CFA 協会ブログ 2013 年 2 月 18 日 No.124 S&P500 は平均回 は平均回帰か? R/S 分析がその答えを提供している Is the S&P 500 Mean Reverting? Rescaled Range Analysis Provides the Answer ジェイソン・フォス( ) 、CFA フォス(Jason Voss) 、 以前の投稿では、S&P500 指数を例に用いて、時系列 います。ハースト指数を三等分して、0.00 から 0.33 を の動きがランダムか、持続的か、または平均回帰かを 平均回帰、0.34 から 0.67 をランダム、0.68 から 1.00 評価する手法として、R/S 分析という高度な定量分析 を持続的と分類した場合、S&P500 指数の時系列はラ の有用性を紹介しました。R/S 分析は、アフリカの降 ンダム性を示すと言えます。 雨量とそのナイル川の洪水への影響という、一見する とランダムな事象の中に隠されたトレンドを特定す るために開発された手法ですが、これを投資へ適用す ると多くの興味深い発見があります。 インデックス投資は、時系列でみれば長期にわたり価 値のある戦略と考えられるでしょう。その理由は、時 系列では予見不能であっても、平均するとインデック スは 1 日当たり 0.03%の平均リターンを生み出すから 以前の投稿では、詳しい説明を省略したまま、1950 年 です(別の投稿でカバーしています)。したがって、 1 月 3 日から 2012 年 11 月 15 日までの期間において、 R/S 分析はアクティブかパッシブかという長年にわた S&P500 指数はハースト指数でいう H0.49 であると述 る疑問を解決したようです。 べました。これの意味することころは何でしょうか。 より詳細な R/S 分析によってさらに興味深い発見があ るでしょうか。他にどのような評価方法を使えば、更 なる発見につなげることができるのでしょうか。 しかし、データには注目すべき情報が他にもあります。 下のチャートは、バリュー投資に勝利戦略としての冠 を戴かせられない理由を示しています。 まず初めに、基本について復習をしましょう。H は 0.0 から 1.0 までの値をとります。 指数が 0.5 近辺の場合、 ランダムに生成された時系列であることを示します。 S&P500 指数の R/S 分析 (1950 年 1 月 3 日-2012 年 11 月 15 日) 日- 別の言い方をすると、この種の時系列においては、一 時点でのデータは別の時点での結果には影響をあた えません。持続的な時系列はハースト指数が 0.51 と 1.0 の間であり、後続のデータは前のデータと同じ符 号をとる傾向にあります。H が 0.0 から 0.49 の場合、 平均回帰となります。言い換えれば、後続のデータは 前のデータと逆向きの符号となる傾向にあります。 S&P500 指数の 0.49 というハースト指数はランダムを 示す中心値 0.5 に近く、平均回帰にわずかだけ寄って 日本 CFA 協会 1 回帰直線の決定係数は 0.98 と非常に高いものの、実際 平坦さ/乱雑さの尺度はフラクタル次元であり、D=2 のデータは「小刻みな動き」を示しています。ご承知 ハースト指数で算出されます。 のとおり、R/S 分析およびハースト指数はデータの自 己相似性、あるいは自己相関を計る手法です。R/S 分 析が行われる場合、データは更に小さなレンジに分解 されます。そして、これらの小さなレンジを検証して、 全時系列に見られる関係性がより小さな時系列にお いても存在するかどうかをみます。因みに、これが、 この種の分析がカオス理論の研究者に好まれている S&P500 指数では全時系列のフラクタル次元は 2-0.49=1.51 です。別の言い方をすれば、S&P500 の日 次リターンの時系列線はかなり平坦です。しかし、短 い時系列においては上述したように、フラクタル次元 は 2-0.61 の 1.39 と 2-0.46 の 1.54 の間でばらつきがあ ります。 所以であり、かれらも自然科学の分野のデータにおけ いずれにしろ、これらは全て定性的なメッセージを伝 る事象の自己相似性や拡張性に注目しています。 えるための定量的な手法です。S&P500 は不安定な時 グラフから分かるように、全ての時系列に平均回帰性 が当てはまるという訳ではないのです。では、どうい うことなのでしょうか。S&P500 指数の過去データの 中で前半は、ハースト指数が 061 とランダム性と持続 性の中間にあり、S&P500 指数の日次リターンには持 続性が見られます。一方、後半においてハースト指数 系列なのです。危険は買主が負うのです。 執筆者 ジェイソン・フォス(Jason Voss, CFA) CFA 協会のコンテンツ・ディレクターとして、債券、 行動ファイナンス、コーポレート・ファイナンス、ク オンツを担当 は 0.46 と実際にランダム性が強まっています。これは (翻訳者:髙野 幸子) S&P500 指数の長い歴史のなかで、2 つの異なる投資環 境が存在したことを示唆します。数十年前のトレーダ ーたちが経験したそれまでの結果を、より最近のベテ 英文オリジナル記事はこちら: ランたちの結果と比較すれば、面白いかもしれません。 http://blogs.cfainstitute.org/investor/2013/02/06/japan- ここでは、対数正規ベースのデータで観察しています が、これらの時系列はどのくらいの長さでしょうか。 なんとそのタイムフレームは、 下は 7,911 取引日 (31.39 年) 、上は検証した全 15,821 取引日になります。言い 換えれば、超長期においては後続期間が前の期間と同 じ上昇を示すと、グロース投資家が得をするというこ the-canary-in-the-coal-mine/ 注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事 を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版およ び英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版 の内容が優先します。 とです。 最後に、ユークリッド幾何学では、直線、つまり時系 列にばらつきが存在しない場合、位相幾何学上は 1 次 元を有する一方、平面は 2 次元の面を、そして立体は 3 次元の面を有すると解されています。しかしながら 金融市場のデータは直線上に収まらず、実際は乱雑で あればあるほど 2 次元の面に近づくのです。データの 日本 CFA 協会 2
© Copyright 2024 Paperzz