派遣社員の利用(労働契約法 7 月改正)

浜銀総合研究所 中国ビジネスサテライト「中国コラム」 2013 年 7 月号 http://www.yokohama-ri.co.jp
派遣社員の利用(労働契約法 7 月改正)
チャイナ・インフォメーション 21
筧武雄
2008 年に制定施行された「中国労働契約法」では、同一企業で勤続 10 年以上、あるい
は労働契約を連続 2 回締結した以降の契約更新の際、労働者が希望すれば企業は定年退職
年齢まで終身雇用しなければならないと定められている(第 14 条)。それ以来、
「終身雇用リ
スク」を回避するため、正社員直接雇用を避け人材派遣契約1にもとづく間接雇用(中国語で
「労務派遣」)形態で人材を採用する中国企業が増え、今や多数の人材派遣会社が各地に乱
立し、国有企業を中心として、日系企業を含む多くの外資企業も派遣社員を活用する現状
となっている。
しかし、他方で人材派遣に関わる詳細な法規制が未整備なこと、「派遣」と「請負」の法
的区分も中国では未だ不明確なことなどから、法に定められた最低賃金保障、残業手当支
払、社会保険加入義務すら遵守せず、あるいは企業間の業務「請負」契約に偽装した実質
的な労働者派遣(いわゆる「偽装請負派遣」)も一部に蔓延しているようだ。このような現状
の問題に対処するため、中国政府が今年 7 月に施行した「労働契約法」改正は、人材派遣
に関連する法規制を大幅に強化し、その影響は日系企業にも及んでいる。
1.「労働契約法」7 月改正施行のポイント
(1) すべての人材派遣会社に中国政府の人材派遣業資格審査と認可取得が義務付けられた。
最低資本金が 50 万元から 200 万元に引き上げられ、固定住所と人材派遣業管理制度を
有することが要求され、今後 1 年以内に既存の会社を含め、すべての人材派遣業者は政
府労働行政部門の審査と認可を受けなければならない(「労働契約法」第 57 条改正と改
正の決定通知)。
(2) 「中国労働法」に定められた「同一労働・同一賃金」(中国語で「同工同酬」)原則を守
り、派遣契約書上でも、派遣社員には正社員と同じ賃金分配制度(賃金規程と体系)を適
用すると明記しなければならない(第 63 条改正、同時施行「労務派遣行政許可実施弁法」)
(3) 人材派遣業務は、期間 6 か月を超えない臨時的、かつ主要業務ではない補助的業務、あ
るいは休暇療養中の正社員の代替的業務(派遣業務の「三性」という)に限定され、同時
1 中国語で「労務契約」という。正社員の直接雇用契約書にあたる「労働契約」と紛らわしい名称なので注意。
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に派遣社員数は社員総数の一定割合を超えることが禁止された(第 66 条改正)
改正決定通知によれば、上記(1)(2)については改正施行日(7 月 1 日)から実施、(3)派遣担
当業務については現行の労働契約が終了次第、順次実施とされ、派遣人数比率規制につい
ては各地の労働行政当局の説明会において口頭で異なる指導がなされている2現状で、2013
年 7 月時点ではいまだ全国的統一基準は出されていない。
2.本改正の影響と対応について
(1)「派遣切り」か、正社員登用か
駐在員事務所の場合は従来どおり派遣社員雇用が義務付けられ、本法改正の影響は無い。
今回は法人企業に対して派遣社員の利用が大きく制限され、派遣社員利用の人数比率制限
を超えた派遣社員に対して以下のような対応が進められている。
① 重要職位にある者から優先的に直接雇用への切り替えを検討する
② 派遣期限到来順に、派遣契約を解消するか、正社員に登用するか個別に検討する
③ 正社員切替者について、派遣会社と引き続き「人事代理」契約を結ぶか検討する
いずれにせよ、今回の法改正が人民元高、賃金上昇、燃料・材料等物価上昇を背景として、
「派遣切り」によるリストラ増、あるいは正社員登用、
「同工同酬」原則に伴う賃上げなど、
関連の労使紛争の増加を加速させてしまう可能性も否定できない。
(2)「人事代理」契約の留意点
「人事代理」契約とは、旧派遣社員の人事関連書類の管理、社会保険・住宅積立金等の
関連事務、その他政府部門への報告や許認可事項など、人事労務に関連する事務を、正社
員切り替え後も旧派遣会社が引き続き受託代行するアウトソーシング契約のことである。
会社規模等によっては、正社員であっても労務管理を外部委託したほうがコスト安という
ケースもあるだろう。しかしこの場合、表面上は派遣社員時代と大きな変化はなくとも、
以下のような実質的な人事管理責任とリスクは免れないので、注意が必要である。
① 労務管理事務は引き続き派遣会社でも、従業員に対する法律上の人事労務責任・法的義
務は、雇用企業が本人との労働契約にもとづいて直接負う。労使紛争、労働訴訟等人事
トラブルへの対応においても同様である。
② リストラ、レイオフ、解雇や賃上げ交渉など、従来は本人と人材派遣会社との相談であ
ったところ、今後は労働契約内容にもとづく本人との直接交渉となる。従来は関係無か
った正社員雇用企業の負う中国特有の解雇制限や終身雇用義務(5 月解説参照)等につい
て注意が必要である。
③ 政府系派遣会社であれば従来免除されていた給与欠配保障金、身体障害者就業保障金な
2 地方、政府部門間でも一致を見ておらず、上海 10%、広東、重慶 30%等のほか、一部に 5%、15%、原則禁止という
情報もある。
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ど一部の関連費用負担が、新たに雇用企業に課せられる。
④ 正社員としてカウントされるため、給与計算、賞与・退職金、有給休暇管理、社会保険
計算、あるいは労働生産性などの企業効率計算にも直接の影響が生ずる。
(3) 退職金計算の問題
正社員への切り替え登用に伴い、それまで派遣社員と派遣会社が結んでいた労働契約を
解約または満期終了させる際、その退職金の支払を企業側に要求してくる動きが一部に発
生している。また、派遣社員時代の勤務年数が正社員切り替え後の勤務年数に加算(通期計
算)されてしまう可能性もあるので、切り替える場合は派遣会社との確認が必要である。
法上は直接雇用主である派遣会社が本来負担すべき費用であること、また今回の退職は
自己都合でも会社都合でもない法改正にもとづく変更であること、外資系企業だけでなく
国有企業はじめ中国企業一般にも同様の影響があることを考えれば、関連通知の発出など
しばらく動向を見守ったうえで対処検討すべきだろう。
(4)人材派遣契約から業務「請負」契約への切り替え
今回の法改正には含まれていないが、先月すでに改正施行された「江蘇省労働契約条例」
では、以下のとおり請負契約に偽装した実質的な人材派遣は派遣契約とみなすとしている。
★「江蘇省労働契約条例」第 36 条
・企業が派遣労働者を使用する人数の、当該企業労働者総数に占める割合は、国家規定の
割合を超えてはならない。
・企業が業務を他の業者に外注するが、請負業者の労働者が発注企業の住所において、発
注企業の施設設備を使用し、その手配を遵守して役務等を提供することは、名目上は労
務請負契約であるが実質上の労務派遣に該当すると認定する。
以
上
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