鍵屋の少年も、 国民の大半を占めていることだ。彼らの技能 農業に次ぐインド最大のインフォーマル・セ を支えていくことが、インドの発展の鍵である インドに来ると、 「手で日々の糧を得る」と クターといわれる、いわゆる手工業者(Craft と信じる。一方、その優れた技能をもつ手工 いう言葉をあらためて実感する。近所では、 workers)だ。2006∼2007年度のインド政府 業者が社会的に低い地位にいるのがこの国 深い皺を刻んだ総白髪のおじさんが、片膝を の報告書によると、その数はおおよそ650万 の現状でもある。多くの手工業者はその立場 立てて、手足の指を全部使いながら靴を修 人。ただしこの調査は、織物やカーペットな や収入の低さから子どもたちがその職業を継 理している。その一畳に満たない貧相な作 ど主だった伝統工芸のみを対象としている ぐことを望まない。しかし、あらゆる国がもの 業小屋からは想像できない見事な手際で、 ため、靴や鍵職人、はたまたほうきや、チャイ づくりを忘れていくなか、世界中がインドのも 私のすり減った草履を直してくれた。修理費 用の使い捨て素焼きカップをつくる人々も含 のをつくる人々に頭を下げる日が来るのでは はたったの30ルピー(約77円)。市場では、木 めると、その数は倍に膨れ上がるであろうと ないかしらん、と考える今日この頃である。 に掲げた看板と机だけの、ややまゆつば物 いうのが専門家たちの意見だ。 (写真は筆者提供) ACCUニュース No.369 2008.9 5
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