テーマ:巨大昆虫が再び進化する可能性はあるか? 西山典秀 学生証番号

テーマ:巨大昆虫が再び進化する可能性はあるか?
西山典秀
学生証番号 47116348 資源生物創成学分野
出題分野
遺伝システム革新分野
小嶋徹也先生
Introduction
本プレスクール論文では昆虫の気管呼吸や環境条件などに注目し、巨大昆虫が再び進化する可
能性について考察をした。また再び巨大昆虫が進化するとしたらどのような形態になりうるのか
についても検討した。
Discussion
約 3 億年前には翼開長 70 cm 程度のトンボの仲間など巨大な昆虫が生息していた。今後再び、
気候条件、生息している生物種などが当時に近づけば、再び巨大昆虫が進化する可能性は大いに
あるだろう。しかし、そもそも現在の地球環境下において巨大昆虫は再び進化する可能性はない
のであろうか?
昆虫には気管という空気を運ぶ管が全身に張り巡らされており、 気管の間を血液がすり抜けて
いくことで昆虫はガス交換をおこなっている。体の大きさが X 倍になると、表面積は X2 倍で増
える。したがって酸素を取り込む気門の総面積も X2 倍で増える。ところが体積は X3 倍で増えて
しまう。必要な酸素量は体積に応じて増えると考えられる 1)2)。昆虫の体の大きさの限界と酸素濃
度は正の相関関係があることが示されており 3)、巨大昆虫の存在した 3 億年前は、現在よりも酸
素濃度が 5~15 %程度高かったと考えられている 3)。では、現在の昆虫の大きさの限界は酸素濃
度によって規定されているのであろうか?
現在存在する大きな昆虫として、ナナフシやカブトムシが思い浮かぶ。オバケエダナナフシの
大きなものは体長 30 cm に迫る 4) 。ここで一つの思考実験を行うことにする。現状の酸素濃度に
おいて、オバケエダナナフシの大きさの限界が仮に体長約 30 cm であるとして、このナナフシを
もっと大きくすることを考える。単純に全ての方向に大きくすると、体積の増大の割合は気門の
総面積の増大の割合よりも大きくなってしまう。そこで、ナナフシを、その頭腹を結ぶ直線状に
細長く伸ばしてみる。ナナフシを単純化して、側面積:S1、底面積の合計:S2、体積:V の 1 本
の細長い円柱を考える。この時、総表面積は S1 + S2 となり、この円柱を 2 倍の長さに伸ばすと、
体積は 2V、総表面積は 2S1+S2 となり、2(S1 + S2)よりも小さくなる。しかし、ナナフシが十分
に頭腹方向に細長く S 1>>S2 であれば、2S1 + S2 ≈ 2(S1 + S2) ≈ 2S1 となり、体積も表面積も約 2
倍になり、したがって体積と気門の総面積の増大の割合は同じであるとみなすことができる。そ
うすると、体長 30 cm のナナフシを頭腹方向に 2 倍に引き伸ばした体長 60 cm のナナフシは存在
することが可能となる。このように、ある酸素濃度下において極限まで大きな昆虫が生まれたと
したら、それは細長い形状のものであろう。
さて、今度はカブトムシを用いて考察をしてみることにする。ヘラクレスオオカブトは大きな
ものでは 18 cm ほどにもなる。この種は胸の部分の太さが軽く 5 cm はあるようである 4)。ナナ
フシとカブトムシの体積と表面積の割合を考えると、カブトムシの方がナナフシより表面積の割
合が小さく、気管呼吸系の効率の観点からは、カブトムシは酸素の行きわたりにくい効率の悪い
体型をしているようにも考えられる。それでもヘラクレスオオカブトは現環境下で生き延びてい
る。ナナフシとカブトムシの気門や気管の形状は同じではないので単純比較はできないが、ナナ
フシのほうがカブトムシよりも気管呼吸系の効率が良く、カブトムシぐらいに効率が下がっても
生存できるとすると、ナナフシを頭腹方向に伸ばして細長くするだけでなく、もう少し胸や腹を
太くしてバランスよく大きくすることが可能なのかもしれない。
しかし、実際には現在そのような巨大昆虫は生存していない。それはたまたま存在していない
だけと考えることもできるが、そもそも現在の酸素濃度が昆虫の大きさの主要な限定要因になっ
ていないからなのかもしれない。大気中の酸素濃度が高い場合でもすべての種の昆虫が大きくな
るというわけではなく
3)、昆虫の大きさの限界を規定する要因は他にも考えられる。昆虫は外骨
格を持っているので成長すると脱皮の必要が生じてそれに労力がかかることや、気候条件からは
生存可能な巨大昆虫も他の種がその生存を許さない場合があることも考えられる。かつて翼開長
70 cm の巨大トンボが存在したころはまだ地上の空を飛んでいるのは昆虫だけであった 5)が、今
巨大トンボが出現したとしても、すぐに大型の鳥に駆逐されてしまうかもしれない。現在前述し
た体長 60 cm のナナフシのような昆虫が見つかっていないのも、周辺環境がその存在を許さない
からなのかもしれない。
地球環境は今に至るまで何度も大きな変化をしており、おそらく今後もまた大きく変化するこ
とがあるであろう。近年、進化における大量絶滅の役割が大きいことが指摘されており
5)、劇的
な気候変動が巨大昆虫の進化をもたらす可能性も考えられる。大量絶滅の後、今まで他の生物に
よって使用されていたニッチを昆虫が利用し、巨大昆虫が生まれる可能性も考えられる。例えば、
多くの鳥類が絶滅した場合、巨大昆虫が再び空を占有するといった時代がくるかもしれない。仮
にある昆虫の捕食者が全くいなくなった場合、代謝をゆっくりとするあまり動かない大きな昆虫
が誕生しても不思議はない。環境変化によって巨大昆虫が進化する可能性は大きく変動するだろ
う。
Conclusions
現在の環境下においても細長い昆虫など、巨大昆虫が進化する可能性は考えられる。また気候
変動を伴って巨大昆虫が進化する可能性もある。ただ、巨大昆虫の進化には様々な要因が関わっ
ており、その可能性の大きさを予測することは非常に難しい。
References
1) 大谷剛 (2005) 大きくなれない擬態者たち 農文協
2) Delyle, Polet. (2011), The Biggest Bugs: An investigation into the factors controlling the
maximum size of insects. Eureka Volume 2, Number 1, 43-46.
3) Harrison, J. F., Kaiser, A., VandenBrooks, J. M. (2010), Atmospheric oxygen level and the
evolution of insect body size. Proc. Biol. Sci. 277: 1937-1946.
4) 山口進 (2008) 巨大昆虫探検図鑑 岩崎書店
5) 中村桂子 安藤卓 (2010) 生き物上陸大作戦 絶滅と進化の 5 億年 PHP 研究所