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2009 年 11 月 16 日 第 16 号
haratax 通信
民主党政権になって相続税はどう変わるか
「民主党に政権が変わって相続税はどうなるのですか」と聞かれることが多くなりました。
まだ具体的な内容は明らかになっていませんが、今回のharatax通信では、現時点で民主党が
発表している政策、政府税制調査会の議事録などから相続税の方向性を探ってみたいと思います。
1.
「民主党政策集 INDEX2009」の内容
民主党が平成 21 年 7 月 17 日現在でまとめた「民主党政策集 INDEX2009」の相続税に関す
る記載は以下の通りです。
相続税・贈与税改革の推進
相続税については、「富の一部を社会に還元する」考え方に立つ「遺産課税方式」への転換を検
討します。
相続税の課税ベース、税率の見直しについては、わが国社会の安定や活力に不可欠な中堅資
産家層の育成に配慮しつつ検討します。税収を社会保障の財源とすることも検討します。
さらに、相続税の課税方式の見直しに合わせて、現役世代への生前贈与による財産の有効活
用などの視点を含めて、贈与税のあり方も見直します。
2.
相続税の課税方式
相続税の課税方式には大きく二つの類型があります。
ひとつは被相続人の遺産そのものに課税する「遺産課税方式」で、生存中に貯めた財産の
一部を死亡にあたって社会に還元すべきとの考え方に基づいています。
また、もうひとつは遺産を取得した相続人等ごとに課税する「遺産取得課税方式」で、相続と
いう偶然による財産の増加を抑制することを目的としています。
わが国では、当初「遺産課税方式」によっていましたが、昭和 25 年の税制改正において「遺
産取得課税方式」が導入され、さらに昭和 33 年に税額計算に遺産課税方式の要素を加えた
「法定相続分課税方式」に見直し、今日に至っています。
現在の「法定相続分課税方式」は、「遺産課税方式」の要素を含みつつ、財産取得者ごとに
課税することから「遺産取得課税方式」の一形式といえます。
前回(昨年)の税制改正の議論では、自由民主党が「法定相続分課税方式」から純粋な「遺
産取得課税方式」に転換することを検討していましたが、今回の民主党の考えは、課税方式自
体を昭和 24 年以前の「遺産課税方式」に戻すということであり、実現されればかなり大がかり
な制度改正になることが予想されます。
それぞれの課税方式の主な特徴
遺産課税方式
遺産取得課税方式
・ 被相続人の生存中に貯めた財産に課 ・ 財産の取得者ごとに課税するので、
税するという点で、本来の意味におけ
各相続人の担税力(税金を払える力)
る財産税といえる。
に応じた課税が可能
・ 被相続人の財産に課税するだけなの ・ 財産の集中を抑制できる。
で、課税方法がわかりやすい。
・ 仮装分割などの租税回避行為が生じ
・ 取得の状況に関係なく計算されるため
やすい。
財産の集中を抑制する効果は薄い。
3.
課税方式の変更が与える影響
現在の相続税は基本的に「遺産取得課税方式」によっているため、相続税の基礎控除、小
規模宅地の特例、配偶者の税額軽減、生命保険金の非課税など、財産を取得する人ごとに
計算し、適用する制度が多く存在します。
亡くなった方の段階で税金をすべて整理し、財産の取得を税金計算上考慮しないのであれ
ば、法定相続人が何人いても基礎控除の額は一律になり、財産の取得に応じて適用される
上記の軽減措置は廃止せざるを得ないことになります。
また、現状の贈与税も「遺産取得課税方式」の考え方により、贈与を受けた受贈者に対して
かかっていますが、被相続人の生存中に貯めた財産に課税するという「遺産取得課税」の考
え方によれば、贈与者に贈与税を課税することになり、相続時にすべての贈与を精算すべき
ということになります。
民主党のいう「遺産課税方式」の詳細が明らかにされていませんが、課税方式を変更する
ためには、相続税の計算構造の根本的な変更が必要という認識は持っておくべきでしょう。
4.
相続税の課税ベース、税率の見直し
平成 21 年 11 月 5 日 第 6 回税制調査会において、相続税の課税ベース、税率の見直し
等についての発言がありました。
古本財務大臣政務官の発言の抜粋
・
課税割合、つまり、相続が 100 件発生すれば、一体どのくらいの方に相続税が発生して
いるかという割合でありますが、4.2 ポイントということで、要は 100 人 4 人、100 件に 4
件という状況でございます。これは課税のピークでありました昭和 62 年の 7.9 ポイントに
比べまして、ジリ貧の状況になってきていると言わざるを得ないわけでございます。
・
21 年度ベースで見ますと、約 1.5 兆円でございますが、ピークの平成 5 年でご覧いただ
きますと、2.9 兆円の相続税収があったわけでありまして、大変細っている。このことに
関しまして、資産の再配分機能あるいは財源調達機能が低下をしていると言わざるを得
ないということでございます。
・
累次にわたる、ずばり言えば減税により、平成 6 年以降は御案内のとおり 5,000 万円プ
ラス 1,000 万円かける法定相続人数というような形になってきたんですけれども、他方で
地価が下がっていますので、その差分が結果として相続税の面積を削ってきた要因とし
て背景にございます。
・
つまり課税ベースを緩めたものの、一方で地価が高止まりでなく、むしろ大変下がってい
る、下落基調にある中にあって、果たして資産税の基本である相続税の課税ベース、有
り様がこのままでいいのであろうかという問題提起でございます。
・
相続を機会に高齢者世帯間における資産格差が次世代に引き継がれる可能性という観
点もございます。格差が固定しない社会の構築ということも考えますと、今後、相続税の
課税ベースや税率構造など資産税のあり方を、またこの場でも議論させていただきたい
と考えております。
5.
まとめ
私見ですが、課税方式を変更したいというよりも、上記の税制調査会におけるコメント(基礎
控除を縮小することにより相続税の課税ベースを広げ、相続税の税率を相対的に上げたい)
が政府、財務省の本音ではないでしょうか。
前回の自由民主党政権による税制改正の議論でも、純粋な「遺産取得課税方式」への変
更に伴い基礎控除の縮小、税率構造の変更が予定されていましたが、最終的には実施され
ませんでした。
今回の民主党による相続税の「遺産課税方式」への変更についても、最初に課税ベースの
拡大、増税基調ありきで、そのきっかけとしての課税方式変更であるように思えます。
つまり、前政権との違いを打ち出すために「遺産課税方式」としただけで、実際には課税方
式を変えなくても実施できる改正なのではないかということです。
政府がいつまでに課税方式を変えようとしているのか、どのくらい本気で変えようとしている
のかは分かりませんが、課税方式を「遺産課税方式」に変更するのであれば、相続税法の抜
本的改正となるため、短期間で簡単にできるものではないと考えています。
12 月の中旬には「平成 22 年度 税制改正大綱」が発表される予定です。相続税の将来像
について、どこまで具体的な内容が発表されるか注目していきたいと思います。