自治体大量消滅予測の虚実 - 分権型政策制度研究センター

RCD Newsletter No53 May 2014
自治体大量消滅予測の虚実
松本克夫 ジャーナリスト
「523 の自治体が消滅する可能性が高い」という予測が衝撃を与えている。例の民間の有識者で構
成する日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)の予測である。消滅候補と名指しされた町や村は、
医師から余命宣告を受けた患者のようにショックが大きい。
しかし、もともと民間の有識者と雑誌が組んで、世の中にショックを与えようともくろんだ企画だ
から、冷静に受けとめた方がいい。人口の長期推計は、過去のトレンドの延長が基本になるが、母数
が小さくなるほど精度は落ちる。日本の将来人口については、かなり高い精度で推計できても、小さ
な市町村となると、あまり当てにはならない。工場が進出したり、撤退したりといったちょっとした
要因でかなり変動するからである。
「消滅する可能性が高い」という決めつけも、やや乱暴である。2040 年までに出産適齢期の 20~
39 歳の女性が半分以下になり、総人口が1万未満になると推計される自治体がそれに当てはまるとい
う。IT企業のサテライトオフィスの進出が相次ぐ徳島県神山町やIターン者が人口の1割を超える
島根県海士町も、消滅候補に含まれるが、住民の元気さは都会をはるかにしのぐ。土地に根を張った
住民は、簡単に消滅するほどひ弱ではない。
消滅可能性が高いというのは、地域が無人の野になるのではなく、自治体として存続困難になると
いう意味だろうが、もしこれが合併推進の口実に使われたら、危険である。サンプル的な調査をする
だけで気付くことだが、単独で存続を選んだ町村と、合併して他の自治体の周辺と化した旧町村を比
べると、合併町村の方が人口減少のペースは速い。となると、消滅自治体が増えるほど、過疎化が進
み、人口分布の不均衡は拡大する。
日本創成会議は大都市圏に人口が集中する社会を「極点社会」と名付け、そうならないために、広
域ブロック単位の地方中核都市に資源や政策を集中的に投入すべきだと提言する。恐らく、札幌、仙
台、広島、福岡などを想定していよう。それでも、3極が7極か8極になるだけで、
「極点社会」であ
ることに変わりはなかろう。日本創成会議は、合計特殊出生率の引き上げも提言しており、2025 年に
1.8、2035 年に2.1を目標にする案を示している。しかし、皮肉なことに、出生率日本一の鹿児島
県伊仙町をはじめ出生率の高い地域は、自治体の消滅可能性が高い地域とかなり重なる。つまり自治
体の大量消滅は、
日本全体の出生率引き下げにつながるということである。
人口減少ペースを遅らせ、
やがては増加へと反転させたいと望むなら、消滅しそうな自治体をできるだけ存続させることに努め
るのが得策という結論に落ち着く。
自然な状態であれば、動物は皆、個体数の増加や維持に努める。少子化は、社会の仕組みや習慣が
動物としての自然なあり方に反した証拠であろう。出生率の高い離島や沖縄県は、より自然の理に適
った暮らし方をしていると見なければならない。人口減少に危機感を抱くなら、まずはそうした地域
から学んだ方がいい。
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RCD Newsletter No53 May 2014
地方分権改革が停滞しているといわれる。この
したがって、改革のターゲットを統一することは
数年、分権改革の主戦場であった国の出先機関の
難しい。このため、今回、政府が5月から受け付
移管は実現する状況にはない。鳴り物入りで法制
けた「提案募集方式」の活用が重要になる。
化された国と地方の協議の場も、形骸化したとの
「分権改革の実現」を大上段に構える必要はな
指摘もある。冬の時代を迎えた分権改革を再起動
い。そもそも自治体の存在理由が、地域住民のく
するために、職員として何をすべきだろうか。
らしの豊かさの実現のためであれば、それに向か
国民の耳目を引くわかりやすいスローガン、国
って何をなすべきか、そして必要な権限、緩和す
に対する力強い姿勢…いずれも否であろう。それ
べき規制は何か…こうした原点回帰の問いかけで
は職員にしかできないことではない。私は、職員
十分だ。そして、必要な権限移譲、規制緩和のタ
としてなすべきことは、分権改革のミッションを
ーゲットを見つけ出し、積極的に提案すればいい。
確認し、そのミッション
もちろん、残された課題は、
に沿った取り組みを組
長年の改革で打ち破れなか
織の中で愚直に進める
った「岩盤」であり、見直し
ことに尽きると思う。
は容易ではない。しかし、岩
ミッションとは何か。
盤を打ち砕く力の源は、地域
政府の地方分権改革有
識者会議(神野直彦座長)
が昨年 12 月にまとめた
住民のくらしの豊かさの実
日野稔邦
佐賀県統括本部政策監グループ 係長
現のために必要だという事
実の積み重ねだ。
「総括と展望・中間とりまとめ」
(最終とりまとめ
そのためには、市町村からの積極的な提案も必
は 6 月)では、
「
『個性を活かし自立した地方をつ
要だ。私は、市町村課にお願いして、提案募集方
くる』というミッションを最大の目的とし、この
式の趣旨を説明する機会をいただいた。その際、
ミッションを通じて住民が享受できる豊かさを実
「問題意識はあるが、単独での提案は厳しいとい
現するビジョンを達成目標として進められなけれ
う市町村とは、県と連名で提案を」と申し上げた。
ばならない」としている。このミッションは、平
諸事情で市町村が提案しにくいなら、県が助太刀
成5年の国会決議以降、表現の違いこそあれ、基
すればいい。昔、平松守彦氏が「一村一品運動」
本的に異なるものではない。
を展開したが、
「一自治体一提案」でいい。それだ
けで、全国から 1700 の提案が内閣府に集まるこ
しかし、往々にして、改革運動は当初のミッシ
ョンを忘れ、運動そのものが自己目的化する。
「闘
とになる。
う知事会」のように、サロン的体質からの決別を
分権改革が停滞している、と誰かを批判するの
意図したフレーズが、転じて「闘うことを重視す
はたやすい。しかし、そうした批判で改革が進む
る」という副作用を生むこともある。分権改革も
とはとても思えない。必要なのは、
「個性活かし自
権限移譲、統治機構改革が自己目的化したのでは
立した地方をつくる」というミッションの再確認
ないか。分権改革に長年関わってきた一人として、
と、職員の決してあきらめない努力である。
反省すべき点は多々ある。
本年の提案募集は、7月15日が締め切りだ。
「個性を活かし自立した地方をつくる」という
「一自治体一提案」の積み重ね、はじめようじゃ
ミッションに立ち返ったとき、何を改革のターゲ
ないか。原点回帰であり、原点回「起」だ。
ットとするか、一律に決めることは難しい。
「個性
ひのとしくに:1996 年佐賀県入庁、市町村課、介護保険
を活かす」のだ。地方の個性、抱えている課題が
準備室、財政課などを経て現職。
千差万別である以上、その処方箋も千差万別だ。
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RCD Newsletter No53 May 2014
花は咲けども
坪井ゆづる
朝日新聞東北復興取材センター長・仙台総局長
ほかでも書いたが、あえてここでも書く。
しと
NHKの流す「花は咲く」を好きになれない。
花は散る」
(※印)
「透明な残酷」といわれる放射能も、散りゆく
最後に鈴木京香が歌えば、違う印象になるのかも
花びらも音をたてない。その静けさが逆に、恐ろ
しれないけれど、被災地の外側にいる著名人が、
しさをかき立てる。
たいへんだねぇ、みたいな歌い方をするところが
続く二番の歌詞が、原発問題の本質を突く。
いやだ。
「異郷に追われた
また春になって花が咲けば、もとの暮らしに戻
かと
浮かれる東京
れますよ、だから頑張りましょう、といわんばか
悲惨に
りの歌詞も気に入らない。
2度繰り返し)
被災地、とくに原発被災地では、花が咲くよう
人のことなど
痛める胸さえ
知ったこと
おのれの電気が
招いた
持ち合わせぬか」
(※印、
昨年、東京オリンピックの招致活動で「250
に被災者にも春はめぐりくるなどとは言えない。
キロ離れているから、東京は安全だ」と語られて
花が咲いたくらいで何とかなるような、甘っちょ
いた。これこそ、中央から辺境へのまなざしだ。
ろい現実ではないのだ。
そして「浮かれる東京」そのものだ。
だから、ひねくれ者の私には「『フクイチ』な
すでに、東京オリンピックは確実に震災の風化
ど、なかったことにしておこう、なかったことに
を加速させている。なぜ、東京の電気を福島が貢
してこう」と聞こえてしまう。
ぎもののようにつくり続けてきたのかという疑
こんな思いを募らせていたら、「花は咲く」に
問を雲散霧消させようとするかのようだ。
対抗する歌に出会った。
原発輸出の旗を振り、原発回帰のエネルギー政
題名は「花は咲けども」という。
策を打ち出している政権が、こんな現実を巧みに
山形県長井市のおじさんアマチュアグループ
つくり出している。
「影法師」が歌っている。1975年に結成され
見事なまでに、集権構造の象徴である「東京一
た、日本で唯一の「叙事詩派フォークソンググル
極集中」と「原発」の二枚看板が、私たちの目の
ープ」だという。
前に重ね合わせて提示されている。
You
Tubeで聴ける。
ここは、立ち止まって考えるべきだ。
歌は、こんなふうに始まる。
「原子の灰が
降った町にも
春は訪れ
もぬけの殻の
も草木は
花を咲かせる」
「原発維持」は従来の社会の温存であり、中央
変わらぬように
寂しい町で
集権の再構築にほかならない。
それで
これに対して、原発に頼らず、それぞれの地域
で再生可能エネルギーを地産地消する社会をつ
この春、福島県内の除染の現場で、白い花びら
くることは、地域の自治や自立を考え、支えてい
が舞う光景を目の当たりにした私は、「もぬけの
く第一歩になる。
殻」という表現に胸を締めつけられる。
だから、脱原発は分権改革そのものである。
あの花のあの散り方を見ていたかのように、歌
「3.11」以降、ずうっとそう思ってきた。
のさびはこう続く。
「花は咲けども
はなし
そして、この確信を日に日に深めている。花が咲
花は咲けども
毒を吐き出す
土の上
春を喜ぶ
人
いても何も変わらない被災地の現実を見つめつ
うらめし、くや
つ、
「花は咲けども」を歌いながら。
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RCD Newsletter No53 May 2014
で日本人の『お母さんや子どもたち』が米艦船に助けて
もらうケース」も(それが現実的か否かという議論は別と
して)、そんな事態が本当に起きれば、それこそ安倍首
相が最も嫌う「外交の敗北」そのものではないか、
等々。
一方、福井地裁は大飯原発の運転中止を命じる判
決を下した。「万が一原発事故が起きれば、生命と生
活を維持するという人格権が侵害される」。こちらも憲
法13条がその根拠だ。また日本創成会議は、少子高
齢化で市町村の半数近くが消滅の危機に瀕している
という衝撃的なデータを公表した。「原発」と「少子高
齢化」。「多くの人びとの命と暮らしを奪いかねない」と
いうのなら、そちらの方が切迫した危機に違いない。
安全保障上の「予想される危機」は、ひとまず「外交
努力」でしのぐとして、「いまそこにある」原発の危機、少
子高齢化の危機に全力で取り組む。そこで結果を出
せば、きっと多くの国民が「みなさんの命と暮らしを守りた
い」という安倍首相の言葉に素直に耳を傾けるようにな
るのではないだろうか。そう願わずにはいられない。
いまそこにある危機
城本 勝
NHK解説委員
政治の目的は「国民の命と暮らしを守ることだ」と安
倍首相は言う。憲法前文の「平和的生存権」13条の
「個人の幸福追求権」を守ることだと。
尖閣諸島に圧力を強める中国。核開発を止めな
い北朝鮮。日本周辺の安全保障環境は日々厳しさ
を増している。それに備えて、憲法解釈を変えてでも集
団的自衛権の行使を可能にする。平和だ、話し合い
だ、と手ぬるいことを言っていても「いまそこにある危機」
に対処できない。会見を見ていると安倍首相のそんな
苛立ちが良くわかる。
「だが待てよ」と天邪鬼の私は考える。
確かに中国は南シナ海でもベトナムに軍事的圧力
を加えている。北朝鮮は、文字通り「何を考えているの
か分からない」。危ないといえば危ないには違いない。
だが、今すぐ憲法解釈を変えなければ対応できないの
か、また、例えば安倍首相が挙げた「朝鮮半島有事
■ 地方分権改革と地域民主主義の発展に関する研究会
2014 年6月6日(金)
■ 人口減少時代における自治体のあり方に関する研究会 2014 年6月 19 日(木)
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子どもを連れて電車に乗ると、いろいろな人に話しかけられる。子育て経験のありそうなおばさんやおばあ
さんだけでなく、おじいさんやサラリーマンらしき人にまで話しかけられて、驚く。皆、一様に子どもを褒め、
母親である私のことをねぎらってくれるので、ほんとうにありがたい。話しかけてこなくても、向かい側で子
どもの様子に目を細めたり、手を振ってくれたり。降りるときに、
「はいは~い、こっち側持ちますよ~」と
いう感じで当たり前のように手伝ってくれる人もいた。子連れ乗車をめぐっては、ベビーカーでの乗車の是非
が話題になっていた時期でもあったので、粗相があってはならぬと緊張していたけれど、乗ってみれば、嫌な
思いをしたことは一度もなく、むしろ世間の人の温かさを感じることばかりであった。
(和田ひかり)
発行:分権型政策制度研究センター
〒100-0012
東京都千代田区日比谷公園 1-3 市政会館
4
Tel:03-3591-0566
2014 年 5 月 30 日