大腸がんで外来 FOLFOX6 療法により生じる有害事象に対 して外来治療開始前から摂取する濃厚流動食の効果 吉岡知美 1) 鳥越綾子 1) 香川由美 1) 坂本智子 1) 青木厚子 1) 富田晃司 2) 山 崎知行 2) 杉本直俊 3)( 1)看護部 2)臨床検査科 3)臨床腫瘍科兼消化管内科 ) 要旨 大腸がんで外来 FOLFOX6 療法を受ける 1 週間前より、濃厚流動食を摂取した患者(実施群)の治療前と治 療 2 週間後の血液検査データの変化および、食欲不振の程度、食事摂取状況について、過去に同じ治療を行 った患者(非実施群)のデータの変化を比較し、有害事象に対する濃厚流動食の効果を報告する。 キーワード:濃厚流動食 外来化学療法 【はじめに】 近年、外科領域では、術後の創傷治癒促進、感 染予防目的で免疫賦活剤を含む濃厚流動食を術前 から患者に飲用してもらい、栄養状態を出来るだ け良好に保った状態で手術を行なうことの有効性 が証明されている。また近年、栄養状態が化学療 法の有害事象へ影響を与えているという報告があ る一方、化学療法を受ける患者の多くは、有害事 象により免疫力の低下や低栄養状態が問題になっ ているが栄養介入による報告は少ない。 再発大腸がんや切除不能大腸がんの患者は外来 で FOLFOX6 療法(フルオロウラシル+オキサリプ ラチン+レボホリナート)を2週に1回のクールで 受けている。治療後 2~3 日目以降に Grade1~2 (有害事象共通用語基準 CTCAE の Grade)程度 の食欲不振を訴え、一時的に栄養状態が低下する 場合が多く、また、治療を継続することで低栄養 状態になる患者も少なくない。有害事象の骨髄抑 制によって白血球、好中球が減少した場合には、 治療を1週間延期することになるが、食欲不振が 出現している時期に必要栄養量を患者にすすめる ことは困難となり、栄養状態の低下が、免疫力の 低下につながり、悪循環となってしまう。 そこで、副作用症状が出現していない治療開始 前より、自宅で摂取する食事に加えて濃厚流動食 を飲用することで、栄養状態を良好に保つことが でき、有害事象への影響を軽減させることができ るか検討した。 【倫理的配慮】 所属施設の倫理審査委員会の承認を得た後、対 象者に書面にて説明し同意を得た。 期間は非実施群、平成 2007 年 5 月 18 日~2008 年 7 月 24 日、実施群、2008 年 11 月 6 日~2009 年 11 月 9 日。対象は、大腸癌に対し FOLFOX6 療法を初回入院で治療を受けた後、外来で治療を 継続する患者で医師の許可を得た患者 8 名を実施 群とし、過去 1 年間に大腸癌でFOLFOX6 治療 を行った患者 10 名を非実施群とした。但し、外来 初回の治療日が 16 日以上間隔のあいた者は除外と した。実施群に対し、5 種類の味の違う濃厚流動食 (125cc/200kcal)を試飲してもらい、自分で選 択した好みの味の濃厚流動食を 1~2 本/日、外来 で治療を受ける 1 週間前より治療当日までの 7 日 間飲用させた。実施群の治療前と初回入院治療後 の 2 週間後の外来治療 1 回目、そしてその2週間 後外来治療 2 回目の血液検査値(白血球数・好中 球数・リンパ球数・血清アルブミン値)の変化お よび、食欲不振の程度(有害事象共通用語基準 CTCAE の Grade で表現)、体重の増減、食事摂取 状況についてのデータと、非実施群の診療録より 情報収集した非実施群のデータを比較検討した。 両群の比較は U 検定を用い、p<0.05 を有意差あ りとした。 【結果】 対象者の平均年齢 57.38±10.58。男性 5 名、女 性 3 名。非実施群 10 名、平均年齢 63±8.04.男性 5 名、女性 5 名。実施群の治療前の BMI は平均 20.46 ±2.49、非実施群 22.46±2.3。実施群は全員、濃 厚流動食を 7 日間で 1~2 本/日摂取した。食事摂 取量は濃厚流動食摂取期間中であっても減少する ことはなかった。 血液検査値の結果は表 1 に示した。 【対象と方法】 表 1 平均値と平均値の減少率 平均値 入院時 白血球 好中球 ALB リンパ球 実施群 非実施群 実施群 非実施群 実施群 非実施群 実施群 非実施群 5582.5±1417.92 5075±1829.06 3525.86±1055.07 3031.8±1236.36 4.22±0.537 4.1±0.386 1369.75±610.15 1510.9±731.05 外来初回 4060±2080.93 3735±1036.32 2367±1745.74 1708.7±828.63 4.11±0.458 4.14±0.408 1074.13±485.85 1529.5±519.25 平均値の減少率 外来 2 回目 3680±1643.79 4377±1089.74 1955.88±1448.2 2203.4±768.34 4.01±0.569 4.22±0.301 1115.75±382.93 1597.9±504.54 入院時から 外来初回 27.53±29.02 23.24±18.96 35.49±31.83 43.10±20.98 1.98±10.96 -2.14±5.58 18.28±24.09 -7.79±34.81 外来初回から 外来 2 回目 -2.23±43.29 -19.30±15.15 -4.93±67.74 -93.70±149.75 2.44±8.13 -2.20±2.70 -8.57±14.91 -7.12±19.28 実施群と非実施群の上記血液検査値において、 両群間に有意な差はみられなかった。また、上記 項目全ての血液データの両群間の減少率において も、同様に差はみられなかった。しかし、ALB 値 ~2 までであった。実施群の体重は、初回入院治 療後から外来 1 回目の治療時に減少している者は いなかった。非実施群の体重増減のデータはなか ったため、今回比較検討は行っていない。 【考察】 今回の取り組みでは、食欲不振の症状が軽減し ている時期を選び、濃厚流動食は比較的嗜好に合 うものを患者自身に選択してもらったことで、抵 抗なく摂取できたのではないかと考える。そして、 摂取量は、普段の食事量にも影響のない程度であ った。化学療法中の患者は有害事象により、食べ やすいものだけを好んで摂取することや、必要栄 容量に満たない食事摂取量になりがちであるが、 今回、普段の食事に加えて、手軽に栄養補給を行 うことが出来た。その結果、入院時から外来初回 の ALB 値の減少率は 1.98%程度に留まり、体重も 減少している者はいなかったのではないかと考え る。しかし、非実施群の ALB 値の減少率も-2.14% であったことから、今回は非実施群の治療による 栄養状態への影響は少なかったと言える。今回対 象とした FOLFOX 療法の有害事象である、食欲不 振・嘔気等の消化器症状の程度は、一般的に Grade2 までの患者が多く、一時的に栄養状態が低 下し、治療を継続することで低栄養状態になる患 者も少なくはないため、今後も継続的に検証する 意義はあると考える。また、化学療法の治療によ っては消化器症状が Grade2 以上で食事摂取量が 極端に低下し、低栄養状態になるものも少なくは ない。日下らは「外来化学療法を受ける患者の胃 癌 70%、膵臓癌 50%、大腸癌 15.8%、において、 BMI18.5 以下、アルブミン値3.5以下の低栄 養状態で栄養介入の必要性がある」1)と報告して いることからも、他の治療の対象者も含めて検証 する必要はあると考える。しかし、今回の研究で は実施群、非実施群の両群間に有意な差は見られ なかった。そこで、有害事象に対する濃厚流動食 の効果を証明できなかった原因を考えてみた。ま ず、第一点に摂取時期や量が適切であったか今後 検討を重ねる必要がある。第二点として、血液検 査の評価時期は、患者の負担を考え非実施群と同 条件にしたため、FOLFOX 療法の場合2週間毎の 治療時に血液検査を実施した。その結果、骨髄抑 制の最も強い時期の減少率を比較できなかった。 第三点として、栄養の指標となる血液データにつ いても同様、患者の負担軽減を考慮し、血液検査 項目を追加しては行わなかったため、十分な評価 には至らなかったと思われる。第四点として、摂 取期間は外来治療を受ける 1 週間前より治療当日 の 7 日間のみであったため、治療継続による栄養 状態悪化の時期における評価にも至らなかった。 今回、大腸がんで外来 FOLFOX6 療法により生 じる有害事象に対して外来治療開始前から摂取す る濃厚流動食の明らかな効果は証明されなかった が、当センターの先行研究では、化学療法を受け る患者に対し、濃厚流動食と高カロリー輸液との 比較で骨髄抑制に対する効果はすでに証明されて いる。また、当センターでは、入院中の患者に対 して入院時から栄養状態を評価し、低栄養状態の 患者を対象に、NSTが介入し、栄養状態の改善 に努めてはいる。しかし、外来患者の栄養評価、 の実施群の入院時から外来初回の平均値の減少率 は 1.98%に留まった。食欲不振の程度は実施群、 非実施群共に Grade1 改善についてはこれからの課題となっていること からも、今後は対象者や評価時期、評価指標等を 検討し、有害事象に対しての外来治療開始前から 摂取する濃厚流動食の効果についてさらに検証し ていきたい。 【結論】 大腸がんで外来 FOLFOX6 療法を受ける患者に 対して、外来治療開始前から摂取する濃厚流動食 は、初回入院治療後から外来治療 1 回目の ALB 値 の減少率が少なく、また、体重減少している者は いなかったことから、栄養状態の維持においては、 効果的であろうことが示唆された。 【本研究結果の発表】 第 25 回日本がん看護学会学術集会発表予定 【引用文献】 1)日下茂ほか:外来化学療法における栄養管理 の 必 要 性 . 静 脈 栄 養 学 会 Vol.23 増 刊 号 :206 (2008) 【参考文献】 1)安武健一郎ほか:日本医療マネジメント学会 雑誌 Vol.7 No2, :309-313 (2006) 2)西條長宏,渡辺孝子:がん看護増刊号 Vol.11 No.2 (2006) 3)東口高志:NST の運営と栄養療法. 医学芸術 社, 2006 4)丸口ミサエほか:がん化学療法看護 スキル アップテキスト 南江堂(2009)
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