CFA 協会ブログ

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2015 年 6 月 11 日
No.235
我々は別の世界金融危機に向かっているのだろうか?
Are We Headed for Another Global Financial Crisis?
ロン・リムクス、CFA
2008 年の世界金融危機から 7 年経ちました。市場の
別の大規模な危機に見舞われることはないだろうと
ボラティリティは近年いくぶん上昇しているものの、
考える回答者はたった 13%しかいません。その一方で、
市場は比較的安定しています。米国、日本、中国や欧
7%の回答者が経済的な大変動が差し迫っていると考
州連合(EU)といった世界の主要な経済圏は、低調な
えています。回答者の大部分(44%)は別の危機が表
ままとはいえもっぱらプラスの成長率を記録してい
面化する可能性を 25%と予想しています。約 23%の
ます。
回答者が可能性を半々と予想する一方、13%の回答者
私達は繁栄の新しい時代を迎えているのでしょう
が 75%と見ています。
か?あるいは、危機は全く異なる何かに姿を変えてい
これらの回答は明らかに、先の大不況が調査に参加し
るのでしょうか?手短に言うなら、危機は完全に過去
た多くの会員の心理に、そしてかなりの確度で市場全
のものか、或いは別の危機が近いうちに勃発するので
体に、払拭できない痕跡を残していることを示してい
しょうか?私達は CFA 協会フィナンシャル・ニュー
ます。よって、前回の金融危機の重要な要因のいくつ
スブリーフの読者に対し、世界が今後 5 年以内に別の
かに注目し、それらを前回と今回とで比較してみまし
金融危機を経験する確率を何%と考えるか、質問しま
ょう(この分析は、前回の危機の震源地たる米国に焦
した。
点を当てます。しかしながら、他の国が次の危機の中
会員向け調査:今後 5 年以内に別の世界金融危機が発
生する可能性は?
心になるかも知れません)
。
1999 年のグラム・リーチ・ブライリー法の可決により、
米国議会はグラス・スティーガル法の一部を事実上廃
止しました。これにより、証券業と商業銀行業の兼業
禁止が解除され、また銀行がサブプライム不動産担保
証券(MBS)等、より多くの証券を保有できるように
なりました。2004 年の証券取引委員会(SEC)の自己
資本規制に関する規則の変更では、大手投資銀行は、
自己資本に対しバーゼルⅡ版のリスク加重アプロー
チを採用しなければならなくなりました。実際にはこ
れは銀行にとってリスク・ウェイトがゼロである国債
や信用度に応じたリスク・ウェイトが課せられる AAA
格の MBS を保有するという悪しきインセンティブと
なりました。実際、AA 格や AAA 格の MBS に求めら
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れる自己資本は1ドルに対しほんの 2 セント(つまり、
す。まず第 1 に、学生ローンは 1 兆 3,600 億ドルに急
50 倍のレバレッジ)でした。
成長しています。更に、卒業生や若年層が就職難に見
2010 年にドッド・フランク法が米国議会により可決
されました。これに従い、銀行は今や、単に事業部門
毎のみならず、持株会社レベルで所要自己資本を満た
さなくてはなりません。前回の危機の際には多くの銀
行がローンに対するほぼ全てのエクスポージャーを
証券化することが出来ました。ドッド・フランク法の
下では、証券化された信用リスクの 5%が証券化業者
により保持されなければなりません。よって、オリジ
ネーターのインセンティブは今や証券保有者により
即しています。
2000 年から 2005 年の間に、米連邦準備制度理事会は
人為的に低金利を維持しました。この低金利は借り手
の借り入れを促進し銀行の融資を本来より増加させ
ました。米国の経常赤字が急速に拡大したことにより
米ドルを保有することとなった貿易相手国の投資家
が、様々な年限の米国国債を購入したことで、長期債
利回りは低下しました。事実、米国債の外国人投資家
保有額は 2002 年の約 1 兆ドルから 2006 年には約 2
兆 1 千億ドルに急上昇しました。金融危機以来、中央
銀行は更に低水準(ゼロ近く)に金利を維持していま
す。
舞われているため、学生ローンの延滞率は 27.3%と推
定されています。折あしく、連邦政府が 8,830 億ドル
(全体の 65%)の学生ローンを保有していますので、
デフォルトの発生は国債発行を増加させ、最終的には、
インフレ率を引き上げるでしょう。ここ最近では、連
邦住宅局(FHA)は、ローン頭金や融資に必要なクレ
ジットスコアの点数を引き下げるなど、所要自己資本
に対して攻勢を強めています。実際、住宅ローン業界
では多くの参加者が 2015 年のサブプライム問題の再
来に備えています。
金融危機の後、米国は広範にわたる大規模な救済措置
にあたってきました。これらの救済措置は直接資産の
買取や保証の引受という形をとりました。結果として、
救済措置は実質的には不良債権の多くを世界中の政
府のバランス・シートに移転することになりました。
これに応じて、様々な量的緩和政策を通じた貨幣増刷
の波が世界中に波及しました。このマネーの潮流が
徐々に逆転するか、あるいは急速に減少するかは、全
く定かでありません。しかしいずれは反動があるでし
ょう。たぶんそれは、鋭い読者が感知していることで
す。
前回の金融危機の主因は、勿論、信用度の低い住宅ロ
ーンの急速な拡大でした。
2000 年から 2006 年の間に、
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モーゲージ商品組成に占めるサブプライムとオルト A
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ローンを合わせた割合は、急速に高まりました。危機
以来、サブプライム単独での組成額は 2006 年の 20%
以上というピークから 2014 年には約 0.3%まで減少
しています。しかしながら、蛇口は別の場所でも開い
(翻訳者:松本(深津)みどり)
ていました。自動車ローンは 9,700 億ドルに急速に成
長しています。2014 年央から、個人向け自動車ローン
を組み入れた全証券のうち約 29%がサブプライムに
分類され、デフォルト率は現在上昇しています。学生
ローンに(サブプライム問題のような)信用劣化は起
きていませんが、注視すべき重要な問題が 2 点ありま
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英文オリジナル記事はこちら:
http://blogs.cfainstitute.org/investor/2015/06/11/arewe-headed-for-another-global-financial-crisis/
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注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事を
日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版および英語
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