情報番号:20071547 テーマ:在庫担保融資

情報番号:20071547
テーマ:在庫担保融資/法制度の整備で次第に拡大
編集者:コンサルタント 戸谷 紘(エス・エス・マネージメント)
1.在庫担保融資の拡大の背景
在庫や機械設備の非不動産=動産を、「担保に入れた」ということを法律的
に明示する登記制度「動産譲渡登記制度」が、平成 17 年 10 月から導入されて
以来、各金融機関は新たな戦略商品として重視し始めた。取扱件数も着実に増
加している。当該融資制度が普及し始めた背景には、次の要因がある。
(1)法制度の整備:
前述のように、登記制度が設けられ、債権者、債務者双方が、担保の要件を
「登記」というテーブルの上で確認しあえるシステムができたこと。
(当該登記制度の概要は、末尾に記載)
(2)時代の要請―在庫の経済的価値の水準が膨大で、金融政策上も、放置出
来なくって来たこと:
法人企業統計平成 17 年度版によれば、中小企業(資本金 1 億円未満)の在
庫の経済的価値は、約 47 兆円に達する。これと売掛金約 91 兆円とを合わせた
金額は 138 兆円で、土地の 87 兆円を大きく上回る。
バブル経済崩壊後は、土地の担保価値は価格下落で低下の一途をたどってい
る。経済政策や金融政策的にも、「在庫」を担保とした与信システムの拡充は、
土地担保を主体とした金融システムの閉塞状態を脱する画期的なものである。
(3)在庫担保の評価・運営の「ノウハウ」が充実してきたこと:
在庫担保制度運営の難しさは
①在庫の評価
②在庫の管理(在庫は借入者が保管)
③担保対象の貸金が不良債権化した場合、在庫の処分=転売ルートの有無にある。
最近では、
①評価については、価格変動がゆるやかな商品、時間的経過で腐敗との経済
的価値が劣化しない商品
②在庫管理については、借り手側の在庫の保管管理体制が確実な企業に限定
③在庫の処分ルートは、金融機関側も、自行の取引先や商社の先を模索している。
以上のように、制約要因は徐々に克服されてきている。
*この情報の無断コピーを禁じます。
(株)経営ソフトリサーチ・レファレンス事業部
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2.在庫担保の変形=ABL(アセット・ベースト・レンディング)
「在庫」が販売されて、「売掛金」になり、売掛金が回収され現金になると
いった一連の「事業のライフサイクル」に着目。
この在庫→売掛金を「一体」として担保取得して、「極度枠」を設定する仕組
み。単純な在庫担保に比べて、貸し手側、借り手側も資金の流れを認識しなが
ら当該システムを利用する点が特徴である。
3.最近の在庫担保融資またはABL型担保融資の事例
1 大麦を担保:本社倉庫内保管の大麦 500 トンを担保に、40 百万円融資。
2 ワインを担保:倉庫保管の高級ワイン2万本。50 百万円融資。
3 紅ズワイガニを担保:冷凍倉庫に保管のカニ。10 百万円融資。
4 清酒を担保:貯蔵タンク内および倉庫保管の清酒。20 百万円融資。
5 紳士服を担保:70 百万円融資
6 その他:米担保、焼酎担保、ピアノ担保、装飾品担保、汎用切削工具担
保、豚・野菜担保(農業法人向け)
4.在庫の評価水準と金利
1 評価:簿価の 30%∼70%として査定。
因みに、保証協会に設けられた在庫担保保証制度では、簿価の 30%と規定。
2 金利水準:ビジネスローンなどの「無担保融資」に比べてやや低く設定。
ただし、金融機関にとっては、在庫担保融資は、無担保融資に近いだけに
相当の「貸倒引当金」を積む必要があり、今後、無制限に当該制度が進行す
るか、課題を残す。
5.今後拡大するか:
第1章で述べたが、当該システムは、金融機関側の取扱ノウハウの習熟並び
に借入者側の「資金調達の多様化」の流れで、拡大する余地はある。
しかし、商品のうち、「物理的制約(腐敗・鮮度維持)」や「ライフサイクル
が速い」商品には、担保として不適格な担保もある。その点で、通常の不動産
担保の程の汎用性はない。
しかし、今後、不動産担保、無担保・無保証ローンに並ぶ、「第3の担保」
形態になることは必須である。
因みに、米国では、在庫、売掛金を含む「動産担保」融資の残高は四十兆円
に達している。
6.在庫担保を容認させる金融機関交渉のポイント
1 在庫担保融資を全く受け入れない方針の金融機関か?問合せ調査する。
2 在庫は金融機関側に保管されていない、かつ常時在庫残高が変動。
この特性が金融機関側の在庫担保採用を後ろ向き姿勢にさせている。
交渉の際は、次の点をこちらから積極的に示して、金融機関側のガードを緩
和させることが大切。
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(株)経営ソフトリサーチ・レファレンス事業部
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① 「在庫の保管・出庫管理数量のデータ―製商品別」は電子データとして確
実に把握されていること
② 在庫保管時の数量的、金額的の「上限と下限と平均」値を示せること
③ 在庫品のうち「鮮度・ライフサイクル」などの視点で、在庫の経済的価値
の存在も示せること
以上の保管・出荷管理体制が金融機関側を安心させる。また、登記が実態に合
致したものとして信憑性を高める。
在庫担保、面倒からずに挑戦することも肝要。
<詳細>動産譲渡登記制度
平成 16 年 11 月「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例」の法改正が成立。
17 年 10 月から「動産譲渡登記制度の運用」が開始された。
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譲渡担保登記の対象:「法人が行う」動産の登記に限定。
登記取扱の登記所(動産譲渡登記所と称する):東京法務局のみ。
全国の動産譲渡登記の事務も東京法務局の登記所のみが受け付けられる。
動譲渡登記事項の「概要」:譲渡人の本社所在地の登記所に関係ファイル
が備え付け、確認できる。動産譲渡登記所(現在は東京法務局)から、概
要が「通知」の形で送付されているからである。
概要の内容は、
イ 譲渡人の商号
ロ 本店の所在地
ハ 譲渡の「概括的内容(譲渡動産を特定する事項は含まれない)」
譲渡対象の動産を「特定」し、「情報を公示」する方法:
イ 動産の種類・特質によって特定する(個別動産)
ロ 動産の種類・所在地によって特定する(集合動産) の2形態。
因みに
・在庫商品など「日々内容が変動する」動産は、集合動産→ロ の方法
この方式は、「当該所在地にある同種類の動産すべて」が譲渡対象になる。
当該所在地に「搬入された時点」で登記の効力が及ぶ。
たとえば、宝石卸商の場合:ロの方法では
**番地所在の保管場所**流通センター内収納の 宝石、指輪、
(イの方法(個別動産)の事例:機械問屋の在庫―NC旋盤
製造番号***、 保管場所**番地)
手続きはさほど複雑でなく、貸し手金融機関側が担保価値を認め、借り手側
の在庫(=担保)管理体制がしっかりしていれば、今後、借り手側から、積極
的に貸手=金融機関へ働きかけることも賢明である。
(20.02 収録)
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