5万米ドル以下海外送金が原則自由に(外貨管理法 9

浜銀総合研究所 中国ビジネスサテライト「中国コラム」 2013 年 9 月号 http://www.yokohama-ri.co.jp
5万米ドル以下海外送金が原則自由に(外貨管理法 9 月改正)
∼中国子会社からの利益回収∼
チャイナ・インフォメーション 21
筧武雄
かつて巨額の貿易黒字、超円高、製造業の人手不足等を背景として 1980 年代後半に始ま
った日本企業の中国進出ブームは、アジア金融危機、WTO 正式加盟、リーマンショック、
そして今回のアベノミクス・円安シフト等、様々な世界経済環境の変遷を経て、同時に中
国自身の高度経済成長に伴う人件費等諸物価コスト上昇、人民元レート上昇等も進み、今
や中国ビジネス進出のファンダメンタルズが大きな曲がり角を迎えている。
かつては豊富で低コストな中国の人件費を活用して、協力メーカーを引き連れて生産ラ
インを中国にシフトし、日本、欧米市場での国際価格競争力をつけ、中国工場から海外市
場に輸出するスキームに日本本社あるいは香港子会社が直接介在することで利益を獲得す
る仕組が中国進出ビジネス成功の典型パターンであった。
しかし、今世紀に入って中国の GDP 総額が一兆ドルを超え、2010 年には日本を超えて
世界第二位の経済規模となり、輸出増大に伴って人民元レートも間断なく上昇を続け、さ
らに人件費をはじめ材料コスト等の国内物価上昇も進んだ結果、従来パターンの輸出利益
は妙味が小さくなり、逆に購買力を増した中国国内マーケット向けの国内販売市場開拓へ
と日本企業の中国ビジネス戦略はシフトしつつある。ところが、海外輸出から国内販売へ
の基本戦略転換にともない、「現地製造−現地販売」の商流に日本親会社が介在できなくな
ってしまったため、従来の利益回収手段を喪失してしまうという事態が同時に発生してい
る。
1. 利益回収の方法
一般に中国等、海外進出の利益回収方法は様々である。
① 貿易取引に伴う売買収益
② 金銭貸付に伴う利息収益
③ 投資に伴う配当収益
④ 技術指導、経営管理指導、コンサルティング等に伴う報酬、手数料
⑤ 製造、設計、サービス役務等の海外アウトソーシングに伴うコストダウン利益
⑥ 資源・不動産開発、市場開発、人材開発等に伴う開発利益
⑦ 中国市場でのブランド展開、新規ビジネスルート等の開拓利益
⑧ 顧客の海外ビジネス協力に伴う見返り利益
等々が挙げられるだろう。
利益回収の基本は配当金による方法が古典的であるが、中国ビジネスの場合は合弁経営
のため配当決議が必要、また継続的な高い賃上げ率と政府の強い労働保護政策などの要因
もあり、配当金よりも①貿易利益、④手数料・報酬利益による利益回収方法が一般的で、
さらに⑥人材開拓、⑦新規取引開拓などの非金銭的な利益も小さくない1。
なかでも、④技術指導や経営管理指導、コンサルティングなど、貨物売買を伴わない役
1 親子間貸付も可能であるが、資本金額に比例した貸付金額の制限がある。
1
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務取引(中国語で「服務(サービス)貿易」という)に伴う報酬・手数料の形での利益回収は関
税も企業所得税もかからず、現地の税前費用として支払うことができ、送金の際の課税も
「源泉税 10%+サービス増値税(6%程度)」と税引後配当よりも軽いことから、頻繁に利用
されている。2001 年の中国 WTO 正式加盟に伴って、それまでの企業所得税関連の優遇税
制が廃止され、さらに配当課税が始まったことも、この傾向に拍車をかけた。
2. 服務(サービス)貿易送金の規制緩和
今回 7 月 18 日付で国家外貨管理局は「服務(サービス)貿易外貨管理法規の印刷・発布に
関する通知」
(匯発[2013]30 号、2013 年 9 月 1 日実施)」を公布し、貿易外海外送金の
規制を大幅に緩和した。
今年 3 月の本コラムでも解説したが、中国内源泉所得を海外送金する際、一件あたり 3
万米ドル以上の場合は、事前に国税局での税務調査と「税務証明(送金許可証)」の取得が義
務付けられてきたが、今回の措置により、この限度額が今年 9 月から一件あたり 5 万米ド
ルを超える場合に緩和された。従来必要とされた 3 万米ドル以上の「税務証明」は廃止さ
れ、かわって 5 万米ドル超の「税務届出表」が海外送金の「許可証」となった。また、こ
の新規定は収益及び経常移転(利益配当、賠償、税金等)の外貨受取・支払にも同様に適
用されるという。
9 月以降、一件 5 万米ドル以下の海外送金は、銀行窓口で送金根拠を確認できる証拠資料
を提示するだけで事足りることになった。銀行の中には、書類確認も一切不要、送金依頼
書に記載するだけで可とする対応も一部あるようだが、日本親会社としては最低限、根拠
となる契約書、請求書は手順を踏んで作成保管しておく必要がある。これらがなければ、
例えば日本側で「海外売上の申告漏れ」と指摘されても仕方がないだろう。
3. 保税地域を利用した親会社の仲介貿易
実態は中国国内販売であるにもかかわらず、物流園区など中国内にある特殊な保税地域
を利用して、いったん日本親会社向け輸出手続きを済ませ、貨物を保税倉庫から国外に搬
出する前に保税状態のまま、親会社が中国内顧客に貨物を転売して仲介利益を獲得し、保
税倉庫から保税地域外に「再輸入」させることで、実質国内の商流に海外親会社を半ば強
制的に介在させようとする方法も実在する。しかし、この方法は、中国子会社の増値税輸
出不還付負担、顧客の関税負担増を強いるもので、通関手続きや貨物代金の決済方法が煩
雑なうえに、最終的な利益回収までに相当な時間を要するもので、あまり実用的とは言え
ないだろう。
日本親会社
①元発注
②発注
⑤保税転売
通関
通関
中国子会社
物流園区保税倉庫等
中国顧客
③製造
④輸出
⑤保税転売
⑥再輸入
※増値税一部不還付
※関税・増値税負担
以上
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