滑稽俳句論壇 №99 」 藤森荘吉

滑稽俳句論壇 №99
「後 半 は い よ い よ 滑 稽 俳 句 こ ん な の が 好 き 」
藤森荘吉
(続 )言 葉 遊 び ― 《 転 換 ミ ス 》「 貝 が 胃 に 居 ま し た → 海 外 に 居 ま し た 」「 謝 り を
尚 し な さ い → 誤 り を 直 し な さ い 」「 企 画 長 サ ブ → 企 画 調 査 部 」「 滑 稽 は 行 く 協 会
→滑稽俳句協会」
ギャグ―すし屋のカウンター「旦那穴子ですか」
「俺は人間だぁ」、老舗の鰻屋
「鰻も昔のようなのは手に入り難くて」
「昔恋しや銀座の鰻」、
「君ラッキーだね」
「うん(運)」、「ではどうぞ一句」「四句八句です」
俳句は言葉を拾う作業であり、相性の良い言葉を結びつける作業である。洒
落を考えたり、同音異義語を幾つも思い浮かべたり、言葉で遊ぶのは、ユーモ
アの感覚を養い、様々な言葉の綾を手繰り出す脳内の所作である。即ちこれら
は、五音七音五音の語彙を抽出し俳句に転換する作業のウォーミングアップだ。
よく売れそうな本のタイトルを考えてみるとか、回文とかもトレーニングにな
るだろう。しかし、ちょっと脱線しすぎたかしら…。
こんな俳句が好き―全くの個人的好みをご披露しよう。
漱石の猫の死を伝える松根東洋城の電文「センセイノネコガシニタルサムサ
カ ナ 」、 対 す る 高 濱 虚 子 の 返 電 「 ワ ガ ハ イ ノ カ イ ミ ヨ ウ モ ナ キ ス ス キ カ ナ 」。 控
え目な俳味、滑稽が自己目的化していない。
そして正岡子規の句も。
「初日さす硯の海に波もなし」。滑稽というより見立て
のスケールが巨大すぎてナンセンスっぽい。「今年はと思ふことなきにしもあら
ず」。三十にして立つという而立の歳を迎えながらも、意を致したようなそうで
な い よ う な 曖 昧 の 妙 味 。「 大 三 十 日 愚 な り 元 日 猶 愚 也 」。 滑 稽 よ り も 自 己 を 飄 逸
が貫いている。
私が初めて師に添削を仰いだ句「春埃(ほこり)掃除が趣味といふ男」。師は
赤鉛筆で「面白い」と書き添えて返してくれた。きっと面白い句なのだ。
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滑稽俳句論壇 №99
文人や落語家・芸人の作に粋で面白い俳句が多い。内田百閒(薫風や本を売り
た る 銭 の か さ )、 岡 本 文 弥 ( 白 梅 や わ れ を も 含 め 人 が 邪 魔 )、 戸 板 康 二 ( 春 昼 や
狂はぬ猫の腹時計)、小沢昭一(声かけて昼寝の足の返事かな)の句のファンで
ある。
そして、久保田万太郎が安藤鶴夫「落語観賞」(昭和二〇年代刊)の序文に贈
った俳句、コレは必見。落語ひとつひとつに句をつけて贈っているもので、平
成二十一年「わが落語鑑賞」(河出文庫版)のあとがきに再録されている。
「酢豆腐」―たゝむかとおもへばひらく扇かな
「素人鰻」―夏の夜の酒にのまるゝ性根かな
「厨火事」―短日の夫婦のでるのひくのかな
「干物箱」―猫の恋猫の口真似したりけり
さあこれにて、連載もこの年もおしまい。終わりよければ…。「年忘れ自分よ
ければすべてよし」。
[完]
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