フーリエ解析って本当に便利なの?

フーリエ解析って本当に便利なの?
コンテンツ
1. この冊子の狙い
2. フーリエ変換とは
・フーリエ積分定理からフーリエ変換へ
3. フーリエ変換を使ってみよう
(3-1)
RL 回路を解く
(3-2)
フーリエ変換表と可換条件
(3-3)
RL 回路を解く 2
(3-4) パーセバルの定理
(3-5) コンボリューション定理
4. ラプラス変換
(4-1) ラプラス変換とは
(4-2) 減衰振動子を解く
(4-3) 連立微分方程式を解く
5. まとめ
・フーリエ変換とラプラス変換の違い
・どういう考えの下で変換を行うのか
1. この冊子の狙い
皆さんは与えられた方程式を解くときに「これはフーリエ変換を使った方が良さそうだ」
と思いつけるでしょうか?
思えば、テストやレポートではフーリエ変換を用いて解けと
指定されていたり、問題自体が§フーリエ変換といった様な所に含まれていたりで自分か
らフーリエ変換を使うか否かを決める機会は少なかったように思います。
そこで、様々な問題に対してフーリエ変換を使ってみる事によって、与えられた問題に対
してどうしたらフーリエ変換を使おうという考えに至れるのかを探るのが本冊子の狙いで
す。
いかに使うかがメインテーマなので、原理や細かい計算については余り触れません。気に
なる所があったら各自調べてみてください。
3. フーリエ変換とは
ある関数
f ( x ) についての方程式が与えられたとき、
∞
F(α) =
∫f
(u )
e −iau du
(フーリエ変換)
−∞
∞
f ( x) =
∫
−∞
F(α)
2π
(逆フーリエ変換)
e iαx dα
の関係を使って解くというものである。
(以下、フーリエ変換の導出について少しだけ解説します。読まずに先に進んで構いません。
)
∞
フーリエ積分
f ( x ) = ∫ { A(α) cos(αx)+B(α) sin(αx)}dα
−∞
A(α)
1
=
2π
B(α) =
これは
f ( x) =
1
2π
1
2π
∞
∫f
( x)
cos(αx)dx
( x)
sin(αx)dx
−∞
∞
∫f
−∞
∞
∞
∞
−∞
−∞
−∞
− i αu
−iux
iαx
∫ e dα∫ e du とも書き表せる。この式において ∫ e du を
∞
F(α) と置くと、逆フーリエ変換
f ( x) =
∫F
(α)
−∞
e iαx dα となる。
3. フーリエ変換を使ってみよう
まずは
L
dI ( t )
dt
δ 関 数 が 邪魔
+RI ( t ) = V0δ( t )
⇒
∞
∫δ
(t )
dt = 1
を解く事を考えてみる。
を 使 え ば 消せ そ う
⇒
両 辺 t で 積 分 し て みよ う
⇒
−∞
∞
LI+ ∫ RIdt = V0
⇒
これはこれで解けない。I の階数が同じならいいのに…(LI+RI とか
−∞
∫ LIdt+∫ RIdt とか)
∫
⇒ フーリエ変換も δ( t ) dt になるから、とりあえずやってみよう。
両辺をフーリエ逆変換すると
L ×
∞
∞
∞
I (ω) iωt
I (ω) iωt
δ(ω) iωt
d
(∫
e dω) +R × ( ∫
e dω) = V0 × ( ∫
e dω)
dt −∞ 2π
2π
2π
−∞
−∞
↓
∞
δ(ω) = ∫δ( t ) e −iωt dt
−∞
=1
↓
∞
∞
∞
−∞
−∞
-∞
iω L × ( ∫ I (ω) e iωt dt ) + R × ( ∫ I (ω) e iωt dt ) = V0 × ( ∫ e iωt dω)
iωL × ( I (ω) e iωt ) + R × ( I (ω) e iωt ) = V0 × (e iωt )
V
= 0
I (ω) R + iωL
逆フーリエ変換すると
∞
I (ω) iωt
I (t ) = ∫ 2π e dω
−∞
∞
V0
1
iωt
= ∫−∞ 2π R + iωL e dω
V
= 0
2π
あとは複素積分を行えば
V0 − RL t
I (t ) = e
L
∞
e iωt
dω ∫ R + iωL −∞
という解(特解)が求まる。
今までの議論から、右辺をフーリエ変換したときに扱いやすい関数になってくれれば、微分方程
式を簡単に解くことができそうだと分かる。そこで、色々な関数のフーリエ変換を求めてみよう。
そうすればどんな微分方程式が出てきたときにフーリエ変換を使ったら便利かが分かってくる
はずである。
元の関数 f(t)
フーリエ変換 F(ω)
δ(t )
1
π
(δ( k −ω) −δ( k+ω) )
i
π(δ( k −ω) −δ( k+ω) )
sin(kt )
cos(kt )
|t|
e −k 2α
k +t 2
2
ちょっと工夫が必要なので、 sin(kt ) の求め方を以下に書いておく。
∞
− i ωt
= F(ω) ∫ f ( t ) e dω
−∞
∞
= ∫ sin( kt ) ×e −iωt dω
−∞
∞
= ∫(
−∞
e ikt − e −ikt
) × e − i ω t dω
2i
∞
∞
1
= ( ∫ e i ( k −ω) t dω− ∫ e i ( − k −ω) t dω)
2i −∞
−∞
∞
∞
2π e i ( k −ω) t
e i ( − k −ω) t
(∫
dω − ∫
dω)
=
2i −∞ 2π
2π
−∞
π
= (δ( k −ω) −δ( − k −ω) )
i
π
= (δ( k −ω) −δ( k +ω) )
i
2
フーリエ変換は L ノルム有界、つまり
∞
∫
2
f ( t ) dt
が収束するものに対してしか行えない。でもこれは考えてみれば
−∞
∞
当然である。 f
(ω)
=
∫f
(t )
e −iωt dt
で
f (t ) が収束してくれないと
f (w) の値が発散もしくは不定になってしまう。
−∞
2
よってフーリエ変換を行おうと言う時、その関数が L ノルム有界かどうか判定しづらければ実際に計算してみれば良
いのである。(実際に
f (t ) = t
を代入して計算してみれば、フーリエ変換が発散するのが分かるだろう。
)
では次に
L
dI ( t )
dt
+RI (t ) = V0 sin(kx) を解くことによって、フーリエ変換の有用性を検討してみよう。
フーリエ変換を使わないと・・・・
L
dZ (t )
dt
+RZ (t ) = e iωt
, Z =x+iy として Z を求める。 ⇒ Im[Z] をとれば特解が求まる
両辺をフーリエ逆変換すると
π
(δ( k −ω) −δ( k +ω) )
d
i ωt
iωt
i
e dt ) +R × ( ∫
e dt ) = V0 × ( ∫
e iωt dt )
L× ( ∫
dt −∞ 2π
2π
2π
−∞
−∞
∞
I (ω)
∞
∞
I (ω)
∞
∞
−∞
−∞
∞
π
(δ( k −ω) −δ( k +ω) )e iωt dt )
i
−∞
iωL × ( ∫ I (ω) e iωt dt ) +R × ( ∫ I (ω) e iωt dt ) = V0 × ( ∫
iωL × I (ω) +R × I (ω) = V0
π
(δ( k −ω) −δ( k +ω) )
i
Vπ
1
I (ω) = 0 (δ( k −ω) −δ( k +ω) )
R + i ωL i
Vπ
I (ω) = 0
(δ( k −ω) −δ( k +ω) )
-ωL + iR
逆フーリエ変換すると
∞
I (ω) iωt
I (t ) = ∫−∞ 2π e dω
∞
=
V0π
1
∫ 2π −ωL + iR (δ
( k −ω)
−δ( k +ω) ) e iωt dω
−∞
∞
e i ωt
e iωt
(
) dω
δ
−
∫−∞ −ωL + iR ( k −ω) −ωL + iRδ( k +ω) =
V0
2
=
V0
e ikt
e −ikt
(
)
−
2 − kL + iR kL + iR
=
V0 (iR + kL)e ikt − (iR − kL)e −ikt
(
)
2
(iR − kL)(iR + kL)
=
V0 (iR + kL)(cos kt + i sin kt ) − (iR − kL)(cos kt − i sin kt )
(
)
2
− R 2 − k 2 L2
=
V0
{2( R sin kt − kL cos kt )
2( R + k 2 L2 )
=
 2
V0
R
kL
R + k 2 L2 (
sin kt −
cos kt )
2 2 
(R + k L ) 
R 2 + k 2 L2
R 2 + k 2 L2
=
2
}
2
V0
R 2 + k 2 L2
以上より I (t ) = sin( kt −φ)
V0
R 2 + k 2 L2
sin(kt −φ) と解(特解)が求まる。
}
パーセバルの定理
フーリエ変換に伴う定理の一つ、パーセバルの定理の考え方と実例を挙げてみよう。
パーセバルの定理
∞
∫
−∞
f (t )
2
∞
2
1
dt = ∫ F(ω) dω
2π−∞
F(ω) は関数 f ( t ) のフーリエ変換
今回の講義実験では合成波をサンプリングしてそのフーリエ変換を求めたが、実際にはフーリエ
変換しか測定できない様なシチュエーションがよく起こる。例えば元素スペクトルなどがそうで
あり、この様な時は逆フーリエ変換を用いればスペクトルのみのデータから元の波形を得ること
が出来るのである。
そのことをイメージしつつパーセバルの定理を見てみれば、それは以下の様に解釈できるといえ
るだろう。「同一のモノを時間空間で見るかフーリエ空間で見るかの問題なので、その総量は一
致していなければならない」
しばしば
∞
∫
2
f ( t ) dt
は何かスペクトルを発する源の全供給エネルギーを表す。そのため今回
−∞
の講義実験で私が出したエネルギー(私が出した声が持つ全エネルギー)を求めたければ、フー
リエ変換したスペクトルの合計を計算すれば良いというわけである。合成波の複雑な関数を積分
するより、スペクトル別に分かれているものを積分して足し合わせた方が計算が簡単であること
は想像に難くない。また、パーセバルの定理の応用例は音声に限らない。 f ( t ) として電源を選べ
ば電子回路における電源の全供給エネルギーが求まるなど、その応用例は多岐に渡る。
コンボリューション定理
次にコンボリューション定理(畳み込み積分)について考えてみよう。
コンボリューション定理
∞
f ( x) =
∫ f ( x) f
1
2
(t − x)dx
において f 1 (t ) のフーリエ変換が F1 (t ) 、 f 2 (t ) のフーリエ変換が
−∞
F2 (t ) で与えられるとき、 f ( x ) のフーリエ変換 F( x ) は
F( x ) = F1 ( x) F2 ( x)
である。
パーセバルの定理はフーリエ変換(スペクトル)から、元の波の大きさを求めることが出来る。
それに対してフーリエ変換から波形を得られるのがコンボリューション定理である。
ある波のスペクトルだけが情報で得られたとしよう。
(もう一度同じ例を出すことになるが、元
素スペクトルなどがそうである。
)その波が2本のスペクトルで構成されているなら、そのスペ
クトル同士の積 F1 ( x ) F2 ( x ) が 元の波形のフーリエ変換 F (x) になっている。よって各スペク
トルの逆フーリエ変換を取り f
∞
( x)
=
∫ f ( x) f
1
2
(t − x)dx に代入すれば、元の波形が得らるのである。
−∞
電子回路でもしばしばコンボリューション定理が用いられる。以下に例を挙げよう。
δ関数の入力に対して h( t ) という応答をするような線形回路がある。この回路にスペクトルが
X ( t ) の x( t ) を入力した時の応答は畳み込み積分 f
∞
( x)
=
∫ x(t )h(t '−t )dt
で与えられる。この式の解釈は、
−∞
スペクトルが1本の入力(δ関数)の時は、逆フーリエ変換で応答が求まるが、そこに X ( t ) と
いう2本以上の入力がある時はコンボリューションを使ったと考えれば良いだろう。
4. ラプラス変換
ある関数 f ( x ) についての方程式が与えられたとき、
∞
L( s ) = ∫ f ( s ) e − sx dx
(ラプラス変換)
0
c + i∞
f ( x) =
∫
F( s )
c −i −∞
2πi
e sx ds
(逆ラプラス変換)
の関係を使って解くというものである。
2
ラプラス変換では f ( x ) が L ノルム有界である必要は無い。
(以下、ラプラス変換の導出について少しだけ解説します。読まずに先に進んで構いません。
)
L2 ノルム有界では無い f ( x ) を考える。この f ( x ) が(x→∞)で[xn exp(ax) 、a と n は正]から
見て定数と考えられる程度の振る舞いをする時、0≦x の範囲では f ( x ) は収束すると言える。そ
2
こでステップ関数と exp を用いて f ( x ) を L ノルム有界な関数に作り替える。
h( x ) =θ( x ) exp(−cx) f ( x )
2
とすれば負の領域で零、xが正の領域で収束するので L ノルム有界
である。
この h( x ) をフーリエ変換の f ( x ) として代入し、s=iy+c とすればラプラス変換が導かれる。
ラプラス変換を用いて物理問題を解く前に、準備として
f ( t ) の微分のラプラス変換を求めておく。
L{
df ( t )
dt
∞
}= ∫
0
[
df ( t )
dt
e − st dt = f ( t ) e − st
]
∞
0
∞
+ s ∫ f ( t ) e − st dt
−∞
部分積分を用いた。
ここで第一項の f (t ) は定義より 0 に収束することと、第二項がラプラス変換の s 倍になっている
ことに注目すると
L{
df ( t )
dt
}= 0 − f ( 0 ) + s × L( s )
= sL( s ) − f ( 0 )
同様にして部分積分を何度も使えば、高次微分のラプラス変換も求めることができる。
L{ f{n}( t ) } = s n L( s ) − s n −1 L( 0 ) − s ( n −2) L'( 0) − … − f
( n −1)
(0)
では実際にラプラス変換を用いて物理問題を解いてみよう。
d 2 x(t )
dx ( t )
2
+
2
γ
+ω0 x( t ) = f 0 sin(ωt ) で( 0 ≤ t )の時の解を求める。
2
dt
dt
t=0 における変位と速度は零( x ( 0 ) = 0 , x' ( 0 ) = 0 )である。
減衰振動子
ラプラス変換を用いないで解くには
d 2x
dx
2
+ 2γ +ω0 x = 0 の解を求める
dt
dt 2
⇒ 定数変化法などの方法を用いて一般解を求める
2
⇒ d z + 2γdz + ω0 2 z = f 0eiωt として Z を求め、その虚数部を取れば特解が求まる
2
dt
dt
⇒ 与式の解は(一般解)+(特解)になる
かなり面倒・・・
両辺をラプラス変換すると(微分された関数のラプラス変換は前ページを参照のこと)
∞
∞
∞
∞
d2
d
2
( x e − st dt ) +2γ ( ∫ x( t ) e − st dt ) +ω0 ( ∫ x( t ) e − st dt ) = f 0 × ( ∫ f 0 sin(ωt )e − st dt )
2 ∫ (t )
dt 0
dt 0
0
−∞
( s 2 L( s ) − sx ( 0) − x' ( 0) ) +2γ( sL( s ) − x ( 0 ) ) + ω0 L( s ) = f 0 ×
ω
s + ω2
s 2 L( s ) +2γsL( s ) + ω0 L( s ) = f 0 ×
ω
s + ω2
2
2
L( s ) = f 0 ×
2
2
ω
( s + ω )( s + 2γs + ω0 )
2
2
2
2
逆ラプラス変換すると
c + i∞
x(t ) =
∫
L( s )
2πi
c − i∞
e st d s
c + i∞
=
f 0ω
1
( 2
)e st ds
2
2
2
2πi ( s +ω )( s + 2γs +ω0 )
c − i∞
=
f 0ω c +i∞
1
ds
∫
2πi c −i∞ ( s 2 +ω2 ){( s +γ) 2 + ω0 2 }
∫
あとは複素積分を行えば解が求まる。
{
x(t )
}
 − (ω2 −ω0 2 ) sin(ωt ) − 2γωcos(ωt )

f 0ω


= 2
ω 2

2 2
2 2 
−γt 
2
2
( s +ω ) + 4ω γ + e 2γωcos(Ωt ) − (ω0 −ω − 2γ ) sin(Ωt )

Ω


ラプラス変換を用いた方が計算が若干楽になったことが分かるだろう。
最後に、連立微分方程式をラプラス変換を用いて解いてみる。
具体的な物理問題ではないがラプラス変換の有用性を実感することはできるだろう。
 dx dy
2 dt + dt − 3x − 4 y = 0

 dx + dy − x − 2 y = 0
 dt dt


初期条件(t = 0でx = 1, y = −1)

初期条件に気を付けつつ 2 式の両辺をラプラス変換すると
+ ( sY( s ) − (−1)) − 3 X ( s ) − 4Y( s ) = 0
2( sX ( s ) − 1) 

( sX − 1) + ( sY( s ) − (−1)) − X ( s ) − 2Y( s ) =0
(s)

簡単な連立方程式になったので、X と Y についてまとめる。
1

 X ( s ) = ( s − 1) 2 + 1



s −1
Y( s ) =

( s − 1) 2 + 1
ラプラス逆変換を用いれば、解が求まる。
 x( t ) = e t (cos(t ) − sin(t ))


y t
 ( t ) = −e cos(t )
5. まとめ
フーリエ変換は初期条件を考慮せずに用いることができ、方程式の特別解を得ることが出来る。
ラプラス変換は初期条件無しに用いることはできず、方程式の一般解を得ることが出来る。
両変換の数学的な有用性は、微分方程式を代数方程式に変換することによって計算を簡単にでき
ることにあるが、物理的な有用性はどう説明されるのだろうか?
フーリエ変換は初期条件によらない解を導くが、これは与えられた系の初期条件によらない状態
(定常状態)が得られているということである。一方でラプラス変換は初期値による解、つまり
定常的でない状態が得られる。二つの変換は異なるコンセプトで用いるもので、決して「フーリ
エ変換を便利にしたのがラプラス変換」では無いのである。
物理問題は大別して「定常状態を探る問題」と「初期値問題」の2つに分けられる。よって、与
えられた問題がどちらを聞いているのかを見極める力があれば、自ずとどちらの変換を使うべき
かが見えてくるのである。
いかがでしたでしょうか?学生の視点からフーリエの有用性についてまとめさせて頂きました。
まだまだ補うべきことは山のように残っているのですが、この冊子を通してフーリエ解析に少し
でも親近感を持って頂けたら幸いです。
2003/12/13
物理科2年 井上崇史
[email protected]