個人保険販売に力を入れる英国の大手小売業

あいおい基礎研究所ミニレポート 2009.8.13
「海外情報」
個人保険販売に力を入れる英国の大手小売業
保険も食料品のようにいとも簡単に売ってしまう英国スーパー
渡辺 武志
英国のスーパーマーケット業界が個人向け損害保険の販売に注力している。保険の販売チャ
ネルとしてのシェアも自動車保険が13%、住宅火災保険が16%に達している(2006年
度英国保険協会資料)。
このシェアは小売業以外の提携販売も含む数字であるがその中心が
小売業を中心としたブランドアシュアラーと称される販売チャネルである。 ブランドアシュ
アラーとは金融サービス以外の本業で築いたブランド力や顧客基盤を活かして損保商品を販売
する業者の総称である。小売業等がこうした形で保険販売を行う業態は米国ではついぞ聞かな
い。フランスでもカルフールやオーシャン等の小売業で一部あるようであるがこれ程の規模の
ものはなく英国固有の形態と言っても良い販売チャネルである。契約手続きは大半がスーパー
店頭での直接販売ではなくチラシ等で顧客の目を引き電話やインターネットで申込みを受ける
方式である。インターネット経由の場合は保険料の割引や顧客カードのポイントが加算される
などの特典がある。一般に伝統を重んじ保守的と思われている英国民が1ポンドでも安い保険
を求めてスーパーマーケットで何の抵抗もなく気軽に保険を購入することに驚かされる。
ブランドアシュアラーやダイレクト保険会社の台頭に伴い長い間個人保険分野で60%以上の
圧倒的シェアを占めていた伝統的販売チャネルであるブローカー(代理店を含む)のシェアは
35%前後に落ち込んでいる。(別表参照)
ブランドアシュアラーが初めて英国に登場したのは1999年であるが、その年の自動車保
険のシェアは1%火災保険は僅か2%に過ぎなかったが年々そのシェアを伸ばし高いシェアを
占めるに至っている。ブランドアシュアラーの中で代表的なのが、スーパーマーケット最大手
のテスコ(TESCO)社であり、同社はグループ企業のテスコファイナンスを通じて保険を販売し
ており、2008年1月17日のInsurancetimes記事「スーパーマーケットが
消費者を虜にする」によると同社の保有契約は、自動車保険130万件、住宅火災40万件に
達していると報じられている。我が国でも一部のスーパーマーケットで損害保険を販売する試
みはこれまでも試行錯誤しながら幾度となく行われてきているが、総じて成功しているとは思
えない。現在は自社カードユーザーへの傷害保険や新種保険の通販程度ではないかと推察され
る。
スーパーマーケットにとって保険は今や生鮮食料品等と同様欠かすことのできない重要な販
売商品となっておりテスコ社に負けまいとアスダ、マークス&スペンサー、ウエイトローズ、
セインツベリー、ホームベース社等の小売大手が競って保険の販売をしている。
これ程まで英国の小売業が保険販売に成功した理由はどこのあるのだろうか? キーワード
は保険料の安さと保険の「日用品化」である。前述のInsurancetimesの記事で
は保険販売の成功はスーパーマーケット業界の持つマーケティング能力にあると分析している。
「スーパー業界は世代をリードすることが巧みであり、店内に入った顧客はその発するメッセ
ージを避けて通ることが出来ない。
」とのアフィニティ保険の専門家の意見を紹介している。またスー
パーマーケットは小売をすることに長けており、保険を売ることもチキンや豆類等の食料品を
売ることも小売に違いはないと考えており、同じ感覚でいとも簡単に保険も売ってしまう。成
功の秘訣はこれに尽きるとも論じている。
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あいおい基礎研究所ミニレポート 2009.8.13
スーパー業界の保険戦略は今や現状にあきたらず自社顧客に加えインターネットを活用した
無差別販売へと踏み出している。保険会社も新たな販路としてのこうしたニューチャネルの出
現を歓迎しているが、前面には出ずパンフレットの片隅に小さな文字でその名前と保険監督庁
(FSA)の承認を得ていることが記載されている程度であり良く注意して見ないと気がつかない
程である。興味深いのは小売業と保険会社が直接保険の販売委託契約を結んでいるのではなく
その間に保険会社と企業の間で保険販売をコーディネートする管理会社が存在することである。
テスコ社であればテスコパーソナルファイナンス社であり、アスダ(ASDA)であれば BDML コネ
クト社などの運営会社である。これら運営会社のマネジメントの巧拙もブランドアシュアラー
としての成功を左右すると見られている。運営会社の功績は個人用の自動車保険や火災保険を
分かり易いパンフレットや CM でその安さを強調し日用品のように身近な存在としたことであ
る。顧客は野菜や肉の価格の売り出しチラシと同感覚で保険料を比較し少しでも安いものを見
つけ出し納得出来れば手に取り籠に入れる。まさにそんな感覚なのであろうか。
これまで保険はブローカーや代理店などの専門家によく説明を聞かなければ理解できない難
しい商品であり自分で判断して買う商品ではないとの感覚であったが今や英国民にとって保険
も個人が意識して手軽に節約できる小売商品であると最早その認識が変わったと言われている。
「安ければよい、英国の消費者は引受保険会社がどこであるかなどは誰も気にしていない」
と筆者の面談した BDML コネクト社幹部は語っていた。また「英国のスーパーマーケット業界は
過去20年以上にわたりリストラを推進しコストを30%近く下げており、その努力の結果が
保険料の安さに結びついている。彼等が企業努力して成し得た安い保険料をどうして顧客が拒
否できよう。
」、
「スーパーが流通コストを減らしてきたように旧来のチャネルにおける保険申し
込みから証券の作成に至るまでの無駄なステップに要するコストを省いた成果だ」と付け加え
た。同社は小売業の保険販売をマネジメントする会社であり少し割り引いて聞く必要があるか
も知れないが。
スーパーマーケットによる保険販売の増加を保険会社は基本的に歓迎しているが、
「安売り競
争」ともいえる様相が強くなることには警戒感を示している。特に自動車保険ではどんな契約
でも取り扱いたいスーパー側とリスクを選別したい保険会社側の思惑が異なるため、当初はス
ーパーと引受保険会社の関係は1対1が中心であったが、スーパー側での保険会社による引受
拒否対策として、パネルと称される引受保険会社の数を増やし多様なユーザーニーズとリスク
態様に応える方式が増えている。
【
2006年度個人自動車保険・住宅火災保険シェア
代理店+ブロ
ーカー
自動車保険
火災保険
35
34
企業代理店
5
5
銀行・住宅金融
組合
3
28
ダイレクト
44
17
】
小売+アフィ
ニティ
13
16
合計
(%)
100
100
(英国保険協会資料)
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あいおい基礎研究所ミニレポート 2009.8.13
(英国小売業最大手 TESCO 社のウエブサイト)
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