小学校体育科「めあて学習」を支援するためのICT活用

B1-04
教育工学
小学校体育科「めあて学習」を支援するためのICT活用
岡山市立豊小学校 教諭
山 下 晴
久
研究の概要
小学校体育科「めあて学習」において,児童の目当ての自己決定と,目当ての達成に向けた技の
練習を支援するため,ICT活用の工夫を探った。ディジタルポートフォリオやタイムシフト再生
を用いた視覚的フィードバックを学習活動に取り入れた実践を行った。その結果,児童が具体的な
目当てを自己決定したり,技を修正しながら練習したりするための一助となることが分かった。
キーワード 小学校体育,めあて学習,ICT活用,視覚的フィードバック
Ⅰ
主題設定の理由と目的
体育の授業は児童にとって楽しみな時間の一つである。跳び箱運動の学習では,児童は跳び箱を
何度も跳びたがり,技の練習を繰り返す。跳び箱を跳び越せることに楽しさを感じ,技能が上達す
ることで満足しているようである。
しかし,体育の授業は技能だけでなく,自ら学ぶ意欲や思考力,判断力などの資質や能力の育成
も重視している。そのため,小学校体育科でも「めあて学習」が行われ,児童が目当てを自己決定
し,目当ての達成に向けて自発的,自主的に取り組む学習が進められている。
細江(2000)は,図1に示すように,「めあて学習」における学習の流れを,「めあて」として,
自分のできるようになりたい内容を決める活動と,「やってみること」として,「めあて解決の方
法」を選んで練習する活動の二つの活動で押さ
えることができると説明している。
こうなりたいという「願い」とか
これまで,筆者は日々の授業実践で「めあて
めあて
こだわっている内容を決める
学習」を行ってきたが,児童が目当てを自己決
例)器械運動/技,陸上運動/記録
定することに困難さを感じることがあった。目
↓ ↑
やって
A めあて解決の方法を選ぶ
当てを決められない児童や,決められたとして
みること
例)器械運動−技が上手になる
も抽象的な目当てしか自己決定できない児童が
ための大切ポイントを選ぶ
いた。また,練習中は,目当てのことをあまり
↓ ↑
意識せず,体を動かすことを楽しみにして練習
B 活動の仕方を選んで練習・挑戦する
例)器械運動−大切ポイントが
を繰り返す児童がいた。
身につくような活動を選んで
一方,教育の情報化が進み,ICTを活用し
練習する
た授業が多く行われるようになった。文部科学
図1 「めあて学習」における学習の流れ1)
省委託事業「教育の情報化の推進に資する研究
(ITを活用した指導の効果等の調査等)報告
書」(2006)によると,ICTを活用すれば体育科においても効果的に目標を達成できることが報
告されているア)。
そこで,小学校体育科「めあて学習」において,児童の目当ての自己決定と,目当ての達成に向
けた技の練習を支援するため,授業実践を通してICT活用の工夫を探ることを目的として,本研
究主題を設定した。
Ⅱ
1
研究の内容
児童の実態
児童が,「どのような目当てを自己決定しているのか」「決定した目当てをどのように達成し
ようとしているのか」について実態を調査した。
- 111 -
・対象:岡山市立豊小学校 第4学年 24人
・単元:小学校体育科「跳び箱運動」
・期間:平成18年6月14日∼30日
・目的:児童の目当ての自己決定の現状と練習中の児童の様子を知る
・方法:学習カードの記述分析,行動観察
(1) 児童が自己決定した目当ての内容
児童はどのような内容の目当てを自己決定して学習しているのかについて,学習カードの記述
分析を通して調査した。表1は,児童が学習カードに書いた目当ての内容を分類し,集計したも
のである。技についての具体的な目当てを自己決定できた児童は学級の半数に達していなかった。
約3分の2の児童
は,「着地をがん
表1 目当ての内容の分類とその集計結果 (単位:人)
分類
児童の記述例
第2時 第3時 第4時 第5時 計
ばる」「きちんと
おしりを着かないように着地をする。
やる」「がんばっ
脚を胸にもっと近付ける。
8
3
32
11
具体的な内容
10
て跳びたい」のよ
後ろ頭を着けて回る。
うな抽象的な内容
跳び箱の手前に手を着く。
着地をがんばる。
の目当てであった。
助走。
これらのことから,
16
18
59
11
抽象的な内容 手の位置を気を付ける。
14
技についての具体
きちんとやる。
的な目当てを自己
がんばって跳びたい。
不適切な内容 だいぶできるようになった。
決定できている児
0
2
4
2
0
あるいは空欄 空欄
童が少ないことが
計 24
23
24
24
95
分かった。
(2) 練習中の児童の様子
授業の導入部で目当てを自己決定した児童が,目当ての達成に向けて,どのように練習してい
るのかについて,行動観察を通して調査した。練習中に観察した児童の活動の様子を表2に示す。
行動観察を通して,多くの児童は,跳び箱を何回も跳ぼうと挑戦し,意欲的に活動しているよ
うに見られた。児童は,跳び箱を跳べなかったことを悔しがっているようであった。技がうまく
できなくても,学習カードでポイントを確認したり,基礎となるやさしい動きの練習をしたりせ
ず,技を修正している児童は少なかった。また,学習カードに具体的な内容の目当てを書いては
いても,目当ての達成に向けて,技を修正している児童は少なかった。
表2 観察した児童の活動の様子(一部)
○「開脚跳びで足をしっかり上げる」という目当ての児童
かかえ込み跳び練習用跳び箱の,一番上を外した状態で練習している。助走して跳ぶ。7回繰り返し
た後,一番上を取り付ける。助走して跳ぶが,跳び箱の上で,正座の状態になり,「あー」と声を出
す。2回目を跳ぶが,再び正座の状態になり,「あー」と声を出す。3回目を挑戦したが,跳べない。
台上前転の練習の場へ移動する。一回目,頭を着くが体が上がらず,そのまま横側に転落する。2回
目,手を着き,頭を着けただけで跳び上がらずにやめる。ほかの場へ移動する。
○「台上前転で後ろ頭を着けるようにする」という目当ての児童
台上前転のやさしい練習の場で練習を繰り返す。3段の跳び箱の場に移動する。1回目,体が斜めに
なり転落する。再びやさしい練習の場に戻り練習を繰り返す。
○「開脚跳びをうまくしたい」という目当ての児童
跳び箱に向かって助走し,跳び箱に手を着いてやめる。高さの違う跳び箱に向かって助走し,跳び箱
に手を着き,乗り上がってやめる。さらに違う跳び箱に向かって走り出し,跳び箱にまたがってやめ
る。両手を横に広げ,お手上げのポーズをする。
○「台上前転の着地」という目当ての児童
台上前転のやさしい練習の場で,助走にスピードを付け,勢いよく回転している。これを繰り返す。
スピードを付けた助走から台上へダイビングする。場を移動する。助走し踏み切るが,跳び箱の上に覆
いかぶさるような状態になり,跳び箱をたたいて笑う。担任が歩み寄ると,ほかの場に移動する。
- 112 -
(1),(2)の実態調査から,児童は,「具体的な目当てを自己決定できていないこと」「練習中
に技を修正していないこと」が分かった。
そこで,この二つの問題点(具体的な目当てを自己決定できていない,練習中に技を修正して
いない)を解決するため,ICTを取り入れることを考えた。
2 体育科におけるICTの活用
これまで,体育科ではICTを活用した実践が行われ,ディジタルコンテンツも多数開発され
てきている。例えば,岡山県情報教育センター(2006)では,ディジタルコンテンツで技の手本
となる動きを確認して練習する実践や,練習中にビデオカメラで自分の技を録画して確認する実
践が行われている。これらの実践では,運動の動きを目で見て確認することから,視覚的フィー
ドバック(詳細後述)を利用していると言える。これらの実践を通して,児童の意欲や達成感,
コミュニケーションを高めることが明らかになっている。しかし,目当ての自己決定や技の修正
とのかかわりという観点からの報告はされていない。
そこで,この視覚的フィードバックを利用して,先に述べた二つの問題点が解決できないだろ
うかと考えた。視覚を通して自分の技の動きを確認したり,手本の演技と比較したりすることで,
具体的な目当てを自己決定したり,練習中に技を修正したりするようになると考えたからである。
3 目当ての自己決定と技の修正を支援する手立て
本研究では,視覚的フィードバックを「めあて学
習」の学習過程に取り入れた(図2)。教育工学事典
開 始
(2000)によると,フィードバックとは,「効果的な
行動を実現するために,自らの行動のもたらした結果
の一部分をデータとして取り込み(フィードし),次
目当ての決定
2)
視覚的
のより適切な行動のために活用する機構」 のこと
フィードバック
である。本研究では,学習者が自分の目で自分の技を
動きの確認
(A)
確認したり,手本と比べて違いを見付けたりして,技
を修正していくことを,視覚的フィードバックという。
まず,授業の導入部で,目当てを自己決定する場面
技の練習
に視覚的フィードバックを取り入れる(図2のA)。
視覚的
録画した自分の技の動きを確認し,手本の演技と比較
フィードバック
動きの確認
(B)
して目当てを決めることで,技についての具体的な目
当てを自己決定できると考えたからである。
次に,授業の展開部で,練習中に技を修正する場面
終 了
に視覚的フィードバックを取り入れる(図2のB)。
練習中に,自分の技を録画して動きを確認することで,
図2 学習活動のフローチャート
技を修正しながら練習することができると考えたから
である。
4 授業実践
表3 単元の流れ
時
学習のねらいと活動
・対象:岡山市立豊小学校 第4学年 25人
1
オリエンテーション
・単元:小学校体育科「マット運動」
2 できる技を上手にしたり,できそうな技に
・期間:平成18年10月10日∼19日
3 挑戦したりして楽しむ。
(1) 単元の流れ
4 できる技を繰り返したり組み合わせたり,
5 友達と動きを合わせたりして,連続技を
表3に示すような単元の流れで,6時間の授業実
6 楽しむ。
践を行った。
(2) 授業の実際
① ディジタルポートフォリオ
授業の導入部で,視覚的フィードバックを取り入れるため,ディジタルポートフォリオを用い
- 113 -
た。ディジタルポートフォリオとは,コンピュータを利用したポートフォリオの一形態で,学習
の成果物をコンピュータにデジタル化して蓄積したものをいう。本研究では,毎時間,児童の技
を録画し蓄積した。録画は,授業の終末部に行い,それを教師が編集し,次時の導入部で確認し
た。
図3に,ディジタルポートフォリオの操作画面を示す。録画した自分の技は,画面の右側㋐で
見ることができる。画面右下㋑のところで,何時間目の技を見るか選ぶようにした。また,画面
の左側㋒では,手本の演技を見ることができる。手本の演技は,前転,後転など,単元で取り上
げる技の動画を用意し,左上のメニュー㋓から選ぶようにした。これらは,必要に応じて再生を
止めたり,ゆっくり再生したりすることができ,細かく比べることができるようにした。また,
演技の下側㋔に,技のポイントを表示した。児童は,このディジタルポートフォリオを使って,
録画した自分の技と手本の演技を比較して目当てを決めた。
技のポイント
イ
見るか選ぶ
何時間目の技を
手本の演技
ウ
ア
録画された自分の技
見るか選ぶ
どの手本の演技を
エ
オ
図3 ディジタルポートフォリオの操作画面
②
タイムシフト再生
授業の展開部で,視覚的フィードバックを取り入れるため,タイムシフト再生を用いた。タイ
ムシフト再生とは,コンピュータで映像を録画し
ながら,同時に録画し終わった部分を任意の時間
演技後にコンピュータの
前に移動
遅らせて再生できる機能のことである。児童は,
ア
DVカメラ
練習中にタイムシフト再生を使って自分の動きを
確認し,技を修正しながら練習を行った。
コンピュータ
図4に,体育館での機器設置の様子を示す。コ
ンピュータは,録画された技が約15秒後に再生さ
れるよう設定しておいた。児童は,コンピュータ
イ
やDVカメラの機器操作を行わず,カメラの前に
15秒前の自分の
動きを見る
敷かれた㋐のマットの上で技を行い,直後に㋑の
コンピュータの前に移動して,自分の技の動きを
確認した。
図4 機器設置の様子
- 114 -
③
1単位時間の授業の流れ
表4は第5時の学習指導案の一部である。授業の導入部は,コンピュータを利用するため視聴
覚室で行った。まず,ディジタルポートフォリオを使って自分の技の動きを確認するとともに,
手本の演技を見た(写真1)。自分の技と手本の演技を比較して目当てを決め,学習カードに記
入してから,体育館に移動し運動を行った。目当て①の「もう少しでできそうな技に挑戦する活
動」では,いろいろな練習の場を設定し,自分に合った場を選んで練習した。目当て②の「今で
きる技を繰り返したり組み合わせたりする活動」では,技能の習熟度に関係なく4,5人グルー
プで活動した。練習中はいつでも,タイムシフト再生を使って自分の技の動きを確認したり(写
真2),コンピュータにある手本の演技を確認したりすることができるようにした(写真3)。
授業の終末部は,本時の活動を振り返り,学習カードにまとめを書く活動を行い,それと同時進
行で,ディジタルポートフォリオに蓄積するための技の録画を行った。
表4 第5時の学習指導案(一部)
学 習 活 動
1
本時の見通しを持つ。(視聴覚室)
・ディジタルポートフォリオを使って自分の技の動きを確認する。
・手本の演技を見る。
・自分の技と手本の演技を比較して目当てを決め,学習カードに書く。
2
体育館に移動し,用具の準備をする。(体育館)
3
体ほぐしの運動をする。
4
目当て①の活動を行う。
目当て①
もう少しでできそうな技に挑戦し,できるようにしよう。
・少し努力すればできそうな技を練習する。
・自分に合った練習の場を選び,取り組む。
・タイムシフト再生を使って自分の技の動きを確認し,技を修正する。
・友達同士で教え合う。
5
目当て②の活動を行う。
目当て②
今できる技を繰り返したり組み合わせたり,友達と動きの調子を合わせたり変えたりしよう。
・できる技でなめらかに連続技をしたり,友達と一緒に連続技をしたりする。
・技の組み合わせや,友達との合わせ方を工夫して,取り組む。
・タイムシフト再生を使って自分の技の動きを確認し,技を修正する。
・友達同士で教え合う。
6
学習のまとめをする。
・本時の活動を振り返り,学習カードにまとめを書く。
・ディジタルポートフォリオに蓄積するため,技を録画する。
7
整理運動,用具の片付けをする。
写真1 自分の技の動きを確認
写真2 タイムシフト再生
- 115 -
写真3 手本の演技を確認
5 結果と考察
(1) ディジタルポートフォリオを用いた視覚的フィードバック
① 学習カードへの記述
表5は,児童が学習
表5 目当ての内容の分類とその集計結果 (単位:人)
カードに書いた目当て
分類
児童の記述例
第2時 第3時 第4時 第5時 第6時 計
の内容を分類し,集計
前転は足を引っ付けて。開脚
前転は足をピシッとのばす。
したものである。具体
回転するときに丸くなる。
的な目当てを自己決定
足を伸ばしておきたい。手を
具体的な内容
18
18
19
19
20
94
できた児童は,単元を
しっかり突き放すようにする。
水平バランスで3秒止まる。
通して学級の約8割で
首倒立。腰のところで止まる
あった。ディジタル
から首で立てるようにする。
ポートフォリオを用い
うまく回る。
抽象的な内容 着地をがんばる。
5
6
4
6
5
26
た視覚的フィードバッ
ポーズ。
クにより目当てを決め
不適切な内容
空欄
1
0
1
0
0
2
ているので,おおむね
あるいは空欄
各児童の力に合った目
計 24
24
24
25
25
122
当てが自己決定できて
いた。その具体例を次に示す。
抽出児は,技能の習熟度が異なる3児童とした。
教師が観察したところ,A児は,前転や開脚前転な
ア
ど一通りの技ができ,技の完成度を高めていく段階
にあると判断される児童である。B児は,一通りの
技に挑戦しているが,まだ技の完成度が高くないと
イ
判断される児童である。C児は,前転と水平バラン
スはできていると判断される児童である。
図5は,A児が第4時に学習カードに書いた目当
図5 A児の第4時の学習カード(抜粋)
てである。A児は,ディジタルポートフォリオに映
る自分の技と手本の演技を比較して,㋐「足をもう
すこしのばしたほうがいい」のように,開脚後転の
脚が曲がっていると認識した。そこで,㋑「足をの ア
ばしておきたい」のように,開脚後転で起き上がる
時に,脚が伸びた状態を目指すという具体的な目当
てを自己決定している。
図6は,B児が第3時に学習カードに書いた目当
イ
てである。B児は,ディジタルポートフォリオに映
図6 B児の第3時の学習カード(抜粋)
る自分の技と手本の演技を比較して,㋐「足があ
がっていない」のように,自分の側方倒立回転は,
足が高く上がっていないと認識した。そこで,㋑
「足をのばす」のように,足を伸ばした側方倒立回
転を目指すという具体的な目当てを自己決定してい ア
る。
図7は,C児が第3時に学習カードに書いた目当
てである。C児は,ディジタルポートフォリオに映
イ
る自分の技と手本の演技を比較して,㋐「前よりは
よくなった」のように抽象的な進歩を記述していた。 図7 C児の第3時の学習カード(抜粋)
- 116 -
また,技の目当ての欄に,開脚前転に挑戦すると
技のポイントについて考え,
書いているが,㋑「ポーズをきれいに」のように,
自分の目当てを持つことができましたか。
開脚前転についての具体的な目当てを自己決定で
23
1 N=24
第2時 きていない。
22
2 N=24
第3時 ② 自己評価
図8は,学習カードに書いた児童の自己評価を
22
1 1 N=24
第4時 集計した結果の一部である。技のポイントについ
24
1 N=25
第5時 て考え,自分の目当てを持つことができたかどう
22
3 N=25
第6時 かについて尋ねた項目に対して,約9割の児童が
(人)
はい
どちらでもない
いいえ
「はい」と回答した。このことから,ほとんどの
児童は,技についての目当てを自己決定できたと
図8 学習カードの自己評価の集計結果(一部)
思っていることが分かる。
①,②からディジタルポートフォリオを用いた視覚的フィードバックにより,児童はおおむね
具体的な目当てを自己決定することができたと言える。
(2) タイムシフト再生を用いた視覚的フィードバック
① タイムシフト再生の利用状況
タイムシフト再生を利用した児童数を表6に示した。第1時はオリエンテーションと技調べで
あったので利用していない。利用人数は,単元が進むにつれて多くなる結果となった。単元前半
は,技ができる限られた児童が録画を行っていたが,単元後半になると,それまで利用しなかっ
た児童も録画を行うようになった。第4時と第6時の利用回数が少なくなっているが,第4時は
連続技の説明を行ったこと,第6時はグルー
表6 タイムシフト再生の利用人数と利用回数
プで技を組み合わせる活動の説明を行ったこ
第2時 第3時 第4時 第5時 第6時
とが関係していると考える。これらのことか
8人
11人
16人
19人
23人
利用人数
ら,単元が進むにつれて多くの児童が,技を
(N=24) (N=24) (N=24) (N=25) (N=25)
修正しようとタイムシフト再生で自分の技の
利用回数 41回
85回
56回
87回
41回
動きを確認しに行っていたと言える。
一方,単元前半に,自分の技よりも自分の姿が再生されることを喜び,本来の目的とは異なる
使い方をしていた児童がいた。そのような児童には個別に,学習カードを見て本時の目当てを確
認させると同時に,機器を利用する目的を再確認するよう指導した。
② 学習カードへの記述
図9は,A児が第4時に学習カードに書いた学習
のまとめである。A児はタイムシフト再生で2回確
認している。㋐「足をまげずにやった」のように,
ア
脚を伸ばすことを意識して練習していたことが分か
る。また,㋑「さいしょは足をまげたりしていたけ
イ
ど,終わりでは足をまげずにできていた」のように,
授業の初めには曲がっていた脚が授業の終わりには, 図9 A児の第4時の学習カード(抜粋)
伸びるようになったことを基に,できばえの欄に○
を付けている。したがって,A児は,脚を伸ばした
開脚前転と開脚後転を目指し,タイムシフト再生を
用いた視覚的フィードバックにより,技を修正しな
ア
がら練習していたと考えられる。
図10は,B児が第5時に学習カードに書いた学習
イ
のまとめである。B児はタイムシフト再生で7回確
認している。B児の側方倒立回転は,勢いのあまり, 図 10 B児の第5時の学習カード(抜粋)
- 117 -
技の終わりで静止できない状況であった。そこで,㋐「とまる」のように,動きを止めることを
意識して練習していたことが分かる。また,㋑「とまれた」のように,止まることができるよう
になったことを基に,できばえの欄に○を付けている。したがって,B児は,技の終わりで静止
することを目指し,タイムシフト再生を用いた視覚的フィードバックにより,技を修正しながら
練習していたと考えられる。
①,②から,タイムシフト再生を用いた視覚的フィードバックにより,児童は技を修正しなが
ら練習していたと言える。
(3) 事前・事後に行った児童の意識調査
事前と事後の児童の意識の変容をとらえるために,3段階評定法を用いたアンケート調査を実
施した。質問項目は筑波大学の高橋ら(2003)が作成した「診断的・総括的授業評価票」の質問
項目を使用した。質問項目に対して,3段階評価の「はい」「どちらでもない」「いいえ」の順
に,3,2,1点と得点化し
表7 事前・事後の児童の意識調査の結果(抜粋)
平均値を算出した。そして,
平均値
標準偏差
番
有意
事前・事後での対応のあるt
質問項目
t値
号
水準
前
後
前
後
検定を行った。この中から有
体育をしているとき,どうしたら
意差が見られた項目について
Q3 運動がうまくできるかを
2.24 2.76 0.78 0.52 -2.83 **
のみ表7に表す。
考えながら勉強しています。
体育で運動するとき,自分の
この結果から,児童は,ど
Q5
2.56 2.88 0.77 0.44 -2.14 *
目当てを持って勉強します。
うしたら運動がうまくできる
体育では,友達や先生が
2.48 2.76 0.77 0.52 -2.28 *
かを考えながら自分の目当て Q16 励ましてくれます。
* p < .05 ** p < .01
を持って,友達や先生と励ま
し合い学習している,という意識が向上したことが分かる。
(1)∼(3)のことから,授業の導入部においてディジタルポートフォリオを用いて,録画した自
分の技と手本の演技を比較すれば,児童はおおむね具体的な目当てを自己決定できるようになる
ことが分かった。また,授業の展開部において練習中にタイムシフト再生を用いて,自分の技の
動きを確認すれば,児童の技の修正に役立つことが分かった。
Ⅲ 成果と課題
本研究では,小学校体育科第4学年の「マット運動」の単元を取り上げ,目当ての自己決定と目
当ての達成に向けた技の練習を支援するICT活用の工夫を探るため,授業実践を行った。その結
果,ディジタルポートフォリオやタイムシフト再生を用いた視覚的フィードバックを学習活動に取
り入れることは,児童が具体的な目当てを自己決定したり,技を修正しながら練習したりするため
の一助となることが分かった。体育科の「めあて学習」におけるICT活用は,目当てとのかかわ
りを考え,視覚的フィードバックを取り入れた活用の仕方が望ましいと考える。
一方,ディジタルポートフォリオに蓄積する動画の編集に多くの時間が掛かることが課題として
残った。また,校内ネットワーク環境の事情により,ディジタルポートフォリオを視聴覚室だけで
しか閲覧できなかったが,体育館や教室での閲覧が可能になれば活用の幅が広がるものと考える。
○引用・参考文献
1) 杉山重利ほか編:新学習指導要領による小学校体育の授業―⑦考え方・進め方―,大修館書店,p.91,
2000
2) 日本教育工学会編:教育工学事典,実教出版,p.448,2000
・ 高橋健夫編著:体育授業を観察評価する,明和出版,2003
・ 岡山県情報教育センター:画像簡易作成ツール「ぞうかめさん」を活用した授業実践と教育効果,
研究紀要第6号,2006
○Webページ
ア) 文部科学省:文部科学省委託事業「教育の情報化の推進に資する研究」
(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/07/06071911.htm)
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