音子 (フォノン) と格子振動 9 9.1 アインシュタインモデル 格子振動は、平衡位置を中心に 独立に 単振動する N 個の原子からなるモデルを考える。ただし、相互 作用はないものとする。m 番目の原子の平衡位置からのずれを um とし、原子の質量を M 、バネ定数を C とすると、原子は運動方程式 M üm = −Cum に従って運動する。ここで √ ω= C M (9.1) (9.2) とおいて量子化すると、原子は以下のボーズ分布関数に従う。 ⟨n⟩ = 1 eℏω/kB T − 1 (9.3) これを使えば、零点振動を省略した単振動する原子による内部エネルギー U は N ℏω eℏω/kB T − 1 (9.4) ( )2 ∂U ℏω eℏω/kB T = N kB ℏω/k B T − 1)2 ∂T kB T (e (9.5) U= で与えられる。これより、比熱 Cv は Cv = となる。高温では T → ∞ の極限をとることにより、比熱は Cv = N kB (T → ∞) (9.6) Cv = 3N kB (T → ∞) (9.7) となる。3 次元ではこれを 3 倍して となる。比熱の T → ∞ による極限の近似を Dulong Petit の近似という。低温では T → 0 の極限をとる ことにより、比熱は Cv ∝ e−ℏω/kB T (T → 0) (9.8) となる。実験によれば、比熱の高温のふるまいは Dulong Petit の近似に従うが、低温のふるまいは実験 と一致しない。実験では、比熱は低温で Cv ∝ T 3 (9.9) 成るふるまいを持つ。アインシュタインモデルの結果と一致しないのは、原子間の相互作用を無視したた めであると考えられる。 1 9.2 分散関係 (相互作用を入れる) 原子間に相互作用をとりいれた格子振動のモデルは以下のように表される。 上側の図は、互いの原子が全て同じバネ定数 C で結ばれている様子を表している。下側の図は、バネで繋 がれた原子に周期的境界条件を課した様子を表している (N 番目の原子は一周して 1 番目の原子に繋がれ ていると仮定する)。ここで m 番目の原子と、それに隣り合う原子を取り出して考える。 図から、運動方程式は M üm = C(um+1 − um ) − C(um − um−1 ) (9.10) M üm = −C(2um − um+1 − um−1 ) (9.11) となり、整理すれば となる。ここで格子振動が、周期のそろった運動だと仮定し um = ũm e−iωt (9.12) −M ω 2 ũm e−iωt = −C(2ũm − ũm+1 − ũm−1 )e−iωt (9.13) M ω 2 ũm = C(2ũm − ũm+1 − ũm−1 ) (9.14) とおく。式 (9.12) を (9.11) に代入すると となり、整理すると となる。ただし周期的境界条件から ũN +1 = ũ1 , ũ0 = ũN 2 (9.15) である。 ũm = ueimKa , K = 2π Na (9.16) とおいて式 (9.14) に代入すると M ω 2 ueimKa = C(2ueimKa − uei(m+1)Ka − uei(m−1)Ka ) (9.17) M ω 2 = C(2 − 2 cos Ka) (9.18) となり、整理すると となる。これより、 ω2 = 4C 1 2C (1 − cos Ka) = sin2 Ka M M 2 となるから、分散関係は √ ω= 1 4C sin Ka M 2 (9.19) (9.20) となる。この関数のグラフは以下。 参考までに、自由電子の分散関係を載せておく。 分散関係を表す図の黒丸で示してあるように、K < − πa , − πa ≤K≤ π a π a < K 成る領域に位置する状態は、全て 内の状態に還元できる。即ち、考える領域としては以下のものでよい。 3 ここで分散関係の意味を考えよう。例えば K = 0 のとき、ũm = ue−iωt となるから、この場合原子は以下 のようになっている。 これは各瞬間で変位が同じになっていることを意味し、バネに蓄えられるエネルギーは 0 となる。また K= π a のときは ũm = ue−i(ωt−mπ) となるので、この場合の原子は以下のようになる。 つまり、1 原子ごとに逆位相となる状態を表しているので、バネに蓄えられるエネルギーは最大になる。 9.3 横波とたて波 横波は波の進行方向に対して変位が垂直な波であり、このような波を考えると、横波は 2 モード存在す ることになる (以下の図をみるとよくわかる)。 例えば、光は横波だけの 2 モードである。縦波は進行方向に対して変位が水平な波であり、具体的には以 下の図を見れば分かる。 4 縦波は媒質の密度が高いところと低いところが周期的に伝わる波なので、疎密とも呼ばれる (疎は密度の 低いところ、密は密度の高いところ)。波はエネルギーだけを伝え、媒体はマクロには動かない。 9.4 状態密度 (デバイ近似) 式 (9.16) を 3 次元に拡張した変位は ũm = ueik ・xm (9.21) で与えられる。ただし x = m ym = z = m L N mx xm = (xm , ym , zm ) , k = (kx , ky , kz ) (0 ≤ mx ≤ N ) (−N/2 < nx < N/2) k = 2π L nx x L N my (0 ≤ my ≤ N ) L N mz (0 ≤ mz ≤ N ) ky = k = z 2π L ny (−N/2 < ny < N/2) 2π L nz (−N/2 < nz < N/2) (9.22) である。波数空間では (2π/L)3 の体積に 1 つのモードが存在するので、半径 k の球内に存在するモードは N= 4 3 3 πk (2π/L)3 (9.23) で与えられる。ここで本来 k は ω に依存して、例えば式 (9.20) のような関係を持つが、関数形が難しいた め、分散関係を ω = vk (9.24) と近似する。これをデバイ近似と呼ぶ。ただし v は音速である。分散関係をデバイ近似した場合、本来の 分散関係とのずれは以下のようになる。 このとき、式 (9.23) は V ω3 , V = L3 (9.25) 6π 2 v 3 となる。3 次元の格子振動 (格子振動はフォノンと呼ばれる粒子と見ることができる) に対する状態密度を D(ω) とすると、これは先ほど求めた N を用いて N≃ D(ω) = V ω2 dN = dω 2π 2 v 3 5 (9.26) となる。これより、フォノンの状態密度は次のように与えられる。図の左がフォノンの状態密度で、右は 自由粒子の状態密度である (自由粒子の状態密度は参考までに載せた)。ここでモードの数には限りがある ので、モード数 N = 原子数 × 3 となるように周波数を決める必要がある。具体的には、 N≃ を逆に解いて、 ( ωD = V ω3 6π 2 v 3 (9.27) )1/3 6π 2 N V v (9.28) となるところで周波数を打ち切る。これを切断周波数、またはデバイ周波数と呼ぶ。 9.5 格子比熱 格子振動によるエネルギー U はモードの数を考慮に入れて ∫ ∞ U = 3 dωℏωD(ω)f (ω) 0 ∫ ∞ V ℏω 3 1 = 3 dω 2 3 ℏω/k T B 2π v e −1 0 | {z } 3V ℏ 2π 2 v 3 = 即ち U= 3V ℏ 2π 2 v 3 ボーズ分布 ∫ ωD 0 x= と変数変換すると となる。 dω eℏω/kB T ωD となる。ここで U= eℏω/kB T 0 ∫ 4 4 3V kB T 2 2π v 3 ℏ3 ω3 dω ∫ −1 ω3 −1 (9.29) ℏω kB T ℏωD /kB T dx 0 x3 −1 ex (9.30) ℏω Θ = kB T T (9.31) ℏωD = kB ΘD (9.32) とおき、 6 としてデバイ温度 ΘD を定義すると、 ( U = 9N kB T T ΘD )3 ∫ dx 0 となる。 xD = とおけば、 ( U = 9N kB T ΘD /T T ΘD x3 −1 ex ΘD T (9.33) (9.34) )3 ∫ xD dx 0 x3 −1 ex (9.35) となる。この式を使って、低温の比熱を考える。ΘD /T ≫ 50 であれば、 ∫ xD dx 0 x3 ≃ x e −1 ∫ ∞ dx 0 x3 π4 = −1 15 ex (9.36) となる。参考までに被積分関数のグラフを与えておく。 ΘD は数百 ∼ 数千 [K] なので、T ∼ 数 [K] であれば、ΘD /T ≫ 50 となる。これより、内部エネルギー は低温で U= 3N kB T 4 π 4 5Θ3D となるので、比熱は ∂U 12π 4 N kB Cv = = ∂T 5 ( T ΘD (9.37) )3 ∝ T3 (9.38) となり、実験結果を再現する。 _______________________________________________________________________________________ 問題 x3 −1 ex を x = 0 の周りに 2 次までテイラー展開して近似し、積分 ∫ xD x3 dx ex − 1 0 を実行して、xD = ΘD /T ≪ 1 のとき、U = 3N kB T となることを示せ。 7
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