子宮腺筋症の診断・治療

2012年 9 月
N―163
ガイドライン解説 婦人科外来編 ディベート
CQ217 「子宮腺筋症の診断・治療」
挙児希望のある患者に対して子宮腺筋症核出術を勧める vs 勧めない
1)勧める
国立病院機構霞ヶ浦医療センター
西田 正人
座長:東北大学
八重樫伸生
はじめに
子宮腺筋症核出術の是非を論じるには,その論拠となるべきエビデンスが必要です.し
かしながら,いまだに余りにも信頼できる成績が少ないのが現状です.術式自体も試行錯
誤の中にあり,一口で腺筋症核出術といっても,筆者のように病巣の完全除去を目指す術
式から,病巣中央部を楔状に切除するだけの術式まで千差万別で,その予後を同じ土俵で
論ずることすら憚られるほどです.
一方,薬物療法の子宮腺筋症に対する効果は一過性で,妊娠を期待して治療を中断すれ
ば,すぐに再び激痛に襲われます.すなわち,薬物療法は自己矛盾を孕んでいるのです.
このような結果の判っている選択をすること自体,患者の苦痛を余りにも他人事として
扱っているような気がしてなりません.
月経痛もさることながらその過多月経も想像を絶するものがあり,多くの患者が本当に
苦しんでいます.
しかも,最終的には子宮の摘出によってすべて解決されてしまうこともあって,患者は
葛藤し,徐々に精神的に追い詰められてゆくのです.
このような患者を救う方策を産婦人科医は真摯に考える必要があります.
今回のディベートでは,まず当院で行ってきた子宮腺筋症核出術の成績を示し,その上
で子宮腺筋症核出術を勧める立場を主張したいと思います.
成
績
1.調査対象
2002年3月に当院で子宮腺筋症核出術を開始して以来,2012年2月までの10年間に子
宮腺筋症核出術を行った860例を対象としました.
年齢は14歳から50歳に分布して平均37歳.既婚65.7%,未婚34.3%.産科歴は未妊
婦53%,経妊未産婦33%,経産婦14%でした.73.7%に挙児希望があり,挙児希望はな
Adenomyomectomy Can be Recommended for the Patients with Adenomyosis
Masato NISHIDA
National Hospital Organization, Kasumigaura Medical Center, Ibaraki
Key words : Adenomyosis・Conservative surgery・Infertility・Treatment
今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません.
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日産婦誌64巻 9 号
いが子宮の温存を希望した患者が8.8%いました.挙児希望のない場合には,最初に必ず
単摘を勧めますが,最終的には患者の希望を尊重しました.
当院では紹介状を持たない患者は受け付けていませんが,紹介患者は全例受け容れ,断
わりませんでした.
2.術式
腺筋症はその局在によって,前壁か後壁かの一部を占拠する部分性,子宮全体を置換す
る全周性に分けられます.筋腫のように結節を作る場合もあります1).これらの腺筋症を
単一の術式で核出し,子宮を形成することは不可能です.当院では,部分性腺筋症に対す
る Type Ⅰ術式2),全周性腺筋症に対する Type Ⅱ術式3)4),結節性腺筋症に対する古典的
切除5)の3術式を使い分けています.
3.安全性
進行した子宮腺筋症は子宮壁を穿破し,周囲臓器と癒着します.対象のうち603例が初
回手術でしたが,45.4%に腹腔内癒着がありました.腹腔内操作の既往のあった257例
では76.7%に癒着がありました.この中には他院で試験開腹に終わった3例,尿管にステ
ントが挿入されている2例などが含まれています.
子宮内膜症が279例(32.4%)
に,筋腫が355例(41.3%)
に合併していました.腺筋症
核出術と共にこれらの病変も基本的に核出しました.
術中の合併症としては腸管損傷が2例,尿管損傷が1例ありました.腸管損傷の1例と尿
管損傷の1例は術中に修復し,他の1例は術後に再手術となりました.試験開腹,子宮全
摘,人工肛門造設,子宮の術後膿瘍,月経瘻は経験しませんでした.
平均手術時間は,部分性腺筋症2時間13分,全周性腺筋症2時間49分でした.出血量は
1g から5,596g に分布して平均302g でした.
4.臨床症状の改善
月経痛を VAS で表すと,術前には472例(54.9%)
が VAS10と答え,平均9.1でした.
一方,まったく月経痛のない症例も4例あり,これらの患者の主訴は過多月経でした.術
後は3カ月,9カ月,21カ月,以後1年ごとにフォローアップしています.術後の平均 VAS
は9カ月で1.3,33カ月で1.9,57カ月には2.8でした.月経期間中に鎮痛剤を1錠でも服
用した割合は,術前にはほぼ全例が服薬していたものが,9カ月後には27.3%,33カ月
後には42.1%,57カ月後には58%でした.
過多月経は全例で消失しました.
5.再発率
術後に再発予防の目的で薬物療法は行っていません.
筋腫や内膜症を合併している症例が多く,これらの再発を除外して腺筋症の再発を診断
するために,術後毎回 MRI を撮り,CA125を測定しました.
画像上明らかな病巣の出現,術前と同程度の月経痛の自覚,血中 CA125値の持続的上
昇を指標として診断すると,術後2年以上を経過した全周性126例,部分性411例のうち,
再発とされたのはそれぞれ18例(14.3%)
,21例(5.1%)
でした.ちなみに,筋腫を合併
していた209例中,筋腫が再発したのは22例(10.5%)
,また,内膜症を合併していた169
例中,内膜症が再発したのは18例(10.7%)
でした.このように部分性腺筋症の術後再発
率は筋腫や内膜症の再発率よりも低いという結果でした.
6.妊娠率
予後が判明している患者の内,全周性12例,部分性79例の計91例に延べ108回の術後
妊娠が成立しました.1例1妊娠で代表させると,正期産が37例,早産が7例,個人的な
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2012年 9 月
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事情で人工妊娠中絶をした症例が3例,流産
が27例,現在妊娠中が17例です.正期産と
早産の計44例は全て生児を得ました.
妊娠時の治療法は自然妊娠44例,AIH3例,
ART による妊娠44例でした.
妊娠率は,術後1年以上経過した,手術時
40歳未満,既婚で挙児希望のある患者を対
象 に す る と,部 分 性 で は205例 中49例
(23.9%)
, 全周性では59例中8例(13.6%)
,
計264例中57例(21.6%)
でした.
7.子宮破裂
早産7例中3例が子宮破裂を招きました(表
1)
.いずれも部分性腺筋症の術後でした.
症例1は35歳の未妊婦で,結婚後10年間
の不妊でした.本症例は単角子宮で右の副角
に腺筋症が生じ,これが左の主角に進展する
という非常に稀な腺筋症でした.手術は右の
副角を除去し,さらに左主角の腺筋症を電除
(図 1) 症例 1 の子宮形成術時の所見.T 字
したうえで,当院で行っている単角子宮形成 型に縫合された交点(矢印の部分)が縫合不全
術 I 法6)で子宮を形成しました.すなわち, となり,子宮破裂の原因となった.
開放された子宮腔の頸管寄りはそのまま縫合
し,底 部 寄 り は Strassmann 手 術 を90̊ 回
転させたように,子宮腔が巾広くなるよう,縫合糸を上下方向に掛けて結紮するもので,
子宮の縫合線は T 字型(図1)
になります.腺筋症の摘出重量は176g でした.
本症例は術後3カ月の診察を受ける以前に自然妊娠しました.当院では術後3カ月間の
避妊を指導していますが,指導に従わなかったものです.妊娠27週まではまったく異常
なく経過しましたが,腹痛で発症し,子宮破裂を疑われ緊急帝切となりました.子宮の縫
合部から出血がみられ,子宮破裂と診断されました.児は障害なく生存しています.
症例2は31歳の未妊婦で,29歳時に両側チョコレート囊胞核出術と筋腫核出術を受け
ています.術前に体外受精を3回受け妊娠に至らなかった既往があります.手術は腹腔内
癒着剝離後,後壁の腺筋症(76g)
を電除し,子宮内膜を翻転させたうえで子宮筋を2層に
縫合する Modern type Ⅰ術式を行いました.術後初めての体外受精で妊娠し,30週で子
宮破裂となりました.児は1,373g で intact survival を得ています.
症例3は38歳の2経妊0経産婦.32歳時に両側チョコレート囊腫の核出,35歳時に他院
で子宮腺筋症核出術を受け,再発したため当院にて3回目の開腹手術となりました.腹腔
内癒着剝離後,後壁の病巣(152g)
を電除し,子宮底部の筋層を利用して子宮を形成した
ため,子宮の縫合線は T 字型になりました.
本症例は術後8カ月で自然妊娠しましたが流産.その後,体外受精を受け術後1年4カ月
で2度目の妊娠をしました.31週までの経過は順調でしたが,腹痛にて発症し,子宮破裂
を疑われ緊急帝切となりました.子宮の縫合部から出血がみられ,子宮破裂と診断されま
した.児娩出後,癒着胎盤のため子宮摘出となっています.児は障害なく生存しています.
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N―166
日産婦誌64巻 9 号
(表 1) 子宮破裂 3 例
考
症例
1
2
3
35
0G0P
27
副角
Type Ⅰ
単角子宮
形成術
31
0G0P
30
後壁
Type Ⅰ
38
2G0P
31
後壁
Type Ⅰ
(new modified)
察
術式に関しては,いまだに改良を続けてお
り,完成された術式とはなっていません.し
かし,部分性,全周性どちらのタイプにも対
応し得る点で,優れた術式と考えています.
特に,骨盤内の癒着を安全に確実に剝離でき
る操作法の開発7)と相まって,手術不能例が
なかったことは特筆すべき点と考えます.
臨床症状の改善に関しては,患者の最大の
苦痛である月経痛と過多月経に対して極めて
有効で,しかも再発率は低く抑えられました.
術後妊娠率は,いまだ満足すべき成績とはいえませんが,手術時の患者の年齢が高く,
個別の不妊原因を検索していないなど考慮すべき点もあります.
一方,妊娠例の半数が自然妊娠であることは注目すべき点と思われます.
最大の問題点である術後妊娠時の子宮破裂は,3例中2例が子宮壁を T 字型に縫合して
いました.通常の Type Ⅰ手術は子宮の縫合創は縦に1本ですが,これだと子宮底部の子
宮腔が狭くなるきらいがあります.そこで考えられたのが子宮腔の広さと形状を正常に保
とうとする術式でした.この術式に子宮破裂が多かった理由は,T 字型の交点の縫合部の
筋層の治癒が不完全なためではないかと考えられます.現在はこの部分が完全に接着する
よう,術式を改良しています.恐らく,今後更なる術式の改良によって,子宮破裂をより
減少させ,手術の安全性を高めることができると考えています.
年齢
産科歴
週数
局在
術式
結
論
子宮腺筋症核出術の対象となるのは性成熟期の女性です.
これらの方々には未来があり,それぞれに夢があるはずです.
その将来の夢の幾つかがこの疾患によって奪われようとしています.
私は,術後の妊娠率や生児獲得率よりも,これらの女性の夢と希望を守るためにこの手
術を開発いたしました.
患者の期待と信頼に応え,患者の夢と希望が絶たれないよう努力する.最終的には患者
に喜びを与える.このことが我々産婦人科医にとって,診療の原点であり,決して忘れて
はならない使命であると信じています.
そのためには,現時点では,今回提示した手術が最良の治療法であると考えます.
《参考文献》
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2.西田正人,小曽根浩一,市川良太,高野克己,新井ゆう子.部分性腺筋症に対する
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3. Nishida M, Takano K, Arai Y, Ozone H, Ichikawa R. Conservative surgical
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4.西田正人,高野克己,新井ゆう子,小曽根浩一,市川良太,早川 繁,富永都子.
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2012年 9 月
N―167
全周性子宮腺筋症に対する保存術式(Type Ⅱ術式)の改良.産婦人科手術 2010;
21:117―124
5.西田正人,高野克己,新井ゆう子,小曽根浩一,市川良太.保存的子宮腺筋症手術.
産と婦 2009;76(Suppl):177―184
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腺筋症手術に伴う癒着剥離術.産婦の実際 2010;59:1205―1208
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